彼から話があると聞かされた時、ああ、ついにこの日が来てしまったと心のなかで呟いた。
いや、こうなることは前もって予感がしていたのだ。
年が明けたくらいだろうか帰りが遅かったり電話をしている所に帰宅をすると急遽通話を切って内容を聴かせてくれなかったり。
薄々何かを隠しているのが何となく感じられた。
彼とは同棲してから数年が経つが全く結婚関連の話が会話の中に持ち上がる事は一切無かった。
付き合っているはずなのに私は奥深くまで信じられなかった。
他愛ない会話をしつつ決して踏み入れなかった場所。
別れの日が近い事を悟ったあきらは準備を始めた。
別れるという事は同居している家から出なくてはならない。
とはいえ荷造りをすると怪しまれるのでまずは住居から。
あとはもう一つ。
最後のバレンタインデーだ。
疑いがあるもののやっぱり彼の事が好きなのだ。
チョコを作ってると無性に涙が出てきて全部塩チョコになってしまい、結局市販品にせざるをおえなかったのは痛かった。
そしてバレンタインデーの時には特に何もアクションが起きる事は無かった。
という事はきっと来月の14日に言うつもりなんだろう。
お返しの日に別れとは何てやつだと思ったがもう涙は出ることは無かった。

「話って何？」
何となく察しはついているけど問いかける。
「……まずは椅子座れ」
重苦しい顔をした千空が言った。
他に相手がいるのかそもそももう交際が嫌なのかどっちか分からないけど、優しい人だからまるべく傷つけないように配慮するんだろうなと思いつつ椅子に座った。
テーブルに二人分のコーヒーが置かれてて長期戦の予感がした。
「あーその、だな……」
「分かってる、他に好きな人がいるから別れてほしいんでしょ」
そう言うと千空は驚いた顔をした。
図星か。
「テメー、何言って……」
「違う？じゃあ普通に別れたいだけか」
人の心は変わるものだ。
結婚したくない人だって勿論いる。
別れは寂しいけど彼の気持ちを無視してはいけない。
元々は私が無理やり押し通して付き合ったようなものだ。
ずるいやつだ、私は。
直接言われるのが嫌で鎌をかけた。
自分から話を切り出すことでダメージを軽減しようとしている。
コップに視線を移した。
「ねぇ、そうなんでしょ？」
そう問いつつ私は臆病だ。
だって。
目すら見られないもの。