短編夢
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「大丈夫か、顔色が悪いぞ」
病院から駅までの帰り道心配したコハクに言われて少し足をとめた。
「大丈夫なような大丈夫じゃないような」
「それは大丈夫ではないだろう」
こんな返答をしているのだからショックを受けているのはそうなんだろう。
まさか自分のみが忘れ去られるなんて予想もつかなかった。
「大丈夫だって、そこまでショック受けてないから」
友人を安心させようと嘘をついた。
胸はこんなにも痛いのに。
「それにさ
千空とはただのクラスメイトだもん
彼女とかじゃないんだよ」
千空とは仲は良かったが、それはあくまでも友人として。
それがちょっと好感度の下がった同級生になるだけだ。
「記憶が無かろうとあろうとさ
状況は変わらないと思うんだよ」
そう、千空が私の事を覚えていようといなかろうとどちらでもこの恋が実る事はないのだ。
「千空、調子はどうだ?」
「まぁ、ぼちぼちな」
幼馴染みが病室を訪れ杠が剥いたリンゴをしゃくしゃくと頬張った。
視線を横に移したが、そこには大樹と杠以外の人間はいなかった。
(まぁ、昨日あんな事言ったら来ねぇよな)
周囲の反応を見る限り忘れているのは間違いない。
自分はそいつに散々色んな事を言ったから嫌われるのは当然か。
「なあ、昨日来たやつなんだが」
千空はその人物とどういう関係性なのかと二人に聞いた。
「普通に友人じゃないのか」
「中学からの付き合いだよね
千空くんに時々勉強教わってたりしてたよ」
千空は過去の記憶を思い返したが、所々もやがかかり思うように思い出せなかった。
その抜けた部分が彼女との記憶なんだろう。
「そうだ、千空くん
これ差し入れね」
杠は小袋に入ったクッキーを千空に渡した。
「これ、作ったのか?」
その問いに杠は目を反らした。
「えーーと……あっ、そろそろ時間が!」
答えを言わずに大樹を連れて病室から出ていってしまって答えを聞けなかった。
いや、目を反らした時点で答えを言っているようなものだが、他の人物からの差し入れである可能性もあるかと考えるのを止めた。
渡されたクッキーは黒く袋を開くと香ばしい香りがした。
クッキーをつまみ口に放り込んで咀嚼するとほろ苦くほのかに甘い味がした。
「うめぇな、これ」
甘さ控えなココアクッキーを千空はもう一枚、もう一枚と知らずのうちに手がのびた。
今の千空は知らない事だが、ココアクッキーは千空の好みに合うように度々改良され今の味に落ちついたのだ。
「もう無くなっちまった」
気付けば袋は空であっという間に完食していた。
そして千空はこの味を知っていたと悟った。
「……しゃあねぇ、次会ったら礼言うか」
しかし、千空の思惑とは異なり彼女が再び面会へと訪れる事は無かった。