バタバタとせわしない足音がして誰かが部屋に入った音でふっと目を覚ました。
一瞬泥棒かと思ったけど、この足音はきっと彼だ。

ガチャっと、寝室の戸が開き心配そうに声をかけられた。
「おい、大丈夫か？」
「千空……おかえり」
起きようとしたところ、そのまま寝てろと言われてベットに戻されてしまった。
「今……何時？」
「5時54分」
普通は6時手前とかもうすぐ6時と言いそうなところをきっちりと告げる彼に思わず笑ってしまう。
「……何だ急に笑って」
「何でも、それより研究しなくて良かったの？」
日によりまちまちだが、研究所に籠る日もあるし仕事は大丈夫なのだろうか。
「それは別に支障はねぇ、まだ猶予あるしな
看病する方が優先だ」
鞄の横にスーパーの袋が見えて帰りに買ってきたのだと分かった。
「で、検査の結果だが、陽性だってな」
「うん……A型だって」
とにかく感染させない為にも家の中でもマスクをするしかない。
「千空には移さないようにするから……」
「まぁ、予防するにこした事はねぇがな」
気遣いありがとなと言って千空はちゃちゃっと飯作ってくるわと部屋を出ていった。

出来れば自分がご飯を作りたかったが、風邪を引いている以上無理な事なので大人しく布団に潜り目を閉じた。
それから一時間経った頃だろうか、コンコンとドアをノックする音がして千空がお盆を持って入ってきた。
「飯出来たぞ」
自分で起きようと思ったが千空が手伝うと言ってお盆を置いてからゆっくりと体を起こしてもらった。
「ありがとう、千空」
礼を言うと千空は当たり前だと横を向いた。
鍋焼きうどんを啜って素直じゃないと心の中で呟く。
ほのかに生姜の香りがするうどんは優しく彼の気持ちが表れるかのよう。
ある程度食べ進めてもうこれ以上食べれないのを見て千空は水をさしだした。
「さてと、後は薬飲むだけだな」
うん、と返事をしてコップを受け取った。
それにしてもこんなに看病されていると何だが申し訳ない気持ちになってしまう。
「……何度も言うがな、こんくらい大した事やってねぇよ、気にすんな
元気なやつが看病するってだけだ
仮に俺が引いたときは頼むぜ？」
困った時は手助けってなと千空は笑った。