千空は身支度を整え家を出ようとした所、白夜が声をかけた。

「千空、頑張れよ」

「……おう」

千空は振り返らずに答えた。

(まさか、千空がとはなあ……)

あの時チラリと見えたのはクリスマスデートの特集が組まれた雑誌だった。

確か喜ばれるデートスポットがどうとか……。

そこはあまり深く突っ込むと悪影響なので気付かない振りをしていた。

いつの間にかこんなに成長していたのかと思うと目頭が熱くなった。

「おっと、いけねえ」

この歳になると涙脆くなってしまってふいに涙腺がきてしまう。

「今年は千空とはクリスマスは過ごせねぇか…………
まぁ彼女優先だよな」

彼女かどうかは分からないが。

「来年の誕生日に家に連れてきたりしてな」

白夜は予想し笑みを浮かべた。


はああああと白い息をはきため息をつく。

周りはどこもそこもカップル、カップル、カップル……だらけだ。

そして、自分には相手がいなく今年のクリスマスは例年通り家族そして口うるさい兄とのお祝いになるだろう。

「あーあ、可愛い彼女出来ないかなあ
てか、落ちてないかな」

ぶつくさいいながら冷えた街を歩く。

「何で僕が買い出しなんか行かないといけないんだよぉ」

クリスマスの為の食材やら買ってこいと父親に言われ家から出させた銀狼は不機嫌だ。

「どいつもこいつも予定あるっていうし……」

コハクは家族+クロムと大樹と杠はもちろんデートで。

「はああああ、だったらゲンの合コンに混ぜて貰うんだった……」

予定がないよりはマシだろう。

(そういえば千空ってどうしてるんだろう
まぁ、千空ってこんな時でも実験してそうだよねーーー)

一番クリスマスとは縁がなさそうな千空に銀狼は一番親近感が湧いた。

(予定がないやつで集まってもいいけど……
野郎だけなのは嫌だもんね
やっぱ華がないと)

クリスマスケーキを売り子のスカートに鼻を伸ばしていると銀狼の視界に見慣れた頭が通った。

(せ、千空！？！？)

こんなクリスマスムード真っ只中にいるとは以外だなあと思っていると隣を見てまた驚愕した。

(えっっっ！？あきらちゃん！？！？)

同級生のあきらが千空の横にいる。

(で、で、で、デートおおお？！？！？)

わなわなと震えた銀狼は遠ざかる千空に恨みの声を上げた。

「う、う、う、裏切り者おおお！！」

そして、銀狼は走って帰っていった。

(ううう、僕も可愛い子とデートしたいいいい！！！)


「あ“？」

あきらと連なって街を歩いていた千空は聞き覚えのある声がした。

(さっきの声……銀狼か……？？
とすると、デートしてるのバレたな
まぁ、隠すつもりもねぇがな)

「あれ……さっきの……銀狼……？」

振り向こうとするあきらの手をぎゅっと握り千空は目線をこっちに向けるよう仕向けた。

「あきら、よそ見すんなよ？」

それは自分以外の男を見るなというサインだ。

「っ、う、うん」

あきらは胸がきゅっとなり頬を赤らめた。

待ち合わせてから千空はずっとあきらと手を繋ぎ離さない。

ずっと千空は恋愛感情を持たないとだと無理やり納得してきたけど、今日の千空は気持ちに気付けと言わんばかりに行動を起こしてくる。

とにかく距離が近い。

電車に乗ってる時なんかぴったり体をくっつけてさりげなく腰に手を回していた。

ご飯も何かおしゃれなとこで高校の自分には合わないと思ったが千空は何故か合っていた。

それがとてつもなく格好良かったんだけれども、店の人にデートですかと聞かれた時なんかは千空は肯定していたし。

気付けばクリスマスツリーの前にいた。

こんな風に接されたらこれから何をされるかなんて分かる。

もし、違ったら私は一生不信感を抱くだろう。

と、千空は少し待ってろと言いどこかへ駆けていった。

もしかして置いてかれたのでは……と思ったがそうではなかった。

帰ってきた千空は少し息をきらして後ろに何かを抱えていた。

ゆっくりと膝をついて千空は花束を差す出す。

「薔薇…………？？」

赤い赤い真っ赤な薔薇が四本ある。

薔薇と言えば……何だっけ。

「薔薇には色ごとに意味があってな
赤い薔薇は…………
情熱や……愛するだ」

そして……と千空は更に続ける。

「本数にも重要な意味があんだよ
4本の意味は、
死ぬまで気持ちは変わらない」

とめどなく涙が溢れてきてあきらはしゃっくりあげた。

「受け取って貰えるか？」

「うん、私も……千空が大好きだよ……！」