凶一郎夢ツイッターログまとめ
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[その二人に合う構図は]
かちり、と銃のトリガーを引いて真正面から相手に銃を向ける。
銃を持つ両手が震える、うまく銃口を定められない。
呼吸は乱れいつしか視界は水で埋まっていた。
一方女を見据える銃を片手で持つ男は涼やかな表情だった。
まだ僅かに眉間に皺が寄っていてどうしてこんな事に…………と苦悶の感情が現れている。
一触触発の最中…………第一声は。
「ちょっとー!!!泣いちゃ駄目でしょう!!!!
もっと!しっかり!きりっと!クールに!!顔整えて!!!」
「そ、そんなこと言われても〜〜〜〜!!!!」
スパイデーのカメラマンに怒られたあきらはせきを切ったようにそれまで押し込んでいた涙が一気に放出され、ぼろぼろと更に泣き始めてしまった。
わんわんと泣くあきらにカメラマンは早く泣き止ませろと凶一郎に目線を送る。
やれやれ…………と仕方なさそうに凶一郎はあきらの背中を擦った…………
何故こんな羽目になっているのか、それはスパイデーから雑誌の表紙に凶一郎とあきらを使いたいと要望があったからである。
スパイとしての二人の写真を撮りたいと言われいざ向かって見れば要求された構図は二人が銃を向け合うボーズだった。
凶一郎は勿論銃の心得はあるし問題はない。
が、あきらとの方というとまず訓練したことはあれど彼女は刀の方が得意武器である……というのは置いといて。
向き合うというのがいけなかった。
用意してある銃は模造品であり、実際に弾は入っていない、だがそれでも銃を婚約者に向けるという行為そのものが嫌悪させるのか彼女はとても嫌がった。
なのでどうしても銃を向けると涙ぐんでしまい、撮影どころではなくなってしまう。
悲哀極まる構図にも見えなくないがどうも提案した記者はクールな構図を描きたいらしく、顔を引き締めろと無茶振りを要求してくるほどだ。
正直辟易とする、こちらの気持ちにもなってみてほしい。
彼女ほどではないが、勿論凶一郎も彼女に向けて銃を向けるなど身が引き裂かれる思いだ。
なんとか方向性を変えるべく向き合うのではなく、銃を一緒に持つとか、同じ方向で……と意見を言ったものの、記者は聞く耳を持たず話し合いは平行線のままであった。
何度か背中を擦っていると漸く落ち着いてきたのか、嗚咽が止まって、少し安堵する。
だが、やはり記者の言う通りには出来そうにない…………
「で、どうです?いけそうですか?」
「……………………」
再び問われるもあきらは以前として首を横に振る。
「やっぱ無理です、銃を向けるくらいなら……!自決したほうがましです!!」
「だからポーズ違うってんでしょうが!!!」
こめかみに銃を当てるあきらを凶一郎はひやりと背筋が凍り慌ててその手を下ろさせた。
いくら道具とはいえそんな仕草は肝が冷える。
引き金から指を1本1本外させて銃を手から離させる。
自決する構図など死んでも見たくない。
僅かに目の淵に水が溜まったままのあきらに優しい笑みを浮かべて手を握り語りかける。
「俺もそうだ」
「何が?」
「俺もお前に銃を向けたくない、いくら演技であろうとも偽りだったとしてもそんな事はしたくない
相対するのではなく共にいたいからな」
「凶一郎…………」
まるで告白しているみたいな二人の雰囲気に記者は思わず怒号も忘れ傍観していた。
そうだ、何も敵対する構図だけなわけではない。
それだけのイメージに囚われていたがそれ以外にも選択肢がある事に今更気づいた。
そしてこの二人にはこれがお似合いだろう……と記者は二人に歩み寄った――――
そうして撮影され表紙に載った二人の写真は――――
銃を向け合うのではなく一緒に銃を持つ写真になったのだった。
[凶一郎が風邪を引いたパターン]
喉に違和感を覚えた、むず痒い感覚に襲われ喉を手を擦る。
最近乾燥してしたからだろうか、水分を欲していそうな欲求が生じお気に入りの茶葉を湯に通し程よい温度にまで下げてから飲み喉を潤す。
これで解決…………かと思いきや、喉の違和感は消えなかった。
凶一郎は眉間に皺を寄せてこの症状が何であるか察知した。
けれどこの名前は決して言ってはならない、何故なら…………
「…………完全に引いたな」
と同時に自室の壁が木っ端微塵に吹っ飛んだ。
屋敷の外に吹き飛んだ瓦礫が散らばり、パラパラと空いた空間を淡々と凝視する。
そこにいたのは愛する末弟、七悪であった。
張本人の七悪は可愛げのある声で。
「おくすりのお時間でーーーす、お兄ちゃん」
夜桜家にとっては死刑宣告と等しい言葉を言い放ったのであった。
当然凶一郎は拒否した、しかし強制的に薬を飲まされ今はベッドに眠りにつかされている。
本人としては眠りにつきたくとないが、やはり風邪を引いているからか普段よりも若干コンディションが悪く感じた。
風邪の自覚から時間が経てば経つほど体の熱が上昇し徐々に体の不調が増えていく。
息を吸い込めばむせて水分をとるのも厄介だ。
今日の夕食は六美と共に食べられないな…………とシーツの上で悲しくため息を吐いた。
せめて六美が療養食の粥を作ってくれているらしいのでそれを食べられることが不幸中の幸いだろう。
もしかすると六美からあーんされてることも…………!?!?と思うと帰って熱が高まり頭痛が増した。
……………………しばらくあれこれ考えるのはやめよう………………
「凶一郎、具合はどう?」
目をうっすらと開くとあきらがこちらを心配そうに伺っていた。
今は何時だ…………?どれくらい思考を放棄してしたのか分からない、いや俺は眠ってしまっていたのか…………
恐らくほぼほぼ気絶に近い感じで入眠に入ったせいか寝る寸前の記憶があやふやだ。
力を入れて体を無理やり起こすとぐっしょりと汗をかいていて濡れた寝間着が気持ち悪い、後で着替えねば…………
あとそもそもあきらがこの部屋にいるのも気にかかる、ずっと看病をしてくれていたのだろうか。
額に乗せられていた保冷袋はまだうっすらと冷たい、多分定期的にあきらが交換してくれていたのだろう。
「すまんな、ずっと見てくれていたんだろう」
「ううん、謝るのはこっちの方
………………風邪、移しちゃったね」
「…………予防はしていたんだがな」
凶一郎は仕方がないとあきらを優しく諭した。
この頃任務が立て込んでいて疲れていたのが悪さをしたのだろう。
ちらりと隣を見ると汗をかいていたのがわかっていたのか替えの寝間着が置いてあった。
一人で着替えられる?手伝おうか?と申し出があったが婚約者とはいえ手伝わせるのはまだ抵抗があるし羞恥が伴うので自分でできると断った。
普段よりも時間をかけて着替えると鼻腔を擽るこの匂いは!!!!
「はっ、六美の料理!?!?」
「そう当たり、ふふ凶一郎ってば流石だね」
あきらはくすくすと笑いながら粥の入った器をこちらにもってくる。
あまり食欲は湧かなかったが六美が愛をこめて作ってくれたと思うだけで山程湧いてくる。
これなら食べられそうだ、と蓋をあけてレンゲをとりパクパクと食べていたが、数口食べてピタリと止まってしまった。
完食することなく手を止めてしまった凶一郎にあきらは心配そうに見つめる。
「どうしたの、凶一郎……?もうお腹いっぱい…………?
やっぱりまだ具合悪い……?持ってくるの早かったかな?」
「いや、大したことはない、ないんだが…………
…………あきら恥を承知で頼むんだが食べさせてくれないか」
「えっ!?!?」
「今まではなんてことのないこのレンゲが微妙に重たくてな…………食欲はあるんだが手が怠くて仕方がない」
「そ、そういう事なら……!頑張ってやるね!
…………は、はい、あーーん…………」
「あーん…………ん…………」
具材がシーツに落ちないようにして食べさせてくれるあきらからのあーんを凶一郎は素直にぱくりと食べる。
むぐむぐと咀嚼し粥が凶一郎の喉に流れ込む。
「ど、どう……?美味しい……?」
「…………美味い!流石は六美だ、ただの粥であろうとも六美が作ったというスパイスだけで極上の料理と化す!
さて、もう1回くれ」
「う、うん……!あーーーん」
「あーーん…………」
粥はまだまだある、凶一郎は何回も強請りあきらも素直にそれに応じた。
凶一郎は六美の粥を美味しそうに頬張る、この表情を眺めているだけで幸せだ、とあきらからは笑みが溢れていた。
それは凶一郎も同じで幸せで幸せでたまらないと頬が緩んでいる。
気づけば凶一郎の声色も若干甘さを増しているようなきさえする。
「…………無くなってしまったな」
「おかわりする……?」
「いやもう腹いっぱいだ、…………せっかくの機会なのに勿体ないが」
そんなに六美のお粥が食べたかったのかな?とあきらは首を捻る。
でもそれもそうだろう、凶一郎は一家の長男として常に気を張っている。
多少の体調不良なんて悟られないようにしているくらいだ。
看病で療養食を食べるなんてきっと5本指に入るか入らないくらいだろう。
そんな彼に風邪を引かせてしまった事に関しては罪悪感を感じるけれど……
と、彼が何故残念がっていた理由には気付かなかったのだった。
[摩訶不思議、動く凶一郎ぬい]
「何…………?これ?」
「…………どう見たって兄貴のぬいぐるみ?にしか見えないんだけど」
「おい待てなんか動いてないか?」
「うごっ!?お、お化けじゃないだろうね!?」
「ね、姉ちゃん落ち着いてててててて」
「辛三こそ落ち着け!」
突如妹弟達の前に現れた凶一郎を模したぬいぐるみ。
誰かが作ったのだろうと考えていたが単なるぬいぐるみではなかった。
そう、もぞもぞと動きだしたのである。
そして、そのぬいぐるみは。
「ム……ム……ムツミ〜〜〜〜〜」
「きゃああああ!!!!!喋ったぁあああ!!!!」
と片言で喋り出したのである………………
かくしてその喋るぬいぐるみは凶一郎本人である事が判明した。
毎度のごとながら七悪の薬による影響であり、感触も普通のぬいぐるみだが動くし意識はあるし何より喋る………………
だがぬいぐるみ化している事で本体とは違う自我が芽生えているのか変化しているのか分からないが普段と違う喋り方をしていた。
背丈が小さい分いくらかましのように見えたが片言になっているだけで普段の凶一郎と変わらぬ性格をしていた。
「ムツミ!ムツミ!ダイスキ!………………アサノタイヨウフユカイ、リコンシロ」
「俺に対しては普通に態度厳しいんですね…………」
「で、これ誰が面倒見るの?」
「……………………………………」
六美の問いに全員が沈黙する。
いくら小さかろうと凶一郎は凶一郎。
しかも幼児化している時は素直で良い子だったが、中身は成人の凶一郎である以上手を焼かれる事になるのは見えていた。
「…………誰って言ってもねぇ」
「あたしパス」
「俺も、つーかもう一択で決まりだろ」
「俺で良ければ…………まぁ兄さんは嫌そうなのでやっぱりあの人ですかね……」
満場一致ということで出張任務から帰ってきたあきらに全て任せることにした。
帰宅早々婚約者が奇妙な姿になっている事態に流石のあきらも困惑しているようだが快く引き受けてくれた。
そして凶一郎ぬいの反応とはいうと。
「………………」
大人しくあきらの世話を受けていた。
特に何も反応を示していないが拒否していないので満更でもないのだろう。
この状態になった凶一郎ってご飯食べるのかな…………?とあきらは首を傾げて膝の上に座る凶一郎を見つめる。
感触もぬいぐるみなので臓器などがあるかどうかも不明だ、七悪によると翌日には戻るらしいが…………
七悪は果たしてどうしてこんな実験を行ったのかは不確かなのは置いといて彼の言葉を信じる他ない。
そしてこの姿になった凶一郎ぬいは生活サイクルも違うようで。
当然夜も寝ないのだろうと思っていたら。
「オレモイッショニネル」
とベッドの上にちょこんと座っていた。
そして何故か自分の部屋ではなくあきらの部屋で寝るつもりらしい…………
当然一緒に寝るとあきらがこっちにやってくるのを待っている様子は思わず写真に撮りたかったが何とか抑えた。
寝間着に着替えてベッドに移動し電気を消そうとすると凶一郎ぬいに止められた。
何だろう寝かしつけの絵本読みがしてほしいのかな?とついフォルムが愛らしく小さいからか幼児と同じ対応をしてしまいそうになる。
「……………………オヤスミノチューホシイ」
「お、お休みのチュー!?!?き、キスって事!?!?」
「チューサレナイトネナイ」
「え、え、ど、どうしよう…………」
どうしてそんな要求をするのか皆目見当がつかないがぬい化の影響なんだろうか…………とあきらは頭がこんがらがった。
ほ、ほっぺでいいのかな?いや頬でも恥ずかしい…………!!と凶一郎ぬいを前にして苦悶する。
でも普段寝ない凶一郎が寝れる絶好のチャンスとも言える、少しでも疲労の回復になるかもしれないし……!とあきらは恥を承知で凶一郎ぬいの頬に唇をそっと押し当てた。
「………………ね、寝てくれる……?」
「………………ネル」
満足したのか凶一郎ぬいはモニュモニュと口をもごもごさせてベッドの布団に潜り込んだ。
良かった、とカチリと電気を消すとにゅっと凶一郎ぬいが出てくる。
その頬はうっすらピンク色に染まっていたが暗くした為すぐに目が聞かずあきらは気付かなった。
「お休み、凶一郎」
「…………オヤスミ…………
オキタラオハヨウノチューモタノム」
「朝も……!?まぁいいか、分かった」
恥ずかしいがこれで凶一郎のご機嫌が取れるのなら安いものだ、とあきらは凶一郎ぬいの横に横たわり目を閉じて就寝した。
翌朝。
薬の効果が終わりぬいぐるみから人間の状態にいつの間にか戻った凶一郎は眠りから目覚めた。
久方ぶりの睡眠からか寝起きは凄まじく良好で体の疲れはなくなっていた。
以前飲んだナナオチビナオールのような効果があるのだろう。
今まで自分が何をしていたのかさっぱり記憶がないが七悪の薬の影響だろうが……ひとまずは状況を確認すべき周りを把握…………と見回したところで凶一郎の思考が凍りついた。
そもそも居る部屋があきらである事、そして隣にあきらがすやすやと眠っている事――
思わず自分の服装を確認しあきらの服が乱れていない事に安堵した。
………………何か一夜の間違いがあったという訳ではなさそうだ。
それにしても何故あきらの隣で眠っていたのか皆目見当がつかない、とりあえずあきらに聞かなくては…………とゆさゆさ体を揺さぶって起こすことにした。
「おい、あきら」
「…………んー?」
「起きろ」
「………………んん…………」
まだ眠いのか覚醒していないあきらはうわ言のままゆるゆると瞼を開けた。
全くスパイなのに少し平和呆けしていないか?と呆れつつ再度この状況を確認する為に問いかける。
「これはどういうことだ?」
「??」
「何故隣でお前が眠っている?何もない…………よな?」
「…………………………?」
寝ぼけているのか話しかけても耳に入ってないようであきらは眠そうにしぱしぱと目を瞬かせる。
そもそも目の前の男が凶一郎なのか認識していないような気もする。
ぐらぐらと船を漕ぎ体がぐんにゃりと傾くあきらを慌てて抱きかかえる。
柔軟剤と髪からうっすらと香りがして思わず顔を背けた。
このシチュエーションは心臓に良くない、一緒にベッドに入っていてシャンプーの香りがするなんてまるで漫画の朝を共に迎えた恋人のようではないか。
と心臓をバクバクと破裂寸前に高鳴らせている凶一郎だったがそれ以上の事が起こるなど予想していなかった。
ふわふわと雲を歩いているような夢見心地の中のあきらは就寝する前、凶一郎ぬいに言われた事をうっすらと思い出した。
そうだ、アレをやらないと…………とあきらは自分を抱きしめているのが元に戻った凶一郎である事を自覚しないまま頬にキスをした。
「きょういち……ろう――、おはよう、のチューだよ…………」
「!?!?!?」
「…………これ、で…………ミッション……かんすい……ぐぅ」
言われた通りしましたよ、と成し遂げた顔であきらは凶一郎の腕の中で再び眠りについてしまった。
一方凶一郎とは言うと。
「……………………」
やはり唐突な彼女からのサプライズによって混乱したのかあきらを抱きかかえたまましばらく一時停止してしたのだった。
数時間後一抹の関連を家族から聞かされた凶一郎は今朝の出来事をあきらが覚えていない事に安堵しつつ今度はあきらも同じ姿になったらどういう言動をするのだろうか…………とちょっぴり楽しみになってしまった凶一郎だった。
かちり、と銃のトリガーを引いて真正面から相手に銃を向ける。
銃を持つ両手が震える、うまく銃口を定められない。
呼吸は乱れいつしか視界は水で埋まっていた。
一方女を見据える銃を片手で持つ男は涼やかな表情だった。
まだ僅かに眉間に皺が寄っていてどうしてこんな事に…………と苦悶の感情が現れている。
一触触発の最中…………第一声は。
「ちょっとー!!!泣いちゃ駄目でしょう!!!!
もっと!しっかり!きりっと!クールに!!顔整えて!!!」
「そ、そんなこと言われても〜〜〜〜!!!!」
スパイデーのカメラマンに怒られたあきらはせきを切ったようにそれまで押し込んでいた涙が一気に放出され、ぼろぼろと更に泣き始めてしまった。
わんわんと泣くあきらにカメラマンは早く泣き止ませろと凶一郎に目線を送る。
やれやれ…………と仕方なさそうに凶一郎はあきらの背中を擦った…………
何故こんな羽目になっているのか、それはスパイデーから雑誌の表紙に凶一郎とあきらを使いたいと要望があったからである。
スパイとしての二人の写真を撮りたいと言われいざ向かって見れば要求された構図は二人が銃を向け合うボーズだった。
凶一郎は勿論銃の心得はあるし問題はない。
が、あきらとの方というとまず訓練したことはあれど彼女は刀の方が得意武器である……というのは置いといて。
向き合うというのがいけなかった。
用意してある銃は模造品であり、実際に弾は入っていない、だがそれでも銃を婚約者に向けるという行為そのものが嫌悪させるのか彼女はとても嫌がった。
なのでどうしても銃を向けると涙ぐんでしまい、撮影どころではなくなってしまう。
悲哀極まる構図にも見えなくないがどうも提案した記者はクールな構図を描きたいらしく、顔を引き締めろと無茶振りを要求してくるほどだ。
正直辟易とする、こちらの気持ちにもなってみてほしい。
彼女ほどではないが、勿論凶一郎も彼女に向けて銃を向けるなど身が引き裂かれる思いだ。
なんとか方向性を変えるべく向き合うのではなく、銃を一緒に持つとか、同じ方向で……と意見を言ったものの、記者は聞く耳を持たず話し合いは平行線のままであった。
何度か背中を擦っていると漸く落ち着いてきたのか、嗚咽が止まって、少し安堵する。
だが、やはり記者の言う通りには出来そうにない…………
「で、どうです?いけそうですか?」
「……………………」
再び問われるもあきらは以前として首を横に振る。
「やっぱ無理です、銃を向けるくらいなら……!自決したほうがましです!!」
「だからポーズ違うってんでしょうが!!!」
こめかみに銃を当てるあきらを凶一郎はひやりと背筋が凍り慌ててその手を下ろさせた。
いくら道具とはいえそんな仕草は肝が冷える。
引き金から指を1本1本外させて銃を手から離させる。
自決する構図など死んでも見たくない。
僅かに目の淵に水が溜まったままのあきらに優しい笑みを浮かべて手を握り語りかける。
「俺もそうだ」
「何が?」
「俺もお前に銃を向けたくない、いくら演技であろうとも偽りだったとしてもそんな事はしたくない
相対するのではなく共にいたいからな」
「凶一郎…………」
まるで告白しているみたいな二人の雰囲気に記者は思わず怒号も忘れ傍観していた。
そうだ、何も敵対する構図だけなわけではない。
それだけのイメージに囚われていたがそれ以外にも選択肢がある事に今更気づいた。
そしてこの二人にはこれがお似合いだろう……と記者は二人に歩み寄った――――
そうして撮影され表紙に載った二人の写真は――――
銃を向け合うのではなく一緒に銃を持つ写真になったのだった。
[凶一郎が風邪を引いたパターン]
喉に違和感を覚えた、むず痒い感覚に襲われ喉を手を擦る。
最近乾燥してしたからだろうか、水分を欲していそうな欲求が生じお気に入りの茶葉を湯に通し程よい温度にまで下げてから飲み喉を潤す。
これで解決…………かと思いきや、喉の違和感は消えなかった。
凶一郎は眉間に皺を寄せてこの症状が何であるか察知した。
けれどこの名前は決して言ってはならない、何故なら…………
「…………完全に引いたな」
と同時に自室の壁が木っ端微塵に吹っ飛んだ。
屋敷の外に吹き飛んだ瓦礫が散らばり、パラパラと空いた空間を淡々と凝視する。
そこにいたのは愛する末弟、七悪であった。
張本人の七悪は可愛げのある声で。
「おくすりのお時間でーーーす、お兄ちゃん」
夜桜家にとっては死刑宣告と等しい言葉を言い放ったのであった。
当然凶一郎は拒否した、しかし強制的に薬を飲まされ今はベッドに眠りにつかされている。
本人としては眠りにつきたくとないが、やはり風邪を引いているからか普段よりも若干コンディションが悪く感じた。
風邪の自覚から時間が経てば経つほど体の熱が上昇し徐々に体の不調が増えていく。
息を吸い込めばむせて水分をとるのも厄介だ。
今日の夕食は六美と共に食べられないな…………とシーツの上で悲しくため息を吐いた。
せめて六美が療養食の粥を作ってくれているらしいのでそれを食べられることが不幸中の幸いだろう。
もしかすると六美からあーんされてることも…………!?!?と思うと帰って熱が高まり頭痛が増した。
……………………しばらくあれこれ考えるのはやめよう………………
「凶一郎、具合はどう?」
目をうっすらと開くとあきらがこちらを心配そうに伺っていた。
今は何時だ…………?どれくらい思考を放棄してしたのか分からない、いや俺は眠ってしまっていたのか…………
恐らくほぼほぼ気絶に近い感じで入眠に入ったせいか寝る寸前の記憶があやふやだ。
力を入れて体を無理やり起こすとぐっしょりと汗をかいていて濡れた寝間着が気持ち悪い、後で着替えねば…………
あとそもそもあきらがこの部屋にいるのも気にかかる、ずっと看病をしてくれていたのだろうか。
額に乗せられていた保冷袋はまだうっすらと冷たい、多分定期的にあきらが交換してくれていたのだろう。
「すまんな、ずっと見てくれていたんだろう」
「ううん、謝るのはこっちの方
………………風邪、移しちゃったね」
「…………予防はしていたんだがな」
凶一郎は仕方がないとあきらを優しく諭した。
この頃任務が立て込んでいて疲れていたのが悪さをしたのだろう。
ちらりと隣を見ると汗をかいていたのがわかっていたのか替えの寝間着が置いてあった。
一人で着替えられる?手伝おうか?と申し出があったが婚約者とはいえ手伝わせるのはまだ抵抗があるし羞恥が伴うので自分でできると断った。
普段よりも時間をかけて着替えると鼻腔を擽るこの匂いは!!!!
「はっ、六美の料理!?!?」
「そう当たり、ふふ凶一郎ってば流石だね」
あきらはくすくすと笑いながら粥の入った器をこちらにもってくる。
あまり食欲は湧かなかったが六美が愛をこめて作ってくれたと思うだけで山程湧いてくる。
これなら食べられそうだ、と蓋をあけてレンゲをとりパクパクと食べていたが、数口食べてピタリと止まってしまった。
完食することなく手を止めてしまった凶一郎にあきらは心配そうに見つめる。
「どうしたの、凶一郎……?もうお腹いっぱい…………?
やっぱりまだ具合悪い……?持ってくるの早かったかな?」
「いや、大したことはない、ないんだが…………
…………あきら恥を承知で頼むんだが食べさせてくれないか」
「えっ!?!?」
「今まではなんてことのないこのレンゲが微妙に重たくてな…………食欲はあるんだが手が怠くて仕方がない」
「そ、そういう事なら……!頑張ってやるね!
…………は、はい、あーーん…………」
「あーん…………ん…………」
具材がシーツに落ちないようにして食べさせてくれるあきらからのあーんを凶一郎は素直にぱくりと食べる。
むぐむぐと咀嚼し粥が凶一郎の喉に流れ込む。
「ど、どう……?美味しい……?」
「…………美味い!流石は六美だ、ただの粥であろうとも六美が作ったというスパイスだけで極上の料理と化す!
さて、もう1回くれ」
「う、うん……!あーーーん」
「あーーん…………」
粥はまだまだある、凶一郎は何回も強請りあきらも素直にそれに応じた。
凶一郎は六美の粥を美味しそうに頬張る、この表情を眺めているだけで幸せだ、とあきらからは笑みが溢れていた。
それは凶一郎も同じで幸せで幸せでたまらないと頬が緩んでいる。
気づけば凶一郎の声色も若干甘さを増しているようなきさえする。
「…………無くなってしまったな」
「おかわりする……?」
「いやもう腹いっぱいだ、…………せっかくの機会なのに勿体ないが」
そんなに六美のお粥が食べたかったのかな?とあきらは首を捻る。
でもそれもそうだろう、凶一郎は一家の長男として常に気を張っている。
多少の体調不良なんて悟られないようにしているくらいだ。
看病で療養食を食べるなんてきっと5本指に入るか入らないくらいだろう。
そんな彼に風邪を引かせてしまった事に関しては罪悪感を感じるけれど……
と、彼が何故残念がっていた理由には気付かなかったのだった。
[摩訶不思議、動く凶一郎ぬい]
「何…………?これ?」
「…………どう見たって兄貴のぬいぐるみ?にしか見えないんだけど」
「おい待てなんか動いてないか?」
「うごっ!?お、お化けじゃないだろうね!?」
「ね、姉ちゃん落ち着いてててててて」
「辛三こそ落ち着け!」
突如妹弟達の前に現れた凶一郎を模したぬいぐるみ。
誰かが作ったのだろうと考えていたが単なるぬいぐるみではなかった。
そう、もぞもぞと動きだしたのである。
そして、そのぬいぐるみは。
「ム……ム……ムツミ〜〜〜〜〜」
「きゃああああ!!!!!喋ったぁあああ!!!!」
と片言で喋り出したのである………………
かくしてその喋るぬいぐるみは凶一郎本人である事が判明した。
毎度のごとながら七悪の薬による影響であり、感触も普通のぬいぐるみだが動くし意識はあるし何より喋る………………
だがぬいぐるみ化している事で本体とは違う自我が芽生えているのか変化しているのか分からないが普段と違う喋り方をしていた。
背丈が小さい分いくらかましのように見えたが片言になっているだけで普段の凶一郎と変わらぬ性格をしていた。
「ムツミ!ムツミ!ダイスキ!………………アサノタイヨウフユカイ、リコンシロ」
「俺に対しては普通に態度厳しいんですね…………」
「で、これ誰が面倒見るの?」
「……………………………………」
六美の問いに全員が沈黙する。
いくら小さかろうと凶一郎は凶一郎。
しかも幼児化している時は素直で良い子だったが、中身は成人の凶一郎である以上手を焼かれる事になるのは見えていた。
「…………誰って言ってもねぇ」
「あたしパス」
「俺も、つーかもう一択で決まりだろ」
「俺で良ければ…………まぁ兄さんは嫌そうなのでやっぱりあの人ですかね……」
満場一致ということで出張任務から帰ってきたあきらに全て任せることにした。
帰宅早々婚約者が奇妙な姿になっている事態に流石のあきらも困惑しているようだが快く引き受けてくれた。
そして凶一郎ぬいの反応とはいうと。
「………………」
大人しくあきらの世話を受けていた。
特に何も反応を示していないが拒否していないので満更でもないのだろう。
この状態になった凶一郎ってご飯食べるのかな…………?とあきらは首を傾げて膝の上に座る凶一郎を見つめる。
感触もぬいぐるみなので臓器などがあるかどうかも不明だ、七悪によると翌日には戻るらしいが…………
七悪は果たしてどうしてこんな実験を行ったのかは不確かなのは置いといて彼の言葉を信じる他ない。
そしてこの姿になった凶一郎ぬいは生活サイクルも違うようで。
当然夜も寝ないのだろうと思っていたら。
「オレモイッショニネル」
とベッドの上にちょこんと座っていた。
そして何故か自分の部屋ではなくあきらの部屋で寝るつもりらしい…………
当然一緒に寝るとあきらがこっちにやってくるのを待っている様子は思わず写真に撮りたかったが何とか抑えた。
寝間着に着替えてベッドに移動し電気を消そうとすると凶一郎ぬいに止められた。
何だろう寝かしつけの絵本読みがしてほしいのかな?とついフォルムが愛らしく小さいからか幼児と同じ対応をしてしまいそうになる。
「……………………オヤスミノチューホシイ」
「お、お休みのチュー!?!?き、キスって事!?!?」
「チューサレナイトネナイ」
「え、え、ど、どうしよう…………」
どうしてそんな要求をするのか皆目見当がつかないがぬい化の影響なんだろうか…………とあきらは頭がこんがらがった。
ほ、ほっぺでいいのかな?いや頬でも恥ずかしい…………!!と凶一郎ぬいを前にして苦悶する。
でも普段寝ない凶一郎が寝れる絶好のチャンスとも言える、少しでも疲労の回復になるかもしれないし……!とあきらは恥を承知で凶一郎ぬいの頬に唇をそっと押し当てた。
「………………ね、寝てくれる……?」
「………………ネル」
満足したのか凶一郎ぬいはモニュモニュと口をもごもごさせてベッドの布団に潜り込んだ。
良かった、とカチリと電気を消すとにゅっと凶一郎ぬいが出てくる。
その頬はうっすらピンク色に染まっていたが暗くした為すぐに目が聞かずあきらは気付かなった。
「お休み、凶一郎」
「…………オヤスミ…………
オキタラオハヨウノチューモタノム」
「朝も……!?まぁいいか、分かった」
恥ずかしいがこれで凶一郎のご機嫌が取れるのなら安いものだ、とあきらは凶一郎ぬいの横に横たわり目を閉じて就寝した。
翌朝。
薬の効果が終わりぬいぐるみから人間の状態にいつの間にか戻った凶一郎は眠りから目覚めた。
久方ぶりの睡眠からか寝起きは凄まじく良好で体の疲れはなくなっていた。
以前飲んだナナオチビナオールのような効果があるのだろう。
今まで自分が何をしていたのかさっぱり記憶がないが七悪の薬の影響だろうが……ひとまずは状況を確認すべき周りを把握…………と見回したところで凶一郎の思考が凍りついた。
そもそも居る部屋があきらである事、そして隣にあきらがすやすやと眠っている事――
思わず自分の服装を確認しあきらの服が乱れていない事に安堵した。
………………何か一夜の間違いがあったという訳ではなさそうだ。
それにしても何故あきらの隣で眠っていたのか皆目見当がつかない、とりあえずあきらに聞かなくては…………とゆさゆさ体を揺さぶって起こすことにした。
「おい、あきら」
「…………んー?」
「起きろ」
「………………んん…………」
まだ眠いのか覚醒していないあきらはうわ言のままゆるゆると瞼を開けた。
全くスパイなのに少し平和呆けしていないか?と呆れつつ再度この状況を確認する為に問いかける。
「これはどういうことだ?」
「??」
「何故隣でお前が眠っている?何もない…………よな?」
「…………………………?」
寝ぼけているのか話しかけても耳に入ってないようであきらは眠そうにしぱしぱと目を瞬かせる。
そもそも目の前の男が凶一郎なのか認識していないような気もする。
ぐらぐらと船を漕ぎ体がぐんにゃりと傾くあきらを慌てて抱きかかえる。
柔軟剤と髪からうっすらと香りがして思わず顔を背けた。
このシチュエーションは心臓に良くない、一緒にベッドに入っていてシャンプーの香りがするなんてまるで漫画の朝を共に迎えた恋人のようではないか。
と心臓をバクバクと破裂寸前に高鳴らせている凶一郎だったがそれ以上の事が起こるなど予想していなかった。
ふわふわと雲を歩いているような夢見心地の中のあきらは就寝する前、凶一郎ぬいに言われた事をうっすらと思い出した。
そうだ、アレをやらないと…………とあきらは自分を抱きしめているのが元に戻った凶一郎である事を自覚しないまま頬にキスをした。
「きょういち……ろう――、おはよう、のチューだよ…………」
「!?!?!?」
「…………これ、で…………ミッション……かんすい……ぐぅ」
言われた通りしましたよ、と成し遂げた顔であきらは凶一郎の腕の中で再び眠りについてしまった。
一方凶一郎とは言うと。
「……………………」
やはり唐突な彼女からのサプライズによって混乱したのかあきらを抱きかかえたまましばらく一時停止してしたのだった。
数時間後一抹の関連を家族から聞かされた凶一郎は今朝の出来事をあきらが覚えていない事に安堵しつつ今度はあきらも同じ姿になったらどういう言動をするのだろうか…………とちょっぴり楽しみになってしまった凶一郎だった。
