凶一郎夢ツイッターログまとめ
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[棒アイス]
じりじり……じわじわ…………灼熱の太陽が地面を照らしている。
ここ近年の暑さは異常だ、まだ暦的には夏に入っていないというのにもう気温は真夏並である。
この暑さには流石の二人もまいっていた。
自ずと二人の足はコンビニに向かい気づけばアイスを買っていた。
比較的日差しのないベンチに座り一心不乱に体を冷やすべくアイスを食べる。
凶一郎の方はあっという間に食べ終わってしまった。
彼女の方といえば少しでも冷たさを味わおうとじっくりアイスを堪能していた。
溶けたアイスを舐める彼女の舌に思わず視線が寄ってしまい、慌てて目を逸らす。
何か、違う事に思考を切り替えないと、そうだ会話をしよう。
と、会話をしようと思ったが暑くて思考が回らない。
そんなものだから美味いか、簡単なものしか浮かばなかったがとりあえず声をかけた。
「うまいか」
「………………」
彼女も思考がおぼつかないのか数秒ぼんやりした後。
棒アイスを咥えたまま、おいひい…………と感想が返ってきた。
暑さのせいで赤く染まった頬、覚束ない返事。
とろんとふわついた目、そして汗。
その全てが凶一郎を煽り、暑さのせいなのか別のせいなのか熱かった体の体温が更に上昇した。
思わず棒アイスの棒をへし折ってしまったが、思考はもう一点しか浮かばなかった。
今日は帰るのみ、なのだが……と凶一郎はごくりと生唾をのんで彼女に選択をもちかけた。
「…………涼しいところで涼まないか……?」
「………………?うん……そうだね……」
なお連れて行く場所は涼しさとは真逆なのだが彼女は知る由もなかった――
[茹だるような風呂の中で]
凶一郎の要望により一緒にお風呂に入ることとなったのだが……
何度か入っているもののやはり恥ずかしさが消えなくて彼に背を向けたまま入浴してしまう。
後ろに凶一郎がいてそれはそれではずかしいものだが、直に見られるよりは……まし……だ。
夏場の風呂は下手すると逆上せてしまう、どれくらいで上がろうかなーと既に汗をかきはじめた私に凶一郎は。
「なぁこっち向いてくれないか?」
「んー?いいけど……なんで?」
「………………何だっていいだろう」
明確に言ってはいないけれど多分急にキスがしたくなったんだろうなーと目を瞑る。
でも直接キスがしたいとは凶一郎は言わない、濁すかこっち向いてくれだの、言い訳をつける。
…………でも、今そっちに向いてキスをされると……更に入浴時間が伸びそうな予感がした。
悩んだ後、私は押し黙ってしまい凶一郎がむっ、と思い通りにいかなくてもやっているのが感じ取れる。
彼には申し訳ないけど諦めてくれるかな……と願っているとしばし凶一郎は考えこんだ後私の髪の毛を一房すくい上げた。
何をするんだろう?と思った次の瞬間髪の毛に唇が押し立てられた、しかも分かるようにわざとリップ音まで立てて。
「…………!」
凶一郎がほくそ笑むのが見えないけれど何となく分かる。
急に心拍が上がり、もう出ようと体を動かそうとした私の首元に唇が当てられる。
しかも今度は当てるだけじゃなくて吸い上げる形で。
「っ」
「どうした?」
「な、なにも……」
ああ、動揺している間に腕を回されてがっちりホールドされてしまった、これでは無理やり浴槽から脱することは出来ない。
じりじりと蜘蛛が距離を詰めてきている、私はもう蜘蛛の巣にかかった獲物だ。
牙は、すぐそこに。
耳元に息が当たるくらいに寄せられてぽつり、と名前を呼ばれた。
こそばゆくて顔を背けたくなるけど彼は決して逃がしてはくれない。
「キス、したいんだが」
「…………!」
そういうのはずるい、いざという時に素直になられるともう振り向かざるをおえない。
観念して振り向くとぱくり、と蜘蛛に食べられた。
愛の捕食が始まろうとしていた――
[ケーキバース1]
※ケーキバースパロディネタ
凶一郎がケーキ、夢主がフォーク設定
「お邪魔します、あっ、凶一郎、おはよう」
「来たか」
彼女は昔から付き合いのある少女だ。
親同士が知り合いで何かと不在が多い彼女の両親の頼みで昔からよく遊んだり、泊まったりしていた。
当然心の距離は縮まり、ついに勇気を出して告白したのが高校3年の春。
そして今はお互い大学生なのだが……
彼女と付き合うようになって早一ヶ月。
前々から家族とは親戚みたいな付き合いだったが今日が初の顔合わせみたいなものだ。
母親の零は張り切って料理を作っている、彼女も母の作る料理が楽しみ……だと微笑んでいた――
しかし出された料理を口にして彼女はぴたりと手を止めた。
「どうした?」
「あら……口に合わなかった?」
「あ…………いえ……あれ?」
彼女は再び料理を口に運び首を傾げる、もう一口、更に
一口。
何度も何度も首を傾げた、何か様子がおかしいと妹弟達が心配そうに見つめる。
やがて彼女は持っていた箸を置いてぽつりと呟いた。
「味が…………しない」
「…………!!」
凶一郎は父と母の顔を見た、2人とも凶一郎の視線に頷き席を立つ。
「母さん、どうかしたのかい?」
「ちょっとね、二刃留守番を頼める?」
「それはいいけど……」
「凶一郎は…………」
凶一郎も席を立ち上がり、俺も行く、と彼女の手を掴んでずかずかと歩き始めた――
連れてこられた場所は病院だった。
彼女は何も具合は悪いところはないのに何故?と不思議そうにしているものの素直に診察を待っている。
ほどなくして診察室に呼ばれ、簡易検査をし、しばらく待った後……
再び診察室に呼ばれた彼女に言われた言葉は。
「えーー検査の結果ですが…………恐らくフォークを発症していますね」
医師の言葉に両親、凶一郎はやはり……と表情を重くさせたが彼女は以前として言っている意味が分からない……と混乱していた。
「フォーク…………って何?」
「何って…………昔小学校で習っただろう」
「あー……あったような?なかったような……」
「まったく、義務教育だぞ?」
そう責めると彼女はごめんなさい……と眉を下げる、おっとそこまで責める気はなかったのだが……
が、彼女がフォークとなった今改めて認識をしてもらわなければ今度は彼女が困ることになる。
「この世の人間にはフォーク、ケーキ、そしてそのどちらにも当てはまらない人間が存在する」
「私は……そのフォーク……?っていうこと?」
「そういうことだ、そしてこのフォークは……ケーキと呼ばれる者の体液等しか味覚を感じなくなる」
「あっそれで……道理で味がしなかったわけなんだ……
え、これってずっと……?」
彼女は不安そうに医者を見るが医者もお手上げといわんばかりに首を横に振った。
「じゃ、じゃあ……零さんや……六美ちゃんの料理食べても…………」
「…………そういうことにはなるな
だがこれはあくまでもフォークの性質の一つだ、これくらいはかわいいもんだ、問題は…………フォークがケーキを求めてしまう性質にある」
「もと……める?」
「そうだ、求めるがあまり……フォークはその欲求が止められなくなると……最悪食べてしまうことがあるらしい」
「えっ…………」
彼女は青ざめて服をぎゅっと握った。
「や、やだよ……私……人殺しには……」
「はい、ということで注射打ちますね〜〜はい、こっち向いて腕だして」
「は、はい……?」
彼女は言われるがまま医者の指示に従い腕を出すと医者は注射器を取り出して彼女の腕にさす。
「はい、注射終わり
君、怖がられる事言っちゃ駄目だよ?フォークがケーキ食べるなんてこと大昔の事なんだから」
「…………その通りですが……」
彼女は大昔?とまたもや首を捻っている、本当に授業受けてたのか?とツッコミたくなった。
「本当なんですか?私……人、殺さなくて済むんですか?
」
「そうだよ、さっきの注射は食べる……というかそういう欲求を抑える薬でね、これを打てば大丈夫
先天性は幼少期の時に打つんだけど後天性は症状に気付かないと来てくれさないからねー来てくれて良かったよ」
「…………ちなみに遅れた場合は……?」
「遅れても大丈夫だよ、来てくれた場合はね
ほら?ニュースで見るでしょ、逮捕情報
あれ時々フォークの犯罪も紛れてるから、差別だなんだって気にして隠してるけどね」
「は、はぁ……よ、良かった…………」
「あっ、でも完全に無くなるわけじゃないから1年に1回、かかりにくること、いいね?」
彼女はこくこく、と医師の言葉に頷いたのだった――
家に帰り凶一郎は自身の部屋に彼女を招き入れた。
「さて、お前の…………症状というか性質についてだが
今聞いた父さんと母さん、それと俺達家族以外には話さない方がいい」
「ど、どうして?」
「さっきも聞いただろう、一方間違えば人殺しの罪に問われるんだ、抑制出来るとはいえ……
……偏見がなくなったわけじゃない、誰に知られてどうなるか分からないだろう」
「………………うん……あの」
彼女は顔を伏せて問う、どうしてフォークとなったのにこんなに親切にしてくれるのかと。
凶一郎の言った通り多分恐怖される存在なのに、凶一郎の視線は今までと変わらない。
その理由が分からなくて、理解が出来なかった。
「……理由か、それは単純に俺も似たような者だからだ」
「えっじゃあ凶一郎もフォークなの?」
「いやその真逆だ」
「じゃあ……ケーキということ……?」
凶一郎はそうなるな、と肩をすくめる。
まさかこんな形でカミングアウトすることになろうとは。
とはいえ付き合っているわけだしいつかは……と思っていたのだが、こんなに早まろうとは。
「じゃ、じゃあ、私凶一郎の事食べちゃうの……」
グスグス泣いてしまう彼女を凶一郎は頭を撫でてあやす。
「泣くな、だからそれはないと言っただろう」
「ほんと?」
「ああ、まぁ味わいたい……という欲求は残ったままだが、あと味覚だな」
彼女は味覚?と首を傾げる。
そういえばそれを説明するのを忘れていた。
「フォークが何故ケーキを求めてしまうのか……
それはケーキ以外で味覚が無くなる事以外に……ケーキを舐めた時強烈な甘みを感じるせいらしい」
「甘み?」
「そう感じるよう感覚が変わったということだ、そこは薬でも変えようがない
…………ものは試しだ、指でも舐めて見るか?」
「ゆ、指!?!?」
「何をそんなに驚く」
彼女は首をぶんぶん横に降って拒否する。
はしたないと思っているのか、誤って食べてしまったらどうしようと不安に思っているのか……はたまた両方か……
まぁ時期に拒否る余裕もなくなるだろうが。
凶一郎は嵌めていた手袋に手をかける。
凶一郎は先天性ケーキであった。
幼い頃に診断を受けて以来彼は肌のほとんどを服か何かで隠している。
念の為故意に接触されない為である、周りには太陽の日差しに弱いからと言い訳をし何かと体育等はパスしてきた。
これもそれも不用意にフォークとの接触を避ける為である、言わば自身の保護であった。
にもかかわらず凶一郎は積極的に自分の肌を舐めろと彼女に急かす。
その理由とは単純に自分以外の味を知ってほしくなかったからであった。
発生例は年々減少しているとはいえ、すぐそこにいるかもしれない、彼女を何としてでも繋ぎ止めておきたい……
そんな思いから凶一郎は手袋を一つ外した。
「だ、だから、凶一郎、私……は…………」
外した瞬間、彼女の目が勢いよく見開かれる。
視線が手に注がれる、言葉を発するのを忘れてしまったのか、それとも初めて嗅ぐ香りが魅了してしまったのか。
彼女は凶一郎の手から視線を逸らせない。
「ほら」
「…………」
ふらふらと酔ったように彼女は凶一郎の指を摘み……そして口に含んだ。
ぱくり……と口の中に入れると……不思議な事に指から甘い味がする。
これは…………砂糖?ああいや飴?ほんのり紅茶の匂いがする気がするのは彼が紅茶をよく飲むからなのかな……そういえば今朝も飲んでたなぁ……と彼女はさっきまで嫌々言ってたのが嘘のように指の堪能している。
そして凶一郎の方は…………初めての経験にわなわなと震えていた。
彼女は指をちまちまと吸っている、てっきり噛みつかれるかと思いきや……あまりにも弱い吸引力に最早小動物ではないかと思うくらいだ。
甘さを感じているせいか彼女の瞳は潤みそれがまた別の感性を誘う。
自分で誘ったけれどこれはお互い何か別の扉を開いてしまったのでは……?とその場から動けなくなった凶一郎だった。
[ケーキバース2]
※ケーキバースパロディネタ
凶一郎がフォーク、夢主がケーキ設定
ケーキは甘い、当たり前だ。
だが凶一郎はその甘さにこの頃うんざりとしていた。
「…………もういい」
「え、も、もういいの……?今日全然食べて……ていうか舐めてないよ?」
「いらないと言ったらいらない、もう腹いっぱいだ」
ぐい、と腕を押しのけると彼女は悲しそうに眉を下げた。
悲しませるようでこちらも心苦しいがこれ以上入らないものは入らない。
「すまないが明日も不要だ、しばらく食べたくない」
「そ、そっか…………分かった……」
ふう、これでやっと甘ったるいのからしばらく解放されたと凶一郎は安堵する。
凶一郎はフォークと呼ばれる部類の人間であった。
味覚が存在せず、ケーキと呼ばれる者のみを通してでしか味を得ることができない。
そして彼女は凶一郎と結婚した新妻なのだが、彼女こそがケーキの中の一人であった。
そして凶一郎は彼女の味に悩まされていた。
その彼女の味がすごく甘すぎるのだ、しかもどこの部位でもほぼ一緒だ。
考えてみてほしい、生クリームたっぷりが乗っかった重なったパンケーキを。
ちょうどあんな感じだ、しかもどちらかというと生クリームましましに近い。
生クリームだけ食べて生活しろと言われたらそれは困る、一回のみならともかくずっとは胸焼けがするものだ。
かつて参加したことのあるフォークが集う会で。
場所によって色んな味がするだの、感情によって味が変わるだの…………凶一郎にはどれも経験したことがない。
じゃあ別のケーキを食べればいいのでは?となるだろうが知らない人間、かつそれの加工品でも嫌悪感がありとても食えたものじゃない。
そうなると好いた人で十分……となるのが自然だ。
まぁ別に食べなくても命に関わるわけでもなし、求められなくて彼女が滅入るだろうがそれ以外で愛情を注げばいい。
愛の形は食事以外にもあるのだから。
それから数日、凶一郎はやけにいらいらしていた。
親友の灰やその他の人物がよほど心配するほどの荒れように何事かと噂される。
「どうした?六美成分でも足りないのか?」
「いや六美成分毎日摂取しているが…………今日もたくさん写真を撮ったし…………いや満たされないのはいつもなんだが」
「そうかよ…………じゃあなんだ?」
「分からん」
聖司も理由が分からないようだった。
凶一郎は煙草を吸わないがどこかニコチン切れのような感覚がある、足りない、何か足りない。
何か摂取を禁じているものでもあっただろうか……と最近の行動を振り返り、あ、と思い当たった。
「あ、凶一郎帰ってくるんだ」
よし、体を洗わないと!と浴室に向かい体の隅々まで洗ういつもの作業に入る。
うん、これでよし!と服に着替えたところでそうしても意味がないと気づいた。
つい、いつもの癖で準備を整えてしまう…………しばらくいらないって言ってたのに……となんだか悲しくなってしまうと、いつの間にか帰ってきていたのか、ちょうど凶一郎が居間の戸を開けて帰ってきた。
おかえり、と言おうとするとぎゅっと真正面から抱きつかれる。
ただいまのハグにさっきまでジメジメいていた気持ちが吹っ飛び、ぎゅっと自分も凶一郎に抱きつく。
ああ、幸せ、ケーキと求められないのがなんだっていうんだ、彼は十分私を愛してくれる。
だからたまーにだけ食べられるとしても大丈夫……と微笑んでいるとどこか凶一郎の様子が違う事に気づいた。
「凶一郎?」
「………………いただきます」
?と首を傾げるな否や勢いよく首元に噛みつかれる。
強めに噛まれて歯型がついたんじゃないほど歯をがっちりと肌に食い込ませて思わず身をよじる。
しかし凶一郎は彼女をしっかりとホールドしていて離すつもりはない。
そのまま無我夢中で首元やら鎖骨やら出ている肌という肌を全て舐め回された。
おかしい、彼ならもう既にお腹いっぱいを通り越しているはずなのに、まだご馳走様を言う気配がない。
一体どうしてしまったんだろう、しかもいつもならソファやベッドで……こんな床で覆いかぶさるように求められるなんて初めてだ。
しゅるり、と首のネクタイが横に落ちる。
食事と共に徐々に服を脱がされて………………私は真っ白な皿の上に乗っかっていた。
目の前には既に満腹になっているはずの狼が一頭。
先程まで一心不乱に舐めていた凶一郎がようやく口を開く。
「……………………甘いな」
「ど、どうしたの?こないだまでしばらくいらないって……」
「どうかしてると思うか?俺もそう思う
足りないんだ……あれほど胸焼けしていたお前の味が恋しくて恋しくて……たまらない…………ああもう……ずっと食べていないとおかしくなってしまう、いや既におかしくなっているのか……はぁ、今はただお前を食い尽くしてしまいたい……」
「…………いいよ、全部……好きに食べてね?」
くくっ、と凶一郎の口角が上がる。
重たいものは重ければ重いほど取り憑かれた時に抜け出せなくなる、ああ…………彼が虜になってくれて…………嬉しい………と唇が向かってきて私は微笑んだ。
ハチミツをかければかけるほど幸せになるというように、食べれば食べるほど幸せになるのだ――
[ケーキバース3]
※ケーキバースパロディネタ
凶一郎がフォーク、夢主がケーキ設定
さっきのネタとは違う世界線
私には決して言ってはいけない、秘密がある。
それは……私の体の事。
世にはケーキという分類の人間がいるのは常識である、しかしそのケーキにも味の優劣というものがあり。
言わば私の体はご馳走様といっていい、いやご馳走様なんて生易しいものではない。
あまりにも美味が過ぎるが故昔は誘拐事件など……悲惨な目に合う者が多かった……と祖母から聞いた。
だから決して人にケーキである事を知られてはいけないよ、お前の母はどこか知らないところに連れ去られてしまったんだからね、と祖母はよく言っていた。
だから私はわざと味覚がないフォークの振りをしていた。
そう、そうすれば自ずと皆距離をとるからだ、人との接点が薄ければバレる可能性も自ずと減る。
そうして、1人私は学校の屋上で昼食をとる。
今まではフォークと知りつつもなぜか私を嫌わない人と昼食をとっていたのだが、高校3年になってからはクラスが分かれてしまい一人寂しく屋上で弁当を食べている。
あ、でも一人なら味を味わってもいいのでは……!?、と思い久しぶりの味覚がない振りをせずに済む……と美味しそうに食べていたのが致命的なミスだった。
「…………?あいつは……」
「はっ…………こ、こんにちは!生徒会長さん!」
「……………………」
ヤバい、今の見られた?フォークの振りをしていたのがバレただろうか……
いや生徒会長とはいえ誰がフォークで、ケーキかなんて把握してない。
そもそも生徒会長はフォークではなかったはず…………隠しているという説もあるけど彼は確か妹が作った手料理を笑顔で美味い、美味いと言っていた。
万が一私がケーキとバレても黙ってて貰えば問題ない……!とうんうん、と頷いてそそくさと横を通りすぎようとすると……
慌てていたからか、目の前ですっ転んでしまった。
いたた……と膝の痛みにはっと血が出ている事に気づき慌てて出血を止めようとすると、生徒会長の様子がおかしいことに気付く。
「生徒会長……?」
生徒会長はいつもの涼し気な表情から一転苦しそうな表情に変わっていた。
何かに苦悶するようなその顔にどうしたんだろう、大丈夫かな、と手を伸ばそうとして、がばっと私に襲いかかってきた。
そのまま押し倒される……かと思いきや擦りむいた膝の出血した部分を舌で舐め取った。
生暖かい舌が膝を這い、傷を負っているからか擽ったいよりかは少しぴりっとした痛みが走る。
無我夢中で血を舐めていた生徒会長は我に返ったのか、ピタ……と手を止めて気まずそうに膝から離れた。
「あ、あの…………非常に申しにくいのですが……おヘンタイさん……なんでしょうか……?」
「誰が変態だ、言いがかりはやめろ……と言いたいがそう受け取られても仕方がないか……
それは置いといて……お前…………ケーキだな?」
生徒会長の言葉にぎくり、と体を固まらす。
どうして……やはりさっきのを見られた?と冷や汗が浮く、どうにかして話題をそらなさいと……
「さ、さっきの事言おうかなー生徒会長が女子生徒の膝をぺろぺろ舐める人だとは思わなかったーなんて言いふらそうかなー、そもそも私はフォークですよ?」
「………………ちなみに俺はフォークなんだが」
「えっ!?!?そ、そんな話聞いたことが……」
「言ってないだけでな、なるほど自らをフォークと名乗ることであえて矛先から逃れていたということか」
じゃ、じゃあ……さっきの無我夢中で舐めたのって…………私が出血したから……?血は更にフォークを引きつける要因でもある。
だからこそ屋上とはいえ嗅ぎつけられないように早く出血を止めようとしていたのだが……
一転立場が逆転したことに気づき真っ青に青ざめる。
「さて…………なんと言った?」
生徒会長は私の顎に指をかけた。
「俺を変態……だとか言いふらす……だったか?
仮にそうしたとして俺がどういう行動に走るのか分かっているよな?お前の秘密……今現時点で握っているのは俺のみだが…………」
「ご、ごめんなさい!!言いません!言いふらしません!!なので……!どうか……!それだけは!」
「…………そうしたとして俺に何の利がある?」
「な、なんでもします!!します!から!秘密にしてください…………」
それだけはなんとしても阻止せねばならない。
震える子犬のように涙目になりながら必死に懇願すると生徒会長がふっと笑った。
「分かった」
「……………………!あ、ありがとうございます……!」
「お前何か勘違いしてないか?」
「え?」
てっきり何もなしに秘密にしてもらえると思っていた私はきょとんと目を丸くする。
「ギブアンドテイクだ、俺が秘密にする代わりに……お前には俺のエサとなってもらおう」
「え、エサーー!?!?」
そうだ、俺専用のオヤツだ、と生徒会長こと夜桜凶一郎はほくそ笑んだ。
「あ、あの、凶一郎くん」
「なんだ?」
「そ、そろそろ離して……っていうか……!最初の話では指だけでもいいって言ってたのに……」
「仕方がないだろう、お前が美味いのが悪い
…………さて、ここはどんな味なんだ……?」
凶一郎に背を向けて上半身の服を下着が見えるくらい捲られた私は羞恥心でいっぱいだった。
彼のエサとなってもうしばらくが立つ。
最初は指だけで良かったのに、要求はエスカレートし項や背中や際どいところも食したいと言われるようになってしまった。
そんなの……!!彼氏も出来たことないのに……!と必死に捕食を耐える。
しかもどこか自分は彼に惹かれているのか……、いやそれはない、これはきっとケーキの性質の為であって、顔が近いとか意識してしまっているせいじゃないのだ、絶対とぐるぐる考えていると私の反応を楽しんでいるのか、凶一郎はわざと弱い耳を舐める。
「んっ!だ、だから!耳は駄目って……!」
「そうか?喜んでるじゃないか」
「そ、そんなことは……!うぅ……そ、そろそろ離してください……、下ろして……」
「………………秘密」
「うっ」
そう言われては黙らざるをおえなく静かに私は目を閉じたのだった。
[服に食い込んだハーネス]
凶一郎は呼び出しがあり、婚約者の部屋を訪れた。
何でも見てほしい物があるとか……何だろうと思いつつドアをノックすると入って欲しいと返事があったので開くと。
「あ!凶一郎!」
「…………何だその恰好は」
婚約者の彼女の恰好を見て凶一郎は眉間に皺を寄せた。
いや、恰好というか服装はいつもの仕事服だ。
凶一郎に似て黒い服を好む彼女はロングスカートを履いているのだが……下部分に変化はない。
上半身部分にいつもの違う要素があった。
上半身の胸あたりに黒い紐のような物が巻き付いている、所謂ボディーハーネスベルトというやつか。
「あ、気づいた?あのね、ここに…………ナイフとか色々つけれるの」
「…………それは分かってる、何故俺に見せつけるような事をするんだ?」
「え?いや新しく装備変えたから見てほしいなぁって――ね、どう?」
「どう……と言われてもな」
だいたい彼女は似合っているとかの返答は求めてないような気がする、どうせ役に立つだろうないいな、とかそんなに決まっている。
押し黙ったままの凶一郎に彼女は気づかず近づいた。
ぐい、と確かめるように背伸びをして凶一郎の瞳をじっと見つめてきた。
それは無邪気で無自覚で、胸元が強調され。
どうしてこいつはこんなにも俺を煽るのか……と熱がちらりと顔を覗かせる。
すっ…………と指が動いてベルトと服の隙間に指を差し込んだ。
「………………!?!?」
くい……とベルトを引っ張ると彼女は凶一郎の意図が理解出来ず、顔が茹でダコのようになる。
目を見開き固まったままの体を凶一郎は弄ぶように体のラインいや、ベルトの部分をなぞる。
別にいけないところをなぞっているわけではない、ギリギリのラインを攻めるように凶一郎の指は動く。
いつの間にか背伸びしていた彼女はペタンとかかとをついていて体の力が抜けたのか凶一郎の体に体重を預けて。
もう耳元まで真っ赤にして口元に手を当てて声をあげないようにしている。
それを凶一郎は声が聞こえるようにしたくて。
それまでベルトのとこしか擦っていなかったのに、突然背筋をつううう……と爪先で服の上から擦った。
「……………………っ、んっ」
「…………」
「きょ、凶一郎…………あの、な、なんで…………?」
彼女はただ困惑しているのか唐突に始まった辱めにぽつりと問うと凶一郎は。
「………………ベルトを見せつけるお前が悪い」
と、いつものように、部屋に鍵をかけた。
[怪我なんて私は気にしないけど貴方は]
あーーーやってしまったな、と大胆に傷の入った体を見て脳裏に凶一郎の顔が浮かぶ。
うっかりしていて思ったよりも深手を負ってしまった。
痛覚が鈍いせいか多少怪我をしても大丈夫と思ってしまいしばしばいらない怪我をしてしまう。
また凶一郎に心配をかけてしまう……そうだ、怪我をしていない事にすればいいんだ。
そう思い七悪の力を借りず、一旦実家の方に帰って応急処置を施した。
しかしやはり手慣れていないせいか動くと血が滲んでしまう、バレないように念入りに包帯を巻いて……夜桜の家に帰宅すると連絡が無かったからか凶一郎が玄関先で待ち構えていた。
「どこに行ってた」
「あ、ちょっと家の方にね、用事が少しあって……」
「…………怪我、してないだろうな」
「うん?してないよ?」
よし、これで誤魔化せた、凶一郎も心配しないだろうし大丈夫、これでいい。
凶一郎も安心して過ごせる……と自室の方に移動しようとしてズキリと体に痛みが走った。
ぱた……ぱた……と床に血が落ちて思ったよりも傷が深かったんだな……とくらりと目眩がする。
薄れる視界の中、慌てた様子の凶一郎が駆け寄ったのが見えた。
目を開くとよく見る部屋の天井が見えた。
そうここは何度か世話になっている夜桜家内の病室だ、あれ自分の部屋じゃないんだ、と思うと凶一郎の顔が視界に映った。
「起きたか」
むくりと起き上がると短くも、それだけで彼が怒っている事に気づき、ああ失敗しちゃった……と悲しく思う。
もっとしっかり手当て出来て……彼に気づかれないようにもっと上手にならたらなぁ……と後悔した。
その事が悟られたようでデコピン……するかと思いきや傷が開かないように優しく抱きしめられた。
「!?!?」
凶一郎の顔は見えない、何がどうなってこうなっているの!?と軽くテンパっていると……ぽつりと凶一郎が口を開いた。
「…………しないでくれ」
「う、うん!私怪我しない!から!」
「違うっ!」
苦しむような、痛々しく、彼らしからぬ弱い事に驚いて体に回された腕の力が少し強まった。
強まったとはいえ怪我に影響のない範囲だけれど何かを伝えようとしていることを何となく感じだった。
「俺は……怪我したことに憤ってるわけじゃない
隠していることに怒ってるんだ、お前はそれが分かっていない」
「で、でも……怪我したら…………」
「誰しも怪我をすることはある、お前の場合は……どうもそこまでの事じゃないと思っていることが問題だがそれは一旦置いといて……頼むから隠すことだけはやめてくれ」
「……………………」
返事が出来なかった、どう返せばいいのか分からなくて暗闇に落ちたような。
黙ったままの私に凶一郎は抱きしめたまま再度言葉をかける。
「俺は何度でも説得するからな、お前のその思考が変わるまで、何度でも何回でもうっとおしくても……言い続けてやる」
「……………………ごめんね」
「ふん、構わん」
そう彼が言うなら私も出来る限り努力をしよう、そう考えられるように。
急には無理だろうけど、そうなれるように少しずつ。
頑張ろうと決意を固めて、ふとずっと密着していることにようやく意識した。
「あ、あの、凶一郎」
「なんだ?」
「も、もう、いいよ、離れていいよ」
「……………………」
あれ?黙ってしまった、離れたいのに凶一郎は離してくれない、どんどん羞恥心が高まってしまう。
「きょ、凶一郎……?も、もう……」
「…………嫌だ、離れたくない」
「ええっ!?なんで!?」
「………………いいだろう、別に、ひっついてたって
隠し事した罰だ、抱き枕になれ」
むーーーと拗ねたままの凶一郎にしばし抱き枕とされたのだった……
[七夕]
中学設定
山の奥深くどこかでフクロウの鳴く声がする。
時刻は夜遅く暗闇の中、俺とこいつはじっっと身を潜めて茂みから一点を見つめる。
時折、周囲の気配に気を配りそして自分の足音強いては呼吸さえも最小限にして待つこと数時間。
未だ現れぬ標的を待ち続けたのだが……………………スマホに通知が入り、凶一郎は確認すると…………ため息をついた。
「B班が捕まえたそうだ」
「何だ……結局骨折り損か〜〜」
そういうと彼女はぽすん、と仰向けになって地面に倒れてしまった。
今日、野山の中で闇取引が行われるという情報があり、連中をとっ捕まえる予定だったのだが……肝心の取引場所が複数の候補地がありどこに現れるか分からなかった。
というわけで複数人でそれぞれ待機しやってくるのを待つ……という指令だったのだが、連中は別のところに行った……というわけだった。
学校が終わってからすぐ移動して見張りを続けていたものの……その努力というか頑張りが水の泡になったといってもいい、これには彼女もこたえたようで珍しい行動をとっている。
「おい、気持ちは分かるがこれ以上ここにいる必要もないしさっさと帰るぞ」
「うーーん、それは分かってるんだけど…………あ」
「なんだ?」
「ねね、凶一郎、ここの空すっごく綺麗だよ」
綺麗?と彼女にならい隣に仰向けになると絶景の星空が見えた。
これはまぁ…………賞賛たる景色だろう、と我ながら感嘆する。
「家の方ではこんなに見えないよね……」
「当たり前だ、明かりが少ない方が輝いて見えるからな」
野山には家屋が少なく自然と星空が綺麗に見える。
彼女は今日頑張って良かった、と微笑むのが何となく感じとられた。
それにしても今日は輝きが多いような……とこの日が7月7日、つまりは七夕である事を思い出した。
七夕か、もう既に短冊は家の方で飾ったな、無論六美関連なのだが、彼女の方とはいえば相変わらず俺のことばかり……と凶一郎は口角を上げる。
そして七夕といえば織姫と彦星であるとつい連想をしてしまう。
織姫と彦星……か、怠けるがあまりに引き裂かれてしまい、年に一度しか会えないという架空の物語。
彼女がもし織姫なら年に一度しか会えないとなったら悲しむだろうな、いやいっそ無理矢理天の川を渡ってくるかもしれんと思わず笑ってしまうと、どうしたの?と彼女が不思議そうにこちらを見つめてきた。
いや、何でもない……と顔を向けて言おうとした凶一郎は思ったよりも彼女との距離が近い事に今更気づいた。
きょとん……と無垢な瞳に視線が吸い込まれる、星空よりも惹かれてしまい、その視線の意図に気づかない彼女はふわり、と表情を綻ばせた。
頬に草が当たる、ちくちくとした触感が走りそれに似た痛みが胸を走った。
ああ、早く帰らなければいけないのに……
もう少しだけ彼女の瞳という空を眺めていたい――――――
そんな風に思った、七夕の夜だった。
[手を繋いで登校しよう]
あれはそう夜桜家の大掃除をしていた時のことだ。
大昔の記録を探し出すついでにいらない物を処分してしまおうと家族総出で片付けをしていた。
中々探し物は見つからない、そんな時――
アイさんが密かに隠されていた小さなアルバムを発見した。
「アルバムだー!!」
「あれ、こんなところに……」
「あっ、ま、待て」
凶一郎の制止は間に合わず六美の手によってその小さなアルバムは広げられた。
そこに映っていたのは…………
「あー!!ちっちゃいお兄ちゃん!!!」
「あきらもいるよ!」
「しかも手繋いでピースしてる!」
「し、しまった…………処分しておくんだった……」
幼少期の凶一郎の写真が纏められたアルバムだった。
肝心の凶一郎といえば見られた事がショックなのかシクシクと泣いている。
そんなに手を繋いでにっこりスマイルピースの写真が嫌なのだろうか…………と太陽は困った笑顔をしていた。
「懐かしいねぇ、これは凶一郎は小学校に行く最初の日の写真だよ」
「二刃姉さん」
「まぁとはいえ入学式の次の日だから最初ってわけじゃあないんだけど……この日もドタバタしていてねぇ……」
昔からほんとあの子は変わらないねぇと二刃は呆れつつも遥か昔を振り返った――――
そう、あれは凶一郎が一人で小学校に行く最初の登校日のことだった。
親としては一人で行くことに何の心配もなく玄関から送り出せるだろうと思っていたのだが………………
微笑ましい我が子の送り出しなど夢かのように玄関先では親子による言い争いが行われていた。
「凶一郎!いい加減にしなさい!」
「やだ!!!!」
凶一郎は母零の言葉を無視する、当然百が諭しても何の意味もない。
一個下の二刃はあとちょっとで実力行使に出るつもりらしくそれを百が何とか止めているところだ。
凶一郎が何に家族を悩ませているかというと…………
「絶対に!六美連れてくもん!」
「凶一郎!小学校に六美は連れていけないのよ、もう何度言ったら分かるの!」
「やだー!!六美と離れたくないー!長時間離れ離れなんてやだ!!六美にずっと俺の膝に座ってもらって授業受けるの!」
ただを捏ねる凶一郎に抱きかかえられた六美は不機嫌MAXだ。
ただでさえ厚かましいのにこれ以上ベタベタされたくないと表情から汲み取れる。
六美は大事な夜桜の次期当主な上にまだ幼児を外に引っ張り出すなんて無謀にも等しい。
それは重々凶一郎も承知のはずなのだが感情が抑えきれず何度言っても言うことを聞かない。
困った…………としかめ面の零の視界に幼い少女が映った、そうあきらである。
「おはようございます、おはよう凶一郎くん」
「おはようあきら…………って膝どうしたの!?!?」
「あ…………転んだ」
そういえば、と大したことじゃないと平然としているあきらだが転び方が悪かったのか白い靴下が真っ赤に染まるくらい出血していた。
「あわわわわ、ば、絆創膏、いや消毒か!?」
「貴方落ち着いて、ちょっとこっちにきて
手当てするから…………いらない?そういう訳にもいかないでしょう」
そんなに騒ぐことじゃないのに……と眉を上げるあきらに凶一郎はいつの間にか無言になってただあきらを見つめていた。
手当ては終わり、靴下も変えてあきらはペコリと頭を下げて礼を言った。
そして一騒動あったのを見ていたのか自分一人で登校しようとしたあきらを凶一郎が引き止めた。
「待って、あきらちゃん」
気がつけば凶一郎の腕には六美は抱かれていなかった、代わりに零が抱きかかえている。
凶一郎はあきらの手を優しく繋いで離れないようにしっかりと手を握った。
「凶一郎くん?」
「俺も一緒にいくよ、これから毎日一緒に登校しよう
毎朝あきらちゃんの家に迎えに行くから」
「……嬉しいけど……何で?」
「転んで欲しくないから、俺が転ばないように見守るよ
何があっても転ばせない」
あきらはいまいち転ばせないように気を使われる理由がわならなかったがつい頷いてしまった。
素直に従うあきらに凶一郎は微笑んだ。
「じゃあ行ってきます」
「行ってきます」
「ちょっと待って!」
零と百が慌てて玄関から出ようとする二人を引き止める。
せっかくだ、どうせならこの場を映像に収めておきたいと零はカメラを構える。
はい、チーズ、と掛け声に凶一郎とあきらは片方の手でピースをした。
そしてその写真が今時を越えて家族の元に晒されたのである。
幼い頃しかもピースをしている姿をみられ恥ずかしいのか凶一郎は項垂れる。
一方あきらは懐かしそうに写真を眺めていた。
「あの頃は毎日手繋いでたんだったけ……思い返すと何か恥ずかしいな…………」
「あれ?今は繋いでないの??」
「え、あ、えっと、こ、子供の時の話だからね!
それに今は転んでないし!ほら!」
わたわたとあきらはせかせかと床を歩いた。
その慌てぶりに凶一郎は嫌な予感が走ったが時既に遅し。
正常心ではないからか、呆気なくすっこんでしまい尻もちをついてしまった。
「転んだー!!」
「きょ、今日のはまぐれだから……ん?」
うった尻を擦っていると目の前に黒い革手袋が差し出される。
当然相手は凶一郎なわけで何をしようとしているのか分かってしまった。
さっきあれほど写真を見られるのを嫌がっていたのにどういう風の吹き回しだろうか。
「お前は相変わらず不器用だな、もっと完璧な俺を見習ったらどうだ?」
「え、えへへ…………面目ない…………手繋いでもいいの?」
「どこで転ぶか分からんからな、仕方がない
ほら、さっさとしろ」
「うん、ありがとう」
控えめに手を乗せるとぐいっと引っ張られてしっかりと手を握られる。
手を繋ぐ、それだけなのに、家族の前だからか妙に緊張してしまってつい赤面をしてしまう。
そんな二人に二刃は、一体どちらが不器用なんだかねぇ……と茶を啜ったのだった。
おはようを言いたい]
※新婚設定
時刻を見ると既に就寝の時間になっていた。
そろそろ寝る時間だ、とはいえ凶一郎は睡眠をとらないので寝間着に着替える必要はないのだが。
隣にいる妻、あきらは当然寝るので寝間着だが、何か言いたそうな雰囲気を見せた後突然凶一郎の前に立った。
「あ、あのね…………お願いしたいことがあるんだけど……」
「別に構わんが、何だ?」
「お、おはようを言いたいの」
「今、夜だが??それに毎朝言っているだろう、急にどうした」
急に素っ頓狂な事を口に出すあきらに凶一郎は困惑した。
おはよう、なんて言わない日はない、まぁ凶一郎が出張で居なかったりする時は省かれるかもだが、意図が掴めず眉を上げる。
「急にこんな事言ってごめんね、でもどうしても……
凶一郎より先に言いたいの」
「そういうことか、なら次の日の朝から……」
「ごめん、そういうことじゃなくて…………
凶一郎って睡眠とらないでしょ?だから自然と先に起きる方が凶一郎になっちゃうっていうか……」
そこで漸く彼女が何をしたいかが理解できた。
なるほど確かにそれでは先ほどの方法では意味がない。
が、かと言って今から睡眠をとるというのは無理だ、この後にも仕事関連の事務作業が待っている。
今までは六美がしていたが、今は別々に暮らしている以上自分でやる他ない。
それに長年染み付いた睡眠と縁がない生活を送っているせいか寝ろと言われても妙に抵抗感が出てしまう。
なので今までは家族が強制的に疲れさせていつの間にか寝ていたというケースが多いのだが。
そこはあきらも承知しているらしく。
「あ、本当に寝てってことじゃないの
それは難しいだろうから……寝てるフリだけしてほしいの」
「………………それなら構わないが、ちょっと待っていろ」
そう言うと凶一郎は服が置いてある部屋に移動したかと思うとわざわざ寝間着に着替えてやってきた。
いつもスーツ姿だから見慣れぬ寝間着姿は中々に新鮮だ。
本人も慣れないのか一応身を通したものの、違和感があるのか脱ぎたそうにしている。
「わざわざ着替えてくれたの?」
「今から寝るフリをするんだろう、ならそれにあった服装をするのが自然というものだ」
「それ、一応お揃いで買ったやつだね、かっこいい」
「お前は何にでも褒めるな…………寝間着だぞ?全く」
あきらは何にでも凶一郎の事をかっこいいと言う、ベタ惚れにも程があるぞ、と凶一郎は苦笑する。
ピシッと決まったスーツではなく寝間着だからだろうか呆れながらもその口元は緩んでいた。
じゃあ早速始めようじゃないか、と寝室に移動してベッドに二人して寝っ転がった。
布団を被り見つめ合うと何ともいえない甘酸っぱさが襲いかかる。
「…………こうして寝間着姿でベッドにいるのは初めてだな、不思議な感じだ」
「そう?」
「そうだろう、だっていつもはこのままじゃないからな」
凶一郎はすっとあきらの寝間着に指を伸ばしてボタンに手をかけるふりをした。
そう、いつもは………………とこのベッドで行われた情事を連想してしまいカッと熱が入る。
でも今日はそういう意味で誘ったわけじゃないのだ、と目を見るとわかってる、と凶一郎はくすりと笑ってボタンから手を離した。
「で、俺はこのまま目を瞑ってればいいのか?」
「うん、それで私がおはようって言うから」
「…………そんなに先に言いたいのか?」
「先に言いたいっていうか…………いつも凶一郎からおはようって言われて……すごく幸せな気持ちになるからお返しをしたくて……」
それは自分がされた場合であってこっちがされてもそう思うかどうかは分からないじゃないか?と過ったがあまりにも幸せに満たされているあきらの顔に黙ってしまった。
そんなに幸福な気持ちになれるのだろうか、15の時に睡眠を卒業して以来誰かにおはようを言われた記憶はない。
そう思案していると近くから気持ちよさそうな寝息が聞こえる事に気づいてパチっと目を開けると。
なんと先に言うと言ったはずのあきらがすやすやと眠っていた。
思わず口を開けて呆然とする、言い出しっぺの本人が先に寝てどうする。
これでは目的通りにいかないじゃないか、とため息をついた。
やれやれと呆れつつ眠っているあきらの頭を優しく撫でた。
さらさらと艷やかで触り心地が良い、するっと指から髪が滑りおちる。
温かい、人の願いを垣間見るだけでこんなに幸福になるとは、と口角を上げた。
「ん…………ん?」
瞼を開いた、開いた?
俺はいつの間に寝ていたのか?と想定以上に平和ボケしてしまっていた甘さに思わず舌打ちしかけた。
時間にしてどれくらいだろうか、数秒?数分?いやどの程度にしろうたた寝をしてしまった事実は消えない。
気を引き締めなければ…………と思った凶一郎に。
「おはよう」
本当にいつの間にか自分よりも先に起きていたあきらからおはようを言われる。
それはまるで陽だまりのような笑みで凶一郎はドキッと胸を弾ませる。
ああ…………これが………………
「……おはよう」
なるほど、これは確かに得難いものだ
