凶一郎夢ツイッターログまとめ
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[妖怪パロ]
薬草を摘みに山に出かけに行ってきた時の事だった。
町医者の娘であるあきらは自ら進んで薬草を探しに行ったりするのだが、よく生えている場所に着きさぁ摘もうと屈んだ時、視界の端に小さい何かがうずくまっていることに気づいた。
ひっそりと堪えるように子ども……だろうか子狐が震えて丸まっている。
子狐はこちらに気づくと小さく威嚇をしてきた、だがあまりにも迫力がないところを見るとどこか怪我をしているのかもしれない。
動物をあまり見たことはないが父なら何とか出来るかもしれないと思って手を伸ばそうとすると思いっきり手を噛まれてしまった。
「っ…………、だい、じょうぶ、怖がらないで……」
血が滴るのも気にせずあきらは子狐を抱きかかえて撫でた。
…………やはり体温が冷たいように感じる。
そろり、とあやすように撫でると子狐の体から力が抜けていった。
やはり足を見ると大きな怪我を負っている、これのせいで巣に帰れなかったのだろう、もしかしたら骨も折れてしまっているかもしれない。
とりあえず固定させなきゃ、と思い髪を結んでいた髪紐を解き子狐の足に巻き付ける。
「大丈夫だよ、お父さんが見てくれるからね……」
齢十歳の少女は安心するように声をかけ続けて帰路についた。
「お父さん、治せる?」
「バカ言え、父さんは人間専門だ
……しかもお前も怪我してどうする」
「ごめんなさい……」
噛まれた手を処置してもらったあきらはしゅん……と落ち込んだ。
「治せる?」
「はぁ…………やれることはやった
後はこいつ次第だが……それよりお前この狐どこで拾った?」
「いつものとこ、◯◯山」
ここら一帯にはある噂話が伝わっている。
それは◯◯山からそう遠くない所に狐の妖が住むという噂話だった。
古くならの伝承であるものの医者である男は半信半疑だったが…………
「いや、まさかな」
「?お父さん、どうしたの?」
「いや、何でもない」
伝承には狐の妖は人間に助けてもらった時にはお礼に結婚させるというくだらない話もあったが、男は脳内から消した。
するとしばらく眠っていた子狐が身を起こした。
「あ!まだ駄目だよ!動いちゃ……」
「こりゃ驚いた、この分なら大丈夫だろう」
「そうなの?ずいぶんと狐は治るのが早いんだね
じゃあ、狐さん、また怪我しちゃ駄目だよ?絶対だよ!!」
ばいばい、と玄関から見送るあきらを子狐はぺこりと頭を下げて暗闇に消えていった。
お父さん見た?さっきの狐さん会釈してたよ、賢いね!と笑う娘に男は一抹の不安が過った。
あれから六年が経ちあきらは十六歳になった。
この頃やたらと見合い話があちこちから設けられあまり興味がないあきらは憂鬱な気分だった。
「結婚……って言ってもなぁ……」
生まれてこの方恋をした事がないので思い切って神頼みをしてみることにした。
どうか、運命の人に出会えますように……!と祈り賽銭箱にお布施をして神社を後にする。
「って言ってもそんな急に現れるわけないよねーわっ!」
ぼんやりと考えていたせいか階段から足を滑らせてしまいぐぎりと足を捻ってしまった。
これでは一人で家に帰ることが出来ないと困っていると上から男の人の声がした。
「足を怪我したのか」
上を見上げるとこの集落で見たことのない男性が立っている。
「えっっっ、は、はい……!!!、お、おかまいなく!」
急に鼓動が跳ね上がって挙動不審になり慌てて去ろうとするも足を捻っているせいでまた転んでしまった。
急にどうしたんだろう、私と同い年くらいの人と会話するなんて初めてじゃないのにと思ったが、それが一目惚れだとは気づかない。
「そのままでは家に帰れないだろう
送って行ってやる」
「ほ、本当ですか……?あ、ありがたいですけど……どうしてこんなに良くしてくださるんですか?」
男性の背中におぶられたあきらは不思議そうに尋ねると男性は昔の礼だ、と言う。
あ、もしかして以前父に……?と聞くとああ、と肯定の返事が返ってきた。
でもこんな人住んでたっけ?と思ったが私が記憶にないだけかもしれない。
幼少期に住んでいて最近になって戻ってきたとか。
それにしてもこの人はえらく身なりがいい、どこかの身分のいい方なんだろうか、……となると当然許嫁の人もいるだろうなと考えると胸がチクリと痛む。
そんなくだらない事をぐるぐると考えているとあっという間に家に着いていた。
下ろしてもらいお礼を言うと男性は懐かしむ様子で笑う。
「全く、昔あれだけ怪我するなと言っておきながら自分が怪我をするとはな、自分の事は対象外なのか?」
昔……?ときょとんと首を傾げていると男性はあきらの家に入ろうとした。
「あ、もしかして父に御用でしたか?」
「ああ、そうだ
とあるモノを貰う為に許可が欲しくてな、一応言っておかないといけないだろう」
許可?とまた疑問を浮かべるあきらを横目に男性は戸を開けた。
「失礼する」
「ん?なんだお前、見ない顔だな」
「お父さん、この人お父さんに用があるんだって」
「……用?何の用だ、小僧」
小僧と呼ばれた男性はふっと笑いあきらの体に手を回す。
そして…………
「お宅の娘を嫁に貰いに来た」
「はぁ!?!?嫁ぇ?!?」
「……………………え、えええー!!!」
唐突に嫁宣言されたあきらは驚いたが、そもそもこの男性が人間ではなく狐の妖怪だとか諸々色んな事で驚愕する羽目になることはまだ知らない…………
[生贄]
※和風パロ、凶一郎が異形の化物設定
退屈で空虚なただ時間が流れるだけの無意味な日々の繰り返し。
あまりに絶大な悪を目の前にして人々は何とか生贄を捧げる事で難を逃れようとし、◯◯と恐れられている怪物は退屈な日々に飽きていた。
そういえばあと十年でまた生贄が捧げられる頃合いか。
耳をすませば生贄がとある名家が毎度娘を用意するらしい。
気まぐれに顔でも見に行ってやるか、と封印が弱まる新月の日怪物は自分の影を屋敷に伸ばしてその生贄とやらの顔を見に行ってみることにした。
どうやらその生贄の娘は屋敷の離れで一人で住まわせられているらしく忍び込むのは容易かった。
……とこっそり顔を見て帰るつもりだったのだが。
「…………誰?」
あっさりバレてしまった。
しかし影のままでは怪物ということがバレてしまう。
そこで怪物は生贄の少女と同じ年くらいの少年に姿を変えて暗闇から出た。
「こんにちは」
挨拶をすると生贄の少女は同じ言葉を返してにこりと笑った。
寝室と思われる部屋を見て怪物は絶句する。
あらとあらゆる部分に呪詛が書かれていて、少女の体を取り囲んでいる。
そう勝手にここから出ないように、おまけに首元にまで呪詛が及んでいた。
それなのに少女はそれが当たり前のようににこやかに微笑んでいる。
手元には齢に似合わない人形があり、あたり一帯にたくさん置かれていた。
この様子を見るともしや自分が初めての人間……ということになるのか……?と思うと本当にそうらしい。
父母はおろか他兄弟や世話人さえもこの離れにはまともに近づかないらしい。
…………本当は顔を見たらすぐ帰るつもりだった。
けれどあまりにも少女が自分と話す表情が嬉しそうに見えてつい長居をしてしまった。
もうすぐ夜が明ける、影を戻さねば……と立ち上がって去ろうとすると少女が声をかけた。
「また……来てくれる?」
「………………」
期待が込められた瞳に怪物はどう返事をすべきか迷って、新月の日にまた来る、と答えていた。
それから新月の度に怪物は生贄の少女の屋敷を訪れるようになった。
こないだは屋敷から外を眺めてたの、とか、季節の事だとか何でもない話題ばかりだったが意外と退屈はしなかった。
でも少女の口から出る話題はいずれも離れから外の景色を眺めることだけだった。
外に出たいのか、と問うと少女は首を横に振った。
「出来ないの、ここに、術がかけられているから」
少女は自身の首元に触れないよう指をさした。
「ここから一歩でも出ると真っ二つになるんですって
……それと……私はイケニエの役だから」
鳥籠の鳥は外では生きられないの、それと同じ、と少女は言う。
少女の体は細かった、満足に食事が与えられていないのかいつも木のようだった。
気まぐれに自然になった実を持ってきてやればそれだけで目を輝かせて嬉しそうに微笑んだ。
………………胸が暖かくなったような、気がした。
退屈な日々は続いていく。
月に一回、心が安らぐような少女とのやりとりは除いて。
気づけば月に一度の逢瀬を繰り返すうち生贄として捧げられる日がやってきた。
少女の成長に合わせて影を調節していた怪物は少女に問う。
逃げないのか、と。
度々逢瀬の度に聞いていた質問に少女は相変わらず首を横に振る、いいえ、と。
「それが私のお役目ですから
逃げる場所も、意思も、私にはありません」
「……………………」
少女は男に化けた怪物とあやとりをしながら変わらぬ答えを言う。
怪物の答えとは言うと…………とうに決まっていた。
生贄として捧げられる前日、少女は騒がしい声に起こされた。
目を見開けば屋敷をナニカが襲っている。
逃げ惑う人々は、何故だ、とか封印が、などと叫びながら血しぶきが舞った。
バチバチと火が爆ぜる中ずるり、と闇の中から異形のナニカが這ってきた。
ナニカはゆっくりと少女に手を伸ばしばちん、と音がした。
気づくと少女にかかっていた呪いは全て消え去っている。
驚いているとナニカは少女の頬を撫でようとして後ずさる。
そして、お前は自由だ、と言うとナニカは再び暗闇の中に消えていった。
我ながらバカな事をしたと思う。
生贄は糧と同じであれがないと生きられないし、それに彼女が請け負っていた呪いを全て引き受けたのだから。
…………もう体は持たないだろう、せめて彼女の前では変化していたかったがその力も残っていない。
これで良かった、彼女が幸せに暮らしている姿が見られないのだけは心残りだったがまぁいいだろう。
後は消えるのみだった怪物の元になんと生贄となる予定だった少女が駆け寄ってきた。
正確にいえば行動が制限されていて走るようになっていなかった体を無理やり動かし死に絶えのような少女に怪物は驚く。
「まっっって、…………く、…………だ、さい」
「お前…………どうしてここに……」
「わたしは…………いけ、にえ、となる道、以外、ないの
です、だから、……食べて…………くだ、さい……」
ふらふらと倒れ込む少女を怪物は慌てて抱き止める。
「…………あたた……かい
あなたは、こんなに……あたかったのですね…………
ずっと……触れてくれなかったから分からなかったけれど……」
愛おしそうに少女は怪物の体を撫でて怪物は少女が最初から自分が人間でないことに気づいていたのだと気づく。
そして…………抱きとめてわかった、彼女の命はもうすぐ消えかかっていることに。
無理もない、あれだけ多くの呪詛を浴びていたのだから。
食べてと懇願する少女に食べない、と言うと少女は何故……と困惑した。
「どうして……ですか、わたし、では、価値が……ありませんか」
「違う、お前が……大切だからだ
……それに俺も長くない、夜が明ける前に朽ちるだろう」
「…………では、せめて最後までお供させてください……」
すり寄る少女に怪物は、馬鹿だな、と呆れたように笑って少女を抱きかかえた。
「そういえば……名は何と申すのですか……?
周りの者に呼ばれている名前は人がつけた名と聞きます」
そういえば名乗っていなかったな、と怪物は本当の名を明かすと少女は本当に嬉しそうに笑って目を閉じた。
…………暗い、湖に二人で一緒に沈む。
光が届かない暗い底の中、幸せそうに笑う少女と怪物が静かに眠りについた。
[てるてる坊主]
ザーザーと外ではしきりに雨が降っている。
その様子をじっと窓から眺めているアイがたまたま通りかかった殺香の視界に入った。
アイはただ雨の降る様子をじっと眺めては時折ため息をつく。
浮かない様子のアイに殺香は優しく微笑んで話しかけた。
「……………………」
「アイさん、どうかされましたか?お外は雨が降ってて遊べませんよ?」
「…………分かってる……でも明日もあめって、てれびのおねーさんが言ってた」
「明日……そういえば明日は幼稚園の運動会と……」
はっと殺香はアイが何故外を憂鬱そうに眺めているのか分かった。
でしたら…………と殺香はごそごそととある一式を取り出す。
「アイさん、一緒にてるてる坊主作りませんか?」
「あれ、アイさん、何作ってるの?」
「てるてる坊主ー!」
殺香とアイが何やら楽しそうに机の上で作っている。
なんだろう?と思いアイに聞くとアイはあきらに笑顔で自身が作ったてるてる坊主を見せる。
顔の部分にはアイの顔と思わしき似顔絵が描いてあった。
「明日ね、ようちえんのうんどうかいがあるんだ
でも明日もあめって言ってたから……」
「それでてるてる坊主作って晴れますように……ってお祈りしてるんだね、よし!私も手伝おう!」
「いいのー!?!?」
ぴょんぴょん、とアイは跳ねて喜ぶせいか机が揺れ落ちそうになったてるてる坊主を慌ててキャッチする。
この顔は…………
「太陽?」
「うん!太陽!六美のもあるよ!!」
アイは各々の家族のてるてる坊主を作っていたようだった。
そして机の上に置いてあるてるてる坊主の中にはかつてのミズキ達タンポポのメンバーを模したものもあった。
彼女は今でも大事に大事にずっと大切に思っている。
変わらぬ気持ちに微笑むと笑顔で見せていたアイが浮かぬ表情に変わった。
「でもてるてる坊主……いみあるのかな」
「アイさん……でも運動会もし明日だめでも別の日に……」
「明日じゃないとだめなの!」
アイはてるてる坊主を握り俯く。
どうして明日ではないと駄目なのか、その理由が分からなかったがはっと殺香が気づいた。
「そういえば太陽様と六美様が見に行くとおっしゃってましたわ、アイさん、二人に頑張った練習のせいかを見せたいから明日でないといけないんですわね?」
そう問うとアイはコクリと頷く。
「アイさんれんしゅういっぱいがんばった
……だから太陽と六美に見てもらいたいの!」
なんとしても晴れて欲しい……アイの熱意にうんうん、と頷いていると…………
「その話聞かせてもらったぜ!」
「何か面白いことやってんじゃん」
「てるてる坊主?懐かしいね」
「こどもの頃皆で作ったよね、でも今の俺だったら紙破けちゃうかも……」
「大丈夫だよ、辛三兄ちゃん、材料はたくさんあるって」
ぞろぞろと妹弟が居間に入ってきて、アイと共にてるてる坊主を作り始めた。
「いいか、アイさん
天気予報つーのは色んなサイトで結果が違うんだ」
「………………ん……と?」
「あーーつまりだな、アイさんが雨と思っていても晴れの可能性ってこともある、あたしの読みじゃ……運動会が始まる頃には晴れるかもな」
「ほんと!?!?」
そこに太陽と六美も加わり、各々が作ったてるてる坊主が居間に吊るされる、中々に盛大な場となった。
明日晴れるといいねと皆で笑い、居間は静かになった。
シン……と静けさの中暗闇をぬい、太陽を模したてるてる坊主に手がかかった所でぱっと灯りがついた。
「凶一郎、ダメだよいたずらしちゃ」
「……あきら」
忠告された凶一郎は手をはなし、もう片方の手で持っていたマーカーペンを懐に閉まった。
おおかた落書きするか、した後六美から引き離そうとしたんだろう。
「お疲れ様、凶一郎」
「なぜ止めた、悪戯くらいいいだろう」
「ダメ、今回は特に、だってアイさん頑張って作ってたから」
その気持ちを無碍には出来ないというあきらに凶一郎はそれなら仕方が無いなと納得したようだ。
と、自分は加わっていないのに六美のてるてる坊主の隣には凶一郎を模した同様の物がつり下げられていた。
誰が作ったのか……まあ言わずともわかると凶一郎は隣でにこにこ微笑むあきらを横見る。
「いなかったけど凶一郎の分も作っちゃった、あ、ちゃんと六美ちゃんの隣にしたよ!」
「……ありがとう、でお前はどこにいるんだ?」
凶一郎の隣には二刃と思わしきてるてる坊主がある、そう問うと彼女は遠くを指した。
順番に妹弟、そして殺香、アイと続き……その横かと思いきやそれよりも距離を離して隅っこに鎮座していた。
……そんな隅っこでいいのか、たぶんそこでいいのだと思っているのだろうが……
相も変わらず控えめな彼女にため息をついて、凶一郎は彼女を模したてるてる坊主を手に取った。
彼女は不安げに手元のてるてる坊主を眺めている、大方一緒の空間にも居ちゃいけないのかな?と思っているに違いない。
そんな不安を消すように凶一郎はさらっと彼女を模したてるてる坊主を自分の隣につり下げた。
これでよし、と手を離すと彼女は戸惑っていた。
「あ、あの凶一郎……」
「ああ、勝手に動かして悪かったな、だがお前の居場所はそこじゃないだろう」
お前の場所は俺の隣だ、そう言うと彼女は戸惑いつつも嬉しそうに頬を緩める。
いいのかな、隣で……と控えめに自ずと距離をとろうとする彼女の体を引き寄せた。
ぴったりと密着する二つのてるてる坊主の下で。
同じように肩を並べた二つの影が出来た。
[微睡む中で君に甘えたい]
※新婚設定
「おい、いい加減起きろ」
「ん………………」
起きる気配のない妻に凶一郎はため息をついた。
梅雨のせいか久しぶりの休日のせいかベッドから起きてこようとしない。
まぁ別にこのままぐだぐだと過ごしてもいいのだが…………
ここは一つ彼女を揺さぶる言葉でもかけて起こさせよう。
「起きないと……キスするぞ」
「……………………」
珍しい、以前ならぱっと起きてきたのに今日は聞こえないと寝た振りをしてまで目を閉じている。
しょうがないな……と唇を寄せて…………キスするかと思いきや凶一郎は寸前のところで止まり踵を返した。
「ええっ!?!?」
たぬき寝入りをしていた彼女はあろうことか途中でやめたことに驚いて勢いよく身を起こした。
「な、なんで途中でやめて……」
「起きているのにする必要はないだろう、それともなんだ?そんなに俺とキスがしたかったのか?」
ん?と顎を持ち上げて口角を上げる。
いつもの如く照れ屋の彼女が赤面し押し黙るのを待っていると、赤面したのは予想と同じくだったがそれ以降の反応は異なっていた。
「…………うん、したかった」
「なっ………………」
おかしい、そんな事を彼女が言うはずがない。
だって彼女は照れ屋であまり甘えるような事は言わない。
予想と違う反応に凶一郎は戸惑い、鼓動が跳ね上がる。
どうしたんだ……?と思いつつ問いかける。
「…………どうした、お前らしくないな
そんな真っ正直にキス……したいなんて言うなんて」
「………………駄目?甘えちゃ……」
「…………いや、別に……嫌というわけではないが……」
らしからぬ構って攻撃に凶一郎は卒倒しそうだった。
結婚してから甘えるようのなったのは凶一郎の方でむしろ彼女の方が心臓が持たないと言っていたのに……
ベッドに座りこちらにしがみついてくる彼女の頭をそっと撫でると嬉しそうに微笑んだ。
………………こうなってくるともう俺の方も無理やり起こす気になれないというものだ。
押し倒してから唇を重ねて、これで満足……とはいかない、彼女も俺も。
「………………いいのか?今日ずっとベッドのままで」
と言うものの凶一郎はもう彼女を起こす気はなくなってしまった。
そんな思いを汲み取るかのように彼女は自ら手をするりと重ねて蕩けた表情で煽った。
「今日は…………くっついてたいな……」
「っ、…………いいだろう、お望みどおり…………」
繋いでいてやると凶一郎は再び唇を重ねた。
[8番出口パロ夢主の場合(死ネタ)]
彼の姿を見たその時、思わず目を疑った。
その姿は先週亡くなったはずの婚約者、凶一郎だった。
亡くなってから葬式の日取りが決まり、先日火葬場で骨だけとなったその時に漸く彼はこの世にいないのだと思い知らされて。
それまでぼろぼろに傷ついた気持ちの線がぷつり、と切れていつの間にか屋敷を飛び出していた。
呆然と辺りを彷徨っていると気がつくと見知らぬ場所にたどり着いていた。
見た目は地下鉄の通路みたいな道が延々と続いている。
最初は気づかずにどこかの駅に来てしまったのかと、目印の出口の案内所に従って歩いてしばらく、異変に気づいた。
案内所には出口〇と数字が書いてあるのだが、その数字が増えたり、0になったり……とする。
出口8…………と案内が出ているはずなのに数字はデタラメで夢を見ているのかと勘違いしたはずくらいだ。
それが漸くとある共通点を発見し納得に至る。
一つ、時々微々たる変化だがどこかに掲示板などさきほどは見かけなかった変化があることがあった。
それを発見しそのまま進むと数字が0になり、引き返すと数字が1個増える…………つまりはこの数字が8になった時には外に出られるかもしれない。
そして今は数字が8…………あと少しで外に出られるというその時に。
彼と出会ってしまった、亡くなったはずの凶一郎に。
引き返さなくてはならない、そうじゃないと元の世界に帰れない、家族の元に帰れない。
そう分かっているはずなのに私の足は動かない、動けなかった。
だって、だって、元の世界にはもう彼はいない。
引き返しても、もう二度と彼に会えることはない。
「………………あきら」
やめて、その名を呼ばないで。
封じていた記憶が甦る、彼の声、顔、全てが今までの思い出を開け放る。
「どうして泣く?」
ぐしゃぐしゃの顔で泣きじゃくる私の顔を彼の偽物は優しく撫でて涙を拭った。
引き返さなきゃと警告を発しているのに気づけば彼に抱きついていた。
そう、戻っても彼はいない。もう名前を呼んでくれないのだ。
それならもうここで、偽物でもいいから一緒にいたい、そう願ってしまった。
くん、とスーツに鼻を埋めてああ、彼の匂いだ…………と顔が綻ぶ。
「お願い…………消えないで…………」
「…………ずっとここを彷徨う羽目になってもか?」
「いいよ、それでもいい…………」
きっとこの空間を作ったものにとっては思惑通りなのだろう、ここを彷徨い人間でなくなってもそれでも構わなかった。
ぎゅっと抱きしめられながらそう…………思った――――
この奇妙な世界で彼と一緒に居られる…………のなら。
[8番出口パロ凶一郎の場合(死ネタ)]
「凶一郎」
「………………なんだ、お前は」
「私だよ?あきらだよ?」
「…………お前はあきらじゃない………………あいつは…………」
死んだ、そう、呆気なくあの世に逝ってしまった。
もう二度と手を伸ばしても届かない場所に。
だから今目の前にいる奴は偽物だ、と吐き捨てて踵を返した。
ここから帰らないと、六美達が待っている。
家族が、待っている………………帰らないといけない。
だから、どうしようもなく焦がれているあいつに会ったとしても見捨てなくてはいけないんだ。
もう思いは断ち切らないと、捨てないと、忘れないといけないのだから。
そう思って立ち去ろうとした凶一郎の背中に追い打ちがかかった。
「待って…………!凶一郎……!」
聞こえないふりをした。
「やっと会えたのに……!寂しかったのに!凶一郎は……!寂しくないの!?」
泣きじゃくる声がする、寂しいに決まっている。
今だって振り返りたい気持ちでいっぱいだ、必死に消えろと考えながら足を動かして。
あいつはあきらじゃない、寂しがり屋なあいつなら言いそうだがこれは俺が生んだ幻想に過ぎない。
だから、聞こえないフリをしないと。
「やだ……!っ、置いてかないで……!」
「っ、」
胸がズキズキと痛む。
血が流れているはずはないのに、ガラスが突き刺さったような、感覚がした。
それでも凶一郎は歩みを止めない。
血反吐を吐く思いで体を引きずり前へと進む。
あきらは追いかけてこず、前かがみになってぽつりと呟いた。
「お願いだから…………1人にしないで………………」
気がつくと階段の一番上に立っていた。
さくりと一方進み後ろを振り返るともう階段はない。
無事に脱出出来たようだ…………と安堵のあまり脱力してその場に座り込む。
『お願いだから…………1人にしないで………………』
先ほどの偽物のあきらの声が延々と脳内で木霊する。
はっ、と短く薄ら笑いのような呆れたような、息をついて。
「1人にしたのはお前の方だろう」
一生癒えない傷をつけられたな、と地面に水滴が一粒、落ちた。
