夜桜凶一郎R夢まとめ
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「見合いをしろ????」
休日に家で過ごしていた凶一郎はそう六美から言われて眉間に皺を寄せる。
唐突になんだ、見合いなんて。
今の凶一郎からは程遠い言葉である、というか当主とはいえ見合いをしろなんて命令をされるとは全くもって予想していなく不快と共に信じがたい目をする。
旦とのしがらみがなくなりやっと夜桜家に平和が訪れた。
それからしばらく経ち六美の愛しい遺伝子を引き継いだ子が生まれたと思ったら見合いという問題が降ってかかった。
しかも話を切り出したのがスパイ界隈の小うるさい年寄りではなく最愛の六美からだというから驚きだ。
まずは話を聞くべく再度六美に問いかけた。
「六美、急にどうした
お兄ちゃんは結婚する気なんてないぞ」
「それが、問題なのよ」
「??何が問題なんだ?」
全く持って意図が読めないと凶一郎は両手を上に上げクエスチョンマークを浮かべる。
結婚のけの字も意識していない凶一郎に六美はため息をついた。
このご時世だ、必ずしも結婚する必要はないし凶一郎がそもそも結婚を望んでいなさそうのも分かっている。
分かっているが…………!!このシスコンで六美の子供にもベタベタの凶一郎がずっと…………この家にいてこれが未来永劫続くかと思うと末恐ろしい。
恐らく結婚したとしてもこれは収まらないような気がするがもし凶一郎と気が合う人がいるのなら喜ばしいことだろう。
なので何も行動を起こさないよりかは見合いなり婚活パーティーに行って本当に気が合う人が居ないのか確かめて貰いたいのだ。
もしかすると凶一郎にとって苦であるかもしれないしこの話をするのは躊躇ったのだが……
「そもそもお兄ちゃんが結婚したいか分からないのに勝手に話進めて本当に申し訳ないと思ってるんだけど……」
「…………まぁ縁があればしても構わないとは思っているが」
「え!?本当!?え、どういう人とどういう結婚生活したいかとかあるの!?」
目を爛々と輝かせて兄に問う六美だったが、彼の返答を聞いて聞くんじゃ無かったと後悔することになる。
結婚生活な…………と凶一郎は顎に手を置いてもし結婚したら…………と生活を想像してみた。
幸せな結婚生活、か……………………
『はい、あーーん』
愛おしい存在が自分にスプーンを差し向ける様子が見える。
そしてそのスプーンを自分は幸せそうに頬を緩めて口を開けて…………美味しそうにもぐもぐと咀嚼する。
『美味しい?お兄ちゃん』
『ああ、おいしいぞ、六美、流石は六実の作った愛の籠もった手料理だ♡』
おかしい、明らかにおかしい、と六実は凶一郎の妄想に待ったをかけた。
「ちょっと待って、その相手って私!?!?私お兄ちゃんと結婚したくないんだけど!!!!」
「落ち着け六実、別に何も六美と結婚するとは一言も言っていない
別の誰かと結婚した上で…………六美の手料理を六美にあーん、してもらいたいだけだ!!!!」
「キモい!!!!!」
全身で嫌がる六美に凶一郎はショックをうけ項垂れた。
こんな様子では無理に進めたとて…………良い結果は得られないだろう。
「まぁまぁ六美、無理に話を進めなくてもいいんじゃないか?」
「太陽」
「ほら凶一郎兄さんも乗り気じゃないし……第一相手が見つかるかも分からないのに」
それは凶一郎が好む相手がいるか分からないという意味だったのだが凶一郎はその言いにカチンと頭に来た。
というか太陽が何を言っても感に触ったのかもしれないが、むすっと顔を歪ませて高々と宣言するべく椅子から勢いよく立ち上がった。
「良いだろう…………嫁の一つや二つ!!!捕まえてこよう!!!!」
まるで釣りをするかなような言い分だ。
そんな凶一郎にあるふぁは淡々と『叔父ちゃん、日本では重婚は出来ないんだよ』と突っ込んだのだった。
こうして結婚する相手を探すべく行動し始めた凶一郎は手始めに結婚相談所に向かった。
勿論スパイ専門でやはり結婚するなら同業者だ。
お互い忙しくなる為以外と破局率は低くなかったりするのだが、かといって夜桜家の立場上一般人は中々に難しい。
予約していた夜桜だ、と受付で言うと部内がざわめいた。
本当に夜桜凶一郎が来たと噂になっていたらしい、やれやれとため息をつく。
ほどなくして担当者がきてにこにこと凶一郎を出迎えた。
「本日はようこそおいでくださいました、夜桜様
結婚相手を探している…………というのは本気ですか?」
「ああ、仕事かつ私生活において一緒に過ごせる相手が見つかればと思っています」
「はいはい、ではご希望のご条件、を…………拝見…………」
あらかじめ記入した結婚相手の希望条件を書いた紙を提出したのか担当者の男は固まっている。
なにかおかしなことでも書いてあったのだろうかと首を捻る。
至極当たり前に条件を書いただけなのに、担当者は俺が異常者みたいな顔で見てくる。
「………………ここに書いてあるのは真実ですか?嘘偽りはございませんか?」
「ありません、何かありましたか」
「………………」
希望条件には細かく条件が書いてあり……その内容は
まず仕事やスパイのランクについては特に高条件は見られなかった、家族の中にシルバーランクがいることが関係しているのだろう。
仕事というよりかは私生活において相性が良い相手を探しているらしい。
そして実家からは出る気はないので各々家族と同居しても可能な方…………と、まぁここら辺は生活する上で外せないだろうし実際に視野に入れる方も多い。
が何より一変した内容はここであった。
『好きな女性のタイプ:可憐で清楚で髪に白のポイントカラーが入った6月生まれの人型の女性』
もしかして結婚相談所には妹をお探しで?と問いたくなるほど具体的でかつまずドン引きされる内容だろう。
担当者は凶一郎にここの記載を変えるよう求めたが…………本人はどこが問題なのか全く意識しておらず嫌だ、と拒否した。
ということで。
「出ていけっ!!!!!!!!」
先ほどまでの営業スマイルが嘘のように鬼の形相の如く怒った担当者は結婚相談所から凶一郎を追い出した…………
当然凶一郎が易易と追い出される男ではないのだがお前にふさわしい相手はいないと叩きつけられたのも同然で凶一郎は納得いかない表情で後にした。
しかしここで引く男ではない、結婚相談所で紹介してもらえないのならまた別で探せばいい。
まだスパイ向けの婚活はある………………
その一つがお見合いパーティーだ、スパイ向けと書かれているが形式は変わらない。
順々に数分ずつ会話をしていて最終的に連絡先を交換したい相手がいたらアプローチするという感じだ。
先ほどは門前払いされたようなものだがここではきっと引く手あまてだろう。
なんせ自慢ではないが自分は女性スパイが選ぶ狙われたいスパイNo.1の常連だ。
と同時にアンチは多い方だが女性にモテた人生を送ってきた。
きっとこの場に夜桜凶一郎が来た…………と女性方が知ったらきっとこの場は戦争になるかもしれない、ある意味罪だな…………と苦笑する。
と開始早々勝ち誇った笑みを浮かべていた凶一郎だったが家に帰宅した凶一郎の顔は苛立ちMAXだった。
よほど上手くいなかったのだな…………と誰も今日どうだった??とは聞かなかったが、当然彼のシスコンぶりが悪さをしているのは予想がつくことで。
その予想通り……………………凶一郎は今日もいつも通りに口調だけは丁寧だが性格を偽ることなく接していた。
当初女性陣は皆、会った瞬間には『え!?あの夜桜凶一郎!?!?ホンモノ!?!?やだ!!!絶対射止める!!!』と意気込んでいたものの…………会話を進めるうちに段々と熱が冷めていき最終的には侮蔑に似た視線を向けるようになった。
それもこれも全て凶一郎の言動が原因である。
凶一郎はどの相手の時にも必ず六美に関する話を入れる。
その話しぶりそして凶一郎のシスコンぶりにどの相手もついていけないと『価値ナシ』に票を入れ全ての人と会話し終わった凶一郎の元には誰も希望者が集らなかった。
そう…………憧れや一方的なあれそれならともかく一生を共にするかもしれない相手の条件に凶一郎はとにかくシスコンが足を引っ張っていた――――
かといって凶一郎はだったらシスコンをやめるというか癖でもないし長年染み付いた性格みたいなもので直す気はさらさらない。
だったら一生独身のままでもいいのである。
と思いつつも凶一郎は最近巷で流行りというマッチングアプリを試してみることにした。
これなら自分からもアプローチすることができるしまず初回でお断りということもないだろう。
とりあえず自分のプロフィールを書き、条件に『全てにおいて妹を優先しても文句を言わない人』と付け加えた。
これがないと後々めんどうな事になる、私も六美どっちが大切なの!?!?と聞かれたら無論六美と答えるからだ。
これを許容できる人でないと結婚は難しいだろう…………
さて誰かしら見ているだろうし連絡を待っていた凶一郎だったが何日経っても何もアクションは無かった。
一言すら無かったのである…………………………
プロフィールが問題なのは勿論、あの夜桜凶一郎がマッチングアプリに登録するのはあり得ないと偽物だろうと思われていることは本人は知らず予想以上に結婚への道のりが険しい事を悟った――――
「…………婚活とは中々に難しいものだな…………」
「ってしみじみ語ってんじゃねーよ、どう見てもキモいシスコンぶりが原因じゃねぇか、さっさと妹離れしろ」
「やだ!!!!!一生六美と暮らす!!!!もう別居は嫌だ!!!!」
「別居って言うな、一人暮らしの間違いだろ
どさくさに紛れて結婚してることにすんな」
「やれやれ、困ったねぇ」
床でバタバタ暴れる凶一郎に妹弟は勿論のこと、甥っ子姪っ子のあるふぁ、ひふみはどうしようもないろくでもない大人…………と冷めた視線で叔父を見つめている。
なおまだ赤ん坊だからか気にしない性分なのか新しい六美と太陽の子供、九十九は意に介さず宙に浮いていた。
もしやすると九十九はある意味自分を受け入れてくれるのでは……?と考えが過った時滅多に怒らない太陽からの鋭い視線が突き刺さった。
「凶一郎兄さん、それだけは許しませんからね」
「ちっ………………分かってる、流石に年が離れてる者に手を出すほど落ちぶれてはいない」
だが凶一郎は婚活を今後どう進めたら良いのか分からなくてなっていた。
自分を受けて入れてくれてかつ自分も相手の事を好意的に思える女性………………とんだ夢物語だ。
そもそも六美以外でという考えに至ったことがないしこれまで出会ったことがない。
………………出会っていないだけなのだろうか、そんな人存在しないんじゃないか、とつい思ってしまう。
けれど妹の思いには応えたい、それにもし、もしも。
本当に誰か他に大切に思えるような存在ができたらそれはそれで幸せなことだと思う。
はぁ、とため息をつくとそっと手に六美の手が添えられた。
「お兄ちゃん」
「六美…………」
「急にあんなこと言ってごめんね、私軽い気持ちで…………」
「…………」
予想以上に困難を極めるとは思っていなかったのか六美は後悔の目をしている。
今更ながらに謝る妹に凶一郎はさっきまで鬱々していたのが嘘のように笑みが戻っていた。
「何、まだこれからだ」
このくらいで根を上げてたまるかと妹の為にも凶一郎はもう少し頑張ることにした。
何回侮蔑の視線を向けられようとも様々な方法を試しもう一度婚活パーティーに訪れたその日、凶一郎は出会った。
やはり上手くいかず内心ブツブツ文句を言う。
知りもしない相手と会話をするのにうんざりとしてきた、未婚のスパイなんぞこの世にごまんといる。
そもそも少しやり取りをしたくらいで相性が良いとか分かるのか??とため息をつきかけてた時、次の女性が腰掛けて凶一郎は口をつぐみため息を飲み込む。
次の相手は…………とあるスパイ一家の長女か、夜桜ほどではないが由緒正しき家だ、齢は俺と同い年。
挨拶を交わすと彼女は自分の顔を見て驚く、既に何回も見た反応だ。
「えっ、あ、あの、夜桜さんですか??」
「ああ、本人だ、確認するか?」
「あっ、いえ…………」
こいつも俺のファン?とやらか?ふん、どうせ皆呆れていなくなるんだ、どいつもこいつもきっと同じだと希望を手放しつつある凶一郎にあの…………と彼女が話しかけてきた。
「夜桜六美さんのお兄様…………であってましたよね?確か」
「………………なぜそこで六美の名前が出てくる」
いやまぁ六美も業界の中で有名だ、悪い意味でだが。
少し警戒しかけた凶一郎に彼女はやっぱり!と笑顔で喜ぶ。
「私妹さんの個展にお邪魔させてもらったことがあるんです」
「!!ほう…………」
個展、そういえば今年開いていたな。
六美は趣味兼ストレス発散に絵を描いている。
その枚数が溜まった為せっかくなら展示しようと凶一郎が企画を立てて、業界の有識者に招待をかけたのだ。
そういえばこの家の者に送っていたな…………と思い出した。
彼女は六美の描いた絵が素晴らしかったと述べた、家族の絵が多く、景色等の絵もあって描いた六美の心の優しさが表れている…………とか色々とにかく褒めていた。
「………………!そうだろう!!六美は絵を描くのが好きでな…………」
つい嬉しくなって凶一郎は絵のことだけでなく、六美との思い出をぺらぺらと機嫌よく語りだした。
ああこうしていても幼き日の思い出が昨日のことのように蘇る、記憶はいつまでも色が褪せることなく胸に残っていて。
何年経っても俺はきっと六美の事を愛するだろう。
凶一郎はとにかく一方的に六美の事を話した、その時には相手の顔が目に入っておらずどう思うかなんて今までの経験上分かっているのにやめられない。
やがて交代の合図がなり凶一郎ははっと我に返った。
「もう、交代か、俺はペラペラと…………」
しまった、またやってしまった…………と後悔しかけていや、後悔も何も俺は別に変える気などないしどうせこいつも冷めた目で見るのだろうから意味がない…………と思ったその時。
「夜桜さん」
と柔らかな声をかけられ前を向くと彼女は変わらず笑みを浮かべていた。
「妹さんのお話聞けてよかったです、また今度聞かせてください」
「え………………」
にこにこと彼女は気にしていないと変わらず笑みを向ける。
その笑顔に、少しも引く素振りも見せずに。
しかとまた、聞かせてくださいなんて、殺し文句までつけて。
遅れながらもああ、と肯定すると彼女は嬉しそうに目尻を下げた。
ほん、とうに…………?今の話を聴いて退屈も引きもしなかったのだと??言っているのだろうか…………と別の参加者の元に向かった彼女の背中に凶一郎は初めて交換希望したいと願った――――
パーティー終了後、凶一郎は先ほど会話した彼女を探した。
けれど会場のどこにも見当たらず係員に聞いてみると、用ができたので帰ってしまったと言われてしまった。
………………やはり、やり取りがいけなかったのだろうか?それが原因で気分を悪くし帰宅した…………とか…………と悪い考えが巡ってしまう。
そんなわけで今日も凶一郎は特に進展が起こらず家に帰宅した。
家族はまさかそんな出来事があったなんて知らず好意を持てる人はいなかったのだろうと察していた。
それ自体は別にいい、連絡先を交換できたかったのだからいないのも同然だ。
けれど凶一郎はやはり今日の一件が気にかかっていた。
それはつまりあの女性に好意を抱いているかで。
そうと思うのと同時にそれは彼女が俺の話を屈託もなく優しく受け止めてくれたからだと理性が否定する。
誰しも快く話を聞いてくれれば誰だって好きになるだろう、それと同じだ。
だからきっとカウンセラーとかで同じ様な事をしたら同一の事象が起きるはずなのだ。
それに俺は彼女の事を知らない、あの日、あの時ほんの少し、やり取りをしただけで好きだとかわかるはずもない。
それは向こうも同じはずだ、そりゃあ名前だけは知っているだろう。
でも凶一郎自身がどういう性格でとか情報だけでは全貌は掴めない。
と、色々理由をつけて言い訳するが湧き上がるのはもっと彼女の事を知りたいという思いだった――――
踏ん切りがつかないまま1週間が過ぎた、相手はそれなりに知名度がある人だ、会いにいけばすぐに会える。
だが会いにいってもし、あれは演技で貴方なんて恋愛対象にならないわ、なんて言われたら…………と不安が過ぎり足が止まってしまう。
仕事もしていても頭に霞がかかったような状態で家族からひとまず今日はのんびりしろ、と強制的に休まされたが家でクラシックを聴いていても。
俺はクラシックが好きだが彼女は音楽を聴く趣味はあるのだろうかと思考を巡らせてしまうので気分転換に街にでかけることにした。
ぼんやりと歩いていると何と情けないことに曲がり角に人がいることに気づかずぶつかってしまった。
おまけにぶつかった相手が飲み物を持っていたせいでお気に入りコートが思いっきり汚れてしまった。
ついていない、いやスパイにも関わらず呆けていた自分が悪いのだが…………向こうも向こうだと相手に文句を言おうとしてその顔を見た瞬間凶一郎は固まってしまった。
「すみません!すみません!弁償しますの、で…………
あれ??よざくら…………さん?」
ぺこぺこ謝りながらハンカチで汚れた液体を拭おうとしている人はまさしく会いたいと願った婚活パーティーで会話した彼女だった――――
「本当にすみません、せっかくのお召し物汚してしまって…………」
「いや、洗えばどうにかなる、ちょうど近くにクリーニングもあったしな」
「…………あの…………クリーニング本当に払わなくてよいのですか?それにこれがお詫びだなんて……」
「構わん、俺も不注意があったわけだしな」
近くのガオンモールにて上着を洗濯に出した凶一郎は彼女をカフェに誘った。
元々飲み物をかけてしまったのは私のほうだし……と彼女は素直に頷き凶一郎の誘いにのった。
お互い飲み物を口に含んだところで凶一郎は勇気を出してこないだの婚活パーティーについて話題を切り出した。
「ちょうど1週間前か、最後の方に姿が見えなかったが何か急用でも?」
「あ、そうなんです……急に任務入っちゃって……」
「それは仕方がないな」
「はい…………」
と話題が終了してしまう、任務の為だったのは分かって良かった。
けれど俺は何のために誘ったんだ、彼女を良く知るためだろう……!と心に問いかける。
と彼女が口を開いた。
「あの夜桜さんは何故婚活パーティーに……?」
「………………行ったらいけないか?」
「い、いえ!!そんなことは!ただあまり恋愛についての噂を聞かなかったので意外だなぁ…………と」
「………………恥ずかしい話だがその通りだ、生まれてこの方28年一度も浮いた話はない
だからなんだが家族から結婚を勧められてな…………」
「あ!私もです!やっぱりス……じゃない、職業柄どうも仕事ばっかりなっちゃって…………無理矢理勧められて行ったんです、同じですね」
私たち同じですね、と微笑まれ凶一郎はいつの間にか口角を上げて、ああと頷いていた。
それから彼女も結婚に具体的なイメージが浮かんでいないこと、どういう人も結婚したらいいのだろうと悩んでいたと打ち明けられ凶一郎は意を決してスマホを取り出した。
「………………これは??」
「…………あの日貴方が会場に残っていたら渡そうと思っていたプライベート用電話番号だ」
「えっ!?!?」
「ああ、すまない、別のやり取り形式の方がいいか?」
「そ、そういうことではなくて……!」
彼女はわたわたと凶一郎のスマホを裏に向けた。
そんなに軽率に渡すものじゃないですよ……!と言われたが凶一郎は引かなかった。
「……俺も正直好意だとか相性とかは良くわからない
数分話した程度でわかるはずもないからな」
「じゃ、じゃあなんで…………」
「………………端的に言うと貴方の事がもっと知りたいんだ、そして俺の事も知って欲しい」
凶一郎はそっと彼女の手に重ねた。
それはもうある意味プロポーズに近い言葉だった。
深く知って絶望する事もあるだろう、けれど………………
凶一郎は予感していた、そんなことにはならないと胸の鼓動が語っている。
期待と不安が混ぜこぜになった凶一郎の視線に彼女は…………
「私も夜桜さんの事を知りたいと思ってました」
そう言って笑う彼女に凶一郎も笑みを浮かべた。
まだ蕾にもならない若芽だけれどいつかきっと花を咲かすことだろう――――
休日に家で過ごしていた凶一郎はそう六美から言われて眉間に皺を寄せる。
唐突になんだ、見合いなんて。
今の凶一郎からは程遠い言葉である、というか当主とはいえ見合いをしろなんて命令をされるとは全くもって予想していなく不快と共に信じがたい目をする。
旦とのしがらみがなくなりやっと夜桜家に平和が訪れた。
それからしばらく経ち六美の愛しい遺伝子を引き継いだ子が生まれたと思ったら見合いという問題が降ってかかった。
しかも話を切り出したのがスパイ界隈の小うるさい年寄りではなく最愛の六美からだというから驚きだ。
まずは話を聞くべく再度六美に問いかけた。
「六美、急にどうした
お兄ちゃんは結婚する気なんてないぞ」
「それが、問題なのよ」
「??何が問題なんだ?」
全く持って意図が読めないと凶一郎は両手を上に上げクエスチョンマークを浮かべる。
結婚のけの字も意識していない凶一郎に六美はため息をついた。
このご時世だ、必ずしも結婚する必要はないし凶一郎がそもそも結婚を望んでいなさそうのも分かっている。
分かっているが…………!!このシスコンで六美の子供にもベタベタの凶一郎がずっと…………この家にいてこれが未来永劫続くかと思うと末恐ろしい。
恐らく結婚したとしてもこれは収まらないような気がするがもし凶一郎と気が合う人がいるのなら喜ばしいことだろう。
なので何も行動を起こさないよりかは見合いなり婚活パーティーに行って本当に気が合う人が居ないのか確かめて貰いたいのだ。
もしかすると凶一郎にとって苦であるかもしれないしこの話をするのは躊躇ったのだが……
「そもそもお兄ちゃんが結婚したいか分からないのに勝手に話進めて本当に申し訳ないと思ってるんだけど……」
「…………まぁ縁があればしても構わないとは思っているが」
「え!?本当!?え、どういう人とどういう結婚生活したいかとかあるの!?」
目を爛々と輝かせて兄に問う六美だったが、彼の返答を聞いて聞くんじゃ無かったと後悔することになる。
結婚生活な…………と凶一郎は顎に手を置いてもし結婚したら…………と生活を想像してみた。
幸せな結婚生活、か……………………
『はい、あーーん』
愛おしい存在が自分にスプーンを差し向ける様子が見える。
そしてそのスプーンを自分は幸せそうに頬を緩めて口を開けて…………美味しそうにもぐもぐと咀嚼する。
『美味しい?お兄ちゃん』
『ああ、おいしいぞ、六美、流石は六実の作った愛の籠もった手料理だ♡』
おかしい、明らかにおかしい、と六実は凶一郎の妄想に待ったをかけた。
「ちょっと待って、その相手って私!?!?私お兄ちゃんと結婚したくないんだけど!!!!」
「落ち着け六実、別に何も六美と結婚するとは一言も言っていない
別の誰かと結婚した上で…………六美の手料理を六美にあーん、してもらいたいだけだ!!!!」
「キモい!!!!!」
全身で嫌がる六美に凶一郎はショックをうけ項垂れた。
こんな様子では無理に進めたとて…………良い結果は得られないだろう。
「まぁまぁ六美、無理に話を進めなくてもいいんじゃないか?」
「太陽」
「ほら凶一郎兄さんも乗り気じゃないし……第一相手が見つかるかも分からないのに」
それは凶一郎が好む相手がいるか分からないという意味だったのだが凶一郎はその言いにカチンと頭に来た。
というか太陽が何を言っても感に触ったのかもしれないが、むすっと顔を歪ませて高々と宣言するべく椅子から勢いよく立ち上がった。
「良いだろう…………嫁の一つや二つ!!!捕まえてこよう!!!!」
まるで釣りをするかなような言い分だ。
そんな凶一郎にあるふぁは淡々と『叔父ちゃん、日本では重婚は出来ないんだよ』と突っ込んだのだった。
こうして結婚する相手を探すべく行動し始めた凶一郎は手始めに結婚相談所に向かった。
勿論スパイ専門でやはり結婚するなら同業者だ。
お互い忙しくなる為以外と破局率は低くなかったりするのだが、かといって夜桜家の立場上一般人は中々に難しい。
予約していた夜桜だ、と受付で言うと部内がざわめいた。
本当に夜桜凶一郎が来たと噂になっていたらしい、やれやれとため息をつく。
ほどなくして担当者がきてにこにこと凶一郎を出迎えた。
「本日はようこそおいでくださいました、夜桜様
結婚相手を探している…………というのは本気ですか?」
「ああ、仕事かつ私生活において一緒に過ごせる相手が見つかればと思っています」
「はいはい、ではご希望のご条件、を…………拝見…………」
あらかじめ記入した結婚相手の希望条件を書いた紙を提出したのか担当者の男は固まっている。
なにかおかしなことでも書いてあったのだろうかと首を捻る。
至極当たり前に条件を書いただけなのに、担当者は俺が異常者みたいな顔で見てくる。
「………………ここに書いてあるのは真実ですか?嘘偽りはございませんか?」
「ありません、何かありましたか」
「………………」
希望条件には細かく条件が書いてあり……その内容は
まず仕事やスパイのランクについては特に高条件は見られなかった、家族の中にシルバーランクがいることが関係しているのだろう。
仕事というよりかは私生活において相性が良い相手を探しているらしい。
そして実家からは出る気はないので各々家族と同居しても可能な方…………と、まぁここら辺は生活する上で外せないだろうし実際に視野に入れる方も多い。
が何より一変した内容はここであった。
『好きな女性のタイプ:可憐で清楚で髪に白のポイントカラーが入った6月生まれの人型の女性』
もしかして結婚相談所には妹をお探しで?と問いたくなるほど具体的でかつまずドン引きされる内容だろう。
担当者は凶一郎にここの記載を変えるよう求めたが…………本人はどこが問題なのか全く意識しておらず嫌だ、と拒否した。
ということで。
「出ていけっ!!!!!!!!」
先ほどまでの営業スマイルが嘘のように鬼の形相の如く怒った担当者は結婚相談所から凶一郎を追い出した…………
当然凶一郎が易易と追い出される男ではないのだがお前にふさわしい相手はいないと叩きつけられたのも同然で凶一郎は納得いかない表情で後にした。
しかしここで引く男ではない、結婚相談所で紹介してもらえないのならまた別で探せばいい。
まだスパイ向けの婚活はある………………
その一つがお見合いパーティーだ、スパイ向けと書かれているが形式は変わらない。
順々に数分ずつ会話をしていて最終的に連絡先を交換したい相手がいたらアプローチするという感じだ。
先ほどは門前払いされたようなものだがここではきっと引く手あまてだろう。
なんせ自慢ではないが自分は女性スパイが選ぶ狙われたいスパイNo.1の常連だ。
と同時にアンチは多い方だが女性にモテた人生を送ってきた。
きっとこの場に夜桜凶一郎が来た…………と女性方が知ったらきっとこの場は戦争になるかもしれない、ある意味罪だな…………と苦笑する。
と開始早々勝ち誇った笑みを浮かべていた凶一郎だったが家に帰宅した凶一郎の顔は苛立ちMAXだった。
よほど上手くいなかったのだな…………と誰も今日どうだった??とは聞かなかったが、当然彼のシスコンぶりが悪さをしているのは予想がつくことで。
その予想通り……………………凶一郎は今日もいつも通りに口調だけは丁寧だが性格を偽ることなく接していた。
当初女性陣は皆、会った瞬間には『え!?あの夜桜凶一郎!?!?ホンモノ!?!?やだ!!!絶対射止める!!!』と意気込んでいたものの…………会話を進めるうちに段々と熱が冷めていき最終的には侮蔑に似た視線を向けるようになった。
それもこれも全て凶一郎の言動が原因である。
凶一郎はどの相手の時にも必ず六美に関する話を入れる。
その話しぶりそして凶一郎のシスコンぶりにどの相手もついていけないと『価値ナシ』に票を入れ全ての人と会話し終わった凶一郎の元には誰も希望者が集らなかった。
そう…………憧れや一方的なあれそれならともかく一生を共にするかもしれない相手の条件に凶一郎はとにかくシスコンが足を引っ張っていた――――
かといって凶一郎はだったらシスコンをやめるというか癖でもないし長年染み付いた性格みたいなもので直す気はさらさらない。
だったら一生独身のままでもいいのである。
と思いつつも凶一郎は最近巷で流行りというマッチングアプリを試してみることにした。
これなら自分からもアプローチすることができるしまず初回でお断りということもないだろう。
とりあえず自分のプロフィールを書き、条件に『全てにおいて妹を優先しても文句を言わない人』と付け加えた。
これがないと後々めんどうな事になる、私も六美どっちが大切なの!?!?と聞かれたら無論六美と答えるからだ。
これを許容できる人でないと結婚は難しいだろう…………
さて誰かしら見ているだろうし連絡を待っていた凶一郎だったが何日経っても何もアクションは無かった。
一言すら無かったのである…………………………
プロフィールが問題なのは勿論、あの夜桜凶一郎がマッチングアプリに登録するのはあり得ないと偽物だろうと思われていることは本人は知らず予想以上に結婚への道のりが険しい事を悟った――――
「…………婚活とは中々に難しいものだな…………」
「ってしみじみ語ってんじゃねーよ、どう見てもキモいシスコンぶりが原因じゃねぇか、さっさと妹離れしろ」
「やだ!!!!!一生六美と暮らす!!!!もう別居は嫌だ!!!!」
「別居って言うな、一人暮らしの間違いだろ
どさくさに紛れて結婚してることにすんな」
「やれやれ、困ったねぇ」
床でバタバタ暴れる凶一郎に妹弟は勿論のこと、甥っ子姪っ子のあるふぁ、ひふみはどうしようもないろくでもない大人…………と冷めた視線で叔父を見つめている。
なおまだ赤ん坊だからか気にしない性分なのか新しい六美と太陽の子供、九十九は意に介さず宙に浮いていた。
もしやすると九十九はある意味自分を受け入れてくれるのでは……?と考えが過った時滅多に怒らない太陽からの鋭い視線が突き刺さった。
「凶一郎兄さん、それだけは許しませんからね」
「ちっ………………分かってる、流石に年が離れてる者に手を出すほど落ちぶれてはいない」
だが凶一郎は婚活を今後どう進めたら良いのか分からなくてなっていた。
自分を受けて入れてくれてかつ自分も相手の事を好意的に思える女性………………とんだ夢物語だ。
そもそも六美以外でという考えに至ったことがないしこれまで出会ったことがない。
………………出会っていないだけなのだろうか、そんな人存在しないんじゃないか、とつい思ってしまう。
けれど妹の思いには応えたい、それにもし、もしも。
本当に誰か他に大切に思えるような存在ができたらそれはそれで幸せなことだと思う。
はぁ、とため息をつくとそっと手に六美の手が添えられた。
「お兄ちゃん」
「六美…………」
「急にあんなこと言ってごめんね、私軽い気持ちで…………」
「…………」
予想以上に困難を極めるとは思っていなかったのか六美は後悔の目をしている。
今更ながらに謝る妹に凶一郎はさっきまで鬱々していたのが嘘のように笑みが戻っていた。
「何、まだこれからだ」
このくらいで根を上げてたまるかと妹の為にも凶一郎はもう少し頑張ることにした。
何回侮蔑の視線を向けられようとも様々な方法を試しもう一度婚活パーティーに訪れたその日、凶一郎は出会った。
やはり上手くいかず内心ブツブツ文句を言う。
知りもしない相手と会話をするのにうんざりとしてきた、未婚のスパイなんぞこの世にごまんといる。
そもそも少しやり取りをしたくらいで相性が良いとか分かるのか??とため息をつきかけてた時、次の女性が腰掛けて凶一郎は口をつぐみため息を飲み込む。
次の相手は…………とあるスパイ一家の長女か、夜桜ほどではないが由緒正しき家だ、齢は俺と同い年。
挨拶を交わすと彼女は自分の顔を見て驚く、既に何回も見た反応だ。
「えっ、あ、あの、夜桜さんですか??」
「ああ、本人だ、確認するか?」
「あっ、いえ…………」
こいつも俺のファン?とやらか?ふん、どうせ皆呆れていなくなるんだ、どいつもこいつもきっと同じだと希望を手放しつつある凶一郎にあの…………と彼女が話しかけてきた。
「夜桜六美さんのお兄様…………であってましたよね?確か」
「………………なぜそこで六美の名前が出てくる」
いやまぁ六美も業界の中で有名だ、悪い意味でだが。
少し警戒しかけた凶一郎に彼女はやっぱり!と笑顔で喜ぶ。
「私妹さんの個展にお邪魔させてもらったことがあるんです」
「!!ほう…………」
個展、そういえば今年開いていたな。
六美は趣味兼ストレス発散に絵を描いている。
その枚数が溜まった為せっかくなら展示しようと凶一郎が企画を立てて、業界の有識者に招待をかけたのだ。
そういえばこの家の者に送っていたな…………と思い出した。
彼女は六美の描いた絵が素晴らしかったと述べた、家族の絵が多く、景色等の絵もあって描いた六美の心の優しさが表れている…………とか色々とにかく褒めていた。
「………………!そうだろう!!六美は絵を描くのが好きでな…………」
つい嬉しくなって凶一郎は絵のことだけでなく、六美との思い出をぺらぺらと機嫌よく語りだした。
ああこうしていても幼き日の思い出が昨日のことのように蘇る、記憶はいつまでも色が褪せることなく胸に残っていて。
何年経っても俺はきっと六美の事を愛するだろう。
凶一郎はとにかく一方的に六美の事を話した、その時には相手の顔が目に入っておらずどう思うかなんて今までの経験上分かっているのにやめられない。
やがて交代の合図がなり凶一郎ははっと我に返った。
「もう、交代か、俺はペラペラと…………」
しまった、またやってしまった…………と後悔しかけていや、後悔も何も俺は別に変える気などないしどうせこいつも冷めた目で見るのだろうから意味がない…………と思ったその時。
「夜桜さん」
と柔らかな声をかけられ前を向くと彼女は変わらず笑みを浮かべていた。
「妹さんのお話聞けてよかったです、また今度聞かせてください」
「え………………」
にこにこと彼女は気にしていないと変わらず笑みを向ける。
その笑顔に、少しも引く素振りも見せずに。
しかとまた、聞かせてくださいなんて、殺し文句までつけて。
遅れながらもああ、と肯定すると彼女は嬉しそうに目尻を下げた。
ほん、とうに…………?今の話を聴いて退屈も引きもしなかったのだと??言っているのだろうか…………と別の参加者の元に向かった彼女の背中に凶一郎は初めて交換希望したいと願った――――
パーティー終了後、凶一郎は先ほど会話した彼女を探した。
けれど会場のどこにも見当たらず係員に聞いてみると、用ができたので帰ってしまったと言われてしまった。
………………やはり、やり取りがいけなかったのだろうか?それが原因で気分を悪くし帰宅した…………とか…………と悪い考えが巡ってしまう。
そんなわけで今日も凶一郎は特に進展が起こらず家に帰宅した。
家族はまさかそんな出来事があったなんて知らず好意を持てる人はいなかったのだろうと察していた。
それ自体は別にいい、連絡先を交換できたかったのだからいないのも同然だ。
けれど凶一郎はやはり今日の一件が気にかかっていた。
それはつまりあの女性に好意を抱いているかで。
そうと思うのと同時にそれは彼女が俺の話を屈託もなく優しく受け止めてくれたからだと理性が否定する。
誰しも快く話を聞いてくれれば誰だって好きになるだろう、それと同じだ。
だからきっとカウンセラーとかで同じ様な事をしたら同一の事象が起きるはずなのだ。
それに俺は彼女の事を知らない、あの日、あの時ほんの少し、やり取りをしただけで好きだとかわかるはずもない。
それは向こうも同じはずだ、そりゃあ名前だけは知っているだろう。
でも凶一郎自身がどういう性格でとか情報だけでは全貌は掴めない。
と、色々理由をつけて言い訳するが湧き上がるのはもっと彼女の事を知りたいという思いだった――――
踏ん切りがつかないまま1週間が過ぎた、相手はそれなりに知名度がある人だ、会いにいけばすぐに会える。
だが会いにいってもし、あれは演技で貴方なんて恋愛対象にならないわ、なんて言われたら…………と不安が過ぎり足が止まってしまう。
仕事もしていても頭に霞がかかったような状態で家族からひとまず今日はのんびりしろ、と強制的に休まされたが家でクラシックを聴いていても。
俺はクラシックが好きだが彼女は音楽を聴く趣味はあるのだろうかと思考を巡らせてしまうので気分転換に街にでかけることにした。
ぼんやりと歩いていると何と情けないことに曲がり角に人がいることに気づかずぶつかってしまった。
おまけにぶつかった相手が飲み物を持っていたせいでお気に入りコートが思いっきり汚れてしまった。
ついていない、いやスパイにも関わらず呆けていた自分が悪いのだが…………向こうも向こうだと相手に文句を言おうとしてその顔を見た瞬間凶一郎は固まってしまった。
「すみません!すみません!弁償しますの、で…………
あれ??よざくら…………さん?」
ぺこぺこ謝りながらハンカチで汚れた液体を拭おうとしている人はまさしく会いたいと願った婚活パーティーで会話した彼女だった――――
「本当にすみません、せっかくのお召し物汚してしまって…………」
「いや、洗えばどうにかなる、ちょうど近くにクリーニングもあったしな」
「…………あの…………クリーニング本当に払わなくてよいのですか?それにこれがお詫びだなんて……」
「構わん、俺も不注意があったわけだしな」
近くのガオンモールにて上着を洗濯に出した凶一郎は彼女をカフェに誘った。
元々飲み物をかけてしまったのは私のほうだし……と彼女は素直に頷き凶一郎の誘いにのった。
お互い飲み物を口に含んだところで凶一郎は勇気を出してこないだの婚活パーティーについて話題を切り出した。
「ちょうど1週間前か、最後の方に姿が見えなかったが何か急用でも?」
「あ、そうなんです……急に任務入っちゃって……」
「それは仕方がないな」
「はい…………」
と話題が終了してしまう、任務の為だったのは分かって良かった。
けれど俺は何のために誘ったんだ、彼女を良く知るためだろう……!と心に問いかける。
と彼女が口を開いた。
「あの夜桜さんは何故婚活パーティーに……?」
「………………行ったらいけないか?」
「い、いえ!!そんなことは!ただあまり恋愛についての噂を聞かなかったので意外だなぁ…………と」
「………………恥ずかしい話だがその通りだ、生まれてこの方28年一度も浮いた話はない
だからなんだが家族から結婚を勧められてな…………」
「あ!私もです!やっぱりス……じゃない、職業柄どうも仕事ばっかりなっちゃって…………無理矢理勧められて行ったんです、同じですね」
私たち同じですね、と微笑まれ凶一郎はいつの間にか口角を上げて、ああと頷いていた。
それから彼女も結婚に具体的なイメージが浮かんでいないこと、どういう人も結婚したらいいのだろうと悩んでいたと打ち明けられ凶一郎は意を決してスマホを取り出した。
「………………これは??」
「…………あの日貴方が会場に残っていたら渡そうと思っていたプライベート用電話番号だ」
「えっ!?!?」
「ああ、すまない、別のやり取り形式の方がいいか?」
「そ、そういうことではなくて……!」
彼女はわたわたと凶一郎のスマホを裏に向けた。
そんなに軽率に渡すものじゃないですよ……!と言われたが凶一郎は引かなかった。
「……俺も正直好意だとか相性とかは良くわからない
数分話した程度でわかるはずもないからな」
「じゃ、じゃあなんで…………」
「………………端的に言うと貴方の事がもっと知りたいんだ、そして俺の事も知って欲しい」
凶一郎はそっと彼女の手に重ねた。
それはもうある意味プロポーズに近い言葉だった。
深く知って絶望する事もあるだろう、けれど………………
凶一郎は予感していた、そんなことにはならないと胸の鼓動が語っている。
期待と不安が混ぜこぜになった凶一郎の視線に彼女は…………
「私も夜桜さんの事を知りたいと思ってました」
そう言って笑う彼女に凶一郎も笑みを浮かべた。
まだ蕾にもならない若芽だけれどいつかきっと花を咲かすことだろう――――
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