夜桜凶一郎R夢まとめ
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7月の終わり、日が落ち暮れようとしている。
昼と夜の狭間の中、凶一郎は人気が多い場所で視線を動かし待ち人が来るのを待っていた。
今日は有名な夏祭りの日で、自分と同じ目的の人が多くごっ返している。
自分が視力が良いとは言えここまで人気が多いと気づかない可能性がある、目を凝らして人混みの中に彼女がいないかどうか探す。
まだか……と未だ鳴り止まぬ鼓動にそっと手を置く。
二人だけのお出かけというだけでこんなにも感じる心境は違うのか、去年と違うのは関係性が幼馴染から恋人になっただけというのに。
彼女の性格も何一つ変わらないのにこんなにも意識してしまうなんて悟られたくないな……と思っていると人混みの奥に彼女の姿を見つけた。
「!」
発見するな否や凶一郎は人の間を縫い真っ先に彼女の元へと向かった。
人の肩に当たったり謝りながらようやくたどり着いていきなり目当ての人物を目にした彼女は目をきょとんと驚いていた。
「あれ?凶一郎?待ち合わせ向こうだよ?」
「いや、その……姿が見えたから、迎えにきた
こ、混んでいるしな、万が一にすれ違ったらいけないと思って……」
「ありがとう、迎えにきてくれて」
「ああ、浴衣……似合っているな」
「えへへ、悩んだけど……これにしてよかった」
彼女は照れくさそうに結った髪に手を添えた。
どんどん、とどこかで太鼓の音がする。
自分の心臓と相まって最高潮に達しようとしている中、凶一郎はすっと手のひらを差し出した。
「人が多い、はぐれたらいけないからな」
「え、あ……う、うん」
ぎこちなく彼女も手を差し出してゆっくりと凶一郎の手のひらに重ねた。
凶一郎が普段身につけている黒皮手袋ではなく偽装用の皮膚を纏っているせいか、傷つけないように配慮してくれているのではなく。
それもあるが、彼女の頬、視線、息づかい。
それら全てが自分と同じであると分かり凶一郎もまたしばしの間手を握らず重ね合ったまま止まっていた。
やがて、ゆっくりと手を滑らせて優しく彼女の手を握る、ああ、緊張のあまり人工皮膚が破れないかとか、手汗が出ていないかとか気になってしまう。
彼女はというと暑そうにもう片方の手で顔をパタパタさせて目が合うと視線をそらした。
その原因は……言うまでもない、と凶一郎は一歩を踏み出した。
「行くか」
「うん」
中学最後の夏休みに入ったからか、周囲には自分たちと同じような年代の子供が多い。
友達で来ている者、恋人らしきカップル……言わば凶一郎達もそれに当たるのだが、手を繋いだものの全く会話が弾まなくただ黙々と露店の前を歩くという何のときめきもない時間をただただ過ごしていた。
からん、からん、と下駄の音が鳴り響き、ただ繋いだ手の温もりも感じていた。
凶一郎は緊張して何も話せないし、彼女の方も同様なのか軽く俯いたまま凶一郎が手を引くまま静かに歩みを進めている。
…………これではいけない、何のために妹弟達家族と分けて祭りに誘ったのか。
二人きりになって特別な時間を過ごす…………と決めたんじゃなかったのか、とくるりと振り返ると急に距離が縮まって彼女の瞳孔が大きく見開いた。
「凶一郎…………?」
「あ…………その…………何か食いたいものはないか……?」
と勇気を出すものの、腹を満たそうなんて言葉しか出てこず羞恥する凶一郎に対し彼女はへらり、と笑った。
「ん?んー……今はないかな……今はその……凶一郎とゆっくり……いたい」
「そ、そうか……」
柔らかに微笑む彼女を見ていると全身が煮えたぎるような熱が上がってくる、外の熱気に当てられたのか彼女にときめいているせいか。
茹だるようにぐっと頬に熱が集中する。
なら……とさっきまで後ろを歩いていた彼女の体をぐい、と前に押し上げ自分の両隣に来るようにした。
「それなら俺の隣にいろ、顔を見ながら俺も歩きたい」
そう、耳元でそっと呟くと彼女の頬も紅潮した。
[newpage]
「あ、射的」
何の目当てもなくただのんびりと闊歩していると不意に射的屋が目についたのか、彼女が足を止める。
「何か欲しいものでもあるのか?」
「え?いや特に……ただ景品の中にお好きな物どれでも……なんて書いてあるからほんとかなぁって思って」
射的の景品棚を見やると確かに「倒れたらどれでもプレゼント」と書いてある景品が一つある。
………………どう見ても何か仕組みがしてそうだが……
まぁここは彼氏たるべく自分のかっこいいところを見せようと店主に声をかけて金を払い射的用の銃を受け取り、凶一郎は眉を上げた。
…………やけに軽い、細工がしてあるのか?
辛三ほどではないが、一スパイとして少々違和感を感じた。
とりあえず一発目は普通にやってみようと肘を突き、狙いを定める。
外すことはない、問題はこの銃の威力だ。
彼女が息を呑んで見守る中、引き金を引いた――
こん、と余りにも弱い玉が発射され、対象には当たったが、倒れることなく床に落下した。
店主は惜しかったなぁ、とニヤニヤしている、黒だ……ボッタクリ確定である。
ならば自分がすることは……と次点を装着するついでに店主に見えないように少し弄らせてもらった。
素知らぬ顔で再び肘をつき、引き金を引くのあり得ないほど強く弾が発射され、見事に的を押し倒した。
店主はえ?!?え!?!?と凶一郎と的を交互に見ている。
何かしたのか、と聞かれたので再び元の仕様に戻し返却すると店主は混乱していた。
「まぁ、まぐれだろう、たまたま強く……打ち出てしまったかもしれないな
さぁ、何でも選ぶといい、そう書いてあったからな」
「そ、そう??」
彼女は凶一郎の細工に気づきつつも元々ぼったくりだからか、言及はせずにうーーん……と棚をじっくり眺めて、一つのお面をとった。
射的から離れて再び何の目的もなく歩き始める。
「それでよかったのか?大した値段じゃないだろう」
「ん?うん、これがよかったの」
彼女は狐のお面を選び顔の横につけている。
狐……か、好きな動物だっただろうか?覚えがない。
「狐好きだったか?」
「え?好き…………なのかなぁ」
「どっちなんだ、ならどうして……」
「そ、それはね…………何となく凶一郎に似てて……
つけると一緒にいるみたいに感じられるかなぁって」
そう言うと照れくさいのか彼女はお面の位置を微妙にずらした。
少し顔が隠れてしまったのが何となく嫌でずらそうとする手を止めた。
「せっかく横にいるのに、見えないのは嫌だ
………………出来ればなんだが隠さないでほしい」
「あ……う、うん…………」
ぱちり、と目があうと、目を反らそうと思いきやすっと瞳がこちらに戻ってきた。
「…………がんばる」
そう柔らかく微笑む彼女に自分もそっと頬を上げた。
歩いて小腹が空いてきたのか、各々露天で食い物を選び道の端っこに腰掛けて摘む。
浴衣が汚れるから……と自分のハンカチを敷いて座るように促した。
念の為持ってきて良かった、とほっとしていると凶一郎は汚れてもいいの?と彼女に聞かれた。
「構わん、お前が汚れなければそれでいい」
「で、でも…………あ、そうだ!ちょっとはみ出しちゃうけど……ぴったりくっつけば汚れないよ!」
「そうはいっても限度があるだろう、お互いちょこっとずつ汚れて……おい」
「いいよ、洗えば」
手を引かれて、きゅ、と隙間もないくらい体が密着し、息を飲む。
いそいそと彼女は買ってきたビニール袋からパックを取り出している。
手を回せばいくらでも、触れ合える距離に惑わされて。
少し顔を屈めばすぐそこに、触れたくて堪らない部位がある。
うっすらと桃色に色づいたそれは微かに香料のあるやつらしく、微香をくすぐった。
ざわざわと話し声が止まない中、俺はそんなことを気にせずというか耳に入らない。
うっとおしいほどに煩いはずなのに、彼女の息づかいしか聞こえなかった。
人目があるというのに、俺の視線はもう…………
「いただきまーーす」
「……………………」
「?あれ?凶一郎、食べないの?」
「いや……食べる」
たこ焼きを一つ掴んだまま、口に入れようとして静止した彼女に見つめられ、凶一郎も同じく箸をとった。
気兼ねなくお腹空いたーと嬉しそうに頬張る彼女をみていたら何だか恥ずかしくなってしまった。
はぁ、これが暗闇の中だったのなら。
[newpage]
腹も満たし後は帰るのみ……なのだが、まだ手を離したくない、帰したくない。
ずっと………………彼女と夏祭りを巡りたい。
それは彼女も同じなのか、帰ろうとは一言も言われなかった。
何となしに人気から外れ物静かな小川にたどり着いた。
水気があるからか、熱気のある祭りとはうってかわって少し涼けさがある。
そよ…………と心地よい風が髪を撫でた。
「さっきとそんなに離れてないのになんだか空気が綺麗な気がする」
「そうだな」
もうかれこれ祭りに来てずっと手を繋いでいる。
もう何十年ずっとこうしていたような錯覚を覚えるほど、自然に、そして熱烈に。
今はまだ齢15だけれどこの先何年経とうともこうしていたい、そう感じた。
つい、と横を見ると彼女の視線は自分ではなく川に注がれている。
少しもやっとして話しかけようとするとしーと人差し指で口に当てられた。
つん、と彼女の人差し指が口に当たり、どきっと心臓が高鳴る。
そして…………数秒後。
さっきまで暗闇だったのが嘘のように周りを蛍が飛び始めた。
無数の蛍が飛び交い、元々視力はよいがそれだけで鮮明に表情が見える。
「………………絶景だな」
「うん」
「よく気づいたな」
「実はちょっと茂みの方に光が見えたの、凶一郎目がいいから気づいてるかなって思ってたんだけど……」
「……いや」
思わず、手を離してしまったら蛍がいるかとか、全く気づかなかった。
蛍が飛ぶ光景はとても幻想的だ、ゆっくりとふわふわと飛びチカ、チカ、と灯を灯している。
……またもタイミングを逃してしまった、いや、この雰囲気をなんとか利用できないものか……と浴衣の袖に突っ込み、カチャリ、と冷たい感触に気づいた。
贈るなら……今かもしれない。
名前を呼んで目を閉じるように声をかけて、彼女の頬に手を当てた。
何をされるのか分かったのか、彼女は驚く様に目を見開いて少し沈黙した後、こくりと頷いて目をそっと閉じた。
胸の中に花火があるような、そんな感覚。
心拍数が一気に上々する、察して全てを信頼し預けてくれる姿に好き、という気持ちが溢れた。
けれど凶一郎はこのタイミングではなく、唇から目を背けて。
凶一郎は袖から一つの簪を取り出すと彼女の編んだ髪に差した。
「……?え?」
「……露天で見つけてな、似合いそうだと思ったから……サプライズだ」
「い、いつの間に…………あ、あはは、あ、ありがとう……」
「どうした?顔が赤いぞ?」
彼女は簪に手を当てたまま、ぴく、と真っ赤な表情のまま固まった。
ぶんぶん、と手を大げさに振りなんとか誤魔化そうとしているのか、終いには赤くなった頬を隠そうとしてぺちぺち叩いている。
「な、なんでもないの、なんでも…………
ありがとう、うれし……」
そう言う彼女の手を引っ張り、顔をこちらに向けて唇を奪う。
一瞬、されど一瞬。
長い事手を繋いだよりももっと……胸に熱が灯る。
もっとふれあいたい衝動を抑えて柔らかな唇から離す。
「なんてな」
「………………ずるい」
そう言い口角を上げると口元に手を当てた彼女の頬に灯りがついた――
