夜桜凶一郎R夢まとめ

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「む」
六美に花を買っていこうと思って馴染みの店に行ったらたまたま臨時休業中だった、しかも次いつ開くか未定とのことだ。
ここの店は裏業界とは関連しない店で信頼の出来る店だったのだが…………
しかし今日は六美の誕生日だ、買っていかない理由はない。
となれば別の店を探すしかないか……と検索するとちょうどここからさほど遠くないところに最近オープンした花屋がある事に気付いた。
裏業界の者が関わっている可能性もあったが、少し調べてみたところそれは薄そうだ。
とはいえ本格的に調べてみないと分からないが……
とりあえず今日は買ってみて毒か何か入っていないか自分で確かめればいい。
 
店に着いて入ると入口には誰もいない。
内装は至って普通のこじんまりとした花屋といった感じだった。
置いてある花も特に目立った様子はない。
店主はどこだ、と奥の方を見るとこちらに背を向けて花の世話をしている女がいた。
彼女は客がきたことに気づいていないようでこのままでは永遠に気づかれないのではと思い凶一郎は声をかけた。
 
「すみません」
「!ごめんなさい!剪定に夢中になってしまって……いらっしゃいませ、何かお探しですか?」
「……………………」
「お客様??あの……どうかなされましたか?」

ふんわりとした印象を受ける店主と目が合い凶一郎は言葉を失った。
どくん、と心臓が高鳴る。
目と目があっただけなのにこの時だけ時が止まったかのように時計の針が停止する。
それが花屋の店長ことあきらとの出会いだった。

それから一ヶ月が経った。
凶一郎は今日もまたあの花屋に寄って帰宅したのだが……花を買ってきた兄を見て六美は形相を鬼のようにして叱った。
 
「またお兄ちゃんお花買ってきたの!?!?」
「う…………べ、別にいいじゃないか、部屋に彩りが増えて明るく……」
「彩りとかそんなレベルじゃないから!!!!
今この部屋にどれだけの花があると思ってるの!!!
うちは花屋じゃないんだよ!?」
「む、六美……まぁまぁ」

太陽に諫められ六美はぷんすか怒りまたしても兄の買ってきた花を活けるべく器を取りに行った。
これには他の妹弟も呆れ返っておりため息をついている。
というのも六美の誕生日以来毎日のように凶一郎が花を買ってくるものだから、日々増える花の数に頭を悩ませている。
今日で連続30日目、一ヶ月継続中だ。
花を貰って六美が喜んだのがきっかけかどうしてか凶一郎は毎日のように花を買ってくるようになってしまった。

「前まではこんなことなかったのに……」
「…………確かに様子がおかしいね」
「はあ……喜びすぎたかな……」
「でも流石にこれ以上は続かないんじゃないか?
ああやって怒られたことだし……」

そうだね、とこれ以上続かない事を祈った六美だったが、依然として凶一郎の異常行動は続いた。
もう我慢の限界……と堪忍袋の尾がキレた六美は当主命令としてしばらくの間、花を買ってこないようにと凶一郎に強く強く禁じたのであった。

…………その禁止命令が出て一ヶ月が経過した。
命令を律儀に守っていた凶一郎だったが日に日にため息が増え仕事だけはきっちりやるものの……明らかに様子がおかしくなっていた。
そんなに六美に花を買えない事がショックなのかと六美達も本人もその本当の原因に気づかないまま更に半月が過ぎた。

「はぁ………………」

今日も今日とてソファで膝を抱え落ち込んでいる凶一郎に家族は流石に様子がおかしすぎると心配していた。
目は虚ろ、だるん……とうなだれきった兄を見てちょっと厳しく言ってしまったか……と六美は凶一郎に近づいた。

「お兄ちゃん、ちょっといい?」
「なんだ?六美?」

六美が声をかけると凶一郎は少し元気を取り戻す。
けれどそれは一時的な効果でしばらくすると解けてしまうのだが。

「この間はごめんね、買ってるななんて言って……
ここまでお兄ちゃんが落ち込むなんて予想ついてなかった
……お母さんのお墓用に……お供えのお花買ってきてくれる……?」
「…………花……」

花、と単語を聞いて凶一郎は脳裏に一瞬一人のシルエットが浮かびソファから飛び上がった。

「分かった!!!!お兄ちゃん!とびっきりの花を買ってくるぞ!!」
「ちょっと、そんなにはいらないからね!!
一束だけでいいから!!!!!たくさんはいらないならね!!!!!」
「分かった、分かった、一束だけだな??
それなら母さんの好きな色で選んでもらおう」

そう言うと凶一郎はスキップして玄関に向かう。
ここまで機嫌が良くなるとは……と見守っていた家族は思わず吹き出してしまい、単純だな――これで安心、安心と思っていた。

「久しぶりだな……約1ヶ月半か……」
 
花屋の距離が縮まるにつれて心臓の鼓動が早くなり、足が浮き立つ。
早く、早く、着きたい。
もはや鼻歌まで聞こえそうなほど上機嫌でいつもの花屋に向かった凶一郎だったが。

「………………体調不良の為お休みさせていただきます…………??」

シャッターに張り出された貼り紙を前にして凶一郎は鞄を地面に落とした。


「あ!帰ってきた!おかえり、お兄ちゃ……」
「…………ただいま、六美
これ頼まれていた花束だ」
「え、あ、うん……ありが、とう……」
「どういたしまして」

帰宅した凶一郎は花を持っているのにも関わらずテンションが低かった。
とぼとぼ……と重たい足つきでソファに向かいどすん、と寝っ転がってどんよりとした空気を醸し出す。
嫌五が、おいおかしいだろ花買ってきたら機嫌戻るんじゃなかったとか?と目配せして六美はそうなるはずなんだけど……わからないよ、と首を振った。
とりあえずそっとしておこうと庭に出て太陽と顔を見合わせた。

「…………どうしたんだろうな……」
「本当にね……とりあえずお花お供えしてこよ……あれ?」
「どうかしたか?六美?」
「…………いつものお店のやつじゃない」

六美はラッピングに包まれた花束をくるりと反転させ、まじまじと見つめる。

「俺には同じに見えるけど……何か違うのか?」
「包装のラッピングが違う、これ別のお店で買ってきたんだ
毎日、毎日買ってきて覚えちゃったから間違いない
……そういえば……お兄ちゃんが連日買ってくるようになってきたの、あのお店に行ってきてから……?」

六美の誕生日の日、思い返せば兄はどことなく様子が違った気がする。
馴染みの店が休みでたまたま新しい店が近くにあったから買ってきたと言っていたが……
馴染みの店が再開してからも兄は戻ることなく新店に通い続けていた。
もしかしてこの兄の異常行動にはあの店が関わっているのでは……?
そう思い六美と太陽は調査することにした。
ラッピングのテープに店名が書いてあった為、すぐに突き止める事に成功し、1週間後仕事がない日に六美と太陽はこっそり店の雰囲気を伺っていた。

「…………至って普通の花屋だな……」
「うん、裏業界は関わってなさそうだけど……
お兄ちゃんの異常行動とほんとに関連あるのかな……」
「……店主と話してもう少し探ってみよう」
「そうね」

六美と頷き太陽は二人で店内に入ると大人しそうな大人の女性の店主が出てきた。
年齢はおよそ凶一郎と同じくらいの店主はどなたかにプレゼントをご所望ですか?と聞いてきた。

「はい、……か、彼女に花束を上げたくて」
「…………!太陽っ!」

正確には妻だが高校生な事を考慮すると変に思われそうなので太陽は六美に手のひらをだし、六美は口元に手をあてて嬉しそうに頬を褒めた。
店主はわぁ……!とまるで身内のように喜んでどんなのがいいか、と案を出してうきうきと笑顔で接客している。
とても兄さんの異常行動に関わっているようには見えないけれど……と改めて観察して太陽は店主が若干元気がなさそうなのに気付いた。

「…………もしかして……体調悪いですか?」
「え??ごめんなさい、気づいちゃいました?
ちょっと数日前まで風邪を引いていて……まだ万全に戻ってないのかな……はぁ……」

店主はしょんぼりと肩を落として横目でカレンダーを見る。

「何か気がかりな事でもあるんですか?」
「あ、いや……ほんと大したことじゃないんですけど……
しばらく前から毎日のように来てくれたお客さんがここのところずっと来てくれなくて……
って私お客さんに何言ってるんだろ、こんな事ボヤいてもあの人は来てくれるわけじゃないのに……」

毎日……と太陽は六美と目を合わせる。
店主は恋人を待つかのように花をくるくると回している。
どう見ても恋の悩みを抱えているようだが……もしやするとその人物は凶一郎ではないのか?
その後さりげなく特徴を聞くと背の高い男性でスーツ服、目が細くて……と店主は頬を染めて答えたのに対し太陽と六美はそうなんですねと微笑みつつ、絶対兄さんだ!!!と確定した。
問題は肝心の凶一郎自身があの店主に対し恋心を抱いているかである。
あの様子を見る限り完全に恋の病にかかっていると思われるが六美は今まで凶一郎が全くその気がなかった為に未だににいた。

「そんなに信じられないか?」
「だってあの凶一郎兄ちゃんが恋だなんて……今までずっといっくら告白されようとも眼中になかったお兄ちゃんがよ!?」
「ちょっと引っかかるけど……とりあえず皆にも話を聞いてもらおう」

居間に集まってもらい太陽は自らの推察を話すとやはり皆半信半疑だった。
無理もない、僅かの間だが接してきた太陽ですら戸惑っているのだからなおさら家族は動揺するだろう。

「あの子が店主に恋、ねぇ……」
「うーーん、恋愛自体は良いことだとは思うけど……」
「そもそも六美以外の女の話なんてしたことあるか?
りん姉以外で」
「うんにゃ、記憶にはねーな」
「惚れ薬を盛られてる可能性はないかな?
あっでもしばらく会ってないなら可能性は薄いか……」

どの姉兄も似たような反応で太陽はですよね……と苦笑した。

「やっぱりそうよね……でも様子がおかしいのは確かなんだけど……」
「様子がおかしい……とは何の話だ?」
「え、そりゃ……お兄ちゃん!?!?」
「六美♡ただいま♡会いたくて早く帰ってきちゃったぞ♡」

いつも通りな凶一郎に兄弟はやはり信じ難そうに眺めていたが、凶一郎は机に置かれた包装紙を見て叫んだ。

「お、おいっ!誰かこの店に行ったのか!!!」
「え、あ、はい、お、俺です、けど……あっ
えっとたまたま!!通りかかって!!!買おうかな!なんて!!あ、あはは……って顔ちかっ!」

ぐいっと切羽詰まる顔で詰め寄られ太陽は思わず後ずさる。
 
「開いていたのか!?1週間前は臨時休業だったが」
「あ、なんか風邪引いてたらしくて……あっでも回復したらしいです」
「………………そうか、なら、よかった」

凶一郎はすっと太陽から離れる。

「笑顔が素敵な方で心落ち着く良いお店でした」
「笑顔……そうだな、確かに良い笑顔だ
それでいて………………」

凶一郎は続けようとしたが言葉が出てこないのか切なく甘い顔つきのまま静止してしまい、数秒後なんでもない、とすぐに表情を戻して自室に戻ると言い居間を出た。
本人でさえも気づかないほど綻んだ笑みに誰もが驚いた。
それは確かに恋をした男の顔だった。
問題は凶一郎本人が恋をしている自覚があるかどうかだが……と思っていると嫌五が唐突に大声で叫んだ。
まだ居間から近い場所にいる凶一郎に聞こえるように。

「でもさー!!!!そんな笑顔が素敵なら彼氏がいるんだろうなー!!!!」

すると階段を踏み外したのかずささささ!!!!と階段を転がり落ちる音が聞こえた。
ごん!ごん!とかなり痛そうなくらいな勢いで一階に滑り落ちたようだ。

「風邪で休んでた時も彼氏に看病してもらってるんだろうなぁー!!!!!」

嫌五は口を閉じそっとドアの向こうの様子を耳を立てて伺うとめそめそ泣く凶一郎の声が聞こえて嫌五は両手を上げた。

「ありゃ自覚してねーな、自覚してるなら今頃半ギレで反論しにくるぜ」
「難儀だねぇ……」
「どうする?放っといてもいいが……後々面倒な事になりそうつーか、なってんだよな」
「まずは二人を会わせないとね……
でも私が禁止しちゃったから行かないか……」

うーーん……と悩む家族に太陽はそれなら……と一つの案を提案した。


後日、ピンポーンとチャイムがなった後凶一郎は六美からお願いされた。
「お兄ちゃん、届いた荷物受け取ってくれない?」
「荷物?全然構わないが……何で俺なんだ?」
「いいから!おねがい♡」
「六美の頼みならいくらでも荷物を受け取ろう!!」

ばびゅん、とダッシュで玄関を出て一般用の出入り口に向かおうとすると凶一郎は出入り口付近にいる人物を見つけ慌てて立ち止まった。
なんで!?何故ここにいる!?と驚いてその両手に持っている大きな花束を見て納得がいく。
荷物とやらはあれの事だったのか……と凶一郎は懐から鏡を取り出し身だしなみを慌てて整えた。
いつもきちっとしているが何故か急に気になってうん、これでよしと鏡をしまう。
大丈夫だ、香りのいい香水もさり気なくつけた、と準備を整え出入り口の取っ手を掴み開いた。
……そういえば最近やけに胸が掴まれるような感覚に陥る、タイミングはよく分からないが後で七悪に見てもらおうかなんて思って凶一郎は花屋の店主と対面した。

「…………あっ!常連さん!」
「っ!!!」

嬉しそうに微笑み、しかも常連としばらく会っていないのにも関わらず覚えていてくれる。
ああ、やはり心臓が痛い、何かの病なのだろうか……
苦しそうに胸を抑える自分を見て店主は花束を抱えたまま慌てふためいたのに対し何でもないと伝える。
それならいいんですけど……とまだ少し心配げな店主に再び胸の痛みが増す。

「配達のお仕事をもらって来たら……すごいお屋敷で……しかも常連さんのお家だったなんて……びっくりしました」
「そうか?まぁ確かにうちはデカいか……」
「はい!こんな大っきなお屋敷初めて見ました!!
広そう……たくさんお花置けるんだろうなぁ……」

たくさんの花に囲まれる自分を想像しているのか楽しそうに微笑んでいる店主に凶一郎は意識せず口角を上げた。
花束を配達しにきたんじゃなかったのか?と聞くと店主はそうでした!!とはい!どうぞ!と凶一郎に差し出して受け取ろうし僅かに手が触れた。

「「!!!」」

一瞬、のことだったけれど一気に体温が熱くなる。
おかしい、今日は暑い日だったか???と首を傾げていると店主がご家族にプレゼントされるんですか?と聞くので、妹弟が頼んだようだと言うと何故か店主はほっと安堵した。

「えっと……そ、それじゃあ御暇しますね……」
「ま、待ってくれ」
「?何か御用……ですか?」
「え、あの……いや、……」

帰ろうとする店主を呼び止めたものの、何の話がしたくて呼び止めたのか分からず言葉に詰まっていると店主が口を開いた。

「…………あの、お店……来てくださらなかったのは……何か不手際ありましたでしょうか?」
「違う、俺が……たくさん買いすぎてしまったからなんだ……妹に怒られて……」
「妹さん……妹さんにいつも買っていかれてたんですか?」
「ああ、そうだ……俺が暴走したばかりに……
決して店のせいじゃない、違うんだ」

すると店主は良かった……と心底安心した様子で再び笑顔を見せた。
ああやはりだ、この笑顔をみると俺は…………

「あ、あの……も、もしよければ……ま、またお店に来てくれませんか……?」

店主の問いに凶一郎は衝動的に店主の手を握り距離を縮め店主の頬が朱に染まる。

「毎日!!!!買いに行く!!!」
「ま、毎日???う、嬉しいですけど…………う、売上的に!その、妹さんにまた怒られませんか……?」
「え、あ、すまない、いや、俺は何を言って……
と、とにかく行く、また、会いに行く」

感情がちぐはぐになり、花を買いに行くのではなく会いに行くと口走った事に気付かず凶一郎は花束が抱えたまま店主の瞳を真っ直ぐ見つめた。
そして綺麗な瞳に映る自分の表情に今更ながら気付いた。
…………なんだ?この呆けたアホ面は。
以下にも恋してます、みたいな表情をして。
恋、恋、そうか、俺は恋をしていたのか、とそこで初めて自分の抱いた感情が分かった。
店主の頬が徐々に真っ赤に染まり絞り出したような細い声で、ち、近い、です……と言われて凶一郎は慌てて手を離した。

「ご、ごめんなさい…………
今まで交際した経験がなくて…………びっくりしちゃって……」
「い、いや、俺も……急に掴んだりしてすまなかった……(という事は彼氏いない!?!?よしっ!!!!)」

とこっそりガッツポーズをとり凶一郎はごほん、と咳をした。
 
「ん、と、とにかく次いつになるかはわからないが……
また店に伺おう」
「はい……!お待ちしてますね……!」

はにかんだ笑みを浮かべ店主は乗ってきた軽自動車に乗り夜桜邸から離れていく。
その様子を見えなくなっても恋苦しい表情で凶一郎は見つめていた。
なお、いつになるかと言った翌日、店にスーツ男が来たのは言うまでもない。
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