夜桜凶一郎R夢まとめ
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夜桜家、それは伝説的なアイドルを多く輩出してきた一家である。
夜桜凶一郎もまた、天才的なアイドルの才能を発揮する人物であった。
ファンサは絶望的にしないものの、歌とダンスは一流で多くのファンの心を掴んだ。
今日はライブ後の握手会である。
いつも通り適当に握手をこなしていた凶一郎は次の番の人物を見た途端、いつも人をバカにしたような表情から一変しデレデレと態度を変えた。
「六美〜〜〜〜〜」
「お兄ちゃん、いつもファンの人には笑顔で対応するように言ってるじゃない、なんど言ったら分かるの」
「やだ、六美以外の奴にこの俺がファンサをするわけがないだろう」
頑固な兄に六美はこれだから…と頭を抱える。
夜桜六美、夜桜アイドル社を経営する社長である。
伝説的なアイドルを多く輩出している夜桜家だが、1人だけ音痴な者が生まれ、その代わりその子供は天才的なアイドルに育つという。
「お兄ちゃんそろそろ手を離す時間なんだけど……」
「六美、お兄ちゃんとの握手は時間制限なんて存在しないんだよ」
「このバカ長男、妹の手を離しな」
一つ下妹の二刃がばしっとハリセンで叩く。
「ほら、握手時間は終わりだよ」
「嫌だ〜〜〜〜!!!!ずっと六美と握手するんだ〜〜〜!!!」
「全く……どっちが厄介オタクか分からないね……
ほらさっさと次のファンの相手しな」
ぶすっと、機械的に対応をしていた凶一郎は次のファンの顔を見て、さっきまで纏っていた空気が和らぐ。
「凶一郎くんお疲れ様
ライブかっこよかったよ」
「そうか」
言葉は短いが、表情は柔らかい。
あきらは凶一郎と交際している彼女である。
ちなみに本人達は隠しているつもりだが、短い握手会だったりライブでの凶一郎が見つめる視線でバレバレであったりする。
「今日は1人で来たのか?」
「うん」
「後で待ち合わせるか?」
「ううん、大丈夫。1人で帰れるから」
こんな会話をしているのでバレるのも当然だった。
完全に二人の世界と化している二人にスタッフがごほん、と咳をする。
「……とそろそろ時間だな」
「……うん、お仕事頑張ってね」
「ああ」
ちなみにあきらと接した後はちょっとだけ機嫌がいいのも有名なことだった。
「凶一郎そろそろ本番なんだけどいい加減やる気だしてくれないかな」
「嫌だ」
ぐでーーーっと机に項垂れている凶一郎に灰はため息をついた。
彼とユニットを組むことになってしばらく。
彼のこんな調子には慣れたものだが、こんなにやる気が見られないのは珍しい。
というのも最愛の六美が来られない上に来る予定だった恋人まで急用ができてしまった。
このままだとパフォーマンスに支障が出るレベルである。
普段の凶一郎ならファンサはしないもののきっちり仕事をこなすのに……
仕方ない、と灰はスマホを操作してとある人物にメッセージを送る。
ほどなくして凶一郎のスマホに着信の音が鳴るが凶一郎は出ようとしない。
「鳴ってるよ」
「知らん」
差出人すら見ようとしない凶一郎にこれは重症だな、と勝手に操作してスピーカーに切り替える。
『もしもし……?凶一郎くん?』
「!」
声が聞こえた途端凶一郎はがばりと身を起こしてスピーカーをオフにしてスマホを耳に当てた。
「俺だ、どうかしたのか、今日は来れないと言っていただろう」
『うん、でも直接言えてなかったから……
ごめんね、来てくれって言われてたのに』
「気にするな」
『そろそろ本番の時間だよね?』
凶一郎は時計を見てああ、と答えた。
『ライブ頑張ってね、私は見れないけど……
六美ちゃんからも応援してるって言ってたよ』
「そうか、六美にそう言われたならちゃんとしないとな」
明らかに機嫌の良くなった凶一郎に電話越しにくすりと笑う声が聞こえる。
「なんだ」
『ううん、なんでもない、じゃあ、頑張ってね』
プツリと電話が切れる。
「そろそろ行こうか、やる気は出た?」
「ふっ、愚問だな」
凶一郎は笑ってステージに向かった。
慌ただしい大晦日、普通なら家でゆっくり過ごす人が多い中凶一郎は忙しくしていた。
大手番組の年末ライブに参加しそれから所属する事務所が毎年恒例に行っているカウントダウンライブに参加……などとにかく用事が詰め合わせだ。
ゆっくりする暇もなく目まぐるしいスケジュールを凶一郎は淡々とこなしていく。
その様は余裕があるように周り思っていたが実は真逆だった。
ただでさえ忙しいのに大晦日を家族いや六美と一緒に過ごせないと毎年のようにぼやくのを同じユニットの灰が宥めやる気を出させるのが恒例である。
「なんでこうも!毎年!うちは忙しいんだ!!
六美とゆっくりさせろ!!」
「仕方ないじゃないか、昔からそうだったろ??
六美ちゃんも社長業で忙しくしてるんだから……」
「嫌だ!!!俺は六美とゆっくりコタツで紅白を見るんだ!!!」
「あ、紅白といえばそろそろあきらちゃんが出る時間だね」
灰の言葉にぴくりと凶一郎の耳が動きさっきまでぐたぐだ言っていたのが嘘のようにピンと背筋を伸ばしてテレビと向き合った。
なんかデジャブだな……と思っていると画面が次の出演者に切り替わり所属するアイドルグループの曲が始まった。
今年リリースした曲の中で一番ヒットした物が今回の披露するシングル曲だ。
そして今回のセンターはあきらである。
テレビに近づきぴったり間近で見ている凶一郎に苦笑しつつ灰も彼女のパフォーマンスを見守る。
あきらは可愛らしくダンスを踊り画面の外に向かってパフォーマンスをする。
その様子はまるで誰かに恋をしているようでそれに魅了されるファンは多いときく。
だが実はそのパフォーマンスは全て凶一郎に向けられた物であり、それを知ったファンのほとんどがショックで寝込むほどだとか。
後に訓練されたファンはむしろ凶一郎との仲を応援することになるのだが……それと今は関係ないだろう。
凶一郎といえばあきらが踊る様を腕を組み誇り顔で画面を眺めていた。
どうだ?俺の彼女は可愛いだろう?と言っているようで思わず笑うと凶一郎がなんだ?と気に食わないと睨んできた。
ほらほら、パフォーマンス見逃しちゃ駄目だよ、と促し再び凶一郎の意識を画面に戻す。
ふん、と悪態をついて視線を戻すとちょうどあきらがここぞのパフォーマンスをするところだっだ。
『大好き♡』
ちゅっ、と画面の向こう側に投げキッスをして凶一郎は胸元を掴みぐっと呻いて俯いた。
どうやら聞かされてなかったようで凶一郎は知らんぞ……そんなパフォーマンスをするとは聞いてない……くそ……と悶えていた。
ほどなくして出番が終了しても俯いたままなのでカウントダウンライブ大丈夫か?と心配していると勢いよく凶一郎が立ち上がった。
「はぁ――――――頑張るか」
先ほどまでやる気が出ないだのゆっくりしたいと行っていたのが嘘のように清々しい表情になって灰は再び笑ってしまってカウントダウンライブに臨んだ。
カウントダウンは無事大盛況のまま終わり1時間前にステージ上で年を越した。
そのまま所属事務所のアイドル全員で恒例の初詣に向かうと神社の前にあきらが立っていた。
「あ!凶一郎くん、お誕生日おめでとう」
「…………そこはあけまして、だろう……ありがとう
というか何でお前がいるんだ」
すると遠くの方で太陽と話していた六美が口パクで
『サ・プ・ラ・イ・ズ♡』と言っていた。
妹好きな兄としては口パクは嬉しいが急にどうして連れてきたのかと眉間に皺を寄せた。
「急にごめんね?……その……ライブの感想……すぐに聞きたくて……」
「!」
脳裏で数時間前に聞いた台詞がフラッシュバックする。
あきらは寒さのせいか頬を染めて凶一郎の言葉を待っている。
控えめな瞳がこちらを見て期待の眼差しが凶一郎を貫く。
感想?そんなものは決まっている。
パフォーマンスの反応が欲しいことでもなく、容姿を褒めるでもなくて。
凶一郎はあきらの手を握った。
「好きだ」
「……!うん……!私も大好き!」
嬉しいとあきらはふわりと微笑んで二人は見つめ合い神社の中へと足を踏み入れた。
「は!?!?!?水着グラビア表紙!?!?」
「凶一郎くんっ!し、静かに……!周りに聞こえちゃう……!」
久しぶりにお忍びデートでとある料理店に来ていた二人だが、いくら個室とは言え大声を上げては流石にまずいと凶一郎は声のトーンを落とした。
しかし、ああなるのも仕方ないだろう。
だって交際中の彼女が、実はとある雑誌で水着グラビアを表紙を飾ることになった……と唐突に話したのだから。
何でも新しくきたマネージャーが強引にも話を進めてしまったらしい。
「駄目だっ!絶対許さんっ!断固拒否する!」
「そ、そうは言っても……もう写真撮っちゃったし」
「はぁっ!?、なっ………………」
事が早すぎる、何とか回避しなくては…………と眉間に皺を寄せているとあきらは躊躇いがちに聞いてきた。
「……凶一郎くんは私の水着写真嫌……?」
「っ」
水着写真……と聞いて凶一郎は脳内に想像上の姿を浮かべてしまった。
嫌というか欲しいし、喉から手が出るほど渇望するに決まってる。
特大タペストリーで部屋に飾りたい………………と思案して唾を飲み込んだ。
…………だが、これが世に出てあきらのファンが見るかと思うと反吐が出る。
自分以外誰にも水着姿を見せたくない、と独占欲がふつふつと沸き立つ。
絶っっっ対に独り占めしたいと凶一郎はこうなればあの時何としてでも止めておけば良かった……と数年前を思い返した。
あれはそう、高校生になったばかりのことだ。
家に遊びにきたあきらが唐突にこんな事を言い始めた。
「アイドルになりたい……!?」
「う、うん、私も凶一郎くんみたいにアイ……」
「駄目だっ!!!!」
「な、何で…?昔私が大きくなったら一緒にアイドルやろう、一緒に歌おうって約束してくれたよね……?」
真っ直ぐな瞳に凶一郎は視線をそらした。
いとこ同士で幼い頃から仲がよかった二人は昔約束をした。
凶一郎一家は幼い頃より芸能活動をしていたが、あきらの家はそれを許さず中学を卒業するまでは、と許してくれなかった。
私も一緒に歌いたいと泣くあきらに凶一郎は将来一緒にアイドルをやろう……なんて言ったものの……
芸能界の黒い噂や悪評を耳にする今はあきらがあらぬ悪行に巻き込まれないかと心配ばかりしていた。
純粋なあきらの事だ、頼まれたらきっと断れないしお偉いさんに無理やり……とそこまで考えてしまい凶一郎は机を叩いた。
「それは昔の話だろう……!
…………そもそも一緒に歌うのは無理だ、ファンが荒れる」
「じゃ、じゃあそっちは諦める……で、でもアイドルになるだけだったらいいよね……?」
「駄目だ、それにお前中学の文化祭のステージですら上がり症でまともに踊れてなかったじゃないか」
「そ、それは練習して踊れるようになったから……!」
上がり症の方は克服出来たのか?と聞くとあきらは恥ずかしそうに、出来てないです……と真っ赤な顔で告白した。
凶一郎は何かと理由をつけてダメ出しをし、どうにかして諦めるべく誘導していく。
それは業界うんぬんというよりもあきらに誰かしらのファンがつくことがどうしても嫌だったからである。
あきらは何か言い出そうだったが凶一郎の態度に次第に尻を窄め、分かった……と返事をした。
「で、凶一郎に駄目って言われたからあたしに聞きにきたって訳かい?」
「うん……」
「でもあの子が言う事も理解出来るよ
軽い気持ちでやるって言うならあたしの返事も同じだよ
どうしてそんなにやりたいんだい?」
二刃の問いにあきらはポツリポツリ……と思いを話した。
「最初は単純に羨ましかったの、私は……親から禁じられてたから
それだけだったんだけど……立派にお仕事する凶一郎くんや……二刃達みたいに私も一生懸命踊ったり……ファンの人達に握手したり……頑張りたいなって……」
「あんたは十分頑張ってるじゃないか
無理に業界に入らなくていいんだよ」
「うん……凶一郎くんにも同じ事言われた」
「でも納得いかないんだね」
あきらはこくりと頷き真剣な目で二刃を真っ直ぐと見据えた。
「私やる前から諦めたくない
もしも……やってみて駄目だったらその時は諦めるから」
その瞳の奥の意思は固く揺るがない光が灯っていた。
二刃はやれやれ、としょうがなさそうに鞄から1枚のチラシを出した。
「新人アイドルオーディション……?」
「そう、最近新しく開業した芸能事務所『ヒナギク』ってとこが運営するアイドルグループのオーディションだよ
その事務所の社長はりん……って言えばわかるかい?」
「り、りんちゃん!?中学同じクラスメイトだったけど……しゃ、社長って……」
「もちろん、バックに協力者はいるだろうけどね
ただしうちに比べたらまだまだ小さな事務所だ
当然活動出来るステージも仕事も限られてくる
時には自分でビラ配りしなきゃいけないかもだね」
あきらはチラシをじっくりと見て決心が揺らいだ。
彼と胸を張るためには一体どれくらいの困難が待ち受けているのだろう。
二刃が言うには実力主義でコネも効かず自分だけの力で挑まなくてはいけない。
けれどここで立ち止まっていてはそれこそ決意した意味がない。
「私……ここ受けてみる」
「そうかい、頑張るんだね、応援はしてるよ」
「ありがとう、二刃」
「で、上がり症の方は直ったんだね?」
「え、あ―――……マダデス」
「…………はぁ、せめてそれの改善だけでも助言はしといてあげるよ、門出祝いだ」
こうしてオーディションに挑んだあきらだったが、上がり症を克服するべく二刃達に特訓してもらい、何とか審査員の前で多少踊れるようになった。(とはいえまだ毛が生えた程度だが)
そんなこんなで審査を突破したあきらは無事アイドルデビューをし一躍トップアイドル……となるまでには困難が待ち受けていたわけだが、それはまたの機会に。
いつの間にかアイドルデビューをしていた事に後々気づいた凶一郎だったが、実は陰ながら見守っていた。(多々貢ぎ)
社長がりんというのもあってあきらが危険な目に合わないだろうと信頼していたが……こんなことになるなんて。
だがもう写真は撮られている、雑誌に載るのも時間の問題だ……
よし、と凶一郎は立ち上がった。
「事務所に脅迫文を出そう」
「ええっ!駄目だよ!早まっちゃ駄目……!
そんなことさせたら私零さんに顔向け出来なくなる……!
わかった、りんちゃんに話してみる……!
マネージャーさんは社長の許可得たって言ってたけど……直談判するしかないよね……」
とりんに相談してみたところ、なんとマネージャーが独断で進めていた仕事でりんに何の連絡も行っていなかった事が判明した。
そんなこんなで水着写真表紙の件は白紙に戻ったわけだったが……
後日凶一郎は中学の同級生であるりん、聖司と飲み会をしていた。
宴もたけわな、お開きとなったと所でりんが凶一郎に奢れと言い出し凶一郎は何故お前達に奢らなければならん、と眉をひそめた。
「おいおい、もう忘れたのか?
例の写真の件、なしにしてやっただろ?
仕事キャンセルしたから違約金とかで……ピンチなんだよ!」
「ふん、元々とはいえばお前の監督不届きのせいだろう
マネージャーに任せるから悪い」
「うるせぇ!最近忙しくてチェック出来てなかっただけだっつーの!!いつもだったら目ぇ通してるわ!!」
りんは凶一郎を睨みながら、すっとポケットからUSBを出した。
「…………なんだ?それは?」
「ふっ、例の水着写真のデータがここに入ってる……って言ったらどうする?」
「なっっっ………………」
みず、ぎ…………と凶一郎に衝撃が走った。
例の……つまりあきらの撮った水着写真のデータがここにある。
じっ…………と視線が吸い寄せられたのを確信しりんは更においうちをかける。
「なんなら……本来予定してた特大ポスターにして送ってやってもいいぜ?」
「ぽ、ポスター…………」
「そうそう……ここだけの話例の水着な、黒の……」
「カードで払おう!!!!!」
すっっっときらりと光るクレジットカードを高々と上げ凶一郎は商品《夢の写真》をりんから買い取った。
「毎度ありがとうな、むっつりすけべTOPオタクさん」
「くっっっっ……!!!」
そうして凶一郎はまた金を貢ぐのであった。
……と写真を買い取ったものの中々に刺激が強く結局ポスターは部屋の隅っこに鎮座することになったのだが。
数年後後々家の大掃除で発見され、引退した妻に赤面させながら怒られる羽目になったのだった。