凶一郎の婚約者さん
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朝日の眩しさを目に感じ目覚める。
身を起こしさっと、窓にかかったカーテンを開けば心地の良い光が差す。
昨日までうだうだしていた自分はどこにいったのか、とでも言うくらい清々しい気分だ。
窓に手をかけてつい、彼女の部屋の方向をみてしまう。
窓にはカーテンがかかっていて動く気配が見られない、まだ寝ているのだろうか。
寝顔を想像し凶一郎は思わず口角をあげる。
つい先日の事だ。
凶一郎はあきらへの思いを自覚し、その気持ちの名前に戸惑っていたが彼女とやり取りした結果……胸にあった蟠りが消え去った。
つまりは堂々とあきらの事が好きだと、言えるようになったわけである。
ああこうして部屋を垣間見ているだけでも思いが上がってくる、凶一郎は窓の淵にかけた手に力を入れて。
「好きだー――――――!!!!!!!」
森に向かって叫んだ結果唐突な告白に家族になんだ!と怒られてしまった。
慌てて六美への愛を叫んでしまった、と言ったら何だいつもの凶一郎の暴走か……と納得されたようだ。
ふう……とほっと安堵したが、つい誤魔化してしまった。
別にあきらの事が好きだと自ら言っても問題はないのだが……素直に家族に打ち明ける……とまでは上手くいかないようだ。
が、どこか以前と様子が変わったのは家族も気づいている事とは凶一郎は全く想像していなかった。
というのも。
明らかにあきらを見る視線が変わったからである。
六美とは少し違う、明らかに態度が若干デレデレしだしつつある事に本人も無自覚であった。
食事中なぜかずっとあきらを凝視している凶一郎。
チラチラどころかずっっっっと見ているので行儀が悪いと零が注意しようかと悩んでいる事も凶一郎は気付かない。
「………………(あきらが眠そうにしている…………かわいいな……)」
「???きょ、凶一郎……?」
「なんだ??」
「え、えっと……さっきからずっとこっち見てるから………な、何か口についてた……?それとも寝癖……?」
「いや?特に理由はない」
すると更にあきらは何故見られていたのか分からないようで頬を染めて目線を反らした。
戸惑っているあきらに凶一郎はそういう所もまた、可愛いな…………とニヨニヨしていたのだった。
今日のあきら、と凶一郎はノートに筆を走らせた。
今日この日感じた事を文字にしたためようと今日一日を振り返る。
夏休みも残り少ない、今日一日あきらはずっと家にいた。
午前中は残っていた宿題の片付け。
所々分からないようで教えて……と頼み込まれ少々面倒を見ること2時間ほど。
ペンを片手に首を捻る動作など今までにも見たはずだが、そんな有り触れた一面でさえ愛おしく感じる。
ただあまりにも凝視していた為か彼女には早く宿題を終わらせろと感じ取ってしまったらしく、スピードが遅くてごめんね……としょんぼりしながら後ほど謝られてしまった。(後で訂正した)
勉強の面倒見を終え、少々休憩のターンに入ったがなんの用もないのにあきらの部屋を訪れてしまった。
ノックすることすら忘れてしまい、ドアノブを捻り扉を開くとあきらの悲鳴が聞こえた。
「きょ、凶一郎!?!?」
「っっっ!?!?」
そこにいたのは確かにあきらなのだが、服装が違った。
いつもは黒を主体とした服装が多い彼女だが…………鮮やかなワンピースと帽子を被り姿鏡で確認しようとしていたのか、帽子を被ったまま硬直している。
鮮やかなワンピースはまるで陽だまりの様で、眩しく感じる。
オレンジ色の帽子はそこにあるだけで一輪の花を連想し、そうか……彼女はこういう色も似合うのだな…………とうんうんと凶一郎は頷いた。
何か用かとあきらは聞こうとしたが、それよりもこの姿をみられている事が恥ずかしくて帽子を顔の前に持ってきて隠そうとしている。
「おい、何故隠そうとする、というか帽子では服は隠せないぞ」
「あ、そ、そうだけど…………こ、これ京子おばあちゃんに貰ったの、もっとお洒落したらって……じ、自分で買ったわけじゃないよ!!」
「別に自分で買ったっていいだろう……なるほどこの系統の色合いもいいな、候補に…………」
「で、でも、私あんまり着ないから…………に、似合ってる……?」
あきらは帽子を少しずらして凶一郎に問いかける。
似合う?そんなの答えはとっくに決まっているだろう。
凶一郎はごく自然に、似合うと言おうとして。
「可愛い」
「か、かわっ!?!?え、あの、そ、そうじゃなくて似合ってるかどうか……」
「可愛いな、そうだ写真を撮ろう」
「お、お洋服!!そ、そうだよね、お洋服が可愛いよね!うん!」
ワタワタと写真に撮られまいとするあきらに凶一郎はずっとしばらく、可愛い…………可愛い…………と繰り返していたのだった。
夏休みに皆でわいわいと過ごせる日もこの日が最後だ。
ということで皆で人生ゲームをしようとなったのだが。
ルーレットの目に従いゲームを進めていて凶一郎ははたと気づく。
自分の隣で駒を進めているあきらの服装に目を向ける。
あとちょっとすれば就寝なので当然寝巻き姿に着替えている彼女に凶一郎は。
おはようからおやすみまで一緒に暮らしている…………最早結婚していると言っても過言ではないのでは??と思った。(していない)
結婚…………となれば次は子ども…………か?
妹弟の誰かが子ども一人追加ね、と車にピンを差したのが見えた。
子ども…………子どもか。
あまり実感はわかないし今すぐとはいかないだろうが、あと3年もしたら結婚する日が来る。
その後の暮らしに予想はつかないが………………彼女は何人欲しいとか希望はあるのだろうか。
「次凶一郎の番だよ?」
「ん、ああ…………なぁあきら何人がいいか?」
「え?何の話?」
「子どもの話だ」
あきらはルーレットを回してそれが人生ゲームの中の話だと判断した。
とんとん、と車を進めてどう返すか悩んでいる。
「ん――よくわかんないけど……その時に任せるしかないんじゃないかなぁ?(ゲームの中で子どもの人数って決められたっけ?)」
「…………そうだな、その時によるよな」
確かに子どもは授かり物という、今あれこれ考えても仕方はないのかもしれない。
いまいち会話が噛み合っていないのだった。
………………とノートに書き留め隠し場所に置く。
まだまだ書き足りない、そのうちノートでたくさん埋まってしまうかもしれんな……と顎に手を置く。
…………とカレンダーが視界に入る。
短いようで長いような、今年の夏休みは凶一郎にとって特別な夏休みとなった。
明日から学校か、また学校生活と任務の二重生活が始まる、あと半年でこの生活ともおさらばだ。
次の日。
学校再開一日目、今日は始業式だけなので半日登校するだけだ。
とはいえ凶一郎は生徒会長なので多少はやるべき事はあるがそれでも授業を一日ずっと受けるよりはやることが少なく楽だ。
身支度を整えて玄関に向かうと既に準備を済ませていたあきらが待っていた。
「今日から学校だね、一緒に登校しよう?」
「…………………………」
にっこりと笑うあきらに対し凶一郎は笑顔どころか眉間に皺を寄せてそれはもう怪訝な表情に変わった。
あと一歩進めば雷でも落ちるんじゃないかと思うくらいゴゴゴ………………と不機嫌に変わっていく。
「きょ、凶一郎…………?」
「……………………ないか」
「え?」
「スカート!!!!短くないか!!!!」
ええ!?!?とあきらは驚愕し、履いている制服のスカートの丈を見てオロオロと狼狽えている。
みじ…………短い???いつも通りだけど…………と首を捻るあきらに凶一郎は以前として、カッカッと憤っている。
「いいや!!!!短いぞ!!!!!そんな肌を晒して!!!!!襲われたらどうするんだ!!!!」
ぼそり、と肌が見えてえっちだろう…………と小声で呟く。
玄関先のいざこざになんだなんだ……と他の妹弟がわらわらと出てくる。
「なんだい、うるさいねぇ」
「おい、二刃、あきらのスカートの丈短くないか!?!?そうだろう!?!?」
「普通だよ、規定通りじゃないか」
「肌が!!!見えてる!!!!」
「前からそうだったよ、変だね、この子は」
この頃様子がおかしくないかい?と怪訝な視線で見る二刃に嫌五はそうかー?とのほほんとランドセルを背負った。
「シスコン兄貴なんて、いつも変だろ」
「おい、嫌五お兄ちゃん がいつも変だなんて出鱈目言うな、いつもカッコいい……だろう?」
「うわ、キモ、つーか生足とか肌が……ってるけどんなもん出てねーのと同意義じゃん、どこにドギマギしてんだよ、むっつり」
「むっっっっ……!?!?!?」
バカな事を言うなと言おうとして言葉が喉に引っかかる。
むっつり、俺はむっつりなのだろうか。
いや、そんな事は、夜桜家の長男としてそんなカッコ悪い性質なんて…………
「こんなんで動揺してどうすんだよ、真っ裸のねーちゃん見たら……」
「嫌五!!!!!!」
「いでっ!!!」
「まっ……………………」
数年前まで一緒に風呂に入っていたはずなのに、そのワードを聞くだけで血が沸騰する。
つまりは脳内に肌色多めのあきらを連想してしまい、凶一郎は固まってしまった。
そんな凶一郎はさておき、危ない発言をした嫌五に二刃がチョップを当てる。
硬直したままの凶一郎にやれやれと声をかけようとした二刃は凶一郎の異変に気づいた。
「凶一郎…………!?」
「た、大変……!!ち、血が……!」
「…………血?」
と言いかけてぽたり、と床に赤い血液が落ちた。
その出処とは…………当然凶一郎の鼻、であった。
ぎゃあぎゃあと再び玄関先が喧しくなる光景に頭を擦っていた嫌五は、やっぱむっつりじゃん、とぼやいたのだった。
騒動の末、問題なく(?)登校した凶一郎は大勢いる他の生徒達の前で威嚇していた。
…………というのも。
どの男子生徒もあきらを好意の目で見ていると思い込んでいるからである。
(どいつもこいつも……!!!全員!!!!!あきらを見ている!!!!敵!!!!!邪な気持ちを向けているに違いない!!!!!!)
そんなことはない…………のだが凶一郎は何故か今になってバチバチに嫉妬心を燃やしているのだった。
その対象は友人にも向かい…………
「なぁ、あいつなんでこっち睨んでんの?なんかあった?」
「え??うーーん、分かんない…………今朝もちょっと家でドタバタしてて……」
「あとお前と話してると更に睨みがキツくなるような気がするんだが…………」
「そこ!!!!!ヒソヒソ声で話すな!!!!!!」
聖司は友の苛立ち様に理由が検討つかないようで困り果てた。
なお、灰は何となく悟っているらしいが…………
くわっと苛立っている凶一郎にとことことあきらが近寄りとんとんと、肩を突いた。
「っと、急に突くなびっくりす…………なんだ?これは?」
「はい、お菓子、甘いの食べたら落ち着くかもって
お茶も淹れるね」
「ん、ああ……」
さっきまでの暴れようはどこにいったのか、急に静かになりお茶を淹れるあきらを見つめるその甘い視線に…………
聖司はあーーーなるほどね、と納得した。
ほわほわと暖かい湯気が立ち上るのをぼーーっと眺める。
いやというよりは心我あらず……のあきらに二刃は心配していた。
「あきら?」
「………………」
「あきら!!!」
「あっ…………ごめん、二刃、何…………?」
やっと返事をしたあきらに二刃はため息をつく。
そろそろ上がりたいところだが………………まだあきらは入るのだろうか。
もう既に十分体は暖まっていると見えるのに、まだ上がる気配が見えない。
「あたしは上がるけど、まだ入るのかい?」
「うん……もうちょっとだけ……」
「………………のぼせないでおくれよ、ただでさえあんたは体調に鈍感なんだから」
「うん、分かってる」
本当だろうか、と半信不振で立ち上がるとあきらの体がよく見える。
年齢は一つしか違わないのに、胸囲の差を感じ二刃はささっと上がっていってしまった。
理由が分からないあきらは熱かったのかな?なんて思いながら天井を見上げた。
こうしていると、いやこの頃ずっと…………凶一郎の事を考えてしまう。
いつからだったか、夏休み中から凶一郎が向ける視線が…………表情が変わったような気がして。
甘く、熱く、帯びる視線、感情が。
こっちに向いているとそう思ってしまう、そしてこれまで以上に彼の事を思うと体が熱くなってしまう。
気恥ずかしくてぶくぶくと顔を湯船の中に埋めた。
むず痒くて、暖かい、感情が顔を出す。
ぷは、と水面から顔を出しぼんやりと再び天井を眺める。
「凶一郎………………」
好き、大好き。
ずっと前からずっと……………………
でも彼から向けられる感情が自分と同じかなんて考えたことがなかった。
昔交わした約束はままごとの延長線みたいな感じで決して本当に好かれてるなんて分からない。
そういえば好きなんてちっちゃい頃を除いて言われた事なんてないな……六美ちゃんにはたくさん言ってるのに……
だからそんなことなんてない、って思い込んできたのに。
最近変わった様子に惑わされて仕方がない、惑わされていいんだろうか…………
「………………凶一郎も特別、だったらいいのにな……」
ぽつりと呟いてあきらは湯気が立つ空間の中、視界が薄れていった――――
「………………あきら」
よく聞く声に目を覚まして瞼を開けるとぼんやりといつも知っている天井が見えた。
これは…………自分の部屋…………?と思うものの思考が纏まらず体を動かそうにも何故か全身気怠く熱くてままならない。
さっきまで自分は何をしていたんだっけ……と思っているのが分かったのか声の主……凶一郎は状況を説明した。
「覚えていないのか?お前湯船でのぼせてたらしいぞ」
「あ………………そっか……」
「二刃が様子を見に来たら案の定…………というわけだ」
心配したんだからな、とぼやく凶一郎がストローを差した飲み物を口元に差し出す。
パクリとストローをくわえて吸うと失われていった水分が喉を通って体を潤した。
それで楽になるかと思いきやよほど長く浸かっていたせいかしばらくベッドの上から動けそうにもない。
ぼんやりと様子を見ている凶一郎に視線を動かしてふと、彼の頬が腫れている事に気づいた。
「ほっぺた…………赤い…………?」
「ん?これが気にかかるか?お前の方が赤いぞ」
「そう……?」
これに関してはな……と凶一郎はバツが悪そうに答える。
というのも二刃が大慌てで零を呼ぶので理由を聞いた凶一郎が俺が湯船から運び出す!!!と浴槽の中へ突入しようとした為らしい。
当然裸なわけで二刃の制裁は当然とも言える。
ふふ、と笑うと頬に凶一郎の手のひらが当てられた。
当然のぼせている本人よりは低い体温に思わず目を閉じかけてしまった。
とろんと微睡んで、冷たくて気持ちいいと微笑みかけると凶一郎の顔も紅潮した。
赤く上下した頬、うっすらと汗ばんだ寝巻き、暑そうに漏れ出る吐息は凶一郎を煽るには十分で。
ゆっくりと徐々に距離を詰めて……の所で母の零が様子見に来てしまった。
ドアが開くのと同時にベッドから飛び去り凶一郎はそわそわと部屋から退散した――
廊下を上機嫌でスキップする。
厳密にいえばスキップしているわけではないのだが、それくらいに気分は舞い上がり、足が地面についていないような感覚さえある。
ここのところ凶一郎はずっと顔がニヤついていた。
感情を表に出さないというセーブがぶっ壊れており、実のところダダ漏れであった。
そんなこんなでこの状態が続けば流石の彼女も気づく事になるのだが………………
「凶一郎」
「?父さん?」
と、ここで凶一郎の不自然な行動にストップがかかることになる。
とはいえ百自体は止めようと思っていたわけではないのだが、凶一郎が思春期なのもあって思わぬ方向に転がりこむ事となる。
「最近やたらと機嫌がいいな」
「そうか?いつも通りだと思うんだが」
「いーや、父さんには分かる……ふふ、恋の浮かれ……か」
「こ……!?な、何で…………」
見れば分かるぞ!!!と百はノートパソコンを持ち出し家に仕掛けられたカメラに残された過去映像を凶一郎に見せた。
そこに映っていた姿は………………とんでもなくだらしなく舞い上がって、情けない(本人感想)姿を晒している自分だった。
「いやーー実にいい表情をしているな、豊かだ
どうした?凶一郎」
「…………………………カッコ悪い」
「え??父さんはそうは思わないぞ??ハメを外したっていいじゃないか、それに六美の時も似たような物……」
「それと!!これとは!!全然違う!!!」
バタン!!!!!とノートパソコンを勢いよく閉じて凶一郎はプンプン怒って自室に帰っていってしまった。
百は決してからかおうと思って本人に声をかけたわけではないのだが……凶一郎はすごく恥をかかされたと受け取ってしまったようで。
凶一郎は深く心に誓った。
もうあんな情けない姿を晒してたまるか……と。
その為にはいくらドギマギしても表に出さないようにコントロールせねば…………
彼女には悪いが出来るだけ思いを封印しよう……と心がけた結果。
ここ最近の違和感が消え失せすっかり元通り……に見せかけている凶一郎を見てあきらはやっぱり気の所為だったんだ……と思う羽目となってしまったのだった――
「凶一郎?おーい、寝たのか?」
「…………いや、少し考え事をしていただけだ」
「へーえ、って結局質問には答えてくれねぇのな」
「答えるメリットが見つからん…………っと、そろそろ帰る」
いつも通りあきらをおぶって帰ろうとする凶一郎に聖司はふと気になって再び質問を投げかけた。
「そういや、毎回おぶってるけどお姫様だっこはしねぇの?」
「…………する必要はないだろう」
「いや、背中におぶるよりは片手くらい自由に使えるんじゃね、と」
「ふん、両手が不自由になったくらいで特に支障はない」
本当は違う。
凶一郎は酒に強い、酔った事なんて記憶にない。
それでも万が一の事があったらと思うと姫抱きなど到底出来ない。
そんな予感がするくらい簡単に転げ落ちてしまう……と心のどこかで思っていた。
寝たままの彼女にキスをするなど……してはならないことだが、うっかり一線をこえてしまいそうになった事がしばしば。
その度に引き返して事なきとなっているが……それもいつか本当に越えてしまうかもしれない。
結婚するその時まで、決して踏み越えてはならない。
再び固く誓って凶一郎は帰路に着いた。
「………………ん」
「起きたか」
「ここどこ……?」
暖かい、カイロにでも貼り付いているのだろうか。
じんわりと温みのある物体に擦り寄れば物体の主が身じろいだ。
それが凶一郎である事とおぶられている事に何となく察しがついた。
そうか、今日も眠ってしまったのだな……と不甲斐なく思う。
「ごめんね……私……また……今からでも……」
「まだ着くまでに時間がかかる、もう少し眠っていろ」
「でも…………」
「道中また眠られてもこっちが困る、まだ眠たいだろう」
実際まだものすごく眠たかった。
瞼を必死に開けようとして何度も閉じかけている。
凶一郎が優しく声をかけてくれるからか、段々と意識が微睡んでいく。
再び夢に落ちていく中で。
遠い昔の事を思い出した、何故だろう。
「きょういちろう…………すき……」
「……………………」
ぽつりと、思いを吐露したかと思うとすうすうと寝息を立てるあきらに凶一郎はため息をついた。
言うだけ言って寝たか、こっちの気持ちも知らないで……
いやこんなにネジ曲がってしまったのも俺のせいなのだが……と苦笑する。
全くもってこんなに遠くまで来てしまった、あの時素直に居続けられたのならこんなに厄介な事になっていなかっただろうに。
もし中学の頃に彼女と気持ちを通じ合っていたら何か違った未来になっていたのだろうか、と想像するも今となっては関わりのない事だ。
せめて今から出来る事は。
「俺もお前と同じ気持ちだ」
来たるその時を迎えるべく。
準備をするだけだ…………と計画を練った。
彼女は果たして喜んでくれるのだろうか――――
