凶一郎の婚約者さん
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「はぁ…………」
凶一郎はベッドから起床し、ため息をつく。
結局昨日はよく眠れなかった、来年から不眠の生活を送ることになるので慣れる為に元々睡眠時間を削っていた凶一郎だったが、昨日は別の要因で眠りにつくことが出来なかったのである。
その要因とは…………あきらの事だ。
妙に彼女の事を急に気にかけてしまい、夢にまで出てきてしまって勢いよく飛び起きたのが午前3時。
また出てくるんじゃないかと思うと心臓がバクバクしてばっちり目が冴えてしまっていた。
そろそろ皆起きてくる頃合いだ、身支度を済ませて居間に下りなければ…………と着替えて自室を出るとちょうどあきらと居合わせた。
「おはよう、凶一郎」
「あ、…………お、はよう……」
微笑まれ凶一郎は幾度となく交わした挨拶だと言うのに真正面から言いにくくてつい顔を反らしてしまう。
あきらの方は急に余所余所しくなった凶一郎に?と少し疑問に思っているようだが……他の妹弟に声をかけられた事で消えたようだ、とほっと安堵する。
あともう少しで夏休みも終わりだねーと話す彼女から凶一郎は視線が外せないままだった――
それからというものの、凶一郎は何かとあきらを意識してしまうようになってしまった。
何となしにやりとりする会話、暑そうに髪を纏める動作……今までは全く気にもしてなかったのに。
脳内は彼女の事でいっぱいだった、会話する度に体温が上がり、胸が苦しくなり。
それでもっと近づきたい、彼女に触れたい…………と欲望が渦巻く。
そんな悩みを抱えた凶一郎は今一度彼女への思いを明確にすべきだと、自室で頭を冷やすべく気持ちの整理をつけることにした。
このまま突っ走ってもいいが……万が一違った場合など打てる手は打っておかないと……と言い訳のようにぶつぶつ呟く。
さて、今一度整理しよう、あきらとの関係性は?
そう、幼い頃に結婚の約束をした婚約者だ、彼女が夜桜家の血を理由あって覚醒させてしまったが為にゆくゆくの事を考えると誰かに嫁がせた方がいい……と幼い頃父が話していたような気がする。
確か…………結婚の約束をする前だ。
あの頃は……結婚など現実味がなくただ彼女と楽しく過ごせたら……なんて浅はかな思いを抱いていた。
今から思えば自分も子供だったのだな、としみじみ思う。(中学3年生)
……と視点がずれてしまった。
自分が問いたいのは彼女への思いがLOVEかLIKEか……それに尽きる。
言わずもがな昔からの付き合いで間違いなく好きだとは言える、だがその思いがどちらか凶一郎には確信がなかった。
決定していいものか、その二択の間で彷徨っていた。
…………はぁ、六美の事なら間違いなくLOVEと言えるのに……と顔を俯いて布団に鎮座したままのクマのぬいぐるみと対面してしまう。
…………やめよう、見えるとこにおくのは自然と彼女を連想してしまう……いや隅っこなんかに置いといたら悲しむのでは??駄目だ、あいつが泣くところは絶対に見たくない。
物置に仕舞うか否かをうんうん唸って迷い結局ベッドの上に定位置に収まったクマだが………
やはり見ているとあきらを連想してしまう。
連想してしまっただけで鼓動が跳ね上がり胸がしめつけられる。
毛糸をあいつの髪、体をあいつの体………………とつい変換してしまい、凶一郎はクマに抱きついてしまった。
離れようにも離れられない、もっと抱きしめたい、接近したいと……願ってしまう。
これは…………恋患い………………なのだろうか………………
答えが決まらないまま、数日が経過した。
今日も今日とて庭にあるベンチに一人で座り凶一郎は考えこんでいた。
しかし結局考えはぐるぐると回るのみであり、解決しなかった。
となれば誰かに相談するのが普通なのだろうが、凶一郎にはその選択肢はなかった。
というか浮かんでも相談する事自体に抵抗心を感じ自分一人で堂々巡りする悪循環。
これをどうしようかと思い悩んでいたその時。
ベンチで項垂れていた凶一郎の前にあきらがひょっこりと現れた。
「凶一郎、大丈夫……?」
「いや別に…………」
「だってこないだからずっと暗いもん、何か悩んでる事でもあるのかなぁって見守ってたんだけど……」
私でよければ相談に乗るよ、と言われ凶一郎は話すかどうか迷った。
なんせ頭を悩ませている張本人だからである。
言おうか迷って凶一郎は素直に打ち明けることにした。少し、内容を変えてだが。
「これは…………俺の知り合いの話なんだが悩み相談を
されてな、答えに迷っているところだ」
「知り合い?スパイ関連?学校関連……?」
「………………まぁそんなところだ」
答えをはぐらかされたあきらははてなマークを浮かべながらも凶一郎自身ではないのだと判断した。
立っているまま聞くのもなんだと思ったのか、隣にちょこんと座り相談内容をじっと待っているあきらに凶一郎はまた胸を掴まれた。
んん、と喉を鳴らし本題に入る。
「その悩み相談なんだが……恋、の相談かもしれない」
「かもしれない??違うの?」
「いや、その、本人がな、わかりかねているというか、決めかねているというか……」
「????」
いまいち言葉が煮えきらず凶一郎は頭をがしがしとかいた。
これでは拉致があかない、と一呼吸おいて。
「…………要は……そいつに仲良くしている女子がいるんだが、そいつに向ける感情が友情なのか、恋愛なのか、ということだ」
「うーーん…………難しい相談内容だね……
気持ちは本人にしか分からないもんね……」
「その本人ですらわかりかねているからな、相談したところで意味はないのかもしれない」
「でも、誰かに聞いてもらえるだけで意外と答えが見つかるかもしれないよ?」
確かにそれもあるか…………と小さく頷く。
実際に聞いてもらえるだけでさっきまでぐるぐると回り血で滾っていた頭が冴えきっていくような気がした。
「悩んでいるのはLIKEかLoveかどっちかなんだが……
何か判断材料になるものはないか??」
「ん?うーーん…………どっちか…………
そうだなぁ……その人はその女子さんに接するとどういう反応してるの?」
「は、反応…………例えば…………少し触れ合っただけで心臓が掴まれたかのように痛くなったりとか……だ、抱きつきたくなる……とか……目があっただけなのに嬉しくなったりとか…………と!!!聞いたな!!!」
あきらはうんうん、と凶一郎の言葉を真面目に聞いて頷いている。
…………本当に俺の事だとバレていないのだろうか…………と凶一郎は今更不安になってきた。
いや、彼女は俺の事が好きだし、好意がバレた…………というか判明したところで何も差し支えは…………と思っている凶一郎はあきらの言葉に動揺することになる。
「どうだ?お前はどっちだと思う?」
「ちょっとしか聞けてないけど……うん、やっぱりそうかな
私は恋愛的な好き…………だと思うよ」
「…………そうか、何故だ?」
「?だって……私も…………似たような思いを持っているから」
「なっ!?!?!?!?」
さっきまで澄み渡っていた思考が真っ白になる。
似たような?つまり?あきらが誰かに恋愛的に好きという感情を向けているだと????
真っ白になったかと思いきや感情が全て黒に塗りつぶされる。
今までずっと…………ずっと、ずっと、俺の事を。
俺の後ろを歩いて、将来結婚しようね、と約束をして。
目が合えば微笑み、時折頬を染めて。
好きだと、気持ちを言う機会は少ないが俺の事が好きなんだと、昔から自覚していた。
それなのに、恋愛的に好きな奴がいるだと???俺以外で???
つまりは俺の事が恋愛的に好きではなかったということになる。
そんなの………………そんなの………………!!!絶対に許さない!!!!!と思わず拳に力をいれようとした時。
「凶一郎、ちょっと手を借りていい?」
「っっ、あ、あ、あぁ…………構わないが…………」
「ありがとう」
あきらは凶一郎の手を両手で優しく包みこんだ。
どきっと、胸が高鳴る。
たったそれだけなのに、さっきまでの黒い感情が消え去り桜色に染まった。
あきらはなにを…………?しようとしているのか……?と混乱する。
あきらは深呼吸をして。
「………………凶一郎…………大好き」
「っ!!!」
突然の愛の告白に一気に体温があがる、脈があがる。
…………視線が…………あきらから反らせない、反らしたくない。
むずむずと判別しようのない衝動が体を駆け巡り、地を駆けたくなった。
あきらは頬を染めたまま…………ちょっとごめんね、と断ってから凶一郎の手を自身の胸……心臓がある辺りに押し当てた。
「あきら!?!?!?」
そっと、優しくだけだが、手に柔らかい感触が伝わる。
心臓がある位置とはいえ僅かながらに女人の大切な所に触れてしまい、凶一郎はあきらの行動に更に混乱した。
「お、おい…………」
「聞こえる?」
「な、何がだ」
「わ、私の…………心臓の音…………」
心臓の音…………と凶一郎はゆっくりとその心臓に意識を集中させた。
どくん、どくん……と速く、心臓が高鳴っている。
この心拍数は…………と正確に測定しまったが、それ自体は何も意味をなさない。
この鼓動は………………これは…………と今この時、凶一郎の心臓の音と同じくらい速く動いている。
「分かった……?」
「わ、分かった…………」
良かった、と少し手を胸から離して包みこんだままあきらは続けた。
「私ね…………凶一郎と話したり……触れ合ったり…………気持ちを……言うだけで……こんなに心臓が速くなっちゃうの
ドキドキ…………って胸がしめつけられたみたいに……痛くなって、でも嫌じゃなくて……」
「……………………」
「凶一郎は………………昔から大切な人だけど…………勿論皆も大切で…………でも、凶一郎だけ…………違うの
凶一郎は…………私の特別な人……だから」
「とく、べつ……」
「うん、特別、だから………その人も…………悩んでる感情も…………特別、じゃないかなって…………」
つらつらと自分の思いを述べていたあきらははっと手を繋ぎぱなしな事に気づいて慌てて手を離した。
「あっ!!!その!べらべら喋っちゃったけど本人さんに伝わらないといけないもんね!!!これで分かる、かなぁ!?」
「………………いや」
呆然としていた凶一郎だったが、先ほどまで悩んでいたのが嘘かのようにいつも通りの笑みを浮かべていた。
「だいたい分かった、本人に問題なく伝わるだろう
………………礼を言う」
「そう?良かった、私のアドバイスで解決?したみたいで」
「その礼と言ってはなんだが、紅茶でも淹れよう」
「え?大したことしてないのに……いいの?」
「ああ、構わん」
凶一郎は心の中で呟く。
六美とは違う愛、特別、今までずっと……眠っていたなんて知らなかった、自覚していなかった。
それが一気に霞が消えた。
迷いが晴れ凶一郎はあきらの横で再び笑みを浮かべたが、向ける視線はこれまでと違い、意識して向けた。
どうやら………………俺のこの感情は、特別、というやつらしい。
