凶一郎の婚約者さん
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[ハートが見える]
朝、起きると人の周りにハートが浮かんで見えるようになっていた、こないだ飲んだ七悪の薬の影響だろうか……
「おはようございます!!!太陽様!!!」
「お、おはよう殺香…………」
ふんすと距離が近い殺香の周りにはやはりハートが浮かんでいる。
ところどころ形が歪んでいるのは気の所為なのだろうか……
それにしてもこのハート俺以外には見えていないらしく誰に言っても太陽が疲れて幻覚が見えていると言い本気にはされなかった。
「六美ーーー!!!!おはよう!!!!!ちゅっ」
「お兄ちゃん、キモチワルイ、近寄らないで」
冷たい妹にむせび泣く凶一郎の背後には天井にまで届きそうなハートがそびえ立っている。
おおう……と少し引いていると凶一郎はそんな太陽に訝しげな表情をしていた。
「おはよう、凶一郎」
「おはよう」
「おはようございます……ねえさ……」
同じく起きてきた義姉に挨拶すると太陽は彼女の周囲に浮かんでいるハートの多さに驚愕した。
凶一郎と話す度にハートが増えてもう本人も多い尽くそうとしていた。
こっちにまで飛んでくるのでそれを払っていると二人は太陽の態度に首を傾げている。
ちょっと虫が……なんて誤魔化しつつふと太陽は凶一郎兄さん側からはハートは出ていないのだろうか……と思った。
少なからずあきらの事を思っているには違いないので凶一郎の周囲を見ると傍に小さなハートがころんと床に転がっていた。
これか……?とそっとそのハートを持ち上げると……
「おっっっっっも!!!!!」
「!?!?」
ありえないほどの質量だった。
こんな小さいのに何が詰められてるんだ????と不思議に思っていると上から義弟が何も無い空間を持ち上げて変な挙動をしていると二人から不穏な視線を感じた。
「そういえば……二刃が……太陽がハートが見えるとか……なんとか言ってたような……大丈夫??」
「ついに幻覚が見えるようになったか」
「な、七悪の薬の効果ですって!!!!
ああもう七悪が任務で居ないから余計ややこしい!!!とにかく!!!ちょっとすれば落ち着くと思うので!!!」
何とか誤解をといた太陽は六美から色々と心配され(お兄ちゃんのせいとか何とか言っていた)六美に関しても大丈夫と宥めていたところふと六美の周りに何も浮かんでいないな……と気づいてしまった。
「………………」
「太陽?どうしたの?」
「いや、なんでもない」
見えないのがなんだって言うんだ。
見えなくとも六美が俺を愛してくれているのは理解している、と太陽はにっこりと笑った。
それもそのはず六美の太陽へのハートは屋敷を覆い尽くすほどでかかったのだから。
なお太陽から六美へのハートはそれ以上に大きいことは本人は知る由もなかった。
[夢主が猫になったら]
「………………なんだ、その姿は」
「あ…………おかえりなさい、凶一郎……えっとこれは……」
任務を終え、自宅に帰ると何故か四つん這いでボールと戯れている婚約者の姿があった。
ご丁寧な事に茶色の猫耳としっぽをつけている……いや生えている…………
あきらは恥ずかしそうに、こ、これは遊んでたじゃないの!訓練なの!と言い張るが言動とは裏腹に手でボールを転がしていた。
一体何なんだこれは、と呆れていると六美がこっそり寄ってきた。
「あのね…………」
アイが夜桜家にやってきて、しばらく経った頃だった。
太陽は六美に相談をもちかけた。
「アイさんの様子がおかしい?特に変わった様子はないけど……幼稚園も普通に行けてるみたいだし」
「……そこなんだけど……ちょっと引っかかって……
幼稚園の先生も周りの子達と仲良く出来てますよ、って言うしアイさんもお友達できた!って言ってた」
「でも何か引っかかるのね?」
「ああ」
その後ゆっくりと時間をかけてアイと話したところ、『アイさんは普通の女の子じゃない、皆は気にしてないだろうけど……それでも気になっちゃって……』とアイは話した。
タンポポの実験により大狼犬の血が入った彼女は頭に大きな犬の耳としっぽがある。
それを完全に隠すのは難しくどうしても周囲とドコカ、違う点を気にしてしまっていた。
勿論、お友達はきっとそんな事を気にしていない。
けれどそれを理解するのには少し時間がかかるだろう。
一時的とはいえどう彼女のもやもやを晴らすべきか……と六美と相談していると偶然義姉に聞かれてしまった。
すると彼女はこういった。
『じゃあ皆に動物の耳が生えたらいいんじゃないかな?』
というわけで言い出しっぺのあきらがまず第一の実験体となったわけだが、最初というのもあって調整が上手くいかず単に生えるのみならず習性まで根付いてしまったようだ。
そしてあきらはアイに目の前で猫じゃらしを振られわしわしと両手で掴んでいた。
しかしこうも猫と化してしまったあきらを見てどう反応すればいいのか……
それが二人きりなら気にしないのだが、周りに妹弟がいる前では少し躊躇ってしまう……と思っているといつの間にかアイが目の前にいた。
するとアイは満足した!と笑顔で凶一郎に猫じゃらしを差し出した。
「はいっ!あげる!」
「えっ…………あ、ああ……」
「たくさん遊んであげてね!」
遊ぶ?たくさん?何をどうやって遊べばいいんだ……とこれをどうすべきか、他の妹弟にでも強引に押し付けてしまおうかとひゅっと下に下ろすとボールと再びじゃれていたあきらの視線がぴくりと動いた。
「……………………」
すすす……とゆっくり猫じゃらしを移動させるとあきらの目線だけがそれを追う。
獲物を狙う本能的な猫の仕草を彼女がとっていると思うと心境複雑なところではあるが……凶一郎は試すようにぱっと素早く猫じゃらしを動かした。
ぱしっ!と猫じゃらしを捕まえた!!!と嬉しそうに微笑むあきらだったが、そもそもの行為とまじまじと凶一郎に見られたと実感し顔を真っ赤にした。
「こ、これは…………薬のせいで…………」
「そうは言いつつ猫じゃらし離さないんだな」
「ち、ちなみになんだけど…………これたくさん遊んで発散させないと効果切れないらしくて…………」
道理で猫用のオモチャがたくさんあるはずだ……
あきらは恥ずかしそうに凶一郎を見上げる。
「…………だから……えっと…………たくさん遊んで欲しいなって……」
「……………………っ」
あきらの言葉にかっと血が沸騰したかのような錯覚を受けた。
沸騰通りこして少し頭に来るくらいの衝撃が走る。
凶一郎は怒り全面にありったけの猫のオモチャをとってキレながら元に戻すべく奮闘したのだった。
[凶一郎が猫化したら、本編if]
帰宅すると、何故か家族全員疲労困憊した状態で床に倒れていた。
何事かと近寄ろうとするとあきらの横をナニカがものすごいスピードで通り過ぎていった。
それが婚約者である凶一郎と気づいて彼の体の異変と行動が異常な事に気づいた。
まず頭に見える黒の猫耳、腰あたりに生えた尻尾。
明らかに猫の耳と尻尾をつけた凶一郎は威嚇するように四つん這いになってこちらを睨みつけていた。
スパイデーに撮られたらもう二度と裏社会に出られない様子の凶一郎はふうううう……と唸るように威嚇している。
あきらはただ困惑して、つい七悪を横見するとごめんね?と可愛らしく両手を合わせて謝罪するが、本当に謝罪しているのだろうか……
どう見ても本能的に猫化している凶一郎は六美を守ろうとしているのかひたすら近づこうとしている者を攻撃しているようだ。
特に太陽にだけ当たりが強いらしく、本人も六美も兄の扱いに困っているらしい。
「凶一郎、ほらこっちおいで」
とりあえず疲弊している六美から引き離すべく手を差し向けるとばしん!と手を叩かれて拒否されてしまった。
凶一郎から拒否された…………と真っ白になって固まったあきらを太陽が必死に励ました。
「き、きっと猫の習性?のせいですよ?
た、多分…………姉さんの事が嫌いになったわけとかじゃないと思います」
「そうかな…………」
膝を抱えて涙目になって落ち込んでいると六美の傍でくるまっていた凶一郎の猫耳がぴょこんと動き、あきらの背中にぴったりとくっついて寄り添ってきた。
顔はこちらに見せないけど確かに感じる温もりに涙が止まる。
ほらね?大丈夫でしょう?と柔らかく太陽が微笑むと凶一郎から強めの猫?パンチをくらい、太陽は何で俺だけ!?!?と絶叫した。
それから何とか猫凶一郎を静めるべく様々な方法をとった。
普通の猫じゃらしでは何も反応せず、六美の写真や六美の着ている服を使用することで体力を消耗させ(六美は青筋を浮き立てていた)。
格闘すること数時間、やっと静かになった猫凶一郎は満足したようで自室に帰っていった。
七悪によると翌朝には元に戻るだろうと私含めて妹弟はようやく就寝出来ると安堵した。
静けさを取り戻しようやく安心して眠れる……と寝巻きに着替えてベッドに入って睡眠に入る。
翌朝凶一郎が今日の出来事を覚えていない事を祈りつつ微睡む中、ふとごそりと温かい感触を感じあきらは瞼を開けると何故か目の前に凶一郎がいた。
つい反射的に逃げようとして、腰に手を回されてて更に密着してしまう。
ベッドの中に侵入してきている凶一郎にぼっと火が出るみたいに頬が熱くなる。
唐突な事に思考がおいつかずきっとこれは夢なんだと思い込むことにして、現実を遠ざけた。
夢……と思えば恥ずかしくない……いやそんなこともないけど……と改めて凶一郎を見るとすやすやと寝息を立てていた。
「……………………」
ぴくぴくと猫耳が動き、とても穏やかな寝顔に恥ずかしさなどいつの間にか消えていてあきらは頬を緩ませた。
腕を伸ばして彼の黒髪をとても愛おしく撫でる。
きっと精神が猫になった事もあるのだろうが……あまり睡眠をとろうとしない凶一郎の珍しい寝顔に微笑んだ。
「おやすみ、凶一郎」
柔らかい日差しが顔に当たり、微睡んだ意識が表側に浮上する。
「………………」
自分はどこで何をしていたのか、そもそもここはどこなのか。
うっすらと目を開くと気持ちよさそうにすやすやと眠っているあきらがいた。
「は???」
素っ頓狂な声を上げて凶一郎はぽかんと呆けた後ここが彼女の自室で一緒に眠っていたと分かるな否やぶわっと冷や汗をかいた。
急いで自分とあきらの服の状態を確認して何事もなかった……と分かりほっと安堵する。
それにしても何故自分は彼女のベッドで眠ることになったのか、起こして事情を聞かねば……と思い体を揺らすとむくりと身を起こした。
と、同時に頭からふわふわで茶色の猫耳がぴょこんと現す。
実はあきらも七悪から似たような薬を貰っていて時間差で現れたことなど知らない凶一郎は、お前寝ている間にそんな飾りつける癖なんてあったか?なんて不思議に思っていると何と自分の胸元に擦り寄ってきてくっついてきたではないか。
「なっ!?!?お、おい……!」
スーツ越しに作り物ではない毛の感触を感じそれが本物である事を悟ったが、それが本物か偽物だとか最早どうでもよかった。
距離が近い上に甘い匂い、それと寝巻きが若干ずれたことによりうっすらと見える素肌……
ちらちらと胸元が見えてしまって、僅かに柔らかい感触がふにふにと当たる。
むずむずとよくない欲求が湧き上がりなんとか引き離そうとすると悲しい目をして、にゃん………………と愛くるしい言葉を発したものだから。
もう俺は………………我慢なんて出来るはずもなかった。
[新婚旅行]
結婚後想定の話
夜桜家から離れて数ヶ月、この生活に慣れようと四苦八苦していたところ長期任務に行ってみてはどうかと話があった。
忙しさはまともに考える思考を奪う、ちょうどいいと考えなしに引き受けたところ、自分一人ではなかったし何と目的地に着くと実は任務なんてないんだと説明された。
しかもホテルは予約済みで今からキャンセルというとかなり痛い出費になるしどうせならゆっくり二人で羽根を伸ばしてきたらどうかな?なんて言われ凶一郎は眉間の皺を深くした。
普段自分に振り回されている腹いせか単なるお節介か知らんが……ともかく親友の言う事は確かで凶一郎は素直に甘える事にした。
電話を切ると凶一郎は関係が婚約者から妻に変わった彼女の名を呼んだ。
部屋に入るな否や寝室のドアを閉めたあきらだが、時差ボケかもしれないと思っていると返事がして扉が開いた。
「何?凶一郎」
「………………何だ?その服は」
「あ……似合わなかった……?」
任務で来たはずなのに薄く鮮やかな色のワンピースを纏っていたものだからつい小言を言ってしまったが、勿論似合っていると返すとあきらは嬉しそうに微笑んだ。
「それよりそれ持ってきていたのか?任務だと言われただろう」
「そうなんだけど……灰が私服持っていった方がいいかもって」
「まぁいい、…………何か言いたそうだな」
「あのね、窓から綺麗な海が見えるの
今から行ってみない???」
そわそわと期待している目に凶一郎はため息をついて、やることもないしないいだろうと答えるとあきらはやった!とうきうきとでかけようとするのを引き止めた。
?と首を傾げるあきらに凶一郎は荷物から麦わら帽子を頭に被せた。
「日差しが強いからな、これでも被っておけ」
「麦わら帽子……どこかで買ったの?」
「ホテルで売ってた」
「へー海外でも麦わら帽子売ってるんだぁ」
純粋なあきらは信じたようだが……
嘘である、実のところ凶一郎もまた浮かれていたのだった。
夏の海日差しが降り注ぐ中、静かな波の音が響いている。
凶一郎の一歩先をあきらが歩く。
凶一郎は何も喋ることなく楽しげなあきらの様子を愛おしそうに眺めていた。
時折綺麗だね、と振り返って微笑まれると凶一郎は緩めていた表情を戻す。
それでもあきらはとても幸せそうだった、それを見ている凶一郎も。
穏やかな時間が流れる。
すると何を思ったのか、あきらは靴を脱いで波打つ海に向かっていった。
「つめたーい!ね、凶一郎も靴脱ごう?」
凶一郎はやれやれと仕方なさそうに革靴を脱いで濡れないようにズボンの裾を捲る。
パチャパチャとあきらの素足が踊るのを凶一郎はただ眺めていた。
これが幼少期なら一緒に遊んでいただろうが、この年になって同じことはできない。
それにしてもあんまりはしゃぐと転ぶぞと言おうとしたタイミングであきらが仰向けにすっ転んでしまった。
服が濡れるのを覚悟したあきらは冷たい感触がしない事に気づく。
それもそのはずすんでのところで凶一郎が抱きかかえたのだから。
が、その代償として凶一郎のズボンが海水に濡れてしまった。
慌てて謝ろうとしたあきらは凶一郎との距離がすごく近くて怒っていると思われた凶一郎の視線がすごく太陽よりも熱くなっていることに気づいた。
波の音がすごく遠くに聞こえる。
それよりもお互いの鼓動、吐息がすごく大きく感じた。
波が引いて、来て、何度か繰り返した後。
その鼓動が最高潮に達した時、お互いの境界線が無くなった。
その後、あきらは照れを隠すかのように麦わら帽子を深く被ったのだった。
朝、起きると人の周りにハートが浮かんで見えるようになっていた、こないだ飲んだ七悪の薬の影響だろうか……
「おはようございます!!!太陽様!!!」
「お、おはよう殺香…………」
ふんすと距離が近い殺香の周りにはやはりハートが浮かんでいる。
ところどころ形が歪んでいるのは気の所為なのだろうか……
それにしてもこのハート俺以外には見えていないらしく誰に言っても太陽が疲れて幻覚が見えていると言い本気にはされなかった。
「六美ーーー!!!!おはよう!!!!!ちゅっ」
「お兄ちゃん、キモチワルイ、近寄らないで」
冷たい妹にむせび泣く凶一郎の背後には天井にまで届きそうなハートがそびえ立っている。
おおう……と少し引いていると凶一郎はそんな太陽に訝しげな表情をしていた。
「おはよう、凶一郎」
「おはよう」
「おはようございます……ねえさ……」
同じく起きてきた義姉に挨拶すると太陽は彼女の周囲に浮かんでいるハートの多さに驚愕した。
凶一郎と話す度にハートが増えてもう本人も多い尽くそうとしていた。
こっちにまで飛んでくるのでそれを払っていると二人は太陽の態度に首を傾げている。
ちょっと虫が……なんて誤魔化しつつふと太陽は凶一郎兄さん側からはハートは出ていないのだろうか……と思った。
少なからずあきらの事を思っているには違いないので凶一郎の周囲を見ると傍に小さなハートがころんと床に転がっていた。
これか……?とそっとそのハートを持ち上げると……
「おっっっっっも!!!!!」
「!?!?」
ありえないほどの質量だった。
こんな小さいのに何が詰められてるんだ????と不思議に思っていると上から義弟が何も無い空間を持ち上げて変な挙動をしていると二人から不穏な視線を感じた。
「そういえば……二刃が……太陽がハートが見えるとか……なんとか言ってたような……大丈夫??」
「ついに幻覚が見えるようになったか」
「な、七悪の薬の効果ですって!!!!
ああもう七悪が任務で居ないから余計ややこしい!!!とにかく!!!ちょっとすれば落ち着くと思うので!!!」
何とか誤解をといた太陽は六美から色々と心配され(お兄ちゃんのせいとか何とか言っていた)六美に関しても大丈夫と宥めていたところふと六美の周りに何も浮かんでいないな……と気づいてしまった。
「………………」
「太陽?どうしたの?」
「いや、なんでもない」
見えないのがなんだって言うんだ。
見えなくとも六美が俺を愛してくれているのは理解している、と太陽はにっこりと笑った。
それもそのはず六美の太陽へのハートは屋敷を覆い尽くすほどでかかったのだから。
なお太陽から六美へのハートはそれ以上に大きいことは本人は知る由もなかった。
[夢主が猫になったら]
「………………なんだ、その姿は」
「あ…………おかえりなさい、凶一郎……えっとこれは……」
任務を終え、自宅に帰ると何故か四つん這いでボールと戯れている婚約者の姿があった。
ご丁寧な事に茶色の猫耳としっぽをつけている……いや生えている…………
あきらは恥ずかしそうに、こ、これは遊んでたじゃないの!訓練なの!と言い張るが言動とは裏腹に手でボールを転がしていた。
一体何なんだこれは、と呆れていると六美がこっそり寄ってきた。
「あのね…………」
アイが夜桜家にやってきて、しばらく経った頃だった。
太陽は六美に相談をもちかけた。
「アイさんの様子がおかしい?特に変わった様子はないけど……幼稚園も普通に行けてるみたいだし」
「……そこなんだけど……ちょっと引っかかって……
幼稚園の先生も周りの子達と仲良く出来てますよ、って言うしアイさんもお友達できた!って言ってた」
「でも何か引っかかるのね?」
「ああ」
その後ゆっくりと時間をかけてアイと話したところ、『アイさんは普通の女の子じゃない、皆は気にしてないだろうけど……それでも気になっちゃって……』とアイは話した。
タンポポの実験により大狼犬の血が入った彼女は頭に大きな犬の耳としっぽがある。
それを完全に隠すのは難しくどうしても周囲とドコカ、違う点を気にしてしまっていた。
勿論、お友達はきっとそんな事を気にしていない。
けれどそれを理解するのには少し時間がかかるだろう。
一時的とはいえどう彼女のもやもやを晴らすべきか……と六美と相談していると偶然義姉に聞かれてしまった。
すると彼女はこういった。
『じゃあ皆に動物の耳が生えたらいいんじゃないかな?』
というわけで言い出しっぺのあきらがまず第一の実験体となったわけだが、最初というのもあって調整が上手くいかず単に生えるのみならず習性まで根付いてしまったようだ。
そしてあきらはアイに目の前で猫じゃらしを振られわしわしと両手で掴んでいた。
しかしこうも猫と化してしまったあきらを見てどう反応すればいいのか……
それが二人きりなら気にしないのだが、周りに妹弟がいる前では少し躊躇ってしまう……と思っているといつの間にかアイが目の前にいた。
するとアイは満足した!と笑顔で凶一郎に猫じゃらしを差し出した。
「はいっ!あげる!」
「えっ…………あ、ああ……」
「たくさん遊んであげてね!」
遊ぶ?たくさん?何をどうやって遊べばいいんだ……とこれをどうすべきか、他の妹弟にでも強引に押し付けてしまおうかとひゅっと下に下ろすとボールと再びじゃれていたあきらの視線がぴくりと動いた。
「……………………」
すすす……とゆっくり猫じゃらしを移動させるとあきらの目線だけがそれを追う。
獲物を狙う本能的な猫の仕草を彼女がとっていると思うと心境複雑なところではあるが……凶一郎は試すようにぱっと素早く猫じゃらしを動かした。
ぱしっ!と猫じゃらしを捕まえた!!!と嬉しそうに微笑むあきらだったが、そもそもの行為とまじまじと凶一郎に見られたと実感し顔を真っ赤にした。
「こ、これは…………薬のせいで…………」
「そうは言いつつ猫じゃらし離さないんだな」
「ち、ちなみになんだけど…………これたくさん遊んで発散させないと効果切れないらしくて…………」
道理で猫用のオモチャがたくさんあるはずだ……
あきらは恥ずかしそうに凶一郎を見上げる。
「…………だから……えっと…………たくさん遊んで欲しいなって……」
「……………………っ」
あきらの言葉にかっと血が沸騰したかのような錯覚を受けた。
沸騰通りこして少し頭に来るくらいの衝撃が走る。
凶一郎は怒り全面にありったけの猫のオモチャをとってキレながら元に戻すべく奮闘したのだった。
[凶一郎が猫化したら、本編if]
帰宅すると、何故か家族全員疲労困憊した状態で床に倒れていた。
何事かと近寄ろうとするとあきらの横をナニカがものすごいスピードで通り過ぎていった。
それが婚約者である凶一郎と気づいて彼の体の異変と行動が異常な事に気づいた。
まず頭に見える黒の猫耳、腰あたりに生えた尻尾。
明らかに猫の耳と尻尾をつけた凶一郎は威嚇するように四つん這いになってこちらを睨みつけていた。
スパイデーに撮られたらもう二度と裏社会に出られない様子の凶一郎はふうううう……と唸るように威嚇している。
あきらはただ困惑して、つい七悪を横見するとごめんね?と可愛らしく両手を合わせて謝罪するが、本当に謝罪しているのだろうか……
どう見ても本能的に猫化している凶一郎は六美を守ろうとしているのかひたすら近づこうとしている者を攻撃しているようだ。
特に太陽にだけ当たりが強いらしく、本人も六美も兄の扱いに困っているらしい。
「凶一郎、ほらこっちおいで」
とりあえず疲弊している六美から引き離すべく手を差し向けるとばしん!と手を叩かれて拒否されてしまった。
凶一郎から拒否された…………と真っ白になって固まったあきらを太陽が必死に励ました。
「き、きっと猫の習性?のせいですよ?
た、多分…………姉さんの事が嫌いになったわけとかじゃないと思います」
「そうかな…………」
膝を抱えて涙目になって落ち込んでいると六美の傍でくるまっていた凶一郎の猫耳がぴょこんと動き、あきらの背中にぴったりとくっついて寄り添ってきた。
顔はこちらに見せないけど確かに感じる温もりに涙が止まる。
ほらね?大丈夫でしょう?と柔らかく太陽が微笑むと凶一郎から強めの猫?パンチをくらい、太陽は何で俺だけ!?!?と絶叫した。
それから何とか猫凶一郎を静めるべく様々な方法をとった。
普通の猫じゃらしでは何も反応せず、六美の写真や六美の着ている服を使用することで体力を消耗させ(六美は青筋を浮き立てていた)。
格闘すること数時間、やっと静かになった猫凶一郎は満足したようで自室に帰っていった。
七悪によると翌朝には元に戻るだろうと私含めて妹弟はようやく就寝出来ると安堵した。
静けさを取り戻しようやく安心して眠れる……と寝巻きに着替えてベッドに入って睡眠に入る。
翌朝凶一郎が今日の出来事を覚えていない事を祈りつつ微睡む中、ふとごそりと温かい感触を感じあきらは瞼を開けると何故か目の前に凶一郎がいた。
つい反射的に逃げようとして、腰に手を回されてて更に密着してしまう。
ベッドの中に侵入してきている凶一郎にぼっと火が出るみたいに頬が熱くなる。
唐突な事に思考がおいつかずきっとこれは夢なんだと思い込むことにして、現実を遠ざけた。
夢……と思えば恥ずかしくない……いやそんなこともないけど……と改めて凶一郎を見るとすやすやと寝息を立てていた。
「……………………」
ぴくぴくと猫耳が動き、とても穏やかな寝顔に恥ずかしさなどいつの間にか消えていてあきらは頬を緩ませた。
腕を伸ばして彼の黒髪をとても愛おしく撫でる。
きっと精神が猫になった事もあるのだろうが……あまり睡眠をとろうとしない凶一郎の珍しい寝顔に微笑んだ。
「おやすみ、凶一郎」
柔らかい日差しが顔に当たり、微睡んだ意識が表側に浮上する。
「………………」
自分はどこで何をしていたのか、そもそもここはどこなのか。
うっすらと目を開くと気持ちよさそうにすやすやと眠っているあきらがいた。
「は???」
素っ頓狂な声を上げて凶一郎はぽかんと呆けた後ここが彼女の自室で一緒に眠っていたと分かるな否やぶわっと冷や汗をかいた。
急いで自分とあきらの服の状態を確認して何事もなかった……と分かりほっと安堵する。
それにしても何故自分は彼女のベッドで眠ることになったのか、起こして事情を聞かねば……と思い体を揺らすとむくりと身を起こした。
と、同時に頭からふわふわで茶色の猫耳がぴょこんと現す。
実はあきらも七悪から似たような薬を貰っていて時間差で現れたことなど知らない凶一郎は、お前寝ている間にそんな飾りつける癖なんてあったか?なんて不思議に思っていると何と自分の胸元に擦り寄ってきてくっついてきたではないか。
「なっ!?!?お、おい……!」
スーツ越しに作り物ではない毛の感触を感じそれが本物である事を悟ったが、それが本物か偽物だとか最早どうでもよかった。
距離が近い上に甘い匂い、それと寝巻きが若干ずれたことによりうっすらと見える素肌……
ちらちらと胸元が見えてしまって、僅かに柔らかい感触がふにふにと当たる。
むずむずとよくない欲求が湧き上がりなんとか引き離そうとすると悲しい目をして、にゃん………………と愛くるしい言葉を発したものだから。
もう俺は………………我慢なんて出来るはずもなかった。
[新婚旅行]
結婚後想定の話
夜桜家から離れて数ヶ月、この生活に慣れようと四苦八苦していたところ長期任務に行ってみてはどうかと話があった。
忙しさはまともに考える思考を奪う、ちょうどいいと考えなしに引き受けたところ、自分一人ではなかったし何と目的地に着くと実は任務なんてないんだと説明された。
しかもホテルは予約済みで今からキャンセルというとかなり痛い出費になるしどうせならゆっくり二人で羽根を伸ばしてきたらどうかな?なんて言われ凶一郎は眉間の皺を深くした。
普段自分に振り回されている腹いせか単なるお節介か知らんが……ともかく親友の言う事は確かで凶一郎は素直に甘える事にした。
電話を切ると凶一郎は関係が婚約者から妻に変わった彼女の名を呼んだ。
部屋に入るな否や寝室のドアを閉めたあきらだが、時差ボケかもしれないと思っていると返事がして扉が開いた。
「何?凶一郎」
「………………何だ?その服は」
「あ……似合わなかった……?」
任務で来たはずなのに薄く鮮やかな色のワンピースを纏っていたものだからつい小言を言ってしまったが、勿論似合っていると返すとあきらは嬉しそうに微笑んだ。
「それよりそれ持ってきていたのか?任務だと言われただろう」
「そうなんだけど……灰が私服持っていった方がいいかもって」
「まぁいい、…………何か言いたそうだな」
「あのね、窓から綺麗な海が見えるの
今から行ってみない???」
そわそわと期待している目に凶一郎はため息をついて、やることもないしないいだろうと答えるとあきらはやった!とうきうきとでかけようとするのを引き止めた。
?と首を傾げるあきらに凶一郎は荷物から麦わら帽子を頭に被せた。
「日差しが強いからな、これでも被っておけ」
「麦わら帽子……どこかで買ったの?」
「ホテルで売ってた」
「へー海外でも麦わら帽子売ってるんだぁ」
純粋なあきらは信じたようだが……
嘘である、実のところ凶一郎もまた浮かれていたのだった。
夏の海日差しが降り注ぐ中、静かな波の音が響いている。
凶一郎の一歩先をあきらが歩く。
凶一郎は何も喋ることなく楽しげなあきらの様子を愛おしそうに眺めていた。
時折綺麗だね、と振り返って微笑まれると凶一郎は緩めていた表情を戻す。
それでもあきらはとても幸せそうだった、それを見ている凶一郎も。
穏やかな時間が流れる。
すると何を思ったのか、あきらは靴を脱いで波打つ海に向かっていった。
「つめたーい!ね、凶一郎も靴脱ごう?」
凶一郎はやれやれと仕方なさそうに革靴を脱いで濡れないようにズボンの裾を捲る。
パチャパチャとあきらの素足が踊るのを凶一郎はただ眺めていた。
これが幼少期なら一緒に遊んでいただろうが、この年になって同じことはできない。
それにしてもあんまりはしゃぐと転ぶぞと言おうとしたタイミングであきらが仰向けにすっ転んでしまった。
服が濡れるのを覚悟したあきらは冷たい感触がしない事に気づく。
それもそのはずすんでのところで凶一郎が抱きかかえたのだから。
が、その代償として凶一郎のズボンが海水に濡れてしまった。
慌てて謝ろうとしたあきらは凶一郎との距離がすごく近くて怒っていると思われた凶一郎の視線がすごく太陽よりも熱くなっていることに気づいた。
波の音がすごく遠くに聞こえる。
それよりもお互いの鼓動、吐息がすごく大きく感じた。
波が引いて、来て、何度か繰り返した後。
その鼓動が最高潮に達した時、お互いの境界線が無くなった。
その後、あきらは照れを隠すかのように麦わら帽子を深く被ったのだった。
