凶一郎の婚約者さん
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13歳の2月を迎えた頃。
土日を前にした金曜の日、昼休み中あきらはふと凶一郎が呼び出しを受けているところに鉢合わせた。
その相手は顔も名前も知らない女子で意を決したかのように後ろに隠していた手提げ袋を差し出す。
女子は日曜がバレンタインデーであり、頑張って手作りのチョコを作ってきた……と頬を赤く染めて凶一郎に手渡していた。
凶一郎と言えば全く表情を動かすことなくいつもの飄々とした様子でそのチョコを受け取っていたのだが、あきらは凶一郎がモテているというよりもその渡されているチョコが手作りな事に衝撃を受けた。
(て……て……手作り……!?)
ずっと自分が行っていたバレンタインの行事。
零から貰ったチョコをそのまま凶一郎に渡していただけの循環行為に気づきあきらはわなわなと震える。
(そっか…………自分で手作りしていいんだ……!!)
頑なに厨房に出入りを止められていたあきらはバレンタインとは零他六美等が作ったチョコを皆で食べる物だと勘違いしていた。
今更調べてみると日本では好きな男子に愛を伝える日……とか色々載っていた。
ならば自分だって手作りを凶一郎に食べてもらいたい、そう思ったあきらは金曜の夜零に相談した。
「…………チョコを作りたいからキッチンを使いたい……?」
「は、はい、駄目……ですか?」
「うーーーん…………ちょっと返事待って貰って良い?」
零は百に聞いてみてからと言いその後あきらから聞いた話を百に話すと百はそんなの駄目だ!!!!と首をぶんぶん横に振った。
「危険だ!危険すぎる……!!」
「気持ちはわかるけど……あの子ももう中学生よ?
傍についてたら大丈夫じゃ……」
「それが危険思考なんだ……!
考えても見ろ、あの子の鈍麻さを……!火の中に手を突っ込んでもおかしくないんだぞ!」
「流石にそれはもうしないでしょう……
ちっちゃい時ならまだしも……」
と零は百を宥めたが百はまだ心配点があるのかつらつらと述べる。
包丁の扱い方が間違って指が飛ぶかもしれない、焼き加減が分からなくて家の武器のミサイルを借りてくるかもしれない…………etc諸々の不安点を聞いていた零は段々自分も何だか不安になってきた。
あきらは凶一郎の婚約者で他の家から預かっている娘だ、スパイの任務に行かせている立場であれど怪我はないに越したことはない。
バレンタインまであと一日弱しかなく、急な話が舞い込みしかも土曜日は他に用事があった為ずっと付きっきりで見る理由にはいかない。
ここは申しわけないが、あきらには例年通りにしてめらおう……
何まだバレンタインは来年もある、来年に向けてゆっくりと挑戦すれば良いと零はそうあきらに諭した。
あきらは納得した様子で分かった、と笑顔で答えたがその本心は違った。
夜桜家では無理なら、自宅ですればいいと…………
彼女は今この時どうしても凶一郎に手作りを食べてほしかったのである。
自分の料理下手がどれほどかも知らずに…………
翌日、チョコ作りに必要な材料を調べ自宅の厨房に誰もいないことを確認したあきらはこっそりと入室した。
父は誰かと会うらしく不在。
なら今のうちにやるしかない!とやる気満々のあきらをこっそりと使用人が見守っていた。
先日から何度も父のスケジュールをこっそり伺っていたり、冷蔵庫に買った覚えのない材料が入っていたり……など明らかに何かをするつもりかバレバレであった。
昔から主人であるあきらの父が冷遇していて暗黙の了解で従っているものの……齢がまだ幼いあきらの唐突な行動にヒヤヒヤとせずにはいられない。
明日はバレンタインデーと並べてある食材から恐らくチョコを作ろうとしているのだろうが……あきらは厨房をキョロキョロと何かを探しているようでうろついている。
しかし目当ての物は見つからないのか仕方ないとまな板の上に置かれた板チョコを前にして日本刀をすらりと抜いた。
「何してるんですかーー!!!!」
慌ててまな板を取り上げるとあきらは隠し事がバレたと顔を真っ青にしてあわわわと刀をぶんぶん振りまわす。
「ほ、包丁が見つからなくて……!これで代わりに切ろうと……!」
「あぶない!ですから!!!鞘に収めて!
包丁の場所教えますから!!!!」
刀を鞘に収めたのを確認し、使用人はここです、と引き出しを開けて場所を示した。
いきなり度肝を抜かされた、もう付き添わなくていいだろう……と立ち去ろうとして包丁を天高く掲げる姿を見てまたもや心臓が飛び出そうなほど驚いて制止した。
最早人を刺そうみたいに見える体勢だがあきらはきょとん……とどこかおかしい点でもあるのかな?と不思議そうな表情だ。
使用人は正しい包丁の持ち方を教えるとあきらは初めて教わったと話した。
…………驚いた、まさか調理自体が初めてとは、今まで向こうの家でも行動を禁じられていたのか。
暗黙のルールを破ってしまう事にはなるが、こうなってはもう関わらざるをおえないと使用人は腹をくくった。
「……分かりました、この際手伝うことにしましよう」
「え………………」
「厨房がめちゃくちゃになって困るのは私です
…………旦那様が帰ってくるまであと数時間だけですよ」
今日のみの協力にあきらは今までの態度と差異を感じて何か企みがあるのでは……と疑心したが、素直に手伝って貰えるのなら……とお願いしますと頭を下げた。
それで何を作る予定だったんです?と聞くとあきらは僅かに微笑んでレシピページの一部分を指した。
『フォンダンショコラ』……………………道のりは遠そうだ。
包丁の持ち方は教えたもののまな板を切ってしまいそうなスピードに板チョコは手で割るようにしたり、湯煎ではなく直接鍋でチョコレートを溶かそうとしたり……などなど……厨房は割と大惨事になっていた。
辺りには小麦粉が舞い、溶かしたチョコレートが床に落ちこれは中々の大掃除が必要そうだ……
それでも何とか形にはなり、漸くオーブンで焼き上げるまでに行き着いた。
後は指定した温度で数十分焼けば完成である。
もう後は心配いらないだろう……と思ったタイミングで使用人の携帯に電話が鳴り響く。
ちらりとあきらを横目見たがまぁ焼き上がるにはまだもうしばらくかかる、それを待つくらいならアクシデントは起こらないだろうとここで使用人は厨房から離れてしまった。
1人、オーブンの前で焼き上がるのを待っていたあきらはじっっっと生地を見つめて首を傾げた。
本当にこれで焼けるのだろうか、それにこの待っている時間も暇だ。
………………そうだ、もっと高熱にすれば時間短縮になるのではないだろうか。
これは良い案を思いついたとスイッチを押して停止させる。
そういえばスイーツにはお酒を振りかけたものがあると聞いた。
せっかくだから百や零向けにお酒入りのも作ろうと父が隠していたお気に入りの拝借して、振りかけた。
正確に言えば勢いよくかけてしかもどれくらいかけるのかもよく分からずにかけてしまった為トレイにまで広がってしまった。
…………まぁこれくらい溢れていても大丈夫か、とあきらは呑気に再度加熱ボタンを押した。
電話を終えた使用人が見た物は…………轟々と火が出ている電子レンジとその前であたふた混乱しているあきらだった…………
無事火は消化出来たが、もう誤魔化し用がない厨房を再度見渡して使用人はあきらに通告した。
「……今後一切厨房の出入りを禁じます!!!!」
バレンタイン当日の日曜日、例年の如く零が作ったチョコを凶一郎に渡す。
凶一郎はありがとう、とお礼を言ったがあきらは浮かない様子だった。
一瞬何か言いたそうな目をして凶一郎を見たが、どういたしまして、と笑顔に戻り自室に戻るねと踵を返すのを凶一郎は気にかかった視線で見つめた。
「はぁ………………」
自室に戻り、結局渡せなかった市販品の、チョコを机の上に置いて眺める。
昨日作ったフォンダンショコラは結局のところ大失敗だった。
きっと火が出なくても高熱で焼いてしまったことによって焦げていただろう。
厨房への出入りを禁じられてしまった為再チャレンジは不可能だ。
これで何となく分かった、自分には料理の才能はない……と。
せめて彼の好きな紅茶フレーバーの市販品チョコを買ったものの……料理上手な零達の後に出せる気もなくこうして机の上に鎮座している。
自分と零、六美のどちらが大切かと言えば当然後者だ。
後からこんなの出したって……とじとりと暗い気持ちが過る。
じめじめ、鬱々、とどんよりとした雲がかかったみたいに体が重くなってため息が出た。
このチョコどうしようか、いっそ自分で食べてしまおうかなんて綺麗な箱を開けたところで凶一郎が突然入ってきた。
コンコンとノックがなかったものだから、驚いて持っていたチョコの箱を上に飛ばしてしまった。
スローモーションでチョコが落下する。
そのまま床に落下するかと思いきや凶一郎の鋼蜘蛛によって器用にも元の器に収まった。
「っと……これで元通りだな、配置はともかく……」
「あ、ありがとう…………」
「……このチョコはなんだ?」
「え…………えっと……」
あなたへの自分で初めて買ったチョコです、なんて言えるはずもなくて、頬を赤くしながらも自分用のご褒美チョコだとぎこちなく誤魔化した。
凶一郎はほう?と片眉を動かす。
「お前あんまり自分へのご褒美とか買わないだろう」
「す、スパイデーで!見たの!そういうのが流行ってるって!」
「ああ、確かに載っていたな」
「そ、そう!で買ったものの1人じゃ多いね、これ
皆で分けて食べて貰おうかな?なんて……」
凶一郎はそうかと言うと持っていたチョコの一つを摘んで食べた。
唐突な行動にあきらは目をぱちくりさせて驚愕する。
「………………え、ええ!!何で食べてるの!?!?」
「皆、だろう???俺も当然入っているよな?なら問題はないだろう」
「そ、それはそうなんだけど……え、ま、まだ食べるの??あ…………あぅ……ぜ、全部無くなっちゃった…………」
凶一郎はひょいぱく、ひょいぱくと、チョコを全て平らげてしまった。
すっからかんになったチョコの箱を美味かった、と手渡されてあきらは呆然と空の箱を眺める。
目的は果たされた、けど凶一郎の行動が理解出来なくて泥沼にハマったような感覚を受けた。
「…………勝手に食べて悪かった
あまりにもチョコが美味かったから、つい」
「そ、そんなに???えへへ、これ買って良かったぁ…………凶一郎くんに喜んで貰って嬉しい…………あっあの…………」
「…………そもそも何で市販をとか気にしないが……
せっかく俺の為を思って買ってきてくれたんだろう?
嘘をついて誤魔化させるのは悲しい
…………俺が言えた立場じゃないが……素直に渡してほしい……俺は……お前のならどんな物でも欲しいんだ」
「凶一郎くん…………」
だから来年は市販品でも、手作りでも何でもいい、ちゃんと渡してくれと瞳が訴えかけてきて、心臓がとくんと鳴る。
自分からのチョコなんてきっと要らないだろうなんて思っていたけれど…………私から視線を背けていたんだ。
年々皮肉れていく凶一郎にしては真っ直ぐな視線にあきらはうん、と微笑んで約束をした。
土日を前にした金曜の日、昼休み中あきらはふと凶一郎が呼び出しを受けているところに鉢合わせた。
その相手は顔も名前も知らない女子で意を決したかのように後ろに隠していた手提げ袋を差し出す。
女子は日曜がバレンタインデーであり、頑張って手作りのチョコを作ってきた……と頬を赤く染めて凶一郎に手渡していた。
凶一郎と言えば全く表情を動かすことなくいつもの飄々とした様子でそのチョコを受け取っていたのだが、あきらは凶一郎がモテているというよりもその渡されているチョコが手作りな事に衝撃を受けた。
(て……て……手作り……!?)
ずっと自分が行っていたバレンタインの行事。
零から貰ったチョコをそのまま凶一郎に渡していただけの循環行為に気づきあきらはわなわなと震える。
(そっか…………自分で手作りしていいんだ……!!)
頑なに厨房に出入りを止められていたあきらはバレンタインとは零他六美等が作ったチョコを皆で食べる物だと勘違いしていた。
今更調べてみると日本では好きな男子に愛を伝える日……とか色々載っていた。
ならば自分だって手作りを凶一郎に食べてもらいたい、そう思ったあきらは金曜の夜零に相談した。
「…………チョコを作りたいからキッチンを使いたい……?」
「は、はい、駄目……ですか?」
「うーーーん…………ちょっと返事待って貰って良い?」
零は百に聞いてみてからと言いその後あきらから聞いた話を百に話すと百はそんなの駄目だ!!!!と首をぶんぶん横に振った。
「危険だ!危険すぎる……!!」
「気持ちはわかるけど……あの子ももう中学生よ?
傍についてたら大丈夫じゃ……」
「それが危険思考なんだ……!
考えても見ろ、あの子の鈍麻さを……!火の中に手を突っ込んでもおかしくないんだぞ!」
「流石にそれはもうしないでしょう……
ちっちゃい時ならまだしも……」
と零は百を宥めたが百はまだ心配点があるのかつらつらと述べる。
包丁の扱い方が間違って指が飛ぶかもしれない、焼き加減が分からなくて家の武器のミサイルを借りてくるかもしれない…………etc諸々の不安点を聞いていた零は段々自分も何だか不安になってきた。
あきらは凶一郎の婚約者で他の家から預かっている娘だ、スパイの任務に行かせている立場であれど怪我はないに越したことはない。
バレンタインまであと一日弱しかなく、急な話が舞い込みしかも土曜日は他に用事があった為ずっと付きっきりで見る理由にはいかない。
ここは申しわけないが、あきらには例年通りにしてめらおう……
何まだバレンタインは来年もある、来年に向けてゆっくりと挑戦すれば良いと零はそうあきらに諭した。
あきらは納得した様子で分かった、と笑顔で答えたがその本心は違った。
夜桜家では無理なら、自宅ですればいいと…………
彼女は今この時どうしても凶一郎に手作りを食べてほしかったのである。
自分の料理下手がどれほどかも知らずに…………
翌日、チョコ作りに必要な材料を調べ自宅の厨房に誰もいないことを確認したあきらはこっそりと入室した。
父は誰かと会うらしく不在。
なら今のうちにやるしかない!とやる気満々のあきらをこっそりと使用人が見守っていた。
先日から何度も父のスケジュールをこっそり伺っていたり、冷蔵庫に買った覚えのない材料が入っていたり……など明らかに何かをするつもりかバレバレであった。
昔から主人であるあきらの父が冷遇していて暗黙の了解で従っているものの……齢がまだ幼いあきらの唐突な行動にヒヤヒヤとせずにはいられない。
明日はバレンタインデーと並べてある食材から恐らくチョコを作ろうとしているのだろうが……あきらは厨房をキョロキョロと何かを探しているようでうろついている。
しかし目当ての物は見つからないのか仕方ないとまな板の上に置かれた板チョコを前にして日本刀をすらりと抜いた。
「何してるんですかーー!!!!」
慌ててまな板を取り上げるとあきらは隠し事がバレたと顔を真っ青にしてあわわわと刀をぶんぶん振りまわす。
「ほ、包丁が見つからなくて……!これで代わりに切ろうと……!」
「あぶない!ですから!!!鞘に収めて!
包丁の場所教えますから!!!!」
刀を鞘に収めたのを確認し、使用人はここです、と引き出しを開けて場所を示した。
いきなり度肝を抜かされた、もう付き添わなくていいだろう……と立ち去ろうとして包丁を天高く掲げる姿を見てまたもや心臓が飛び出そうなほど驚いて制止した。
最早人を刺そうみたいに見える体勢だがあきらはきょとん……とどこかおかしい点でもあるのかな?と不思議そうな表情だ。
使用人は正しい包丁の持ち方を教えるとあきらは初めて教わったと話した。
…………驚いた、まさか調理自体が初めてとは、今まで向こうの家でも行動を禁じられていたのか。
暗黙のルールを破ってしまう事にはなるが、こうなってはもう関わらざるをおえないと使用人は腹をくくった。
「……分かりました、この際手伝うことにしましよう」
「え………………」
「厨房がめちゃくちゃになって困るのは私です
…………旦那様が帰ってくるまであと数時間だけですよ」
今日のみの協力にあきらは今までの態度と差異を感じて何か企みがあるのでは……と疑心したが、素直に手伝って貰えるのなら……とお願いしますと頭を下げた。
それで何を作る予定だったんです?と聞くとあきらは僅かに微笑んでレシピページの一部分を指した。
『フォンダンショコラ』……………………道のりは遠そうだ。
包丁の持ち方は教えたもののまな板を切ってしまいそうなスピードに板チョコは手で割るようにしたり、湯煎ではなく直接鍋でチョコレートを溶かそうとしたり……などなど……厨房は割と大惨事になっていた。
辺りには小麦粉が舞い、溶かしたチョコレートが床に落ちこれは中々の大掃除が必要そうだ……
それでも何とか形にはなり、漸くオーブンで焼き上げるまでに行き着いた。
後は指定した温度で数十分焼けば完成である。
もう後は心配いらないだろう……と思ったタイミングで使用人の携帯に電話が鳴り響く。
ちらりとあきらを横目見たがまぁ焼き上がるにはまだもうしばらくかかる、それを待つくらいならアクシデントは起こらないだろうとここで使用人は厨房から離れてしまった。
1人、オーブンの前で焼き上がるのを待っていたあきらはじっっっと生地を見つめて首を傾げた。
本当にこれで焼けるのだろうか、それにこの待っている時間も暇だ。
………………そうだ、もっと高熱にすれば時間短縮になるのではないだろうか。
これは良い案を思いついたとスイッチを押して停止させる。
そういえばスイーツにはお酒を振りかけたものがあると聞いた。
せっかくだから百や零向けにお酒入りのも作ろうと父が隠していたお気に入りの拝借して、振りかけた。
正確に言えば勢いよくかけてしかもどれくらいかけるのかもよく分からずにかけてしまった為トレイにまで広がってしまった。
…………まぁこれくらい溢れていても大丈夫か、とあきらは呑気に再度加熱ボタンを押した。
電話を終えた使用人が見た物は…………轟々と火が出ている電子レンジとその前であたふた混乱しているあきらだった…………
無事火は消化出来たが、もう誤魔化し用がない厨房を再度見渡して使用人はあきらに通告した。
「……今後一切厨房の出入りを禁じます!!!!」
バレンタイン当日の日曜日、例年の如く零が作ったチョコを凶一郎に渡す。
凶一郎はありがとう、とお礼を言ったがあきらは浮かない様子だった。
一瞬何か言いたそうな目をして凶一郎を見たが、どういたしまして、と笑顔に戻り自室に戻るねと踵を返すのを凶一郎は気にかかった視線で見つめた。
「はぁ………………」
自室に戻り、結局渡せなかった市販品の、チョコを机の上に置いて眺める。
昨日作ったフォンダンショコラは結局のところ大失敗だった。
きっと火が出なくても高熱で焼いてしまったことによって焦げていただろう。
厨房への出入りを禁じられてしまった為再チャレンジは不可能だ。
これで何となく分かった、自分には料理の才能はない……と。
せめて彼の好きな紅茶フレーバーの市販品チョコを買ったものの……料理上手な零達の後に出せる気もなくこうして机の上に鎮座している。
自分と零、六美のどちらが大切かと言えば当然後者だ。
後からこんなの出したって……とじとりと暗い気持ちが過る。
じめじめ、鬱々、とどんよりとした雲がかかったみたいに体が重くなってため息が出た。
このチョコどうしようか、いっそ自分で食べてしまおうかなんて綺麗な箱を開けたところで凶一郎が突然入ってきた。
コンコンとノックがなかったものだから、驚いて持っていたチョコの箱を上に飛ばしてしまった。
スローモーションでチョコが落下する。
そのまま床に落下するかと思いきや凶一郎の鋼蜘蛛によって器用にも元の器に収まった。
「っと……これで元通りだな、配置はともかく……」
「あ、ありがとう…………」
「……このチョコはなんだ?」
「え…………えっと……」
あなたへの自分で初めて買ったチョコです、なんて言えるはずもなくて、頬を赤くしながらも自分用のご褒美チョコだとぎこちなく誤魔化した。
凶一郎はほう?と片眉を動かす。
「お前あんまり自分へのご褒美とか買わないだろう」
「す、スパイデーで!見たの!そういうのが流行ってるって!」
「ああ、確かに載っていたな」
「そ、そう!で買ったものの1人じゃ多いね、これ
皆で分けて食べて貰おうかな?なんて……」
凶一郎はそうかと言うと持っていたチョコの一つを摘んで食べた。
唐突な行動にあきらは目をぱちくりさせて驚愕する。
「………………え、ええ!!何で食べてるの!?!?」
「皆、だろう???俺も当然入っているよな?なら問題はないだろう」
「そ、それはそうなんだけど……え、ま、まだ食べるの??あ…………あぅ……ぜ、全部無くなっちゃった…………」
凶一郎はひょいぱく、ひょいぱくと、チョコを全て平らげてしまった。
すっからかんになったチョコの箱を美味かった、と手渡されてあきらは呆然と空の箱を眺める。
目的は果たされた、けど凶一郎の行動が理解出来なくて泥沼にハマったような感覚を受けた。
「…………勝手に食べて悪かった
あまりにもチョコが美味かったから、つい」
「そ、そんなに???えへへ、これ買って良かったぁ…………凶一郎くんに喜んで貰って嬉しい…………あっあの…………」
「…………そもそも何で市販をとか気にしないが……
せっかく俺の為を思って買ってきてくれたんだろう?
嘘をついて誤魔化させるのは悲しい
…………俺が言えた立場じゃないが……素直に渡してほしい……俺は……お前のならどんな物でも欲しいんだ」
「凶一郎くん…………」
だから来年は市販品でも、手作りでも何でもいい、ちゃんと渡してくれと瞳が訴えかけてきて、心臓がとくんと鳴る。
自分からのチョコなんてきっと要らないだろうなんて思っていたけれど…………私から視線を背けていたんだ。
年々皮肉れていく凶一郎にしては真っ直ぐな視線にあきらはうん、と微笑んで約束をした。
