凶一郎の婚約者さん
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うっすらと目を開けると六美そして他の家族が自分を見守っていた。
くん、と匂う薬品の香りからすると病室だろうか、視界は真っ白とした天井が映っている。
滅多に感じない枕の感触に違和感がありつつ自分が目覚めたと分かって家族が涙を浮かべていた。
「お兄ちゃん……!大丈夫!?体痛くない?
雪かきで偶然お兄ちゃんが大量の雪に埋もれて気を失った時はどうしようかと……」
この声は六美か、兄を心配してくれるとはなんて優しい妹なんだ、と思っていると六美の奥からひょっこりと同年代らしき女が顔を出した。
「凶一郎……、良かった…………目が覚めて……
ごめんね、私がぼーっとしてたから凶一郎が庇って……
頭うったような物だけど大丈夫?」
女は近寄って俺の手を掴んで、涙ぐむ。
本当に目が覚めてよかった、と喜ぶ女に俺は間髪入れずに鋼蜘蛛で拘束した。
女とそして六美達も驚く中俺は拘束した女に近づき威圧する。
「きょう、いちろう……?」
女は何故自分が拘束されているのかが分からないらしく呆然としつつ困惑が混じった目で俺を見た。
困惑したいのは俺の方だ、目が覚めたら知らない人間がさも同然かとように近寄ってくるのだから、不愉快でたまらない。
胃がむかむかとして吐き気がするくらいだ、知らない人間に急に手を掴まれて気を良くするはずがない。
六美達も俺が何をしているかが理解出来ないらしく呆気にとられた後二刃が口を開き、何をやっているんだい……?とぶわりと殺気を放つ。
「それはこちらの台詞だ、侵入者をのこのこ家を歩かせるとはどういうつもりだ??」
「侵入者…………?だって……?凶一郎、もっかいいいな、この子が何だって!?」
「侵入者の以外何もないだろう、二刃は知っているのか?」
まるで他人行儀の凶一郎に他妹弟は啞然とした様子で見つめた。
…………なんだ、その目は、俺が気が狂ったとかおかしな言動をしていると言っているみたいじゃないか。
「お兄ちゃん……その人が誰だか分からないの……?」
「分からないも何も初対面だ」
「っ、その人はっ、お兄ちゃんの婚約者の……あきら姉ちゃんだよ……!ほんとに分からないの……!?」
六美の悲痛な叫び声に凶一郎は眉を上げる。
婚約者……?だと?自分にそんな者がいた記憶はない。
となるとこの女が家族皆の記憶を弄っている事になる、自分が気絶している間にそんな大ごとになっているだなんて予想していなかった。
家族は自分が忘れていると信じられないと悲しい目で訴えかけていた、ああ、かわいそうに全てそれは敵の罠だ。
となれば元凶の奴に解除方法を聞くしかないだろう。
「おい、女、六美達の洗脳を解け、どうやったはしらんが」
「凶一郎…………?せん、のう?……あと私は……」
「ちっ、多少痛くしないと吐かないか……」
ぎりぎりと、鋼蜘蛛の拘束を強める。
しかし女は抵抗力が強いのか全く顔を歪める気配はない。
なら更に強めて……と食い込ませるとじわりと血が滲みボタボタ、と赤い鮮血が床に落ちた。
大したものだ、これだけ出血しているのに顔色一つ歪ませないとは、よほど辛抱強いらしいとある意味感嘆していると六美が駆け寄ってきて叫んだ。
「お兄ちゃん!!もう……やめて!!!」
「六美、こいつを吐かせないことには……」
「だから洗脳とかじゃないの……!解いて早く手当てしなきゃ……!お姉ちゃんが痛みに鈍感な事も忘れちゃったの!?」
「凶一郎、悪い事は言わない、早く解きな……さもないと…………あんた自身が後悔する羽目になるんだよ」
六美や二刃の言う事が理解出来ない凶一郎は冷ややかな視線で女を見ると女は血が流れているのにも関わらず何も喋らず俯いていた。
弁明もせず、言い訳もせずただただ俯いて沈黙しているのみ。
それがこの状況を耐えようと心を閉ざしている事とは知らずに凶一郎は家族の圧に負け、ひとまず拘束を解くことにした。
とすん、と床に下ろされた女は六美に心配され、七悪に手当てしようと声をかけられると、顔を上げて大丈夫、と貼り付けたような笑顔で答えた。
「……………………?」
その痛々しい笑顔を見た時、凶一郎の胸に痛みが走った。
苦しく重く悲しい痛み、チクチクと走る。
違和感を感じつつ凶一郎は病室から離れることになった。
そして別室にて六美にこと丁寧に女との関係性について長々と説明された。
奴が理由あって夜桜家の血を引いていることと、それの証明書類、これまで取った家族写真や動画。
偶然頭に強い衝撃を受けて忘れているらしい、と一時的な忘却状態だと七悪にも説明を受けた。
いくつかの証拠を提示されて俺は本当に記憶を失っているらしいとようやくここで納得した。
本心を言うとまだ疑っているが、これ以上家族の悲しむ様子は見たくなかった。
六美はとりあえず信じてくれて良かった……と安堵したが凶一郎の続きの言葉を聞いて絶句することとなる。
「だが……婚約者といえども………
俺はあいつと一緒には暮らしたくないな
悪いが六美、別のとこで生活するように伝達しといてくれ」
「凶一郎!!!」
「怒るな二刃、だってそうだろう俺にとっては赤の他人だ
任務は別として……四六時中顔を合わすなど嫌だ」
とりあえず信じたものの、仲良くするかと言うと否だ。
そう言って椅子にふんぞり返る俺に妹弟はなすすべもないと困ったように顔を見合わせた。
翌日、六美達の話している素振りから察するに婚約者の女は自ら出ていったらしい。
しばらく自宅で過ごすとか、そして六美達家族にも合わない事を伝えたようだ。
恐らく接する事で俺の機嫌を損ねないかを気にしていたと二刃があの子らしいね……と悲しそうにやるせなさそうに目を伏せたのを遠目から見守る。
ともあれこれで見た目上は平穏な生活を送れることになるだろう、と俺は安堵していたはずだった。
朝、睡眠を取らない俺はベッドから起床……ではなく六美の淹れたダークスイートで目を覚ます。
ああ、いつもと同じ香り、味、妹の笑顔、今日も素敵な1日の始まりだ。
隠し扉をくぐり居間に行こうとして聞こえるはずのない『おはよう』が聞こえた。
「?」
振り返ると誰も居なかった、気のせいか……。
その気のせいは、日が経つにつれ違和感が大きくなる。
ふと気付くと俺は誰かを知らぬうちに探していた。
声を、姿を、探している。
そこにいるべき人物、長テーブルにポツンと空いた椅子。
けれど顔も声もはっきりとしなくて思い出せない。
思い出そうとすると頭に痛みが走る。
……別に思い出さなくていいじゃないか、何も不都合な事は………………
『凶一郎』
「……………………」
気のせいだ。
『ねぇ、凶一郎』
「…………………………」
幻聴だ。
「顔さえも浮かばないのに……」
顔を片手で覆い項垂れる、脳裏に微笑みがこびりついて離れない。
こんな自分を認めたくなくて、信じがたくて仕方ない。
任務、趣味の読書、何をしていても俺は幻を追っていた。
どこにいても影を探してしまう。
分からない、自分がどうしたらいいのか、まるで巨大な迷路に彷徨った気分だ。
けれど確かに分かるのは日を追うごとに胸の痛みが増している事だった。
あれから2週間が経った。
例の奴からは連絡一つさえない。
何を今どうしているのか、家族でさえ把握していなかった。
心配そうに考え込む六美の横で七悪が神妙な表情をしていたが、俺の視線に気付くとさっと目線を逸らされる。
「………………?」
その視線の意味に気づかず俺は呑気に食事を続けていた。
相変わらず胸の痛みは消えるどころか増していくがこのまま続けていけばなくなるかもしれないと。
活けてある花が徐々に枯れていく事に気付かずに。
くん、と匂う薬品の香りからすると病室だろうか、視界は真っ白とした天井が映っている。
滅多に感じない枕の感触に違和感がありつつ自分が目覚めたと分かって家族が涙を浮かべていた。
「お兄ちゃん……!大丈夫!?体痛くない?
雪かきで偶然お兄ちゃんが大量の雪に埋もれて気を失った時はどうしようかと……」
この声は六美か、兄を心配してくれるとはなんて優しい妹なんだ、と思っていると六美の奥からひょっこりと同年代らしき女が顔を出した。
「凶一郎……、良かった…………目が覚めて……
ごめんね、私がぼーっとしてたから凶一郎が庇って……
頭うったような物だけど大丈夫?」
女は近寄って俺の手を掴んで、涙ぐむ。
本当に目が覚めてよかった、と喜ぶ女に俺は間髪入れずに鋼蜘蛛で拘束した。
女とそして六美達も驚く中俺は拘束した女に近づき威圧する。
「きょう、いちろう……?」
女は何故自分が拘束されているのかが分からないらしく呆然としつつ困惑が混じった目で俺を見た。
困惑したいのは俺の方だ、目が覚めたら知らない人間がさも同然かとように近寄ってくるのだから、不愉快でたまらない。
胃がむかむかとして吐き気がするくらいだ、知らない人間に急に手を掴まれて気を良くするはずがない。
六美達も俺が何をしているかが理解出来ないらしく呆気にとられた後二刃が口を開き、何をやっているんだい……?とぶわりと殺気を放つ。
「それはこちらの台詞だ、侵入者をのこのこ家を歩かせるとはどういうつもりだ??」
「侵入者…………?だって……?凶一郎、もっかいいいな、この子が何だって!?」
「侵入者の以外何もないだろう、二刃は知っているのか?」
まるで他人行儀の凶一郎に他妹弟は啞然とした様子で見つめた。
…………なんだ、その目は、俺が気が狂ったとかおかしな言動をしていると言っているみたいじゃないか。
「お兄ちゃん……その人が誰だか分からないの……?」
「分からないも何も初対面だ」
「っ、その人はっ、お兄ちゃんの婚約者の……あきら姉ちゃんだよ……!ほんとに分からないの……!?」
六美の悲痛な叫び声に凶一郎は眉を上げる。
婚約者……?だと?自分にそんな者がいた記憶はない。
となるとこの女が家族皆の記憶を弄っている事になる、自分が気絶している間にそんな大ごとになっているだなんて予想していなかった。
家族は自分が忘れていると信じられないと悲しい目で訴えかけていた、ああ、かわいそうに全てそれは敵の罠だ。
となれば元凶の奴に解除方法を聞くしかないだろう。
「おい、女、六美達の洗脳を解け、どうやったはしらんが」
「凶一郎…………?せん、のう?……あと私は……」
「ちっ、多少痛くしないと吐かないか……」
ぎりぎりと、鋼蜘蛛の拘束を強める。
しかし女は抵抗力が強いのか全く顔を歪める気配はない。
なら更に強めて……と食い込ませるとじわりと血が滲みボタボタ、と赤い鮮血が床に落ちた。
大したものだ、これだけ出血しているのに顔色一つ歪ませないとは、よほど辛抱強いらしいとある意味感嘆していると六美が駆け寄ってきて叫んだ。
「お兄ちゃん!!もう……やめて!!!」
「六美、こいつを吐かせないことには……」
「だから洗脳とかじゃないの……!解いて早く手当てしなきゃ……!お姉ちゃんが痛みに鈍感な事も忘れちゃったの!?」
「凶一郎、悪い事は言わない、早く解きな……さもないと…………あんた自身が後悔する羽目になるんだよ」
六美や二刃の言う事が理解出来ない凶一郎は冷ややかな視線で女を見ると女は血が流れているのにも関わらず何も喋らず俯いていた。
弁明もせず、言い訳もせずただただ俯いて沈黙しているのみ。
それがこの状況を耐えようと心を閉ざしている事とは知らずに凶一郎は家族の圧に負け、ひとまず拘束を解くことにした。
とすん、と床に下ろされた女は六美に心配され、七悪に手当てしようと声をかけられると、顔を上げて大丈夫、と貼り付けたような笑顔で答えた。
「……………………?」
その痛々しい笑顔を見た時、凶一郎の胸に痛みが走った。
苦しく重く悲しい痛み、チクチクと走る。
違和感を感じつつ凶一郎は病室から離れることになった。
そして別室にて六美にこと丁寧に女との関係性について長々と説明された。
奴が理由あって夜桜家の血を引いていることと、それの証明書類、これまで取った家族写真や動画。
偶然頭に強い衝撃を受けて忘れているらしい、と一時的な忘却状態だと七悪にも説明を受けた。
いくつかの証拠を提示されて俺は本当に記憶を失っているらしいとようやくここで納得した。
本心を言うとまだ疑っているが、これ以上家族の悲しむ様子は見たくなかった。
六美はとりあえず信じてくれて良かった……と安堵したが凶一郎の続きの言葉を聞いて絶句することとなる。
「だが……婚約者といえども………
俺はあいつと一緒には暮らしたくないな
悪いが六美、別のとこで生活するように伝達しといてくれ」
「凶一郎!!!」
「怒るな二刃、だってそうだろう俺にとっては赤の他人だ
任務は別として……四六時中顔を合わすなど嫌だ」
とりあえず信じたものの、仲良くするかと言うと否だ。
そう言って椅子にふんぞり返る俺に妹弟はなすすべもないと困ったように顔を見合わせた。
翌日、六美達の話している素振りから察するに婚約者の女は自ら出ていったらしい。
しばらく自宅で過ごすとか、そして六美達家族にも合わない事を伝えたようだ。
恐らく接する事で俺の機嫌を損ねないかを気にしていたと二刃があの子らしいね……と悲しそうにやるせなさそうに目を伏せたのを遠目から見守る。
ともあれこれで見た目上は平穏な生活を送れることになるだろう、と俺は安堵していたはずだった。
朝、睡眠を取らない俺はベッドから起床……ではなく六美の淹れたダークスイートで目を覚ます。
ああ、いつもと同じ香り、味、妹の笑顔、今日も素敵な1日の始まりだ。
隠し扉をくぐり居間に行こうとして聞こえるはずのない『おはよう』が聞こえた。
「?」
振り返ると誰も居なかった、気のせいか……。
その気のせいは、日が経つにつれ違和感が大きくなる。
ふと気付くと俺は誰かを知らぬうちに探していた。
声を、姿を、探している。
そこにいるべき人物、長テーブルにポツンと空いた椅子。
けれど顔も声もはっきりとしなくて思い出せない。
思い出そうとすると頭に痛みが走る。
……別に思い出さなくていいじゃないか、何も不都合な事は………………
『凶一郎』
「……………………」
気のせいだ。
『ねぇ、凶一郎』
「…………………………」
幻聴だ。
「顔さえも浮かばないのに……」
顔を片手で覆い項垂れる、脳裏に微笑みがこびりついて離れない。
こんな自分を認めたくなくて、信じがたくて仕方ない。
任務、趣味の読書、何をしていても俺は幻を追っていた。
どこにいても影を探してしまう。
分からない、自分がどうしたらいいのか、まるで巨大な迷路に彷徨った気分だ。
けれど確かに分かるのは日を追うごとに胸の痛みが増している事だった。
あれから2週間が経った。
例の奴からは連絡一つさえない。
何を今どうしているのか、家族でさえ把握していなかった。
心配そうに考え込む六美の横で七悪が神妙な表情をしていたが、俺の視線に気付くとさっと目線を逸らされる。
「………………?」
その視線の意味に気づかず俺は呑気に食事を続けていた。
相変わらず胸の痛みは消えるどころか増していくがこのまま続けていけばなくなるかもしれないと。
活けてある花が徐々に枯れていく事に気付かずに。