凶一郎の婚約者さん
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嫌五が勝手にあきらの家を訪れた後のことだった。
「つーかさ兄貴はあきら姉ちゃんの家での様子って知ってたの」
「まぁな」
「いつから?何で……」
「周りに知られてもあきらがいい顔をしないだろう
……それにこの家でも俺はあいつに暗い顔はさせたくない」
せめてこの夜桜家ではあの家の事を忘れて笑顔になってほしい、それが凶一郎の願いだった。
そう思うようになったのは11歳前後のクリスマスの夜だった。
「今年のクリスマスは自宅で家族と過ごす?」
「う、うん…………だめ?」
「いや……実の親と過ごすならそれがいいだろう
……今年は仕事じゃないんだな」
ぽつりとこぼすとあきらはぎこちなく笑うのに対し凶一郎は眉間の皺を深くする。
実の家族とクリスマスの夜を過ごす、良いことだ。
けれどどことなく自分達とは仲良くしないなんて風に感じ取ってしまい、本来祝福したいところなのに胸にトゲが刺さって上手く笑えなかった。
「…………皆には俺から言っておく……メリークリスマス」
「…………メリークリスマス、凶一郎くん」
結局愛想笑いも出来ないまま凶一郎はもやもやが溜まったままクリスマスの夜を迎えた。
「メリークリスマス!!!!!六美!凶一郎兄ちゃんサンタだぞ!!♡♡♡♡」
「…………なんにも嬉しくない」
「何故だああああああ!!!!何故そんなに悲しそうな表情をするんだ!!!!六美!!!!
何が!!何が足りない!!!ご馳走か!?!?ケーキか!?!?プレゼントか!?!?!何でも言ってくれ!!!足りない物はお兄ちゃんが用意するから!!!!」
「…………何でも?ほんとに?」
「本当だ、六美が欲しい物ならなんでもだ!!!
どんな物でもやってみせる!!!!!」
はた迷惑なことになりそうだからなんでもなんていうんじゃないよ、と二刃からの痛い視線を感じつつ凶一郎は六美の手を握る。
「何でもだ、お兄ちゃんに出来ないことはない
何が欲しい?」
優しく微笑む凶一郎に六美は躊躇いがちに呟いた。
「あきら姉ちゃん…………」
「……………………」
予想にしてなかった答えが飛んできて凶一郎は思わず言葉を失った。
凶一郎含め他の妹弟や両親も気まずく沈黙している。
凶一郎は一瞬固まった表情をすぐに笑顔に戻して六美に諭した。
「六美、あきらは今家族と過ごしているんだ
我儘言っちゃいけない」
「…………でも、一緒がいい、今までずっと……!」
「六美」
「………………私達は家族じゃないのかな」
ぽろり、と六美の瞳から涙が溢れて凶一郎は胸にガラスの破片が更に奥深く突き刺さった。
あきらから参加しないと聞いて遠ざけていた想いが蘇る。
家族じゃない、と六美の言葉が脳にこだました。
一緒じゃなきゃクリスマス会始めないとわんわん泣く六美に凶一郎は泣かせてしまったと慌てて泣き止む方法を思考した。
小学校の頃だった、クラスメイトの話し声が偶然耳に入ったのは。
「ねぇ、クリスマス会こない?」
「うーーんごめん、私家族で過ごす予定なんだよね」
「あ、そっか、だよね
クリスマスは家族で過ごすって言うもんね!!」
ばいばい、と別れる他のクラスメイトをあきらは家族………と呟いた。
今年も自ずと皆と過ごすのだろうと思っていたけれど……
クリスマスは家族と過ごすもの、と聞いてしまったからにはもう参加できないとあきらは思ってしまった。
何故なら私は本当の家族ではないから……
たまたま私が夜桜の血を偶然引いていて、彼と婚約することになってそれで家族と同じように接してもらっているだけで血が繋がっているわけではない。
一緒に過ごしたいという本心を隠したままあきらは凶一郎に今年は自宅で家族と過ごすと嘘をついた。
父親は例年通り仕事で使用人もそれぞれ家族と過ごす為に居らず一人ぼっちになると分かっていて。
あっという間に12月24日が来てしまった。
今頃夜桜家では楽しいクリスマスパーティーが開かれているのだろう。
一方こちらでは一人寂しく食事会だ。
……とはいえクリスマスでなくても誰かと食事する事はないので変わりはないのだけど。
「でもせっかくならご飯だけでも美味しいの食べよう」
美味しいご飯を食べたらきっとこの暗い気持ちもどこかにいくはず。
そう思ってスーパーで買ってきた一人用のローストチキン等をテーブルの上に広げる。
こうして広げると意外と圧巻の光景だ。
きっとこれで自分も楽しいクリスマスを過ごせる。
レンジで温めてお腹いっぱいになったら幸せになれるんだ、とチキンを頬張った。
「美味しい!!おい、しい…………」
美味しい物を食べたらきっと心は元気になると思っていた、けれど……
それなのに顔はぐしゃぐしゃになって目からはぽろぽろと涙が溢れる。
そうだ、あまりに美味しすぎるからだ、だからこんなに涙が出るんだ。
「これも……美味しい……おいし……ぐすっ」
しゃっくり上げながらお皿に涙の粒が落ちる。
ああ……せっかくのご馳走が自分の涙で汚れてしまう、泣き止まないと思ったが止まるどころか更に増えてしまう。
こんなことなら…………一緒にパーティーに参加させて、と言えば良かったな、と後悔した時誰もいないはずの居間のドアが開いた。
父は確か帰ってこなかったはず……もしかして泥棒?と身構えて涙で視界が薄れぱちぱち、と瞬きしてクリアにすると……入ってきた人物は凶一郎だった。
約五分前、凶一郎はこっそりあきらの様子を見ようと窓から覗き見しようとしていた。
理由は六美があきらが来ないとクリスマスパーティーを始めないと泣き初めてしまったからである。
とりあえず今からでも来れないかと聞いてみようと直談判するべく訪れたのだったが、凶一郎は最初から諦めていた。
家族との時間を邪魔したくなかったというのもあるが、六美の言葉が心に引っかかって玄関のチャイムを鳴らすことができなかった。
今頃あきらは父親と楽しくクリスマスを過ごしているんだ、そっちの方が大切なんだともやもやを抱えたまま窓のカーテンの隙間から中を覗くとテーブルで一人寂しく椅子に座るあきらが見えた。
その表情は暗く無で出会った時とは違って無の中に切なさを含んでいた。
その様子を眺めていると胸が更にズキズキと痛んだが、気にしない振りをして更に様子を観察する。
おかしい、確か話では父親と過ごすはずと聞いていたのだが、もしかして仕事が終わらず待っているのか?
いやそれにしては時計や帰ってくる素振りを見せない、これではまるで一人で夜を過ごしているみたいじゃないか。
あきらは自分以外誰もいないというのにクリスマス用の飾りを部屋中につけたのか雰囲気だけは楽しいクリスマスなのに当の本人は食べる前から暗い表情だった。
1人分にはやや多いご馳走を目の前にしてあきらは無理矢理笑顔を浮かべ食事を始めたが、やはり寂しかったのかぐしゃりと笑顔が崩れて泣いてしまう。
それを見た瞬間凶一郎は己に腹がたった、こんな悲しそうなあいつを見るんだったら無理矢理にでも誘えば良かった、と。
そう思った瞬間体は自ずと動いていてやってはいけない事だが、鍵を無理矢理開けて今まで何度も来ちゃ駄目と言われていたあきらの家に足を踏み入れた。
至って普通の家、けれどどことなく少し空気が冷たいような印象を受けた。
……それはさておき、今はあきらを引っ張り出さないと。
「!きょう、いちろう……くん?」
彼がこの家に来るなんて初めてじゃないだろうか。
今まで何かと理由をつけて断っていたが凶一郎は無理に足を踏み入れる事はなかったのに……と驚いて固まってしまった。
自分の家の事をなるべく知られたくなかったあきらは俯いてしまった。
周りがどう思うにしろこの歪な家の様子をとにかく知られたくなくて。
黙っていると凶一郎が手を差し伸べた。
「迎えにきた、行くぞ」
「いくって……どこに?」
「決まっているだろう、クリスマスパーティーだ
……六美がお前が来ないと始めないと言い出してな
お前が必要なんだ」
凶一郎の言葉にあきらは一瞬嬉しそうな顔をして手を伸ばそうとしたが、途中で引っ込めてしまった。
「…………駄目だよ、私は……」
家族じゃない、と言おうとして口をつぐんでしまう。
言ったら本当に彼達との縁が途絶えてしまうような気がして、内心それがどうしても怖いと思っている自分がいた。
一緒に連れてってほしい、でも私は本当の家族でもなんでもない、2つの気持ちがせめぎ合って涙が滲むと凶一郎の手が伸びて涙をすくい取った。
不安が消えないまま恐る恐る彼を見上げると凶一郎は神妙な表情をしていたが、すぐにいつもの表情に戻った。
「血がどうとかは関係ない
お前は俺の婚約者なのは事実で、いずれとかじゃなくお前はとっくに家族だ」
「凶一郎…………」
「だから気を使って遠慮することはない
…………帰ろう、あきら」
お前のもう一つの家に、と言うとあきらはまた目が潤んでしまったが、涙を拭い取ってうん、と微笑み凶一郎の手をとった。
遅れて参加したあきらを含みようやくクリスマスパーティーは始まった。
六美もすっかり泣き止んで楽しんでいて凶一郎は安堵した。
これで妹のご機嫌は取れそうだ、そして……
六美や二刃達に遅いよ、と苦言を言われつつも歓迎されたあきらはやっとのことさ笑顔を取り戻していた。
「凶一郎くん!」
楽しいね、とこちらに向かって微笑むあきらに凶一郎はああ、と頷いた。
もう先ほど見た影は見る目もない、けれどここから離れたらまたあきらはあの姿に戻るのだろう、そう思うと再び胸が痛んだ。
…………あんな寂しく苦しそうなのはみたくない、笑顔でいてほしい。
あの笑顔を無くしたくない、と初めて実感した。
その思いは今になっても消えることは、ない。
「つーかさ兄貴はあきら姉ちゃんの家での様子って知ってたの」
「まぁな」
「いつから?何で……」
「周りに知られてもあきらがいい顔をしないだろう
……それにこの家でも俺はあいつに暗い顔はさせたくない」
せめてこの夜桜家ではあの家の事を忘れて笑顔になってほしい、それが凶一郎の願いだった。
そう思うようになったのは11歳前後のクリスマスの夜だった。
「今年のクリスマスは自宅で家族と過ごす?」
「う、うん…………だめ?」
「いや……実の親と過ごすならそれがいいだろう
……今年は仕事じゃないんだな」
ぽつりとこぼすとあきらはぎこちなく笑うのに対し凶一郎は眉間の皺を深くする。
実の家族とクリスマスの夜を過ごす、良いことだ。
けれどどことなく自分達とは仲良くしないなんて風に感じ取ってしまい、本来祝福したいところなのに胸にトゲが刺さって上手く笑えなかった。
「…………皆には俺から言っておく……メリークリスマス」
「…………メリークリスマス、凶一郎くん」
結局愛想笑いも出来ないまま凶一郎はもやもやが溜まったままクリスマスの夜を迎えた。
「メリークリスマス!!!!!六美!凶一郎兄ちゃんサンタだぞ!!♡♡♡♡」
「…………なんにも嬉しくない」
「何故だああああああ!!!!何故そんなに悲しそうな表情をするんだ!!!!六美!!!!
何が!!何が足りない!!!ご馳走か!?!?ケーキか!?!?プレゼントか!?!?!何でも言ってくれ!!!足りない物はお兄ちゃんが用意するから!!!!」
「…………何でも?ほんとに?」
「本当だ、六美が欲しい物ならなんでもだ!!!
どんな物でもやってみせる!!!!!」
はた迷惑なことになりそうだからなんでもなんていうんじゃないよ、と二刃からの痛い視線を感じつつ凶一郎は六美の手を握る。
「何でもだ、お兄ちゃんに出来ないことはない
何が欲しい?」
優しく微笑む凶一郎に六美は躊躇いがちに呟いた。
「あきら姉ちゃん…………」
「……………………」
予想にしてなかった答えが飛んできて凶一郎は思わず言葉を失った。
凶一郎含め他の妹弟や両親も気まずく沈黙している。
凶一郎は一瞬固まった表情をすぐに笑顔に戻して六美に諭した。
「六美、あきらは今家族と過ごしているんだ
我儘言っちゃいけない」
「…………でも、一緒がいい、今までずっと……!」
「六美」
「………………私達は家族じゃないのかな」
ぽろり、と六美の瞳から涙が溢れて凶一郎は胸にガラスの破片が更に奥深く突き刺さった。
あきらから参加しないと聞いて遠ざけていた想いが蘇る。
家族じゃない、と六美の言葉が脳にこだました。
一緒じゃなきゃクリスマス会始めないとわんわん泣く六美に凶一郎は泣かせてしまったと慌てて泣き止む方法を思考した。
小学校の頃だった、クラスメイトの話し声が偶然耳に入ったのは。
「ねぇ、クリスマス会こない?」
「うーーんごめん、私家族で過ごす予定なんだよね」
「あ、そっか、だよね
クリスマスは家族で過ごすって言うもんね!!」
ばいばい、と別れる他のクラスメイトをあきらは家族………と呟いた。
今年も自ずと皆と過ごすのだろうと思っていたけれど……
クリスマスは家族と過ごすもの、と聞いてしまったからにはもう参加できないとあきらは思ってしまった。
何故なら私は本当の家族ではないから……
たまたま私が夜桜の血を偶然引いていて、彼と婚約することになってそれで家族と同じように接してもらっているだけで血が繋がっているわけではない。
一緒に過ごしたいという本心を隠したままあきらは凶一郎に今年は自宅で家族と過ごすと嘘をついた。
父親は例年通り仕事で使用人もそれぞれ家族と過ごす為に居らず一人ぼっちになると分かっていて。
あっという間に12月24日が来てしまった。
今頃夜桜家では楽しいクリスマスパーティーが開かれているのだろう。
一方こちらでは一人寂しく食事会だ。
……とはいえクリスマスでなくても誰かと食事する事はないので変わりはないのだけど。
「でもせっかくならご飯だけでも美味しいの食べよう」
美味しいご飯を食べたらきっとこの暗い気持ちもどこかにいくはず。
そう思ってスーパーで買ってきた一人用のローストチキン等をテーブルの上に広げる。
こうして広げると意外と圧巻の光景だ。
きっとこれで自分も楽しいクリスマスを過ごせる。
レンジで温めてお腹いっぱいになったら幸せになれるんだ、とチキンを頬張った。
「美味しい!!おい、しい…………」
美味しい物を食べたらきっと心は元気になると思っていた、けれど……
それなのに顔はぐしゃぐしゃになって目からはぽろぽろと涙が溢れる。
そうだ、あまりに美味しすぎるからだ、だからこんなに涙が出るんだ。
「これも……美味しい……おいし……ぐすっ」
しゃっくり上げながらお皿に涙の粒が落ちる。
ああ……せっかくのご馳走が自分の涙で汚れてしまう、泣き止まないと思ったが止まるどころか更に増えてしまう。
こんなことなら…………一緒にパーティーに参加させて、と言えば良かったな、と後悔した時誰もいないはずの居間のドアが開いた。
父は確か帰ってこなかったはず……もしかして泥棒?と身構えて涙で視界が薄れぱちぱち、と瞬きしてクリアにすると……入ってきた人物は凶一郎だった。
約五分前、凶一郎はこっそりあきらの様子を見ようと窓から覗き見しようとしていた。
理由は六美があきらが来ないとクリスマスパーティーを始めないと泣き初めてしまったからである。
とりあえず今からでも来れないかと聞いてみようと直談判するべく訪れたのだったが、凶一郎は最初から諦めていた。
家族との時間を邪魔したくなかったというのもあるが、六美の言葉が心に引っかかって玄関のチャイムを鳴らすことができなかった。
今頃あきらは父親と楽しくクリスマスを過ごしているんだ、そっちの方が大切なんだともやもやを抱えたまま窓のカーテンの隙間から中を覗くとテーブルで一人寂しく椅子に座るあきらが見えた。
その表情は暗く無で出会った時とは違って無の中に切なさを含んでいた。
その様子を眺めていると胸が更にズキズキと痛んだが、気にしない振りをして更に様子を観察する。
おかしい、確か話では父親と過ごすはずと聞いていたのだが、もしかして仕事が終わらず待っているのか?
いやそれにしては時計や帰ってくる素振りを見せない、これではまるで一人で夜を過ごしているみたいじゃないか。
あきらは自分以外誰もいないというのにクリスマス用の飾りを部屋中につけたのか雰囲気だけは楽しいクリスマスなのに当の本人は食べる前から暗い表情だった。
1人分にはやや多いご馳走を目の前にしてあきらは無理矢理笑顔を浮かべ食事を始めたが、やはり寂しかったのかぐしゃりと笑顔が崩れて泣いてしまう。
それを見た瞬間凶一郎は己に腹がたった、こんな悲しそうなあいつを見るんだったら無理矢理にでも誘えば良かった、と。
そう思った瞬間体は自ずと動いていてやってはいけない事だが、鍵を無理矢理開けて今まで何度も来ちゃ駄目と言われていたあきらの家に足を踏み入れた。
至って普通の家、けれどどことなく少し空気が冷たいような印象を受けた。
……それはさておき、今はあきらを引っ張り出さないと。
「!きょう、いちろう……くん?」
彼がこの家に来るなんて初めてじゃないだろうか。
今まで何かと理由をつけて断っていたが凶一郎は無理に足を踏み入れる事はなかったのに……と驚いて固まってしまった。
自分の家の事をなるべく知られたくなかったあきらは俯いてしまった。
周りがどう思うにしろこの歪な家の様子をとにかく知られたくなくて。
黙っていると凶一郎が手を差し伸べた。
「迎えにきた、行くぞ」
「いくって……どこに?」
「決まっているだろう、クリスマスパーティーだ
……六美がお前が来ないと始めないと言い出してな
お前が必要なんだ」
凶一郎の言葉にあきらは一瞬嬉しそうな顔をして手を伸ばそうとしたが、途中で引っ込めてしまった。
「…………駄目だよ、私は……」
家族じゃない、と言おうとして口をつぐんでしまう。
言ったら本当に彼達との縁が途絶えてしまうような気がして、内心それがどうしても怖いと思っている自分がいた。
一緒に連れてってほしい、でも私は本当の家族でもなんでもない、2つの気持ちがせめぎ合って涙が滲むと凶一郎の手が伸びて涙をすくい取った。
不安が消えないまま恐る恐る彼を見上げると凶一郎は神妙な表情をしていたが、すぐにいつもの表情に戻った。
「血がどうとかは関係ない
お前は俺の婚約者なのは事実で、いずれとかじゃなくお前はとっくに家族だ」
「凶一郎…………」
「だから気を使って遠慮することはない
…………帰ろう、あきら」
お前のもう一つの家に、と言うとあきらはまた目が潤んでしまったが、涙を拭い取ってうん、と微笑み凶一郎の手をとった。
遅れて参加したあきらを含みようやくクリスマスパーティーは始まった。
六美もすっかり泣き止んで楽しんでいて凶一郎は安堵した。
これで妹のご機嫌は取れそうだ、そして……
六美や二刃達に遅いよ、と苦言を言われつつも歓迎されたあきらはやっとのことさ笑顔を取り戻していた。
「凶一郎くん!」
楽しいね、とこちらに向かって微笑むあきらに凶一郎はああ、と頷いた。
もう先ほど見た影は見る目もない、けれどここから離れたらまたあきらはあの姿に戻るのだろう、そう思うと再び胸が痛んだ。
…………あんな寂しく苦しそうなのはみたくない、笑顔でいてほしい。
あの笑顔を無くしたくない、と初めて実感した。
その思いは今になっても消えることは、ない。
