凶一郎の婚約者さん
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「っ!!!」
土煙の中六美はげほっとげほっと咳き込み自分の体が誰かに抱きかかえられている事に気づいた。
柔らかい女性の体とちらりと見える茶色の髪から義理の姉であるあきらだと気づく。
「むつ、み、だい、じょう……ぶ?」
覇気のない声に違和感を感じつつ、大丈夫だとと背中に手を回すと何か自分の手に何かべったりとついた。
手のひらについた赤い血に六美はあきらが自分を庇ったのだとようやく気づく。
「お……姉ちゃん……?」
「よ、かった……あなたが無事で……本当、に……」
がくりと意識を失ったあきらに六美はボロボロと涙を流した。
「六美!!大丈夫か!!!」
端末の表示からして命には問題がないことはわかりつつも襲撃場所に急ぐ。
土煙の中、青い髪を発見し安堵してやがれ視界が晴れると凶一郎は安堵から一転、絶望に叩き落とされた。
「お姉ちゃん!!!しっかりして!!!お姉ちゃん!!!!!」
涙を流して必死に声をかける六美と六美を庇って項垂れたあきらが見える。
もう助からないほどの出血量を流しあきらは既に事切れていた。
がくりと足から力が抜けて膝をつく。
この日凶一郎は婚約者を失った。
静かな葬儀が進む。
皆喪服を纏い棺に入ったあきらに一言ずつ言伝をしていった。
「六美、大丈夫かい?」
「…………大丈夫、二刃お姉ちゃん、私は大丈夫だから」
「…………そうかい」
本当に大丈夫とは思っていないが、二刃は六美の背中を撫でる。
「……あきら姉ちゃん」
「…………あのバカ姉貴……」
「…………ほんとにな」
「あきらお姉ちゃん……」
皆涙を流す中、凶一郎だけが不在だった、何でも用があるとかで。
もちろん凶一郎だけ何も思ってないとは思わないけれど用って何なのさと納得のいかない二刃だったが、その時ようやく凶一郎が葬儀にやってきた。
遅かったね、と声をかけようとした二刃は凶一郎の様子に押し黙った。
凶一郎は大量の黒い薔薇を抱えて棺へと向かう。
感情を押し殺した凶一郎に妹弟は察して凶一郎とあきらの二人のみを残して会場を出ていった。
あきらの顔は綺麗だった、恐らく嫌五が化粧を施したのだろう。
凶一郎は何も声をかけずに黒い薔薇を一つ一つあきらの周りに添えていく。
長男として悲しみを出すわけにはいかない。
その代わりに全てこの薔薇に感情を込めていく。
出会った時の思い出から今まであきらと過ごした日々を思い返しながら気づけばあきらは999本の黒い薔薇で埋め尽くされていた。
「…………………………」
言いようのない感情が心を埋め尽くし凶一郎は静かに肺の空気を出し、あきらの顔を一瞥して会場を去った。
掛けるべき言葉は薔薇に込めた、なら別れの言葉は不要だろう、と。
