凶一郎の婚約者さん
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[借り物のお題]
中学3年生設定
ペラリとお題の紙をめくって凶一郎は顔を歪ませた。
紙には「好きな人」と書かれている。
今日は中学の運動会で凶一郎は借り物競争に参加していた。
所詮一般社会の運動会だ、本気を出すつもりはないが……
まさかこんなお題が来ようとは。
大方体育委員会の筋肉女の仕業だろうと凶一郎はその他の参加しているクラスメイトの反応から察した。
さて、どうするか。
好きな人は、いる。家族外で。
いる、が。
観客席で録画している父を顧みると絶対このお題でゴールしたくない。
ならばと凶一郎は常人には見えないスピードで紙に書き足しあきらの元へと走った。
「ちょっと来い」
リンと話していたあきらを呼ぶと何?とシートから立ち上がり靴を履いて出てきた所を腕を掴んで走り出した。
あきらはわっ!と驚いたものの大人しく凶一郎に従い走る。
やがて係のところまで着き凶一郎はお題の紙を係(聖司)に渡した。
「…………自分の事が好きな人、ね
まぁ、確かに、通っていいぞ」
「あっそっか、今借り物競争だったもんね」
と納得したあきらを引き連れ凶一郎はゴールした。
その様子を眺めていた聖司は紙をみて首をかしげる。
「こんなお題あったか?」
[すぐ近くに君がいる]
中学3年生設定
(夢主視点)
イヤホンを取り出して音楽を聞く。
あまり趣味がなくさして好きな曲もなかったあきらだが、リンから勧められ試しに聞いてみるのがここ最近の習慣と化していた。
音楽を聴きながらぼんやりと窓の外を眺めているとふいにイヤホンが外される。
?と片方から音が消えその方向をみると凶一郎だった。
「凶一郎!ごめんね、気づかなくて」
「特に謝罪することじゃないだろう
珍しいな、あまり聞くタイプじゃなかっただろう」
「うん、リンちゃんが勧めてくれたんだ!!」
凶一郎はリンと聞くと露骨に嫌な顔をするが、嬉しそうなあきらにすぐに表情を戻した。
「俺も聞いて良いか?」
「うん、いいよ!」
あきらははい、ともう一つのイヤホンも外して渡そうとするが凶一郎はいいと静止して先ほどとったイヤホンを耳にかける。
「………………!!!」
「ほう、最近はこんな曲が流行っているのか」
あきらが持っている有線イヤホンはそんなにコードが長くない。
自ずと近づく距離にあきらの顔がかっと赤く染まった。
凶一郎は静かに音楽を聴いている。
窓から吹く風が凶一郎とあきらの髪を揺らす。
ドキドキと鼓動が止まず、この時が永遠に続いたらいいのにな、なんて思った。
(凶一郎視点)
教室に入ると窓の外を眺めているあきらがいた。
近づいて話しかけるも反応はない。
よくよく見れば耳にイヤホンがかけている。
気付いてすらいなさそうなので耳元に手を伸ばしするりと片方のイヤホンを取るとあきらはびっくりしたもののこちらに気付くとすぐに微笑んだ。
何の曲を聴いていたか聞くとりんから勧められたらしい。
あのゴリラも音楽を聴いていたとは、これはすごい進歩だろう。
そんな事よりも昔から趣味がないあきらが自発的に行動した事に驚いた。
これまでずっと凶一郎の影響を受けている彼女が自分以外の色に染まりそうな予感に嫌気が差す。
あきらに聴いてもいいかと聞き凶一郎はわざと距離を近づける為に片方だけイヤホンを耳につける。
耳からは流行りの曲が流れ凶一郎としてはあまり好まない分類だ。
だが、あたふたするあきらを見る為ならもう少し聴いてやってもいいかと思い視線を合わせるとあきらの目線が右往左往する。
晴れ晴れとした青空が広がり、心地よい風が窓から流れる。
「え、と…………どう?好き?」
躊躇いがちに聞いてきたあきらに凶一郎は応える。
「ああ、好きだ」
といっても曲の方じゃないがな、と心の中で付け足した。
[もやもやが生まれた日]
中学2年生設定、春
チャイムが鳴る。
凶一郎帰ろうと声をかけようとして既にその姿がない事に気づいた。
そういえば今日は凶一郎が六美の護衛をする日だった。
時期夜桜家当主となる六美の学校の行き来は兄弟が交代で見守っている。
かくいうあきらもその内の一人だ。
彼が当番でない時は一緒に帰れたりするのだが、当番の日となればしょうがないと鞄を持ち帰ろうとするとクラスメイトの男子に話しかけられた。
「あ、あの、五十嵐さん」
「はい、なんですか」
話したことのない男子生徒にあきらは感情のない返事を返す。
早く要件を話してくれないかなと思っていると校舎裏まで来てほしいと頼まれた。
これはきっと告白か何かだろう、男子生徒の顔は紅潮していてこちらを熱心に見つめている。
「…………嫌です」
「ええっ!は、話すら聞いてくれないの!?」
「答えなんて分かりきっているのにどうしてあなたの話を聞かなきゃいけないのですか?」
そういうと男子生徒はぐっっと図星をさされ押し黙る。
じゃあ、と踵を返そうとすると男子生徒が教室で叫んだ。
「………………っ、好きです!!!」
唐突な告白に教室がざわつくがあきらは特に表情を動かすことなく返答する。
「あなたの気持ちには答えられない、だって、……」
「知ってるよ!!他に好きな人がいることくらい!!」
だって俺はその人に恋しているあなたを見て好きになったんだ、と男子生徒は言う。
…………わからない。
なんで他の人が好きな事が分かっているのに告白するんだろう、どうせ叶わない恋なのに。
「そ、それでも気持ちを伝えずにはいられなかったんだ
ほんと、それだけなんだ
俺の気持ちは全く響いていないだろうけど……
1ミリも何も思っていないだろうけど、それでも俺があなたのことを好きだと知ってほしかったんだ」
真っ直ぐに男子生徒はあきらの瞳を見る。
その真っ直ぐな視線に気持ちが揺れる……なんてことは無くそう、とやはり空虚な目で教室を去った。
次の日。
凶一郎に朝の挨拶をしようと駆け寄ると凶一郎は何故か不機嫌だった。
明らかにイライラと不機嫌オーラーが漂っていて周りの生徒達は凶一郎から距離を取り後ずさっている。
ゴゴゴゴ……と雷でも落ちそうな凶一郎にあきらは心配そうに話しかけた。
「凶一郎くん、どうしたの?
何か嫌なことでもあった?」
またお父さん絡みか六美ちゃんの事で揉めたのかな……と思うと凶一郎は無言でずかずかと廊下を歩く。
そしてそのまま生徒会室に向かい彼に続いて中に入るとガチャリと鍵をかけられる。
「凶一郎、くん?」
首を傾げると壁に追いやられてちょうどあきらの肩あたりにどん!と凶一郎の手が当たる。
所謂壁ドンと呼ばれる構図に通常なら顔を赤くするあきらだったが凶一郎の顔が険しいのを見て顔を強張らせた。
「あ、あの……私、何か気に障ることしちゃった?」
「………………」
凶一郎は苦虫を踏み潰したような表情で呟いた。
「違う、そうじゃない
…………昨日、告白を受けていただろう」
「え!?な、なんで知ってるの?昨日真っ先に六美ちゃんの護衛に行ったんじゃ……?」
「…………聖司から聞いた」
どうやら大勢の前で告白を受けてしまったことが悪さをし、学年中に知れ渡ってしまったらしい。
「…………でも、私ちゃんと断ったけど……」
告白そのものをされたことが原因していると気づいていないあきらは困惑している。
「あ、凶一郎くんの名前出したのか気になってるの?
大丈夫、言ってないから!婚約者っていうのは秘密だもんね」
大丈夫だよ、と微笑むあきらに凶一郎はもやもやした。
「…………で、その、凶一郎くん」
「なんだ」
「えっと、そろそろ手をどけてほしいなって……」
もじもじとあきらが赤面して俯く。
そういうつもりではなかったが、所謂壁ドンとやらと姿勢になっていて距離が近い。
もう少し近づけばキス出来そうな距離に凶一郎は離れることも近づくことも出来ず硬直してしまう。
「凶一郎くん……?」
「っ、あ、いや、これは……」
急に意識してしまい手に力が入る。
昨日は夜桜家に泊まっていない為自分らが使っていないシャンプーの香りがする。
…………花の香りだろうか、甘い匂いが脳を支配した。
これ以上壁ドンをする必要はないのに、凶一郎は手をどけることができない。
中学2年に入り背が伸びたからかあきらの鎖骨が目に入る。
鎖骨がなんだって言うんだ。
それにあきらとは長い付き合いだ。
幼い頃なんて一緒に風呂に入っていた事があるくらいだ。
鎖骨くらいでなんで俺はこんなに平常心を失っているんだ。
ドクン、ドクンと心臓の音がうるさい。
とはいえ心情をあまり表情に出さない凶一郎だからかあきらは本当にどうしたんだろうと心配そうな目で見る。
…………だから、そんな目をしないでくれ。
不安な表情を見たくないのと名前が分からない感情に苛まれた時、ドンドン!!と生徒会室のドアを叩く音がした。
「おーーい!!いるんだろ!!?開けてくれー!!」
声の主はりんだった。
これで口実が出来たと凶一郎は手を壁から離した。
ともかく言い訳をしなくては、と凶一郎は咄嗟に腕が痺れたと誤魔化した。
どうしてあきらが告白されたのが嫌なのか、どうして凶一郎が不機嫌な理由をどこか勘違いするように感じ取ったのをもやもやとするのか。
何故、距離が縮まっただけでこんなにも鼓動が早くなるのか。
凶一郎はまだ知らない。
[365本の薔薇]
5年後長男、結婚後想定
凶一郎は持っていた花束を後ろに隠しチャイムを押す。
はーーい、とドアが開くと妻のあきらが凶一郎に気づきおかえりなさいと微笑む。
「もう○○寝てるよ」
すっかり母となったあきらの前にたくさんの薔薇が敷き詰められた花束を差し出すとあきらは驚いた。
「あれ?どうしたの?今日何か記念日だっけ?」
「いや、特になんの日でもないが」
あきらはたくさんすぎない?と首を傾げ花束を受け取った手を両手で包み目を見開いてまっすぐあきらの瞳を見るとすぐに頬が赤く薔薇のように染まった。
「あ、ありがとう、嬉しい……」
照れて目を逸らしてしまうあきらに凶一郎は背けないでほしいと伝えると頑張って視線を合わせようとしてくれた。
愛しい妻に凶一郎は口角が緩む。
「これまでもこれからも
隣にいてくれ」
そう囁くとあきらは頬を赤く染めたままこくりと頷く。
「そ、そんなこと言われなくてもずっと隣にいるよ」
「俺が言いたかっただけだ」
「………………!!!!」
そうそう、と凶一郎は薔薇の本数を説明した。
花束に敷き詰められた本数は365本。
365本の花言葉は…………
「あなたが毎日恋しい」
中学3年生設定
ペラリとお題の紙をめくって凶一郎は顔を歪ませた。
紙には「好きな人」と書かれている。
今日は中学の運動会で凶一郎は借り物競争に参加していた。
所詮一般社会の運動会だ、本気を出すつもりはないが……
まさかこんなお題が来ようとは。
大方体育委員会の筋肉女の仕業だろうと凶一郎はその他の参加しているクラスメイトの反応から察した。
さて、どうするか。
好きな人は、いる。家族外で。
いる、が。
観客席で録画している父を顧みると絶対このお題でゴールしたくない。
ならばと凶一郎は常人には見えないスピードで紙に書き足しあきらの元へと走った。
「ちょっと来い」
リンと話していたあきらを呼ぶと何?とシートから立ち上がり靴を履いて出てきた所を腕を掴んで走り出した。
あきらはわっ!と驚いたものの大人しく凶一郎に従い走る。
やがて係のところまで着き凶一郎はお題の紙を係(聖司)に渡した。
「…………自分の事が好きな人、ね
まぁ、確かに、通っていいぞ」
「あっそっか、今借り物競争だったもんね」
と納得したあきらを引き連れ凶一郎はゴールした。
その様子を眺めていた聖司は紙をみて首をかしげる。
「こんなお題あったか?」
[すぐ近くに君がいる]
中学3年生設定
(夢主視点)
イヤホンを取り出して音楽を聞く。
あまり趣味がなくさして好きな曲もなかったあきらだが、リンから勧められ試しに聞いてみるのがここ最近の習慣と化していた。
音楽を聴きながらぼんやりと窓の外を眺めているとふいにイヤホンが外される。
?と片方から音が消えその方向をみると凶一郎だった。
「凶一郎!ごめんね、気づかなくて」
「特に謝罪することじゃないだろう
珍しいな、あまり聞くタイプじゃなかっただろう」
「うん、リンちゃんが勧めてくれたんだ!!」
凶一郎はリンと聞くと露骨に嫌な顔をするが、嬉しそうなあきらにすぐに表情を戻した。
「俺も聞いて良いか?」
「うん、いいよ!」
あきらははい、ともう一つのイヤホンも外して渡そうとするが凶一郎はいいと静止して先ほどとったイヤホンを耳にかける。
「………………!!!」
「ほう、最近はこんな曲が流行っているのか」
あきらが持っている有線イヤホンはそんなにコードが長くない。
自ずと近づく距離にあきらの顔がかっと赤く染まった。
凶一郎は静かに音楽を聴いている。
窓から吹く風が凶一郎とあきらの髪を揺らす。
ドキドキと鼓動が止まず、この時が永遠に続いたらいいのにな、なんて思った。
(凶一郎視点)
教室に入ると窓の外を眺めているあきらがいた。
近づいて話しかけるも反応はない。
よくよく見れば耳にイヤホンがかけている。
気付いてすらいなさそうなので耳元に手を伸ばしするりと片方のイヤホンを取るとあきらはびっくりしたもののこちらに気付くとすぐに微笑んだ。
何の曲を聴いていたか聞くとりんから勧められたらしい。
あのゴリラも音楽を聴いていたとは、これはすごい進歩だろう。
そんな事よりも昔から趣味がないあきらが自発的に行動した事に驚いた。
これまでずっと凶一郎の影響を受けている彼女が自分以外の色に染まりそうな予感に嫌気が差す。
あきらに聴いてもいいかと聞き凶一郎はわざと距離を近づける為に片方だけイヤホンを耳につける。
耳からは流行りの曲が流れ凶一郎としてはあまり好まない分類だ。
だが、あたふたするあきらを見る為ならもう少し聴いてやってもいいかと思い視線を合わせるとあきらの目線が右往左往する。
晴れ晴れとした青空が広がり、心地よい風が窓から流れる。
「え、と…………どう?好き?」
躊躇いがちに聞いてきたあきらに凶一郎は応える。
「ああ、好きだ」
といっても曲の方じゃないがな、と心の中で付け足した。
[もやもやが生まれた日]
中学2年生設定、春
チャイムが鳴る。
凶一郎帰ろうと声をかけようとして既にその姿がない事に気づいた。
そういえば今日は凶一郎が六美の護衛をする日だった。
時期夜桜家当主となる六美の学校の行き来は兄弟が交代で見守っている。
かくいうあきらもその内の一人だ。
彼が当番でない時は一緒に帰れたりするのだが、当番の日となればしょうがないと鞄を持ち帰ろうとするとクラスメイトの男子に話しかけられた。
「あ、あの、五十嵐さん」
「はい、なんですか」
話したことのない男子生徒にあきらは感情のない返事を返す。
早く要件を話してくれないかなと思っていると校舎裏まで来てほしいと頼まれた。
これはきっと告白か何かだろう、男子生徒の顔は紅潮していてこちらを熱心に見つめている。
「…………嫌です」
「ええっ!は、話すら聞いてくれないの!?」
「答えなんて分かりきっているのにどうしてあなたの話を聞かなきゃいけないのですか?」
そういうと男子生徒はぐっっと図星をさされ押し黙る。
じゃあ、と踵を返そうとすると男子生徒が教室で叫んだ。
「………………っ、好きです!!!」
唐突な告白に教室がざわつくがあきらは特に表情を動かすことなく返答する。
「あなたの気持ちには答えられない、だって、……」
「知ってるよ!!他に好きな人がいることくらい!!」
だって俺はその人に恋しているあなたを見て好きになったんだ、と男子生徒は言う。
…………わからない。
なんで他の人が好きな事が分かっているのに告白するんだろう、どうせ叶わない恋なのに。
「そ、それでも気持ちを伝えずにはいられなかったんだ
ほんと、それだけなんだ
俺の気持ちは全く響いていないだろうけど……
1ミリも何も思っていないだろうけど、それでも俺があなたのことを好きだと知ってほしかったんだ」
真っ直ぐに男子生徒はあきらの瞳を見る。
その真っ直ぐな視線に気持ちが揺れる……なんてことは無くそう、とやはり空虚な目で教室を去った。
次の日。
凶一郎に朝の挨拶をしようと駆け寄ると凶一郎は何故か不機嫌だった。
明らかにイライラと不機嫌オーラーが漂っていて周りの生徒達は凶一郎から距離を取り後ずさっている。
ゴゴゴゴ……と雷でも落ちそうな凶一郎にあきらは心配そうに話しかけた。
「凶一郎くん、どうしたの?
何か嫌なことでもあった?」
またお父さん絡みか六美ちゃんの事で揉めたのかな……と思うと凶一郎は無言でずかずかと廊下を歩く。
そしてそのまま生徒会室に向かい彼に続いて中に入るとガチャリと鍵をかけられる。
「凶一郎、くん?」
首を傾げると壁に追いやられてちょうどあきらの肩あたりにどん!と凶一郎の手が当たる。
所謂壁ドンと呼ばれる構図に通常なら顔を赤くするあきらだったが凶一郎の顔が険しいのを見て顔を強張らせた。
「あ、あの……私、何か気に障ることしちゃった?」
「………………」
凶一郎は苦虫を踏み潰したような表情で呟いた。
「違う、そうじゃない
…………昨日、告白を受けていただろう」
「え!?な、なんで知ってるの?昨日真っ先に六美ちゃんの護衛に行ったんじゃ……?」
「…………聖司から聞いた」
どうやら大勢の前で告白を受けてしまったことが悪さをし、学年中に知れ渡ってしまったらしい。
「…………でも、私ちゃんと断ったけど……」
告白そのものをされたことが原因していると気づいていないあきらは困惑している。
「あ、凶一郎くんの名前出したのか気になってるの?
大丈夫、言ってないから!婚約者っていうのは秘密だもんね」
大丈夫だよ、と微笑むあきらに凶一郎はもやもやした。
「…………で、その、凶一郎くん」
「なんだ」
「えっと、そろそろ手をどけてほしいなって……」
もじもじとあきらが赤面して俯く。
そういうつもりではなかったが、所謂壁ドンとやらと姿勢になっていて距離が近い。
もう少し近づけばキス出来そうな距離に凶一郎は離れることも近づくことも出来ず硬直してしまう。
「凶一郎くん……?」
「っ、あ、いや、これは……」
急に意識してしまい手に力が入る。
昨日は夜桜家に泊まっていない為自分らが使っていないシャンプーの香りがする。
…………花の香りだろうか、甘い匂いが脳を支配した。
これ以上壁ドンをする必要はないのに、凶一郎は手をどけることができない。
中学2年に入り背が伸びたからかあきらの鎖骨が目に入る。
鎖骨がなんだって言うんだ。
それにあきらとは長い付き合いだ。
幼い頃なんて一緒に風呂に入っていた事があるくらいだ。
鎖骨くらいでなんで俺はこんなに平常心を失っているんだ。
ドクン、ドクンと心臓の音がうるさい。
とはいえ心情をあまり表情に出さない凶一郎だからかあきらは本当にどうしたんだろうと心配そうな目で見る。
…………だから、そんな目をしないでくれ。
不安な表情を見たくないのと名前が分からない感情に苛まれた時、ドンドン!!と生徒会室のドアを叩く音がした。
「おーーい!!いるんだろ!!?開けてくれー!!」
声の主はりんだった。
これで口実が出来たと凶一郎は手を壁から離した。
ともかく言い訳をしなくては、と凶一郎は咄嗟に腕が痺れたと誤魔化した。
どうしてあきらが告白されたのが嫌なのか、どうして凶一郎が不機嫌な理由をどこか勘違いするように感じ取ったのをもやもやとするのか。
何故、距離が縮まっただけでこんなにも鼓動が早くなるのか。
凶一郎はまだ知らない。
[365本の薔薇]
5年後長男、結婚後想定
凶一郎は持っていた花束を後ろに隠しチャイムを押す。
はーーい、とドアが開くと妻のあきらが凶一郎に気づきおかえりなさいと微笑む。
「もう○○寝てるよ」
すっかり母となったあきらの前にたくさんの薔薇が敷き詰められた花束を差し出すとあきらは驚いた。
「あれ?どうしたの?今日何か記念日だっけ?」
「いや、特になんの日でもないが」
あきらはたくさんすぎない?と首を傾げ花束を受け取った手を両手で包み目を見開いてまっすぐあきらの瞳を見るとすぐに頬が赤く薔薇のように染まった。
「あ、ありがとう、嬉しい……」
照れて目を逸らしてしまうあきらに凶一郎は背けないでほしいと伝えると頑張って視線を合わせようとしてくれた。
愛しい妻に凶一郎は口角が緩む。
「これまでもこれからも
隣にいてくれ」
そう囁くとあきらは頬を赤く染めたままこくりと頷く。
「そ、そんなこと言われなくてもずっと隣にいるよ」
「俺が言いたかっただけだ」
「………………!!!!」
そうそう、と凶一郎は薔薇の本数を説明した。
花束に敷き詰められた本数は365本。
365本の花言葉は…………
「あなたが毎日恋しい」
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