凶一郎の婚約者さん
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「紹介しよう灰、俺の婚約者であるあきらだ
ほら、挨拶しろあきら」
休日にも関わらず体育倉庫前に急遽凶一郎に呼び出された灰は唐突に彼の婚約者を紹介されちょっと困惑していた。
彼に振り回れるのはしばしばだが急に婚約者を紹介されるとは露にも思わなかった。
婚約者と呼ばれる同い年の彼女は緊張しているのか中々凶一郎の後ろから出てこようとしない。
あきらは凶一郎の背中からひょこりと顔だけを出してか細い声で、こんにちは……と挨拶をしてまた引っ込んでしまった。
多分人見知りなのだろう。
彼と彼女が普段から仲良くしていることは凶一郎と知り合う以前から自ずと知っていたが、あまり彼女が他の人と話しているところは見たことがない。
中々自分の背中から出ようとしないあきらに痺れを切らしたのか凶一郎がいい加減出ろと言うとおどおどと背を縮こませて凶一郎の隣に立つ。
緊張が解けないのかあきらは手の指を交差しながら自己紹介をする。
「え、と。
凶一郎くんの婚約者のあきら、です」
「こんにちは、僕は出雲灰」
さて、次は彼にどうして僕らを引き合わせたのか聞かないと。
「ねぇ、凶一郎、今日は何のために呼び出したの?」
「ああ、あきらと灰に戦ってもらおうと思ってだな
灰には俺が手解きはしているがまだまだ実戦経験が足りん
とはいえ任務にぶち込むわけにはいかないからな」
「え…………?私手合わせの為に連れてこられたの?
刀持ってきてないよ?持ってるの小刀だけなんだけど」
あきらはぱちくりと初耳だと目を見開いた。
凶一郎は事あるごとに他人をごたごたに巻き込む。
それが唐突なのだから困ったものだ。
どうしようと狼狽えるあきらに凶一郎は玩具を渡す。
「これで十分だ」
明らかに子供用の玩具に灰はなんだか尺にさわった。
凶一郎に指導してもらっているとはいえまだまだぺーぺーだと言われているかのように感じる。
あきらといえば玩具の刀を物珍しそうに眺めている。
…………まぁ軽い手合わせなのだからこれで十分ということなんだろう。
「で、僕は何の武器を持ったらいいのかな?」
「いつも通りで構わん」
そう、と灰は愛用のカッターをズボンから取り出して、カチリと刃を出した。
まぁ軽い手合わせだ。
あのほんわかとした少女ならいい感じに戦ってくれるだろう。
「では、位置につけ
あの時計の針が0分になったら始める
勝敗は3分決着がつかないか、喉元に刃を突きつけた時点で勝利とする」
凶一郎の指示どおりあきらと灰は決められた位置に移動する。
休日で人がいない校舎は静かだ。
距離にして5mくらいの間隔を開けて相対する。
「じゃあ、お手柔らかに」
「こ、こちらこそっ、よろしくお願いひゃます!!あ、噛んじゃった…………」
あせあせと恥ずかしがるあきらに戦闘する直前とは思えなくて灰は思わず笑ってしまった。
あと十秒くらい、風が舞う。
灰はカッターを構え、あきらも玩具の剣をぎゅっと握った。
「………………では、始め」
あきらの姿が搔き消える。
気づけば自分の懐にまで移動してきて玩具の剣は既に首元にまで迫っていたのをすんでのところで躱す。
後ろにバックステップで後退ったのを更にあきらの攻撃が襲う。
剣だけではなく、足を翻して蹴りが飛んでくるのをギリギリのところで身を翻した。
…………何か、おかしい。
行動が読めない、あきらの動きに違和感を感じる。
ギリギリにならないとどこに攻撃がくるか分からない。
それに先ほどまでほのぼのとした印象は消え去り空虚な瞳が灰を捉えていた。
感情が消え去ったかのような瞳に灰はカッターを構える様子を凶一郎は静観する。
(そうだ、気づけ灰
お前はいつもその目で人の行動を無意識に読み取っている)
人は通常、どこに体を動かそうと考えて脳から電気信号が流れることで筋肉を動かしている。
その差僅かコンマ.秒のその動きだけで灰はその人がどう攻撃を仕掛けてくるか読み取っている。
だが、あきらは違う。
どうしようとか、どう攻撃を仕掛けようなど考えてはいない。
戦闘時におけるあきらの脳内は常に空虚で、全て体に刻まれた戦闘経験に基づき判断している。
度々こういう人間もいる。
それと相対した時に対応できるよう灰もまた己の得意部分が合致しない時に対処法を学ばなければならない。
そして。
(できればもう一つ気づいてくれ)
あきらの異常さを。
「っ!」
まるでメデューサのようなあきらの瞳に寒さを感じる。
先ほどまで笑っていたのが嘘かのように表情は冷たい。
時間を見ればあともう半分を下回ろうとしている。
灰は息切れしているのにも関わらずあきらは息一つ乱していない。
まるで肺が止まったかのように呼吸すらしている気配がない。
感情を感じず、意思を感じず、体温を感じさせない攻撃はまるで死神だ。
何か、打点をうちたい、打開策を……と考えた時視界の端に大きなガラス板が置かれているのに気づいた。
距離にして2mほど、一気に走れば攻撃を受けることなく目眩ましに使える。
(動くなら、いま!!)
灰はガラス板のところまでダッシュで駆け掴むも思いの他重い。
鍛え始めたとは言え、まだまだ筋力は足りないようでやっとのこさでガラスを追ってきたあきらに投げつけるとその反動で尻もちをついた。
あきらは玩具の剣をガラス板を突くとどういう作りをしていたのか突き刺した瞬間荒い破片となってバラける。
好都合だ、流石にガラスの雨を突っ切る者はいないだろうと思い、これを避けた後攻撃がくると予想してガラスの雨の中あきらの足がぐっと踏み込むのが見えた。
驚く暇もなくあきらはガラスの破片が舞う雨の中を避けないまま突っ切った。
服はおろか、鋭い破片はあきらの皮膚を引き裂く。
意表を突かれた灰はワンテンポ反応が遅れ身構えた時、凶一郎が手を叩いた。
「そこまでだ」
凶一郎の声にすっとあきらの目に光が止まる。
「あれ?もう時間経った?」
「経っていないがこれ以上続ける訳にもいかんだろう
自分の姿をよく見てみろ」
こちらを見ず鞄を差し出す凶一郎の問いにあきらは自身の姿を見下ろす。
先ほどガラスの破片を無理に突き進んだせいか服が避け下着や肌が思いっきり見えていて、あきらは一瞬思考が止まった後一気に顔を赤くした。
「ご、ごめんなさい!!!!
すぐ着替えてくる!!!!」
「ああ、ついでに怪我の手当てもしてこい」
ぺこぺこと頭を下げあきらは体育倉庫に走っていった。
「さて、答え合わせといくか」
と言い凶一郎は灰に手を差し伸べ尻もちをついたままの灰は凶一郎の手をとった。
灰は凶一郎から自分の癖を教えてもらいなるほどね、と納得する。
確かにそういう人物は存在したわけだ。
これで経験は積んだことだし次に生かせるだろう。
「それであいつについて何か気づいたことはあるか?」
ベンチに座り凶一郎が問う。
「何か……ね」
とにかくあの最後の行動が気にかかった。
確かにあれは最短で攻撃をしかけることはできる。
けれど最善ではない、現にあきらは服もろとも自身を傷つけてしまった。
普通では考えつかない歪な行動。
それがあの異様な雰囲気と何か関係があるかもしれないと言うと凶一郎は正解だという。
「俺が思うにあの異様な行動は誕生時に発現した開花の影響だ」
夜桜家だけが持つ特別な能力、開花。
開花すると凄まじい力を発揮することが出来る。
あきらは由縁あって夜桜の血を引き継いでことが判明し夜桜家で面倒を見られていたらしい。
「さっき戦っていた時も開花してたってこと?」
「いや、していない
あれはあくまでも残滓にすぎない」
あきらは夜桜家で過ごすうちに感情豊かになった、けれど戦闘時だけは中々感情が宿らない。
感情を持たないうちから戦闘訓練を受けていたのが色濃く残りそれが今になっても続いている。
「凶一郎が相談したいのはソレに伴う自己犠牲だね?」
「ああ、今はマシにはなったが
昔はよく無理矢理敵に突っ込んで怪我を負っていた」
しかもそれが凶一郎の前に飛び出して敵の攻撃を受けるなんて事がしょっちゅう起きていた。
その時の怪我によりあきらの体には傷跡が多く残っている。
自分の命を勘定に入れておらず先ほどのように無謀な行動を取る為、服が駄目になるなんて事も日常茶飯事で常にあきらは制服や私服の着替えを何着も持っている。
でもこれはあくまでも誕生時に発現した開花の影響である。
もし、再度開花してしまったら。
凶一郎の予想では取り返しのつかないことになってしまうのではと不安が押し寄せた。
あの笑顔が消えてしまうのではないか、と。
そんな未来は起こさせたくはないし、起きてほしくはない。
黙ってしまった凶一郎は灰はわかったよ、と言う。
「凶一郎はあの子の事が大切で、好きなんだね」
「は??」
ニコニコ笑う灰に凶一郎は素っ頓狂な声をだした。
言っている意味が分からない。
「お前俺の話ちゃんと聞いていたのか?
あの話からどうしてその感想が出るんだ」
「だって、戦闘時から
スカートが捲れそうになる度に目を背けたり、服が裂けた時に他に万が一誰かに見えないように自分の姿で隠そうとしてたり……誰だって気付くよ」
「なっっっっ」
凶一郎は気に食わんとそっぽを向く。
「どうせあの子にもそんな態度とってるんだろ?」
「……………………うるさい」
そんなやり取りをしていたせいか相談はやがて喧嘩に発展していく。
そこにやっと着替え終わったあきらがやってきた。
「はあはあ、お待たせ
血が倉庫についちゃって後処理に……ん?」
凶一郎と灰はぎゃいぎゃいと取っ組み合いの喧嘩をしていてあきらは困ったように首を傾げたのだった。