凶一郎の婚約者さん
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六美がガオンモールに買い物をしにいった後、六美は上機嫌で帰宅した。
それもそのはず完全招待制で滅多に当たらない無限地獄温泉一泊二日チケットが当たったからである。
久々に羽根を伸ばせるぞと家族皆が楽しそうに話す中、凶一郎のみが生憎その日には任務が入ってしまっていた。
凶一郎は当然任務をすっぽかそうとしたが、協会直々の任務の為ぶん投げるわけにはいかず二刃がさっさと行きなと荷物の鞄を投げる。
どうしても六美に着いていきたい凶一郎は床に転がってただをこねた。
とても成人男性らしからぬ行動に二刃は呆れ果てる。
しかとその理由が六美の入浴を見守るとのことだから尚更である。
ストライキでも起こすか、とのたまう凶一郎の手を六美がぎゅっと握った。
「今回はごめんね、次こそは一緒に行こうよ
お仕事頑張ってねお兄ちゃん♡」
六美に応援された凶一郎はさっきまでの不機嫌が嘘かのようにはりきって出ていった。
最後に太陽に、混浴でもしたら八裂きだと吐き捨てて。
同じく凶一郎を見送ったあきらは凶一郎が家から出たのを見計らい六美にちょっといいかな?と声をかけた。
「で、何でお前までいる
六美達と一緒に温泉に行くはずだっただろう」
出張先にて任務に取り掛かろうとしていた凶一郎の横にはあきらが立っている。
「その予定だったんだけど……
凶一郎の仕事手伝おうかなって
どうせ早めに終わらせて温泉行くつもりなんでしょ?
なら私も手伝った方がゆっくり温泉満喫出来ると思わない?」
ね?とあきらが笑う。
それもそうか、と凶一郎は納得した。
「では、手早く終わらすとするか」
「了解」
任務はものの1時間で終わってしまった。
報告書は旅先で書くとして後は温泉に向かうだけだ。
そろそろ向かうぞ、と言おうとした凶一郎はあきらが行ってらっしゃいと手を振っていることに気づいた。
「…………おい、なんだその身振りは」
「え?や、だって家族水入らずの温泉旅行だし……
居ないほうが皆ゆっくり出来るかなって……」
あきらは事あるごとにこういう事を口にする。
結婚してないから、まだ婚約の身だからと言い訳をして家族ではない、と一線を引こうとする。
確かに凶一郎はあきらの事を兄弟の一人とは捉えてはいない。
だが、周りの妹弟はそうではない。
凶一郎はあきらの腕を掴み二台目の自家用車に向かう。
「ちょ、凶一郎、私はいいから……!」
「黙って着いてこい」
抵抗するあきらを無理矢理助手席に座らせて、運転席に着く。
「あ、あの、凶一郎」
「シートベルトしろ」
「あ、そうだね…………って違う!」
と言いつつあきらはしっかりシートベルトをしている。
口ではああ言いつつ本当は皆と一緒に温泉旅行に行きたいのだろう。
でもどこか迷惑なのでは、と思いが捨てきらなくてこんな事になっている。
「そ、それに凶一郎だって
六美ちゃんとゆっくり…………」
「そうだな、だがお前がいないとつまらん
諦めて着いてこい」
凶一郎はシートベルトをして、キーを挿して車のエンジンをかける。
聞く耳を持たない凶一郎にあきらは抵抗をやめて座席に身を預けると開いた窓から風が入ってきて心地よく感じた。
「…………着く頃は深夜だね、皆寝てるかな?」
「ああ、俺は着いたら六美の寝顔を見るとするか」
「凶一郎、女子部屋に勝手に入ったらダメだからね、二刃にまた怒られるよ?」
釘をさすと凶一郎の顔が歪んだのを見てつい笑ってしまう。
「何がおかしい」
「ううん、いつもの凶一郎だなって」
凶一郎は、ふん、とハンドルを回して車体が揺れる。
もはや車道とはいえない道(?)だが過酷な任務に慣れたあきら達にとっては平和に等しい。
と、あきらはよくよく考えたらこの状況はドライブデートというものなのでは?と今更気づいた。
こうして二人で車で移動するなんて初めてではないだろうか、皆で行動することがおおく電車での移動も多かった。
ここから温泉まで数時間。
ずっと凶一郎と二人っきり…………?と思い頬に熱が集中する。
そうだ、寝ればいい……と思ったけれどそれは運転している凶一郎に悪い。
凶一郎の方を見れば明らかに悪環境で運転しているはずなのに鼻歌を歌うような軽さで前を向いていた。
その横顔に胸がきゅんと締め付けられてあきらはつい俯いてしまう。
いくらなんでもカッコよすぎる、いや凶一郎はいつもカッコいいのだけれど……
「どうかしたか」
「え!?あ、や、何でもない、デス」
ぎこちないあきらを見て凶一郎はだいたいの理由を察した。
そうか、と気にしない振りをしてあきらがときめきそうな仕草をとる。
ネクタイを緩めたり……片腕だけで運転したり、あきらが飲み物を取ろうとした時に合わせて偶然の振りで手を合わせたり……
「顔が赤いな、暑いか?」
「そ、そうだね、あ、暑いね~」
とパタパタあきらは仰ぐ仕草をする。
元凶である凶一郎はあきらの反応を楽しみつつ運転していたが、急に車を停止した。
「!どうしたの?」
「野生の群れだ」
ぞろぞろと大量の野生の群れが闊歩している。
まるで渋滞に巻き込まれたかのようだ。
「突っ切る?」
「いや、こいつらは刺激すると面倒だ
到着は遅くなるが待ったほうがいい」
たかが二三十分だしな、と凶一郎はハンドルから手を離す。
「凶一郎、運転大丈夫?
温泉着くまで変わろうか?」
「いや、平気だ、お前は寝ていていい」
と、言ったがあきらは納得出来ないらしい。
そもそも睡眠をとらない方針をあまりよく思っていないようで(追求したりはしないが)、文句があるようだった。
が、凶一郎はこの運転の席を交代したくはなかった。
他に兄弟がいるならともかく、ここは二人きりだ。
なら、少しはかっこよく見せたいと思うが常識だ。
が、あきらも凶一郎に似て頑固であり、納得出来ないと頑なに頷こうとしない。
ここは仕方あるまい、と凶一郎はシートベルトを外しあきらに近づいた。
「きょ、凶一郎…………??」
頬を上下させたあきらの頬に手を当てる。
しばらく眠っていて貰おう、と凶一郎はあきらの頬にキスをした。
あれから数時間達目的地についた。
凶一郎はシートベルトを外して、眠り姫とさせたあきらの体を揺らす。
「おい、起きろ」
凶一郎の声にあきらは目を覚ました。
目を開けると車の窓の向こうには無限地獄温泉と書かれた看板が見える。
…………いつの間に眠ってしまったんだろう、と記憶を辿るがあやふやなのが浮かぶばかりだ。
多分車体の揺れが心地よくて眠ってしまったのだろう。
車から降りて固まった体をほぐして受付へと向かう。
「夜桜凶一郎だ」
「夜桜様のご長男さまでございますね、ようこそいらっしゃいました、…………そちらの女性の方は……?」
「婚約者だ、何か問題でも?」
「いえ、そうでございましたか、これは失礼を致しました。では、お部屋をご案内します」
男女別々の部屋な為一旦別れることになり浴衣に着替え、共有スペースに移動すると凶一郎と出会った。
無論凶一郎も珍しくスーツではない浴衣に身を包んでいる。
「なんだ、じっと見て
前にも見たことあるだろう」
「そ、そうなんだけど…………」
てれてれと目を背けているあきらは凶一郎もまたあきらに視線を奪われている事に気づいていなかった。
あきらも普段きちっとした服を着ていることが多く、浴衣は普段隠れている体のラインを表していた。
少し開けた胸元はずらせば谷間が見えそうで凶一郎は思わず喉をごくりと鳴らす。
「あ、そういえば二刃達部屋にいなかったんだけど……」
「……宴会場から悲鳴が聞こえるな、恐らく酒を飲まされたな、さては」
面倒だ、凶一郎は嘆く。
あきらと異なるパターンで二刃の酒癖は悪い。
一度醉うと酒が切れるまで暴れ続けてしまう。
他の弟妹達が必死になだめる声が響いてくる。
「六美は部屋にいたんだろう?」
「ん?ううん、いなかったよ
二刃達のとこにいるんじゃ?」
男子部屋と二刃のところに太陽が居なかったことから凶一郎は、ほう…………と凶悪な笑顔を浮かべた。
睦まじい夫婦の元にドス黒い怒りを携えた男が近づく。
止めようとした弟を吹っ飛ばし凶一郎は部屋に備え付けられている個人風呂の扉を開けた。
忠告をしたはずにも関わらず混浴をした愚弟に制裁を加えるべく、枕を投げると二刃によって止められた。
さっさと逃げな、と二刃に促されて太陽と六美は慌てて湯船から脱出していく。
凶一郎を止めるべくというか日頃鬱憤を貯めていた他スパイ達全員で凶一郎に襲いかかる。
そして一晩中の枕投げ合戦の結果は凶一郎の負け……という形になった。
流石にこの人数+妹弟を同時に相手をするのは分が悪いと凶一郎は旅館の椅子に腰かけた。
流石にもう暴れる気力はないらしく体を休ませていると、ことんと湯呑みが机に置かれる。
「お疲れ様、凶一郎」
凶一郎は湯呑みを取り茶を啜る。
「ごめんね、流石に紅茶は旅館には置いてないから」
「それよりも、お前参加しなかったな
何故俺の味方をせん」
「うーーん、私は確かに凶一郎の味方だけど……
これはこれ、それはそれ
代わりにどっちにもつかなかったし」
あきらといえば、凶一郎側、二刃達側、どちらにもつかず静観していた。
「…………正直スパイダーの人達には攻撃したかったけど」
ふふ、と漆黒の闇に包まれるあきらに凶一郎はポンポンと頭を撫でた。
「上出来だ、お前はいつも突進するからな」
「い、いつもじゃない、凶一郎の悪口言ってる人にだけだし…………」
むくれるあきらに凶一郎はふっ、と笑う。
「さて、そろそろチェックアウトの時間だな」
これから家までまた車で戻らねばならんと思っているとあきらが凶一郎の懐から車のキーを奪った。
「おい……!!返せ」
「やだ、だって凶一郎疲れてるでしょ?
私ずっと見てただけだし、ここは私に任せて」
あきらはキーを後ろに隠す。
通常なら無理矢理にでもふんだくっているどころだが、激しい枕投げ合戦の後だと流石にその気力さえも起こらない。
仕方ないと、好きにしろと言うとあきらはやった、とにっこり笑ったのだった。
それもそのはず完全招待制で滅多に当たらない無限地獄温泉一泊二日チケットが当たったからである。
久々に羽根を伸ばせるぞと家族皆が楽しそうに話す中、凶一郎のみが生憎その日には任務が入ってしまっていた。
凶一郎は当然任務をすっぽかそうとしたが、協会直々の任務の為ぶん投げるわけにはいかず二刃がさっさと行きなと荷物の鞄を投げる。
どうしても六美に着いていきたい凶一郎は床に転がってただをこねた。
とても成人男性らしからぬ行動に二刃は呆れ果てる。
しかとその理由が六美の入浴を見守るとのことだから尚更である。
ストライキでも起こすか、とのたまう凶一郎の手を六美がぎゅっと握った。
「今回はごめんね、次こそは一緒に行こうよ
お仕事頑張ってねお兄ちゃん♡」
六美に応援された凶一郎はさっきまでの不機嫌が嘘かのようにはりきって出ていった。
最後に太陽に、混浴でもしたら八裂きだと吐き捨てて。
同じく凶一郎を見送ったあきらは凶一郎が家から出たのを見計らい六美にちょっといいかな?と声をかけた。
「で、何でお前までいる
六美達と一緒に温泉に行くはずだっただろう」
出張先にて任務に取り掛かろうとしていた凶一郎の横にはあきらが立っている。
「その予定だったんだけど……
凶一郎の仕事手伝おうかなって
どうせ早めに終わらせて温泉行くつもりなんでしょ?
なら私も手伝った方がゆっくり温泉満喫出来ると思わない?」
ね?とあきらが笑う。
それもそうか、と凶一郎は納得した。
「では、手早く終わらすとするか」
「了解」
任務はものの1時間で終わってしまった。
報告書は旅先で書くとして後は温泉に向かうだけだ。
そろそろ向かうぞ、と言おうとした凶一郎はあきらが行ってらっしゃいと手を振っていることに気づいた。
「…………おい、なんだその身振りは」
「え?や、だって家族水入らずの温泉旅行だし……
居ないほうが皆ゆっくり出来るかなって……」
あきらは事あるごとにこういう事を口にする。
結婚してないから、まだ婚約の身だからと言い訳をして家族ではない、と一線を引こうとする。
確かに凶一郎はあきらの事を兄弟の一人とは捉えてはいない。
だが、周りの妹弟はそうではない。
凶一郎はあきらの腕を掴み二台目の自家用車に向かう。
「ちょ、凶一郎、私はいいから……!」
「黙って着いてこい」
抵抗するあきらを無理矢理助手席に座らせて、運転席に着く。
「あ、あの、凶一郎」
「シートベルトしろ」
「あ、そうだね…………って違う!」
と言いつつあきらはしっかりシートベルトをしている。
口ではああ言いつつ本当は皆と一緒に温泉旅行に行きたいのだろう。
でもどこか迷惑なのでは、と思いが捨てきらなくてこんな事になっている。
「そ、それに凶一郎だって
六美ちゃんとゆっくり…………」
「そうだな、だがお前がいないとつまらん
諦めて着いてこい」
凶一郎はシートベルトをして、キーを挿して車のエンジンをかける。
聞く耳を持たない凶一郎にあきらは抵抗をやめて座席に身を預けると開いた窓から風が入ってきて心地よく感じた。
「…………着く頃は深夜だね、皆寝てるかな?」
「ああ、俺は着いたら六美の寝顔を見るとするか」
「凶一郎、女子部屋に勝手に入ったらダメだからね、二刃にまた怒られるよ?」
釘をさすと凶一郎の顔が歪んだのを見てつい笑ってしまう。
「何がおかしい」
「ううん、いつもの凶一郎だなって」
凶一郎は、ふん、とハンドルを回して車体が揺れる。
もはや車道とはいえない道(?)だが過酷な任務に慣れたあきら達にとっては平和に等しい。
と、あきらはよくよく考えたらこの状況はドライブデートというものなのでは?と今更気づいた。
こうして二人で車で移動するなんて初めてではないだろうか、皆で行動することがおおく電車での移動も多かった。
ここから温泉まで数時間。
ずっと凶一郎と二人っきり…………?と思い頬に熱が集中する。
そうだ、寝ればいい……と思ったけれどそれは運転している凶一郎に悪い。
凶一郎の方を見れば明らかに悪環境で運転しているはずなのに鼻歌を歌うような軽さで前を向いていた。
その横顔に胸がきゅんと締め付けられてあきらはつい俯いてしまう。
いくらなんでもカッコよすぎる、いや凶一郎はいつもカッコいいのだけれど……
「どうかしたか」
「え!?あ、や、何でもない、デス」
ぎこちないあきらを見て凶一郎はだいたいの理由を察した。
そうか、と気にしない振りをしてあきらがときめきそうな仕草をとる。
ネクタイを緩めたり……片腕だけで運転したり、あきらが飲み物を取ろうとした時に合わせて偶然の振りで手を合わせたり……
「顔が赤いな、暑いか?」
「そ、そうだね、あ、暑いね~」
とパタパタあきらは仰ぐ仕草をする。
元凶である凶一郎はあきらの反応を楽しみつつ運転していたが、急に車を停止した。
「!どうしたの?」
「野生の群れだ」
ぞろぞろと大量の野生の群れが闊歩している。
まるで渋滞に巻き込まれたかのようだ。
「突っ切る?」
「いや、こいつらは刺激すると面倒だ
到着は遅くなるが待ったほうがいい」
たかが二三十分だしな、と凶一郎はハンドルから手を離す。
「凶一郎、運転大丈夫?
温泉着くまで変わろうか?」
「いや、平気だ、お前は寝ていていい」
と、言ったがあきらは納得出来ないらしい。
そもそも睡眠をとらない方針をあまりよく思っていないようで(追求したりはしないが)、文句があるようだった。
が、凶一郎はこの運転の席を交代したくはなかった。
他に兄弟がいるならともかく、ここは二人きりだ。
なら、少しはかっこよく見せたいと思うが常識だ。
が、あきらも凶一郎に似て頑固であり、納得出来ないと頑なに頷こうとしない。
ここは仕方あるまい、と凶一郎はシートベルトを外しあきらに近づいた。
「きょ、凶一郎…………??」
頬を上下させたあきらの頬に手を当てる。
しばらく眠っていて貰おう、と凶一郎はあきらの頬にキスをした。
あれから数時間達目的地についた。
凶一郎はシートベルトを外して、眠り姫とさせたあきらの体を揺らす。
「おい、起きろ」
凶一郎の声にあきらは目を覚ました。
目を開けると車の窓の向こうには無限地獄温泉と書かれた看板が見える。
…………いつの間に眠ってしまったんだろう、と記憶を辿るがあやふやなのが浮かぶばかりだ。
多分車体の揺れが心地よくて眠ってしまったのだろう。
車から降りて固まった体をほぐして受付へと向かう。
「夜桜凶一郎だ」
「夜桜様のご長男さまでございますね、ようこそいらっしゃいました、…………そちらの女性の方は……?」
「婚約者だ、何か問題でも?」
「いえ、そうでございましたか、これは失礼を致しました。では、お部屋をご案内します」
男女別々の部屋な為一旦別れることになり浴衣に着替え、共有スペースに移動すると凶一郎と出会った。
無論凶一郎も珍しくスーツではない浴衣に身を包んでいる。
「なんだ、じっと見て
前にも見たことあるだろう」
「そ、そうなんだけど…………」
てれてれと目を背けているあきらは凶一郎もまたあきらに視線を奪われている事に気づいていなかった。
あきらも普段きちっとした服を着ていることが多く、浴衣は普段隠れている体のラインを表していた。
少し開けた胸元はずらせば谷間が見えそうで凶一郎は思わず喉をごくりと鳴らす。
「あ、そういえば二刃達部屋にいなかったんだけど……」
「……宴会場から悲鳴が聞こえるな、恐らく酒を飲まされたな、さては」
面倒だ、凶一郎は嘆く。
あきらと異なるパターンで二刃の酒癖は悪い。
一度醉うと酒が切れるまで暴れ続けてしまう。
他の弟妹達が必死になだめる声が響いてくる。
「六美は部屋にいたんだろう?」
「ん?ううん、いなかったよ
二刃達のとこにいるんじゃ?」
男子部屋と二刃のところに太陽が居なかったことから凶一郎は、ほう…………と凶悪な笑顔を浮かべた。
睦まじい夫婦の元にドス黒い怒りを携えた男が近づく。
止めようとした弟を吹っ飛ばし凶一郎は部屋に備え付けられている個人風呂の扉を開けた。
忠告をしたはずにも関わらず混浴をした愚弟に制裁を加えるべく、枕を投げると二刃によって止められた。
さっさと逃げな、と二刃に促されて太陽と六美は慌てて湯船から脱出していく。
凶一郎を止めるべくというか日頃鬱憤を貯めていた他スパイ達全員で凶一郎に襲いかかる。
そして一晩中の枕投げ合戦の結果は凶一郎の負け……という形になった。
流石にこの人数+妹弟を同時に相手をするのは分が悪いと凶一郎は旅館の椅子に腰かけた。
流石にもう暴れる気力はないらしく体を休ませていると、ことんと湯呑みが机に置かれる。
「お疲れ様、凶一郎」
凶一郎は湯呑みを取り茶を啜る。
「ごめんね、流石に紅茶は旅館には置いてないから」
「それよりも、お前参加しなかったな
何故俺の味方をせん」
「うーーん、私は確かに凶一郎の味方だけど……
これはこれ、それはそれ
代わりにどっちにもつかなかったし」
あきらといえば、凶一郎側、二刃達側、どちらにもつかず静観していた。
「…………正直スパイダーの人達には攻撃したかったけど」
ふふ、と漆黒の闇に包まれるあきらに凶一郎はポンポンと頭を撫でた。
「上出来だ、お前はいつも突進するからな」
「い、いつもじゃない、凶一郎の悪口言ってる人にだけだし…………」
むくれるあきらに凶一郎はふっ、と笑う。
「さて、そろそろチェックアウトの時間だな」
これから家までまた車で戻らねばならんと思っているとあきらが凶一郎の懐から車のキーを奪った。
「おい……!!返せ」
「やだ、だって凶一郎疲れてるでしょ?
私ずっと見てただけだし、ここは私に任せて」
あきらはキーを後ろに隠す。
通常なら無理矢理にでもふんだくっているどころだが、激しい枕投げ合戦の後だと流石にその気力さえも起こらない。
仕方ないと、好きにしろと言うとあきらはやった、とにっこり笑ったのだった。