凶一郎の婚約者さん
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「太陽は?」
「辛三がいたから奇跡的に一命をとり止めたものの油断は出来ない状態だね」
タンポポの現況である川下を追っていた太陽だったが、ノウメンとの交戦の後、太陽は血まみれになって意識不明となっている。
今は絶対安静……はずなのだが凶一郎が太陽の顔に落書きをしていて思わず絶句した。
「きょ、凶一郎…………」
言わずもがな、凶一郎は二刃にぶん殴られ部屋を追い出された。
こればかりは擁護しかねる、でも凶一郎の様子がきになってあきらは病室から出た。
病室を出ると凶一郎と辛三は先ほどの太陽の傷を話していた。
その話を聞いてあきらは眉間に皺を寄せる。
辛三はこう話した。
太陽は辛三の目の前で複数の臓器を撃ち抜かれたと。
しかし、目の前にいる以上辛三がその音を聞き流すはずもない。
それなのに、太陽は倒れた。
辛三が語る可能性にあきらは剣術の手ほどきをうけた相手を思い出す。
『お前の無機質な心は剣術と合っている』
…………まさか、と否定し脳に浮かんだ人物の姿を消しているとウグイスの鳴き声が時計から鳴り響く。
侵入警報にはいくつか種類がある。
ウグイス場合は……1000人以上の敵が侵入してきたという事だ。
夜桜邸の敷地内には異形の男達がひしめきあっていた。
名は葉桜部隊。
川下によって送られた改造をうけた部隊である。
意気揚々と血まみれにしてやると屋敷に向かって走っていく男達の前にゴリアテが立ちふさがった。
屋敷を守護するように体を大きくしたゴリアテに男達はふっ飛ばされた。
しかし、部隊を取りまとめる山ちゃんは更に奥に待ち構える敵を見据える。
「狼狽えるな、奴はただの番犬だ
これから本物の化物の登場だ」
ゴリアテの起こした土煙の中から7人分の足音がする。
夜桜兄弟、そしてあきらが姿を現す。
「今うちにはけが人がいるんでね
お引き取り願おうか」
夜桜兄弟達と葉桜部隊の交戦が始まった。
各々個々に交戦するが、やはり言っていたとおり体がタフだ。
通常二刃に投げられたら1日は目覚めないのに葉桜部隊の男はすぐに起き上がってくる。
七悪の麻酔も聞かず、あきらもまた急所を刺しているのにも関わらず全く聞いている様子がない。
「…………じゃあ首切り落とすしかないね」
「全く、あきら、ウチは殺し屋じゃないんだ
もうちょっと穏便に考えといてくれ」
「……その方が簡単なのに」
あきらはむくれた。
戦闘時のあきらは一切容赦がない、兄弟が時折道を誘導しないと昔のように戻ってしまう。
「さて」
いくら数が多くてタフとも強化されてるだけでただの雑魚だ、全身あるのみ!!と二刃に発破をかけられる。
第一部隊で陽動をかけ残りの部隊で長男である凶一郎に襲いかかるが流石は夜桜最凶の男である。
屋敷に張られた霧繭の前には誰も歯が立たない。
張られた霧繭には突破しようとして無惨にも敗れている敵が多数存在していた。
それに加えて長男に敵意を向けた途端、どこからともなく斬撃が飛んでくるので現状打破出来ないと思われたが。
隊長の山ちゃんは得た凶一郎の情報を元にゴリアテを屋敷の方へと吹っ飛ばした。
霧繭にゴリアテが触れると傷つけてしまう為、解除せざるをおえず、屋敷の一部分が壊れた。
隊長と対峙した凶一郎は戦闘しようとした時、ザザッと耳につけていたイヤホンがジャックされている事に気づく。
そして。
『冬ごもり起動』
「………………!!!」
とイヤホン越しに聞こえた声と共に夜桜家の防波堤が起動する。
当主の指輪を持って起動する冬ごもりは同じく当主の指輪がないと解除することができない。
あろうことか、兄弟達と六美、太陽が分断されてしまう、敵が侵入した状態で。
今屋敷の中には太陽を含め戦える者がいない。
今しがた聞いた声を聞いて凶一郎のもとに二刃と(名前)がかけつける。
「あの声は……」
恐らく家族全員が聴いていてあきらも二刃と同じ人物を連想していた。
「焦るな、奴らの目的は六美を殺すことじゃない」
凶一郎はこちらに背中を向けたまま話す。
「どの道冬ごもりは当主の指輪でしか解除できない
タンポポの部隊は頼んだぞ」
そう言って歩き出そうとする凶一郎の腕をあきらは掴んだ。
「…………私も一緒に行く」
「俺独りで十分だ、離せ」
ぱっと凶一郎は私の手から逃れる。
「っ!凶一郎!」
「来るな」
拒否する凶一郎にあきらは足を止めた。
これ以上邪魔するな、と圧力がかかる。
「お前もタンポポの制圧にいけ
俺は前当主の指輪を奴から取り戻す」
屋敷に潜入し主電源を落とした敵により命が危ぶまれた太陽だったが、六美の血を体に入れたことで擬似的に夜桜家としての才能を体に宿し何とか敵を排除することができた。
安堵し抱きしめあっていた太陽と六美に電話が鳴り響く。
電話の主は四怨だった。
冬ごもり中は電波が遮断され、連絡がとれないところを四怨が大昔に使われていた緊急用のホットラインを急遽使えるようにして何とか連絡をとることができた。
二人の無事を確認した四怨はそのまま冬ごもりを継続するように伝え、二刃に合図を出す。
「さて、兄妹庭掃除の時間だよ」
二刃の合図に他弟妹達は返事をし、あきらも頷いて刀を構える。
まず、六美に変装した嫌五が走り回り敵を誘導。
そのまま七悪の者へと向かい、到着した瞬間にあきらが刀を地面に突き刺した。
「夜桜式剣術、砕波」
突き刺した瞬間、振動が地面の奥に伝わりあちこちにヒビが入る。
後は大きな衝撃を加えるだけで容易く崩れるだろう。
七悪は嫌五を抱え元々立っていた場所を殴ってたら飛び上がった。
壊れやすくなった地面が崩れ落ち、敵は落とし穴に落ちていく。
前もってカモフラージュされていた布にキャッチされた敵は徐々に空が狭くなるのを見た。
その布とは夜桜ゴミ袋である。
元々大掃除用に使われていた物でどんな物でも包める便利なゴミ袋だ。
辛三によって巨大なゴミ袋に包まれた敵達の前に二刃が立ちふさがった。
ぐんっと持ち上がったと思えば、二刃の春一番によって空高く空の彼方へと飛んでいった…………
「お疲れ様、二刃」
「はぁ……また肩こりがひどくなるねぇ
勘弁願いたいよ、さて……」
危機は去った、もう冬ごもりを解除しても大丈夫だろう。
お互いの無事を確認し、喜ぶ兄弟達。
色々と気になる点はあるものの、これで一安心だ。
しかし、まだ凶一郎は戻っていない。
気になる思いを抱えたまま、あきらはとりあえず二人が無事でよかったと微笑んだ。
夜桜邸から少し離れた森で凶一郎は父である百と対面する。
その指には零から分け与えられていた金の指輪が光っていた。
当主と分け合った指輪には冬ごもりなど当主と同じく実行する権限を持つ。
「あんたにそれを持つ権利はないよ、父さん」
優しくもあり、内面にある思いを抱いて凶一郎は攻撃体制を持ったまま百に宣告した。
「9代目の桜の指輪返してもらおうか、父さん」
一触即発の空気の中、百は微笑む。
まるで単純に家族との再会を待っていたかのように。
「変わらないな、凶一郎
元気そうでなによりだ」
五年ぶりの再会を百はニコニコと歓迎されていない空気を気にせずぺらぺらと話し続ける。
百は現状を説明する。
葉桜部隊の壊滅、家族の無事、そして婿の太陽の覚醒……
自慢の子供達と百は元凶であるにも関わらず喜んでいる。
そして思い出の場所でもある森に思いをはせようとしたところ、凶一郎が遮った。
もやは凶一郎は父が生きていたことにはなんら疑問は持たない。
何故なら凶一郎は父が死ぬところは見てはいないからだ。
それはいい、どうでもいいと話す。
だが…………何故太陽に夜桜当主の血を取り入れたのか。
劇薬でもある血を取り入れると普通の人間は死んでしまう。
普通であれば実行しない、それを百は六美が太陽を生かす為その手段に頼らざるをおえないよう仕向けさせた。
…………何の為に。
タンポポも夜桜家も巻き込み、そのためだけに今回の事件を引き押したその理由は。
あくまでも百は六美を守れる強い男に育ってほしい、素朴な親心だと話すが、その笑みは不気味でしかない。
凶一郎は太陽のことがお気に入りなのか?と聞かれるとそれはない、と否定する。
「そうだ、お前まだ結婚してないらしいな
早く籍は入れていた方がいいぞ」
「……………………」
誰のせいで、引き伸ばすことになった。
あの日、あんな事件さえなければとっくに結婚していた。
あきらに結婚の話題を出すことを避けられ、いつの日か結婚のけの字も出さないようになり、あきらは何も言わずに笑みを向ける。
何も、思わないことはないはずなのに。
それも、全て。
さて、そろそろ御暇しようと去ろうとする百に凶一郎はあいも変わらず自分たちの事を考えていないとしゅるりと鋼蜘蛛が円形に回る。
「傲慢で独りよがりで家族の気持ちすら汲み取れない
母さんの死から何も学ばなかったらしい
あの二人に近づくな『凪風』」
ごうっ!!!!と辺り一面がなぎ倒される、けれど父、百には何のダメージも与えられず無傷のままだった。
強くなったなと百は凶一郎を褒める。
同じ年の頃よりも上回っている、けれど。
父には勝てないと、話す百に凶一郎はぎり、と鋼蜘蛛を握りしめる。
さあ、大人しく父を見送ってくれ、という百の指に鋼蜘蛛が絡みつく。
「家を捨てた男に鍵はいらないだろう?」
「お前達の成長が誇らしいよ」
指輪は取り戻した。
が、百の姿はどこにもない。
ふう、と息をついた凶一郎は家族は難しいなと吐露した。
凶一郎が家族の元へと戻ると太陽が暴走していた。
覚醒による暴走だ。
初めての開花はこうなりやすい、凶一郎もかつて通った道だ。
「凶一郎、どうしよう……」
「焦ることはない」
暴れる太陽に凶一郎は近づいていつの間にとったのか四怨のヘッドホンを太陽につけさせ、六美に歌うように促す。
ぞわぞわと二刃達に悪寒が走る。
二刃は他に方法あるだろ!?と言うが凶一郎はどうしても六美の歌を聞きたいらしい。
アイドルオタクのような格好をしてまでわくわくと六美が歌うのを待っている。
凶一郎は六美が歌うのが一番と話した為、六美は覚悟を決めてマイクを持った。
凶一郎以外全員耳を塞ぎ、六美の歌声が森に広がった。
そう、六美は超絶音痴で聞いた者は下手すると気絶するほどであった。
六美の歌声を大音量で聞いた太陽は先ほどまで暴れていたのが嘘のように力が抜け倒れ込んだが、気絶しただけで息はあるようだ。
……それにしても六美の歌は毎度すさまじい。
「……大丈夫、私は無、何も聞こえない……」
くるくる目眩がする。
他の兄弟も中々にこたえるようでふらついていた。
一方凶一郎は六美の歌に母の零を連想させるのか号泣している。
六美なりに音痴を気にしているのか落ち込んでいると太陽が目を覚ました。
太陽の目覚めにわっ!と兄弟皆がかけつける。
わいわいと楽しそうな兄弟に二刃はどういう風の吹き回しだい?と凶一郎に聞く。
通常夜桜家において一番目を覚ましやすい方法といえばとりあえずぶん殴ることだった。
それなのに凶一郎はそれをとることなくなるべくダメージの少ない方法、しかも六美を用いる形で暴走を止める方法をとった。
二刃の問いに凶一郎はいつもと変わらぬ笑みできまぐれだ、と答える。
何かが、変わろうとしていた。
「凶一郎」
「何だ」
襲撃事件が一件落着し、皆寝静まった頃一人月を見て晩酌する凶一郎をあきらが訪れた。
凶一郎は壊れた塀に座っていて、月明かりが彼を照らしていた。
「…………会ったの?」
「……ああ、指輪は取り戻した」
そっか、とあきらは凶一郎の左隣に腰掛ける。
「お前は飲むなよ、世話をするのは俺なんだからな」
「飲まないよ……それより何か話したの?」
「…………」
あまり言いたくないのか凶一郎は口をつぐむ。
「話したくないなら、それでいいよ」
「……すまん」
あきらは首を横に振ると凶一郎は自分の左手をじっと見つめていた。
「取り戻せてよかったね」
「……ああ」
凶一郎は目線を空に上げてぽつりと呟いた。
「月が綺麗だな」
見上げると確かにまん丸とした月が浮かんでいる。
彼の言葉にとある小説家の逸話を連想したが、多分そういう意味ではないだろう、そうあきらは捉えた。
だって、彼がそんな事口にするはずがない。
「ほんとだ、綺麗だね」
右手を塀にのせて微笑むと凶一郎は何とも言えない表情でそうだな、と答え左手をあきらの右手に重ねる。
唐突な行動に顔に熱が集中するが、これは気まぐれと自分に言い聞かす。
ちらりと隣を見れば彼はいつも通りの表情だった。
そう、気まぐれ、気まぐれなんだ、とあきらは凶一郎から顔を背ける。
でも、手をどけることは出来なかった夜、だった。