凶一郎の婚約者さん
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太陽は目を覚ますと森にいた。
……また凶一郎によって拉致されてきたのだろうか。
深夜、誰もいない真っ暗闇の森に思わず身構えると不意に上の木から凶一郎が出てきた。
「朝野太陽」
「ぎゃああああ!!!!!」
「ふっ、これくらいで悲鳴を上げるとはお前もスパイとしてまだまだだな」
ドッドッドッドッと、心臓が激しく動いている。
いや、これはそれとは違うような……
「で、いきなり連れてこられましたけど……
ここは何ですか?」
「ん?ああ、お前には言っていないが……
今から肝試しをやる」
「肝試し?」
そうだ、と凶一郎は懐から蝋燭をだした。
「年に一度の納涼会だ
様々なスパイが集まっている交流会ともいえる
肝試しは至って簡単だ、この蝋燭を持ってゴールする
この蝋燭は特別製でな、多少動いても消えはせん
そしてゴールまでの道のりには刺客……お化け役がいるからくれぐれも死ぬんじゃないぞ」
それもう襲撃と言ってるようなもんじゃんと太陽は心の中で突っ込む。
「じゃ、俺はコースの調整があるから」
と言って凶一郎は闇の中へと消えてしまった。
先ほど渡された番号札と蝋燭を持って待っていると暗闇の中からあきらが現れ、太陽はほっと安堵した。
「あ、そっか、太陽は初めてだったね
私はさっき終わったとこ」
「他に誰が参加してるんですか?」
「嫌五と七悪かな
二刃はお化け苦手で会場そのもの壊しちゃうし……
辛三も似たような感じで不参加、四怨はホラーは大丈夫だけどこういう外でやる系はあまり興味みたい
太陽はどちらかと言うと苦手なのかな?」
太陽はそうですね……と苦笑いする。
「あきら姉さんはお化け系とかは得意なんですか?」
「うーーん、まぁ苦手ではないよ
……ここだけの話私見えるんだよね、二刃そういうのダメで話すことはないんだけど」
「そうなんですか……ちなみにどういうモノが見えたりするんですか?」
太陽が聞くとあきらは目線を逸らした。
「まぁ、見えるっていうか
時々枕元に死んだおじいちゃんが出てくる夢を見るだけなんだけど」
「死んだおじいちゃん……」
「うん、金縛りでもあるのかな
体を動かすことは出来なくてそのおじいちゃんがいつも何かブツブツ言ってるんだけど……未だに何言ってるかわかんないの……まぁ、普通に考えたら私への恨み言かな」
さらりと言うあきらに太陽は口をつぐんだ。
「…………辛く、ないですか」
「ん、ああ、大丈夫、大丈夫
大したことじゃないから」
どう返すべきか悩んでいると後ろの茂みからかざっと手が伸びてきた。
「ぎゃああああ!!!って凶一郎兄さんか……」
「太陽、そろそろ順番だぞ」
「ほんとだ、行ってきまーす!!」
「ふっ、これから聞こえる叫び声が楽しみだな……」
笑って太陽を見送った凶一郎はいってらっしゃいと手を振っているあきらに視線を向ける。
「ところであきら」
「?何?」
「また例の夢を見ているとは聞いていないんだが」
あきらはぎくりと固まった。
「散々言っただろう
あの夢を見たら俺に言えと」
「う……そ、そもそも見る回数減っててこないだはたまたま……それに」
見ても平気になったし、いいのと言うあきらに凶一郎は眉を動かした。
あきらがあの夢を見るようになったのは18歳の頃だった。
普段寝坊することのないあきらが起きてこなかった。
しかし、寝坊した時に発動する時計が爆発した音も聞こえてこない。
何かあったのか、と凶一郎が部屋を訪れてみればあきらはベッドの上で膝を抱え静かに泣いていた。
シーツを見ればずっと泣いていたのか涙の跡がある。
「どうした」
「…………」
あきらははくはくと口を開閉させたが言葉が出てこなかった。
凶一郎はあきらに近寄り頭を優しく撫でる。
「ゆっくりでいい、話してみろ」
あきらは唇をきゅっとさせて、辿々しく話し始めた。
「…………あのね」
亡くなった祖父が夢の中に出てきて自分に恨み言を言ってるのだとあきらは話す。
つい先日あきらの母方の方の祖父が亡くなった。
葬儀が開かれあきらの一家も呼ばれたがあきらのみ参列を許されなかった。
遺言状で絶対に参加させないようにお触れがあったらしい。
あきらは仕方ないよね、と苦笑いしていたがやはり堪えたのだろう。
凶一郎はあきらの頭を自分の胸に押し付ける。
「っ、凶一郎の服、濡れちゃうよ、」
「構わん、気が済むまで汚してもいい
祖父が夢に出てきているのは事実だが
何を言っているのかは分からんのだろう
あまり気にするな」
「………………」
「お前は納得出来ないだろうが、無理やり自分を責めなくてもいい」
じわりと凶一郎のスーツに涙の跡が広がる。
凶一郎は震えるあきらの体を抱きしめる。
「……もしまた同じ夢を見たら俺に言え
何度でも隣にいてやる」
「……凶一郎、ありがとう」
完全に泣き止んだわけではないが、凶一郎の行動に少し気が軽くなった気がしたあきらだった。
「平気、だと?」
「……最近はなんか慣れちゃったのもあって泣かないようになったから心配しなくても大丈夫」
平気、という割には見せる笑顔は無理やり作られたものだ。
恐らく何も感じないように心を閉ざしているだけである。
「だからもう側にいて貰わなくてもいいの
……なんか手を煩わせて申し訳ないし」
この話はおしまい、とあきらは手を叩く。
無理やり話を打ち切られた凶一郎はやるせない気持ちに苛まれたのだった。
『………………』
ああまただ、死んだ祖父が私を見ている。
一方的に喋りかけてこの人は何が言いたいんだろう。
いや、これはあくまでも私がずっと母の事を引きずっているから見る悪夢だ。
言葉に重要性はない。
そう思って早く目が覚めるよう祈るあきらを祖父は気にせず喋り続ける。
聞こえなくとも、孫に警戒を知らせる為に。
『つけろ、…………旦に気を、つけろ
旦がお前をずっと、見ている、気をつけなさい……』
[怪我]
帰宅するとあきらが包帯ぐるぐる巻きの状態で凶一郎を待っていた。
「凶一郎くん、おかえり」
「……!また怪我したの!?」
銅級スパイの資格に合格してから正式に任務に参加することが可能性になり、凶一郎とあきらもスパイとしてデビューした。
……が、あきらはよく傷を負うことが多く、今日みたいに包帯巻きになることがしばしばあった。
「大丈夫、痛くないから」
誕生した時の開花の影響であきらには痛覚がない。
痛くないからこそ、無理をして更に怪我を作ってしまう悪循環だった。
周囲がいくら行っても聞かずまたこうして怪我を作ってしまう。
「でも僕あきらちゃんが傷つくのは嫌だな」
「凶一郎くんも怪我、たくさんしてるのに?」
「僕のは練習の為というか……」
自分の事を棚に上げた凶一郎はそっぽを向いた。
「ぼ、僕のはいいから
女の子は傷つけたらいけないって母さん言うし」
「……怪我じゃくても凶一郎くんはいつも無理してる」
しかし、あきらは納得していない様子だ。
「私も凶一郎くんが怪我するのは嫌、だと思う
凶一郎くんが怪我しないなら私もしない」
困ったな……と凶一郎は苦笑いをする。
どうすれば彼女を説得出来るのか……
ここで嘘でも約束すればその場は収まるだろうが……
「……それは約束出来ない
僕は夜桜家の長男で当主となる六美が生まれた
僕は六美達家族を守る為に強く、ならなきゃいけないんだ、……ごめん」
「そう、なら私も約束できない」
あきらちゃんならそう言うと思ってた、と凶一郎ははがゆい思いを抱えたまま拳を握った。
「……昔はああ言ったが
痛覚が戻った以上怪我をする必要はないはずだが……?」
久しぶりに怪我を負ってしまったあきらは凶一郎に問い詰められている。
「うっ、いやでも大した怪我じゃないし……」
「大怪我だろう……!!」
ぷんぷんと怒っている凶一郎にあきらは後ずさる。
「いや、ほら全身じゃないし!これくらい怪我のうちにも……」
「入らない!前々から思っていたがお前は認識がズレ過ぎだ!」
怒りで沸騰している凶一郎にあきらは自分から詰め寄った。
「じゃあ……言わせてもらうけど……
私凶一郎がずーーーーっと寝てないの未だに納得してないんだからね、それ以外にも……」
「っ、仕方ないだろう
任務他家族を支える為にはしょうがない事だ」
つーんとそっぽを向く凶一郎にあきらはへぇーーと冷たい目で見る。
「じゃあ、私が怪我するのもしょうがない事だね
任務で頑張るのも家族の為、と言えるし」
「それは屁理屈だろう……!」
「違うし……!」
お互い言い争いが続く二人に二刃は似たもの同士だねぇ、やれやれと茶を啜ったのだった。