凶一郎の婚約者さん
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「きょ、凶一郎……」
電気の灯りをつけた凶一郎は返事をせず無言であきらの横に座ってソファの背もたれに腕を置いた。
「さて、俺の言いたい事は分かっているな?」
問いかける凶一郎にあきらは体を強張らせた。
怒っている、自分にこれまで向けたことのない怒りが向けられている。
「ちなみに泣き落としは聞かんからな」
「っ」
泣き落とそうなんて思わないけど、あきらは出そうになった涙を無理やり引っ込める。
「その、ごめんなさい」
「…………何がだ?」
「だから、その、勝手にお見合いした事……」
凶一郎は消して険しい表情を変えない。
「ごめんなさいといって許されると思うのか?
お前は俺の何だ?」
「婚約者、です」
「そうだ、その婚約者を差し置いて他の男と見合いをするなど許されるものではない」
凶一郎は本気で怒っていた。
自分に対する裏切りと失望、そんなところだろう。
「お前は俺だけではなく夜桜家全体の評価を落とした
これが何を意味するか分かるか?」
「…………っ、」
私はなんてことをしてしまったんだろう。
凶一郎だけではなく、六美達にも迷惑をかけることになる。
婚約破棄という文字が脳内に浮かび上がる。
いや、これだけ怒っているのだからしょうがないのか。
凶一郎は泣いても許してはくれない、ならば…………
「わ、分かった、」
既にしてしまったことは変えようがない、自ら身を引こう、と口にしようとした瞬間凶一郎はパン!と両手を叩いた。
「と、説教は終わりだ」
「???」
凶一郎はあきらの涙をそっと拭い、優しく抱きしめた。
「……すまん、少し怖がらせたか
安心しろ、婚約破棄はしない
しかしああしないと万が一同じことが起こった場合繰り返すのではと思ってな」
「…………怒ってない……?」
「いや、めちゃくちゃ怒ってるが今も
……だが、もうこれ以上責める気はない
そうしてもお前を泣かせてしまうだけだしな」
先ほどまでこわばっていた体の力が抜けるのを確認し凶一郎はそっと体を離す。
「改めて事情を聞かせてくれないか
ある程度予想は出来ているがお前の口から直接聞きたい」
あきらは頷き、こないだ起きた事を説明した。
「まぁ、そんなことだろうと思ってはいたが……
全く、会うだけなんて言葉を鵜呑みにしたお前の落ち度だな」
「うっ、ごめんなさい」
「とはいえ、そもそも俺がいつ明確に期限を設けなかったのが悪かった、すまない」
謝罪する凶一郎にあきらはううんと首を横に振る。
「それどころじゃなかったし、いいの
私も強制したいわけじゃないから」
「…………それでいつ結婚するかだが……
もう少し待っていてくれないか
然るべきタイミングで必ず結婚すると約束する」
六美を狙っているタンポポという組織の尻尾を掴み、一家は組織の破壊を目的に動いている。
そんな中今すぐ結婚するのは難しいとあきらも理解出来た。
「すまん、また引き伸ばしになってしまったな」
「大丈夫、ずっと待てるから
あ、でもそうなるとまたあの人から何か言われるかも…」
と心配そうに呟くあきらに凶一郎は安心しろという。
「それについては問題ない
もう2度とないからな」
「…………凶一郎、何かした?」
「心配するな、多少強めに話しただけだ」
……まぁ、いいか。
「さて、次は罰ゲームだな」
「罰ゲーム??」
「そうだ、事情は分かったが俺は納得していない
よってお前に罰を与える」
何だろう、しばらく会えないとか遠くに飛ばされるとかなのかな。
「というわけで俺のほっぺにちゅーしろ」
「………………?????」
頭にハテナマークを浮かべてきょとんとするあきら。
「伝わらなかったか、俺の頬にキスしろ、と言ってるんだ」
「あ、いや、理解出来ない訳じゃないんだけど……
それのどこが罰ゲームなの?」
「………………罰ゲームだ!!!」
自信満々に言う凶一郎。
「ほら、早く」
頬を指す凶一郎にあきらは顔を赤く染める。
「え、で、でも……」
「何だ、出来ないのか」
「う、だ、だって……」
顔を近づけられ、思わず距離を取ると凶一郎は詰め寄ってくる。
気づけばソファの隅っこにまで追いやられてしまった。
「俺のことを愛してるんだろう?
それともお前は俺の事を愛してないのか?」
「……愛してる、好き、大好き!で、でも……」
恥ずかしくてそんなことできない。
「あきら」
「っ」
「……してくれないのか」
じっとこちらを見つめる凶一郎にあきらは覚悟した。
「い、い、一回だけだから!」
目を瞑って凶一郎の頬にキスをする。
一瞬だけ触れて離れると。
「もう一回」
「え、ええっ!」
何と再度おねだりがきた。
更に羞恥心でゆでダコ状態になる。
「……頼む」
「あ、あと一回だけね」
ちゅ、もう一回頬にキスをすると凶一郎から熱っぽい視線で見つめられる。
「…………」
気づけば腰に手が添えられていた。
凶一郎が行動を起こそうとした時、突然居間の扉が開いた。
水を飲みに来た太陽である。
太陽がドアを開けると、凶一郎とすれ違った。
そしてすれ違い様、覚えてろよ朝野太陽……と険悪な顔で言われるので太陽は何事!?とびっくりした。
しかし凶一郎は言葉を吐いただけで去ってしまった。
何もされなかった……とほっと安堵した太陽はソファにあきらが座っていることに気づいた。
「あきら姉さん?」
「ひゃっっ、あああえっと、お、お休み!!!!」
声をかけるとびくりと体を動かしわたわたと慌てて今から出ていく。
顔を真っ赤にしていたことから太陽はもしかして俺邪魔しちゃったのかな?と冷や汗をかいた。
【幼少期話】
「こんにちは」
「あ、あきらちゃんいらっしゃい!
ほら、六美、挨拶して」
じき2歳になろうとしている六美はあきらを発見するとあきらねーね!と嬉しそうに近寄るのを見て凶一郎は今までに感じたことのない感情に襲われる。
というのもあきらがやってくると六美は自分ではなくあきらの方へと必ず行ってしまう。
それのそのはず凶一郎の六美愛は日を追うごとに増していき、あまりにも強すぎるので妹からは若干距離を置かれている。
そんな中、無言で静かなあきらは寄り添っても安心するうちの一人だった。(他は二刃等)
「ねーね、お本読んで」
とねだる六美に凶一郎は。
「六美、お兄ちゃんが読もうか?」
「や!!!!」
「っ、あまりあきらちゃんばっかりだとあきらちゃんも疲れるからお兄ちゃんと……」
「やだ!!!」
ぷい、とそっぽを向かれ凶一郎の何かがぷちんとキレる。
「…………っ、嫌い」
「?凶一郎くん?」
「あきらちゃんなんかだいっっきらい!!!
結婚もしない!!!!」
その瞬間、あきらに電流のような衝撃が走った。
「?」
六美の顔にぽたりと何かが落ちてきて見上げるとあきらが大粒の涙を流していた。
「ねーね、泣いてる」
自分の顔に手を当て、それが涙という事に気付き、あきらは今抱いている感情を知った。
「うっ、ぅ、ひぐ、うええええええ」
「え、え!?」
今まで怪我を負っても何一つ涙を零さなかったあきらが大泣きしている。
それにつられ六美他弟妹も泣き出してしまい、凶一郎はあわわわわと慌てたのだった。
他妹弟は何とか泣き止んだもののあきらのみ中々泣き止まない。
声こそは大声は出ないものの、ぐすんぐすんと嗚咽が絶えない。
「ごめん、酷いこと言って……
自分でも驚いてるんだ、本当にごめん」
「…………キライになったり、しない……?」
「うん」
「本当に……?」
凶一郎は小指を差し出し、あきらも小指を出した。
「約束」
「…………」
「本当だよ、だって俺あきらちゃんが泣くところもう見たくないから
……あきらちゃんはやっぱり笑ってるところが一番素敵だよ」
「…………!うん」
涙が引っ込み、笑ったあきらを見て凶一郎はうん、やっぱり素敵だ、と笑ったのだった。