凶一郎の婚約者さん
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「太陽、次あっち乗ろ!!」
「俺またジェットコースターで寝ないかな……」
ハハハと苦笑いする太陽とはしゃぐ六美を遠くの柱からハンカチをぎりりと噛みしめる男がいた。
そう、言われるがもなく凶一郎である。
負のオーラを出しながら二人(主に太陽)を睨んでいる凶一郎をあきらが宥めた。
「凶一郎……もう少し控えめにしないと周りの人に怪しまれちゃう…」
ヒソヒソ小声で諭され凶一郎は周りが不審者でも見るかのような視線で自分を見ていることに気づき、佇まいを直す。
ここはとある有名な遊園地、凶一郎とあきらは太陽と六美のデートに尾行しに訪れていた。
遡ること数時間前。
「六美はどうした」
六美につけているGPSの反応が家にない事に気づいた凶一郎は他妹弟に問いただした。
「どうしたって、太陽と遊園地デー……」
「ばっ、嫌五!!!」
「あ、やべ」
うっかりー☆と誤魔化したが、もう遅い。
兄の怒りは限界に達している。
「遊園地……デート、だと……?
………………ゆるさん!!ゆるさん!!!
俺だって六美と遊園地デート行きたいのに!」
床に転がってじたばた暴れている凶一郎を二刃は冷ややかな視線で見つめる。
「全く……せっかくの息抜きだ
そろそろ許してやりな」
「いやだ!!!!!そもそもあいつはまだ未熟だ
何かあったらどうするんだ!!」
起き上がり、ぷいっと不貞腐れる凶一郎に二刃はやれやれと呆れる。
「そんなに心配なら、こっそり着いていったらどうだい?」
「……なんの風回しだ、何が言いたい」
怪しむ凶一郎を二刃はにやりと笑った。
「ただし……あきらと一緒に行く、ならね」
というわけで二人で太陽と六美のデートをこっそり後をつけることになったのだが。
実はちょっぴりこの状況を楽しんでいる自分がいた。
お互い多忙で凶一郎は常に六美優先、任務や買い物以外でこうして凶一郎と二人で過ごす事は滅多にない。
そして場所が遊園地というのも相まってあきらは若干ドキドキしていたが。
仲睦まじい二人に凶一郎の機嫌は悪くなるばかりであった。
凶一郎はあくまでも太陽と六美のデートの監視に来ているだけで自分との遊園地を楽しんでいるわけではない。
うん、でもしょうがないよね、と無理やり納得して改めて2人の同行を見るとちょうどカフェに入るところだった。
凶一郎と目を合わせ、2人から見えない死角の位置の席に座る。
メニューと水を持ってきた店員に凶一郎は紅茶を、あきらも同じのを注文した。
……したはずなのだが、何故か店員が運んできた物はカップル用ジュースだった。
「え!?あ、あの……コレたのんでないんですが……」
そう聞くと気怠そうな店員はあれー?確かこのテーブルだったような、まぁいいやそれ飲んでおいてくださいと去ってしまった。
凶一郎と二人しばし無言でジュースを見つめる。
やっぱり返却しようかなんて考えていると六美の声が遠くから聞こえてきた。
「太陽、一緒に飲もうよ」
「や、お、俺はいいよ」
「えーー?何で?せっかくカップル用頼んだのに!」
と六美がむくれるので仕方なく太陽は六美と一緒に飲んでいると背中にどす黒い視線を感じ悪寒に身震いした。
どうやら向こうも同じのを飲んでいるらしい、なんとも微笑ましい会話だな、と微笑んでいると凶一郎が眉間に皺を寄せながらジュースを勢いよく吸い込んでいた。
すごい顔と思っていると凶一郎がストローから口を外した。
「飲まないのか」
「えっ」
そう言われてつい、反対側のストローに視線がいく。
けど、一緒に飲むと至近距離まで顔が近づいてしまう。
躊躇ったが、凶一郎が何となく飲め、と促している気がしてストローを口にした。
顔が近い、近すぎる。
真正面に目を向ければ、凶一郎が映るのでつい下を見たあきらは凶一郎がじっと自分を見つめていることに気づかなかった。
やっと甘酸っぱい雰囲気になりかけた二人を遠くから様子を伺う二人組がいた。
そう、太陽と六美である。
『やっといい感じになってきたね』
『そうだな』
目線とジェスチャーだけで会話を交わす。
モールス信号でもいいが、それだと凶一郎とあきらにバレてしまう。
なぜこんなことをやっているかと言うと……
「あきら姉さんは凶一郎兄さんとデートしたことはあるんですか?
その六美とデートしようと考えているんですが、どこにしようか候補を聞きたくて……」
世間話がてらそんな話題を出した時のこと。
あれだけ凶一郎の事を好いている人だ、普通にあるんだろうなと思っていると。
「ないよ」
平然な表情でさらりとあきらは答える。
「え?????い、一回もですか?
こないだ聞いた水族館の話は……」
「あーあれは任務だからね
一応デートの体で行っただけで本当にデートしたわけじゃないよ」
ごめんね、勘違いさせちゃって、とあきらは申し訳なそうに答える。
「だからデートの候補とかはちょっと力になれないかな」
「…………いえ、」
他の六美他、兄弟に聞くと本当にないらしい。
本人が控えてな性格も相まって凶一郎にデートがしたいと懇願することもなく、凶一郎もまたいつも何かと六美優先になりがちだった。
あきらとしては任務で一緒に仕事したり、家族で買い物したり凶一郎と話すだけで十分幸せと、言っていた。
「でも、太陽は本当にそれでいいのかって思ってるって事だよね」
「ああ、十分って言ってたけど……」
どこか寂しさを感じた。
「ってもなーーーあのシスコン兄貴じゃあ無理じゃね?
万年六美命だし」
「そうそう、結局太陽と結婚しても変わんないし……
ん?太陽……?」
ムムムとしばし考える六美。
「そうだ!!私と太陽で釣ればいいんだ!!」
「む、六美?」
「私と太陽がデートしたらお兄ちゃんは意地でも追ってくるはず……そこを上手くつけば……
普通に尾行させるだけだったらデートの意味がないから何かドキドキさせるような作戦を……」
「おっそれいいじゃーん、俺も手伝う」
「じゃあ、あたしは伝達係な」
わいわいと以下に兄とあきらのデートを成功させるか話し合っている妹弟に二刃は上手くいくのかねぇと茶を啜ったのだった。
『嫌五の作戦が上手くいったね』
そう、例の店員は変装した嫌五だった。
『でもまだこっち睨んでる気がするんだけど……』
背中の殺気はまだ消えない。
『まだまだ!!作戦はこれからよ!!』
六美は勢いよく立ち上がった。
『メリーゴーランド!!
なんのアクシデントか座席が狭まっててより密着しちゃう!!』
『六美さん!!俺らも密着してるからどんどん殺気が強まってて逆効果な気がします!!』
『じゃあ今度はお化け屋敷!怖がらせてドキドキを……』
『六美、どっちも全然怖がってねーぞ』
『くぅ!スプラッシュコースター!
偶然服が濡れちゃって服を貸し……へくしゅ!
あ、ありがとう太陽』
『太陽、太陽、そんなとこでスパダリ披露すんな
シスコン兄貴がお前のこと見てるぞ』
そんなこんなで作戦は続いたものの……
最初のカップルドリンクほどの効果は得られなかった。
「はーーー……全然上手くいかない」
「大丈夫か?六美」
ベンチでしばし休憩中の六美は思いの他作戦が上手くいかず、ため息をついた。
「……凶一郎お兄ちゃんは?」
『さっきトイレに行ったぞ、どうする?』
「予定通り行こう
凶一郎お兄ちゃんが戻って来る直前にこっちで用意したナンパ客をぶつける!」
『OK、じゃ俺ゴーサインだしとくわ』
嫌五からの通信が切れ、後は偶然ナンパしようとした輩を凶一郎が追い払うのを待つだけだ、と思った六美に複数の男が言い寄ってきた。
「なぁ、嬢ちゃん暇??」
「え?」
「俺らと遊ぼーぜ」
思わず後ずさった六美の前に太陽がたつ。
「悪いけど……」
帰ってくれないか、と言おうとした時鋼蜘蛛が飛びナンパ男達を縛り上げた。
「無事か、六美」
「お兄ちゃん!」
何でここにと言おうとした六美の元に嫌五が慌てて駆け寄ってくる。
「嫌五!」
「悪い、六美
そいつら間違えてターゲット六美だと勘違いしてたらしい」
「ああ、通りで予定と違ったわけですね」
なるほど、と納得した三人に凶一郎は。
「さて……経緯を説明してもらおうか」
もうバレてしまっては仕方ない、説明しようとした六美に四怨から着信がかかってきた。
「四怨お姉ちゃん?」
『六美、さっきの奴らは本当に嫌五が手配した奴なんだな?』
「そ、そうだけど……それがどうしたの?」
『あきら姉がナンパされてる
……多分こいつら一般人だ』
数分前。
凶一郎が戻るのを待っていた途中、あきらは偶然複数の男にナンパされていた。
しつこそうな気配を感じ、巻こうと移動しようとしたあきらの体をナンパ男は無理やり肩を抱いて引き止めた。
「そんな急ぐことねーじゃん、な?」
「………………っ」
思わず悪寒が走る。
凶一郎ならともかく、知りもせず興味のない男に絡まれあきらの怒りが頂点に達する。
これが裏社会の人間なら問答無用で締めていただろうが……
(これ、一般人だ…………!
どうしよう、加減が効かなかったら怪我させちゃうかも……)
「あ、あの、迷惑です、やめてください……!」
「ん?何?」
肩を抱いていた男の手が胴体に伸び体をさわさわと触られ、体が凍りついた。
(刀抜きたい、刀抜きたい)
一刻も早く片付けたい、と脳内に真っ赤な血が浮かび上がる。
でもそうする訳にはいかない、何故なら相手は一般人なのだから。
衝動に駆られる体を必死に押さえつけ、目に涙が浮かぶ。
「おい、この子泣いてんじゃん
怖がらすなよ」
まさか自分達を切ろうとして震えているとは露とも思わない男達は立ち去ろうとはしない。
(凶一郎)
ぐるぐる視界が歪む。
助けを求めたい彼の名が頭の中に浮かぶ。
けれど彼はまだ戻ってこない。
誰か、誰か、私が過ちを犯す前に誰か。
止めて、と思った時ナンパ男達に悪寒が走った。
それも生まれてこの方感じたことのない。
「……その手を離せ」
逆らったら死ぬ、と直感的に感じ取りあきらに触っていた男はぱっと手を離し、凶一郎は殺気が灯った視線で男達にいう。
「去れ」
ナンパ男達はやっとのこと慌てて逃げていった。
もう大丈夫だ、とあきらに視線を向けると泣いていた事にようやく気付く。
「ありがとう、凶一郎
あと少しで大惨事になるとこだった……凶一郎?」
あきらの顔を見て凶一郎は苦虫を踏み潰したような表情をしていた。
「どうかした?」
あきらの声にはっと凶一郎が我に帰る。
「いや、なんでもない」
すると六美達が慌てた様子で駆け寄ってきた。
「お姉ちゃん大丈夫?さっきの人達に変なことされてない!?」
六美と太陽に加えて何故か嫌五までいる事にあきらは頭を傾げたのだった。
「さて、改めて説明してもらおうか」
凶一郎は腕を汲み発端の三人いや四人に話しかけた。
仕方ないと、六美は経緯を説明する。
「じゃあ、私達はあえて尾行をさせられてたって事?」
「そういうことだ、まぁ俺は途中から気づいてたけどな」
凶一郎は嫌五を見てしたり顔で笑う。
「ちぇっ、バレてたならそう言えよ」
「やつと企てたとは言え六美がわざわざ俺の事を思って企画してくれたんだ
思いを無下にするわけにはいかんだろう」
「お兄ちゃんじゃなくてあきらお姉ちゃんなんですけど?」
六美はこめかみに青筋を浮かべながら笑う。
「はぁ……ま、バレちゃったら仕方ないよね
太陽、どうする?」
「そろそろ帰るか、もう夕方だしな」
「じゃあ、そうしよっか
お兄ちゃんとお姉ちゃんも一緒に帰る?」
六美が帰るのなら凶一郎も帰るだろう。
あ、でも観覧車乗ってなかったな、と思い出したが二人を尾行する名目が消えた以上遊園地に残る理由はない。
帰ろうか、と返事をしようとすると凶一郎が止めた。
「いや、先に帰っててくれ
まだやり残したことがある」
「凶一郎?」
「分かった、じゃあ先に帰ってるね」
「ああ、夜までには帰る」
六美たちが帰るのを見送る凶一郎にあきらはその行動が理解出来なかった。
戸惑っていると凶一郎があきらの手を掴み観覧車に向かって歩いていく。
「ど、どうしたの、急に……」
「どうしたも何も最後は観覧車に決まっているだろう
お前はコースのメインを食べずに帰るのか?」
凶一郎の行動が分からない。
正直この行動は嬉しい、この遊園地の観覧車はカップルに人気とパンフレットに書いてあった。
誘導されるがまま、観覧車に着いて中に乗り込む。
隣に座るのはなんだか恥ずかしくて向かいの席に腰掛けた。
ゆっくりと高度が上がり段々と地面が遠くなっていき、外を見れば夕焼けが差していた。
「ここの観覧車六美ちゃんと太陽も乗ったんだってね」
「ああ」
珍しい、二人の話題を出したのに凶一郎が静かだ。
凶一郎は落ち着かなそうに度々手の組み方を変えていた。
それがいつどのタイミングであきらの隣に行こうと決めあぐねているからとは思うまい。
結局会話も弾まぬまま頂上まで来てしまった。
予め決めていた予定通り進まず凶一郎は眉間に皺を寄せたのをあきらはあまり楽しくないのかなと違う意味に捉えてしまった。
ここで自分も楽しくなさそうにしたのでは彼に悪いと思って立って外の景色を見ようとすると、ちょうど高度を下げるタイミングだったのかバランスを崩してしまった。
「わっ」
「!」
ぐらりと体が傾いた瞬間、凶一郎が立ち上がり(名前)の体を抱きとめる。
「…………」
「…………」
夕暮れの日差しがゴンドラに差し込む中、偶然にも凶一郎に抱きしめられる形となりあきらの鼓動は最高潮にまで達していた。
「あ、ありがとう、もう大丈夫」
だから離してもいいよ、と言おうとしたけれど。
「……しばらくこのままでもいいか」
なんて言葉が返ってきたものだから。
「………………!!」
こんな幸せな時間が続いてもいいのだろうかと思ってしまう。
「このままでいいかって……」
「嫌か?」
「……ううん、……でも」
どうして、と呟いてしまった。
「……今日はデートだろう
それともデートらしいことをするのは変か?」
デート、と脳内が軽くパニックになるが、頭を横に振ると凶一郎がふっと笑った。
ああ、もう地上に着いてしまう。
これが終わったらデートはおしまい、この時がずっと続けばいいのにと思った時。
「次またいつになるか分からないが……お前さえよければ俺とデートしてくれるか?」
「!」
驚いて思わず見上げると凶一郎と目が合いあきらは頬を染めたまま笑顔で頷いた。
気のせいか、日差しで凶一郎の顔も赤くなっているような気がした。