千空は途方にくれていた。
(まだ2時か……)
先ほどお昼ご飯を終えたばかりなのだが、１日がとても長く感じる。
何に困ってるかというとあきらとの会話である。
千空はそれなりに話せるタイプだが、顔見知り程度の人間しかも相手は女子だ。
訳あって同じ家で暮らすようになり学校等で話すならまだしも一緒に暮らすととなるとわけが違う。
休日ともなれば居合わせる時間が倍増し否応にも会話が発生する。
会話のネタがない事もないが居候がいつまで続くか分からない今、何か話せるネタを探さなければならない。
こんなときあのメンタリスト野郎なら上手く話せるんだろうと思ったがそんな話術は知らない。
直接そいつに聞く手もあるがそんな事をしたら最後。
滅多にその手の話をしない千空が話を切り出した事で問い詰められあれよあれよという内に居候している事がバレるに違いない。
いや、絶対にバレる。
その状況だけは確実に避けねばならない、という事は。
誰にも頼ることなく己だけでこの状況を打破しなければならないということだ。
千空はレポートを書く為に置いたノートパソコンを操作し検索エンジンを開いた。
けれど調べて出てくるのはいかにその女子の心を掴むかとか恋愛に関する事のみで千空はちげぇと心の中で突っ込んだ。
(つーか出てくんのこればっかじゃねぇか……
そもそも１日だけとかじゃねぇし)
千空はチラリと真向かいに座るあきらを見るとふいに視線があった。
あきらは何やら小説を読んでいるようだ。
「何？」
「“あーーその、何読んでんだ？」
ゲンに聞かれたら、いやなにそのお手本みたいなやり取り、と突っ込まれそうだ。
あきらはタイトルを上げると気まずそうに目をそらした。
「読書好きなのか」
「好きか嫌いかでいったら好きな方だけど……
気に入ったやつだけ読む派だから趣味に上げるってほどでもないかな」
とそこで会話は終了してしまった。
千空は軽く眉間を押さえて思案した。
まだお互いの事をよく知らずにいるためどう話を掘り下げていったらいいのやら。
友好関係を深めるなら気晴らしにどこかへ出かけるのも一つだが偶然誰かと出会わすと厄介だ。
なので、休日に外出しにいくというのはなし。
ふう、と一息をいれコーヒーを飲んでいるとふいに真正面から視線を感じた。
あきらの方を見るとあきらはこちらをみていたのをやめて読書に戻った。
(何だ？？？)
まぁ、いいかと気にせず調べを続けたが数分置きに視線を感じ流石に気になった。
よくよく観察してみればあきらは読書をしているようだったが、実際はあまりページが進んでいなく本越しに度々こちらを見ているようだ。
そして千空に見ているのがバレるも読書に戻る、ふりをしていたわけだ。
(もしかしてあいつも同じなのか？？)
千空を盗み見ているというよりはまるでタイミングを伺っているような感じだ。
(まぁ、突然一緒に住むようになって困惑すんのは向こうも同じか……
っとそういやあのタイトル……)
千空は暇潰しにはちょうどいいか、と配信サービスのページを開いた。
「なあ、五十嵐、その本の事なんだが……」

それから週に一回各々観たい映画を持ち寄って鑑賞するようになったのだが、それがきっかけでとある事態が起こったのはまた別の話である。