たっぷりと湯が入った湯船に体を沈ませ千空はぼんやりと天井を見た。
湯につかりようやくほっと息をつく事ができた。

湯から上がるとあきらはドライヤーを髪に当てて乾かしていた。
舞い上がった髪からふわりと香りが舞い自分が使っているシャンプーだと気づいた。
そういえばあきらが風呂に入る前にシャンプーを借りると言っていた。
何とも奇妙な感情に襲われ千空は眉間に皺を寄せた。

千空が湯から上がった事に気づいたあきらはこちらを見たがなぜか変な顔をしている。
ドライヤーを置いてまじまじと顔を見られて千空はいきなりなんだと口を曲げた。
「なんか用か五十嵐」
「いや、石神の髪が気になって…」
ああ、この髪が気になっていたのか、と理由がわかり苦笑する。
「水に濡れるとこうなる、あとワックスをつけてるからあんな風になるんじゃねえぞ」
「えっ、じゃあ元からあんななの？へー」
もの珍しいのかあきらは髪先に触れようと手を伸ばそうとして触れる寸前で止めた。
「っと、ごめん、つい出来心で」
「いや、気にすんな」
うん…と言ったあきらはきまずそうに目を背けた。
しょうがないことだ。
知り合い以下の人間と暮らすなど予想もしなかったのだから。
どこまで接すればいいのやら千空もあきらも悩んでいた。

「もう寝るね、お休み石神」
「…ああ」
あきらは来客用の布団を抱え部屋へと戻っていった。

うまく回らない歯車のように二人はまだお互いの事を知らないし
打ち解けていない。
この奇妙な同居生活が二人の関係をどう変えるか。
それはまだ誰もしらない話だ。