「っと、そろそろ風呂入らねえとな…」
と言ったところで千空は今までとは状況が変わっていることに気づいてしまった。
「…先入るか？」
「いや、石神が先でいいよ」

何とも言いがたい雰囲気のまま二人とも沈黙してしまった。
「居座らせて貰ってる側だしさ、後でいいよ」
「よくねえ、後でいい」
これが父なら気遣う事もなく気軽に接しられるのだが、相手は同級生で女子だ。
変に譲りあった結果、後に引けぬほどお互い意地を張り合う事になってしまった。
「あーーーめんどくせえ…、じゃんけん、負けた方が先に入る、これでいいか」
これから共同生活する中で何回も口論があってはたまらない。（これを口論と呼ぶかはさておき）
「まあ、それなら…」
あきらも承諾し片手を前に出した。
「最初はグー、じゃんけん、ぽん」
千空はチョキ、あきらはパーを出した。
「えーーっと勝った方だったよね！」
「何言ってんだ、負けた方、って言ったろ」
あきらはいいくるめなかったとむっとしたが部屋に戻ったのを見ると負けを認めたらしい。

これでひとまずは落ち着けるとソファに座ったが、程なくして浴槽の方から音が聞こえた。
それがあきらが服を脱いでいる事から発生するものだとわかった瞬間、千空はいたたまれなくなり自室に移動した。
きまずいっちゃあありゃしない。
浴槽から聞こえる音をシャットダウンすべくヘッドホンをかけた。
研究レポートを眺めるとさざなみたっていた心は不思議と落ち着き気づけば十五分ほど時計の針が進んでいた。
こんこんとノックする音がして戸を開けると風呂上がりのあきらが立っていた。
「お風呂、先に入ったよ」
頭にタオルが載せられ体温が上がっているからか頬は赤くそまり見上げている。
次、どうぞと火照ったあきらと言われ千空は我に返った。
「あ、ああ」
戸を閉めた千空は今一度状況を整理した。
突然同級生の女子と同居することとなり。
１日目にしてその同級生の湯上がり姿を見た。（しかも寝間着姿）
これを毎日繰り返すことになるのだ。
「なんだ、この状況は…」
知り合いの非モテ男子が見たら羨ましさで発狂するに違いない。
「はあ……、考えるな」
千空はさっきの事を思い返すな、振り返るなと自身に言い聞かした。