7月30日、あきらはとある学生に取り囲まれていた。
最初はナンパか……とめんどくさそうにどうやっていなすか考えていたあきらだが彼らの目的がナンパではないことに気づいた。
(武装……してる？)
となるとスキルアウトだろうか。
スキルアウトとはレベル0で固められた不良達の集まりである。
(参ったな、まさかこんなところで出会うなんて)
コンビニに出掛けていただけなのだが運が悪い。
向こうに能力はないとはいえあきらは精神系の能力だ、戦闘向きではない。
体格はあちらが上だ、そこを付かれると痛い……
ここは穏便にすまそうとあきらは鞄に手を伸ばした。
「あの……お金……目的ですよね……？
とりあえず現金渡すので見逃して貰えると……」
幸いバイト代が入ったばかりなので渡してもしばらくは大丈夫だ、と考えていたのだが。
スキルアウト達はニヤリと笑う。
「お金ねー、それが目的じゃねぇんだなあ……」
周りに立っていた男達が各々武器を手にする。
「俺はなあ……
お前みたいな能力者をぼっこぼこにするのが目的なのさ！！！」
「！！！」



裏路地を走る。
あきらは何とかスキルアウトから逃れることが出来た。
暗部の仕事の手伝いとはいえ全く危険がないわけではない。
スキルアウト以上の者に出会うこともあるので妨害グッズは常に常備してあるのだ。
先ほど取り囲まれていた際目眩ましに閃光弾を使いひとまずは窮地を脱したが後ろには怒声と共にあきらを追いかけるスキルアウトが迫ってきていた。
「っ、まだ追いかけてくる！！！」
なんとか撒こうとしているがうまくいかない。
バイトの関係上路地の地理に関しては詳しい方だが向こうも同じ条件だった。
おまけに向こうは武装している以外に何かアイテムで補強しているらしい。
スピードを上げる物だったり腕力を上げる物だったりで正直にあきらには勝ち目はない。
あきらにできることは逃げるのみだ。

しかしそれも長くは続かなかった。
ぐきりと足を捻ってしまいた倒れこむ。
「っ」
そうしている間にもスキルアウトは迫ってくる。
急いで立ち上がって逃げないと……と痛む足を引きずり曲がり角を曲がろうとするといつの間に回りこんだのかそこにはスキルアウトの内の一人が待ち構えていた。
ヤバイと思った時にはもう遅い、不意をつかれあきらの腹に衝撃が走った。
「っあ」
思いっきり蹴れた衝撃で体が動かない。
超能力者達は何故か屈強な体を持ってたりするのだがあきらにはそれはない。
動かないあきらの周りにスキルアウトの男達が集まってくる。
男達はこれからどうやっていたぶるかを話していた。
「とりあえずまぁこれで殴るか」
男は持っていたバットを勢いよく振り下ろした。
しかしそのバットがあきらに届くことはない。
「いっでぇぇぇぇ！！！！」
バットが弾きだされカランカランと地面に転がり持っていた男の指はめちゃくちゃな方向に折れ曲がっていた。
突然誰かが弾丸のように突っ込んできたためである。
「………………？だ……れ……？」
唐突なことで戸惑ったスキルアウトだが能力者用に準備してあるのだ、問題ない。
しかもそいつはすごく華奢な体をしていた。
ひとたび力を加えれば折れてしまいそうなくらい細い。
彼を知らない人間からすれば弱そうな人間だった。
「向こうは弱そうな男一人だけだ！！
大人数で襲っちまえば勝ち目はねぇ！！！」
「うるせェなァ……」
貧弱そうな黒いシャツを着た男がだるそうに呟く。
襲いかかる直前月の光が路地裏に差し込みスキルアウトはその男の姿が浮かび上がるのをみた。
真っ白な髪と赤い目が見えた。
「第、一、位」
と気づくも遅い。
ニタァと一方通行は邪悪な笑みを浮かべて攻撃の全てを反射した。
いくらアイテムで補強しようがこの男の前では何も意味をなさない。
そこから始まるのは強者による蹂躙だった。


路地裏に呻き声が響き渡るその中に一方通行は立っていた。
「一方通行……？なんでここに」
よろよろと起き上がるあきらに一方通行は肩をかしてはくれなかった。
「たまたまだ、運がよかったなァ」
本当に偶然だったのだがあきらは知るよしもない。
「あの、助けてくれて……ありがとう」
「向こうが勝手につっかかかってきただけだ
お礼を言われる筋合いはねェ」
通行方向に邪魔ならわざわざ攻撃の間合いに入る必要はなかったのでは……？と思ったがそれは内心だけにとどめた。

とはいえここに居続けるのはあまりよろしくない。
傷の手当てもしたいしそろそろ家に帰ろう……
一方通行は体を支えることはしなかったが時折痛そうに顔を歪めていたのを見たのかビニール袋を代わりに持ってくれた。


ちなみにこの時スキルアウトに一方通行と行動を共にしていた事を目撃されていたことが後々に影響を及ぼすなどあきらは知るよしもなかった。