「五十嵐ここにいたか、そろそろ帰るか」
乾もやっと偵察を終えたようだ。
先ほど会ったばかりの柳とは反対方向な為駅で別れることになった。
とはいえほぼほぼ乾と会話をしていた為あきらとはあまり話していないが。

やってきた電車に乗ったのだが。
「時間帯が時間帯だけに混んでいるな
大丈夫か、五十嵐」
「なんとか……」
と答えたものの満員電車でぎゅうぎゅう詰めで苦しい……
圧迫されて苦しいのをみてか乾は自分が立っているドア付近と交代してくれた。
「ありがとう乾……
助かるけど乾はいいの？」
「鍛えてるからな、平気だ」
乾はそう言うとノートを広げぶつぶつといい始めた。
器用だなあ、と思っていると急に電車がぐらりと揺れた。
「おおっと」
乾は慌てて片腕をドアについてバランスをとった。
バランスをとれたことで乾はよし、と再びノートに目を通す作業に戻ったが。
乾の手はちょうどあきらの顔の真横に添えられているせいか壁ドンみたいに思えてきて思わず顔を赤くした。
なお、乾はデータを見るのに夢中で現状には一切気づいていない様子だ。
ドクンドクンの心臓の動く音がやけに大きく感じる。
(って、何赤くなってんの、私……)
ノートでも見て顔の火照りを隠そうと取り出したちょうどその時駅についた為電車が止まった。
揺れた反動であきらの上を乾が覆い被さったような体勢になってしまった。
「すまない、苗字」
慌てて体勢を直すとあきらは気にしてない、と真っ赤になった顔をノートで隠していた。
(バレて……ないよね……？)
しかし乾は気づいている。
顔はノートで隠せても耳までは隠せないからである。
(なるほど、五十嵐は照れると耳まで赤くなるのか)