夏休みが終わり二学期が始まった。
乾は大量のノートの整理が終わり鞄に入れようとしていたところ不二が話しかけてきた。
「ねぇ、なんか五十嵐さん最近変わったよね
かわいくなったっていうか」
「……そうだな
そのかわいいという観点はよく分からないが」
と乾は一番上にあったノートをペラリとめくる。
それはあきらに関するデータを纏めたノートだった。
「急に髪飾りをつけてきたり……ああ、こないだはシャンプーを変えたかな？
それと……」
ぶつぶつ変更点を上げる乾に不二は若干引いていた。
単純に気づかないような細かな変化も書いてあったからである。
「で、不二どうしてそう思ったんだ
女子はいきなり可愛くなるものなのか？」
うーんと不二は考え込みこう答えた。
「ほら恋すると女の子は可愛くなるって言うし」
と同時に乾は持っていたノートを落としてしまった。
大量のノートがばさばさと廊下に広がり乾は慌ててノートをかき集めた。
「……こ、恋……？五十嵐、が……？」
「うん、多分五十嵐さん好きな人いると思うよ
勘だけど」
「そ、そうか……その好きな人って……？」
「いや、知らないなあ」
ノートを鞄に入れるはずが何故か乾はそれをせずふらふらと教室を出ていった。
「まぁ、知ってるんだけど」
ふふ、と不二は笑う。


(あの五十嵐に……好きな人が！？！？
何としてでも突き止めねば……)
その原動力が単なるデータ収集ではない事を乾は気づかないままあきらの周囲を徹底的に調査し始めた。
(まず部活の同級生や先輩達かどうかだが……)
あきらの周りに対する言動を観察する。
しかしいつも通りで特にそんな感じは見受けられない。
(あとはクラスメイト？)
けれど乾は同じクラスであり特別仲がいい生徒がいないことは把握ずみだ。
あとは学校外の交遊関係だが……
何か習い事をしていてそこの関係者だとそれが誰なのか突き止めづらい。
(いや待てよ、不二が気づいているんだ
そう遠くないはず……)
ノートに書き込んでいるとふいに後ろから声をかけられた。
「乾、何しているの？」
びくりと驚き慌てて乾はノートを閉じた。
一瞬中身を見られたかと思ったが身長差のせいか見えなかったようだ。
「えっと……新しい乾汁のレシピを考えていてね」
「また……？」
相変わらずね、とあきらは溜め息をつく。
ここで直球に聞いてもいいのだがあきらの性格上答えてくれないだろう。
それと乾は答えが知りたいと思いつつはっきりとあきらの口から聞くのだけは避けたかった。
作るのもいいけどほどほどにしてね、と注意をしてあきらは他の部員達の様子を見に行き乾は安堵した。
そしてノートを再度確認していると乾は先月の大会中の事を思い出した。

(そういえば蓮二と何か話していたな
……まさか相手は蓮二なのか！？)
と全然見当違いの答えに行き着いた乾だった。