「…………でカナヅチを直そうとプールにきたもものの中々入れずに困ってた……と」
休憩用ペースに一端移動し理由を聞いた乾はなるほど……と呟いた。
まぁ彼女から聞かなくてもだいたいは察していたけれど、と乾はあきらの持つビート版にチラリと目を移した。

「でも急にどうしたんだ？」
「その……こないだの合宿で」
あきらはテニス部の合宿での事を話し始めた。
「最初はさ、近くの海に行こうって話だったじゃん」
「……ああ、結局土壇場で雨降って入れなかったけどね
……菊丸が、せっかく楽しみにしてたのにー！、って残念がってたな」
当初は練習の合間をぬって海に遊びに行こうと予定を立てていたのだが急なゲリラ豪雨でナシになってしまった。
「でもそれと何が関係が？」
「まぁそれなんだけど普通ラッキーだ、って思うじゃん、いや実際そう思ったんだけど……
このまま泳げないままでいいのかなって……」
あきらは俯いた。
「もし雨じゃなくて晴れで私だけカナヅチで入らなかったら楽しげな皆の雰囲気壊しちゃうんじゃないかな」
「そんなことないさ」
「そうかな……」

乾はふむ、と顎に手を当てた。
「俺が泳ぎ方教えよう」


「まず五十嵐は水に慣れた方がいいな
さっき誤ってプールに落ちてパニック状態になっていたからね」
「その通りです……
身長以上にプールが深いってわけじゃないのになんでかな」
「溺れた事が恐らくトラウマになっているからだろうな
いきなり泳げるようになるんじゃなくて今日は水になれることから始めよう
さ、俺の手を握って」
乾が手を差しのべあきらはおそるおそる乾の手に自分の手をのせた。
「こわい？」
「……うん」
「大丈夫だよ、俺がついてる」

(なんでそんなことさらっと言えちゃうかなこの男は……)
水への恐怖心なのかそれとも乾と手を繋いでいるからかあきらは心臓が高鳴るのを感じた。