「乾、飲まないの？」
不思議そうに聞いてくる菊丸の言葉に乾ははっと我に帰った。
「すまん、ぼーっとしてた
熱さのせいかな、ハハハ」
愛想笑いで誤魔化し水分補給をとる。


俺は一体どうしたんだろう。
手がふれあうなんて些細な事なのにうっかり水筒を落とすくらい動揺するなんて。


次の日の朝。
俺は録画用のカメラを手に各自の部屋に向かっていた。
目的は寝起きの反応を見る為ドッキリを起こすことだ。
去年同じことやったから注意されてるかもしれないけど……


今日は後……
「五十嵐か」
五十嵐が寝ている部屋のドアに手を伸ばそうとして俺はその手を止めてしまった。
「……………………」
果たしてこのドアを開けていいのだろうか。
恐らく五十嵐は寝相を撮られた……と憤慨するだろう。
しかし俺はそれよりも別に気になる事があった。
五十嵐は寝ている。
それは間違いない、一通りぐるっと回ったが五十嵐の姿はない。
寝相を録るのにはもってこいだろう。
しかし…………
俺はついこないだ深夜の出来事を思い出す。
あの時出くわした五十嵐はジャージでも制服でも普通の服でもなく寝巻きを着ていた。
そりゃ寝るのだから寝巻きを着るのは至極普通なことだ。
五十嵐は気づいていないようだったが普段データを取っているからか俺はとある点に気づいた。
(五十嵐は寝る時はのーーぶ…………)

しかしそれがなんだというのだ、目的を達成しなければと再びドアノブに手を伸ばすもその直前でまた手は止まってしまった。
ゴクリと唾を飲みこむ。
「……………………止めよう」



「あーあ、今日で合宿も終わりかあ
あ、そういやマネージャーあれ、びっくりしたでしょ？」
「あれ？」
「すっとぼけちゃってーー
寝起きドッキリ！！だよ！」
あきらは首を傾げた。
そんな記憶はない。
「え？？もしかして乾来てない？」
「いや先輩方もそんな事言ってなかったけど……」
ってそのドッキリの首謀者乾！？。
あーー合宿前に言っていたことはそれだったのか。
「合宿前は五十嵐にもやるって……乾言ってたよ？なんで止めたんだろうね？」
「当たり前じゃないか！英二！
女子の寝相ドッキリなんて……駄目に決まってるじゃないか！！
乾俺が前に忠告した時は受け入れてなかったけど……そうかそうか」
うんうんと大石は喜んでいる。
まぁあの乾もわきまえる心を学んだのかもしれない。
それにしても……寝起きドッキリとかされなくて良かった……