司は何を言っているのだろう。

きっと聞き間違えたんだ、そうだ。


「ごめん、よく聞こえなかった」

震えながら答える。


「じゃあ、もう一回言うよ

千空を殺したのは俺、

間違いなく彼はもうこの世に…」

「嘘だ！！！！」

あきらが叫んだ声は洞窟内で響いた。

「嘘だ、そんな事、 どうして…」


司は目を瞑り淡々と事の説明をした。


「決して彼の事がキライだったからじゃない
思想が違ったんだ」

「思想…？？？」

「君はうすうす気づいてたんじゃないか、復活者の選定にルールがあると」

選定…蘇らせた人たち…。

あきらがある事に気づいた。

「全員…若者…」

「そう、年老いた人間を甦らせば汚れた現代社会に元通りだ。

この世界を浄化する為に彼の死は必要な事なんだ」


あきらはただ茫然と立ち尽くした。

「君にも分かるはずだ、君の家は代々伝わる剣道家だったね
そして次期当主…君は自分の人生を恨んでいなかったのかい？」

………。

あきらは返事をしなかった。


「あきら、俺とともに新たな世を切り開こう
君なら俺の手を取ってくれるはずだ」

司はすっと右手を差し出した。

(わたしは……………)


「確かに私は剣道家以外の道がなかったし、正直恨んでいた部分もある。」

だけどー。

暗い顔をした私にとある科学少年が言葉をくれた。

(てめえながらにやりたい事、なんでも探せばいいじゃねえか

中二のくせして何絶望しました、なんて顔してやがんだ)


ちょうどその頃父が経営に悩んでいた事を覚えている。

古臭い剣道が生き残れるはずがないとぼやく父の背中が小さくなっていた、

昔はあんなに大きかったのに。

「すまんなあ、あきら、お前の代まで繋ぎたかったが無理そうだ」


そこでようやく自分の思いに気づいた。

代々伝わる道場、欠かさず手入れをしていた刀、なにより父の思いを守りたかった。

何としてでも守りたいと私は一種の賭けに出た。

テレビ業界と契約し、剣術の一部をウケやすいようにパフォーマンス用にアレンジした。

元々依頼が来てたから成せる技だったけど。



「剣道ってのは一長一短では伝えられない積み重ねの技術なんだ

今ならはっきり言える、私は剣道が好き

そして科学も同じ事だ

やっぱり司の思想は私には理解できない」

そもそも石像破壊が一番私の信念に合わないのだ。

司は静かに目を閉じて手をひっこめた。

「そうか、残念だ」