村に入れない以上あきらの寝床をどうするか
考えなくてはいけなくなってしまった。

村の外に寝れるような所は倉庫以外にはない。

千空がどうすると、悩んでいるとあきらが提案した。


「……野宿でいいよ、そもそも司の所にいた時も布団なんてなかったし」

動物の毛皮を敷いただけの物と野宿なんてそんな大差はないだろう。

「野宿だあ？んなの駄目に決まってんだろ
俺が下で寝る」

「千空は科学王国の要なんだよ？
体痛めるに決まってる、私が下で寝る」

なかなか譲らない二人に痺れを切らしたクロムが言った。

「そんなもん、三人で寝りゃ済む話じゃねーか」

「おい、クロム、言うのは簡単だが意味分かってんのか」

「あ？一緒に寝るんだろ？
少し狭ぇけど、寝れないこともないぜ」

いや、そういう事じゃあないんだけど……とあきらは困った。

そもそも千空と一緒に寝るというのは恥ずかしいし、後今日会ったばっかの奴と添い寝するというのはいかがなものか……

「しょうがねぇな、それしかねぇか」

じゃあ、早速寝ようぜとクロムはいち早く倉庫に上がった。

「ちょ、千空」

「大丈夫だ、クロムはお子ちゃまだからな」

千空によればクロムはルリの事が好きらしく(無自覚)、あきらの事なんか眼中にねぇから安心しろと言われた。

(一つは解決したけど、もう一つが解決してないんだけど……)

「千空は……いいの
一緒になんか寝て、さ」

「非常事態だ、気にしねぇよ
つっても、村に正式にお仲間入りするまでだぞ」

とりあえずは許してくれたらしい。


ちなみに寝る順番だが。

窓側から、クロム、千空、私の順番になった。

何故か千空が。

「クロムてめーは絶対端っこだからな
後あきらも端だ」

これはあきらは特に気にしていなかったが、
千空があきらの横になるかつ、クロムの横があきらにならないよう、配置したのは本人以外知らない事だった。

三人で川の字で横になり就寝する。

クロムは数分経たずに夢の世界に旅立った
らしい。

何とも早いやつだと思いつつ自身も早く寝なければと目を閉じた。

すると、背中の方向から声がした。

「起きてる？」

それは背中合わせで寝ていたあきらの声だった。

「……ああ、何だ」

あきらは少し躊躇ったのか数秒、間が空いた。

「実はね、千空の事を聞いた後
私すごく辛くて、いっそ滝に身投げでもしようかって考えた」

薄目で聞いていた千空は目を大きく見開いて上半身を起こした。

千空が生きていると知った今ではやらなくて良かったと思う。

「でも、そんな事したら千空に意味のない事すんなって怒られそうな気がして飛び込むのは止めたんたけどね」

あきらも体を起こして千空に向き合うと両頬をぎゅっとつねられた。

「そうだ、そんな下らない事二度とすんな、てめえに居なくなられたら
困るんだよ、分かったか」

「いたたたた、分かった、分かったからつねるのやめてー」

千空がぱっと手を離しあきらは頬を擦った。

こればかりは自分がいけないので致し方ない事である。

「…………はあ、……寝る」

そう言うと千空はそっぽを向いて寝に入った。

「おやすみ、千空」

背中を向けた千空に声をかける。

「…………おやすみ」

顔は見えないけれど、律儀に返事をしてくれた。

千空は優しいから怒ってくれているのだ。

きっと自分ではない別の人でも同じようにするに違いない。

(勘違いは駄目、してはいけない)

期待などしても無駄という事はとっくの内にわかっている。

邪念を払うかのようにあきらは布団代わりに
している革を深く被り眠った。

眠ったあきらの髪を撫でる男が一人。

「ぐっすり寝てんな」

寝ている様子を観察しつつ、先ほどの言葉を思い出す。

「ほんとに実行してなくて良かったぜ

……頼むから変な気起こすんじゃねぇぞ」

(お前と同じように俺も思ってんだよ、てめーをな)

あきらの左手をとり薬指にそっとキスをおとした。