「おや、ゲン
その顔は……どうしたんです？」

口元に黒いマスクをした男こと氷月は戻ってきたゲンの頬が赤い事に気づき尋ねた。

誰がどう見ても引っ張ったかれている。

「ああーー……これね。」

ゲンは痛そうに擦って苦笑した。

「さっきあきらちゃんのカウンセリングに行ってきたのよ」

「その様子を見ると説得には失敗したようだね」

期待していたんだが、と司は残念そうに呟いた。

「いやあね、あきらちゃんって前から可愛いって思ってたからさあ～～
ちょーーーっとお近づきになりたいと思ってね？」

そしたらこれよ、とゲンは自分の頬を差しやれやれと両手を上に上げた。

「………………………………」

「………………………………」

様はナンパしようとして思いっきりこっぴどくフラれた、と解釈し司も氷月も沈黙した。

「で？彼女には作戦に参加してもらえそうなんです？司くんも必要だと言っていましたし」

うーんとゲンは汗をかき何とも言いづらい顔をした。

「それがねーーー
ほら、彼女ってちょっと気難しい子でしょ？
今回ので更に不信感というか……
警戒を強めちゃった感がねーー」

カウンセリングをうまく出来なかったゲンに対し司は特に咎める気はなさそうだ。

「なら……仕方がないね」


(全くどいつもこいつも甘すぎる
剣道家とはいえ刀が使えないと戦えないやつを生かすなど意味がない)

氷月も特に口は挟まなかったが、司と考えている事は正反対だった。


そんな二人をみていたゲンは話を終えたので洞窟から出て外に出た。

司帝国の皆はさきほどの騒動について、
「ああ、さっきのナンパ失敗事件ね」

と、全くそれ以外の可能性、について頭の隅から除いていた。

全て、ゲンの思い通りに事は進み、誰も疑う人はいない。

そして、翌日、帝国のとある一員が墨で書かれた置き手紙を発見した。

『もう堪えきれません
彼と所へ行きます』

発見された場所は滝の手前でどう考えても身投げに思えた。

事を聞かされた杠と大樹は絶句し考えられないと否定したが、川の下流にあきらが使っていた髪留めが濡れた状態で見付かりあきらの死は
覆えらない事実となった。