手のひらを合わせあきらは、いただきます、と言ってから焼き魚に手を伸ばした。
石神村にやってきて一週間ほど経っただろうか、御膳試合そして司帝国からの刺客をとりあえず追い払ってようやく安心してご飯を食べれるようになった。
単純な食べ物だけだけどこうゆっくり食事が出来るようになったのはいい。
モグモグと咀嚼をしているとコハクらに見つめられていることに気づいた。
「……何？」
「"いただきます"って何なんだよ？」
「そういえばあきらは食べる時いつもそうやってから食べているな、何か意味があるのか？」
そう言われると説明するのはちょっと難しい。
返答に困っているとゲンが助け船を出した。
「あーー何て言うかまぁ単純に食事に関する挨拶？みたいなもんかな
命を貰う感謝を表してる……って習ったっけ」
「感謝……か、なるほど」
「って言ったけど俺もぶっちゃけ詳しいこと分かんないんだよね～～」
へらへらと笑うゲンにコハクははあ……と溜め息をついた。
「まあつまりはそういう決まりごと……みたいなものだな？」
「うん、作法って言うんだけど
こういう時にはこうしなさいって感じの」
「千空は特にそんなことしてなかったんだよ？」
「あ”ーーー別にしなくても死ぬわけじゃあねぇからな、そこんとこは個人の差だ」
「スイカも……した方がいい？」
ゲンはそこについても補足した。
「まぁ千空ちゃんみたいに言わない人もいたかな
特にこれは日本特有のものみたいなものだから外国には同じような文化はないからねー」
「私は家の事情でやってたけど……
強要する事でもないし、スイカは気にしなくてもいいよ」
「………………うん」
スイカはそう言ったもののじっっと自分の手のひらを見つめた。



「あきらこれから鹿の解体をするのだが手伝ってくれないか？」
「か、解体！？」
コハクは自分の背丈か同じくらいの鹿を担いでいる。
「……申し訳ないんだけどその、い、生き物捌くとかは……」
魚くらいはあるがそんな大きな動物は経験にない。
ゴメンと謝るとコハクは気にするなと言って行ってしまった。

そこで突っ立っていたからか千空が声をかけてきた。
「なんかあったのか」
あきらは先ほどの出来事を話す。
「そりゃ仕方ねぇだろ、てめぇは現代人だからな
肉を捌けなくても気にしなくてもいい」
「……でも千空は一人きりで生活してた時は」
「ありゃあそうしなきゃ生きていけなかったからな、でも今は違う、出来るやつに任せりゃいい」
本当にそうだろうか。
いくら現代に生きていたからといって他の人に任せて生きるのは筋違いではないか。
卑怯だ、そんなの。
昨日命を頂く、なんて話しておいて自分だけが逃げてるのは、とてもずるいと思う。
ぎゅっと自分の拳を握りしめる。
「千空、コハクいつもどこで解体してる？」
「……いつもあそこでやってる」
「ありがとう」
そういって走っていったあきらに千空は溜め息をついた。
「ったく、慰めてほしいのか欲しくないのかどっちだよ」


「コハク！」
「あきら！？待て、今血だらけでな
すまないが後にしてくれないか！？」
コハクが慌てて鹿を隠そうとする。
そっか、私が断ったから視界に入らないようのしてくれているのか。
ぶっちゃけ血の気が引きそうだ。
「私も手伝う」
「……！しかしやった事ないんだろう？無理にやらなくても私が……」
「それじゃあこの先、生きていけない」
これは今だけの問題ではない、この先ストーンワールドに居る以上ずっとつきまとう問題だ。
自分一人だけ汚れずにいるなんて周りが許そうとも自分自身が許せない。
引き下がらないと判断したコハクはまっすぐにあきらを見た。
「わかった、では手伝ってくれあきら」
「うん」


「で、どうだったよ、鹿の解体は」
「……しばらくお肉見たくないかな……」
「そうか、でも食わねぇとな」
千空はほら、と焼けた鹿肉を渡してくる。
さっき見たくないって言ったのが聞こえなかったのか？
でも食べねば生きられないので食欲はないけど食べなければ。
手のひらを合わせると皆同じく合わせているのに気づいた。
「え、いや、しなくてもいいんだよ！？」
「ああ、分かっている
だが、別にしてもいいのだろう？」
よくよく見れば千空も同じようにしている。(しぶしぶと言った感じだが)
「……あ“ーー俺は気まぐれだからな
やりたいつったのはこいつらだ」
と千空はスイカ達を見る。
「あきら、早く食べないと冷めちゃうんだよ！」

「うん、じゃあ、いただきます！」