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雨ってこんなに冷たいんだ、、。

「ここか、、。」

この日私は、とある小学校を訪れていた。なんでも、協力してほしいことがあるとか。

「私以外にもう一人いるらしいけど、、。誰なんだろう。」

就職の為に地元から童守町に引っ越してきて早々、この童守小学校の校長から「是非に」と電話を貰いお願いされた。私でも役に立てるのなら大歓迎なので、喜んで承諾し今に至る。

「すみません、羽沢海と申します。ここの校長先生に呼ばれて来たのですが、いらっしゃいますか?」

小学校の玄関先に着いた時、女の先生が通りかかったので声をかけた。

「あらいらっしゃい。貴方がそうなんですね。案内しますのでどうぞ。」

「ありがとうございます。」

黒髪長髪の綺麗な先生。名前は、"高橋律子"と言うらしい。
女性らしい素敵な名前。
性別とは裏腹に名前が男っぽい私とは大違いだ。

「校長先生ー。いらっしゃいましたよー。」

「?、、、あぁ、入ってきておくれ。」

高橋先生が、コンコンと校長室らしき部屋の扉をノックし声をかけると、渋い声で部屋へ入るよう促される。

「こ、こんにちは。」

緊張から声が上ずってしまった、、。ほぼ初対面なので恥ずかしい事この上ない。頼りないと思われただろうか。

「やぁ。君が羽沢海さんだね。今回は宜しく頼むよ。」

「ええ?!!」

校長先生が私に話しかけた後、驚いたような声と、なんとも高そうなソファが軋む音が聞こえた。

「あ、貴方が羽沢海さん、、ですか?」

「はい。そうですが、、。」

「あ、、。し、失礼な事をお聞きしますが、性別は?」

「女です。」

「、、、、、すみませんでした、、。」

今の質問と反応からすると、名前的に性別を男だと勘違いしていたらしい。けれどこの勘違いは慣れているので、冷静に対応する。

「大丈夫ですよ。良くある事なので。」

「はい、すみません、、。」

よほど反省しているのか、しょぼんと落ち込みながらソファに座る目の前の男性。

私も校長先生に促され、男性の隣のソファに座る。

「それじゃあ、私は職員室に戻りますね。」

「ああ。案内ありがとね。」

高橋先生が職員室へ戻ろうと声をかけると、校長先生が手を振りながらそういった後、私達の方へ向き直る。

「それで、今回の相談はな。」

神妙な面持ちで話し始める校長先生。一語一句聞き逃さぬように静かになる。

「ないよ☆」

「「は?」」

完全に真面目モードに入っていた私達を前に、校長先生はそう言った。

「え、、な、無いってどう言うことですか?」

隣の男性が困惑した様子で校長先生に問うと、

「そのままの意味。だが、集まってもらう必要があった。」

「わ、私達に集まってもらう必要のある事、、とはなんでしょうか、、、。」

今の校長先生のテンションからして、嫌な予感はしている。

「今私はなんと言った?"相談は無い"。しかし重要な話なんだ。」

校長先生が再び神妙な面持ちになると私達も聞く体勢に戻る。

「君達2人には、ある共通点があるな。」

「共通点?」

男性が疑問に思ったことを口にすると、

「そうだ。そしてそれは、この童守町の平穏を守る為に必要不可欠だ。」

「も、もしかして、、。」

男性を前にした時から感じていた"それ"

「その共通点とは、"霊感がある"という事でしょうか。」

「そうだ。」

確信めいた言い方をすれば、校長先生が頷く。

「彼女にも霊感が、、、。」

「?あの、なぜ私に霊感があるとご存知なのですか?」

「うちの生徒が見たんだよ。君が男の子の霊を除霊しているのを。」

「!!」

まさか見られていたとは知らない私は、驚きのあまり目を見開く。

「その生徒が言ったんだよ。"あの人はぬ〜べ〜の助けになってくれるかもしれない""いつも一人でたくさん傷を負いながら戦う先生を見ていられない"ってね。それで、だ。」

「「、、、、」」

話の内容が内容なので、重い空気の中、校長先生は話を続けた。

「羽沢海さん。貴方に、この学校でカウンセリングをお願いしたいんだ。」

「カウンセリング?確かに資格はありますが、、、。」

電話を頂いた時、何か資格は無いかと聞かれたので、カウンセリングの資格なら持っていると話していた。

「カウンセリングで生徒達の相談を聞きながら、この町をあらゆる驚異から守ってほしいんだ。」

「!、、、分かりました。」

「カウンセリングの仕事はついでと言ってもいい。この町は妖怪も変な噂も絶えないから、そこの鵺野先生と一緒にお願いね。」

「カウンセリングの仕事はしっかりこなします。"ついで"なんて中途半端な事はできません。この童守小学校の子供達の苦しい気持ちをしっかりこの耳で聞き、心でその苦しさから解放してあげたいんです。」

「、、そうかい。どうやら君に頼んだのは間違いではないようだね。宜しく頼んだよ。」

「はい!」

用も済んだらしく、玄関へと2人で向かう。

「えっと、、羽沢海さん、でしたよね?」

校長先生と私で話を進めていたので、すっかり蚊帳の外になっていた男性。

「ご挨拶が遅れてすみません。俺は鵺野鳴介と申します。5年3組の担任をしています。なんだか大変な事になって、、。これから宜しくお願いします!」

「あ、、やっと名前聞けました、、。鵺野先生というんですね。こちらこそ宜しくお願いします。」

そしてお辞儀をし、頭をあげると赤面した鵺野先生が。

「?、どうかしました?」

「は、、、いいいいえ!!なんでもありません!!!」

赤面した顔の前で手をぶんぶん振る鵺野先生。

「ふふふ笑、鵺野先生って面白い方ですね。」

そう笑ってみせると、今度は顔の前に手をかざしたまま固まってしまった鵺野先生。

「あの、大丈夫ですか?」

「はいぃぃ?!」

さっきから赤面したり手を振ったり固まったり忙しい人だなぁと思った。今だって、驚いたような動きをして見せた。

「カウンセリング、明日かららしいのでまた来ますね。」

いつの間にか玄関までたどり着いていた私達。赤面していたこともあり、校長先生に渡し忘れていたみかんを鵺野先生の手に乗せる。

「体調が優れない様なので、どうぞ。これ、すごく酸っぱいですけどとても効きますよ。それでは、お大事に!」

あまり長居しては鵺野先生の体調に悪影響を与えかねないので、すぐに玄関から出ていく。

「あの!」

正門に向かって歩く私の後ろで叫ぶ鵺野先生。
私も、声の主を見ようと振り向く。

「あ、、、ま、また!!」

少しぎこちない言い方で、「明日、学校で!」と言う鵺野先生。

「はい!」

それに答えるように私も笑顔で返事をする。すると再び赤くなる鵺野先生の顔。

このままだと本気で心配してしまう、、。心配性なところは人に迷惑になりかねない事があるのも事実なので、これ以上鵺野先生を無理させないよう、足早に去ることにした。

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俺の目の前で小さくなっていく背中。

元い羽沢海さんは、校長先生の意向で、明日からカウンセリングとして週に三回、童守小学校に訪れることになった人。

そして俺が____________。

だが、先程の校長先生の話には納得のいかないものもあった。
それは、"俺と共にこの童守町の平穏を守る事"。

例え霊感があって除霊もできる人となれど相手は女性。出来れば危険な事から遠ざけたいのが俺の本音。

しかし当の本人は、そんな俺の気持ちなど知る由もなく、その校長からのお願いを承諾した。

もちろん俺にもその話をされたが_。
「鵺野先生。明日の放課後、羽沢海さんという方が来る。その人は、君のように霊を除霊したりすることができるらしくてね。噂で聞く限りとても頼りになる人だ。これからは、その人と童守町を守ってもらいたい。」

「え?あの、校長どういう意味でしょうか、、、?」

「今言った通りだよ。それじゃ、明日の放課後だからね。」

と、強引に話を終わらせたのだ。
その後も、話の詳細を聞こうとしたが、逸らされるばかりで聞くことができなかったのだ。

「はあぁぁ、、、。」

まさかあんな大きな話になるとは思わなかったので、今日一日の疲れと共に自然とため息が出る。

「あ。」

とりあえず仕事を終わらせようと、職員室へ向かう為に2、3歩足を動かした後に気づく右手に握られたみかん。

「〜〜〜!////ふぅ、、。落ち着け俺!」

先程の出来事を思い出し再び熱くなる顔。
誰にもみられまいと、左手で中途半端に隠す。

先程彼女は、「体調が優れないようなのでどうぞ」と、みかんをくれた。

つまり俺が赤面していたのは、風邪をこじらせたからだと思い込んだらしい。
本当に風邪ならいいのだろうが、これはそうでは無く、、。

気づかれなかったことに関しては、今回ばかりは感謝したい。

「と、とりあえず職員室に戻るか。」

玄関から去っていく彼女のように、俺も足早で職員室へと向かった。


「あら、鵺野先生。お話は済みましたか?」

「あ、はい!」

「校長先生から聞きましたわ。明日からあの人、カウンセリングとして学校に来るのでしょう?優しい方だと良いですわね。」

「あ、、。そ、そうですね!」

律子先生の言葉によって再び思い出す明日の楽しみ。
この気持ちになるのは俺だけなのかもしれない。
けれどもし叶うなら、彼女も同じ気持ちであればと思う。

「鵺野先生。私、お先に失礼しますね。」

「はい!お疲れ様でした。」

「お疲れ様でした。」

残っていた教師は、律子先生と俺だけだったらしく(校長はあの後すぐに帰ったらしい)、1人になった俺はパソコンとにらめっこを始めた。

「ふぅ、、、、、。もうこんな時間か。」

一通り作業が片付き、背伸びしながら壁時計に目をやると、短い針が7を指していた。

「今日が宿直の日で良かったな、、。」

ちょうど今日が宿直の日だった俺は、荷物をカバンに入れ、パソコン片手に宿直室へと向かった。

宿直室のドアを開けるとキイィとなんとも不気味な音を立てる。

「とりあえずカップ麺食うか、。」

湯を沸かし、カップ麺に湯を注いでから数分後、ズズズッと麺を口に入れる。

「ご馳走様でした。」

カップ麺を食べ終わったら一気に仕事モードに入る。

パソコンを開き、慣れない手で作業を再開する。


「つっ!ふぁぁぁぁ、、、早いな、もう11時か、、。道理で眠い訳だ、。」

エンターキーを押した後、豪快なあくびをしながら、パソコンに表示される現在時刻に納得する。

「あ、そういやみかん、、。」

まだ何も知らない彼女から貰ったみかん。とても酸っぱいらしいが、せっかく貰ったので食べてみる事にした。

「ん、確かに酸っぱいな、、。」

彼女が言っていた通りの酸っぱさに、顔を歪める。

けれど酸っぱいはずなのに、、。

「甘いな、、。」



明日会うであろう彼女の笑顔を思い出しながら食べるみかんは、甘酸っぱかった。
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