短編
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きっかけは何だったかな。
手を繋いで夜道を歩き、悪い奴らをシメて回る2人と共に居た。
捕まった彼らとの面会は出来なかったが、出てきた日にウチに来た丸坊主の2人の頭を叩いて上手くやれと笑っていた。
積極的に悪いことをした覚えはないが、あの兄弟と共に居るだけで私の名前は広まった。
私はただ、あの二人と過ごす馬鹿みたいに笑い合う日々が好きだったはずなのに。
ーーー私が女だから。
いつからだろう。
遊び半分で気楽にくっついて居られたはずの距離が苦しくなったのは。
いつからだろう。
お互いの事を何でも話せていたのに、言わなくなっていったのは。
いつからだろう。
お互いを理解しているはずなのにすれ違うようになったのは。
いつからだろう。
心を圧し殺さなきゃ話せなくなったのは。
気付いちゃいけないと蓋をして、何でもないと装ったのがいけなかった。
気になる子が出来たのかあからさまに私と距離を取って嫌がり出した。あの竜胆に好きな子か、なーんて姉ぶっていたはずなのに竜胆と女の子が一緒に居るのを見てなぜか焦った。
顔を赤くし照れながも楽しそうに話す竜胆。
あれ?私最近竜胆と話していてあんな顔見たことがない。
蘭は今まで通りだったけれど、蘭に絡む女達を見るたびなぜか不安が渦巻いた。
腕に絡み付く有象無象の女達を馬鹿にしている自分の醜さ。
なのに、興味本位でくっつけば彼らの私を見る目が有象無象を見る目と同じに見え、私の価値が下がっていく音がして。
その音は私だけじゃなく彼らにも響いて距離が出来て。
近くに居るはずなのに、距離が離れた。
それだけじゃ私達の友情は壊れないと自分の心に言い聞かせても不安ばかりが押し寄せる。
そんな不安にも気付かないフリして関わっていたのが駄目だったのかな。
「お前、もう来んな」
「え?」
蘭や竜胆に引っ付いて回っていた私。
集会なんてものは無いけど、二人が揃っていれば何処からでも人は集まってくる。
「……理由は」
「最近のお前目に余るわ」
ヒヤリとした。
蘭から拒絶された。
「ベタベタベタベタしつけー。お前そんなタイプじゃなかったろ」
「……そんな、つもり」
「その他と同じ真似して誰と張り合ってんだよ」
「張り合ってなんかっ」
「それとも気になるやつの気でも引きてぇわけ?
俺ら使って」
ピリッとしている蘭の雰囲気。
気が引きたい?そんな男なんていない。
「人のこと尻が軽い女みたいに扱わないで」
「じゃあみっともねぇ真似すんな」
恥ずかしかった。
二人に構ってと、置いていかないでと泣き叫びたくないから必死に取り繕ったのに。
自分でもあり得ない行動だと思っているのに。わかっているのに、その時は最善なんじゃないかと思ってて……。
くだらないこと話して笑い合っていたいだけなのに。今の行動は私が馬鹿にした有象無象と同じなのに。
蘭に言い返せるはずがないのに、自身の非を認めたくない私は八つ当たりのように可愛くない言葉を吐き出す。
「私がいると二人は可愛いくてすぐヤらせてくれるような尻軽と出来ないもんね」
ごめーん、なんて思ってもいないことを口にする。二人の額にうっすらと青筋が浮かんだ。
「俺らのことヤリチン扱いかよ」
「実際そうでしょ?お勤め先で溜まったもの発散させたいんじゃないの」
「「はぁ?」」
「言っていいことと悪いことの区別もつかなくなったのかぁ?」
「悪い事ばかりしてる蘭に言われたくない」
「………最近のオマエやだ。何考えてんのかわかんね」
竜胆の呟かれた言葉に胸がチクリ。
わからない?そんなの私だってわからないよ。
「……ひとまず頭冷やせ?
俺らを幻滅させんな」
蘭に言われ、今度こそ黙るしかなかった。
夜、二人の後を着いていかなくなれば聞くのは噂ばかり。
竜胆に恋人が出来たらしい。
蘭と遊んだ子がいるらしい。
連絡先を聞かれたらしい。
今度遊びに行くらしい。
……竜胆と蘭に本当なのか問い詰める権利なんて無いが、噂ばかり耳にすると気になってしまう。
昔は受け流せたのに、なんで?
モヤモヤとする気持ちをより悪化させるように私の噂も一人歩きする。
みっとも無い私の行動は悪手だったらしく、私の真意とは裏腹に二人を独り占め出来なくなって色目を使った結果、兄弟に見放されたって嘲笑う。
そんなくそな噂に振り回され六本木を歩けばニヤニヤしながら慰めてやろうか?と声をかけてくる低俗な男達。
面倒で無視して立ち去ろうとしたのに、見知らぬ女達とすれ違った時『幼馴染を理由に二人とつるんでいたのに結局はアンタも女だったんだね』と言われた時は腹が立った。
「何」
「あ、聞こえてた?竜胆くんと蘭くんの周りチョロチョロしなくなったと思ったら街中でナンパなんて堕ちたもんだね」
「私なら恥ずかしくて無理ィ」
馬鹿にしたように笑われる。
私は二人が特別で、二人にとっても私は特別なんだと自信があった。
女だから独り占めしたいなんて軽い言葉で終わらせないでほしい。
私達は特別な友人だ。
何も知らない、知ろうとしない奴らに。デマしか流せない臆病者に格下扱いされて笑われる程、私の行動はダサかったのだと認めよう。
認めるが馬鹿にされて黙ってられる程、大人しい私ではない。
なので、目の前で嘲笑う女の顔面を容赦なく叩いた。
「な、にすっんだよ!!」
「雑音がうるさいラジオを黙らせようと思って。壊れたラジオなら叩けば直るでしょ?」
「嫉妬して私達と同じ行動した時点でオマエが馬鹿にしてきた私達と同じのくせに!!」
殴った女に言われて頭が真っ白になった。
嫉妬?
そんなわけない。
だって、竜胆も蘭も友人なのだから。
二人に自称恋人が出来たのは何度もある。その度に私は彼らのクズな恋愛事情を知っていたし、注意した。
私だって彼氏がいたこともあるのに……。
「焦ったんでしょ?
本命が出来たかもしれない竜胆くんに!!
必死に取り繕って、おかしかったわ!」
竜胆に本命が出来たからなんだ。私は、今まで通り……
「幼馴染だ、親友だって言葉で言ってもいざとなったら本性出たじゃない。
蘭くんに本命が出来たらアンタの立場無いもんね。
アンタも私達と同じ、あの二人に寄生するその他なんだよ!!」
女の言葉に胸が抉られた。
竜胆の事を恋愛的に好きなわけじゃない。
だけど……私はもしも、を想像してしまった。
蘭からも、竜胆からも。
特別からその他へ落とされ見向きもされない未来を。
私という立ち位置は、蘭と竜胆にそれぞれの特別が出来た場合一番最初に切り捨てられる。
だって、幼馴染は家族じゃない。
いずれは離れなきゃいけないと頭ではわかっているのに、執着してしまった私。
嫉妬。焦り。懇願。執着。
いつまで一緒にいられるんだろう。
そう、考えた不安が現実となってしまい焦った私は必死に繋ぎ止めようとした。
繋ぎ止めようとして、失敗してしまった。
「………っ」
楽しければ良かったのに。
楽しいことばかりに目を向けていたのに。
性別も違う、家族じゃない、ただたまたま近しい位置にいただけの私。
「何も言い返せないなんて、惨め」
何も言い返せない私に女達は勝った気でいた。
「竜胆の彼女、裏表ありすぎんだろ。
不細工過ぎて引くわぁ」
突如聞こえてきた声は聞きなれていて。
「俺らのに文句つけれる程、テメェいつの間に偉くなったわけ?」
頭に乗る容赦ない重さと、嗅ぎ慣れた香水。
少しダボついた服が視界を閉ざす。
私が困った時、あの時の約束を守って助けてくれるのは一人だけ。
「蘭くん!?」
「なぁに騒ぎ起こしてんだよ。大人しくしてろって言ったろ」
ヒーローみたいなタイミング。
私は約束を守れなかったのに。今も守ってくれている私の特別。
「………らん」
「こんな早くから起こされて来た俺偉くね?」
ホッとしたのもつかの間。蘭の言葉にピシリと固まる。
今は昼間。
確かに蘭は寝ているはずの時間帯。
恐る恐る見上げれば穏やかに笑っているが、目が笑っていないのでコレはわりと怒って機嫌が悪いやつだと判断。離れようとしたがガッチリと頭を捕まれ離れられない。
「蘭くん、私この人に叩かれてっ」
「これから家な。逃げんなよ」
「この人、私が竜胆くんと付き合っているのが気に入らないって」
「昔から俺の言うこと信じねぇし一人で暴走するのいつになったら直んだよ」
「……らん、あの」
「蘭くん!」
「俺が話してんのに割り込んでんじゃねーよ」
瞳孔の開ききった蘭に私も女も黙る。
さっきから竜胆の彼女ガン無視であるがいいのか?そう聞こうとしたが私に今話す権利は無いらしい。
「でもっ」
「竜胆の嫁なら竜胆に言えよ。
俺も見たまんまの話竜胆にするから」
「その人、街中で男達に声かけて色目使ってたのに?
蘭くんが庇う人じゃ」
嘘の発言を私が訂正する前に、バキョッと破壊される音がした。
街中に置いてあるゴミ箱がただのゴミとなった。
蘭の手には警棒。
「黙れ」
静かになった。
騒音もざわめきも全てがシンッと静まる。
「行くぞ」
蘭に手を引かれ、後に続く。
蘭のバイクの後ろに乗せられ、当たり前のように蘭の家へ。
竜胆がパン一でいるのはいつものことなので気にしないが、散らかった部屋は目に余る。
ゴミ袋を手に無言で床のゴミを片付ければ蘭は無表情でじっと見てくる。
何も言わない蘭が恐ろしいのか、竜胆はコソコソと部屋に戻ろうとしていた。
「竜胆」
「な、なに」
「テメェの嫁ならしっかり管理しとけ。
頭の悪い女とつるんで俺らの品格落とすな」
「は?兄ちゃんに嫁の悪口言われたくない」
「テメェの嫁街中でコイツの事惨めって他の女達と嘲笑ってたぞ」
「は?なにそれ」
「俺が行った時にはコイツに叩かれたらしく、ギャンギャン騒いでた」
粗方片付けてゴミをまとめる。
手を洗おうとしたが、シンクの中もごちゃごちゃで目に余る。コップを洗ってシンクも流す。
不機嫌な竜胆の声と、苛立つ蘭の声を聞き流して洗面所へ。
洗濯物は定期的にクリーニングに出しているのか溜まっていない。洗面所は蘭が使うから竜胆も気をつけているのだろう。綺麗だったので手を洗って漸く蘭の横のソファーに座る。
ジロリ、と竜胆に睨まれるが睨まれる事をしているので仕方ない。
「で?」
「………買い物行ったら知らない男らに声かけられて、無視したら竜胆の彼女を筆頭に『幼馴染を理由に二人にくっついていて、男ナンパして、結局オマエもその他と同じ低俗な女だったんだ』って言われて腹立ったから叩いた」
色々混ぜたが概ね間違えてないはずだ。
「蘭がどこから見ていたのか知らないけど、竜胆に本命が出来たから焦ったんだろって。
蘭と竜胆を独り占め出来ないからダサい真似してまで繋ぎ止めようとして失敗して惨めな寄生虫って言われただけ」
「うーわ。キッツ」
「だからって人の嫁叩いていい理由になんのかよ」
「……竜胆や蘭がもう私に構ってくれなくなるって思った時、二人の嫌いなタイプの女に成り下がっていた事は自分でも最低最悪なくそ女の自覚あるから本当にごめん。
ただ、竜胆の嫁性格悪すぎるから叩いた事は後悔してないよ」
最悪な話だけど。
モヤモヤと認めたくなかった事を他人に指摘されているのに認めなきゃダサすぎる。
「私は2人の幼馴染であり親友であることに誇りがある。
君達の隣に立つ者として、ダサい真似しちゃいけなかったのに……ごめん」
嫉妬も執着も不安も懇願も。
そんな事で二人にすがり付くより、私は二人の隣に立つ特別としての振る舞いをしなきゃいけなかった。
「せーかい。
オマエは俺らが許した"特別"だ。二度目はねぇぞ」
「わかった」
蘭に額をデコピンされる。が、あり得ない音と痛みにソファーに崩れ落ちた私をケラケラ笑う蘭。あまりの痛さに額を押えていてもジンジンしてフカフカなソファーで悶える。
「なぁ。オマエ俺の事そーゆー意味で好きなの?」
「ち"がう"っ」
「全力で否定すんなし」
竜胆の面白がる声。否定したら頭を叩いてきたが、保冷剤を持ってきてくれる。そんな優しさはあるのに、カシャカシャカメラ音と共に笑っている。
「無様な姿ゲット。勘違い女として証拠残しておくわ」
「うっ……」
「竜胆に本命出来て焦ってたもんなぁ」
「それはっ、その……遊んで、貰えなくなると思って……。くだらないことも、ゲームも、家に遊びに行き来する事だって出来なくなったらって考えたら、さ」
「まさか胸押し付けて上目遣いしてくるとは思わなかった」
「やめてよ!!思い出すな!!」
「蘭ちゃんもドキドキしちゃったー」
「棒読みじゃないか!!」
「あ、俺動画ある」
「消してよ!?」
決死の覚悟で必死に繋ぎ止めようとしたのに。
この二人にとっては笑いの肴らしい。
「オマエがその他と同じ行動しなくたって俺らの関係は変わんねぇよ」
「遊んで欲しいならちゃんと言えよ。
色目使って遊び誘われるより普通がいい」
「………ごめんって」
「俺らに嫁が出来てもオマエに旦那が出来ても変わろうとすんな」
「でも、やっぱ優先はするでしょ」
「まぁな。そもそもが俺らにとってオマエは切り離せねぇ存在だから。オマエの事悪く言うような奴は無理」
蘭の世界は狭い。
竜胆とその他。そうして分かれているから。
私は運良く竜胆側にいれてもらえた蘭の"特別"。
だからこそ、その"特別"の意味を履き違えてはいけない。
「って事で竜胆。オマエの女どうにかしとけよ」
「わかってる。携帯ずっと鳴りっぱなしでうざ」
ちょっと出てくるって面倒そうにしているが、竜胆はパン一だ。
きっとあの子はこれから一時間以上待たされ別れ話をされるのだろう。
「竜胆の彼女って清楚系だと思ってた」
「俺も。結局は竜胆の彼女なりたくて猫被ってたんだろ」
「蘭」
「んー?」
「来てくれてありがと。庇ってくれて嬉しかった。本当にダサ過ぎてごめん」
「もういーわ」
自惚れでなければ。
街中で騒いでいた私の為に普段起きない時間に起きて来てくれたのだろう。
見放したわけじゃなく忠告もしてくれていたのに私は自分でいっぱいだった。
「俺が嫁作る時はオマエと仲良くなれそうな奴だな」
「私が言うのもあれだけど、幼馴染とはいえ他の女紹介されて仲良くしろってキツいよ」
「俺とオマエはそんなんじゃねーし。
オマエや竜胆受け入れないとか無理」
「竜胆は家族じゃん。私、赤の他人」
「赤の他人でもオマエは"特別"だろ」
家族でもない。恋人でもない。
ただの他人の一人。
「ごちゃごちゃ気にすんなぁ。
オマエこそ俺らを受け入れねぇ野郎選ぶなよ」
「審査入る?」
「俺ら倒せなきゃ認めねぇってやつな」
「無理ゲーじゃん」
久々に笑う私達。
言えなかった我が儘を吐き出せてスッキリした私達は元通りの日々を送る。
六本木のカリスマ兄弟の隣に立てる"特別"として、二人の品格を下げぬよう振る舞う。
気高く。
その他を相手にせず。
恐れず。
対等に。
似合わなくてもあの二人から認められている自覚を持ち続け、その他の言葉より二人の言葉を信じ楽しいことをする日々を過ごす。
そんな姿勢が二人の、蘭の望む理想の関係なのだから。
お気に入りを取られて必死になって。
特別の意味に違う感情を抱いて。
竜胆に誰かを重ねて。
私は自身の気持ちに名前をつけるより先に蓋をして、気付かないフリ。
私達の特別の意味を履き違えないように。
そうすれば私の理想通りに一緒に居られるんじゃないかと気付いたから。
16歳〜拗れた恋の芽生え〜
手を繋いで夜道を歩き、悪い奴らをシメて回る2人と共に居た。
捕まった彼らとの面会は出来なかったが、出てきた日にウチに来た丸坊主の2人の頭を叩いて上手くやれと笑っていた。
積極的に悪いことをした覚えはないが、あの兄弟と共に居るだけで私の名前は広まった。
私はただ、あの二人と過ごす馬鹿みたいに笑い合う日々が好きだったはずなのに。
ーーー私が女だから。
いつからだろう。
遊び半分で気楽にくっついて居られたはずの距離が苦しくなったのは。
いつからだろう。
お互いの事を何でも話せていたのに、言わなくなっていったのは。
いつからだろう。
お互いを理解しているはずなのにすれ違うようになったのは。
いつからだろう。
心を圧し殺さなきゃ話せなくなったのは。
気付いちゃいけないと蓋をして、何でもないと装ったのがいけなかった。
気になる子が出来たのかあからさまに私と距離を取って嫌がり出した。あの竜胆に好きな子か、なーんて姉ぶっていたはずなのに竜胆と女の子が一緒に居るのを見てなぜか焦った。
顔を赤くし照れながも楽しそうに話す竜胆。
あれ?私最近竜胆と話していてあんな顔見たことがない。
蘭は今まで通りだったけれど、蘭に絡む女達を見るたびなぜか不安が渦巻いた。
腕に絡み付く有象無象の女達を馬鹿にしている自分の醜さ。
なのに、興味本位でくっつけば彼らの私を見る目が有象無象を見る目と同じに見え、私の価値が下がっていく音がして。
その音は私だけじゃなく彼らにも響いて距離が出来て。
近くに居るはずなのに、距離が離れた。
それだけじゃ私達の友情は壊れないと自分の心に言い聞かせても不安ばかりが押し寄せる。
そんな不安にも気付かないフリして関わっていたのが駄目だったのかな。
「お前、もう来んな」
「え?」
蘭や竜胆に引っ付いて回っていた私。
集会なんてものは無いけど、二人が揃っていれば何処からでも人は集まってくる。
「……理由は」
「最近のお前目に余るわ」
ヒヤリとした。
蘭から拒絶された。
「ベタベタベタベタしつけー。お前そんなタイプじゃなかったろ」
「……そんな、つもり」
「その他と同じ真似して誰と張り合ってんだよ」
「張り合ってなんかっ」
「それとも気になるやつの気でも引きてぇわけ?
俺ら使って」
ピリッとしている蘭の雰囲気。
気が引きたい?そんな男なんていない。
「人のこと尻が軽い女みたいに扱わないで」
「じゃあみっともねぇ真似すんな」
恥ずかしかった。
二人に構ってと、置いていかないでと泣き叫びたくないから必死に取り繕ったのに。
自分でもあり得ない行動だと思っているのに。わかっているのに、その時は最善なんじゃないかと思ってて……。
くだらないこと話して笑い合っていたいだけなのに。今の行動は私が馬鹿にした有象無象と同じなのに。
蘭に言い返せるはずがないのに、自身の非を認めたくない私は八つ当たりのように可愛くない言葉を吐き出す。
「私がいると二人は可愛いくてすぐヤらせてくれるような尻軽と出来ないもんね」
ごめーん、なんて思ってもいないことを口にする。二人の額にうっすらと青筋が浮かんだ。
「俺らのことヤリチン扱いかよ」
「実際そうでしょ?お勤め先で溜まったもの発散させたいんじゃないの」
「「はぁ?」」
「言っていいことと悪いことの区別もつかなくなったのかぁ?」
「悪い事ばかりしてる蘭に言われたくない」
「………最近のオマエやだ。何考えてんのかわかんね」
竜胆の呟かれた言葉に胸がチクリ。
わからない?そんなの私だってわからないよ。
「……ひとまず頭冷やせ?
俺らを幻滅させんな」
蘭に言われ、今度こそ黙るしかなかった。
夜、二人の後を着いていかなくなれば聞くのは噂ばかり。
竜胆に恋人が出来たらしい。
蘭と遊んだ子がいるらしい。
連絡先を聞かれたらしい。
今度遊びに行くらしい。
……竜胆と蘭に本当なのか問い詰める権利なんて無いが、噂ばかり耳にすると気になってしまう。
昔は受け流せたのに、なんで?
モヤモヤとする気持ちをより悪化させるように私の噂も一人歩きする。
みっとも無い私の行動は悪手だったらしく、私の真意とは裏腹に二人を独り占め出来なくなって色目を使った結果、兄弟に見放されたって嘲笑う。
そんなくそな噂に振り回され六本木を歩けばニヤニヤしながら慰めてやろうか?と声をかけてくる低俗な男達。
面倒で無視して立ち去ろうとしたのに、見知らぬ女達とすれ違った時『幼馴染を理由に二人とつるんでいたのに結局はアンタも女だったんだね』と言われた時は腹が立った。
「何」
「あ、聞こえてた?竜胆くんと蘭くんの周りチョロチョロしなくなったと思ったら街中でナンパなんて堕ちたもんだね」
「私なら恥ずかしくて無理ィ」
馬鹿にしたように笑われる。
私は二人が特別で、二人にとっても私は特別なんだと自信があった。
女だから独り占めしたいなんて軽い言葉で終わらせないでほしい。
私達は特別な友人だ。
何も知らない、知ろうとしない奴らに。デマしか流せない臆病者に格下扱いされて笑われる程、私の行動はダサかったのだと認めよう。
認めるが馬鹿にされて黙ってられる程、大人しい私ではない。
なので、目の前で嘲笑う女の顔面を容赦なく叩いた。
「な、にすっんだよ!!」
「雑音がうるさいラジオを黙らせようと思って。壊れたラジオなら叩けば直るでしょ?」
「嫉妬して私達と同じ行動した時点でオマエが馬鹿にしてきた私達と同じのくせに!!」
殴った女に言われて頭が真っ白になった。
嫉妬?
そんなわけない。
だって、竜胆も蘭も友人なのだから。
二人に自称恋人が出来たのは何度もある。その度に私は彼らのクズな恋愛事情を知っていたし、注意した。
私だって彼氏がいたこともあるのに……。
「焦ったんでしょ?
本命が出来たかもしれない竜胆くんに!!
必死に取り繕って、おかしかったわ!」
竜胆に本命が出来たからなんだ。私は、今まで通り……
「幼馴染だ、親友だって言葉で言ってもいざとなったら本性出たじゃない。
蘭くんに本命が出来たらアンタの立場無いもんね。
アンタも私達と同じ、あの二人に寄生するその他なんだよ!!」
女の言葉に胸が抉られた。
竜胆の事を恋愛的に好きなわけじゃない。
だけど……私はもしも、を想像してしまった。
蘭からも、竜胆からも。
特別からその他へ落とされ見向きもされない未来を。
私という立ち位置は、蘭と竜胆にそれぞれの特別が出来た場合一番最初に切り捨てられる。
だって、幼馴染は家族じゃない。
いずれは離れなきゃいけないと頭ではわかっているのに、執着してしまった私。
嫉妬。焦り。懇願。執着。
いつまで一緒にいられるんだろう。
そう、考えた不安が現実となってしまい焦った私は必死に繋ぎ止めようとした。
繋ぎ止めようとして、失敗してしまった。
「………っ」
楽しければ良かったのに。
楽しいことばかりに目を向けていたのに。
性別も違う、家族じゃない、ただたまたま近しい位置にいただけの私。
「何も言い返せないなんて、惨め」
何も言い返せない私に女達は勝った気でいた。
「竜胆の彼女、裏表ありすぎんだろ。
不細工過ぎて引くわぁ」
突如聞こえてきた声は聞きなれていて。
「俺らのに文句つけれる程、テメェいつの間に偉くなったわけ?」
頭に乗る容赦ない重さと、嗅ぎ慣れた香水。
少しダボついた服が視界を閉ざす。
私が困った時、あの時の約束を守って助けてくれるのは一人だけ。
「蘭くん!?」
「なぁに騒ぎ起こしてんだよ。大人しくしてろって言ったろ」
ヒーローみたいなタイミング。
私は約束を守れなかったのに。今も守ってくれている私の特別。
「………らん」
「こんな早くから起こされて来た俺偉くね?」
ホッとしたのもつかの間。蘭の言葉にピシリと固まる。
今は昼間。
確かに蘭は寝ているはずの時間帯。
恐る恐る見上げれば穏やかに笑っているが、目が笑っていないのでコレはわりと怒って機嫌が悪いやつだと判断。離れようとしたがガッチリと頭を捕まれ離れられない。
「蘭くん、私この人に叩かれてっ」
「これから家な。逃げんなよ」
「この人、私が竜胆くんと付き合っているのが気に入らないって」
「昔から俺の言うこと信じねぇし一人で暴走するのいつになったら直んだよ」
「……らん、あの」
「蘭くん!」
「俺が話してんのに割り込んでんじゃねーよ」
瞳孔の開ききった蘭に私も女も黙る。
さっきから竜胆の彼女ガン無視であるがいいのか?そう聞こうとしたが私に今話す権利は無いらしい。
「でもっ」
「竜胆の嫁なら竜胆に言えよ。
俺も見たまんまの話竜胆にするから」
「その人、街中で男達に声かけて色目使ってたのに?
蘭くんが庇う人じゃ」
嘘の発言を私が訂正する前に、バキョッと破壊される音がした。
街中に置いてあるゴミ箱がただのゴミとなった。
蘭の手には警棒。
「黙れ」
静かになった。
騒音もざわめきも全てがシンッと静まる。
「行くぞ」
蘭に手を引かれ、後に続く。
蘭のバイクの後ろに乗せられ、当たり前のように蘭の家へ。
竜胆がパン一でいるのはいつものことなので気にしないが、散らかった部屋は目に余る。
ゴミ袋を手に無言で床のゴミを片付ければ蘭は無表情でじっと見てくる。
何も言わない蘭が恐ろしいのか、竜胆はコソコソと部屋に戻ろうとしていた。
「竜胆」
「な、なに」
「テメェの嫁ならしっかり管理しとけ。
頭の悪い女とつるんで俺らの品格落とすな」
「は?兄ちゃんに嫁の悪口言われたくない」
「テメェの嫁街中でコイツの事惨めって他の女達と嘲笑ってたぞ」
「は?なにそれ」
「俺が行った時にはコイツに叩かれたらしく、ギャンギャン騒いでた」
粗方片付けてゴミをまとめる。
手を洗おうとしたが、シンクの中もごちゃごちゃで目に余る。コップを洗ってシンクも流す。
不機嫌な竜胆の声と、苛立つ蘭の声を聞き流して洗面所へ。
洗濯物は定期的にクリーニングに出しているのか溜まっていない。洗面所は蘭が使うから竜胆も気をつけているのだろう。綺麗だったので手を洗って漸く蘭の横のソファーに座る。
ジロリ、と竜胆に睨まれるが睨まれる事をしているので仕方ない。
「で?」
「………買い物行ったら知らない男らに声かけられて、無視したら竜胆の彼女を筆頭に『幼馴染を理由に二人にくっついていて、男ナンパして、結局オマエもその他と同じ低俗な女だったんだ』って言われて腹立ったから叩いた」
色々混ぜたが概ね間違えてないはずだ。
「蘭がどこから見ていたのか知らないけど、竜胆に本命が出来たから焦ったんだろって。
蘭と竜胆を独り占め出来ないからダサい真似してまで繋ぎ止めようとして失敗して惨めな寄生虫って言われただけ」
「うーわ。キッツ」
「だからって人の嫁叩いていい理由になんのかよ」
「……竜胆や蘭がもう私に構ってくれなくなるって思った時、二人の嫌いなタイプの女に成り下がっていた事は自分でも最低最悪なくそ女の自覚あるから本当にごめん。
ただ、竜胆の嫁性格悪すぎるから叩いた事は後悔してないよ」
最悪な話だけど。
モヤモヤと認めたくなかった事を他人に指摘されているのに認めなきゃダサすぎる。
「私は2人の幼馴染であり親友であることに誇りがある。
君達の隣に立つ者として、ダサい真似しちゃいけなかったのに……ごめん」
嫉妬も執着も不安も懇願も。
そんな事で二人にすがり付くより、私は二人の隣に立つ特別としての振る舞いをしなきゃいけなかった。
「せーかい。
オマエは俺らが許した"特別"だ。二度目はねぇぞ」
「わかった」
蘭に額をデコピンされる。が、あり得ない音と痛みにソファーに崩れ落ちた私をケラケラ笑う蘭。あまりの痛さに額を押えていてもジンジンしてフカフカなソファーで悶える。
「なぁ。オマエ俺の事そーゆー意味で好きなの?」
「ち"がう"っ」
「全力で否定すんなし」
竜胆の面白がる声。否定したら頭を叩いてきたが、保冷剤を持ってきてくれる。そんな優しさはあるのに、カシャカシャカメラ音と共に笑っている。
「無様な姿ゲット。勘違い女として証拠残しておくわ」
「うっ……」
「竜胆に本命出来て焦ってたもんなぁ」
「それはっ、その……遊んで、貰えなくなると思って……。くだらないことも、ゲームも、家に遊びに行き来する事だって出来なくなったらって考えたら、さ」
「まさか胸押し付けて上目遣いしてくるとは思わなかった」
「やめてよ!!思い出すな!!」
「蘭ちゃんもドキドキしちゃったー」
「棒読みじゃないか!!」
「あ、俺動画ある」
「消してよ!?」
決死の覚悟で必死に繋ぎ止めようとしたのに。
この二人にとっては笑いの肴らしい。
「オマエがその他と同じ行動しなくたって俺らの関係は変わんねぇよ」
「遊んで欲しいならちゃんと言えよ。
色目使って遊び誘われるより普通がいい」
「………ごめんって」
「俺らに嫁が出来てもオマエに旦那が出来ても変わろうとすんな」
「でも、やっぱ優先はするでしょ」
「まぁな。そもそもが俺らにとってオマエは切り離せねぇ存在だから。オマエの事悪く言うような奴は無理」
蘭の世界は狭い。
竜胆とその他。そうして分かれているから。
私は運良く竜胆側にいれてもらえた蘭の"特別"。
だからこそ、その"特別"の意味を履き違えてはいけない。
「って事で竜胆。オマエの女どうにかしとけよ」
「わかってる。携帯ずっと鳴りっぱなしでうざ」
ちょっと出てくるって面倒そうにしているが、竜胆はパン一だ。
きっとあの子はこれから一時間以上待たされ別れ話をされるのだろう。
「竜胆の彼女って清楚系だと思ってた」
「俺も。結局は竜胆の彼女なりたくて猫被ってたんだろ」
「蘭」
「んー?」
「来てくれてありがと。庇ってくれて嬉しかった。本当にダサ過ぎてごめん」
「もういーわ」
自惚れでなければ。
街中で騒いでいた私の為に普段起きない時間に起きて来てくれたのだろう。
見放したわけじゃなく忠告もしてくれていたのに私は自分でいっぱいだった。
「俺が嫁作る時はオマエと仲良くなれそうな奴だな」
「私が言うのもあれだけど、幼馴染とはいえ他の女紹介されて仲良くしろってキツいよ」
「俺とオマエはそんなんじゃねーし。
オマエや竜胆受け入れないとか無理」
「竜胆は家族じゃん。私、赤の他人」
「赤の他人でもオマエは"特別"だろ」
家族でもない。恋人でもない。
ただの他人の一人。
「ごちゃごちゃ気にすんなぁ。
オマエこそ俺らを受け入れねぇ野郎選ぶなよ」
「審査入る?」
「俺ら倒せなきゃ認めねぇってやつな」
「無理ゲーじゃん」
久々に笑う私達。
言えなかった我が儘を吐き出せてスッキリした私達は元通りの日々を送る。
六本木のカリスマ兄弟の隣に立てる"特別"として、二人の品格を下げぬよう振る舞う。
気高く。
その他を相手にせず。
恐れず。
対等に。
似合わなくてもあの二人から認められている自覚を持ち続け、その他の言葉より二人の言葉を信じ楽しいことをする日々を過ごす。
そんな姿勢が二人の、蘭の望む理想の関係なのだから。
お気に入りを取られて必死になって。
特別の意味に違う感情を抱いて。
竜胆に誰かを重ねて。
私は自身の気持ちに名前をつけるより先に蓋をして、気付かないフリ。
私達の特別の意味を履き違えないように。
そうすれば私の理想通りに一緒に居られるんじゃないかと気付いたから。
16歳〜拗れた恋の芽生え〜