短編
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「ちょっとこれ、どういうことですか」
「何か?」
「何かじゃない!」
ベッタリとくっつき、私の腰を抱いて目の前の店主を無言で威嚇している蘭。
目の前の店主はそんなの気にしないとばかりに紅茶を飲んでいる。
「返品は受け付けないぞ」
「返品はしないけどっ!!観用人形って……その、普通は観葉の為の人形じゃなかったんですか!?」
「普通はな」
まるで何か意味があるかのように含められた言葉に眉をしかめてしまう。
店内には相変わらず綺麗な顔の人形ばかりだ。
「言ったろ?【蘭】は問題児だって」
「問題児で済みます?」
「無理矢理起こして買っていく買い取り主も悪ィけど、ソイツ気に入らねぇ主人のことボコボコに顔変形するまで殴るような奴だぞ」
「………えっ」
「男も女も関係無く」
恐る恐る蘭を見ればニコニコと笑ってすり寄ってくる。
うちの人形は今日も美人だ。
だがしかし、可愛さに騙されちゃいけないことをここ数日で学んだ私は心を鬼にして蘭を引き離す。
寂しそうにしょんぼりとする姿に心が痛む。
「良かったな。気に入られてんじゃん」
「貴方随分と砕けてますね。私お客さんですが?」
「どうせ蘭の取り扱いに困って来るとわかってたからな。客より長い付き合いになりそうだし取り繕うの面倒」
「オイ」
カタカタとパソコンを弄り出す始末にこの店主本気で殴ろうかと思ってしまった。
「で?何が困るんだよ。
暴力?女癖の悪さ?深夜徘徊?あぁ、誰か殺して来たか?」
「物騒!!」
「違うなら何も問題無いだろ」
「いや……」
言いにくい。
毎晩求められて人形相手に鳴かされてますなんて。
観用じゃなく愛玩になってます、なんて。
「襲われたか」
「!?!?」
「隠しきれてると思ってんなら馬鹿だろ」
顔に熱が集まってくる。
恥ずかしい。
くいくいと蘭に袖を引かれ、隣を見れば不服そうにしている。ちょっと待って。私それどころじゃないから。と、思っていたのに態度でバレたのか顎を片手でガッチリと押さえられ思いっきり舌入れてくる濃厚なキスをしてきた。
嬉しそうに目を細めて熱なんて無いはずなのに熱をもった瞳を向ける蘭に本能的にヤバいと感じる。
蘭の背中を何度もタップすればしぶしぶ離れてくれた。
「イチャつくなら帰れ」
「違う!」
「蘭をどうにかしたいならアドバイスは一つ」
「何ですか!?」
「諦めろ」
「フザケンナこの糞店主!!」
我関せずな店主に叫ぶものの全く相手にされない。
「うるせェな。お前も満更じゃないだろ」
「………けどっ」
「理想の恋人としては文句ねぇと思うが?」
「………恋人、だなんて」
「人形だから?」
店主の雰囲気がガラリと変わった。
「人形相手に本気になるなんて気持ち悪いか?」
「世の中はお人形遊びとしか思わないじゃないですか」
「他?他人の目気にして他人からの評価気にして生きてお前は何になりてぇの?」
「私は!普通に、生きて…」
「働いて、寝て、食って。恋人がいるなら愛し合って?結婚して子供産んで孫に囲まれながら死ぬのが"普通"か?」
「………」
「絵に描いたような"普通"だな」
ツマンネ、と呟く店主。
「世の中がどれほどその"普通"を望んだところで"普通"に生きて死ねる奴らなんか一握りだろ。
結果としてそういう人生だったっつー奴が沢山いるからそれが"普通"だと思うんだよ」
「何言って」
「事実だろ?寝て食って働いて、結婚して子供産んで年取って死ねば」
どんな人生を歩もうと、誰もが"普通"となる。
「その人生の節目にデカイ出来事があっても簡単に人生語れば誰もが"普通"の人生で終わる。
逆に"普通"から離れたら事故か反社か留置所で人生終わってんじゃね?」
「普通の規模の大きさ」
「人生って物差しで考えりゃそんなもんだろ」
言われてみれば確かに、となってしまう。
蘭が気に入らないわけじゃない。
いきなり成長して驚きはしたものの暴力的な事は無いし、いつだって紫の瞳は私だけを見てくれている。
真っ直ぐな姿はくすぐったく、時に避けそうになるが嫌な気はしない。
「考え方によって観用人形は最高のパートナーだと思うぞ」
「?」
「そもそも観用人形は人形自身が主人を決める。起きた瞬間から己の主人以外には目を合わせる事も無いし、たまに目があったと勘違いを起こす奴もいるが主人以外に興味なんか無い」
「知ってます」
「つまり、だ。
目覚めて選ばれた人間以外を愛する事はねぇ。
浮気もしなけりゃ、離れて行くこともない」
ニヤリと笑う店主。
言いたいことは伝わってくるが、認めたくない私もいる。
相手は人形だ。
この人形は愛情が無ければ枯れてしまう。
私達人間はどうしたって彼らと永遠にはいられない。
「昔、生涯を観用人形と過ごした人間がいる」
「えっ……」
「どんなに年老いても観用人形は少女のまま。話すことも無く微笑みを返すことしかない。
それでも老人は命尽きるその時まで観用人形を己の妻とし亡くなった」
「……人形はどうなりましたか」
「さぁな。
枯れたとも聞くし、じいさんの遺言を守るために生まれ変わるまで待ち続けたっつー話も聞く」
「曖昧ですね」
「俺達人間と違って一途で泣けるだろ」
まったくそう思っていなさそうな店主。
ふと、カチャカチャと音がし目を向ければ……そこにはとても綺麗な女の人がいた。
くるくると内側に巻かれたような金色の髪は天使の輪が見える。透き通るような肌にバサバサのまつげ。店主にお茶を入れ直し静かに笑う女性はとても美しい。
「ありがとう、赤音さん」
「……その方は」
「観用少女」
プランツドール。
店主の言葉に驚く。
静かに微笑む彼女は人形のように美しいが……少女と呼ぶには些か大きい。
「んだよ」
「いえ……ぶっちゃけるとそちらのお人形さんもデカくないですか?」
「かなりぶっちゃけたな。
赤音さんな成長した観用少女だからな」
成長した?するものもいる、とは聞いたが……。
した、というのなら蘭と同じように?
「お前の考えている通りだよ。
赤音さんもミルクを飲まず人間と同じように食事をして成長した」
「じゃあ」
「でもそれは俺やお前がそう願ったからだ」
「……え」
私が、願った?
「観用人形は主人を選び、主人に愛されるために生きる。
主人に愛されるために成長したって不思議じゃないだろ」
「……私、別にそんなこと」
「口に出さなくてもソイツらは不思議と理解してくれる。
蘭はまだ成長してんのか」
「はい」
「……お前にとってまだ蘭が愛するべき過程である限り止まらないな」
「どういうことですか?」
「成長が止まったら、その姿がお前の望んでいる蘭だってことだよ」
何を言っているのかわからない。
今の蘭は少年から青年へ。元々長かった髪を染め、金と黒のツートンカラーを三つ編みにしている姿がお気に入りらしい。
だいたい18〜20歳程に見えるようになった蘭を人形だと思う人はいない。
それに比べて成長したと話す店主の人形の【赤音】さんは高校生くらいだろうか?
幼さが抜けきらず、でも子供でもいられない絶賛成長期というべき姿だ。
「まだ成長すんならメンテナンスくらいは時々見てやる。
けど、蘭の成長を、蘭を否定してやるな」
「………」
「観用人形はまだまだ不思議な事ばかり。
普通なんざ通用しねぇ未知の人形だからな」
「……店主さん」
「んだよ」
「店主さんは【赤音】さんと一緒で幸せですか?」
「……幸せだ」
そう言って【赤音】さんの手を取り、お互いに見つめあって笑う店主は寂しそうではあるが幸せそうに笑い合っていた。
店から出て、蘭と手を繋いで考える。
此方を覗き込み小首を傾げる蘭は確かに私だけを見ていて、周りの女性がどんなに蘭を見ていても私しか見ていない。
それが嬉しくもあり……なぜか、寂しい。
家に帰って蘭を正面から抱き締めれば嬉しそうに抱き締めてくれる。
すっぽりと私を包むほど大きくなった蘭。
温もりなんて無いはずなのに、冷たくてもほんのりと温かいのが蘭らしいと思ってしまうくらいには。
実際は私の温度が蘭に移ってるだけなのに。
浮気もしない。
一途。
暴力的な事もない。
最高に理想的な蘭ではあるが……なぜか物足りなさを感じてしまう。
人間とは欲深いもので、足りないと我慢が出来ずに欲しがってしまう。
蘭が悪いわけじゃない。私の我が儘が酷いだけ。
「で?」
「………すいません」
「お前ふざけんなよ。メンテするにしても成長した人形ってより繊細なんだぞ」
「申し訳ありません」
蘭が枯れた。
陶器のような肌にヒビが入ってしまっている。
「何をした」
「……その…」
「言え」
「……一途な蘭がなんか違うって思って飲んだくれて酔い潰れて知り合いに介抱されながら送り届けられたら蘭がぶちギレて暴れ、何とか止めたら……いきなりボロッと」
大きなため息をつく店主。
「ひとまず蘭は預かる。
けど次、また馬鹿な事してみろ」
法外な請求送りつける、と言われて背筋がゾッとした。
この店主はやる。絶対やる。
「今回はまぁ……ある意味蘭もアレだったからな。請求はおまけしといてやるが」
「ありがとうございます……」
「その代わり!!ちょっと引き受けろ」
「はい?」
待ってろ、と奥へ移動していく店主。
法外な請求は嫌だが……何やら嫌な予感しかしない。
何かを抱えて戻ってきた店主は私に布に包まれた何かを渡してくる。
「……あの、こちらは」
「見りゃわかるだろ」
「わかりますけど!!!」
「蘭の修理費代に含めてやるし、仕方ねぇからミルクも半年分つけてやる」
「太っ腹だな!?」
「どうせそいつも成長するはずだから半年分のミルク代くらい安いもんだ」
「言いましたね!?1日3食半年分しっかりきっちり蘭の分も含めて2人分ただにしてもらいますからね!!」
「おー。なんなら1年分でもいいぞ」
金色のふわふわな髪が頭の上にちょこんとある。キリッとした眉なのに目尻は垂れている。まだ開かぬ瞼の中の瞳はわからないが……多分想像つく色。
「……天使っ」
「そいつらの顔見てそんな事言えんのお前だけだわ」
10歳?12歳?
蘭と初めて出会ったようなくらいの小学生程の大きさ。
丸眼鏡をしていてほっぺがまだムニムニで可愛らしい。
ふと、蘭が目を覚まし私に抱かれているものを見て眉をしかめる。
明らかに不機嫌な蘭にどうしたものかと思っていたのだが……突然抱っこしていた人形が目を覚ました。
予想通りの紫色の瞳。
私を見た途端、なぜか泣き出しそうになる。不安気で、焦ったようにキョロキョロと周りを見渡し……蘭を見つけ、幼い人形は涙を目に浮かばせ蘭に手を伸ばした。
蘭も驚いていて……くしゃりと顔を歪ませると私と人形ごと抱き締めた。
その瞬間、あぁコレだと思った。
物足りなかったものはコレだったんだと……ストン、と胸の奥がハマった気がした。
「……そいつの名前は【竜胆】」
胸を締め付けられるような感覚。
ずっと、ずっと物足りなかったのに今は溢れんばかりに満たされていく。
「蘭、お前はメンテ。なるべく早めに直してやるから」
嫌だと言うように店主を睨み付ける蘭。
大事なものを手放したくないとでも言うように私と竜胆を抱き締めて離さない。
竜胆も小さな手で私と蘭の服を握っている。
「困るのはお前だぞ、蘭。
その身体で無理をすれば直るもんも直らねぇ。
直せなければ枯れるぞ」
店主の言葉に迷う素振りを見せつつも、離さない。
このまま蘭が無理をして直せないのは私も嫌だ。
「蘭」
頬に手を滑らせれば割れてしまった頬。
痛々しいのに指先に触れる頬は硬い破片。
少しでも強く押すとボロボロと崩れ落ちる肌は彼が人形だから。
蘭の首を引き寄せて初めて、
私から蘭の唇にキスをした。
驚き目を見開く蘭。
私はできる限り優しい声で話しかける。
「蘭、おね…がい」
「……なに」
「ちゃんと、待ってるから。
だから、蘭……おねがい。直して…っ」
震え過ぎてカスッカスな声になってしまった。
「……竜胆」
蘭の声にボロボロ涙を溢しながら竜胆はコクコクと頷く。
「頼む」
憑き物が落ちたかのように笑う蘭に対し、私や竜胆は泣いている。
蘭の修理は短期間で終わるみたい。
竜胆を抱いて帰り、今日は二人で寄り添いあって寝た。
竜胆はやはり蘭と同じようにミルクを飲まず人と同じ食事をとった。
蘭の時は焦って困ったものの……今は竜胆の成長が待ち遠しい。
早く成長したいのだと言うようにご飯を食べて私と比べるように背伸びをする竜胆を見ていると少しだけ、このままで居て欲しい気持ちにもなる。
3日後
蘭のメンテナンスが終わったと竜胆と迎えに行くとヒビ一つ無い蘭がいて、竜胆が駆け足で近寄り蘭の足に抱き着いた。
もはやタックルに近いそれに蘭はよろめいたが、楽しそうに笑って竜胆を抱き上げた。子供扱いされた竜胆はジタバタと暴れるものの、タックルの仕返しとでも言うように上げ下げされていた。
「蘭」
名前を呼べばこちらを向く。
竜胆を下ろして近寄ってくる蘭を両手を広げて抱き締めた。
「おかえり、蘭」
「……ただいま」
蘭と抱き合っていれば、忘れるなとでも言うように地団駄を踏む竜胆。
その姿を見て蘭と一緒に笑ってしまった。
「よぉ。仲良くやってんな」
「蘭を直してくださりありがとうございます」
「別に。仕事だからな」
赤音さんと一緒に出てきた店主に御礼をする。
「もう枯らすなよ」
「勿論です」
「近々そいつらのミルク送っておくわ」
「……そのことですが、やっぱ払います。
蘭と竜胆に会わせてくれたのに、貴方に払わせるって何かおかしいなって思いまして」
「約束したからには1年保証してやるよ」
「今後ずっと一緒なのでそこは永久保証にしてほしいんですが」
「図々しいな。
……永久、か。もう"普通"じゃなくていいのか?」
意地悪い顔をしている店主。
もう答えなんかわかっているのに言わせようとするなんて。
「蘭と竜胆がいて私の"普通"なんだと身に沁みたので」
「そうか」
「また相談にのってくださいね。
あ、友達いなさそうなので友達として相談も受け付けますよ」
「誰が友達いないって?ダチくらいいるっつの」
「店主さん。
私に蘭と竜胆と巡り会わせてくれてありがとうございます!」
「……勘違いすんな。
選ばれたのはお前だ」
会うために起きたのも。
愛されたくて選んだのも。
愛したくて巡り会ったのも。
「俺もお前も選ばれたんだ。
愛情が無ければ枯れちまう厄介な人形だけど
愛情に飢えた人間にはいいだろ?」
「そうですね」
蘭と竜胆と手を繋ぎ店を後にした。
朝起きると私を抱き締めながら背中側にいる蘭と、私の腕の中で眠る竜胆がいる。
2人の拘束を解いて朝御飯を作る。
サンドイッチに、ウィンナーに、スクランブルエッグを2皿用意して、温かなコーヒーが一つ。
温めた専用ミルクが2つ。
「おはよ」
「おはよう、蘭」
後ろから抱き締めてきて首筋にすり寄ってくる蘭。
もぞもぞと動き、振り向けば蘭は微笑んでキスをしてくれるので私も背伸びをして蘭の首に腕をまわす。
長かった髪が短くなり首周りが随分スッキリしてしまった。兄弟で奇抜な髪色にするが似合っているから困る。
「兄ちゃんズルい!!」
「竜胆が起きるの遅ェからだろ」
「いつもは兄ちゃんのが遅いくせに!」
ドタバタと起きてきた金色に水色のメッシュ髪は寝癖でぴょんぴょん跳び跳ねている。
すっかり私よりも身長が高くなった竜胆だが弟気質でグリグリと肩に頭を押し付けてくる。
そんな竜胆が可愛くて頭を撫でれば恨めしそうな顔をしながら唇を突き出すので、顔中にキスを落とせばふにゃりと顔を弛ませて笑う。
「おはよう、竜胆」
「はよ」
私と竜胆の前に朝御飯を置き、飲み物は私は珈琲で竜胆はミルク。
蘭は成長が止まったのか最近の食事はミルクのみで、食べるとしたら週に一回の砂糖菓子。
竜胆はもう少し髪を伸ばしたいらしく、もう少し成長を続けるらしい。
「今日の予定は?」
「特に決めてないよ」
「じゃあ三人で出掛けよう。俺映画見たい」
「蘭、仕事は?」
「仕事つっても株見るだけだから携帯あれば平気」
蘭は驚くことに株の才能があった。
例の店の店主とこそこそ会っていたかと思えば、いきなり私の通帳に巨額のお金が振り込まれていて怖くなった。
聞くと店主に教わり株で儲けたと。そんな簡単に?と思ったが蘭は店主がお金を稼ぐ天才だからだと笑っていた。
お金にがめつそうだもんな、と思いはしたがお金を稼ぐ天才と言われて納得してしまう顔をしていた。
蘭が恐ろしいほど稼ぐので、私は仕事を辞めさせられ……蘭の助言により趣味のハンドメイドで細々と収入を得ることを勧められ、気楽な生活をしている。
「よぉ」
「あれ?店主さん珍しいですね。日光浴なんて。溶けませんか?」
「お前俺を何だと思ってんの」
「座敷わらし的な」
幸せと金運を持ってきてくれるからあながち間違えてはいなくない?
後ろでは蘭と竜胆がケラケラ笑っている。
「見た限り問題無さそうだな」
「おかげさまで」
蘭と竜胆を見て顔を歪めつつもおかしなところはないかとチェックしてくれるあたり、この人は根っからの悪い人ではないのだろう。
見た目は完全にアウトだが。
「今日は仕事休みか?」
「……蘭が私よりも稼ぐので辞めさせられました」
「だろうな」
「わかってたなら株なんて教えないでくださいよ」
「金はあって困らねぇだろ」
「困らないけど……四六時中引っ付かれて襲われていたら身が持ちません」
「疲れ知らずっぽいもんな」
蘭と竜胆を見て納得しないでほしい。
疲れ知らずどころか絶倫で困る。
「ニートなら丁度いいな」
「言い方」
「お前、ウチで雇ってやるよ」
途端に蘭と竜胆がブーイングの嵐。
中指立てない。警棒どこから出したの?構えるのやめなさい。
蘭と竜胆の手を繋いで引き止めると大人しくなった。チョロっ。
「クソ客の対応面倒だったんだよ」
「職務放棄」
「今なら社員割引でミルク半額だぞ」
「喜んで就職させていただきます」
身をもて余すよりもいいだろう。
蘭と竜胆も連れていっていい職場最高じゃないか。
その代わり、店主ーーー九井さんのお手伝いを約束されていたが。蘭も竜胆もしぶしぶ了承してくれた。
カランカラン
鐘の音が鳴り、お客様が訪れる。
「いらっしゃいませ」
「……あの、気になる人形がいて」
黒髪の大きな瞳の男性。
その両手には同じく大きな瞳の男の子と、金髪の可愛いお顔の女の子。
男の子は最近この店に訪れてはとある人形と追いかけっこを繰り返し……店内が凄まじいことになってお掃除が大変な悩みの種の子じゃないか。
女の子は初めまして。
息子と娘なのかな?顔が三人とも似ている。
年が離れているから親子かな?
ポテポテ。
そんな足音をしながら自分で歩いてきたのに、私の足の後ろに隠れた恥ずかしがり屋さん。
「……コイツ、引き取っていいですか」
「一番大切なのは愛情を与えることです」
約束出来ますか?
そう聞くと、勿論!!と食いぎみに答える目の前の男性。
「愛情が足りないと枯れてしまいますので
どうか、この子を大切にしてくださいね」
この子、とっても寂しがりなんです。
「勿論!!」
「この子の名前は【イザナ】さんです」
私の後ろに隠れながらも、じっと男性を見つめるイザナさん。
私の足を握る力が強いな。地味に痛いぞ。
イザナさんを前に出せば……男の子が飛び出してきてイザナさんの前に立った。キョドキョドしたイザナさんは何を思ったのか、男の子にパンチをする。
いいところに入ったのか男の子は鼻血が。
「「!?」」
「……すげーパンチ!なぁ、イザナ」
"俺と家族になろうよ"
男の子は泣きそうな顔で笑って手を差し出した。
固まるイザナさんの袖を女の子が握る。
「今度は私から迎えにきたよ。一緒に帰ろう?」
「……ったく。兄弟ゲンカもほどほどにな」
"帰ろう"
差し出された三本の手。
ぐしゃぐしゃに顔を歪めながら俯くイザナさん。……答えは、決まっていそうだ。
「イザナさん。
幸せになってもいいんですよ」
「!!」
「お客様。
イザナさんを幸せにしてくださいね」
「「「勿論!!」」」
力強い声に笑ってしまう。
泣きだしたイザナさんを抱き上げる男性は嬉しそうに笑って涙を溢した。
4人で仲良く帰った家族を見送る。
「あーぁ、大将行っちゃった」
「泣いてたね」
「蘭、竜胆」
奥から出て来て引っ付いてくる2人。
この店で働くようになり蘭と竜胆は何かを感じとるのか、人形達を見ては懐かしそうにする。
中でも【イザナ】さんは特別に気にしていた。
「多分、幸せになれるよ。
あの人達いい人そうだったし……この店は幸せを売る店だから」
「幸せを?」
「売る?」
「私は蘭と竜胆と出会えて幸せだもの」
このお店が無ければ2人と出会えなかった。
2人は?
私の問いかけに答えなんかわかっているのに聞いてみる。
「「幸せ」」
両側から抱き着かれ、三人で笑う。
此処は"普通"ではないちょっと"特別"なお店。
貴方の"普通"を壊してしまうけれど
"特別"と出会えた時
貴方に"特別"な"幸せ"を約束いたします。
1日に三回のミルク
週に一度の砂糖菓子
毎日綺麗な洋服の交換
トイレやお風呂の躾は完璧
エサ意外の物を与えるのはオススメ致しません
人形が成長してしまいますから
一番忘れちゃいけないのは貴女からの愛情
愛情を与えられない人形は枯れてしまいますからね
とても美しい天使のような
無垢で綺麗で何度見ていても飽きない人形
観用人形
人はソレを【プランツドール】と呼ぶ。
あなたの"唯一無二の幸せ"と出会えるか
ちょっぴり運試しにいらしては?
あとがき
続きを書いてしまいました。
勢いです。
見てくださった方々ありがとうございます!
ランキング入りビックリしつつ、勢いで書いてしまいました。
【観用少女】が正しいですが、あえて【観用人形】にしているのはわざとです。
パロなので何でもありでお許しください。
いいね、コメントありがとうございました!
「何か?」
「何かじゃない!」
ベッタリとくっつき、私の腰を抱いて目の前の店主を無言で威嚇している蘭。
目の前の店主はそんなの気にしないとばかりに紅茶を飲んでいる。
「返品は受け付けないぞ」
「返品はしないけどっ!!観用人形って……その、普通は観葉の為の人形じゃなかったんですか!?」
「普通はな」
まるで何か意味があるかのように含められた言葉に眉をしかめてしまう。
店内には相変わらず綺麗な顔の人形ばかりだ。
「言ったろ?【蘭】は問題児だって」
「問題児で済みます?」
「無理矢理起こして買っていく買い取り主も悪ィけど、ソイツ気に入らねぇ主人のことボコボコに顔変形するまで殴るような奴だぞ」
「………えっ」
「男も女も関係無く」
恐る恐る蘭を見ればニコニコと笑ってすり寄ってくる。
うちの人形は今日も美人だ。
だがしかし、可愛さに騙されちゃいけないことをここ数日で学んだ私は心を鬼にして蘭を引き離す。
寂しそうにしょんぼりとする姿に心が痛む。
「良かったな。気に入られてんじゃん」
「貴方随分と砕けてますね。私お客さんですが?」
「どうせ蘭の取り扱いに困って来るとわかってたからな。客より長い付き合いになりそうだし取り繕うの面倒」
「オイ」
カタカタとパソコンを弄り出す始末にこの店主本気で殴ろうかと思ってしまった。
「で?何が困るんだよ。
暴力?女癖の悪さ?深夜徘徊?あぁ、誰か殺して来たか?」
「物騒!!」
「違うなら何も問題無いだろ」
「いや……」
言いにくい。
毎晩求められて人形相手に鳴かされてますなんて。
観用じゃなく愛玩になってます、なんて。
「襲われたか」
「!?!?」
「隠しきれてると思ってんなら馬鹿だろ」
顔に熱が集まってくる。
恥ずかしい。
くいくいと蘭に袖を引かれ、隣を見れば不服そうにしている。ちょっと待って。私それどころじゃないから。と、思っていたのに態度でバレたのか顎を片手でガッチリと押さえられ思いっきり舌入れてくる濃厚なキスをしてきた。
嬉しそうに目を細めて熱なんて無いはずなのに熱をもった瞳を向ける蘭に本能的にヤバいと感じる。
蘭の背中を何度もタップすればしぶしぶ離れてくれた。
「イチャつくなら帰れ」
「違う!」
「蘭をどうにかしたいならアドバイスは一つ」
「何ですか!?」
「諦めろ」
「フザケンナこの糞店主!!」
我関せずな店主に叫ぶものの全く相手にされない。
「うるせェな。お前も満更じゃないだろ」
「………けどっ」
「理想の恋人としては文句ねぇと思うが?」
「………恋人、だなんて」
「人形だから?」
店主の雰囲気がガラリと変わった。
「人形相手に本気になるなんて気持ち悪いか?」
「世の中はお人形遊びとしか思わないじゃないですか」
「他?他人の目気にして他人からの評価気にして生きてお前は何になりてぇの?」
「私は!普通に、生きて…」
「働いて、寝て、食って。恋人がいるなら愛し合って?結婚して子供産んで孫に囲まれながら死ぬのが"普通"か?」
「………」
「絵に描いたような"普通"だな」
ツマンネ、と呟く店主。
「世の中がどれほどその"普通"を望んだところで"普通"に生きて死ねる奴らなんか一握りだろ。
結果としてそういう人生だったっつー奴が沢山いるからそれが"普通"だと思うんだよ」
「何言って」
「事実だろ?寝て食って働いて、結婚して子供産んで年取って死ねば」
どんな人生を歩もうと、誰もが"普通"となる。
「その人生の節目にデカイ出来事があっても簡単に人生語れば誰もが"普通"の人生で終わる。
逆に"普通"から離れたら事故か反社か留置所で人生終わってんじゃね?」
「普通の規模の大きさ」
「人生って物差しで考えりゃそんなもんだろ」
言われてみれば確かに、となってしまう。
蘭が気に入らないわけじゃない。
いきなり成長して驚きはしたものの暴力的な事は無いし、いつだって紫の瞳は私だけを見てくれている。
真っ直ぐな姿はくすぐったく、時に避けそうになるが嫌な気はしない。
「考え方によって観用人形は最高のパートナーだと思うぞ」
「?」
「そもそも観用人形は人形自身が主人を決める。起きた瞬間から己の主人以外には目を合わせる事も無いし、たまに目があったと勘違いを起こす奴もいるが主人以外に興味なんか無い」
「知ってます」
「つまり、だ。
目覚めて選ばれた人間以外を愛する事はねぇ。
浮気もしなけりゃ、離れて行くこともない」
ニヤリと笑う店主。
言いたいことは伝わってくるが、認めたくない私もいる。
相手は人形だ。
この人形は愛情が無ければ枯れてしまう。
私達人間はどうしたって彼らと永遠にはいられない。
「昔、生涯を観用人形と過ごした人間がいる」
「えっ……」
「どんなに年老いても観用人形は少女のまま。話すことも無く微笑みを返すことしかない。
それでも老人は命尽きるその時まで観用人形を己の妻とし亡くなった」
「……人形はどうなりましたか」
「さぁな。
枯れたとも聞くし、じいさんの遺言を守るために生まれ変わるまで待ち続けたっつー話も聞く」
「曖昧ですね」
「俺達人間と違って一途で泣けるだろ」
まったくそう思っていなさそうな店主。
ふと、カチャカチャと音がし目を向ければ……そこにはとても綺麗な女の人がいた。
くるくると内側に巻かれたような金色の髪は天使の輪が見える。透き通るような肌にバサバサのまつげ。店主にお茶を入れ直し静かに笑う女性はとても美しい。
「ありがとう、赤音さん」
「……その方は」
「観用少女」
プランツドール。
店主の言葉に驚く。
静かに微笑む彼女は人形のように美しいが……少女と呼ぶには些か大きい。
「んだよ」
「いえ……ぶっちゃけるとそちらのお人形さんもデカくないですか?」
「かなりぶっちゃけたな。
赤音さんな成長した観用少女だからな」
成長した?するものもいる、とは聞いたが……。
した、というのなら蘭と同じように?
「お前の考えている通りだよ。
赤音さんもミルクを飲まず人間と同じように食事をして成長した」
「じゃあ」
「でもそれは俺やお前がそう願ったからだ」
「……え」
私が、願った?
「観用人形は主人を選び、主人に愛されるために生きる。
主人に愛されるために成長したって不思議じゃないだろ」
「……私、別にそんなこと」
「口に出さなくてもソイツらは不思議と理解してくれる。
蘭はまだ成長してんのか」
「はい」
「……お前にとってまだ蘭が愛するべき過程である限り止まらないな」
「どういうことですか?」
「成長が止まったら、その姿がお前の望んでいる蘭だってことだよ」
何を言っているのかわからない。
今の蘭は少年から青年へ。元々長かった髪を染め、金と黒のツートンカラーを三つ編みにしている姿がお気に入りらしい。
だいたい18〜20歳程に見えるようになった蘭を人形だと思う人はいない。
それに比べて成長したと話す店主の人形の【赤音】さんは高校生くらいだろうか?
幼さが抜けきらず、でも子供でもいられない絶賛成長期というべき姿だ。
「まだ成長すんならメンテナンスくらいは時々見てやる。
けど、蘭の成長を、蘭を否定してやるな」
「………」
「観用人形はまだまだ不思議な事ばかり。
普通なんざ通用しねぇ未知の人形だからな」
「……店主さん」
「んだよ」
「店主さんは【赤音】さんと一緒で幸せですか?」
「……幸せだ」
そう言って【赤音】さんの手を取り、お互いに見つめあって笑う店主は寂しそうではあるが幸せそうに笑い合っていた。
店から出て、蘭と手を繋いで考える。
此方を覗き込み小首を傾げる蘭は確かに私だけを見ていて、周りの女性がどんなに蘭を見ていても私しか見ていない。
それが嬉しくもあり……なぜか、寂しい。
家に帰って蘭を正面から抱き締めれば嬉しそうに抱き締めてくれる。
すっぽりと私を包むほど大きくなった蘭。
温もりなんて無いはずなのに、冷たくてもほんのりと温かいのが蘭らしいと思ってしまうくらいには。
実際は私の温度が蘭に移ってるだけなのに。
浮気もしない。
一途。
暴力的な事もない。
最高に理想的な蘭ではあるが……なぜか物足りなさを感じてしまう。
人間とは欲深いもので、足りないと我慢が出来ずに欲しがってしまう。
蘭が悪いわけじゃない。私の我が儘が酷いだけ。
「で?」
「………すいません」
「お前ふざけんなよ。メンテするにしても成長した人形ってより繊細なんだぞ」
「申し訳ありません」
蘭が枯れた。
陶器のような肌にヒビが入ってしまっている。
「何をした」
「……その…」
「言え」
「……一途な蘭がなんか違うって思って飲んだくれて酔い潰れて知り合いに介抱されながら送り届けられたら蘭がぶちギレて暴れ、何とか止めたら……いきなりボロッと」
大きなため息をつく店主。
「ひとまず蘭は預かる。
けど次、また馬鹿な事してみろ」
法外な請求送りつける、と言われて背筋がゾッとした。
この店主はやる。絶対やる。
「今回はまぁ……ある意味蘭もアレだったからな。請求はおまけしといてやるが」
「ありがとうございます……」
「その代わり!!ちょっと引き受けろ」
「はい?」
待ってろ、と奥へ移動していく店主。
法外な請求は嫌だが……何やら嫌な予感しかしない。
何かを抱えて戻ってきた店主は私に布に包まれた何かを渡してくる。
「……あの、こちらは」
「見りゃわかるだろ」
「わかりますけど!!!」
「蘭の修理費代に含めてやるし、仕方ねぇからミルクも半年分つけてやる」
「太っ腹だな!?」
「どうせそいつも成長するはずだから半年分のミルク代くらい安いもんだ」
「言いましたね!?1日3食半年分しっかりきっちり蘭の分も含めて2人分ただにしてもらいますからね!!」
「おー。なんなら1年分でもいいぞ」
金色のふわふわな髪が頭の上にちょこんとある。キリッとした眉なのに目尻は垂れている。まだ開かぬ瞼の中の瞳はわからないが……多分想像つく色。
「……天使っ」
「そいつらの顔見てそんな事言えんのお前だけだわ」
10歳?12歳?
蘭と初めて出会ったようなくらいの小学生程の大きさ。
丸眼鏡をしていてほっぺがまだムニムニで可愛らしい。
ふと、蘭が目を覚まし私に抱かれているものを見て眉をしかめる。
明らかに不機嫌な蘭にどうしたものかと思っていたのだが……突然抱っこしていた人形が目を覚ました。
予想通りの紫色の瞳。
私を見た途端、なぜか泣き出しそうになる。不安気で、焦ったようにキョロキョロと周りを見渡し……蘭を見つけ、幼い人形は涙を目に浮かばせ蘭に手を伸ばした。
蘭も驚いていて……くしゃりと顔を歪ませると私と人形ごと抱き締めた。
その瞬間、あぁコレだと思った。
物足りなかったものはコレだったんだと……ストン、と胸の奥がハマった気がした。
「……そいつの名前は【竜胆】」
胸を締め付けられるような感覚。
ずっと、ずっと物足りなかったのに今は溢れんばかりに満たされていく。
「蘭、お前はメンテ。なるべく早めに直してやるから」
嫌だと言うように店主を睨み付ける蘭。
大事なものを手放したくないとでも言うように私と竜胆を抱き締めて離さない。
竜胆も小さな手で私と蘭の服を握っている。
「困るのはお前だぞ、蘭。
その身体で無理をすれば直るもんも直らねぇ。
直せなければ枯れるぞ」
店主の言葉に迷う素振りを見せつつも、離さない。
このまま蘭が無理をして直せないのは私も嫌だ。
「蘭」
頬に手を滑らせれば割れてしまった頬。
痛々しいのに指先に触れる頬は硬い破片。
少しでも強く押すとボロボロと崩れ落ちる肌は彼が人形だから。
蘭の首を引き寄せて初めて、
私から蘭の唇にキスをした。
驚き目を見開く蘭。
私はできる限り優しい声で話しかける。
「蘭、おね…がい」
「……なに」
「ちゃんと、待ってるから。
だから、蘭……おねがい。直して…っ」
震え過ぎてカスッカスな声になってしまった。
「……竜胆」
蘭の声にボロボロ涙を溢しながら竜胆はコクコクと頷く。
「頼む」
憑き物が落ちたかのように笑う蘭に対し、私や竜胆は泣いている。
蘭の修理は短期間で終わるみたい。
竜胆を抱いて帰り、今日は二人で寄り添いあって寝た。
竜胆はやはり蘭と同じようにミルクを飲まず人と同じ食事をとった。
蘭の時は焦って困ったものの……今は竜胆の成長が待ち遠しい。
早く成長したいのだと言うようにご飯を食べて私と比べるように背伸びをする竜胆を見ていると少しだけ、このままで居て欲しい気持ちにもなる。
3日後
蘭のメンテナンスが終わったと竜胆と迎えに行くとヒビ一つ無い蘭がいて、竜胆が駆け足で近寄り蘭の足に抱き着いた。
もはやタックルに近いそれに蘭はよろめいたが、楽しそうに笑って竜胆を抱き上げた。子供扱いされた竜胆はジタバタと暴れるものの、タックルの仕返しとでも言うように上げ下げされていた。
「蘭」
名前を呼べばこちらを向く。
竜胆を下ろして近寄ってくる蘭を両手を広げて抱き締めた。
「おかえり、蘭」
「……ただいま」
蘭と抱き合っていれば、忘れるなとでも言うように地団駄を踏む竜胆。
その姿を見て蘭と一緒に笑ってしまった。
「よぉ。仲良くやってんな」
「蘭を直してくださりありがとうございます」
「別に。仕事だからな」
赤音さんと一緒に出てきた店主に御礼をする。
「もう枯らすなよ」
「勿論です」
「近々そいつらのミルク送っておくわ」
「……そのことですが、やっぱ払います。
蘭と竜胆に会わせてくれたのに、貴方に払わせるって何かおかしいなって思いまして」
「約束したからには1年保証してやるよ」
「今後ずっと一緒なのでそこは永久保証にしてほしいんですが」
「図々しいな。
……永久、か。もう"普通"じゃなくていいのか?」
意地悪い顔をしている店主。
もう答えなんかわかっているのに言わせようとするなんて。
「蘭と竜胆がいて私の"普通"なんだと身に沁みたので」
「そうか」
「また相談にのってくださいね。
あ、友達いなさそうなので友達として相談も受け付けますよ」
「誰が友達いないって?ダチくらいいるっつの」
「店主さん。
私に蘭と竜胆と巡り会わせてくれてありがとうございます!」
「……勘違いすんな。
選ばれたのはお前だ」
会うために起きたのも。
愛されたくて選んだのも。
愛したくて巡り会ったのも。
「俺もお前も選ばれたんだ。
愛情が無ければ枯れちまう厄介な人形だけど
愛情に飢えた人間にはいいだろ?」
「そうですね」
蘭と竜胆と手を繋ぎ店を後にした。
朝起きると私を抱き締めながら背中側にいる蘭と、私の腕の中で眠る竜胆がいる。
2人の拘束を解いて朝御飯を作る。
サンドイッチに、ウィンナーに、スクランブルエッグを2皿用意して、温かなコーヒーが一つ。
温めた専用ミルクが2つ。
「おはよ」
「おはよう、蘭」
後ろから抱き締めてきて首筋にすり寄ってくる蘭。
もぞもぞと動き、振り向けば蘭は微笑んでキスをしてくれるので私も背伸びをして蘭の首に腕をまわす。
長かった髪が短くなり首周りが随分スッキリしてしまった。兄弟で奇抜な髪色にするが似合っているから困る。
「兄ちゃんズルい!!」
「竜胆が起きるの遅ェからだろ」
「いつもは兄ちゃんのが遅いくせに!」
ドタバタと起きてきた金色に水色のメッシュ髪は寝癖でぴょんぴょん跳び跳ねている。
すっかり私よりも身長が高くなった竜胆だが弟気質でグリグリと肩に頭を押し付けてくる。
そんな竜胆が可愛くて頭を撫でれば恨めしそうな顔をしながら唇を突き出すので、顔中にキスを落とせばふにゃりと顔を弛ませて笑う。
「おはよう、竜胆」
「はよ」
私と竜胆の前に朝御飯を置き、飲み物は私は珈琲で竜胆はミルク。
蘭は成長が止まったのか最近の食事はミルクのみで、食べるとしたら週に一回の砂糖菓子。
竜胆はもう少し髪を伸ばしたいらしく、もう少し成長を続けるらしい。
「今日の予定は?」
「特に決めてないよ」
「じゃあ三人で出掛けよう。俺映画見たい」
「蘭、仕事は?」
「仕事つっても株見るだけだから携帯あれば平気」
蘭は驚くことに株の才能があった。
例の店の店主とこそこそ会っていたかと思えば、いきなり私の通帳に巨額のお金が振り込まれていて怖くなった。
聞くと店主に教わり株で儲けたと。そんな簡単に?と思ったが蘭は店主がお金を稼ぐ天才だからだと笑っていた。
お金にがめつそうだもんな、と思いはしたがお金を稼ぐ天才と言われて納得してしまう顔をしていた。
蘭が恐ろしいほど稼ぐので、私は仕事を辞めさせられ……蘭の助言により趣味のハンドメイドで細々と収入を得ることを勧められ、気楽な生活をしている。
「よぉ」
「あれ?店主さん珍しいですね。日光浴なんて。溶けませんか?」
「お前俺を何だと思ってんの」
「座敷わらし的な」
幸せと金運を持ってきてくれるからあながち間違えてはいなくない?
後ろでは蘭と竜胆がケラケラ笑っている。
「見た限り問題無さそうだな」
「おかげさまで」
蘭と竜胆を見て顔を歪めつつもおかしなところはないかとチェックしてくれるあたり、この人は根っからの悪い人ではないのだろう。
見た目は完全にアウトだが。
「今日は仕事休みか?」
「……蘭が私よりも稼ぐので辞めさせられました」
「だろうな」
「わかってたなら株なんて教えないでくださいよ」
「金はあって困らねぇだろ」
「困らないけど……四六時中引っ付かれて襲われていたら身が持ちません」
「疲れ知らずっぽいもんな」
蘭と竜胆を見て納得しないでほしい。
疲れ知らずどころか絶倫で困る。
「ニートなら丁度いいな」
「言い方」
「お前、ウチで雇ってやるよ」
途端に蘭と竜胆がブーイングの嵐。
中指立てない。警棒どこから出したの?構えるのやめなさい。
蘭と竜胆の手を繋いで引き止めると大人しくなった。チョロっ。
「クソ客の対応面倒だったんだよ」
「職務放棄」
「今なら社員割引でミルク半額だぞ」
「喜んで就職させていただきます」
身をもて余すよりもいいだろう。
蘭と竜胆も連れていっていい職場最高じゃないか。
その代わり、店主ーーー九井さんのお手伝いを約束されていたが。蘭も竜胆もしぶしぶ了承してくれた。
カランカラン
鐘の音が鳴り、お客様が訪れる。
「いらっしゃいませ」
「……あの、気になる人形がいて」
黒髪の大きな瞳の男性。
その両手には同じく大きな瞳の男の子と、金髪の可愛いお顔の女の子。
男の子は最近この店に訪れてはとある人形と追いかけっこを繰り返し……店内が凄まじいことになってお掃除が大変な悩みの種の子じゃないか。
女の子は初めまして。
息子と娘なのかな?顔が三人とも似ている。
年が離れているから親子かな?
ポテポテ。
そんな足音をしながら自分で歩いてきたのに、私の足の後ろに隠れた恥ずかしがり屋さん。
「……コイツ、引き取っていいですか」
「一番大切なのは愛情を与えることです」
約束出来ますか?
そう聞くと、勿論!!と食いぎみに答える目の前の男性。
「愛情が足りないと枯れてしまいますので
どうか、この子を大切にしてくださいね」
この子、とっても寂しがりなんです。
「勿論!!」
「この子の名前は【イザナ】さんです」
私の後ろに隠れながらも、じっと男性を見つめるイザナさん。
私の足を握る力が強いな。地味に痛いぞ。
イザナさんを前に出せば……男の子が飛び出してきてイザナさんの前に立った。キョドキョドしたイザナさんは何を思ったのか、男の子にパンチをする。
いいところに入ったのか男の子は鼻血が。
「「!?」」
「……すげーパンチ!なぁ、イザナ」
"俺と家族になろうよ"
男の子は泣きそうな顔で笑って手を差し出した。
固まるイザナさんの袖を女の子が握る。
「今度は私から迎えにきたよ。一緒に帰ろう?」
「……ったく。兄弟ゲンカもほどほどにな」
"帰ろう"
差し出された三本の手。
ぐしゃぐしゃに顔を歪めながら俯くイザナさん。……答えは、決まっていそうだ。
「イザナさん。
幸せになってもいいんですよ」
「!!」
「お客様。
イザナさんを幸せにしてくださいね」
「「「勿論!!」」」
力強い声に笑ってしまう。
泣きだしたイザナさんを抱き上げる男性は嬉しそうに笑って涙を溢した。
4人で仲良く帰った家族を見送る。
「あーぁ、大将行っちゃった」
「泣いてたね」
「蘭、竜胆」
奥から出て来て引っ付いてくる2人。
この店で働くようになり蘭と竜胆は何かを感じとるのか、人形達を見ては懐かしそうにする。
中でも【イザナ】さんは特別に気にしていた。
「多分、幸せになれるよ。
あの人達いい人そうだったし……この店は幸せを売る店だから」
「幸せを?」
「売る?」
「私は蘭と竜胆と出会えて幸せだもの」
このお店が無ければ2人と出会えなかった。
2人は?
私の問いかけに答えなんかわかっているのに聞いてみる。
「「幸せ」」
両側から抱き着かれ、三人で笑う。
此処は"普通"ではないちょっと"特別"なお店。
貴方の"普通"を壊してしまうけれど
"特別"と出会えた時
貴方に"特別"な"幸せ"を約束いたします。
1日に三回のミルク
週に一度の砂糖菓子
毎日綺麗な洋服の交換
トイレやお風呂の躾は完璧
エサ意外の物を与えるのはオススメ致しません
人形が成長してしまいますから
一番忘れちゃいけないのは貴女からの愛情
愛情を与えられない人形は枯れてしまいますからね
とても美しい天使のような
無垢で綺麗で何度見ていても飽きない人形
観用人形
人はソレを【プランツドール】と呼ぶ。
あなたの"唯一無二の幸せ"と出会えるか
ちょっぴり運試しにいらしては?
あとがき
続きを書いてしまいました。
勢いです。
見てくださった方々ありがとうございます!
ランキング入りビックリしつつ、勢いで書いてしまいました。
【観用少女】が正しいですが、あえて【観用人形】にしているのはわざとです。
パロなので何でもありでお許しください。
いいね、コメントありがとうございました!