十万企画
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最低な行為だとわかっていた。
誘い、誘われ
その時の快楽に身を沈め
現実の辛さから目を逸らしていた。
「「ママー」」
朝目覚めて可愛い最愛の息子達が覗き込む。
寝惚けたまま二人を抱き締めて布団に転がる。
「「キャーッ」」
「おはよう、二人とも」
「「おはよう!!」」
「今日の朝御飯は何がいいかなー?」
「パンケーキ!」「ご飯!」
見事に別れた二人はお互いに自分の意見を通そうと言い合いを始める。
どちらも我が強く折れないため
「泣かす!!」
「お前をな!!」
「はーい、ストップ。術式は禁止でーす」
白熱し始めた二人を引き離し、大変だがどちらも作ってしまおうと動き出す。
だが、子供は単純なので……
「ママ……パンケーキも食べたい」
「ママ……僕も玉子焼き食べたい」
「じゃあ二人とも半分こだね」
「「うん!!」」
どちらも食べたくなる生き物だ。
満足そうに頬張る二人を見て笑ってしまう。
私は双子の余った分を食べる。
着替えて幼稚園へ送り、職場に戻ってさあ仕事だ!と今日も1日頑張ろう!と思っていたのに……
「やっほー!!名前、僕の子供達は?」
「歌姫先輩」
「私のせいじゃないわよ」
朝から悟を見るとは思わず、ナメクジでも見てしまったかのように顔がひきつる。
歌姫先輩は早々に部屋から退出しちゃうし……
何しに来たんだコイツ。
「見てみてー。玩具に、服に、あとねー」
「お引き取りください」
「今時の玩具って凄いよね。ほらみてよ」
「お帰りはあちらです」
「あ、ライダーよりウルトラマン派だった?今から買ってくるよ」
「全て持って帰れ」
悟に子供の事がバレてから1ヶ月に1度か2度。
大量の玩具やらお菓子やら服を持って来る暇人ではないはずの悟。
帰れと言っても子供の迎えまで着いてきて遊んで帰る悟を最初は子供達も警戒していたが、最近はなんだか悟を見かけるとそわそわしながら近寄っている。
悟に懐きつつある子供達に何とも複雑な感情を持ってしまう。
いつも父親が居ないことを無邪気に聞く子供同士の会話の時、ママがいるから平気だと言いながら寂しそうな顔をしていること。
父親と手を繋いで歩く姿を見かけると目で追っていること。
ママ友の旦那さんに遊んでもらうといつもより目を輝かせること。
傑と出会った時、片方は期待に瞳を輝かせ、片方が複雑そうに沈んでいたこと。
悟と出会った時、同じように正反対の反応を見せたこと。
気付かぬフリをして現実から目を逸らすのは私の最低な部分だ。
だからこそ、私ははっきりしなくちゃいけない。
「悟」
「なーに?」
「全部いらない。お願いだから2度と私的に関わらないで欲しい」
悟の甘さに私が甘えたら、子供達は必ず嫌な思いをする。
大変な事になるのだとわかっていながら産むと決めたのも
命を授かるような行為をし、身籠ったのは私自身のせいだ。
彼らに責任を押し付けないと決め、逃げ出したのだから。
悟の目の位置あたりを見ながら言えば、呆れたようにため息をつかれる。
「嫌だよ」
「言ったはずだよ。あの子達は私の子だと」
「僕らの子だよ」
「悟も……彼も関係ない。
私がお腹で育て、私が産んだ子なの」
「何でそんな距離置こうとすんの?
僕じゃ頼りないってわけじゃないでしょ?」
「子供の反応見ていたらわかるの。
父親を求めているけど……悟を選べば片方は複雑な気持ちになる。
それならいっそ」
「他の男と一緒になるって?
そんな事僕が許すとでも?」
ピリッとした空気になる悟。
学生の頃からあまり気の長い方では無かったため、少し大人となりおちゃらけた空気で誤魔化そうとするものの、根本は変わらないらしい。
「どちらか片方を選ぶよりそっちの方がずっといい」
「アイツと繋がっているような事言うね」
「別に」
スッ、と視線を外す。
誰にも言ってはいないが、悟の言葉は間違っていない。
会おうと思っているわけじゃないが、行く先々でひょっこり現れては悟と同じように玩具や服やお菓子を買い与える傑。
傑にも少しずつ慣れてしまっている子供達を無理矢理引き離せば一般の目から見たらおかしな事に映り、騒ぎを大きくしないために……なんて言い訳になってしまうが傑と会っている事になる。
「オマエさ、嘘下手だよ」
悟の長い指で顔を捕まれ引き寄せられる。
咄嗟に唇を手でおさえるが、悟の手で剥がされてしまう。
「知ってる?
名前って嘘つく時絶対視線逸らすんだよ」
「だったら?私を内通者だと始末する?」
「はぁ……なんでわかんないかなぁ?
好きな女を殺したくないから庇うんだよ」
「は?」
好きな女?
一体何の話?と鼻で笑ってしまう。
「嘘つくならもう少しマシな嘘つきなさいよ」
「マジだもん」
「いい歳した男がだもんってどうなの?」
「むしろ名前はさぁ、僕らのこと何だと思ってたの?」
「セフレ」
「あー……うん、間違って無い。間違って無いけど……」
「身体だけでもいいってお互い納得していたんだから。
今更好きとか親が居なきゃなんて言われても返事なんて出来ないでしょ」
「惚れていた先輩から僕に乗り換えてくれるならセフレでも良かったんだよ」
聞き捨てならない言葉に悟を睨み付ける。
「………悟」
「怖い顔」
「やめて」
「惚れていた男に庇われ生き残った罪悪感に押し潰されて壊されるなんて嫌だったんだよ」
「やめてって言ってるでしょ」
「まさかアイツとも身体の関係があるとは思って無かったけど」
「悟っ!!」
「僕はどうでもいい相手となんかヤらないよ。
同期だし面倒事になるじゃん」
悟と傑とセフレ関係になった時
私は壊れかけていた。
悟、傑は飛び抜けて実力があったし、硝子は硝子で数少ない反転術式を行えるだけじゃなく他人に行える貴重な存在。
そんな三人に比べると私は二級止まりの平凡な存在。
仲は悪くなかった。
実力差に惨めになる私。
そんな私に寄り添い、一緒に任務へ行くことが多かったのが一つ上の先輩方だった。
私が普通で、こんな実力がある人物が一ヶ所に集まることなんかほとんど無いのだと言ってくれた。
一般から来た私の知識不足を教えてくれた。
優しい先輩達に懐くのに時間は掛からなかった。
その中でも私に付き合ってくれた一人の先輩に恋をするのも……自然な事だった。
なのに
私の些細なミスで先輩は私を庇い亡くなった。
可愛がってくれていた先輩方は私を責めなかった。呪術師だからいつ死ぬのか選べないと。
むしろよく身体を持ち帰ってくれたと哀しんでいた。
責められず、いつか、の順番が早かっただけだと話す先輩達。
私のミスで私が殺してしまった想い人。
割り切るには何もかもが重すぎた。
先輩の分まで生きようとしても心が拒絶する。
先輩の分まで呪霊を祓おうとしても身体が拒絶する。
いっそのこと、先輩方から恨まれ罵倒された方が良かった。
優しくされた分、私の責任の重さに私は耐えきれなかった。
だから
「そんなに辛いなら忘れさせてやろうか?」
同期達の
「一人で抱え込まなくていいよ」
甘い言葉に
「わざわざ街で相手探すより楽だし。
一人で抜くより気持ちいい事したいじゃん」
耳を傾け
「利用してくれて構わないよ」
手を伸ばした。
その判断が最低で馬鹿な事だとわかっていても、私は逃げたかった。
罪悪感から、恋心から、先輩の死から、呪術師から。
だからこそ、子供が出来ているとわかった時は……安心してしまった。
ーーーあぁ、これでこの世界から解放される。と
何もかも捨てれば先輩の死も、私の罪も無かった事に出来るのではないかと期待したが……
逃げ出そうとした罪だったのだろうか?
子供達は見事に術式を引き継いでしまった。
私の罪で子供達に迷惑をかけたくなかった。
私の罪で子供達を巻き込みたくなかった。
ただ、私は普通の生活に戻りたかった。
あの日、硝子にだけ本音を溢した。
「硝子……内緒だよ?
私ね………怖くて怖くて仕方無いの」
逃げ出すあの日。
先の事を考えれば考えるほど、馬鹿な選択だったのではないかと自分を責めた。
子供が子供を産むこと。
子供が子供を育てること。
アテもなく、将来などまったく先が見えない。
「ならおろせよ」
「やだ。
怖いけどね……安心したんだ。
私は普通に戻れて、此処での生活も無かった事になるんじゃないかって」
「無かった事になんかならない」
「勿論硝子に会えた事に後悔は無いよ!
けどね、けど……此処は、私には……辛いんだ」
足手まといの私。
先輩を殺した私。
いつか死ぬ私。
「ごめんね……。
私は逃げるよ」
「馬鹿」
なのに……
私は今も呪術界に戻って来ている。
矛盾した己に本当はどうしたいのか、なんて自分でもわからない。
何れ大きくなれば、子供達は必ず呪術界へと招かれる。
普通ではない世界へ。
「名前がどんなに逃げても呪術界は逃がしてくれないよ」
「なら尚更アンタを巻き込みたくない」
「僕がいいって言ってんのに?」
「私の都合で子供を産んだんだよ。
言ってるでしょ?責任を押し付けたくないって」
「あのさぁ、名前って本当に馬鹿だよね」
人の頭をコンコン叩いてくる悟の手を払う。
こっちは古傷抉られて冷静じゃないと言うのに……!!
「僕らが何も考えないで誘っていたと思う?」
「学生の性欲なんて底知れずでしょ」
「僕は御三家だし、アイツなんか真面目中の真面目じゃん」
「だから何?」
「だからぁー
避妊しないでヤるリスクを考えないでヤると思ってんの?」
悟の言葉に一瞬言葉を失った。
「普段の避妊は心掛けていたけど、ある一定の期間は避妊しなかった意味わかる?」
「………は?え?」
「あれだけ一緒に居たら名前や硝子の生理周期なんか把握済みだっつの」
「うわっ!!最低!!」
「キミらも教室で普通にナプキンのやり取りしてただろ。
それに僕ら血の臭いには敏感だし」
「最低。あり得ない」
「だから、計算すれば排卵日狙う事なんか簡単なんだよ」
同期に生理周期の把握をされているのも最悪だが、そこを狙って致していた事実にも呆然としている。
「まさか逃げられるとは思って無かったけど」
「……な、んで」
そこまで執着されるような人間では無かったはずだ。
むしろ、硝子の方が私よりもずっと綺麗だし胸も大きいし可愛いし……。
「僕、名前のエロい顔好きなんだよね」
「口を閉じろ!!」
「普段は言葉遣い雑だし、普通に僕らと下ネタ話すし、顔も身体もまぁまぁってレベルだし」
「頭打って死ね」
「けど、泣き顔と照れた顔とヤってる時に素直になるギャップ?が良くてさ」
「本当に黙って」
「弱い癖に頑張ってるのが可愛いとは思ってたよ」
私は貶されてるのか?
それとも喧嘩売られているのか?
「なのにこっちの気も知らず先輩先輩っていい気分しないよね。
もう居ない奴のことばかりでちっともこっちを見ようとしない」
「………それ、は」
「それなら孕ませて逃げれないよう囲えばいいか、と思って」
まさか同じ事考えていて、同じ事してるとは思わなかったけど、と笑う悟。
「前回はあっさり逃げられたけど今回は逃がすつもり無いよ」
「悟に捕まる気なんか無い」
「まずは難しそうな子供を落とす方が確実かなーと思って」
「それを聞いて接触させるとでも!?」
「名前は単純そうだから子供落とした後からでもうんっとデロデロに甘やかしてあげる」
「話を聞け!!」
ニヤリと笑う悟。
壁と悟に挟まれ、しかも足の間に足を入れられ動けない。
「悪いけど逃がしてあげないよ」
「悪いと思って無いだろ」
「勿論」
ケラケラ笑う悟の近寄ってくる身体を押す。
わざと程よい力で迫ってくるあたり質が悪い。
「………アンタ達、何してんのよぉぉおおおお!!!!」
「あ、歌姫邪魔しないでよ」
「歌姫先輩ナイス!!」
悟は有言実行で子供を懐かせようとしているし、子供達も満更でも無くなっている。
悟の思惑通りになるのも嫌なので抵抗はしているが、いつまで持つやら……。
「って事実に私は驚きました」
「はははっ!!大変そうだね」
「あんたも私を悩ませる大変な一因なんだよ、ブラックリスト入り」
背中合わせでお茶をする私と傑。
間違いの無いように言うが、約束などしていない。
フラッと現れてはこうして背中合わせに座る傑は短い時間を少し話してはいなくなる。
「名前はお馬鹿さんだから愛おしいよ」
「アンタらの計画的犯行だと思うわけ無いでしょ」
「キミは知らなくていいと思っていたからね。
私達と距離を感じ、それでも追い付こうと必死で……私達は頑張り屋のキミが無理する日々に毎日ハラハラしていたんだから」
「子供を見守る親か」
「美々子と菜々子はキミより手がかからないよ」
「うっさい」
「アピールするにしても名前は私達とじゃ釣り合わないと断るだろ?
それならいっそ、弱っているところに漬け込んだ方がいい」
「性格悪い」
「私達も必死だったのさ。
自分達には懐かない猫がどこぞの男に恋い焦がれていたんだから」
「アンタ達私に暴言吐いて虐めていたろ」
「好きな子程なんとやらさ」
口の上手い傑らしい言葉だ。
どうやら最強2人の想いに気付いていなかったのは私だけだったらしい。
「で?悟と籍入れるのかい?」
「まさか。絶対お断りだね」
「じゃあまだまだ私にもチャンスはあるね」
「無いっつの」
「冷たいなぁ。
あの時はもっともっとって情熱的に望んでくれたのに」
「本当やめて」
コイツもかよ、と呆れてしまう。
「あの時のキミは死ぬにも死にきれず、罪悪感で押し潰されてしまうところだったろう?」
「……まぁね」
「どんな手を使っても生きていて欲しかったんだよ」
「………」
「名前は優しいし、子供が好きだったろ?
子供でも出来たら死にはしないと思ったのさ」
「身投げすると思わなかったの?」
「思わないよ。
名前はあそこから逃げ出したかっただけだろ。死ぬ勇気も無いキミが子供と共に死ぬとは思わない」
「なーんで私以上に私のことわかってんだ……」
「好きだからかな。
あのまま何もせず、心が壊れて名前が名前じゃなくなり死に場所ばかり求める亡霊になる前に……名前のまま囲って逃がせばいいと思った」
「………傑」
「本当に逃げると思って無かったけど」
クスクス笑う傑。
「馬鹿だ馬鹿だと思っていたら逃げ足だけは天才だったね。
私や悟が囲う前に逃げ出せたんだから凄いよ」
「貶しているならぶん殴るよ」
「名前」
自分の髪じゃない長い髪が後ろから垂れ下がる。
懐かしい、お香のような香り。
「そちらが嫌ならいつでもおいで。
私は待っているから」
「傑の性格なら押しが強いと思ってた」
「ちょっかいかけすぎてあらぬ誤解で私達の子供や名前に何かある方が嫌だよ」
「私の、子供だよ」
優しい手つきで頭を撫でる傑。
何年経っても変わらないモノはあるのに……今は敵。
「そちらばかりが世界じゃない。
逃げる時はいつでも呼んでおくれ」
ーーー優しいのはどっちなんだか。
傑はそのまま立ち去った。
逃げてばかりの弱虫の私に、逃げ道を残して。
「はぁ……」
子供達を少し早めに迎えに行って、沢山癒されよう。そうしよう、と決めて立ち上がる。
息抜きにお洒落なカフェに入ったのになぜ疲れなくちゃいけないんだ。
で、幼稚園に迎えにいけば……。
「やっほー、名前」
「………何でいるかなぁ。特級って暇なの?」
「まさか。大忙し」
子供らと楽しそうに遊ぶ目隠しの不審者。
幼稚園の先生方もお迎えの親もざわざわしている。
「消えろ、不審者」
「違いますー。パパですー」
「さあ、二人とも帰るよ」
「「はーい!」」
悟をシカトして帰る。
「ねぇねぇ名前、今日のご飯なにー?」
「帰れ」
「悟、うちでご飯?」
「みんなでご飯?」
「おっ!僕と一緒にご飯食べたいならどこでもいいよ!!焼き肉、お寿司、ハンバーグ、ケーキ」
「「ケーキ!!」」
「けど僕はね、キミ達と一緒にママのご飯が食べたいな」
「「ママ、ご飯!!」」
こっの、野郎!!!!
子供……しかも私の天使を操りやがって……!!
子供に頼まれたら断るなんて出来ないだろっ!!
「名前、ご飯なぁに?」
「……皆でお店行こうか」
「「わーい!お買い物!!」」
今日もうちの子が可愛い。
そして私は悟の囲いからどうにか逃げ切ろうともがいている。
あとがき
リクエスト「縁は続く」の続き。
まさかの何人かリクエストをいただき驚きました(笑)
自分でも書いたこと忘れていて内容どんなのだった!?と読み返しました(笑)
妊娠ものシリーズを書いていて楽しかった時期のやつだったので、内容を気に入ってくださった方が居て嬉しく思います!
お時間頂き、待っててくださりありがとうございます!
これからも明星をよろしくお願いいたします!
誘い、誘われ
その時の快楽に身を沈め
現実の辛さから目を逸らしていた。
「「ママー」」
朝目覚めて可愛い最愛の息子達が覗き込む。
寝惚けたまま二人を抱き締めて布団に転がる。
「「キャーッ」」
「おはよう、二人とも」
「「おはよう!!」」
「今日の朝御飯は何がいいかなー?」
「パンケーキ!」「ご飯!」
見事に別れた二人はお互いに自分の意見を通そうと言い合いを始める。
どちらも我が強く折れないため
「泣かす!!」
「お前をな!!」
「はーい、ストップ。術式は禁止でーす」
白熱し始めた二人を引き離し、大変だがどちらも作ってしまおうと動き出す。
だが、子供は単純なので……
「ママ……パンケーキも食べたい」
「ママ……僕も玉子焼き食べたい」
「じゃあ二人とも半分こだね」
「「うん!!」」
どちらも食べたくなる生き物だ。
満足そうに頬張る二人を見て笑ってしまう。
私は双子の余った分を食べる。
着替えて幼稚園へ送り、職場に戻ってさあ仕事だ!と今日も1日頑張ろう!と思っていたのに……
「やっほー!!名前、僕の子供達は?」
「歌姫先輩」
「私のせいじゃないわよ」
朝から悟を見るとは思わず、ナメクジでも見てしまったかのように顔がひきつる。
歌姫先輩は早々に部屋から退出しちゃうし……
何しに来たんだコイツ。
「見てみてー。玩具に、服に、あとねー」
「お引き取りください」
「今時の玩具って凄いよね。ほらみてよ」
「お帰りはあちらです」
「あ、ライダーよりウルトラマン派だった?今から買ってくるよ」
「全て持って帰れ」
悟に子供の事がバレてから1ヶ月に1度か2度。
大量の玩具やらお菓子やら服を持って来る暇人ではないはずの悟。
帰れと言っても子供の迎えまで着いてきて遊んで帰る悟を最初は子供達も警戒していたが、最近はなんだか悟を見かけるとそわそわしながら近寄っている。
悟に懐きつつある子供達に何とも複雑な感情を持ってしまう。
いつも父親が居ないことを無邪気に聞く子供同士の会話の時、ママがいるから平気だと言いながら寂しそうな顔をしていること。
父親と手を繋いで歩く姿を見かけると目で追っていること。
ママ友の旦那さんに遊んでもらうといつもより目を輝かせること。
傑と出会った時、片方は期待に瞳を輝かせ、片方が複雑そうに沈んでいたこと。
悟と出会った時、同じように正反対の反応を見せたこと。
気付かぬフリをして現実から目を逸らすのは私の最低な部分だ。
だからこそ、私ははっきりしなくちゃいけない。
「悟」
「なーに?」
「全部いらない。お願いだから2度と私的に関わらないで欲しい」
悟の甘さに私が甘えたら、子供達は必ず嫌な思いをする。
大変な事になるのだとわかっていながら産むと決めたのも
命を授かるような行為をし、身籠ったのは私自身のせいだ。
彼らに責任を押し付けないと決め、逃げ出したのだから。
悟の目の位置あたりを見ながら言えば、呆れたようにため息をつかれる。
「嫌だよ」
「言ったはずだよ。あの子達は私の子だと」
「僕らの子だよ」
「悟も……彼も関係ない。
私がお腹で育て、私が産んだ子なの」
「何でそんな距離置こうとすんの?
僕じゃ頼りないってわけじゃないでしょ?」
「子供の反応見ていたらわかるの。
父親を求めているけど……悟を選べば片方は複雑な気持ちになる。
それならいっそ」
「他の男と一緒になるって?
そんな事僕が許すとでも?」
ピリッとした空気になる悟。
学生の頃からあまり気の長い方では無かったため、少し大人となりおちゃらけた空気で誤魔化そうとするものの、根本は変わらないらしい。
「どちらか片方を選ぶよりそっちの方がずっといい」
「アイツと繋がっているような事言うね」
「別に」
スッ、と視線を外す。
誰にも言ってはいないが、悟の言葉は間違っていない。
会おうと思っているわけじゃないが、行く先々でひょっこり現れては悟と同じように玩具や服やお菓子を買い与える傑。
傑にも少しずつ慣れてしまっている子供達を無理矢理引き離せば一般の目から見たらおかしな事に映り、騒ぎを大きくしないために……なんて言い訳になってしまうが傑と会っている事になる。
「オマエさ、嘘下手だよ」
悟の長い指で顔を捕まれ引き寄せられる。
咄嗟に唇を手でおさえるが、悟の手で剥がされてしまう。
「知ってる?
名前って嘘つく時絶対視線逸らすんだよ」
「だったら?私を内通者だと始末する?」
「はぁ……なんでわかんないかなぁ?
好きな女を殺したくないから庇うんだよ」
「は?」
好きな女?
一体何の話?と鼻で笑ってしまう。
「嘘つくならもう少しマシな嘘つきなさいよ」
「マジだもん」
「いい歳した男がだもんってどうなの?」
「むしろ名前はさぁ、僕らのこと何だと思ってたの?」
「セフレ」
「あー……うん、間違って無い。間違って無いけど……」
「身体だけでもいいってお互い納得していたんだから。
今更好きとか親が居なきゃなんて言われても返事なんて出来ないでしょ」
「惚れていた先輩から僕に乗り換えてくれるならセフレでも良かったんだよ」
聞き捨てならない言葉に悟を睨み付ける。
「………悟」
「怖い顔」
「やめて」
「惚れていた男に庇われ生き残った罪悪感に押し潰されて壊されるなんて嫌だったんだよ」
「やめてって言ってるでしょ」
「まさかアイツとも身体の関係があるとは思って無かったけど」
「悟っ!!」
「僕はどうでもいい相手となんかヤらないよ。
同期だし面倒事になるじゃん」
悟と傑とセフレ関係になった時
私は壊れかけていた。
悟、傑は飛び抜けて実力があったし、硝子は硝子で数少ない反転術式を行えるだけじゃなく他人に行える貴重な存在。
そんな三人に比べると私は二級止まりの平凡な存在。
仲は悪くなかった。
実力差に惨めになる私。
そんな私に寄り添い、一緒に任務へ行くことが多かったのが一つ上の先輩方だった。
私が普通で、こんな実力がある人物が一ヶ所に集まることなんかほとんど無いのだと言ってくれた。
一般から来た私の知識不足を教えてくれた。
優しい先輩達に懐くのに時間は掛からなかった。
その中でも私に付き合ってくれた一人の先輩に恋をするのも……自然な事だった。
なのに
私の些細なミスで先輩は私を庇い亡くなった。
可愛がってくれていた先輩方は私を責めなかった。呪術師だからいつ死ぬのか選べないと。
むしろよく身体を持ち帰ってくれたと哀しんでいた。
責められず、いつか、の順番が早かっただけだと話す先輩達。
私のミスで私が殺してしまった想い人。
割り切るには何もかもが重すぎた。
先輩の分まで生きようとしても心が拒絶する。
先輩の分まで呪霊を祓おうとしても身体が拒絶する。
いっそのこと、先輩方から恨まれ罵倒された方が良かった。
優しくされた分、私の責任の重さに私は耐えきれなかった。
だから
「そんなに辛いなら忘れさせてやろうか?」
同期達の
「一人で抱え込まなくていいよ」
甘い言葉に
「わざわざ街で相手探すより楽だし。
一人で抜くより気持ちいい事したいじゃん」
耳を傾け
「利用してくれて構わないよ」
手を伸ばした。
その判断が最低で馬鹿な事だとわかっていても、私は逃げたかった。
罪悪感から、恋心から、先輩の死から、呪術師から。
だからこそ、子供が出来ているとわかった時は……安心してしまった。
ーーーあぁ、これでこの世界から解放される。と
何もかも捨てれば先輩の死も、私の罪も無かった事に出来るのではないかと期待したが……
逃げ出そうとした罪だったのだろうか?
子供達は見事に術式を引き継いでしまった。
私の罪で子供達に迷惑をかけたくなかった。
私の罪で子供達を巻き込みたくなかった。
ただ、私は普通の生活に戻りたかった。
あの日、硝子にだけ本音を溢した。
「硝子……内緒だよ?
私ね………怖くて怖くて仕方無いの」
逃げ出すあの日。
先の事を考えれば考えるほど、馬鹿な選択だったのではないかと自分を責めた。
子供が子供を産むこと。
子供が子供を育てること。
アテもなく、将来などまったく先が見えない。
「ならおろせよ」
「やだ。
怖いけどね……安心したんだ。
私は普通に戻れて、此処での生活も無かった事になるんじゃないかって」
「無かった事になんかならない」
「勿論硝子に会えた事に後悔は無いよ!
けどね、けど……此処は、私には……辛いんだ」
足手まといの私。
先輩を殺した私。
いつか死ぬ私。
「ごめんね……。
私は逃げるよ」
「馬鹿」
なのに……
私は今も呪術界に戻って来ている。
矛盾した己に本当はどうしたいのか、なんて自分でもわからない。
何れ大きくなれば、子供達は必ず呪術界へと招かれる。
普通ではない世界へ。
「名前がどんなに逃げても呪術界は逃がしてくれないよ」
「なら尚更アンタを巻き込みたくない」
「僕がいいって言ってんのに?」
「私の都合で子供を産んだんだよ。
言ってるでしょ?責任を押し付けたくないって」
「あのさぁ、名前って本当に馬鹿だよね」
人の頭をコンコン叩いてくる悟の手を払う。
こっちは古傷抉られて冷静じゃないと言うのに……!!
「僕らが何も考えないで誘っていたと思う?」
「学生の性欲なんて底知れずでしょ」
「僕は御三家だし、アイツなんか真面目中の真面目じゃん」
「だから何?」
「だからぁー
避妊しないでヤるリスクを考えないでヤると思ってんの?」
悟の言葉に一瞬言葉を失った。
「普段の避妊は心掛けていたけど、ある一定の期間は避妊しなかった意味わかる?」
「………は?え?」
「あれだけ一緒に居たら名前や硝子の生理周期なんか把握済みだっつの」
「うわっ!!最低!!」
「キミらも教室で普通にナプキンのやり取りしてただろ。
それに僕ら血の臭いには敏感だし」
「最低。あり得ない」
「だから、計算すれば排卵日狙う事なんか簡単なんだよ」
同期に生理周期の把握をされているのも最悪だが、そこを狙って致していた事実にも呆然としている。
「まさか逃げられるとは思って無かったけど」
「……な、んで」
そこまで執着されるような人間では無かったはずだ。
むしろ、硝子の方が私よりもずっと綺麗だし胸も大きいし可愛いし……。
「僕、名前のエロい顔好きなんだよね」
「口を閉じろ!!」
「普段は言葉遣い雑だし、普通に僕らと下ネタ話すし、顔も身体もまぁまぁってレベルだし」
「頭打って死ね」
「けど、泣き顔と照れた顔とヤってる時に素直になるギャップ?が良くてさ」
「本当に黙って」
「弱い癖に頑張ってるのが可愛いとは思ってたよ」
私は貶されてるのか?
それとも喧嘩売られているのか?
「なのにこっちの気も知らず先輩先輩っていい気分しないよね。
もう居ない奴のことばかりでちっともこっちを見ようとしない」
「………それ、は」
「それなら孕ませて逃げれないよう囲えばいいか、と思って」
まさか同じ事考えていて、同じ事してるとは思わなかったけど、と笑う悟。
「前回はあっさり逃げられたけど今回は逃がすつもり無いよ」
「悟に捕まる気なんか無い」
「まずは難しそうな子供を落とす方が確実かなーと思って」
「それを聞いて接触させるとでも!?」
「名前は単純そうだから子供落とした後からでもうんっとデロデロに甘やかしてあげる」
「話を聞け!!」
ニヤリと笑う悟。
壁と悟に挟まれ、しかも足の間に足を入れられ動けない。
「悪いけど逃がしてあげないよ」
「悪いと思って無いだろ」
「勿論」
ケラケラ笑う悟の近寄ってくる身体を押す。
わざと程よい力で迫ってくるあたり質が悪い。
「………アンタ達、何してんのよぉぉおおおお!!!!」
「あ、歌姫邪魔しないでよ」
「歌姫先輩ナイス!!」
悟は有言実行で子供を懐かせようとしているし、子供達も満更でも無くなっている。
悟の思惑通りになるのも嫌なので抵抗はしているが、いつまで持つやら……。
「って事実に私は驚きました」
「はははっ!!大変そうだね」
「あんたも私を悩ませる大変な一因なんだよ、ブラックリスト入り」
背中合わせでお茶をする私と傑。
間違いの無いように言うが、約束などしていない。
フラッと現れてはこうして背中合わせに座る傑は短い時間を少し話してはいなくなる。
「名前はお馬鹿さんだから愛おしいよ」
「アンタらの計画的犯行だと思うわけ無いでしょ」
「キミは知らなくていいと思っていたからね。
私達と距離を感じ、それでも追い付こうと必死で……私達は頑張り屋のキミが無理する日々に毎日ハラハラしていたんだから」
「子供を見守る親か」
「美々子と菜々子はキミより手がかからないよ」
「うっさい」
「アピールするにしても名前は私達とじゃ釣り合わないと断るだろ?
それならいっそ、弱っているところに漬け込んだ方がいい」
「性格悪い」
「私達も必死だったのさ。
自分達には懐かない猫がどこぞの男に恋い焦がれていたんだから」
「アンタ達私に暴言吐いて虐めていたろ」
「好きな子程なんとやらさ」
口の上手い傑らしい言葉だ。
どうやら最強2人の想いに気付いていなかったのは私だけだったらしい。
「で?悟と籍入れるのかい?」
「まさか。絶対お断りだね」
「じゃあまだまだ私にもチャンスはあるね」
「無いっつの」
「冷たいなぁ。
あの時はもっともっとって情熱的に望んでくれたのに」
「本当やめて」
コイツもかよ、と呆れてしまう。
「あの時のキミは死ぬにも死にきれず、罪悪感で押し潰されてしまうところだったろう?」
「……まぁね」
「どんな手を使っても生きていて欲しかったんだよ」
「………」
「名前は優しいし、子供が好きだったろ?
子供でも出来たら死にはしないと思ったのさ」
「身投げすると思わなかったの?」
「思わないよ。
名前はあそこから逃げ出したかっただけだろ。死ぬ勇気も無いキミが子供と共に死ぬとは思わない」
「なーんで私以上に私のことわかってんだ……」
「好きだからかな。
あのまま何もせず、心が壊れて名前が名前じゃなくなり死に場所ばかり求める亡霊になる前に……名前のまま囲って逃がせばいいと思った」
「………傑」
「本当に逃げると思って無かったけど」
クスクス笑う傑。
「馬鹿だ馬鹿だと思っていたら逃げ足だけは天才だったね。
私や悟が囲う前に逃げ出せたんだから凄いよ」
「貶しているならぶん殴るよ」
「名前」
自分の髪じゃない長い髪が後ろから垂れ下がる。
懐かしい、お香のような香り。
「そちらが嫌ならいつでもおいで。
私は待っているから」
「傑の性格なら押しが強いと思ってた」
「ちょっかいかけすぎてあらぬ誤解で私達の子供や名前に何かある方が嫌だよ」
「私の、子供だよ」
優しい手つきで頭を撫でる傑。
何年経っても変わらないモノはあるのに……今は敵。
「そちらばかりが世界じゃない。
逃げる時はいつでも呼んでおくれ」
ーーー優しいのはどっちなんだか。
傑はそのまま立ち去った。
逃げてばかりの弱虫の私に、逃げ道を残して。
「はぁ……」
子供達を少し早めに迎えに行って、沢山癒されよう。そうしよう、と決めて立ち上がる。
息抜きにお洒落なカフェに入ったのになぜ疲れなくちゃいけないんだ。
で、幼稚園に迎えにいけば……。
「やっほー、名前」
「………何でいるかなぁ。特級って暇なの?」
「まさか。大忙し」
子供らと楽しそうに遊ぶ目隠しの不審者。
幼稚園の先生方もお迎えの親もざわざわしている。
「消えろ、不審者」
「違いますー。パパですー」
「さあ、二人とも帰るよ」
「「はーい!」」
悟をシカトして帰る。
「ねぇねぇ名前、今日のご飯なにー?」
「帰れ」
「悟、うちでご飯?」
「みんなでご飯?」
「おっ!僕と一緒にご飯食べたいならどこでもいいよ!!焼き肉、お寿司、ハンバーグ、ケーキ」
「「ケーキ!!」」
「けど僕はね、キミ達と一緒にママのご飯が食べたいな」
「「ママ、ご飯!!」」
こっの、野郎!!!!
子供……しかも私の天使を操りやがって……!!
子供に頼まれたら断るなんて出来ないだろっ!!
「名前、ご飯なぁに?」
「……皆でお店行こうか」
「「わーい!お買い物!!」」
今日もうちの子が可愛い。
そして私は悟の囲いからどうにか逃げ切ろうともがいている。
あとがき
リクエスト「縁は続く」の続き。
まさかの何人かリクエストをいただき驚きました(笑)
自分でも書いたこと忘れていて内容どんなのだった!?と読み返しました(笑)
妊娠ものシリーズを書いていて楽しかった時期のやつだったので、内容を気に入ってくださった方が居て嬉しく思います!
お時間頂き、待っててくださりありがとうございます!
これからも明星をよろしくお願いいたします!