十万企画
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目覚めると……何だか知らない所に居た。
「目覚めたか」
「大丈夫?」
目の隈が酷い女の人と目隠しした怪しい白い頭の人。
この人達は一体……
「珍しく呪霊に襲われたね」
「五条がいて良かったな」
「本当だよ」
私のよくわからない話をするこの人達は何だろう。
ベッドから降りようとしたらすかさず手を差し出してくる怪しい男に身体が驚く。
「名前?」
聞き覚えのあるような……
ふと、自分の名前は何だったかと考えるが何も出てこない。
私は誰で
私は何で此処に居て
この人達は何なのか。
「……あの」
「随分静かだね?」
「私は誰で、此処はどこで」
ーーーあなた方は誰ですか?
そう口にした途端、二人から表情が消えた。
名前が呪霊に襲われたのは珍しい事だった。
いつもは後ろをついて歩くだけの呪霊が僕を見た瞬間名前へと襲いかかった。
すぐに祓ったものの倒れた名前。
硝子に見せれば特に外傷は見当たらなかったとのこと。
すぐに目覚めたし何事も無かったのだと話しかけたが困惑していて様子がおかしい。
「あなた方は誰ですか?」
泣きそうな、困惑した、不安そうな名前。
硝子の眉間に皺が寄る。
「覚えていることは?
職業、年齢、身の回りの事何でもいい」
「………ごめんなさい」
「厄介な事になったな」
「まじかぁ」
演技ではなさそうな様子にどうしたものかと硝子を見る。
「脳への一時的な障害だと考えるのが妥当だと思うが……最悪の場合このままだぞ」
「弱い呪霊の一瞬の力でそこまで効果ある?」
「脳はブラックボックスだ。どこを弄ればどうなるかなんてわからない」
「………チッ」
僕の舌打ちに身体を震わせる。
見た目は同じなのに、中身が違うだけで別人のように思える。
「様子を見るしかないな」
「硝子に任せてもいい?」
「その方がいいな」
恋人の記憶が突然無くなるなんてどんな漫画やドラマだよ、と笑ってしまう。
僕を見る不安そうな顔。
僕を怖がる顔。
僕を拒絶する反応。
どれもが気に入らない。
「さっさと出ていけ、暇人ではないだろ」
「そーだけど」
「あまり威嚇するな。可哀想だろ」
「そんなつもりは無いよ」
「無自覚か?」
いつもと違う別人の彼女を目の前に
僕が僕らしく居られなくなるくらい動揺するなんて。
硝子に追い出されてしまった保健室。
「戻るよな……?」
柄にもなく不安になった。
「五条先生!名前姉が倒れたって」
「悠仁……」
「大丈夫なの?」
「目が覚めて今硝子が診てるけど」
「……何かあったんですか?」
「記憶無いんだよね」
「「「え………」」」
僕の言葉に言葉を失う三人。
「それって……大丈夫、じゃないよね?」
「一時的なものかずっと思い出せないままなのか硝子でもわからないって」
「ギャグなら笑えないわよ」
「……ギャグなら良かったんだけど」
僕も思っている以上にやられているらしい。
「治るんですよね?」
「………」
「先生」
恵の言葉に何も言えない。
戻る可能性があるならすぐにでも戻って欲しいが、硝子の難しそうな様子だと……。
「あ、頭殴れば戻るとか!」
「そうよ!名前さんの存在がギャグみたいなものだしこう、私が殴れば」
「釘崎……ちょっとトンカチは名前姉耐えられないって」
「軽くよ。軽く」
場を和ませようとしてくれる悠仁に野薔薇。
「硝子が診てくれているから大丈夫だよ。
ほらほら!そんな顔しないで君達は鍛練の時間だよー」
「五条先生……」
「なぁに?悠仁」
何か言いたげな悠仁。
その前に悠仁の頬から口が現れニタリと嗤う。
「ケヒッ。
無様だな呪術師」
「オイ!!勝手に出てくんなよ!」
「記憶を無くした人形は扱うのが容易いだろう」
「ふざけんな!!」
「オマエが要らぬなら俺が貰ってやろうか?」
宿儺の言葉に少し心が揺れた。
僕は名前を誰よりも愛している。
だが、記憶を失い別人のような名前を見て……心のどこかで彼女を否定した。
コイツじゃない、と。
「中身も器も俺は興味などないからな」
「僕が頷くとでも?」
「ケヒッ」
スッ、と居なくなった宿儺。
嫌なところをつつく奴だとため息が出る。
自分でも自覚が無かったが、名前は名前じゃないと僕は嫌らしい。
漫画やドラマのように「どんな君も受け入れる」なんて無理だ。
アイツだから僕は好きになったのだから。
僕の記憶も、皆の記憶も無い彼女は
少なくとも僕にとって他人だ。
酷い奴だと言われようと
冷たい奴だと言われようと
僕が好きになった相手は
僕が愛した相手は……名前だけだ。
中身が違う相手を愛せる程、僕は出来た人間じゃない。
「まだ居たのか」
硝子が中から出てきた。
不安そうな生徒らが硝子を見るが、硝子は首を横に。
「まだどうなるかわからん。
このまま記憶が戻らないなら……アイツは一般人として生きた方が幸せかもな」
「そんな!!」
「けど呪霊は見えているんですよね?
放っておくのは……」
「その時は然るべき対応を取るさ」
「そうだね」
硝子も僕と同じ考えなのか淡々としている。
「そんな……!!何か方法がっ」
「……元々一般人だった人だ。
呪霊が見える程度なら本人に然るべき対応の元、一般人として過ごした方がずっと幸せになれる」
「そう、かもしれないけどっ!!」
「宿儺が狙っているのなら此処に居るより違うところで保護しながら療養してもらいつつ生活に戻す事も考えないと」
「五条先生までっ」
「オマエらは耐えられるのか?
今までとは違うあの人の対応に。
記憶が無くてももしかしたら俺達の知る反応を返してくれる時もあるだろうが……虚しくなるのは」
「「…………」」
「そう悲観するな。
まだ、完全に戻らないとは決まったわけじゃない」
「家入先生……」
「ただ、万が一を考えておけ」
休憩してくる、といなくなった硝子。
落ち込む生徒。
三人の頭を撫でる事しか出来ない。
「ほら、ここで落ち込んでいても仕方ないよ。
授業をしようか」
三人の背を押し、保健室から離れようとしたら保健室の中からガスッと何か鈍い音とドサッと倒れる音が。
「「「「は?」」」」
ヤベッだの、おかか!だの聞こえてきて中に入れば……サッカーボール。そして青ざめるパンダと棘。
保健室の中には真希の姿。
「悪ィ……硝子サン居ないのか?」
「え?真希何してんの?」
ベッドに寝ている……いや、絵面的には真希がノックアウトしたような感じに倒れて寝ている彼女の姿。
額のところが少し赤い。
「……悠仁、恵、野薔薇」
悪いけど硝子探してきて……。
「僕、ちょっとこのおちゃめな三人にお話聞くから」
「「「ウス」」」
走っていった三人。
気まずそうな2年へと視線を戻す。
「で、君ら何してたの?」
「棘とサッカーしてたんだが」
「しゃけ」
「思いの外白熱して」
「しゃけ」
「「シュートしたらゴール外して保健室に」」
「明太子」
「保健室の窓際に居た名前に見事に当たって、ヤベッと思ってボール回収しながら逃げようと思ったんだが……」
「普通に倒れたから……
もしかしてコイツ具合悪かったのか?」
まさかの2年の悪ふざけに頭を抱えたくなる。
脳に異常がある中、頭にダメージってギャグかよ、と。
「五条先生!家入先生連れてきた!!」
「何をやったんだ」
「2年が名前にボールぶつけた」
「は?」
簡潔に説明すると、ポカンとした硝子。
2年は再び気まずそうだ。
「……とりあえず」
オマエ達全員出ていろ。
硝子の無表情に全員黙って出た。
今日は災難だ。
呪いがいつもついてくるのはいつものことだが、何を思ったのか悟を見た瞬間暴れそこから記憶がない。
再び目覚めると……
「頭……いてぇっ」
何これ?は?
ズキズキするって言うかヒリヒリするって言うか……まじでどうした?
保健室で眠っていたらしく、外は薄暗い。
頭を押さえて起き上がる。
「硝子ちゃーん?」
此処にはいないらしい。
職員室か?と頭を押さえながら歩く。
扉に手を掛けたところで向こうから勝手に動いた。
「〜〜〜〜〜っ!!」
「あれ?起きてた?」
おまっ、指!!!
ペキッつったぞ!!
頭よりも指を押さえて痛みに悶える。
「指どうかした?」
「悟は悪くない……悪くないがこの痛みを誰にぶつければいいのかっ」
「……名前?」
「なに?」
なぜ私に確認するように聞くの?
「僕は?わかる?」
「悟」
「キミは?」
「名前……って何の確認?」
「記憶はどこまである?」
「悟が迎えに来て呪霊が暴れた辺りかな?」
え?まじで何の確認?
「私記憶でも飛んでた?」
「………」
「ギャグかよ。漫画かドラマの世界じゃ……悟?」
ぎゅっ、と抱き付いてきた悟。
どうしたのかと覗こうとするが力強く抱き締められる。
「……記憶、戻らないかと思った」
「マジか」
「僕……名前が名前じゃなきゃ無理」
記憶の無い私何をした?
弱ってるらしい悟の頭をわしゃわしゃ撫でる。
「オマエに誰?って言われて怖がられて触れるのすらビクつかれ……
僕の知らないオマエが居た」
「ふむ」
「いくら姿がオマエでも僕を拒否するオマエなんていらない」
「お、おう……」
「記憶が戻らないならこっちの世界と関わらないようにして居なくなってもいいと思った」
漫画やドラマじゃ記憶が無くても君を愛してる〜ってとこだよね?
いや、記憶無い私からしたら見知らぬ人に恋人宣言され、愛してる〜っていきなり言われてもな?困惑しかないわ。
しかもこの世界特殊だし、生きるの辛くね?
手放した方が記憶の無い私は幸せになれるかもな。
「悟はそれでもいいと思った?」
「僕の知らない名前なんていらない」
いらない、と言いながら抱き締めてくる力が強い。
悟なりに不安だったのだろう。
抱き締める力を強めるとすり寄って来た悟。
「姿形だけのオマエを愛して虚しい思いをするくらいならいらないよ」
「そっかー」
「名前が名前じゃなきゃやだ」
「愛されてるなぁ」
「そうだよ。愛してるから……記憶無くすな馬鹿」
「すまんすまん」
わしゃわしゃと悟を撫で回し、頭や顔に沢山のキスをする。
くすぐったそうにしながら顔を上げる悟。
「もっと」
「はいはい」
唇に優しく何度かついばむように触れ、悟を見る。
ぐいっと目隠しを外して私の唇に触れる指。
「愛してる、名前」
「私も悟を愛してる」
噛み付くような荒々しいキス。
何度も唇を食べるように角度を変える。
息が上がり、苦しさと興奮と愛おしさに自分でもトロけるような視線を悟に向けてしまう。
「さとる……」
「名前……」
再び悟の顔が近付いて唇が触れ合いそうな瞬間
「怪我人を襲うな」
「「っ!!」」
スパーンっと、悟の背中が蹴られガッ、と悟の歯が唇に当たった。
これ……絶対唇切れた。
「硝子……」
「痛いよ硝子ちゃん……」
「記憶戻ったのか?」
「あー、なんか記憶無かったらしいね?」
「何か違和感は?」
「言うなら頭と唇が痛いよ」
「昔私に渡した品物は?」
「酢昆布?」
「正常だな」
よし、と頷いた硝子ちゃん。
いやどこがよし?
「もう遅いから詳しい検査は明日だ」
「硝子ちゃーん、唇痛い」
「ちゅーしてやろうか?」
「是非」
「ばーか」
瞬時に反転術式で唇切ったの治してくれた。
硝子ちゃんが悪ふざけなんて珍しい……と思ったが、悟もメンタルやられたくらいだし心配かけてしまったのかも。
「硝子ちゃんも大好きだよー」
「はいはい」
「お口が寂しいなら抹茶シガレットいる?」
「いらん」
「抹茶味だよ?」
ココアシガレットならぬ抹茶シガレットだぞ。
わりと抹茶風味。
口に咥えてじっと硝子ちゃんを見れば呆れたようなため息。
「どこから見付けてくるんだそんなもの」
「MEGAドン」
「そうか」
ポキッ、と先を口で折ってボリボリ食べる硝子ちゃん。
眉間に皺が……
「え?は?」
「好みではない」
「ちょっ、硝子ちゃん!?」
「明日検査させろよ?あと……記憶はもう無くすな」
スタスタ何事も無かったように出ていった硝子ちゃんに私は膝から崩れ落ちた。
「は?可愛すぎだろ」
「僕との反応の差」
「かつてあんなデレた硝子ちゃんがいたか?」
「はいはい。もー、硝子がいいとこ全部持って行った感じじゃん」
「硝子ちゃんのデレに私のHPは瀕死です」
悟に抱えられて帰宅。
厭らしい雰囲気は散ってしまい、頭ぶつけたこともあるので悟の甘えたをいい子いい子しながら記憶の無い間の話をされ、私の事だが笑ってしまった。
2年トリオが珍しい。
明日は心配かけさせてしまった1年トリオにも元気な姿を見せなければ。
翌日、硝子ちゃんの検診も問題無いと診断された。
「硝子も名前の事大好きだよね」
「まぁな」
「けど邪魔しないでよ」
「怪我人に盛るな」
1年トリオに囲まれ元気に騒ぐ名前。
無事に記憶が戻った事に喜ぶ1年トリオ。
それを眺める家入と五条。
「……硝子は名前が名前じゃなくなったらどうする?」
「そうだな……できる限りの手は尽くすがそれでも駄目なら手離すさ」
「へぇ」
「戻らないモノに固執して壊してしまうより、自由に離してやった方がいいだろ」
「硝子も歪んでるね」
「オマエほどではないさ」
戻せるまで中身を弄って弄って弄って……
自分の手で壊してしまう前に逃がす。
「悟!!硝子ちゃん!!」
「あまり騒ぐな。落ち着け」
「心配性だな」
「頭は繊細だからな。
………オマエの頭は昔のテレビだったようだが」
「叩けば直りますよーって?
誰が古びたテレビだ!!」
「似た方法で戻ったじゃん」
「例えが雑!!昨日の二人のデレはどこへ!?」
「「さあ?」」
今日も通行人は元気に愛されているそうです。
あとがき
リクエスト「記憶喪失」
沢山ネタありがとうございます!
まずは記憶喪失ネタから……他のネタはちょっと余裕があったら書かせていただきます。
中身が別人だと興味が無くなる悟に
中身を戻すため弄って壊す硝子ちゃん。
二人共中身が違うなら関心が無くなるの早そう。
大事な友人を亡くしている二人だからこそ、己の心を守るために手離す決断の切り替えが上手そう。
お待たせしてしまい申し訳ありません。
リクエストありがとうございました!
「目覚めたか」
「大丈夫?」
目の隈が酷い女の人と目隠しした怪しい白い頭の人。
この人達は一体……
「珍しく呪霊に襲われたね」
「五条がいて良かったな」
「本当だよ」
私のよくわからない話をするこの人達は何だろう。
ベッドから降りようとしたらすかさず手を差し出してくる怪しい男に身体が驚く。
「名前?」
聞き覚えのあるような……
ふと、自分の名前は何だったかと考えるが何も出てこない。
私は誰で
私は何で此処に居て
この人達は何なのか。
「……あの」
「随分静かだね?」
「私は誰で、此処はどこで」
ーーーあなた方は誰ですか?
そう口にした途端、二人から表情が消えた。
名前が呪霊に襲われたのは珍しい事だった。
いつもは後ろをついて歩くだけの呪霊が僕を見た瞬間名前へと襲いかかった。
すぐに祓ったものの倒れた名前。
硝子に見せれば特に外傷は見当たらなかったとのこと。
すぐに目覚めたし何事も無かったのだと話しかけたが困惑していて様子がおかしい。
「あなた方は誰ですか?」
泣きそうな、困惑した、不安そうな名前。
硝子の眉間に皺が寄る。
「覚えていることは?
職業、年齢、身の回りの事何でもいい」
「………ごめんなさい」
「厄介な事になったな」
「まじかぁ」
演技ではなさそうな様子にどうしたものかと硝子を見る。
「脳への一時的な障害だと考えるのが妥当だと思うが……最悪の場合このままだぞ」
「弱い呪霊の一瞬の力でそこまで効果ある?」
「脳はブラックボックスだ。どこを弄ればどうなるかなんてわからない」
「………チッ」
僕の舌打ちに身体を震わせる。
見た目は同じなのに、中身が違うだけで別人のように思える。
「様子を見るしかないな」
「硝子に任せてもいい?」
「その方がいいな」
恋人の記憶が突然無くなるなんてどんな漫画やドラマだよ、と笑ってしまう。
僕を見る不安そうな顔。
僕を怖がる顔。
僕を拒絶する反応。
どれもが気に入らない。
「さっさと出ていけ、暇人ではないだろ」
「そーだけど」
「あまり威嚇するな。可哀想だろ」
「そんなつもりは無いよ」
「無自覚か?」
いつもと違う別人の彼女を目の前に
僕が僕らしく居られなくなるくらい動揺するなんて。
硝子に追い出されてしまった保健室。
「戻るよな……?」
柄にもなく不安になった。
「五条先生!名前姉が倒れたって」
「悠仁……」
「大丈夫なの?」
「目が覚めて今硝子が診てるけど」
「……何かあったんですか?」
「記憶無いんだよね」
「「「え………」」」
僕の言葉に言葉を失う三人。
「それって……大丈夫、じゃないよね?」
「一時的なものかずっと思い出せないままなのか硝子でもわからないって」
「ギャグなら笑えないわよ」
「……ギャグなら良かったんだけど」
僕も思っている以上にやられているらしい。
「治るんですよね?」
「………」
「先生」
恵の言葉に何も言えない。
戻る可能性があるならすぐにでも戻って欲しいが、硝子の難しそうな様子だと……。
「あ、頭殴れば戻るとか!」
「そうよ!名前さんの存在がギャグみたいなものだしこう、私が殴れば」
「釘崎……ちょっとトンカチは名前姉耐えられないって」
「軽くよ。軽く」
場を和ませようとしてくれる悠仁に野薔薇。
「硝子が診てくれているから大丈夫だよ。
ほらほら!そんな顔しないで君達は鍛練の時間だよー」
「五条先生……」
「なぁに?悠仁」
何か言いたげな悠仁。
その前に悠仁の頬から口が現れニタリと嗤う。
「ケヒッ。
無様だな呪術師」
「オイ!!勝手に出てくんなよ!」
「記憶を無くした人形は扱うのが容易いだろう」
「ふざけんな!!」
「オマエが要らぬなら俺が貰ってやろうか?」
宿儺の言葉に少し心が揺れた。
僕は名前を誰よりも愛している。
だが、記憶を失い別人のような名前を見て……心のどこかで彼女を否定した。
コイツじゃない、と。
「中身も器も俺は興味などないからな」
「僕が頷くとでも?」
「ケヒッ」
スッ、と居なくなった宿儺。
嫌なところをつつく奴だとため息が出る。
自分でも自覚が無かったが、名前は名前じゃないと僕は嫌らしい。
漫画やドラマのように「どんな君も受け入れる」なんて無理だ。
アイツだから僕は好きになったのだから。
僕の記憶も、皆の記憶も無い彼女は
少なくとも僕にとって他人だ。
酷い奴だと言われようと
冷たい奴だと言われようと
僕が好きになった相手は
僕が愛した相手は……名前だけだ。
中身が違う相手を愛せる程、僕は出来た人間じゃない。
「まだ居たのか」
硝子が中から出てきた。
不安そうな生徒らが硝子を見るが、硝子は首を横に。
「まだどうなるかわからん。
このまま記憶が戻らないなら……アイツは一般人として生きた方が幸せかもな」
「そんな!!」
「けど呪霊は見えているんですよね?
放っておくのは……」
「その時は然るべき対応を取るさ」
「そうだね」
硝子も僕と同じ考えなのか淡々としている。
「そんな……!!何か方法がっ」
「……元々一般人だった人だ。
呪霊が見える程度なら本人に然るべき対応の元、一般人として過ごした方がずっと幸せになれる」
「そう、かもしれないけどっ!!」
「宿儺が狙っているのなら此処に居るより違うところで保護しながら療養してもらいつつ生活に戻す事も考えないと」
「五条先生までっ」
「オマエらは耐えられるのか?
今までとは違うあの人の対応に。
記憶が無くてももしかしたら俺達の知る反応を返してくれる時もあるだろうが……虚しくなるのは」
「「…………」」
「そう悲観するな。
まだ、完全に戻らないとは決まったわけじゃない」
「家入先生……」
「ただ、万が一を考えておけ」
休憩してくる、といなくなった硝子。
落ち込む生徒。
三人の頭を撫でる事しか出来ない。
「ほら、ここで落ち込んでいても仕方ないよ。
授業をしようか」
三人の背を押し、保健室から離れようとしたら保健室の中からガスッと何か鈍い音とドサッと倒れる音が。
「「「「は?」」」」
ヤベッだの、おかか!だの聞こえてきて中に入れば……サッカーボール。そして青ざめるパンダと棘。
保健室の中には真希の姿。
「悪ィ……硝子サン居ないのか?」
「え?真希何してんの?」
ベッドに寝ている……いや、絵面的には真希がノックアウトしたような感じに倒れて寝ている彼女の姿。
額のところが少し赤い。
「……悠仁、恵、野薔薇」
悪いけど硝子探してきて……。
「僕、ちょっとこのおちゃめな三人にお話聞くから」
「「「ウス」」」
走っていった三人。
気まずそうな2年へと視線を戻す。
「で、君ら何してたの?」
「棘とサッカーしてたんだが」
「しゃけ」
「思いの外白熱して」
「しゃけ」
「「シュートしたらゴール外して保健室に」」
「明太子」
「保健室の窓際に居た名前に見事に当たって、ヤベッと思ってボール回収しながら逃げようと思ったんだが……」
「普通に倒れたから……
もしかしてコイツ具合悪かったのか?」
まさかの2年の悪ふざけに頭を抱えたくなる。
脳に異常がある中、頭にダメージってギャグかよ、と。
「五条先生!家入先生連れてきた!!」
「何をやったんだ」
「2年が名前にボールぶつけた」
「は?」
簡潔に説明すると、ポカンとした硝子。
2年は再び気まずそうだ。
「……とりあえず」
オマエ達全員出ていろ。
硝子の無表情に全員黙って出た。
今日は災難だ。
呪いがいつもついてくるのはいつものことだが、何を思ったのか悟を見た瞬間暴れそこから記憶がない。
再び目覚めると……
「頭……いてぇっ」
何これ?は?
ズキズキするって言うかヒリヒリするって言うか……まじでどうした?
保健室で眠っていたらしく、外は薄暗い。
頭を押さえて起き上がる。
「硝子ちゃーん?」
此処にはいないらしい。
職員室か?と頭を押さえながら歩く。
扉に手を掛けたところで向こうから勝手に動いた。
「〜〜〜〜〜っ!!」
「あれ?起きてた?」
おまっ、指!!!
ペキッつったぞ!!
頭よりも指を押さえて痛みに悶える。
「指どうかした?」
「悟は悪くない……悪くないがこの痛みを誰にぶつければいいのかっ」
「……名前?」
「なに?」
なぜ私に確認するように聞くの?
「僕は?わかる?」
「悟」
「キミは?」
「名前……って何の確認?」
「記憶はどこまである?」
「悟が迎えに来て呪霊が暴れた辺りかな?」
え?まじで何の確認?
「私記憶でも飛んでた?」
「………」
「ギャグかよ。漫画かドラマの世界じゃ……悟?」
ぎゅっ、と抱き付いてきた悟。
どうしたのかと覗こうとするが力強く抱き締められる。
「……記憶、戻らないかと思った」
「マジか」
「僕……名前が名前じゃなきゃ無理」
記憶の無い私何をした?
弱ってるらしい悟の頭をわしゃわしゃ撫でる。
「オマエに誰?って言われて怖がられて触れるのすらビクつかれ……
僕の知らないオマエが居た」
「ふむ」
「いくら姿がオマエでも僕を拒否するオマエなんていらない」
「お、おう……」
「記憶が戻らないならこっちの世界と関わらないようにして居なくなってもいいと思った」
漫画やドラマじゃ記憶が無くても君を愛してる〜ってとこだよね?
いや、記憶無い私からしたら見知らぬ人に恋人宣言され、愛してる〜っていきなり言われてもな?困惑しかないわ。
しかもこの世界特殊だし、生きるの辛くね?
手放した方が記憶の無い私は幸せになれるかもな。
「悟はそれでもいいと思った?」
「僕の知らない名前なんていらない」
いらない、と言いながら抱き締めてくる力が強い。
悟なりに不安だったのだろう。
抱き締める力を強めるとすり寄って来た悟。
「姿形だけのオマエを愛して虚しい思いをするくらいならいらないよ」
「そっかー」
「名前が名前じゃなきゃやだ」
「愛されてるなぁ」
「そうだよ。愛してるから……記憶無くすな馬鹿」
「すまんすまん」
わしゃわしゃと悟を撫で回し、頭や顔に沢山のキスをする。
くすぐったそうにしながら顔を上げる悟。
「もっと」
「はいはい」
唇に優しく何度かついばむように触れ、悟を見る。
ぐいっと目隠しを外して私の唇に触れる指。
「愛してる、名前」
「私も悟を愛してる」
噛み付くような荒々しいキス。
何度も唇を食べるように角度を変える。
息が上がり、苦しさと興奮と愛おしさに自分でもトロけるような視線を悟に向けてしまう。
「さとる……」
「名前……」
再び悟の顔が近付いて唇が触れ合いそうな瞬間
「怪我人を襲うな」
「「っ!!」」
スパーンっと、悟の背中が蹴られガッ、と悟の歯が唇に当たった。
これ……絶対唇切れた。
「硝子……」
「痛いよ硝子ちゃん……」
「記憶戻ったのか?」
「あー、なんか記憶無かったらしいね?」
「何か違和感は?」
「言うなら頭と唇が痛いよ」
「昔私に渡した品物は?」
「酢昆布?」
「正常だな」
よし、と頷いた硝子ちゃん。
いやどこがよし?
「もう遅いから詳しい検査は明日だ」
「硝子ちゃーん、唇痛い」
「ちゅーしてやろうか?」
「是非」
「ばーか」
瞬時に反転術式で唇切ったの治してくれた。
硝子ちゃんが悪ふざけなんて珍しい……と思ったが、悟もメンタルやられたくらいだし心配かけてしまったのかも。
「硝子ちゃんも大好きだよー」
「はいはい」
「お口が寂しいなら抹茶シガレットいる?」
「いらん」
「抹茶味だよ?」
ココアシガレットならぬ抹茶シガレットだぞ。
わりと抹茶風味。
口に咥えてじっと硝子ちゃんを見れば呆れたようなため息。
「どこから見付けてくるんだそんなもの」
「MEGAドン」
「そうか」
ポキッ、と先を口で折ってボリボリ食べる硝子ちゃん。
眉間に皺が……
「え?は?」
「好みではない」
「ちょっ、硝子ちゃん!?」
「明日検査させろよ?あと……記憶はもう無くすな」
スタスタ何事も無かったように出ていった硝子ちゃんに私は膝から崩れ落ちた。
「は?可愛すぎだろ」
「僕との反応の差」
「かつてあんなデレた硝子ちゃんがいたか?」
「はいはい。もー、硝子がいいとこ全部持って行った感じじゃん」
「硝子ちゃんのデレに私のHPは瀕死です」
悟に抱えられて帰宅。
厭らしい雰囲気は散ってしまい、頭ぶつけたこともあるので悟の甘えたをいい子いい子しながら記憶の無い間の話をされ、私の事だが笑ってしまった。
2年トリオが珍しい。
明日は心配かけさせてしまった1年トリオにも元気な姿を見せなければ。
翌日、硝子ちゃんの検診も問題無いと診断された。
「硝子も名前の事大好きだよね」
「まぁな」
「けど邪魔しないでよ」
「怪我人に盛るな」
1年トリオに囲まれ元気に騒ぐ名前。
無事に記憶が戻った事に喜ぶ1年トリオ。
それを眺める家入と五条。
「……硝子は名前が名前じゃなくなったらどうする?」
「そうだな……できる限りの手は尽くすがそれでも駄目なら手離すさ」
「へぇ」
「戻らないモノに固執して壊してしまうより、自由に離してやった方がいいだろ」
「硝子も歪んでるね」
「オマエほどではないさ」
戻せるまで中身を弄って弄って弄って……
自分の手で壊してしまう前に逃がす。
「悟!!硝子ちゃん!!」
「あまり騒ぐな。落ち着け」
「心配性だな」
「頭は繊細だからな。
………オマエの頭は昔のテレビだったようだが」
「叩けば直りますよーって?
誰が古びたテレビだ!!」
「似た方法で戻ったじゃん」
「例えが雑!!昨日の二人のデレはどこへ!?」
「「さあ?」」
今日も通行人は元気に愛されているそうです。
あとがき
リクエスト「記憶喪失」
沢山ネタありがとうございます!
まずは記憶喪失ネタから……他のネタはちょっと余裕があったら書かせていただきます。
中身が別人だと興味が無くなる悟に
中身を戻すため弄って壊す硝子ちゃん。
二人共中身が違うなら関心が無くなるの早そう。
大事な友人を亡くしている二人だからこそ、己の心を守るために手離す決断の切り替えが上手そう。
お待たせしてしまい申し訳ありません。
リクエストありがとうございました!