十万企画
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ヘイ、通行人名前だす。
拝啓、昔の友人達へ。
私は今、子育ての真っ最中です。
「近寄んな、猿」
「………うざい」
冷めた殺意の視線を幼い双子から浴びさせられようと、日々の努力という名の愛情を注ぎ続けました。
常に罵倒され(慣れた)
時に物理で攻撃され(反射神経鍛えられた)
時に冷ややかな視線を浴びせられ(心を強くもった)
時に舌打ちで返事され(へこんだ)
時に信者に襲われ(流石に双子は傑に叱られた)
「なんでかなぁーーー!!?何で私嫌われてるのかな……」
「子供でもあの子達は女なのよ」
「ママ……私でも心は折れるのよ……」
「アンタはよくやってるわ」
bar、ハートニップレスにてママのラルゥに相談しながら泣きついた日もあった。
「アンタの優しさは必ずあの子達の心を解かすわ。子育てなんて誰もが初めてで大変な事ばかりなのよ」
「ママ……」
「子供と共に子育てを通して母親となるの。心が折れる日はいつでも来なさい」
「ママッ!!」
ラルゥに励まされ次の日にうざ絡みしたらより嫌な顔をされたが諦めなかった。
そんな数々の困難を乗り越え、私はついに双子の信頼をもぎ取った。
「名前、今日のご飯は?」
「何がいい?」
「………横浜の焼き小籠包」
「任せて」
私の両側の服を引いてじっと見つめてくる美々子と菜々子。
みぃちゃんとなぁちゃんと呼んでいる。
双子と仲良くなるまで、それはそれは壮絶なバトルだった。
思春期で傑にしか懐いていない多感なお年頃の女の子二人。
そんな二人と仲良くなれると思いますか?
答えは否。
それはそれは壮絶な拒否から始まり、思っていたよりも手こずる私に傑も気を遣って自分から言おうか?と気にしてくれたがこれは女の戦い……!!
信頼を勝ち取るならば私が双子から気を許してもらわなくては意味がねぇ!!と断った。
流石に信者使って襲わせようとした時は傑が双子を怒った。ちなみに信者のその後の行方はシラナイよ。
ラルゥママにもお世話になった。
傑に引っ込んでろ!!と言った手前、私が傑に泣き言を漏らすわけにはいかない。
結果、ラルゥとめっちゃくちゃ仲良くなった。
野生の子猫がどんどんと懐くのを気長に待ちながら、餌付けしつつ愛情MEGAMAXでうざ絡みしたかいがあった。
そんなわけで、私は子育て真っ最中。
「…………」
「…………」
可愛い娘の為ならば!!と横浜の中華街に走り、空いている時間を見つけて東京に幼馴染の顔を見に来たのが良くなかったのかもしれない。
何か……めっちゃ怪しい包帯で目隠ししてる人に腕を捕まれた。
「名前?」
「人違いです」
「名前でしょ?」
「違います」
「嘘つくなよ」
「通報しますよ」
スッ、とスマホを取り出す。
名前は同じだが違う人だよ。
だって私にこんな包帯で目隠しして街中堂々とブラつける不審者の知り合いはいない。
「ちょっと来て」
ぐいっ、と腕を引かれたので思いっきり腕を振る。
それでも離して貰えないので
「離してくれません?」
「やだ」
「もしもし?警察ですか?」
「どこに電話してんだよ」
迷わず電話したら勝手に切られた。
お前…イタ電扱いされたらどうすんだよ!!
「何これ?焼き小籠包?それに焼き甘栗?」
「オイ」
「僕へのお土産?センスないなぁ」
「オイこら」
「ほら、早くして」
「ベタベタ触ってんじゃねーーーーっよ!!!
この不審者がぁっ!!!」
持っていたトートバッグを思いっきりフルスイングした。
「危ないなぁ」
「すいまっせーーーんっ!!!!どなたか通報してくださーい!!」
「オマエさぁ」
「あと、その小籠包返してください!!
娘達に頼まれた物なんですから!!」
「………は?娘?」
ポカンとした不審者が腕を離したのでお土産を奪う。
傑と一緒に居ておかしな奴らに囲まれてきたからある程度の耐性はあるものの、おかしな奴らに慣れたわけではない。
こんな奴と関わっていてもロクなことないな、とさっさと歩き出す。
しかし、おかしな奴らはここで簡単に諦めないからおかしいのである。
「待ってよ。娘って何?」
「いい加減にしてくれません?ナンパならお断りですが」
「は?オマエもいい加減にしろよ。僕だよ僕」
「詐欺師ならもっと頭使ってくれません?
あと普通にアンタみたいな頭のおかしい格好の人知りません」
「酷くない?あの頃はお互い想いあった仲なのに」
「もしもし?警察ですか?
頭のおかしい人に絡まれているのですが」
「通報すんなっつの。バリバリ知り合いだし」
再び電話をブチ切られる。
これ、私警察にブラックリスト入りさせられてないかな?
通報させないようにかスマホを高く持ち上げられる。まじで腹立つ不審者に携帯を諦めようかと思ったが娘達が初めて私にプレゼントしてくれたストラップがあるので諦める、なんて選択肢はない。
「オマエまじでわかんねーの?」
「お前みたいな不審者で常識の無いクソヤロウ知りません」
「僕だって」
「誰だよ」
「五条悟」
「………は?」
今なんて言ったこの不審者。
まじまじと見上げても、不審者。
似ているといえば白髪と黒い服装と身長。
どう考えても不審者。
「ワタシニソノヨウナシリアイハイマセン」
「ほぉ?それ、僕の目を見ながら言える」
ぐっ、と顔を近付けられて包帯から覗く瞳。
うん、見たことありますね!!
「あー、うん……久しぶり?だね?
相変わらずのイケメンで思わず目潰ししたくなるほどのご尊顔だね!!
ってことでスマホ渡してくれない?」
「断る」
「返せって」
「やーだ」
「ご自慢の顔面シバくぞゴラァ」
「口悪っ」
そろそろ本格的に苛ついてきたぞ。
なのに相手は悠々としていて、片手で人のスマホを弄っていやがる。
「チッ、パスワードつけてんじゃん」
「勝手に弄んなクズ野郎」
「酷いなぁ」
「いいからさっさと返して」
「じゃあ僕と連絡先交換して」
「だが断る」
「断る事を断る」
こいつ……ピキッ、と私の額に青筋が浮かぶ。
いくら温厚で有名な名前さんでもね、怒るときは怒るんだよ?
「今さらアンタと連絡先交換して意味ある?」
「僕らの仲じゃん。何カリカリしてんの?」
「悪いけど異性との連絡先交換は受け付けておりませんのでご遠慮願えます?」
「何で?」
「旦那が嫉妬するから」
「は?」
ポカン、とした白髪。
その隙にスマホを奪って変なことされていないかチェック。
大事に鞄にスマホをしまって白髪を見ると少しびびる。
不機嫌オーラがやばい。
「じゃあ」
「僕が行かせると思う?」
「まじで通報すっぞ」
「いいから来なよ」
「おまっ!!引きずるな馬鹿力!!」
「お姫様抱っこか横抱きか俵担ぎか脇に抱えられるか選ばせてあげようか?」
「………自分で歩くよ馬鹿」
不機嫌な白髪に着いていく。
ちなみに手を握られたので振り払おうとしたが無理だった。
「で?相手は」
「何でお前に言わなきゃいけないの?」
長い脚を組んで椅子の背もたれに身体を預けながら聞いてくる態度の悪い白髪。
私はメニューに目を通しながらミルクティーとケーキのセットを店員に頼む。
白髪も珈琲とケーキセットを頼んでいた。
「まじで結婚してるわけ?」
「まじまじ大マジ。この指輪が目に入らぬか」
「わー、ちょっとその指輪貸してよ。今すぐこう、ぐちゃっとゴミにするから」
「それ聞いて誰が指輪差し出すんだよ」
「オマエ僕のこと好きじゃなかったの?」
「好きだったけど音信不通になった男を今でも引きずってると思ってたら凄い自信の勘違い野郎だね」
まぁ実際はクッッソ重たい感情で引きずっておりましたがね。
それをこの白髪に伝えるつもりはない。
「僕は今でも名前が好きだよ」
「残念だったわー。それをもっと前に聞きたかったね」
「僕じゃ駄目なの?」
「無理」
顔がいいからって素顔晒しても残念ながら私には効かないぜ。
数年前ならわからんかったがな。
「僕の知ってる相手?」
「さあ?白髪に話す事でもないよ」
「何でソイツと結婚したの」
「めっちゃ聞くじゃん。興味津々かよ」
「当たり前じゃん。好きな女と久しぶりに再会出来たのに結婚してましたーってどんな地獄だよ」
「好きな男がいきなり音信不通になってその友人らとも音信不通となり、1人寂しく前を向き直って新たな恋と共に幸せな家庭を築いているのをぶち壊す男の方が地獄だわ」
私の正論に顔を背ける白髪。
「僕だって探してたんだよ」
「へー」
「名前の幼馴染の所行っても門前払い。
後から沖縄に居たこと知った時には入れ違いで仕事辞めてどこか消えた後だった」
「そうだったんだ」
来てくれたんだ、と少しだけ嬉しくなった。
私の事を都合のいい女だと思って声を掛けてきたんじゃないかとも思っていたので、昔の感情の名残で少し心を許してしまう。
「なのに会ったら娘までいて?僕の恋心は絶賛傷付いているんだけど」
「アンタは自分から離れて私じゃない相手と楽しくよろしくやってたんでしょ?
たまたま会ったからと言って燃え上がる恋心なんてとっくに燃え尽きてるわ」
「遊びだったもん」
「最悪だよたれ」
運ばれてきたケーキとミルクティー。
目の前にも珈琲とケーキが運ばれてきたのだが……
ポトン ポトン ポトン ポトン ポトン
「僕だって色々考えてオマエを巻き込まないために離れたんだよ。
オマエ、こっちの世界と関わりたくなかっただろ?」
「そりゃーね」
ポトン ポトン ポトン ポトン ポトン
「オマエの代わりなんて、オマエ以外の奴が果たせるわけないし。
どんな相手だろうとオマエじゃなきゃ意味なかった」
「白髪……」
ポトン ポトン ポトン ポトン ポトン
「確かに今さらかもしれないけど、僕の気持ちまで疑うなよ」
「…………」
ポトン ポトン ポトン ポトン ザリザリザリザリ
「長年引きずってきた恋心をいきなり諦められると思うな」
「ソレ飲むの?飲めるの?飲み物なの?」
「ウマイよ?」
多分キュンとすべき話の内容だったのかもしれないが、目の前の光景に話の内容が響いてこない。
ゴクゴク飲む白髪にドン引きした。
なんでそれ普通に飲めるの?むしろ、なんで砂糖溶けきったの?絶対カップの底に砂糖の塊泥のように残ってるだろ。
「で?相手は?どんな奴?僕よりイケてんの?」
「お前は私の親か」
面接官どころか親のチェックみたいなこと聞かないでおくれ。
「だいたい娘って何?産んだの?」
「いや、相手の連れ子」
「バツイチ子持ちの野郎と結婚したの?」
「訳ありの子供を保護してんだよ」
「へー」
聞いておいて興味無くすのやめてくれない?
「……幸せなの?」
「すっごく幸せ」
双子のお世話というか打ち解けるまでが大変だったものの、嵐が過ぎればなんとやら。
可愛さは元々あったのが、懐いてくれたらもう可愛さが有り余ってしかたないよね。
傑は傑でめちゃくちゃ大事にしてくれる。時折笑顔で虐めてくるが、ドロッドロに甘やかされていることが多いので何も言えない。
溺愛している娘達にすら、あまりに酷いと注意する程には大事にされている自覚はある。
「………ムカつく。幸せな顔しやがって」
「幸せだから仕方ないよね」
「オマエが惚れるなんてどんな野郎だよ」
「うーん……全体的に見たらドクズかな」
「は?」
ゲスというか、クズというか……
傑はいつもにこにこと穏やかだけど、怪しい宗教の教祖様しているし、人を見るたびすっげー冷めた目で見下して「猿が」って吐き捨てるあたり人としてどうかと思う。
笑顔で優しく救済し終えた後、ファブってんの知ってんだぞ。しかも除菌用のやつ。ご丁寧に手洗いうがいして消毒してるのも知ってる。
「ひねくれているけど家族思いで、優しくて、穏やかで、強くて格好いいよ」
「名前って男の趣味悪いって言われねぇ?」
「言われないけど薄々そう思う」
「じゃあ別れて僕とくっつけよ」
「お前もドクズだろ」
そういやよく学生の頃、傑と白髪は美少女にクズ扱いされてたな。
私ダメ女?クズばっか好きになってることに少し絶望した。
「なんでそんな奴好きなの?」
「んー……顔が好みだと気付いたらありだな、と思った」
「うわぁ」
「私を特別扱いしてくれるとこも、私だけに弱さ見せてくれるとこも、嫉妬深いとこも、一緒に笑ってくれるとこも好き」
笑って、拗ねて、蔑んで、悲しんで
喜怒哀楽の多い傑は見ていて面白い。
傑は家族に慕われて偉い立場にいるからそれなりに威厳を保っているが、私の前だけは少しだけ弱さを見せる。
教祖でもなく、呪詛師でもなく。
ただ1人の夏油傑という男として、私にすがり付いてくる傑が可愛く思えてしまうくらいには毒されてしまった。
傑の仕事内容を知らないわけじゃない。
詳しく聞いた事はないし、傑も知らせようとしないし、関わらせようともしない。
なんとなくの予想でしかないが、私はそれを受け入れて傑といる。
「馬鹿で真面目で不器用な人だけど
私を置いて行かないから」
自分の歩む道の邪魔になるであろう私を、傑の我が儘で共に居させてもらっている。
「可愛い娘達の子育てに、理解ある旦那がいて私は幸せだよ」
「……ムカつく」
「だからアンタとは一緒に行けない」
あ、ここのケーキ美味しい。
みぃちゃんとなぁちゃんと今度来よう、と頭の中で決める。
傑とも来たいが、まずあの袈裟で出歩かないで欲しい。
「名前なら絶対僕にメロメロで待っていると思ったのに」
「間違ってはいないかなー。
旦那と会う前まではずっと待っていたし」
「何で沖縄だったの?」
「うわ……それすらわかんなかったとかオマエまじクズか」
冷めた瞳で白髪を見る。
本気でわかっていないこの男の横面を殴っても私許される気がした。
「一緒に行こうって約束」
「……あー」
「アンタが見た景色を私も見てみたかった」
「……ごめん」
「別に今さら気にしてないよ。
職場に惚れたって事もあったし、悪いことばかりじゃなかった。
アンタが探しに赴いてくれていたってわかっただけでもあの頃の私は救われた」
何度も後悔したし、もう2度と恋が出来ないんじゃないかと思うくらい惚れていた自覚はある。
だが、そんな事は杞憂に終わり私はまた恋をした。
「あんたと同じくらい、いい男だと思ってるよ」
「そこまで言われたらどうしようも出来ないじゃん」
「同じくらいクズなとこもあるが」
「………」
「幸せだよ」
真っ直ぐに白髪を見れるのは、傑のお陰。
白髪は両手を上げて降参、と言った。
「ここの支払いは結婚祝いとして僕が払うよ」
「あら、ありがと」
「……人妻が癖になりそうなんだけど?」
「他人のご家庭を壊すような発言はお控えなさって?」
「僕と遊ぶ気は?」
「あらやだー、もうこんな時間!
可愛い可愛い娘が旦那と待っているから帰らせてもらうね!」
「この野郎」
アデュー、とおでこから指を離して席を立つ。
じっとこちらを見つめる白髪にそうだ、と思って身を屈める。
「白髪、耳貸せ」
「なに?」
耳を此方に向けてくれたので、顔を近付ける。
ーーーずっと悟が好きだった。
ポカン、とした顔をしていたが耳を抑えて此方を見る白髪。
私はその反応にケラケラ笑う。
「じゃーね」
「ちょっ!!おまっ」
「私だけモヤモヤしてた青春時代をオマエにもお裾分けだ馬鹿野郎」
店から出ると、なぜかタイミング良く傑から電話。
「もっしもーし」
"キミ今どこに誰と居るんだ?"
「あらやだ。ストーカー?」
声が低い。
これ完全にバレてるし、今もどこかで見張っていそうだなこりゃ。
キョロキョロと辺りを見回すが、それらしき人物は見当たらない。
「どこにいるの?」
"私の質問に答えてないよ"
「どこから見ていたのか知らないけど不可抗力ですぅー」
"誤魔化す気かい?"
「あ、ちょっとタピオカ買っていい?」
「人の話は聞いてくれないかな?」
後ろから肩に腕を回され、聞きなれた声。
見上げれば白のTシャツに黒のサルエル姿の傑が。
「珍しく教祖姿じゃない」
「目立つからね」
「何時からあとつけてたの?」
「途中からだよ」
「どの途中だよ」
にっこり笑って誤魔化される。
歩き辛いので肩から腕を外して腕を組めば、お土産の焼き小籠包を持ってくれた。
「タピオカ飲む?」
「蛙の卵飲んで美味しいかい?」
「それ言ったらアカンて」
久々に傑と二人きりでぶらぶら気になった店を見回る。
帰りは傑の呪霊での帰宅だ。
「で?何で悟と居たんだい?」
「覚えてたのか」
「私に隠し事なんて酷い妻だねぇ。浮気かい?」
「顔は笑っているのに目が笑っていないわよダーリン」
星空の輝くお空デートなんて甘いものではなく、ただの逃げ場のない尋問タイムだ。
「声掛けられたけど私白髪だとわかんなくてさ」
「ダウト。そんなわけないだろ?」
「数年見ぬ内に包帯で目隠しする黒ずくめの男が知り合いだと思う?」
「その引いた顔止めてあげな」
「普通に不審者かと思って警察に連絡したらスマホ奪われてさ。
電話自体はどーでもいいが」
「良くないよ」
「ほら、これ。みぃちゃんとなぁちゃんがくれたストラップ付けてるから」
「名前が初めて二人から貰って泣きながら崩れ落ちたやつかい?」
「そうそう。
だから返して欲しいなら着いてこいと連行されたのさ」
傑がストラップを触る。
可愛い娘達からのプレゼントを嘘でも要らないなんて言えるわけないだろう。
「名前は優しいね」
「で、熱烈なアプローチをされたわけですが」
「は?」
「痛いって。ゴリラ、おいやめろ」
思いっきり腹に回った腕で絞められた。
その腕をタップするが、緩まらない。
「それで?キミは悟に絆されたのかい?」
「いやー、驚いたわ。
顔は相変わらず綺麗だったが、まっったくトキメキがなかった」
あれだけ好きで惚れていたのに。
「我が家のダーリンの惚気を溢したら降参された」
「………そうかい」
「照れた?照れた?ちょっとその顔此方に見せてごらんよ」
「うるさいよ」
片手で口元を隠して顔を背ける傑。
面白いので手を退かして顔を見れば頬がほんのり色付いている。
可愛らしい傑の一面が面白いので頬に唇を寄せる。
「安心しなよ。未練はないから」
「本当かい?」
「未練があるなら入籍なんてしない」
左手で握った傑の左手。
二人共に同じプラチナの指輪が薬指にはまっている。
「私は白髪より傑と歩む事を選んで後悔はしてない。だから今さら白髪にアタックされてもなーんも思わないよ」
「そうか」
「傑は心配性だねぇ」
「嫁が人タラシだから心配が尽きないんだよ」
「あらあら、魅力的な奥さんなのね」
「そうだよ。私の奥さんは魅力的さ」
額や頬に唇を寄せる傑。傑の髪の毛が顔や首筋に触ってくすぐったくなり笑ってしまう。
「あ、けど私ばっか好きでモヤモヤしていたの腹立つから、好きだったよーって言った時の顔は面白かった」
「は?キミ何やってんの?」
「いひゃい」
「そんな事したら悟の場合絶対追うだろ」
ぐにぐに頬を引き伸ばされる。
いや、だってねー?
「人妻趣味になりそうってさ」
「人の性癖を変えるのは良くないよ」
「性癖人妻は傑のネタなのにね?」
「何年そのネタ引きずる気だい?」
「傑はよちよちプレイかSM願望があるタイプなのに。親友をわかってないな」
「いい加減黙らないと野外でこのまま縛って泣かせて突っ込むよ」
「さーて、娘達が待ってるから早く帰ろうか!!!」
やっべ。
これ以上は傑は本当にやる。
色々自分に素直になったこの男ならまじで有言実行する。
「まったく……本当飽きないよ」
後ろからのし掛かる傑に、私も寄りかかる。
お互いの手を絡めて握る。
「傑だーい好き」
「私も好きだよ」
私達は知らない。
この先、すぐに別れが訪れることを。
「みぃちゃんなぁちゃんただいまーー!!」
「「遅い」」
「すまない、二人とも」
「「夏油様!!お帰りなさい」」
「わぁ、面白いほどの差」
その時までは
笑って
「これお土産だよ」
「わぁ!!ありがとうございます夏油様!!」
「……ありがとうございます」
「二人とも、それ私からだからね?
傑は渡しただけだからね?」
「でもお金は夏油様のじゃん」
「正論」
クソッ、と床に崩れ落ちる。
どんなに打ち解けても双子の夏油様への愛は越えられない。
「生まれたばかりの雛の夏油様の刷り込みには勝てない……」
「キミにそう呼ばれると馬鹿にされてる気がする」
「幼女に夏油様呼びさせる旦那だが愛してる」
「ははは。やっぱり縛ってしつけ直しが必要かな?」
笑いながら距離を詰めてくる傑に対し、私はカバディしつつ逃げる。
カバディやったことないが、山崎はカバディカバディって両手を広げてたからそれを参考に。
くいくいっ、と私の服の裾を引っ張る双子。
「名前もありがと」
「選んでくれたのが名前だってことくらいわかるよ」
「「ありがと」」
「……みぃちゃんなぁちゃん大好きーーー」
双子を抱き締める。
文句を言いながらも、笑う双子。
そんな私達を見て傑も笑う。
「ほら、皆ご飯にしよう」
その日が来るまで
あと少し
この幸せを。
あとがき
リクエスト「夏油が迎えにきたらの続きで五条悟と遭遇したら」
遅くなってしまいましたが、お待たせしました。
この後百鬼夜行とか考えたくないし、
悟√に戻ったら絶対軟禁。
脳ミソ√なら悟と対峙。
家族√なら病みそう。
もう少し傑とイチャラブ感出したかったなー。
リクエストありがとうございました!!
これからもよろしくお願いいたします!
拝啓、昔の友人達へ。
私は今、子育ての真っ最中です。
「近寄んな、猿」
「………うざい」
冷めた殺意の視線を幼い双子から浴びさせられようと、日々の努力という名の愛情を注ぎ続けました。
常に罵倒され(慣れた)
時に物理で攻撃され(反射神経鍛えられた)
時に冷ややかな視線を浴びせられ(心を強くもった)
時に舌打ちで返事され(へこんだ)
時に信者に襲われ(流石に双子は傑に叱られた)
「なんでかなぁーーー!!?何で私嫌われてるのかな……」
「子供でもあの子達は女なのよ」
「ママ……私でも心は折れるのよ……」
「アンタはよくやってるわ」
bar、ハートニップレスにてママのラルゥに相談しながら泣きついた日もあった。
「アンタの優しさは必ずあの子達の心を解かすわ。子育てなんて誰もが初めてで大変な事ばかりなのよ」
「ママ……」
「子供と共に子育てを通して母親となるの。心が折れる日はいつでも来なさい」
「ママッ!!」
ラルゥに励まされ次の日にうざ絡みしたらより嫌な顔をされたが諦めなかった。
そんな数々の困難を乗り越え、私はついに双子の信頼をもぎ取った。
「名前、今日のご飯は?」
「何がいい?」
「………横浜の焼き小籠包」
「任せて」
私の両側の服を引いてじっと見つめてくる美々子と菜々子。
みぃちゃんとなぁちゃんと呼んでいる。
双子と仲良くなるまで、それはそれは壮絶なバトルだった。
思春期で傑にしか懐いていない多感なお年頃の女の子二人。
そんな二人と仲良くなれると思いますか?
答えは否。
それはそれは壮絶な拒否から始まり、思っていたよりも手こずる私に傑も気を遣って自分から言おうか?と気にしてくれたがこれは女の戦い……!!
信頼を勝ち取るならば私が双子から気を許してもらわなくては意味がねぇ!!と断った。
流石に信者使って襲わせようとした時は傑が双子を怒った。ちなみに信者のその後の行方はシラナイよ。
ラルゥママにもお世話になった。
傑に引っ込んでろ!!と言った手前、私が傑に泣き言を漏らすわけにはいかない。
結果、ラルゥとめっちゃくちゃ仲良くなった。
野生の子猫がどんどんと懐くのを気長に待ちながら、餌付けしつつ愛情MEGAMAXでうざ絡みしたかいがあった。
そんなわけで、私は子育て真っ最中。
「…………」
「…………」
可愛い娘の為ならば!!と横浜の中華街に走り、空いている時間を見つけて東京に幼馴染の顔を見に来たのが良くなかったのかもしれない。
何か……めっちゃ怪しい包帯で目隠ししてる人に腕を捕まれた。
「名前?」
「人違いです」
「名前でしょ?」
「違います」
「嘘つくなよ」
「通報しますよ」
スッ、とスマホを取り出す。
名前は同じだが違う人だよ。
だって私にこんな包帯で目隠しして街中堂々とブラつける不審者の知り合いはいない。
「ちょっと来て」
ぐいっ、と腕を引かれたので思いっきり腕を振る。
それでも離して貰えないので
「離してくれません?」
「やだ」
「もしもし?警察ですか?」
「どこに電話してんだよ」
迷わず電話したら勝手に切られた。
お前…イタ電扱いされたらどうすんだよ!!
「何これ?焼き小籠包?それに焼き甘栗?」
「オイ」
「僕へのお土産?センスないなぁ」
「オイこら」
「ほら、早くして」
「ベタベタ触ってんじゃねーーーーっよ!!!
この不審者がぁっ!!!」
持っていたトートバッグを思いっきりフルスイングした。
「危ないなぁ」
「すいまっせーーーんっ!!!!どなたか通報してくださーい!!」
「オマエさぁ」
「あと、その小籠包返してください!!
娘達に頼まれた物なんですから!!」
「………は?娘?」
ポカンとした不審者が腕を離したのでお土産を奪う。
傑と一緒に居ておかしな奴らに囲まれてきたからある程度の耐性はあるものの、おかしな奴らに慣れたわけではない。
こんな奴と関わっていてもロクなことないな、とさっさと歩き出す。
しかし、おかしな奴らはここで簡単に諦めないからおかしいのである。
「待ってよ。娘って何?」
「いい加減にしてくれません?ナンパならお断りですが」
「は?オマエもいい加減にしろよ。僕だよ僕」
「詐欺師ならもっと頭使ってくれません?
あと普通にアンタみたいな頭のおかしい格好の人知りません」
「酷くない?あの頃はお互い想いあった仲なのに」
「もしもし?警察ですか?
頭のおかしい人に絡まれているのですが」
「通報すんなっつの。バリバリ知り合いだし」
再び電話をブチ切られる。
これ、私警察にブラックリスト入りさせられてないかな?
通報させないようにかスマホを高く持ち上げられる。まじで腹立つ不審者に携帯を諦めようかと思ったが娘達が初めて私にプレゼントしてくれたストラップがあるので諦める、なんて選択肢はない。
「オマエまじでわかんねーの?」
「お前みたいな不審者で常識の無いクソヤロウ知りません」
「僕だって」
「誰だよ」
「五条悟」
「………は?」
今なんて言ったこの不審者。
まじまじと見上げても、不審者。
似ているといえば白髪と黒い服装と身長。
どう考えても不審者。
「ワタシニソノヨウナシリアイハイマセン」
「ほぉ?それ、僕の目を見ながら言える」
ぐっ、と顔を近付けられて包帯から覗く瞳。
うん、見たことありますね!!
「あー、うん……久しぶり?だね?
相変わらずのイケメンで思わず目潰ししたくなるほどのご尊顔だね!!
ってことでスマホ渡してくれない?」
「断る」
「返せって」
「やーだ」
「ご自慢の顔面シバくぞゴラァ」
「口悪っ」
そろそろ本格的に苛ついてきたぞ。
なのに相手は悠々としていて、片手で人のスマホを弄っていやがる。
「チッ、パスワードつけてんじゃん」
「勝手に弄んなクズ野郎」
「酷いなぁ」
「いいからさっさと返して」
「じゃあ僕と連絡先交換して」
「だが断る」
「断る事を断る」
こいつ……ピキッ、と私の額に青筋が浮かぶ。
いくら温厚で有名な名前さんでもね、怒るときは怒るんだよ?
「今さらアンタと連絡先交換して意味ある?」
「僕らの仲じゃん。何カリカリしてんの?」
「悪いけど異性との連絡先交換は受け付けておりませんのでご遠慮願えます?」
「何で?」
「旦那が嫉妬するから」
「は?」
ポカン、とした白髪。
その隙にスマホを奪って変なことされていないかチェック。
大事に鞄にスマホをしまって白髪を見ると少しびびる。
不機嫌オーラがやばい。
「じゃあ」
「僕が行かせると思う?」
「まじで通報すっぞ」
「いいから来なよ」
「おまっ!!引きずるな馬鹿力!!」
「お姫様抱っこか横抱きか俵担ぎか脇に抱えられるか選ばせてあげようか?」
「………自分で歩くよ馬鹿」
不機嫌な白髪に着いていく。
ちなみに手を握られたので振り払おうとしたが無理だった。
「で?相手は」
「何でお前に言わなきゃいけないの?」
長い脚を組んで椅子の背もたれに身体を預けながら聞いてくる態度の悪い白髪。
私はメニューに目を通しながらミルクティーとケーキのセットを店員に頼む。
白髪も珈琲とケーキセットを頼んでいた。
「まじで結婚してるわけ?」
「まじまじ大マジ。この指輪が目に入らぬか」
「わー、ちょっとその指輪貸してよ。今すぐこう、ぐちゃっとゴミにするから」
「それ聞いて誰が指輪差し出すんだよ」
「オマエ僕のこと好きじゃなかったの?」
「好きだったけど音信不通になった男を今でも引きずってると思ってたら凄い自信の勘違い野郎だね」
まぁ実際はクッッソ重たい感情で引きずっておりましたがね。
それをこの白髪に伝えるつもりはない。
「僕は今でも名前が好きだよ」
「残念だったわー。それをもっと前に聞きたかったね」
「僕じゃ駄目なの?」
「無理」
顔がいいからって素顔晒しても残念ながら私には効かないぜ。
数年前ならわからんかったがな。
「僕の知ってる相手?」
「さあ?白髪に話す事でもないよ」
「何でソイツと結婚したの」
「めっちゃ聞くじゃん。興味津々かよ」
「当たり前じゃん。好きな女と久しぶりに再会出来たのに結婚してましたーってどんな地獄だよ」
「好きな男がいきなり音信不通になってその友人らとも音信不通となり、1人寂しく前を向き直って新たな恋と共に幸せな家庭を築いているのをぶち壊す男の方が地獄だわ」
私の正論に顔を背ける白髪。
「僕だって探してたんだよ」
「へー」
「名前の幼馴染の所行っても門前払い。
後から沖縄に居たこと知った時には入れ違いで仕事辞めてどこか消えた後だった」
「そうだったんだ」
来てくれたんだ、と少しだけ嬉しくなった。
私の事を都合のいい女だと思って声を掛けてきたんじゃないかとも思っていたので、昔の感情の名残で少し心を許してしまう。
「なのに会ったら娘までいて?僕の恋心は絶賛傷付いているんだけど」
「アンタは自分から離れて私じゃない相手と楽しくよろしくやってたんでしょ?
たまたま会ったからと言って燃え上がる恋心なんてとっくに燃え尽きてるわ」
「遊びだったもん」
「最悪だよたれ」
運ばれてきたケーキとミルクティー。
目の前にも珈琲とケーキが運ばれてきたのだが……
ポトン ポトン ポトン ポトン ポトン
「僕だって色々考えてオマエを巻き込まないために離れたんだよ。
オマエ、こっちの世界と関わりたくなかっただろ?」
「そりゃーね」
ポトン ポトン ポトン ポトン ポトン
「オマエの代わりなんて、オマエ以外の奴が果たせるわけないし。
どんな相手だろうとオマエじゃなきゃ意味なかった」
「白髪……」
ポトン ポトン ポトン ポトン ポトン
「確かに今さらかもしれないけど、僕の気持ちまで疑うなよ」
「…………」
ポトン ポトン ポトン ポトン ザリザリザリザリ
「長年引きずってきた恋心をいきなり諦められると思うな」
「ソレ飲むの?飲めるの?飲み物なの?」
「ウマイよ?」
多分キュンとすべき話の内容だったのかもしれないが、目の前の光景に話の内容が響いてこない。
ゴクゴク飲む白髪にドン引きした。
なんでそれ普通に飲めるの?むしろ、なんで砂糖溶けきったの?絶対カップの底に砂糖の塊泥のように残ってるだろ。
「で?相手は?どんな奴?僕よりイケてんの?」
「お前は私の親か」
面接官どころか親のチェックみたいなこと聞かないでおくれ。
「だいたい娘って何?産んだの?」
「いや、相手の連れ子」
「バツイチ子持ちの野郎と結婚したの?」
「訳ありの子供を保護してんだよ」
「へー」
聞いておいて興味無くすのやめてくれない?
「……幸せなの?」
「すっごく幸せ」
双子のお世話というか打ち解けるまでが大変だったものの、嵐が過ぎればなんとやら。
可愛さは元々あったのが、懐いてくれたらもう可愛さが有り余ってしかたないよね。
傑は傑でめちゃくちゃ大事にしてくれる。時折笑顔で虐めてくるが、ドロッドロに甘やかされていることが多いので何も言えない。
溺愛している娘達にすら、あまりに酷いと注意する程には大事にされている自覚はある。
「………ムカつく。幸せな顔しやがって」
「幸せだから仕方ないよね」
「オマエが惚れるなんてどんな野郎だよ」
「うーん……全体的に見たらドクズかな」
「は?」
ゲスというか、クズというか……
傑はいつもにこにこと穏やかだけど、怪しい宗教の教祖様しているし、人を見るたびすっげー冷めた目で見下して「猿が」って吐き捨てるあたり人としてどうかと思う。
笑顔で優しく救済し終えた後、ファブってんの知ってんだぞ。しかも除菌用のやつ。ご丁寧に手洗いうがいして消毒してるのも知ってる。
「ひねくれているけど家族思いで、優しくて、穏やかで、強くて格好いいよ」
「名前って男の趣味悪いって言われねぇ?」
「言われないけど薄々そう思う」
「じゃあ別れて僕とくっつけよ」
「お前もドクズだろ」
そういやよく学生の頃、傑と白髪は美少女にクズ扱いされてたな。
私ダメ女?クズばっか好きになってることに少し絶望した。
「なんでそんな奴好きなの?」
「んー……顔が好みだと気付いたらありだな、と思った」
「うわぁ」
「私を特別扱いしてくれるとこも、私だけに弱さ見せてくれるとこも、嫉妬深いとこも、一緒に笑ってくれるとこも好き」
笑って、拗ねて、蔑んで、悲しんで
喜怒哀楽の多い傑は見ていて面白い。
傑は家族に慕われて偉い立場にいるからそれなりに威厳を保っているが、私の前だけは少しだけ弱さを見せる。
教祖でもなく、呪詛師でもなく。
ただ1人の夏油傑という男として、私にすがり付いてくる傑が可愛く思えてしまうくらいには毒されてしまった。
傑の仕事内容を知らないわけじゃない。
詳しく聞いた事はないし、傑も知らせようとしないし、関わらせようともしない。
なんとなくの予想でしかないが、私はそれを受け入れて傑といる。
「馬鹿で真面目で不器用な人だけど
私を置いて行かないから」
自分の歩む道の邪魔になるであろう私を、傑の我が儘で共に居させてもらっている。
「可愛い娘達の子育てに、理解ある旦那がいて私は幸せだよ」
「……ムカつく」
「だからアンタとは一緒に行けない」
あ、ここのケーキ美味しい。
みぃちゃんとなぁちゃんと今度来よう、と頭の中で決める。
傑とも来たいが、まずあの袈裟で出歩かないで欲しい。
「名前なら絶対僕にメロメロで待っていると思ったのに」
「間違ってはいないかなー。
旦那と会う前まではずっと待っていたし」
「何で沖縄だったの?」
「うわ……それすらわかんなかったとかオマエまじクズか」
冷めた瞳で白髪を見る。
本気でわかっていないこの男の横面を殴っても私許される気がした。
「一緒に行こうって約束」
「……あー」
「アンタが見た景色を私も見てみたかった」
「……ごめん」
「別に今さら気にしてないよ。
職場に惚れたって事もあったし、悪いことばかりじゃなかった。
アンタが探しに赴いてくれていたってわかっただけでもあの頃の私は救われた」
何度も後悔したし、もう2度と恋が出来ないんじゃないかと思うくらい惚れていた自覚はある。
だが、そんな事は杞憂に終わり私はまた恋をした。
「あんたと同じくらい、いい男だと思ってるよ」
「そこまで言われたらどうしようも出来ないじゃん」
「同じくらいクズなとこもあるが」
「………」
「幸せだよ」
真っ直ぐに白髪を見れるのは、傑のお陰。
白髪は両手を上げて降参、と言った。
「ここの支払いは結婚祝いとして僕が払うよ」
「あら、ありがと」
「……人妻が癖になりそうなんだけど?」
「他人のご家庭を壊すような発言はお控えなさって?」
「僕と遊ぶ気は?」
「あらやだー、もうこんな時間!
可愛い可愛い娘が旦那と待っているから帰らせてもらうね!」
「この野郎」
アデュー、とおでこから指を離して席を立つ。
じっとこちらを見つめる白髪にそうだ、と思って身を屈める。
「白髪、耳貸せ」
「なに?」
耳を此方に向けてくれたので、顔を近付ける。
ーーーずっと悟が好きだった。
ポカン、とした顔をしていたが耳を抑えて此方を見る白髪。
私はその反応にケラケラ笑う。
「じゃーね」
「ちょっ!!おまっ」
「私だけモヤモヤしてた青春時代をオマエにもお裾分けだ馬鹿野郎」
店から出ると、なぜかタイミング良く傑から電話。
「もっしもーし」
"キミ今どこに誰と居るんだ?"
「あらやだ。ストーカー?」
声が低い。
これ完全にバレてるし、今もどこかで見張っていそうだなこりゃ。
キョロキョロと辺りを見回すが、それらしき人物は見当たらない。
「どこにいるの?」
"私の質問に答えてないよ"
「どこから見ていたのか知らないけど不可抗力ですぅー」
"誤魔化す気かい?"
「あ、ちょっとタピオカ買っていい?」
「人の話は聞いてくれないかな?」
後ろから肩に腕を回され、聞きなれた声。
見上げれば白のTシャツに黒のサルエル姿の傑が。
「珍しく教祖姿じゃない」
「目立つからね」
「何時からあとつけてたの?」
「途中からだよ」
「どの途中だよ」
にっこり笑って誤魔化される。
歩き辛いので肩から腕を外して腕を組めば、お土産の焼き小籠包を持ってくれた。
「タピオカ飲む?」
「蛙の卵飲んで美味しいかい?」
「それ言ったらアカンて」
久々に傑と二人きりでぶらぶら気になった店を見回る。
帰りは傑の呪霊での帰宅だ。
「で?何で悟と居たんだい?」
「覚えてたのか」
「私に隠し事なんて酷い妻だねぇ。浮気かい?」
「顔は笑っているのに目が笑っていないわよダーリン」
星空の輝くお空デートなんて甘いものではなく、ただの逃げ場のない尋問タイムだ。
「声掛けられたけど私白髪だとわかんなくてさ」
「ダウト。そんなわけないだろ?」
「数年見ぬ内に包帯で目隠しする黒ずくめの男が知り合いだと思う?」
「その引いた顔止めてあげな」
「普通に不審者かと思って警察に連絡したらスマホ奪われてさ。
電話自体はどーでもいいが」
「良くないよ」
「ほら、これ。みぃちゃんとなぁちゃんがくれたストラップ付けてるから」
「名前が初めて二人から貰って泣きながら崩れ落ちたやつかい?」
「そうそう。
だから返して欲しいなら着いてこいと連行されたのさ」
傑がストラップを触る。
可愛い娘達からのプレゼントを嘘でも要らないなんて言えるわけないだろう。
「名前は優しいね」
「で、熱烈なアプローチをされたわけですが」
「は?」
「痛いって。ゴリラ、おいやめろ」
思いっきり腹に回った腕で絞められた。
その腕をタップするが、緩まらない。
「それで?キミは悟に絆されたのかい?」
「いやー、驚いたわ。
顔は相変わらず綺麗だったが、まっったくトキメキがなかった」
あれだけ好きで惚れていたのに。
「我が家のダーリンの惚気を溢したら降参された」
「………そうかい」
「照れた?照れた?ちょっとその顔此方に見せてごらんよ」
「うるさいよ」
片手で口元を隠して顔を背ける傑。
面白いので手を退かして顔を見れば頬がほんのり色付いている。
可愛らしい傑の一面が面白いので頬に唇を寄せる。
「安心しなよ。未練はないから」
「本当かい?」
「未練があるなら入籍なんてしない」
左手で握った傑の左手。
二人共に同じプラチナの指輪が薬指にはまっている。
「私は白髪より傑と歩む事を選んで後悔はしてない。だから今さら白髪にアタックされてもなーんも思わないよ」
「そうか」
「傑は心配性だねぇ」
「嫁が人タラシだから心配が尽きないんだよ」
「あらあら、魅力的な奥さんなのね」
「そうだよ。私の奥さんは魅力的さ」
額や頬に唇を寄せる傑。傑の髪の毛が顔や首筋に触ってくすぐったくなり笑ってしまう。
「あ、けど私ばっか好きでモヤモヤしていたの腹立つから、好きだったよーって言った時の顔は面白かった」
「は?キミ何やってんの?」
「いひゃい」
「そんな事したら悟の場合絶対追うだろ」
ぐにぐに頬を引き伸ばされる。
いや、だってねー?
「人妻趣味になりそうってさ」
「人の性癖を変えるのは良くないよ」
「性癖人妻は傑のネタなのにね?」
「何年そのネタ引きずる気だい?」
「傑はよちよちプレイかSM願望があるタイプなのに。親友をわかってないな」
「いい加減黙らないと野外でこのまま縛って泣かせて突っ込むよ」
「さーて、娘達が待ってるから早く帰ろうか!!!」
やっべ。
これ以上は傑は本当にやる。
色々自分に素直になったこの男ならまじで有言実行する。
「まったく……本当飽きないよ」
後ろからのし掛かる傑に、私も寄りかかる。
お互いの手を絡めて握る。
「傑だーい好き」
「私も好きだよ」
私達は知らない。
この先、すぐに別れが訪れることを。
「みぃちゃんなぁちゃんただいまーー!!」
「「遅い」」
「すまない、二人とも」
「「夏油様!!お帰りなさい」」
「わぁ、面白いほどの差」
その時までは
笑って
「これお土産だよ」
「わぁ!!ありがとうございます夏油様!!」
「……ありがとうございます」
「二人とも、それ私からだからね?
傑は渡しただけだからね?」
「でもお金は夏油様のじゃん」
「正論」
クソッ、と床に崩れ落ちる。
どんなに打ち解けても双子の夏油様への愛は越えられない。
「生まれたばかりの雛の夏油様の刷り込みには勝てない……」
「キミにそう呼ばれると馬鹿にされてる気がする」
「幼女に夏油様呼びさせる旦那だが愛してる」
「ははは。やっぱり縛ってしつけ直しが必要かな?」
笑いながら距離を詰めてくる傑に対し、私はカバディしつつ逃げる。
カバディやったことないが、山崎はカバディカバディって両手を広げてたからそれを参考に。
くいくいっ、と私の服の裾を引っ張る双子。
「名前もありがと」
「選んでくれたのが名前だってことくらいわかるよ」
「「ありがと」」
「……みぃちゃんなぁちゃん大好きーーー」
双子を抱き締める。
文句を言いながらも、笑う双子。
そんな私達を見て傑も笑う。
「ほら、皆ご飯にしよう」
その日が来るまで
あと少し
この幸せを。
あとがき
リクエスト「夏油が迎えにきたらの続きで五条悟と遭遇したら」
遅くなってしまいましたが、お待たせしました。
この後百鬼夜行とか考えたくないし、
悟√に戻ったら絶対軟禁。
脳ミソ√なら悟と対峙。
家族√なら病みそう。
もう少し傑とイチャラブ感出したかったなー。
リクエストありがとうございました!!
これからもよろしくお願いいたします!