十万企画
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※IF世界
※以前書いた、全員生存ハッピーエンド√に近いかもしれませんが、それでもよければ。
「えーっと……」
なんやかんやあり、悟と傑が星奬体と付き人を連れて戻って来た。
「悟?いくら好きな子が出来ても誘拐はいけないと思うの」
「はぁぁあああああ!?
俺がいつこのちんちくりんを好きだって言った?」
「冗談だよ」
「やめるのじゃ!!頭の手をどけるのじゃ!!」
「悟、やめるんだ」
星奬体も新しい子が見つかり、天元様も無事安定している様子。
星奬体の子は今後自由に生きることができるようになったのだが……それは呪術界からのサポートも無くなるということ。
星奬体だった彼女が受けていたサポートを同化の拒否と共に全て打ち切られた。
天涯孤独となった天内理子という少女は今後、国の補助を受けて生きなければならないが……此方の理由で彼女の自由を奪い、用が無くなれば知らぬ存ぜぬな上の判断に嫌気がさす。
「どーにかできないかい?先輩」
「そうだなぁ」
出来そうな事は正直無い。
いくら御三家の名を使おうと上が納得するとは思えない。
「ごめんね。多分出来ることは無いかな……
黒井さん、でしたか?」
「は、はい!!」
「貴女さえ良ければ仕事を紹介することは出来るの。
ただ、貴女が天内さんの保護者としてこれからも一緒に生活することが前提になるんだけど」
「いいんですか……?私が理子様の側に居ても……っ」
「天内さんまだ中学生だよね?
生活面とか諸々一人でどうにかするには難しいだろうし……手続きとか保護者がいた方がやりやすいだろうから、上と掛け合ってみるよ。
今までと同じ学校に通うことは難しくても……一般人として通うのは問題ないはずだよ」
「ありがとうございますっ!!」
「悪いね、先輩」
「いやーぶっちゃけ既に上とやりあった時に打診はしたから多分事務の人がのちのち手続きしてくれると思う」
「は?」
傑が聞いてない、というようにこちらを見る。
まぁ相談する前に色々手を回したのだから、知らなくて当然だ。
「つーか!!!
何でソイツが!!居るんだよ!!」
「あ?」
まったりと私の横でくつろぐのはおにーさん。
そう……私が上とやりあった原因だ。
「一応この人私の身内だからさ……問題起こした事に禪院は関係ないって騒いでいたけど」
「事実俺はアイツらと縁切ってるからな」
「馬鹿みたいに強い野良犬を放置して呪術界に大打撃受けていいなら放置しますけど、私も禪院も関係ないですよねーって笑顔で言っておいた」
「今すぐオマエは皆殺しに出来る力はあるぜって脅した時の顔は面白かったな」
「ただの鉄屑が凶器になると思わないよ」
「普通にオマエら怖いんだけど」
「大和、いたの?」
「いたよ!!」
禪院の名前をごり押しに色々我が儘を言ったので、のちのち禪院から呼び出されることは間違いないだろう。
今度はどんな無理難題を押し付けてくることやら……。
「まぁ、黒井さんも天内さんも今までと同じ暮らしのレベルは無理だけど、最低限の生活は保証されるはずだよ?」
「いいえ!理子様と一緒に居られるように取り計らってくださっただけで……っ!!
ありがとうございます!」
「手続き終わるまでは高専の空いてる女子寮を使えるようにしておいたよ」
「何から何まで本当に……っ、ありがとうございます!」
何度も頭を下げる黒井さん。
大したことは出来なかったし、後々大変になるのは黒井さんと天内さんだ。
「で?」
「近いなぁ、悟」
「コイツ何でここにいるんだよ」
ずいっ、と顔を近付けてくる悟。
私は呑気に珈琲を飲む。
にやにやとしながらソファーの隣に腰掛け、私の肩に腕を回すおにーさん。
「そりゃあ俺と名前の仲だからなぁ?」
「あ"?」
「悟、挑発に乗るな」
「名前、弱い奴らが吠えてるぜ?」
「………悟、隠蔽作業なら協力するよ」
「おにいさん、煽らないで。
悟と傑は直ぐに喧嘩するの良くないよ」
目の前で唸る悟と傑。
隣で楽しそうにしているおにーさんの頬を軽く叩く。
「おにーさんは私預かり。
呪術師殺しを放置しておけないでしょ?
拘束するにも……」
拘束されたがご自慢の筋肉で抜け出した時は周りも頭を抱えた。
「コイツの側に居ていいなら暴れねぇって条件だからな」
「はああああああ!?」
「先輩頭狂ってるんですか?」
「酷い言われよう」
「おにいさんを監視出来るのが現時点で私しかいないの」
馴れ馴れしく腰を抱き寄せるおにーさんの腕を叩く。
「今すぐソイツぶん殴って締め上げる」
「やれるならな」
「………ってことはさぁ
そのおにーさん名前と同室で寝食共にするってこと?」
大和の言葉に悟と傑の動きが止まる。
「そういうことになるかなぁ」
「まじか。名前襲われるじゃん」
「平気だよ。昔はよく一緒に寝てたし」
「昔と今は違ぇだろ」
「おにーさんなら大丈夫だよ」
「………誰にでもんなことしてんのか?」
「やだな、人は選んでるつもりだよ」
にっこりおにーさんを見上げれば、大きな手で顔を覆われる。
その手にすり寄れば、頭を撫でてくれるので嬉しくなる。
が、突然傑によって勢いよく引き剥がされ、目の前には悟が立っている。
「「殺す」」
「物騒だってば」
「この空気作った本人が呑気なのが理解できねー」
「大和?」
短気な二人を落ち着かせる。
私はおにーさん関連の書類が山ほどあって忙しいんだからちょっと落ち着いて欲しいのに、なぜか悟に抱き締められる。
「ぜっっっったい駄目。一緒の部屋なんて許さない」
「悟に許されなくても決定事項だよ」
「先輩はそもそもどうしてご自身を大切にしないんですか?男と二人きりとか子供の頃と今とじゃ違うってわからないんですか?馬鹿ですか?」
「傑が心配するような出来事なんてないって」
「俺とソイツどっちが大事!?」
「彼女みたいな台詞だね」
のらりくらりと二人の文句を交わす。
おにーさんは自分のことなのにもう気にしておらず、大きな欠伸をしてソファーに寝転がりはじめた。
「俺がいるのに他の男と寝る気かよ!!!」
「悟……私達、付き合ってないよ?」
「名前のばーか!!!ばーかばーかばーーーかっ!!!!」
怒って出ていった悟。
私はやっと静かになったので、おにーさんが寝転がるソファーの下に座って書類に手をつければ、おにーさんによって抱き上げられソファーに座らされる。
「女が床に座ったら身体冷やすだろ」
「おにいさんが寝てるからじゃん」
「オマエが座るスペースくらいあんだろ」
おにーさんが許可したので、そのまま再び書類作業をしていれば、呆れた傑のため息が。
「先輩、あまり悟を虐めないでくださいよ」
「後から構うよ。傑もきちんと休むんだよ?」
ひらひらと手を振れば、傑も自室へと向かって行った。
うるさいのもいなくなったのでゆっくり書類をしようと手にすれば、視線を感じた。
顔を上げれば天内さんがじっと此方を見ている。
「どうかした?」
「えっと……あの…」
「あぁ、女子寮がわからない?それなら今から案内するよ。沖縄行ったり忙しかったんだよね?」
「違っ!!」
「どうしたの?」
天内さんは何か言いたそうに口を開けては閉じていた。隣の黒井さんが暖かい眼差しで見守っていた。
私が何もしなくても、この二人なら大丈夫だったかもしれない。
「あ、のっ!!」
「なぁに?」
「あ、あいつ……とは!!どんな、関係なの?」
「あいつ?」
「白い方……」
もじもじとしながら此方の様子を伺う天内さん。どんな関係……と、言われても
「後輩だよ?」
「そ、そんなわけないのじゃ!!奴はずーーーっと沖縄でも誰かに連絡していたし、奴の携帯に貼られていたのはアンタだったのじゃ!!」
「……待ち受け?」
「え?五条の待ち受けって名前なの?井上じゃないの?」
「巨乳の待ち受けにしていた気がしたけど……」
「だよな」
実はまだいた大和と思い出すのは数日前、ビキニ姿の胸が強調された待ち受け画面の携帯が放置されており、大和と見ていた。
すぐに悟によって回収されたが、私ではないことは確かだ。
「待ち受けではなく裏のカバーなのじゃ!!」
「大和、知ってた?」
「知らね。けどお前五条とプリクラ撮ったの?」
「撮った覚えはないなぁ」
ってことは、悟の日々の勝手に撮った写真のどれかを携帯に仕込んでいるってことかな?
可愛らしいことをしているな、とくすくす笑えば頬を膨らます天内さん。
「確かに沖縄の写真は送られてきたけれど、悟は可愛い後輩だよ」
「しらばっくれても駄目なのじゃ!!」
「本当だよ。悟がどう思っているか知らないわけじゃないけれど、私からしたら悟は可愛い後輩以上でも以下でもないんだ」
私の言葉に納得がいかない、とでもいうような表情。
「悟ならきっと外の自販機のところじゃないかな?
あまりウロウロするのは良くないかもしれないけど、寮の近くなら何も言われないと思うよ」
行っておいで、と送り出せば小走りに行ってしまう。黒井さんもオロオロとしていたが、頭を下げて天内さんを追い掛けた。
「意地悪な女になったな」
「起きてたの?」
「あの子、五条のこと好きなんかな?」
「んー……任務で芽生えた恋心?」
「星奬体と五条の坊がくっついたらどうするんだ?」
「………私が口出せる立場ではないよ。
そもそも私には婚約者がいるからね」
「出た。ご都合の良い婚約者」
「は?チビあの家の言いなりになってんのかよ」
「おにーさん聞いてくれる?この子ったら五条がだーい好きなくせに、家のゴタゴタに巻き込みたくなーいなんて言い訳して逃げ回っているんですのよ!!」
「ほぉ?」
「大和、まじビンタするよ」
「ストップストップ。胸ぐら掴むの良くない。平和に会話しよう」
おにーさんの前で余計な事言わないで、と大和を睨み付けるものの、全てを理解したようなおにーさんはにやにやしながら此方を見ている。
「チビ、あのガキに嫉妬してんのか」
「そんなんじゃないよ」
「素直にならねーと損するぞ」
「……別に、嫉妬とかじゃなくて」
私みたいな面倒を抱えた女よりも、守ってあげたくなるような天内さんみたいな子の方が悟にとって幸せになれるをんじゃないかと思った。
「私よりも天内さんの方が魅力があると思ったの」
「ふーん。俺はチビより魅力ある女はいねぇと思うけどな」
ゴロリ、と寝返りを打つおにーさん。
話はもう終わりだとでも言うように背を向けてきたので、そっとしておく。
「オマエさぁ、絶対五条にあの女の子押すなよ?」
「なんで?」
「絶対五条ブチ切れるから」
「そーかな?」
「あ、やろうとしてるだろ?諦めろって。
五条が名前を諦めるわけねーんだから」
ニヤニヤする大和を書類の束で殴り付ける。
そろそろ本格的に書類に取りかかろうと集中する。
「ま、あの女の子も五条に惚れてるわけじゃなさそうだし心配すんなって」
「他人の恋心に気付けるならまずは自分の恋心をもっとどうにかしたら?」
「うるせーよ。オマエには言われたくねーし」
恋愛下手な先輩二人はお互いに罵倒し合う。
「あああああああっ」
「うるせーよ天内」
自販機の近くのベンチに座り、頭を抱える抱える天内と、ジュースを飲む五条。
「あんなこと言うつもり無かったのに!!」
「何言ったんだよ」
「受けとり方によっては、理子様が五条様に気があるような発言を少々……」
「何やってんの?このチビ。そうじゃなくても手強いのにややこしくしやがって」
「痛いのじゃ!!やめるのじゃ!!」
「何しているんだい?」
「傑じゃん」
ラフな姿となった夏油が自販機で飲み物を買う。
天内と黒井にも飲み物を買って渡すとその場にしゃがみこんだ。
「名前は?」
「例のおにーさんと談話室でべったりさ」
「やっぱボコる」
「大和先輩も一緒だよ」
「こういう時の大和の空気の読めなさ尊敬するわ」
「そうだね」
再びイライラし始めた五条。
天内がそっと五条を見つめていれば、その視線に気付いた五条が天内の額を小突く。
「さっきからなんだよ」
「お主、そんなにアピールしているのにまったく相手にされてないな……」
「憐れんだ顔すんな」
「可愛い後輩以上でも以下でもないって言ってたぞ」
「アイツ……」
「理子ちゃんは先輩に何を話したかったんだい?」
夏油が聞くと、天内は自分のスカートを握りしめる。
「……あの人、私と話していないし…任務だって関わってないのに」
思い出すのは、呪術師殺しの襲撃。
五条が刺され、夏油だって打ちのめされた。
そこへ現れ、あの男を口だけで言いくるめて止めてしまった。
負傷者は出たが、死者は一人も出さなかった。
「本当ならあの男の人の対応だけでも大変なのに……私や黒井のことまで気にして、上の人に掛け合ってくれていた。
私の我が儘で同化を拒否したんだから呪術界から見放されても仕方ないのに……黒井と一緒に居られるようにしてくれた!!
私……まだ、一言もお礼言ってない……っ」
命を救われただけじゃない。
将来の事を考え、黒井と共に生きる道を用意してくれた。
どうして他人のためにそこまで……。
「それが名前の良いところで悪いところなんだよ」
「あの先輩は何でも一人で抱え込んでしまうんだ」
笑う五条と夏油。
「馬鹿みたいにお人好しで、何でも抱え込むくせに手を貸して欲しいって頼まないし」
「頑固で強がりなくせに臆病だから困った人なんだよ」
「全部俺にぶん投げてさっさと落ちてくるなら受け止めるっつってんのに」
「相変わらず愛が重いね」
「大好き過ぎてもう襲って既成事実作った方が早い気がする」
「その場合悟への信頼は一気に無くなるね」
真面目な顔をしながらあまり良くない内容を話し出す二人に黒井はそっと天内の耳を塞いだ。
「理子ちゃんは先輩にお礼を言いたいのかい?」
「……うん」
「先輩はきちんと話を聞いてくれるよ」
「けど、私……絶対勘違いさせちゃった……」
「………何をしたんだい?」
天内が名前へと言った言葉を黒井が説明すると、苦笑する夏油。
「いっそのこと嫌だけど私がコイツを好きなことにして、嫌だけどあの人に気持ちを自覚させてヤキモチを焼かせればいいのじゃ!!嫌だけど!!」
「何度も嫌だっつってんじゃねーよ。
俺の方が嫌だわ。名前がそう簡単にヤキモチ焼くわけねーだろ」
「むしろお幸せにって本気でくっつけようと協力しそうだね」
「嫌なのじゃ!!」
「こっちだって嫌だっつの!!」
お互いに頬を引っ張り合う天内と五条。
兄妹のようなやり取りに苦笑する黒井と夏油。
「そもそもどうして理子ちゃんは悟に気があるような発言をしたんだい?」
「うっ……そ、れは……」
「なんだよ」
気まずそうに五条を見る天内。
「……怒らない?」
「聞いてから考える」
「お、怒るなら言わない!!」
「怒らねーから言えよ」
「絶対怒らない?」
「しつこい」
「………携帯の裏のカバーの中を見た」
「……はああああああ!?いつだよ!!」
「遊んでる時にお主が外して眺めていたじゃろ!!」
「……あああああっ!!くそっ!!」
ガシガシと頭をかく五条。
何事かと頭を傾げる夏油。
「携帯のカバー裏?」
「あの人の写真が貼ってあったのじゃ」
「言うなよ!!」
「悟……」
「そんな目で見んなよ傑。待ち受けにしてたら見られるだろ」
照れて顔を手で覆う五条。
「遊んでいた時も、ちょこちょこ誰かに連絡していたし……」
「先輩への連絡はいつものことだよ」
「そこまで誰かを好きになれるって……どんな気持ちなんじゃ?」
誰かに恋をするなんて無かった。
いつか自分は天元となり、いなくなるならそんな気持ちを抱くなど無意味。
虚しさだけが残るならそんなものいらないと思っていた。
友達から聞く恋話も、漫画で見る恋も皆が一途でキラキラしていて、幸せそうにしていた。
私には理解出来ない、女の子が綺麗になる魔法。
男も例外ではなく、五条を見ていれば一目でわかった。
恋をしていて、幸せそうで、楽しそうに輝いていた。
「けど、あの人はお主の気持ちに気付いていても答えようとしていない。
それって……どんな気持ちなんだろう、って思って」
恋をしたことがないから、恋に憧れる。
「恋をするって……愛されるって、どんな感じか、聞きたくて」
「は?何で名前に聞こうと思ったの?」
「お主みたいな女を手玉に取って遊んでいそうな顔だけのチャラ男が携帯のカバー見て幸せそうにしているのを見ていたら……気になっただけじゃ」
「言い方に悪意あるだろ」
「痛いのじゃ!!やめるのじゃ!!」
ギリギリと頭を締め付ける五条から逃げ出そうともがく天内。
「つまり理子ちゃんは恋がしたいのかい?」
「気になるだけだもん!!」
こんなこと恥ずかしくて言えないのに、ズケズケと言う夏油を睨み付ける。
「理子様は女子中高の学校でしたし、恋愛なんて余裕はありませんでしたからね」
「身近で携帯見てニヤニヤ浮かれていたのに、実際は後輩止まりであしらわれている悟と先輩に理解が出来ない、と?」
「だって、普通友達や漫画ではもっとお互いにソワソワしてて!!
あんな……あんなまっったく興味無さそうにあしらわれているのを見ていたら、こやつの一人浮かれた姿が哀れで……」
「オイ」
再び五条に頭を締め付けられそうだったので、夏油の後ろに隠れる。
「俺と名前はこれからだからいいんだよ」
「悟のクッソ重たい愛情に先輩が受け流すくらいが丁度いいんだよ」
飲んだ空き缶を潰してゴミ箱へ。
そのまま歩きだした五条。
「私……余計な事しちゃったかな…」
「理子様…」
「理子ちゃんのせいじゃないよ。
あの二人は不器用で面倒な恋をしているから……理子ちゃんの知るものより少し複雑なんだ」
自由になりたいと言いながら、自ら篭の中に入ろうとする名前。
篭の目の前で名前が入らないようにする五条。
「甘え方を知らない先輩は自分の力しか信じていないんだ」
「………」
「悟はそんな先輩の事情なんか関係無いと、あぁしてアピールし続けているんだよ」
カバーの裏は初めて知ったよ、と笑う夏油。
「後でまた談話室を覗いてごらん」
「?」
面白いものが見られるよ、と笑って言う夏油。
なんの事かわからないが、名前へお礼を言えていない状態なので必ず言いに行こうと決めた。
書類も粗方片付いたし、おにーさんにもある程度受け入れてもらった。
私としては散々ほったらかしていた子供のところに置きたいが、この人がまともに世話出来るとは思っていない。
多少の監視と高専からの依頼で食べていける金額は貰える。
「終わった?」
「悟?まだ起きていたの?」
「さっきからずっと居たけど」
後ろから髪の毛を弄る悟。
まったく気付かなかったわけじゃないが、悟相手に気を許し過ぎている気がする。
「アイツは?」
「部屋で寝てるよ」
「自由かよ」
「おにーさんは基本自由な男だよ」
書類をまとめて背伸びすれば、真上から悟が覗いている。
拗ねたような、何か言いたそうな顔が面白くて手を伸ばし、ぐしゃぐしゃと頭を撫でる。
「天内さんと随分仲良くなったのね」
「絶対勘違いすんなよ」
「天内さんは悟か傑に惚れてもおかしくないと思うけどな?」
「だとしても俺の気持ち知ってて言うなよ」
苦しそうに歪められた顔。
コツン、と額同士が合わさる。
目に悟の前髪が当たってくすぐったい。
「私よりもずっと可愛くて悟とも仲良くやれそうだと思うけどな」
「うるさい」
「ふふふ、私って愛されてるなぁ」
「そのまま俺に落ちろよばーか」
「さぁ?」
「結婚して」
ぐりぐりと額を擦り付けてくるので、軽く痛い。
頭をぽふぽふと撫でれば立ち上がり隣へと座ってきた。
そのまま私の肩に頭を乗せる。
「強いな、アイツ」
「そうなの。自慢のおにーさんなんだ」
「腹立つ」
「あと数日は高専に居るから手合わせしてもらいなよ」
「絶対負かす」
「悟は伸び代が凄いもんね。期待しているよ」
「負けると思ってるだろ」
「私の師匠だよ?」
「負けねぇ」
悟の温もりが気持ちいい。
ふと、視界に入った悟の大きな手に自分の手を重ねる。
長い指を滑るように触り、指と指を絡ませてギュッ、と握ると悟も同じように返してくれる。
「名前」
「なぁに?」
「ただいま」
言ってなかった、と幼い顔で笑う悟。
「おかえりなさい、悟」
「はぁー、結婚しよ」
「しない」
体重をかけてくる悟に笑いながら頭を撫でる。
こんな一時が幸せだと思えるし、こんなに幸せでいいのか?とも思う。
「ハ……ハレンチじゃ!!」
「「ん?」」
入り口を見れば、顔を赤くしてわなわなと震えている天内さん。
「邪魔すんなよ天内」
「つ、付き合ってもいないのにハレンチなのじゃ!!」
「何もしてねーよ」
「空気が甘過ぎて砂糖吐きそうじゃ!!」
「恋愛初心者には厳しかったか?」
「うるさい!!」
「君たち、今何時かわかってる?」
夜に騒ぐものではございませんよ、と言えば黙る二人。
「さて、私はこれから事務行ってくる」
「俺も付き添う」
「あ、あの!!」
天内さんに呼び止められ、どうしたのかと見つめれば、金魚のように口をパクパクさせて泣きそうな顔になる。
「外で待ってるわ」
一緒についていくのは悟の中で決定事項らしい。
通り過ぎる間際、天内さんの頭を軽く叩く悟に文句を言う姿はどこか兄妹のようだ。
「…………あ、あの」
「うん?」
「あの……」
「ゆっくりでいいよ」
顔を赤くして泣きそうになる天内さん。
どうやら私に何か話がしたいらしい。
ソファーの横を軽く叩くが、首を横に振られる。
どうしたものか……と困ってしまうが、入り口に顔だけ覗かせる黒井さんと傑の姿。
外で待っていると言ったのに、足が見えている悟。
どうやら皆、可愛い末っ子のような天内さんを心配で見に来たらしい。
目が合うと苦笑する傑と黒井さんに私も笑ってしまえば、天内さんが不思議そうに此方を見る。
「……あ、あの…ね」
「うん」
「私と……黒井を助けてくれて……ありがとう」
「私はたいしたことしていないよ?
傑と悟が頑張ってくれたから、お礼を言うなら二人に言ってあげて?」
「それもあるけど!!
黒井は……私が星奬体だったから、側に居てくれただけで……これからも黒井と一緒に居させてくれるようにしてたのは貴女でっ」
「それは違うよ。
私は少し後押ししただけで、天内さんと一緒に居たいって願ったのは黒井さん本人」
私はそうなればいい、と思っていただけで黒井さんの未来を私の勝手で押し付ける気は無かった。
黒井さんに天内さんと共に過ごす意思が無いのなら、違うサポートも考えていたのだ。
けど、黒井さんは自ら天内さんと共に居られる道を喜んで受け入れた。
「黒井さんが義務ではなく側に居ることを選んだのは天内さんの力だよ」
「けどっ」
「天内さんが黒井さんを大好きだから、黒井さんもその気持ちに答えた。
ほら?私は何もしていないよ」
「〜〜〜っ」
「……今まで頑張ったね。
これからは普通に生きてね」
天内さんの頭を撫でると、ぽろぽろと涙を流してしまった。
あら、やらかした……と思って抱き締めれば、声を出して泣かせてしまった。
黒井さんはハンカチに顔を埋めて泣いているし、傑と悟のなーかした、なーかしたって顔に苦笑してしまう。
少し時間が経ち、落ち着いた天内さん。
「明日目が腫れないように寝る前に冷やしてね」
「………あの」
「ん?」
「お主……どうして奴の気持ちに答えないの?」
「んん?」
まさかの質問に頭を傾げる。
入り口では顔を輝かせる悟と傑と黒井さん。
「あんなにアピールされておるのに……お主だって、あんな……ハ、ハレンチな空気を受け入れて……」
「うーん……慣れ、かなぁ」
「誤魔化すのは良くないのじゃ!」
さっきまで泣いていたのに、今は興味津々に聞いてくる姿に笑ってしまう。
天内さんの頭を撫で、笑っている姿が一番いいと思ってしまう。
「私が臆病なの」
「?」
「今が一番幸せだと思えるから……これ以上の幸せを受け入れてしまえば、きっと天罰が落ちちゃう」
「でもっ」
「私はもう、充分幸せだよ」
だから、私の幸せはこれ以上望まない。
その代わり、私以外の誰かの幸せを願う。
「天内さんは私みたいになっちゃ駄目よ?」
面倒で、臆病で、逃げ回る私みたいな恋はしない方がいい。
「……お主が逃げても奴は諦めないと思うぞ」
「困った子だよね」
「……私は、奴にもお主にも幸せになってほしい」
「ありがとう」
優しい子。
天内さんだからこそ、悟も傑も助けようって思ったのかもしれない。
「ちゃんと目を冷やしてね?黒井さんも」
「えっ!?」
「理子様ぁっ!!」
「く、黒井っ!!いつから!?」
「そこは俺への気持ちを受け入れるべきだと思いまーす」
「ほらほら、もう夜だから騒がない」
天内さんを黒井さんに任せ、書類を持つ。
「じゃあ皆きちんと寝るんだよ?」
「先輩、気をつけて。悟、襲うなよ?」
「襲わねーよ」
傑と黒井さんと天内さんに手を振る。
悟はやはりついてくるらしい。
「……不器用な人」
「そうだよ。あんなに想い合っているんだからさっさとくっつけばいいのに」
夏油の視線の先では、五条が名前の指に指を絡ませていた。それに答えるように名前も五条の指に自分の指を絡ませて握り返しているのが見える。
夏油の横顔を見て、天内は気付く。
その眼差しが苦しそうでもあり、穏やかなことに。
「お主……」
「さて、いい子は寝る時間だよ。
おやすみ、理子ちゃん。黒井さん」
それ以上は言わせない、とでも言うかのように天内の頭を撫でる夏油。
そして自分も部屋へと戻っていく。
「……不器用な奴ばかりじゃな」
「そうですね」
自分を救ってくれた不器用な人達が
未来を笑って過ごせますように……。
天内は願う。
自分に未来を与え、幸せをくれた幼いヒーロー達も幸せになる未来を。
あとがき
リクエスト「天内生存で先輩と出会うとどうなる?」
天内の話し方が迷子でごめんなさい!!!
先輩のIFハッピーエンド軸に近い話になったかなー?
天内生きていたら、おにーさんも生きる!!
だってパパ黒幸せになってくれぇぇええええ!!
ちなみに高専寮、アニメ見た感じだと談話室とか無さそうだし、設定資料見ていないので
談話室ありに捏造しております。
リクエストありがとうございました!
これからもよろしくお願いいたします!
※以前書いた、全員生存ハッピーエンド√に近いかもしれませんが、それでもよければ。
「えーっと……」
なんやかんやあり、悟と傑が星奬体と付き人を連れて戻って来た。
「悟?いくら好きな子が出来ても誘拐はいけないと思うの」
「はぁぁあああああ!?
俺がいつこのちんちくりんを好きだって言った?」
「冗談だよ」
「やめるのじゃ!!頭の手をどけるのじゃ!!」
「悟、やめるんだ」
星奬体も新しい子が見つかり、天元様も無事安定している様子。
星奬体の子は今後自由に生きることができるようになったのだが……それは呪術界からのサポートも無くなるということ。
星奬体だった彼女が受けていたサポートを同化の拒否と共に全て打ち切られた。
天涯孤独となった天内理子という少女は今後、国の補助を受けて生きなければならないが……此方の理由で彼女の自由を奪い、用が無くなれば知らぬ存ぜぬな上の判断に嫌気がさす。
「どーにかできないかい?先輩」
「そうだなぁ」
出来そうな事は正直無い。
いくら御三家の名を使おうと上が納得するとは思えない。
「ごめんね。多分出来ることは無いかな……
黒井さん、でしたか?」
「は、はい!!」
「貴女さえ良ければ仕事を紹介することは出来るの。
ただ、貴女が天内さんの保護者としてこれからも一緒に生活することが前提になるんだけど」
「いいんですか……?私が理子様の側に居ても……っ」
「天内さんまだ中学生だよね?
生活面とか諸々一人でどうにかするには難しいだろうし……手続きとか保護者がいた方がやりやすいだろうから、上と掛け合ってみるよ。
今までと同じ学校に通うことは難しくても……一般人として通うのは問題ないはずだよ」
「ありがとうございますっ!!」
「悪いね、先輩」
「いやーぶっちゃけ既に上とやりあった時に打診はしたから多分事務の人がのちのち手続きしてくれると思う」
「は?」
傑が聞いてない、というようにこちらを見る。
まぁ相談する前に色々手を回したのだから、知らなくて当然だ。
「つーか!!!
何でソイツが!!居るんだよ!!」
「あ?」
まったりと私の横でくつろぐのはおにーさん。
そう……私が上とやりあった原因だ。
「一応この人私の身内だからさ……問題起こした事に禪院は関係ないって騒いでいたけど」
「事実俺はアイツらと縁切ってるからな」
「馬鹿みたいに強い野良犬を放置して呪術界に大打撃受けていいなら放置しますけど、私も禪院も関係ないですよねーって笑顔で言っておいた」
「今すぐオマエは皆殺しに出来る力はあるぜって脅した時の顔は面白かったな」
「ただの鉄屑が凶器になると思わないよ」
「普通にオマエら怖いんだけど」
「大和、いたの?」
「いたよ!!」
禪院の名前をごり押しに色々我が儘を言ったので、のちのち禪院から呼び出されることは間違いないだろう。
今度はどんな無理難題を押し付けてくることやら……。
「まぁ、黒井さんも天内さんも今までと同じ暮らしのレベルは無理だけど、最低限の生活は保証されるはずだよ?」
「いいえ!理子様と一緒に居られるように取り計らってくださっただけで……っ!!
ありがとうございます!」
「手続き終わるまでは高専の空いてる女子寮を使えるようにしておいたよ」
「何から何まで本当に……っ、ありがとうございます!」
何度も頭を下げる黒井さん。
大したことは出来なかったし、後々大変になるのは黒井さんと天内さんだ。
「で?」
「近いなぁ、悟」
「コイツ何でここにいるんだよ」
ずいっ、と顔を近付けてくる悟。
私は呑気に珈琲を飲む。
にやにやとしながらソファーの隣に腰掛け、私の肩に腕を回すおにーさん。
「そりゃあ俺と名前の仲だからなぁ?」
「あ"?」
「悟、挑発に乗るな」
「名前、弱い奴らが吠えてるぜ?」
「………悟、隠蔽作業なら協力するよ」
「おにいさん、煽らないで。
悟と傑は直ぐに喧嘩するの良くないよ」
目の前で唸る悟と傑。
隣で楽しそうにしているおにーさんの頬を軽く叩く。
「おにーさんは私預かり。
呪術師殺しを放置しておけないでしょ?
拘束するにも……」
拘束されたがご自慢の筋肉で抜け出した時は周りも頭を抱えた。
「コイツの側に居ていいなら暴れねぇって条件だからな」
「はああああああ!?」
「先輩頭狂ってるんですか?」
「酷い言われよう」
「おにいさんを監視出来るのが現時点で私しかいないの」
馴れ馴れしく腰を抱き寄せるおにーさんの腕を叩く。
「今すぐソイツぶん殴って締め上げる」
「やれるならな」
「………ってことはさぁ
そのおにーさん名前と同室で寝食共にするってこと?」
大和の言葉に悟と傑の動きが止まる。
「そういうことになるかなぁ」
「まじか。名前襲われるじゃん」
「平気だよ。昔はよく一緒に寝てたし」
「昔と今は違ぇだろ」
「おにーさんなら大丈夫だよ」
「………誰にでもんなことしてんのか?」
「やだな、人は選んでるつもりだよ」
にっこりおにーさんを見上げれば、大きな手で顔を覆われる。
その手にすり寄れば、頭を撫でてくれるので嬉しくなる。
が、突然傑によって勢いよく引き剥がされ、目の前には悟が立っている。
「「殺す」」
「物騒だってば」
「この空気作った本人が呑気なのが理解できねー」
「大和?」
短気な二人を落ち着かせる。
私はおにーさん関連の書類が山ほどあって忙しいんだからちょっと落ち着いて欲しいのに、なぜか悟に抱き締められる。
「ぜっっっったい駄目。一緒の部屋なんて許さない」
「悟に許されなくても決定事項だよ」
「先輩はそもそもどうしてご自身を大切にしないんですか?男と二人きりとか子供の頃と今とじゃ違うってわからないんですか?馬鹿ですか?」
「傑が心配するような出来事なんてないって」
「俺とソイツどっちが大事!?」
「彼女みたいな台詞だね」
のらりくらりと二人の文句を交わす。
おにーさんは自分のことなのにもう気にしておらず、大きな欠伸をしてソファーに寝転がりはじめた。
「俺がいるのに他の男と寝る気かよ!!!」
「悟……私達、付き合ってないよ?」
「名前のばーか!!!ばーかばーかばーーーかっ!!!!」
怒って出ていった悟。
私はやっと静かになったので、おにーさんが寝転がるソファーの下に座って書類に手をつければ、おにーさんによって抱き上げられソファーに座らされる。
「女が床に座ったら身体冷やすだろ」
「おにいさんが寝てるからじゃん」
「オマエが座るスペースくらいあんだろ」
おにーさんが許可したので、そのまま再び書類作業をしていれば、呆れた傑のため息が。
「先輩、あまり悟を虐めないでくださいよ」
「後から構うよ。傑もきちんと休むんだよ?」
ひらひらと手を振れば、傑も自室へと向かって行った。
うるさいのもいなくなったのでゆっくり書類をしようと手にすれば、視線を感じた。
顔を上げれば天内さんがじっと此方を見ている。
「どうかした?」
「えっと……あの…」
「あぁ、女子寮がわからない?それなら今から案内するよ。沖縄行ったり忙しかったんだよね?」
「違っ!!」
「どうしたの?」
天内さんは何か言いたそうに口を開けては閉じていた。隣の黒井さんが暖かい眼差しで見守っていた。
私が何もしなくても、この二人なら大丈夫だったかもしれない。
「あ、のっ!!」
「なぁに?」
「あ、あいつ……とは!!どんな、関係なの?」
「あいつ?」
「白い方……」
もじもじとしながら此方の様子を伺う天内さん。どんな関係……と、言われても
「後輩だよ?」
「そ、そんなわけないのじゃ!!奴はずーーーっと沖縄でも誰かに連絡していたし、奴の携帯に貼られていたのはアンタだったのじゃ!!」
「……待ち受け?」
「え?五条の待ち受けって名前なの?井上じゃないの?」
「巨乳の待ち受けにしていた気がしたけど……」
「だよな」
実はまだいた大和と思い出すのは数日前、ビキニ姿の胸が強調された待ち受け画面の携帯が放置されており、大和と見ていた。
すぐに悟によって回収されたが、私ではないことは確かだ。
「待ち受けではなく裏のカバーなのじゃ!!」
「大和、知ってた?」
「知らね。けどお前五条とプリクラ撮ったの?」
「撮った覚えはないなぁ」
ってことは、悟の日々の勝手に撮った写真のどれかを携帯に仕込んでいるってことかな?
可愛らしいことをしているな、とくすくす笑えば頬を膨らます天内さん。
「確かに沖縄の写真は送られてきたけれど、悟は可愛い後輩だよ」
「しらばっくれても駄目なのじゃ!!」
「本当だよ。悟がどう思っているか知らないわけじゃないけれど、私からしたら悟は可愛い後輩以上でも以下でもないんだ」
私の言葉に納得がいかない、とでもいうような表情。
「悟ならきっと外の自販機のところじゃないかな?
あまりウロウロするのは良くないかもしれないけど、寮の近くなら何も言われないと思うよ」
行っておいで、と送り出せば小走りに行ってしまう。黒井さんもオロオロとしていたが、頭を下げて天内さんを追い掛けた。
「意地悪な女になったな」
「起きてたの?」
「あの子、五条のこと好きなんかな?」
「んー……任務で芽生えた恋心?」
「星奬体と五条の坊がくっついたらどうするんだ?」
「………私が口出せる立場ではないよ。
そもそも私には婚約者がいるからね」
「出た。ご都合の良い婚約者」
「は?チビあの家の言いなりになってんのかよ」
「おにーさん聞いてくれる?この子ったら五条がだーい好きなくせに、家のゴタゴタに巻き込みたくなーいなんて言い訳して逃げ回っているんですのよ!!」
「ほぉ?」
「大和、まじビンタするよ」
「ストップストップ。胸ぐら掴むの良くない。平和に会話しよう」
おにーさんの前で余計な事言わないで、と大和を睨み付けるものの、全てを理解したようなおにーさんはにやにやしながら此方を見ている。
「チビ、あのガキに嫉妬してんのか」
「そんなんじゃないよ」
「素直にならねーと損するぞ」
「……別に、嫉妬とかじゃなくて」
私みたいな面倒を抱えた女よりも、守ってあげたくなるような天内さんみたいな子の方が悟にとって幸せになれるをんじゃないかと思った。
「私よりも天内さんの方が魅力があると思ったの」
「ふーん。俺はチビより魅力ある女はいねぇと思うけどな」
ゴロリ、と寝返りを打つおにーさん。
話はもう終わりだとでも言うように背を向けてきたので、そっとしておく。
「オマエさぁ、絶対五条にあの女の子押すなよ?」
「なんで?」
「絶対五条ブチ切れるから」
「そーかな?」
「あ、やろうとしてるだろ?諦めろって。
五条が名前を諦めるわけねーんだから」
ニヤニヤする大和を書類の束で殴り付ける。
そろそろ本格的に書類に取りかかろうと集中する。
「ま、あの女の子も五条に惚れてるわけじゃなさそうだし心配すんなって」
「他人の恋心に気付けるならまずは自分の恋心をもっとどうにかしたら?」
「うるせーよ。オマエには言われたくねーし」
恋愛下手な先輩二人はお互いに罵倒し合う。
「あああああああっ」
「うるせーよ天内」
自販機の近くのベンチに座り、頭を抱える抱える天内と、ジュースを飲む五条。
「あんなこと言うつもり無かったのに!!」
「何言ったんだよ」
「受けとり方によっては、理子様が五条様に気があるような発言を少々……」
「何やってんの?このチビ。そうじゃなくても手強いのにややこしくしやがって」
「痛いのじゃ!!やめるのじゃ!!」
「何しているんだい?」
「傑じゃん」
ラフな姿となった夏油が自販機で飲み物を買う。
天内と黒井にも飲み物を買って渡すとその場にしゃがみこんだ。
「名前は?」
「例のおにーさんと談話室でべったりさ」
「やっぱボコる」
「大和先輩も一緒だよ」
「こういう時の大和の空気の読めなさ尊敬するわ」
「そうだね」
再びイライラし始めた五条。
天内がそっと五条を見つめていれば、その視線に気付いた五条が天内の額を小突く。
「さっきからなんだよ」
「お主、そんなにアピールしているのにまったく相手にされてないな……」
「憐れんだ顔すんな」
「可愛い後輩以上でも以下でもないって言ってたぞ」
「アイツ……」
「理子ちゃんは先輩に何を話したかったんだい?」
夏油が聞くと、天内は自分のスカートを握りしめる。
「……あの人、私と話していないし…任務だって関わってないのに」
思い出すのは、呪術師殺しの襲撃。
五条が刺され、夏油だって打ちのめされた。
そこへ現れ、あの男を口だけで言いくるめて止めてしまった。
負傷者は出たが、死者は一人も出さなかった。
「本当ならあの男の人の対応だけでも大変なのに……私や黒井のことまで気にして、上の人に掛け合ってくれていた。
私の我が儘で同化を拒否したんだから呪術界から見放されても仕方ないのに……黒井と一緒に居られるようにしてくれた!!
私……まだ、一言もお礼言ってない……っ」
命を救われただけじゃない。
将来の事を考え、黒井と共に生きる道を用意してくれた。
どうして他人のためにそこまで……。
「それが名前の良いところで悪いところなんだよ」
「あの先輩は何でも一人で抱え込んでしまうんだ」
笑う五条と夏油。
「馬鹿みたいにお人好しで、何でも抱え込むくせに手を貸して欲しいって頼まないし」
「頑固で強がりなくせに臆病だから困った人なんだよ」
「全部俺にぶん投げてさっさと落ちてくるなら受け止めるっつってんのに」
「相変わらず愛が重いね」
「大好き過ぎてもう襲って既成事実作った方が早い気がする」
「その場合悟への信頼は一気に無くなるね」
真面目な顔をしながらあまり良くない内容を話し出す二人に黒井はそっと天内の耳を塞いだ。
「理子ちゃんは先輩にお礼を言いたいのかい?」
「……うん」
「先輩はきちんと話を聞いてくれるよ」
「けど、私……絶対勘違いさせちゃった……」
「………何をしたんだい?」
天内が名前へと言った言葉を黒井が説明すると、苦笑する夏油。
「いっそのこと嫌だけど私がコイツを好きなことにして、嫌だけどあの人に気持ちを自覚させてヤキモチを焼かせればいいのじゃ!!嫌だけど!!」
「何度も嫌だっつってんじゃねーよ。
俺の方が嫌だわ。名前がそう簡単にヤキモチ焼くわけねーだろ」
「むしろお幸せにって本気でくっつけようと協力しそうだね」
「嫌なのじゃ!!」
「こっちだって嫌だっつの!!」
お互いに頬を引っ張り合う天内と五条。
兄妹のようなやり取りに苦笑する黒井と夏油。
「そもそもどうして理子ちゃんは悟に気があるような発言をしたんだい?」
「うっ……そ、れは……」
「なんだよ」
気まずそうに五条を見る天内。
「……怒らない?」
「聞いてから考える」
「お、怒るなら言わない!!」
「怒らねーから言えよ」
「絶対怒らない?」
「しつこい」
「………携帯の裏のカバーの中を見た」
「……はああああああ!?いつだよ!!」
「遊んでる時にお主が外して眺めていたじゃろ!!」
「……あああああっ!!くそっ!!」
ガシガシと頭をかく五条。
何事かと頭を傾げる夏油。
「携帯のカバー裏?」
「あの人の写真が貼ってあったのじゃ」
「言うなよ!!」
「悟……」
「そんな目で見んなよ傑。待ち受けにしてたら見られるだろ」
照れて顔を手で覆う五条。
「遊んでいた時も、ちょこちょこ誰かに連絡していたし……」
「先輩への連絡はいつものことだよ」
「そこまで誰かを好きになれるって……どんな気持ちなんじゃ?」
誰かに恋をするなんて無かった。
いつか自分は天元となり、いなくなるならそんな気持ちを抱くなど無意味。
虚しさだけが残るならそんなものいらないと思っていた。
友達から聞く恋話も、漫画で見る恋も皆が一途でキラキラしていて、幸せそうにしていた。
私には理解出来ない、女の子が綺麗になる魔法。
男も例外ではなく、五条を見ていれば一目でわかった。
恋をしていて、幸せそうで、楽しそうに輝いていた。
「けど、あの人はお主の気持ちに気付いていても答えようとしていない。
それって……どんな気持ちなんだろう、って思って」
恋をしたことがないから、恋に憧れる。
「恋をするって……愛されるって、どんな感じか、聞きたくて」
「は?何で名前に聞こうと思ったの?」
「お主みたいな女を手玉に取って遊んでいそうな顔だけのチャラ男が携帯のカバー見て幸せそうにしているのを見ていたら……気になっただけじゃ」
「言い方に悪意あるだろ」
「痛いのじゃ!!やめるのじゃ!!」
ギリギリと頭を締め付ける五条から逃げ出そうともがく天内。
「つまり理子ちゃんは恋がしたいのかい?」
「気になるだけだもん!!」
こんなこと恥ずかしくて言えないのに、ズケズケと言う夏油を睨み付ける。
「理子様は女子中高の学校でしたし、恋愛なんて余裕はありませんでしたからね」
「身近で携帯見てニヤニヤ浮かれていたのに、実際は後輩止まりであしらわれている悟と先輩に理解が出来ない、と?」
「だって、普通友達や漫画ではもっとお互いにソワソワしてて!!
あんな……あんなまっったく興味無さそうにあしらわれているのを見ていたら、こやつの一人浮かれた姿が哀れで……」
「オイ」
再び五条に頭を締め付けられそうだったので、夏油の後ろに隠れる。
「俺と名前はこれからだからいいんだよ」
「悟のクッソ重たい愛情に先輩が受け流すくらいが丁度いいんだよ」
飲んだ空き缶を潰してゴミ箱へ。
そのまま歩きだした五条。
「私……余計な事しちゃったかな…」
「理子様…」
「理子ちゃんのせいじゃないよ。
あの二人は不器用で面倒な恋をしているから……理子ちゃんの知るものより少し複雑なんだ」
自由になりたいと言いながら、自ら篭の中に入ろうとする名前。
篭の目の前で名前が入らないようにする五条。
「甘え方を知らない先輩は自分の力しか信じていないんだ」
「………」
「悟はそんな先輩の事情なんか関係無いと、あぁしてアピールし続けているんだよ」
カバーの裏は初めて知ったよ、と笑う夏油。
「後でまた談話室を覗いてごらん」
「?」
面白いものが見られるよ、と笑って言う夏油。
なんの事かわからないが、名前へお礼を言えていない状態なので必ず言いに行こうと決めた。
書類も粗方片付いたし、おにーさんにもある程度受け入れてもらった。
私としては散々ほったらかしていた子供のところに置きたいが、この人がまともに世話出来るとは思っていない。
多少の監視と高専からの依頼で食べていける金額は貰える。
「終わった?」
「悟?まだ起きていたの?」
「さっきからずっと居たけど」
後ろから髪の毛を弄る悟。
まったく気付かなかったわけじゃないが、悟相手に気を許し過ぎている気がする。
「アイツは?」
「部屋で寝てるよ」
「自由かよ」
「おにーさんは基本自由な男だよ」
書類をまとめて背伸びすれば、真上から悟が覗いている。
拗ねたような、何か言いたそうな顔が面白くて手を伸ばし、ぐしゃぐしゃと頭を撫でる。
「天内さんと随分仲良くなったのね」
「絶対勘違いすんなよ」
「天内さんは悟か傑に惚れてもおかしくないと思うけどな?」
「だとしても俺の気持ち知ってて言うなよ」
苦しそうに歪められた顔。
コツン、と額同士が合わさる。
目に悟の前髪が当たってくすぐったい。
「私よりもずっと可愛くて悟とも仲良くやれそうだと思うけどな」
「うるさい」
「ふふふ、私って愛されてるなぁ」
「そのまま俺に落ちろよばーか」
「さぁ?」
「結婚して」
ぐりぐりと額を擦り付けてくるので、軽く痛い。
頭をぽふぽふと撫でれば立ち上がり隣へと座ってきた。
そのまま私の肩に頭を乗せる。
「強いな、アイツ」
「そうなの。自慢のおにーさんなんだ」
「腹立つ」
「あと数日は高専に居るから手合わせしてもらいなよ」
「絶対負かす」
「悟は伸び代が凄いもんね。期待しているよ」
「負けると思ってるだろ」
「私の師匠だよ?」
「負けねぇ」
悟の温もりが気持ちいい。
ふと、視界に入った悟の大きな手に自分の手を重ねる。
長い指を滑るように触り、指と指を絡ませてギュッ、と握ると悟も同じように返してくれる。
「名前」
「なぁに?」
「ただいま」
言ってなかった、と幼い顔で笑う悟。
「おかえりなさい、悟」
「はぁー、結婚しよ」
「しない」
体重をかけてくる悟に笑いながら頭を撫でる。
こんな一時が幸せだと思えるし、こんなに幸せでいいのか?とも思う。
「ハ……ハレンチじゃ!!」
「「ん?」」
入り口を見れば、顔を赤くしてわなわなと震えている天内さん。
「邪魔すんなよ天内」
「つ、付き合ってもいないのにハレンチなのじゃ!!」
「何もしてねーよ」
「空気が甘過ぎて砂糖吐きそうじゃ!!」
「恋愛初心者には厳しかったか?」
「うるさい!!」
「君たち、今何時かわかってる?」
夜に騒ぐものではございませんよ、と言えば黙る二人。
「さて、私はこれから事務行ってくる」
「俺も付き添う」
「あ、あの!!」
天内さんに呼び止められ、どうしたのかと見つめれば、金魚のように口をパクパクさせて泣きそうな顔になる。
「外で待ってるわ」
一緒についていくのは悟の中で決定事項らしい。
通り過ぎる間際、天内さんの頭を軽く叩く悟に文句を言う姿はどこか兄妹のようだ。
「…………あ、あの」
「うん?」
「あの……」
「ゆっくりでいいよ」
顔を赤くして泣きそうになる天内さん。
どうやら私に何か話がしたいらしい。
ソファーの横を軽く叩くが、首を横に振られる。
どうしたものか……と困ってしまうが、入り口に顔だけ覗かせる黒井さんと傑の姿。
外で待っていると言ったのに、足が見えている悟。
どうやら皆、可愛い末っ子のような天内さんを心配で見に来たらしい。
目が合うと苦笑する傑と黒井さんに私も笑ってしまえば、天内さんが不思議そうに此方を見る。
「……あ、あの…ね」
「うん」
「私と……黒井を助けてくれて……ありがとう」
「私はたいしたことしていないよ?
傑と悟が頑張ってくれたから、お礼を言うなら二人に言ってあげて?」
「それもあるけど!!
黒井は……私が星奬体だったから、側に居てくれただけで……これからも黒井と一緒に居させてくれるようにしてたのは貴女でっ」
「それは違うよ。
私は少し後押ししただけで、天内さんと一緒に居たいって願ったのは黒井さん本人」
私はそうなればいい、と思っていただけで黒井さんの未来を私の勝手で押し付ける気は無かった。
黒井さんに天内さんと共に過ごす意思が無いのなら、違うサポートも考えていたのだ。
けど、黒井さんは自ら天内さんと共に居られる道を喜んで受け入れた。
「黒井さんが義務ではなく側に居ることを選んだのは天内さんの力だよ」
「けどっ」
「天内さんが黒井さんを大好きだから、黒井さんもその気持ちに答えた。
ほら?私は何もしていないよ」
「〜〜〜っ」
「……今まで頑張ったね。
これからは普通に生きてね」
天内さんの頭を撫でると、ぽろぽろと涙を流してしまった。
あら、やらかした……と思って抱き締めれば、声を出して泣かせてしまった。
黒井さんはハンカチに顔を埋めて泣いているし、傑と悟のなーかした、なーかしたって顔に苦笑してしまう。
少し時間が経ち、落ち着いた天内さん。
「明日目が腫れないように寝る前に冷やしてね」
「………あの」
「ん?」
「お主……どうして奴の気持ちに答えないの?」
「んん?」
まさかの質問に頭を傾げる。
入り口では顔を輝かせる悟と傑と黒井さん。
「あんなにアピールされておるのに……お主だって、あんな……ハ、ハレンチな空気を受け入れて……」
「うーん……慣れ、かなぁ」
「誤魔化すのは良くないのじゃ!」
さっきまで泣いていたのに、今は興味津々に聞いてくる姿に笑ってしまう。
天内さんの頭を撫で、笑っている姿が一番いいと思ってしまう。
「私が臆病なの」
「?」
「今が一番幸せだと思えるから……これ以上の幸せを受け入れてしまえば、きっと天罰が落ちちゃう」
「でもっ」
「私はもう、充分幸せだよ」
だから、私の幸せはこれ以上望まない。
その代わり、私以外の誰かの幸せを願う。
「天内さんは私みたいになっちゃ駄目よ?」
面倒で、臆病で、逃げ回る私みたいな恋はしない方がいい。
「……お主が逃げても奴は諦めないと思うぞ」
「困った子だよね」
「……私は、奴にもお主にも幸せになってほしい」
「ありがとう」
優しい子。
天内さんだからこそ、悟も傑も助けようって思ったのかもしれない。
「ちゃんと目を冷やしてね?黒井さんも」
「えっ!?」
「理子様ぁっ!!」
「く、黒井っ!!いつから!?」
「そこは俺への気持ちを受け入れるべきだと思いまーす」
「ほらほら、もう夜だから騒がない」
天内さんを黒井さんに任せ、書類を持つ。
「じゃあ皆きちんと寝るんだよ?」
「先輩、気をつけて。悟、襲うなよ?」
「襲わねーよ」
傑と黒井さんと天内さんに手を振る。
悟はやはりついてくるらしい。
「……不器用な人」
「そうだよ。あんなに想い合っているんだからさっさとくっつけばいいのに」
夏油の視線の先では、五条が名前の指に指を絡ませていた。それに答えるように名前も五条の指に自分の指を絡ませて握り返しているのが見える。
夏油の横顔を見て、天内は気付く。
その眼差しが苦しそうでもあり、穏やかなことに。
「お主……」
「さて、いい子は寝る時間だよ。
おやすみ、理子ちゃん。黒井さん」
それ以上は言わせない、とでも言うかのように天内の頭を撫でる夏油。
そして自分も部屋へと戻っていく。
「……不器用な奴ばかりじゃな」
「そうですね」
自分を救ってくれた不器用な人達が
未来を笑って過ごせますように……。
天内は願う。
自分に未来を与え、幸せをくれた幼いヒーロー達も幸せになる未来を。
あとがき
リクエスト「天内生存で先輩と出会うとどうなる?」
天内の話し方が迷子でごめんなさい!!!
先輩のIFハッピーエンド軸に近い話になったかなー?
天内生きていたら、おにーさんも生きる!!
だってパパ黒幸せになってくれぇぇええええ!!
ちなみに高専寮、アニメ見た感じだと談話室とか無さそうだし、設定資料見ていないので
談話室ありに捏造しております。
リクエストありがとうございました!
これからもよろしくお願いいたします!