十万企画
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「さ、とる……」
血に濡れた彼女。
自分の手には自分のではない血。
いつもは喧しいはずの彼女が何かを言いたげに口をパクパクとするが、声にならない呼吸音が出るだけ。
僕も彼女の名前を何度も叫び、出血を止めようと傷口を圧迫するのに、どくどくと流れ出る出血量は止まらない。
「も、いぃ……」
諦めんな。
早く……早く早く早くっ。
どうして道が長く感じる?
血が抜け出た彼女の身体はどんどんと冷えていく。
「ごめ……ん」
虚ろな瞳になっていく。
力が抜け落ちていく。
俺がどんなに叫んでも、声にならずに消えていく。
「だ……ぃ、す……」
力なく崩れ落ちた身体。
心臓の音がーー止まった。
目が覚めて、隣の温もりを確認するのが癖になっていた。
家で起きた時に、腕の中で自分のじゃない呼吸音と温もりを感じるたび、胸が暖かくなり嬉しくなる。
幸せそうに無防備に眠る寝顔を見ると、鼻を摘まんでしまいたくなるが……
甘えるように無意識にすり寄る姿が愛しくてたまらない。
彼女の目覚めを待っていたいし、彼女に起こされるのも好き。
最近は忙しくてそんな事が出来ず、彼女を置いて先に家を出る日が多いが……
昔の僕なら、大切なモノが自分の腕の中にいる安心感が幸せだと感じる日がくるとは思っていなかっただろう。
ーーー名前が呪霊の領域に巻き込まれた。
現場に着けば、先に到着していた伊地知が震えた声で話す。
一緒に着いてきた1年達が驚き視線を僕へと向けても僕は冷静だった。
なんてことの無い任務のはずだった。
二級討伐任務。
帳内で討伐は無事に完了したはずだった。
討伐担当の呪術師が少し呪いによって怪我をしただけ。
まさかその怪我が寄生型の呪いとは誰もが思っておらず、帳から出た瞬間それは起こった。
突然叫びながら本人の意思も関係なく暴れだす呪術師の腕から生命力と呪力を奪い、暴れる呪いに補助監督も巻き添え。
そこで運が悪かった……と言ってしまうと全てのタイミングが悪かった。
苗字 名前が通りかかってしまった。
今まで名前の周りにいた呪霊は周りに被害なく過ごしていたから今回も彼女がいても大丈夫だろう、とどこか慢心していた。
その結果
瀕死の呪霊は彼女へと向かっていった。
呪霊に気付いた時には既に遅く、呪霊は彼女へと噛みつき怪我を負わせた。
寄生されてはいけないと、対応に向かった補助監督がいたが……それよりも早く、違う逆鱗に触れてしまった。
彼女についていた大物の呪霊が自分の獲物である彼女を取られたくないためか、牙を向いた。
彼女に覆い被さり、そのまま領域を展開。
死にかけた呪霊とその場にいた補助監督と負傷した呪術師を含め、全てを飲み込んだ。
「五条先生……」
三人共不安そうな顔で此方を見上げる。
「伊地知」
「は、はいっ!!」
「名前についていた呪霊は?どのくらい?」
「判断するには情報が足りませんが、一級相当かと。
領域を展開出来たのなら、それ以上か……」
「わかった」
思い腰を上げて首をならす。
「悠仁、野薔薇、恵」
「行く」
「行きます」
「行くわ」
先ほどの不安そうな顔から一変、気を引き締める三人。
「これはキミ達じゃ無理だよ」
「呪霊討伐ではなく人命救助で行きます」
「呪霊と合ってもなるべく戦わない!!」
「回収終わり次第すぐ帳から抜け出すわ」
「………死ぬかもしれないよ?」
「「「それでも行く!!」」」
意思を持ち、覚悟を決めた三人。
どこまでも頼もしい未来の呪術師達。
「駄目」
「なんでよ!!」
「だって早く行かなきゃ名前姉達が!!」
「だからだよ。
もしも、の時にキミ達は冷静にいられるかい?
ーーー親しい者の死を目の当たりにしても」
「「!!」」
意地悪な物言いだけど、この世界じゃ当たり前。
昨日、今日共に笑っていた人が肉となる世界。
「それでも行きます。
ーーーどんな形であれ、取り戻したいです」
「恵……、けどだーめ。キミ達には荷が重い。
見学させてあげたいけど」
ザワリ、と変わった空気に周りが驚いて僕を見る。
「僕も余裕が無いからさっさと片付ける」
何か言いたそうな三人に手を振って領域の中へ。
冷静ぶって伊地知の報告を聞いていたけど、どうやら僕自身余裕が無いと溢すほど、余裕がないらしい。
僕はいつからこんなに名前に執着していただろう?
非呪術師なんてどうなっても良かった。
見えている変わった女に興味を持ち……それは一種の玩具のようなもので、すぐに飽きる使い捨ての感情だった。
学生の頃はただ、面白くて馬鹿で一緒に居るのが楽しかった。
予測不能な馬鹿さで次々にやらかす玩具は僕を飽きさせることは無かったから。
いつかは彼女も僕を知れば怖れて離れていくと思っていたから期待していなかった。
この玩具がどれほど持つのか?
どれほど僕を飽きさせないか。
最低だと罵られようと、僕からしたら彼女はちょっと他とは違う玩具でしかなかったはずなのにーーー
怒って
笑って
拗ねて
喜ぶ姿に惹かれていった。
馬鹿でアホで間抜けで僕には劣るが見目がいいだけのどこにでもいそうな一般人。
なのに
目が離せなくなった。
側に居たいと思った。
触れたいと思ったら……自分の気持ちを誤魔化すことは出来なくなった。
いつからか、名前の側でなら、どんなに周りから化け物扱いされようと……ただ一人の人間でいられた。
"普通"がわからない僕を"普通"と扱ってくれるのが珍しかっただけかもしれない。
呪術師達は皆、僕を"六眼持ち"の"五条家"の人間としか見ない。
別に化け物扱いされても気にしない。
弱い奴らが何を叫ぼうと気に止めない。
"五条悟"という人間の中身など関係なく名前が一人歩きして広まっていき、僕の敵は増えていく。
僕の邪魔をするならどんな相手だろうがねじ伏せればいい。
そうやって生きてきた。
だから、くだらないことをして笑い
学校帰りに寄り道して駄弁ったり
"普通"過ぎる名前は気が楽だった。
"呪術師の五条悟"ではなく"僕"を見てくれたから。
嫌そうな顔をし
威嚇し
笑い
愛してくれる
もしかしたら彼女じゃなくても、と試しに他の一般人の子と付き合ってみたこともあったが……名前の威力を越える人材はいなくて長続きしなかった。
変わった玩具ではなくーーー
魅力溢れる彼女に、僕は恋におちた。
彼女こそ僕以外と恋をして、共に歩むパートナーなど腐るほど出会えるはずの中……
一度は自分で手放し遠ざけたくせに……僕が耐えられず、僕は僕のために彼女を囲った。
自分らしく着飾らない名前に
ありのままでぶつかってくる名前に
僕だけを愛してくれる名前に
僕はどんどん溺れていった。
彼女に執着していってる自覚はあったが……
どこかで彼女は居なくならないと思っていた。
僕の隣からは絶対に消えない、と。
でも、彼女は一般人だ。
どんなに他の一般人より強く、呪霊への耐性があろうと……祓えるわけではない。
彼女だって一瞬で摘み取られるほどに、ちっぽけな命だ。
雑魚を祓い、一番呪力が高そうな奥へと急ぐ。
全てを吹き飛ばしたいが、どうなるかわからなない。
走って奥へ急ぐと……血を流して倒れている名前と、その上に乗り此方を威嚇する領域を作り出したであろう呪霊。
寄生型であろう呪霊は引き剥がされているものの、彼女の肩から滲み出る血溜まりに感情が高ぶる。
「ねぇ」
警戒するように、威嚇する叫び声がする。
「返してくれるかな?」
此方に身体の一部を鋭く変形させたものが飛んでくるのを弾く。
「ソレは僕のだ」
一歩で呪霊の前に出て、名前の上から弾き飛ばす。
寄生型の呪霊が飛びかかってきたのを「赫」で弾き飛ばす。
再度戻って来た一級相当の呪霊は容赦無く叩き潰せば、領域は解除された。
「………さ、とる?」
「遅くなってごめんね」
うっすら目を開けた名前。
そして僕を認識すると、安心したように笑った。
「あり……が、と」
再び意識を失った名前。
出血量などを考え、早く硝子に見せなければ……
腕の中の温もりは、まだ温かい。
「硝子ちゃーーーん」
「喧しいぞ、怪我人」
「暇だよぉー」
構って、と硝子に投げキッスをしている彼女。
「オマエの腰に張り付く男に構ってもらえ」
「訂正。
硝子ちゃんヘルプ。ヘルプヘルプ。
このままだと中身出そう」
バシバシと腕をタップされるが、硝子にばかり話しかけるので少し締め上げる。
名前は怪我とは裏腹に元気だった。
「いやー、まじビビったわ。
突然襲われたと思ったら覆い被さってきて見慣れない景色になり、痛いから呪い引き千切ったらめっちゃ血が出て気絶するとは」
「馬鹿だな」
「ばーかばーか」
「気絶して目覚めたら
"ねぇ、返してくれるかな?"
"ソレは僕のだ"キリィッ
ってされたら私の心はキュンッとしたわ」
「凄い殺気立って現場乗り込んだらしいな」
ニヤニヤしながら此方を見る硝子。
名前は僕の頭を撫でている。
僕は今、名前の腹に顔を押し付けて抱き付いていた。
目が覚めて第一声は「お腹減った」だったし、心配で付き添っていた僕の心境などお構いなしに、「あ、助けてくれたの悟だよね?サンキュー!!まじビビったー!!」と返してきた呑気さに、色々気をはっていたのが一気に抜けた。
「さて。このまま弄り倒すのも面白そうだが私は他の患者を見てくるよ」
「硝子ちゃんお疲れー」
「イチャつくのはいいが、やるなよ」
「やらんって」
「五条、手を出すなよ」
硝子に釘を刺され、出ていく音が聞こえた。
「さーとるくーん」
「………」
「まーだ拗ねてるの?からかいすぎた?
んー、けど格好良かったのは本当だしなぁ」
「……僕さぁ」
「ん?」
「オマエがいなくなったら、まじで生きていけないかも」
「なぁに?どったの?」
サラサラと頭を撫でる名前の手が気持ちいい。
ドクドクと脈打つ鼓動が聞こえ、生きている。
「僕さぁ、名前の事変わった玩具だと思ってた」
「オイ」
「けど……オマエに恋をして、どんどんハマって
オマエを愛して……失いたくないって思った」
けど、僕の周りは僕を置いていく。
先輩も、後輩も、親友さえ僕を置いて消えていく。
「ねぇ、どうすれば僕の為に生きてくれる?
このまま囲って外に出さなければ……」
オマエは生きて側に居てくれる?
「悟……」
「ねぇ、名前。死なないでよ。離れていくなんて許さない。僕以外がオマエを傷付けるのも嫌だ。僕以外の誰かのモノになるのも嫌だ」
「悟……あんた……」
「閉じ込めて鎖で繋いでおけばいい?」
「どこのヤンデレ?」
熱でもあるの?と額を触る名前。
「それくらい今回は僕だって焦ったの」
「すまん」
「ノリが軽い。反省してないだろ」
「タイミング悪すぎてもはやどこを反省しろと?」
「開き直るなばーか」
「はいはい、私が悪かったでちゅねー。
だから拗ねんのやめまちょうねー」
「犯すぞ」
あらやだ!!なんて言ってる名前はケラケラ笑いながら僕の頭を撫でている。
「どんなに私が危険な目にあっても、悟が来てくれるなら心強いさ」
「今回は間に合ったけど次はわからないだろ」
「それでも、迎えに来てくれるでしょ?」
穏やかに笑う名前。
コイツの僕への信頼が重い。
「骨になったら宝石にでも加工して持っててよ」
「物騒。ふざけんな」
「私ってば愛されてるなぁ」
「めちゃくちゃ愛してるからもう逃がせないし、離したくない」
「クソデカ感情」
「受け止めて僕を愛してよ」
言葉にしても足りない。
何度触れても足りない。
「あらやだ、イケメンが此方を見上げてる」
「オマエ空気読め」
「空気を読んだ上でその美少女顔を潰していい?」
「やったら鼻フック」
「罪重すぎない?」
「僕を心配させて心を押し潰した罰」
「悟……そんな繊細な心があんたにあったのか」
「犯す。まじで犯す」
「いやぁぁああああっ!!!硝子ちゃーーーんっ!!!」
病衣をひんむけば焦って叫ぶ名前。
流石に学校の医務室でヤろうなんて思っていない。
思っていないが、ちょっとムラッときた。
「少しだけならバレないって」
「ノリノリになってんじゃないよ!!教師だろ!?」
「教師×生徒設定?物好きだなぁ」
「学長ぉぉおおおおお!!!!!」
「待った。それはまじ勘弁」
学長呼ぶとか反則でしょ。
狭いベッドに転がり、二人で抱き合って寝転がる。
「はぁ……まじで寿命縮むかと思ったのは本当」
「ごめん、って」
「厄介だな……大切だからこそ、守れなかった時の喪失感なんて考えたくない」
「弱気だね」
「僕だって人間だったって事さ」
「? 悟は人間でしょ」
僕を僕として見てくれる。
欲しい言葉を、欲しい温もりを、欲しい愛情をくれる名前。
「少し寝る」
「人のおっぱい枕にしないでよー」
「誰かさんのせいで寝不足だから」
「そこ言われると辛いなぁ」
「………名前」
「なんだい?悟くん」
普通の女。
ちょっと変わった体質はあるものの、喧しくて馬鹿でアホで間抜けな面白い奴。
人タラシで、ほっとくと何するかわからない。
よく笑い、よく騒ぎ、時々怒り、隠れて泣く。
「大好き」
「……私も大好きだよ」
そんなキミを丸ごと愛してる。
「………寝てる」
「寝てるわね」
「寝てるな」
スヤスヤと温かさに包まれ、ぐっすりと眠っていたら聞こえた声。
目を開けようとしたが、見えたのは病衣だけ。
僕の頭を抱えるように胸に抱きながら眠っている名前のせいで起き上がることも出来ない。
「五条先生羨ましい……おっぱい枕じゃん」
「本音溢してんじゃないわよ」
「殴ってもいいよな?」
「伏黒、アンタ名前さん好き過ぎるでしょ」
「姉のように思ってる人の胸に挟まってる男なんざ頭カチ割っても問題無い」
「なるほど、一理あるわ。
私もカチ割ろうかしら」
「伏黒ストップ!!まじでストップ!!
そして釘崎のそのトンカチはシャレにならないって!!」
「離せ、虎杖」
「私が駄目なら真希さん呼ぶわ」
「それもっと駄目なやつ!!!」
わーわー騒ぎだす一年達。
どうやら僕の頭は割られそうな勢いらしいが、皆僕がどんな術式か忘れてるよね?
絶対割られてやらない。
「写真撮って送ったら真希さん来るって」
「まじか」
「………確か、高専に呪力無効化する武具あった気が」
「真希さんに伝えるわ」
「待って待って!!ガチのやつじゃん!?」
「虎杖……五条先生の術式無効化しないと割れないだろ?」
「そうよ。やるなら徹底的にヤらなきゃ」
「その殺意どこから!?」
「シンプルにムカつく」
「怪我人相手にサカッてんじゃないわよ」
「起きて!!五条先生起きて逃げてぇぇえええ!!!」
恵と野薔薇の殺意に笑ってしまう。
名前にタラされた子供達も、名前を心配していたんだよ。
起きたらきっと名前は生徒達を優先して可愛がる。
フザケだすけど、はしゃぎすぎたら傷口が開いたら硝子に怒られてしまう。
勿論一番は僕だけど、もう少しだけこの温もりを一人で感じていたい。
もうすぐ来るであろう2年達が来るまでもう少しだけ……呑気に眠る彼女を一人占めしたい。
トクトク、と穏やかに脈打つ心臓の鼓動を聞きながら、賑やかに騒ぐ声を聞きつつ僕はまた目を閉じて彼女を抱き寄せた。
あとがき
リクエスト「五条視点でシリアス」
怪我から救出。
ラブラブしつつ、ギャグありのハッピーエンド……いかがでしたか?
クソデカ感情がアレな五条さんですな。
五条さんが五条さんっぽくなかった気もしますが……なんせギャグが決まらない(笑)
この後真希ちゃんに思いっきり武具振り下ろされるのを無下限で防いだ。
寝惚けて目覚めたら、瞳孔開いた真希ちゃんに武具突き付けられてた通行人が悲鳴を上げた落ち(笑)
いつもありがとうございます!
これからもよろしくお願いいたします!
血に濡れた彼女。
自分の手には自分のではない血。
いつもは喧しいはずの彼女が何かを言いたげに口をパクパクとするが、声にならない呼吸音が出るだけ。
僕も彼女の名前を何度も叫び、出血を止めようと傷口を圧迫するのに、どくどくと流れ出る出血量は止まらない。
「も、いぃ……」
諦めんな。
早く……早く早く早くっ。
どうして道が長く感じる?
血が抜け出た彼女の身体はどんどんと冷えていく。
「ごめ……ん」
虚ろな瞳になっていく。
力が抜け落ちていく。
俺がどんなに叫んでも、声にならずに消えていく。
「だ……ぃ、す……」
力なく崩れ落ちた身体。
心臓の音がーー止まった。
目が覚めて、隣の温もりを確認するのが癖になっていた。
家で起きた時に、腕の中で自分のじゃない呼吸音と温もりを感じるたび、胸が暖かくなり嬉しくなる。
幸せそうに無防備に眠る寝顔を見ると、鼻を摘まんでしまいたくなるが……
甘えるように無意識にすり寄る姿が愛しくてたまらない。
彼女の目覚めを待っていたいし、彼女に起こされるのも好き。
最近は忙しくてそんな事が出来ず、彼女を置いて先に家を出る日が多いが……
昔の僕なら、大切なモノが自分の腕の中にいる安心感が幸せだと感じる日がくるとは思っていなかっただろう。
ーーー名前が呪霊の領域に巻き込まれた。
現場に着けば、先に到着していた伊地知が震えた声で話す。
一緒に着いてきた1年達が驚き視線を僕へと向けても僕は冷静だった。
なんてことの無い任務のはずだった。
二級討伐任務。
帳内で討伐は無事に完了したはずだった。
討伐担当の呪術師が少し呪いによって怪我をしただけ。
まさかその怪我が寄生型の呪いとは誰もが思っておらず、帳から出た瞬間それは起こった。
突然叫びながら本人の意思も関係なく暴れだす呪術師の腕から生命力と呪力を奪い、暴れる呪いに補助監督も巻き添え。
そこで運が悪かった……と言ってしまうと全てのタイミングが悪かった。
苗字 名前が通りかかってしまった。
今まで名前の周りにいた呪霊は周りに被害なく過ごしていたから今回も彼女がいても大丈夫だろう、とどこか慢心していた。
その結果
瀕死の呪霊は彼女へと向かっていった。
呪霊に気付いた時には既に遅く、呪霊は彼女へと噛みつき怪我を負わせた。
寄生されてはいけないと、対応に向かった補助監督がいたが……それよりも早く、違う逆鱗に触れてしまった。
彼女についていた大物の呪霊が自分の獲物である彼女を取られたくないためか、牙を向いた。
彼女に覆い被さり、そのまま領域を展開。
死にかけた呪霊とその場にいた補助監督と負傷した呪術師を含め、全てを飲み込んだ。
「五条先生……」
三人共不安そうな顔で此方を見上げる。
「伊地知」
「は、はいっ!!」
「名前についていた呪霊は?どのくらい?」
「判断するには情報が足りませんが、一級相当かと。
領域を展開出来たのなら、それ以上か……」
「わかった」
思い腰を上げて首をならす。
「悠仁、野薔薇、恵」
「行く」
「行きます」
「行くわ」
先ほどの不安そうな顔から一変、気を引き締める三人。
「これはキミ達じゃ無理だよ」
「呪霊討伐ではなく人命救助で行きます」
「呪霊と合ってもなるべく戦わない!!」
「回収終わり次第すぐ帳から抜け出すわ」
「………死ぬかもしれないよ?」
「「「それでも行く!!」」」
意思を持ち、覚悟を決めた三人。
どこまでも頼もしい未来の呪術師達。
「駄目」
「なんでよ!!」
「だって早く行かなきゃ名前姉達が!!」
「だからだよ。
もしも、の時にキミ達は冷静にいられるかい?
ーーー親しい者の死を目の当たりにしても」
「「!!」」
意地悪な物言いだけど、この世界じゃ当たり前。
昨日、今日共に笑っていた人が肉となる世界。
「それでも行きます。
ーーーどんな形であれ、取り戻したいです」
「恵……、けどだーめ。キミ達には荷が重い。
見学させてあげたいけど」
ザワリ、と変わった空気に周りが驚いて僕を見る。
「僕も余裕が無いからさっさと片付ける」
何か言いたそうな三人に手を振って領域の中へ。
冷静ぶって伊地知の報告を聞いていたけど、どうやら僕自身余裕が無いと溢すほど、余裕がないらしい。
僕はいつからこんなに名前に執着していただろう?
非呪術師なんてどうなっても良かった。
見えている変わった女に興味を持ち……それは一種の玩具のようなもので、すぐに飽きる使い捨ての感情だった。
学生の頃はただ、面白くて馬鹿で一緒に居るのが楽しかった。
予測不能な馬鹿さで次々にやらかす玩具は僕を飽きさせることは無かったから。
いつかは彼女も僕を知れば怖れて離れていくと思っていたから期待していなかった。
この玩具がどれほど持つのか?
どれほど僕を飽きさせないか。
最低だと罵られようと、僕からしたら彼女はちょっと他とは違う玩具でしかなかったはずなのにーーー
怒って
笑って
拗ねて
喜ぶ姿に惹かれていった。
馬鹿でアホで間抜けで僕には劣るが見目がいいだけのどこにでもいそうな一般人。
なのに
目が離せなくなった。
側に居たいと思った。
触れたいと思ったら……自分の気持ちを誤魔化すことは出来なくなった。
いつからか、名前の側でなら、どんなに周りから化け物扱いされようと……ただ一人の人間でいられた。
"普通"がわからない僕を"普通"と扱ってくれるのが珍しかっただけかもしれない。
呪術師達は皆、僕を"六眼持ち"の"五条家"の人間としか見ない。
別に化け物扱いされても気にしない。
弱い奴らが何を叫ぼうと気に止めない。
"五条悟"という人間の中身など関係なく名前が一人歩きして広まっていき、僕の敵は増えていく。
僕の邪魔をするならどんな相手だろうがねじ伏せればいい。
そうやって生きてきた。
だから、くだらないことをして笑い
学校帰りに寄り道して駄弁ったり
"普通"過ぎる名前は気が楽だった。
"呪術師の五条悟"ではなく"僕"を見てくれたから。
嫌そうな顔をし
威嚇し
笑い
愛してくれる
もしかしたら彼女じゃなくても、と試しに他の一般人の子と付き合ってみたこともあったが……名前の威力を越える人材はいなくて長続きしなかった。
変わった玩具ではなくーーー
魅力溢れる彼女に、僕は恋におちた。
彼女こそ僕以外と恋をして、共に歩むパートナーなど腐るほど出会えるはずの中……
一度は自分で手放し遠ざけたくせに……僕が耐えられず、僕は僕のために彼女を囲った。
自分らしく着飾らない名前に
ありのままでぶつかってくる名前に
僕だけを愛してくれる名前に
僕はどんどん溺れていった。
彼女に執着していってる自覚はあったが……
どこかで彼女は居なくならないと思っていた。
僕の隣からは絶対に消えない、と。
でも、彼女は一般人だ。
どんなに他の一般人より強く、呪霊への耐性があろうと……祓えるわけではない。
彼女だって一瞬で摘み取られるほどに、ちっぽけな命だ。
雑魚を祓い、一番呪力が高そうな奥へと急ぐ。
全てを吹き飛ばしたいが、どうなるかわからなない。
走って奥へ急ぐと……血を流して倒れている名前と、その上に乗り此方を威嚇する領域を作り出したであろう呪霊。
寄生型であろう呪霊は引き剥がされているものの、彼女の肩から滲み出る血溜まりに感情が高ぶる。
「ねぇ」
警戒するように、威嚇する叫び声がする。
「返してくれるかな?」
此方に身体の一部を鋭く変形させたものが飛んでくるのを弾く。
「ソレは僕のだ」
一歩で呪霊の前に出て、名前の上から弾き飛ばす。
寄生型の呪霊が飛びかかってきたのを「赫」で弾き飛ばす。
再度戻って来た一級相当の呪霊は容赦無く叩き潰せば、領域は解除された。
「………さ、とる?」
「遅くなってごめんね」
うっすら目を開けた名前。
そして僕を認識すると、安心したように笑った。
「あり……が、と」
再び意識を失った名前。
出血量などを考え、早く硝子に見せなければ……
腕の中の温もりは、まだ温かい。
「硝子ちゃーーーん」
「喧しいぞ、怪我人」
「暇だよぉー」
構って、と硝子に投げキッスをしている彼女。
「オマエの腰に張り付く男に構ってもらえ」
「訂正。
硝子ちゃんヘルプ。ヘルプヘルプ。
このままだと中身出そう」
バシバシと腕をタップされるが、硝子にばかり話しかけるので少し締め上げる。
名前は怪我とは裏腹に元気だった。
「いやー、まじビビったわ。
突然襲われたと思ったら覆い被さってきて見慣れない景色になり、痛いから呪い引き千切ったらめっちゃ血が出て気絶するとは」
「馬鹿だな」
「ばーかばーか」
「気絶して目覚めたら
"ねぇ、返してくれるかな?"
"ソレは僕のだ"キリィッ
ってされたら私の心はキュンッとしたわ」
「凄い殺気立って現場乗り込んだらしいな」
ニヤニヤしながら此方を見る硝子。
名前は僕の頭を撫でている。
僕は今、名前の腹に顔を押し付けて抱き付いていた。
目が覚めて第一声は「お腹減った」だったし、心配で付き添っていた僕の心境などお構いなしに、「あ、助けてくれたの悟だよね?サンキュー!!まじビビったー!!」と返してきた呑気さに、色々気をはっていたのが一気に抜けた。
「さて。このまま弄り倒すのも面白そうだが私は他の患者を見てくるよ」
「硝子ちゃんお疲れー」
「イチャつくのはいいが、やるなよ」
「やらんって」
「五条、手を出すなよ」
硝子に釘を刺され、出ていく音が聞こえた。
「さーとるくーん」
「………」
「まーだ拗ねてるの?からかいすぎた?
んー、けど格好良かったのは本当だしなぁ」
「……僕さぁ」
「ん?」
「オマエがいなくなったら、まじで生きていけないかも」
「なぁに?どったの?」
サラサラと頭を撫でる名前の手が気持ちいい。
ドクドクと脈打つ鼓動が聞こえ、生きている。
「僕さぁ、名前の事変わった玩具だと思ってた」
「オイ」
「けど……オマエに恋をして、どんどんハマって
オマエを愛して……失いたくないって思った」
けど、僕の周りは僕を置いていく。
先輩も、後輩も、親友さえ僕を置いて消えていく。
「ねぇ、どうすれば僕の為に生きてくれる?
このまま囲って外に出さなければ……」
オマエは生きて側に居てくれる?
「悟……」
「ねぇ、名前。死なないでよ。離れていくなんて許さない。僕以外がオマエを傷付けるのも嫌だ。僕以外の誰かのモノになるのも嫌だ」
「悟……あんた……」
「閉じ込めて鎖で繋いでおけばいい?」
「どこのヤンデレ?」
熱でもあるの?と額を触る名前。
「それくらい今回は僕だって焦ったの」
「すまん」
「ノリが軽い。反省してないだろ」
「タイミング悪すぎてもはやどこを反省しろと?」
「開き直るなばーか」
「はいはい、私が悪かったでちゅねー。
だから拗ねんのやめまちょうねー」
「犯すぞ」
あらやだ!!なんて言ってる名前はケラケラ笑いながら僕の頭を撫でている。
「どんなに私が危険な目にあっても、悟が来てくれるなら心強いさ」
「今回は間に合ったけど次はわからないだろ」
「それでも、迎えに来てくれるでしょ?」
穏やかに笑う名前。
コイツの僕への信頼が重い。
「骨になったら宝石にでも加工して持っててよ」
「物騒。ふざけんな」
「私ってば愛されてるなぁ」
「めちゃくちゃ愛してるからもう逃がせないし、離したくない」
「クソデカ感情」
「受け止めて僕を愛してよ」
言葉にしても足りない。
何度触れても足りない。
「あらやだ、イケメンが此方を見上げてる」
「オマエ空気読め」
「空気を読んだ上でその美少女顔を潰していい?」
「やったら鼻フック」
「罪重すぎない?」
「僕を心配させて心を押し潰した罰」
「悟……そんな繊細な心があんたにあったのか」
「犯す。まじで犯す」
「いやぁぁああああっ!!!硝子ちゃーーーんっ!!!」
病衣をひんむけば焦って叫ぶ名前。
流石に学校の医務室でヤろうなんて思っていない。
思っていないが、ちょっとムラッときた。
「少しだけならバレないって」
「ノリノリになってんじゃないよ!!教師だろ!?」
「教師×生徒設定?物好きだなぁ」
「学長ぉぉおおおおお!!!!!」
「待った。それはまじ勘弁」
学長呼ぶとか反則でしょ。
狭いベッドに転がり、二人で抱き合って寝転がる。
「はぁ……まじで寿命縮むかと思ったのは本当」
「ごめん、って」
「厄介だな……大切だからこそ、守れなかった時の喪失感なんて考えたくない」
「弱気だね」
「僕だって人間だったって事さ」
「? 悟は人間でしょ」
僕を僕として見てくれる。
欲しい言葉を、欲しい温もりを、欲しい愛情をくれる名前。
「少し寝る」
「人のおっぱい枕にしないでよー」
「誰かさんのせいで寝不足だから」
「そこ言われると辛いなぁ」
「………名前」
「なんだい?悟くん」
普通の女。
ちょっと変わった体質はあるものの、喧しくて馬鹿でアホで間抜けな面白い奴。
人タラシで、ほっとくと何するかわからない。
よく笑い、よく騒ぎ、時々怒り、隠れて泣く。
「大好き」
「……私も大好きだよ」
そんなキミを丸ごと愛してる。
「………寝てる」
「寝てるわね」
「寝てるな」
スヤスヤと温かさに包まれ、ぐっすりと眠っていたら聞こえた声。
目を開けようとしたが、見えたのは病衣だけ。
僕の頭を抱えるように胸に抱きながら眠っている名前のせいで起き上がることも出来ない。
「五条先生羨ましい……おっぱい枕じゃん」
「本音溢してんじゃないわよ」
「殴ってもいいよな?」
「伏黒、アンタ名前さん好き過ぎるでしょ」
「姉のように思ってる人の胸に挟まってる男なんざ頭カチ割っても問題無い」
「なるほど、一理あるわ。
私もカチ割ろうかしら」
「伏黒ストップ!!まじでストップ!!
そして釘崎のそのトンカチはシャレにならないって!!」
「離せ、虎杖」
「私が駄目なら真希さん呼ぶわ」
「それもっと駄目なやつ!!!」
わーわー騒ぎだす一年達。
どうやら僕の頭は割られそうな勢いらしいが、皆僕がどんな術式か忘れてるよね?
絶対割られてやらない。
「写真撮って送ったら真希さん来るって」
「まじか」
「………確か、高専に呪力無効化する武具あった気が」
「真希さんに伝えるわ」
「待って待って!!ガチのやつじゃん!?」
「虎杖……五条先生の術式無効化しないと割れないだろ?」
「そうよ。やるなら徹底的にヤらなきゃ」
「その殺意どこから!?」
「シンプルにムカつく」
「怪我人相手にサカッてんじゃないわよ」
「起きて!!五条先生起きて逃げてぇぇえええ!!!」
恵と野薔薇の殺意に笑ってしまう。
名前にタラされた子供達も、名前を心配していたんだよ。
起きたらきっと名前は生徒達を優先して可愛がる。
フザケだすけど、はしゃぎすぎたら傷口が開いたら硝子に怒られてしまう。
勿論一番は僕だけど、もう少しだけこの温もりを一人で感じていたい。
もうすぐ来るであろう2年達が来るまでもう少しだけ……呑気に眠る彼女を一人占めしたい。
トクトク、と穏やかに脈打つ心臓の鼓動を聞きながら、賑やかに騒ぐ声を聞きつつ僕はまた目を閉じて彼女を抱き寄せた。
あとがき
リクエスト「五条視点でシリアス」
怪我から救出。
ラブラブしつつ、ギャグありのハッピーエンド……いかがでしたか?
クソデカ感情がアレな五条さんですな。
五条さんが五条さんっぽくなかった気もしますが……なんせギャグが決まらない(笑)
この後真希ちゃんに思いっきり武具振り下ろされるのを無下限で防いだ。
寝惚けて目覚めたら、瞳孔開いた真希ちゃんに武具突き付けられてた通行人が悲鳴を上げた落ち(笑)
いつもありがとうございます!
これからもよろしくお願いいたします!