十万企画
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「あら?ここは……」
見慣れた校舎だが、目の前にいるのは懐かしい顔。
驚いた4人の顔に頬が自然と緩む。
「こんにちは」
微笑むとほんのりと頬が色付く子供達が可愛らしくてくすり、と笑ってしまった。
我に戻った傑が説明してくれた。
ちょっとやらかし過ぎて罰として高専の倉庫掃除を任されたが、以前にもやらかしたというのに悟がまとめて術式で掃除しようとして通りかかった学生時代の私が被害にあったらしい。
「ってことは10年前くらいかしら?」
「先輩今おいくつですか?」
「あら傑。女性に年齢を聞くのはよくないわよ?」
「傑ぅ!?」
「……………す、い…ません」
驚き叫ぶ悟。傑も驚きながら視線を右往左往させて誤魔化すように笑う。
「何で傑のこと名前で呼んでんだよ!!」
「あら?おかしい?」
頭を傾げて悟を覗き込む。
するとギョッとした表情をしながら後退りする悟に頭を傾げる。
「名前距離近くね?」
「大和は相変わらず頭の悪そうな目がチカチカする頭ね。あぁ、頭は中身も悪かったから仕方ないか」
「えっっっぐ!!!!何で笑顔でそんなに心を抉れるの!?」
「だって大和だもの…」
「何その"当たり前のこと言われても"って顔!?」
「懐かしいなぁ……ふふっ。あの頃から身長高めだと思っていたけど、やっぱり2人とも大きいね」
今よりも少し目線が近く感じるのは私がヒールだからだろうか?
学生時代もにょきにょき身長を伸ばしていたから幼く感じる顔立ちも合わさり、少しだけ距離が近く感じる。
身長を測るように背伸びしながら二人へ手を伸ばすと、その手をガッチリと掴む硝子。
「………名前先輩……結婚してるんですか」
硝子が目を見開き驚いている。
学生時代の硝子も幼くて短い髪型が懐かしくて可愛らしい。
「はあ!?」
「先輩……結婚してしまったんですか…?」
「そうだよ。私人妻」
「誰だよ相手は」
「誰ですか」
「うわっ、ぐいぐいくるね二人共」
落ち込んだかと思ったら機嫌悪くこちらを見下ろしてくる二人。
あの頃からコロコロ表情がわかりやすいとは思っていたが、こんなにもわかりやすかっただろうか?
「こーゆーのって未来が変わるから言っちゃいけないのがセオリーじゃないかしら?」
「知るか」
「言えない相手なんですか?」
「内緒」
しー、と口元に人差し指を持ってくる。
途端に顔を赤くする二人。
いや、硝子まで赤くなるってどういうこと?
「名前先輩どうしたらそんな色気出るんですか……」
「そう?私よりもこっちの二人の方が色気があると思うけど」
「いつものオマエはほわほわしてるけど、今のオマエはそれに大人の色気が加わっている。
つまり!!
人妻の色気だな」
「大和、お口チャック。耳障りだわ」
「俺の扱いは酷さパワーアップしてるけどな!!!」
両手で顔を覆う大和を放置して、懐かしい硝子の頭を撫でる。
「懐かしいなぁ。硝子、今は髪長いから凄く懐かしい」
「私伸ばしてるんですか?」
「うん。肩より長いくらいかな?」
長くてもしっかりケアをしているし、私も暇さえあれば寝不足気味の硝子の手入れをするのでサラサラな髪だ。
短いストレートの硝子の髪の指通りも良く、思い出せば学生時代もよく硝子の髪を弄らせてもらったな、と思い出した。
「あまり夜更かしはしないようにね?」
「気をつけます」
「懐かしい……硝子が今も昔も可愛い」
「名前先輩はとっても綺麗になりましたね」
「あら、ありがとう」
硝子の頭を撫でると照れながらも引っ付いてくれる。
「本当に綺麗になりましたね……本物の禪院先輩ですか?」
「あらやだ。私今は禪院じゃないわよ?」
「ってことは婚約者とは別な人と?」
「誘導しても言わないよ、傑」
「それだけわかっただけでも良かったと思ったんですよ」
「心配してくれていたの?」
「そうですよ。
強くて逞しい先輩のことだから、必ず有言実行で駆け落ちくらいしそうなので」
「ふふふ。駆け落ちみたいなものはしたわ」
学生結婚なんて駆け落ち同然だろう。
そう考えるとなんて波乱万丈な人生なのだろうか、と笑ってしまう。
あの頃は必死に毎日を生き、恋をしていたが……
今思い返せば若気の至りだ。
「傑も今見ると分かりやすいのになぁ」
「私が?」
「綺麗になった私はどうかな?傑」
「………私で遊ばないでください」
わざと上目遣いで覗き込むと口元を押さえて視線を逸らす傑に笑ってしまう。
あの頃はポーカーフェイスが上手く、大人びた彼が何を考えているのか分かりにくかったのに……子供らしさがあった。こんなにも表情が変わる。
見ていたようで、私は自分の事ばかりで何も見えていなかったんだと思い知らされる。
「傑は大人びているけど、まだまだ子供なんだからもっと素直になってもいいと思うよ?」
「先輩……」
「真面目なのは傑のいいところだけど、溜め込みすぎは良くないよ」
「何だか本当に大人になってしまった先輩ですね」
「そうよ。私、傑よりも大人なの」
ふふふ、と笑えば困った顔をする傑。
未来を変えてしまうのは良くないが……出来るならば、この後輩と共に笑い合う未来が欲しい。
知っていて変えることの出来ない未来がもどかしい。
だが、ここで何かを変えるということは、未来でも予想外の事があるはずだ。
生きているはずの命が無くなり
最悪の方向に転がっているかもしれない。
傑の救いたかった命すら、手遅れになる可能性もある。
勿論死んでも良い命などはない。
だが、私の勝手で私の都合の良い未来など出来るわけがない。
「大好きよ、傑」
「!!?」
「あ……り、がと………う、ござい……ます」
「硝子も大好き」
「私も名前先輩が大好きです」
「俺も名前が友達として好きだぜ!!」
「大和はちょっと好き、かな」
「そこは大好き!!って言えよぉ!!」
ぎこちなく顔を赤くする傑。
そんな彼を目に焼き付ける。
ふと、大人しい存在に視線をやれば目があった瞬間逸らされた。
ムスッとした面白くない顔をして、どうやら拗ねているらしい。
きっと硝子や傑ばかりと関わっているから面白くないのだろう。けど、自分から近寄ってこないところをみると、まだベッタリと張り付く前の悟なのだろう。
近寄ってこない悟がなんだか珍しく思い、少しイタズラ心が出てしまう。
「どうかしたの?五条くん」
「別に!!」
「おかしいな……いつもの五条くんならベッタリ張り付いてくるのに」
「はぁぁああああ!?そんなことしてねーっし!!」
「先輩先輩ってヒヨコみたいにぴよぴよと後をついてきて可愛い後輩なんだけどなぁ」
「絶対嘘だね。俺がそんなことするわけない」
今にも噛み付きそうな悟に笑ってしまう。
両手を広げてみれば、ビクッとして固まり悟。
「おいで?」
「………は?」
「あら、いつもなら飛び付いてくるのに」
「………犬じゃねーし」
「ほらほら、おーいで?」
「………」
「悟」
名前を呼ぶと、こちらを見てゆっくりと近寄ってくる。
人1人分を開けて立ち止まる。
抱き付こうか迷っているのだろう。
そんな葛藤が可愛らしくて笑ってしまうと笑うな!と叫ばれた。
背伸びして、両手を伸ばし悟の頭をくしゃくしゃに撫でる。
「ちょっ、やめろ!!」
「こんな悟珍しい。やだ、新鮮」
「触んなよ!!」
「あら?膝枕しながら撫でる方がいい?それともおっぱい枕かしら?」
「おっ!?そ、そんな羨まし……いや、そんなことしてんの?未来の俺……」
「いつも頭擦り付けてくるよ」
「嘘だろ…」
じっとこちらを見下ろす悟。
なぁに?と頭を傾げれば顔を赤くしながら落ち着き無くあちこちを見る。
「悟?こっち見てよ」
「うるせー」
「落ち着かない?」
「うっせーよ」
「おっぱい見る?」
「はぁ!?」
いちいち反応が面白くて笑えば離れてしまった。
いつも甘やかしてくれる悟が警戒心を持ちながらも構って欲しいというようにチラチラこちらを見てるのは面白いが、どこか寂しく思う。
「先輩イキイキしていますね」
「そうね。いつも懐いていた後輩達が距離を置いているのは何だか新鮮だわ。
だからこそより構いたくなる」
じっと悟と傑を見れば、どちらも顔を背ける。
「名前先輩にとってのいつもってどんな感じですか?」
「そうね……犬、かしら?」
「「犬……」」
表情を無くした悟と傑。
お腹を抱えて笑う硝子と大和。
「おいで?悟、傑」
「ほらほら、飼い主が呼んでるよ?」
「ほらほら、いつもみたいにお腹出して甘えろって」
「「大和(先輩)ボコる」」
「何で俺だけ!?」
楽しい時間も終わりがくる。
スーっと手先が消えていく。
「そろそろ時間かな?」
近寄ってきた硝子がきゅっ、と腕に抱き付く。
「名前先輩」
「なぁに?硝子」
「……結婚して、幸せですか?」
心配そうに聞いてくる硝子。
婚約者から逃げようと必死に抗っていた頃なので、私が幸せそうに見えるのが不思議なのかもしれない。
「そうね。とっても幸せ」
相手を言うことは出来ないが、私は確かに幸せだ。
こうして笑って居られるのも、今が幸せなのも。
「硝子達と出会えたから私の人生は変われたよ」
1人で必死に頑張っても限界がある。
けど、私は1人じゃないと教えられた。
「ありがとう、硝子」
硝子の額に唇を寄せてチュッ、とキスを落とす。
硝子は額を押さえて顔が真っ赤になっているのが可愛らしくて笑ってしまう。
「傑も、いつも気に掛けてくれていたから」
「ーーーっ!!」
傑の手を握り、背を伸ばして傑の頬に唇を寄せる。
驚き目を見開く傑の手を握りしめる。
「ありがとう、傑」
「……酷い人だ。人妻に誘惑される経験をして性癖が変わったらどう責任とってくれるんですか?」
「傑の人妻好きは元からじゃないの?」
「違います。何ですかその変な勘違い」
困った顔の傑の頭を撫でる。
そして大和へ。
「今もこれから先もずっと頼むよ、相棒」
「おう!!」
ガッチリ握手してお互いに抱き合う。
大和の耳に唇を寄せる。
ーー硝子のこと頑張れーー
「は?ちょっ、はぁぁあああああ!!?」
顔を真っ赤にして叫び、耳を抑える大和を笑う。
顔を両手で覆い、地面に崩れ落ち転がる姿に周りがドン引きだ。
「悟」
「……なんだよ」
「ありがとう」
悟の胸元に頭を寄せて抱き締める。
ドキドキと速い鼓動。
すました顔をしているのに、心臓は素直だ。
「悟」
「………」
「私ね」
悟の顔へと手を伸ばす。
太陽の光に照らされてキラキラ輝く髪をすく。
「貴方達に出会えて良かった」
そっと首筋へと唇を寄せた。
顔だけじゃなく首まで赤くなった悟。
「また未来で」
真っ白になった視界。
「おーはよ、名前」
目が覚めると、こちらを眺める悟がいた。
ここはどこだと起き上がると、どうやら高専の医務室らしい。
「私……」
「突然倒れたら10年くらい前の高専姿の名前が現れてビックリ」
「入れ替わってたんだ」
「みたいだね」
そんなことあったっけ?と悟に聞かれるが、私にも記憶がない。
「もしかしたら別の時空の私だったのかもね」
「面白い話だね」
「私もね、懐かしい顔に会ったよ」
悟の頬を撫でる。
私の手に甘えるようにすり寄る悟。
「悟」
「何?」
「大好き」
「僕の方が大好きだし」
「可愛かったよ?警戒心高めの悟」
「浮気だ」
「少し触れただけで首まで真っ赤になるの」
「僕の奥さんが学生に手を出した」
「ちょっとスキンシップしただけよ」
「妬いちゃうな」
僕には触れてくれないの?と近寄ってのし掛かる悟。
やはり私はこの悟に慣れてしまっているらしい。
「警戒心高めな悟も可愛かったけど
こうして触れてくれる悟の方が寂しくなくていいな」
「寂しかったの?」
「うん。
懐かしくて、可愛くてーー少し、寂しかった」
「じゃあ寂しくなくなるように沢山ギュッてしなきゃ」
笑いながら抱き締めてくれる悟。
私も悟の背に腕を回した。
「ところで悟くん」
「なぁに?名前ちゃん」
「過去の私に疚しいことしていないでしょうね?」
「……………」
「悟くーん?」
さっ、と視線を逸らす悟。
私は悟の頬をガッチリと掴む。
「ちょ、ちょっと……」
「ちょっと?」
「警戒心高めな学生服姿の名前が可愛くて」
「ん?」
「泣かせてみたいなーと」
「悟?」
何をしてるんだこの男。
思わず笑顔が消えて冷めた視線を送りながらそっと距離を置こうとすると、焦ったように抱き付いてくる。
「思っただけでやってないから!
ちょっと追いかけたら転んで頭ぶつけて気絶しちゃったから何もしてません!!」
「本当に?」
「本当に!!」
「スカートの中覗いたりしてない?」
「僕のこと何だと思ってんの?」
拗ねだした悟が肩に頭を擦り付けてくる。
ポンポン、と頭を撫でるとじとっとした目を向けてきた。
「自分は過去の僕で遊んできたくせに」
「気絶しなければ悟も過去の私で遊んでたんでしょ?」
「過去の名前は勿論好きだけど
僕を大好きって愛してくれる今の名前がもっと好きだから今の名前がいい」
「私も。
今の悟を愛してる」
お互いの唇を重ね合わせて笑う私達。
「医務室はイチャつくとこじゃないぞ」
「硝子」
「名前先輩、具合は?どこか変なところは?」
「無いよ。大丈夫」
悟を押し退けて様子を聞きにくる硝子。
「硝子も大好き」
「私も名前先輩大好きです」
「浮気だー」
「なーなー!五条が高専の見慣れない学生追いかけ回してたってマジ?」
「大和、マジビンタね」
「え?」
いつもの光景に私達は笑った。
あとがき
リクエスト「先輩にタジタジな五条」
どーですかね?タジタジ感……あったかな?(笑)
大人の先輩が五条をタジタジさせるのは難しく感じたので、ちょっと学生五条を弄ったついでに夏油も弄らせてもらいました(笑)
リクエスト企画参加いただき、ありがとうございました!
見慣れた校舎だが、目の前にいるのは懐かしい顔。
驚いた4人の顔に頬が自然と緩む。
「こんにちは」
微笑むとほんのりと頬が色付く子供達が可愛らしくてくすり、と笑ってしまった。
我に戻った傑が説明してくれた。
ちょっとやらかし過ぎて罰として高専の倉庫掃除を任されたが、以前にもやらかしたというのに悟がまとめて術式で掃除しようとして通りかかった学生時代の私が被害にあったらしい。
「ってことは10年前くらいかしら?」
「先輩今おいくつですか?」
「あら傑。女性に年齢を聞くのはよくないわよ?」
「傑ぅ!?」
「……………す、い…ません」
驚き叫ぶ悟。傑も驚きながら視線を右往左往させて誤魔化すように笑う。
「何で傑のこと名前で呼んでんだよ!!」
「あら?おかしい?」
頭を傾げて悟を覗き込む。
するとギョッとした表情をしながら後退りする悟に頭を傾げる。
「名前距離近くね?」
「大和は相変わらず頭の悪そうな目がチカチカする頭ね。あぁ、頭は中身も悪かったから仕方ないか」
「えっっっぐ!!!!何で笑顔でそんなに心を抉れるの!?」
「だって大和だもの…」
「何その"当たり前のこと言われても"って顔!?」
「懐かしいなぁ……ふふっ。あの頃から身長高めだと思っていたけど、やっぱり2人とも大きいね」
今よりも少し目線が近く感じるのは私がヒールだからだろうか?
学生時代もにょきにょき身長を伸ばしていたから幼く感じる顔立ちも合わさり、少しだけ距離が近く感じる。
身長を測るように背伸びしながら二人へ手を伸ばすと、その手をガッチリと掴む硝子。
「………名前先輩……結婚してるんですか」
硝子が目を見開き驚いている。
学生時代の硝子も幼くて短い髪型が懐かしくて可愛らしい。
「はあ!?」
「先輩……結婚してしまったんですか…?」
「そうだよ。私人妻」
「誰だよ相手は」
「誰ですか」
「うわっ、ぐいぐいくるね二人共」
落ち込んだかと思ったら機嫌悪くこちらを見下ろしてくる二人。
あの頃からコロコロ表情がわかりやすいとは思っていたが、こんなにもわかりやすかっただろうか?
「こーゆーのって未来が変わるから言っちゃいけないのがセオリーじゃないかしら?」
「知るか」
「言えない相手なんですか?」
「内緒」
しー、と口元に人差し指を持ってくる。
途端に顔を赤くする二人。
いや、硝子まで赤くなるってどういうこと?
「名前先輩どうしたらそんな色気出るんですか……」
「そう?私よりもこっちの二人の方が色気があると思うけど」
「いつものオマエはほわほわしてるけど、今のオマエはそれに大人の色気が加わっている。
つまり!!
人妻の色気だな」
「大和、お口チャック。耳障りだわ」
「俺の扱いは酷さパワーアップしてるけどな!!!」
両手で顔を覆う大和を放置して、懐かしい硝子の頭を撫でる。
「懐かしいなぁ。硝子、今は髪長いから凄く懐かしい」
「私伸ばしてるんですか?」
「うん。肩より長いくらいかな?」
長くてもしっかりケアをしているし、私も暇さえあれば寝不足気味の硝子の手入れをするのでサラサラな髪だ。
短いストレートの硝子の髪の指通りも良く、思い出せば学生時代もよく硝子の髪を弄らせてもらったな、と思い出した。
「あまり夜更かしはしないようにね?」
「気をつけます」
「懐かしい……硝子が今も昔も可愛い」
「名前先輩はとっても綺麗になりましたね」
「あら、ありがとう」
硝子の頭を撫でると照れながらも引っ付いてくれる。
「本当に綺麗になりましたね……本物の禪院先輩ですか?」
「あらやだ。私今は禪院じゃないわよ?」
「ってことは婚約者とは別な人と?」
「誘導しても言わないよ、傑」
「それだけわかっただけでも良かったと思ったんですよ」
「心配してくれていたの?」
「そうですよ。
強くて逞しい先輩のことだから、必ず有言実行で駆け落ちくらいしそうなので」
「ふふふ。駆け落ちみたいなものはしたわ」
学生結婚なんて駆け落ち同然だろう。
そう考えるとなんて波乱万丈な人生なのだろうか、と笑ってしまう。
あの頃は必死に毎日を生き、恋をしていたが……
今思い返せば若気の至りだ。
「傑も今見ると分かりやすいのになぁ」
「私が?」
「綺麗になった私はどうかな?傑」
「………私で遊ばないでください」
わざと上目遣いで覗き込むと口元を押さえて視線を逸らす傑に笑ってしまう。
あの頃はポーカーフェイスが上手く、大人びた彼が何を考えているのか分かりにくかったのに……子供らしさがあった。こんなにも表情が変わる。
見ていたようで、私は自分の事ばかりで何も見えていなかったんだと思い知らされる。
「傑は大人びているけど、まだまだ子供なんだからもっと素直になってもいいと思うよ?」
「先輩……」
「真面目なのは傑のいいところだけど、溜め込みすぎは良くないよ」
「何だか本当に大人になってしまった先輩ですね」
「そうよ。私、傑よりも大人なの」
ふふふ、と笑えば困った顔をする傑。
未来を変えてしまうのは良くないが……出来るならば、この後輩と共に笑い合う未来が欲しい。
知っていて変えることの出来ない未来がもどかしい。
だが、ここで何かを変えるということは、未来でも予想外の事があるはずだ。
生きているはずの命が無くなり
最悪の方向に転がっているかもしれない。
傑の救いたかった命すら、手遅れになる可能性もある。
勿論死んでも良い命などはない。
だが、私の勝手で私の都合の良い未来など出来るわけがない。
「大好きよ、傑」
「!!?」
「あ……り、がと………う、ござい……ます」
「硝子も大好き」
「私も名前先輩が大好きです」
「俺も名前が友達として好きだぜ!!」
「大和はちょっと好き、かな」
「そこは大好き!!って言えよぉ!!」
ぎこちなく顔を赤くする傑。
そんな彼を目に焼き付ける。
ふと、大人しい存在に視線をやれば目があった瞬間逸らされた。
ムスッとした面白くない顔をして、どうやら拗ねているらしい。
きっと硝子や傑ばかりと関わっているから面白くないのだろう。けど、自分から近寄ってこないところをみると、まだベッタリと張り付く前の悟なのだろう。
近寄ってこない悟がなんだか珍しく思い、少しイタズラ心が出てしまう。
「どうかしたの?五条くん」
「別に!!」
「おかしいな……いつもの五条くんならベッタリ張り付いてくるのに」
「はぁぁああああ!?そんなことしてねーっし!!」
「先輩先輩ってヒヨコみたいにぴよぴよと後をついてきて可愛い後輩なんだけどなぁ」
「絶対嘘だね。俺がそんなことするわけない」
今にも噛み付きそうな悟に笑ってしまう。
両手を広げてみれば、ビクッとして固まり悟。
「おいで?」
「………は?」
「あら、いつもなら飛び付いてくるのに」
「………犬じゃねーし」
「ほらほら、おーいで?」
「………」
「悟」
名前を呼ぶと、こちらを見てゆっくりと近寄ってくる。
人1人分を開けて立ち止まる。
抱き付こうか迷っているのだろう。
そんな葛藤が可愛らしくて笑ってしまうと笑うな!と叫ばれた。
背伸びして、両手を伸ばし悟の頭をくしゃくしゃに撫でる。
「ちょっ、やめろ!!」
「こんな悟珍しい。やだ、新鮮」
「触んなよ!!」
「あら?膝枕しながら撫でる方がいい?それともおっぱい枕かしら?」
「おっ!?そ、そんな羨まし……いや、そんなことしてんの?未来の俺……」
「いつも頭擦り付けてくるよ」
「嘘だろ…」
じっとこちらを見下ろす悟。
なぁに?と頭を傾げれば顔を赤くしながら落ち着き無くあちこちを見る。
「悟?こっち見てよ」
「うるせー」
「落ち着かない?」
「うっせーよ」
「おっぱい見る?」
「はぁ!?」
いちいち反応が面白くて笑えば離れてしまった。
いつも甘やかしてくれる悟が警戒心を持ちながらも構って欲しいというようにチラチラこちらを見てるのは面白いが、どこか寂しく思う。
「先輩イキイキしていますね」
「そうね。いつも懐いていた後輩達が距離を置いているのは何だか新鮮だわ。
だからこそより構いたくなる」
じっと悟と傑を見れば、どちらも顔を背ける。
「名前先輩にとってのいつもってどんな感じですか?」
「そうね……犬、かしら?」
「「犬……」」
表情を無くした悟と傑。
お腹を抱えて笑う硝子と大和。
「おいで?悟、傑」
「ほらほら、飼い主が呼んでるよ?」
「ほらほら、いつもみたいにお腹出して甘えろって」
「「大和(先輩)ボコる」」
「何で俺だけ!?」
楽しい時間も終わりがくる。
スーっと手先が消えていく。
「そろそろ時間かな?」
近寄ってきた硝子がきゅっ、と腕に抱き付く。
「名前先輩」
「なぁに?硝子」
「……結婚して、幸せですか?」
心配そうに聞いてくる硝子。
婚約者から逃げようと必死に抗っていた頃なので、私が幸せそうに見えるのが不思議なのかもしれない。
「そうね。とっても幸せ」
相手を言うことは出来ないが、私は確かに幸せだ。
こうして笑って居られるのも、今が幸せなのも。
「硝子達と出会えたから私の人生は変われたよ」
1人で必死に頑張っても限界がある。
けど、私は1人じゃないと教えられた。
「ありがとう、硝子」
硝子の額に唇を寄せてチュッ、とキスを落とす。
硝子は額を押さえて顔が真っ赤になっているのが可愛らしくて笑ってしまう。
「傑も、いつも気に掛けてくれていたから」
「ーーーっ!!」
傑の手を握り、背を伸ばして傑の頬に唇を寄せる。
驚き目を見開く傑の手を握りしめる。
「ありがとう、傑」
「……酷い人だ。人妻に誘惑される経験をして性癖が変わったらどう責任とってくれるんですか?」
「傑の人妻好きは元からじゃないの?」
「違います。何ですかその変な勘違い」
困った顔の傑の頭を撫でる。
そして大和へ。
「今もこれから先もずっと頼むよ、相棒」
「おう!!」
ガッチリ握手してお互いに抱き合う。
大和の耳に唇を寄せる。
ーー硝子のこと頑張れーー
「は?ちょっ、はぁぁあああああ!!?」
顔を真っ赤にして叫び、耳を抑える大和を笑う。
顔を両手で覆い、地面に崩れ落ち転がる姿に周りがドン引きだ。
「悟」
「……なんだよ」
「ありがとう」
悟の胸元に頭を寄せて抱き締める。
ドキドキと速い鼓動。
すました顔をしているのに、心臓は素直だ。
「悟」
「………」
「私ね」
悟の顔へと手を伸ばす。
太陽の光に照らされてキラキラ輝く髪をすく。
「貴方達に出会えて良かった」
そっと首筋へと唇を寄せた。
顔だけじゃなく首まで赤くなった悟。
「また未来で」
真っ白になった視界。
「おーはよ、名前」
目が覚めると、こちらを眺める悟がいた。
ここはどこだと起き上がると、どうやら高専の医務室らしい。
「私……」
「突然倒れたら10年くらい前の高専姿の名前が現れてビックリ」
「入れ替わってたんだ」
「みたいだね」
そんなことあったっけ?と悟に聞かれるが、私にも記憶がない。
「もしかしたら別の時空の私だったのかもね」
「面白い話だね」
「私もね、懐かしい顔に会ったよ」
悟の頬を撫でる。
私の手に甘えるようにすり寄る悟。
「悟」
「何?」
「大好き」
「僕の方が大好きだし」
「可愛かったよ?警戒心高めの悟」
「浮気だ」
「少し触れただけで首まで真っ赤になるの」
「僕の奥さんが学生に手を出した」
「ちょっとスキンシップしただけよ」
「妬いちゃうな」
僕には触れてくれないの?と近寄ってのし掛かる悟。
やはり私はこの悟に慣れてしまっているらしい。
「警戒心高めな悟も可愛かったけど
こうして触れてくれる悟の方が寂しくなくていいな」
「寂しかったの?」
「うん。
懐かしくて、可愛くてーー少し、寂しかった」
「じゃあ寂しくなくなるように沢山ギュッてしなきゃ」
笑いながら抱き締めてくれる悟。
私も悟の背に腕を回した。
「ところで悟くん」
「なぁに?名前ちゃん」
「過去の私に疚しいことしていないでしょうね?」
「……………」
「悟くーん?」
さっ、と視線を逸らす悟。
私は悟の頬をガッチリと掴む。
「ちょ、ちょっと……」
「ちょっと?」
「警戒心高めな学生服姿の名前が可愛くて」
「ん?」
「泣かせてみたいなーと」
「悟?」
何をしてるんだこの男。
思わず笑顔が消えて冷めた視線を送りながらそっと距離を置こうとすると、焦ったように抱き付いてくる。
「思っただけでやってないから!
ちょっと追いかけたら転んで頭ぶつけて気絶しちゃったから何もしてません!!」
「本当に?」
「本当に!!」
「スカートの中覗いたりしてない?」
「僕のこと何だと思ってんの?」
拗ねだした悟が肩に頭を擦り付けてくる。
ポンポン、と頭を撫でるとじとっとした目を向けてきた。
「自分は過去の僕で遊んできたくせに」
「気絶しなければ悟も過去の私で遊んでたんでしょ?」
「過去の名前は勿論好きだけど
僕を大好きって愛してくれる今の名前がもっと好きだから今の名前がいい」
「私も。
今の悟を愛してる」
お互いの唇を重ね合わせて笑う私達。
「医務室はイチャつくとこじゃないぞ」
「硝子」
「名前先輩、具合は?どこか変なところは?」
「無いよ。大丈夫」
悟を押し退けて様子を聞きにくる硝子。
「硝子も大好き」
「私も名前先輩大好きです」
「浮気だー」
「なーなー!五条が高専の見慣れない学生追いかけ回してたってマジ?」
「大和、マジビンタね」
「え?」
いつもの光景に私達は笑った。
あとがき
リクエスト「先輩にタジタジな五条」
どーですかね?タジタジ感……あったかな?(笑)
大人の先輩が五条をタジタジさせるのは難しく感じたので、ちょっと学生五条を弄ったついでに夏油も弄らせてもらいました(笑)
リクエスト企画参加いただき、ありがとうございました!