十万企画
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任務も終わり、小腹が空いたからと一年達と街でブラブラとしている最中、最初に気付いたのは伊地知だった。
伊地知様子に次いで、伏黒が何事かと頭を傾げる。
チラチラと五条ととある方向を気にする伊地知に全員が同じように視線を向けた。
伊地知が慌てたように五条の視界を塞ごうとしたものの、一歩遅かった。
「…あ"?」
顔に手を当てながらダラダラ冷や汗を流す伊地知に対し、額に青筋を浮かべてバッチリと2人の姿を見つめる五条。そしていつもの穏やかな五条からとは思えない青筋と低い声に驚く三人がいた。
高専に戻るはずの予定だったが、急遽開催されたミッション。
「こちら、虎杖。対象は寄り添って歩いてますどーぞ」
「こちら釘崎。対象へのエスコートは完璧だわ、どーぞ」
「名前さん楽しそうっすね」
「わかった。全員一斉に男に攻撃準備用意」
「な、何言ってんですか五条さん!!!」
名前過激派の旦那は完全に目が逝っていた。
必死に止める伊地知のストレスがマッハで溜まっていく。
「けどさ、五条先生。何で名前さんの後追いかけてんの?」
「そうよ。普段はところ構わずイチャつくくせに」
「いつもはね。誰が相手でも僕の名前が僕以外の誰かを優先するなんて絶対ないし」
「その自信がイラっときますね」
「あの男ね、名前の元婚約者なんだよね」
「「「は?」」」
「僕と籍入れる前のだけどね」
面白くなさそうにじっと名前から視線を外さない五条。
視線の先の名前はそれなりの顔立ちの整った男に腰を支えられながら微笑み、その腰の手を叩き落として歩いている。
何も知らない人が見れば、絵になるカップルだろう。
しかし、五条と共にいる姿に見慣れた一年達にとっては違和感しかないし、そもそも旦那以外の男の人と歩いてるって浮気?とか色々考えが巡ってしまう。
「チッ。色々手回ししたのにまだ諦めて無かったのかな」
「五条さん、生徒の前ですよ」
「人の奥さんつれ歩いてデレデレしてる野郎なんざ生きる価値無いと思わない?」
わりと本気の声のトーンにふざけたいつもの担任の影はない。
「ヤバいわね、あの男」
「名前さんの浮気疑惑より五条先生があの男殺さないか止める方がいいかな?」
「お願いですから街中で暴れるのはやめてくださいね……!!!」
「そもそも名前さん目が笑ってなくね?」
「そうね。微笑んでいるけれどあれ手を握られる度叩き落としているし」
「浮気じゃないと思うよ先生」
「名前が嫌がっているからここから術式ぶっぱなして消せばいいかな?」
「何真顔で言ってんスかアンタ。
そんなに気になるなら名前さんに電話したらいいじゃないですか」
伏黒が言うが早いか名前へと電話をかける。
視線の先では電話を取る名前が。
『もしもし?恵、どうかしたの?』
「名前さん今どこですか?五条先生が名前さんいないって騒いでて」
『今?今は少し出掛けているよ』
「五条先生が迎えに行くって言ってます」
『知り合いと出掛けているから迎えはいらないって言っておいてくれる?
なるべく早めに帰るから』
じゃあ、お土産買ってくるからいい子で待っててねーと電話が切られた。
「「「…………」」」
「よし、ちょっと乱暴しようか」
「「「「待って待って待って」」」」
構え始めた五条に四人で張り付く。
これは五条の情緒がヤバいと判断し、本格的に浮気疑惑をどうにかしないとと思った。
じゃないと最強が暴れてニュースになりかねない。
いや、むしろ最強の力で隠蔽しそうだ。
「いい?私が名前さんに自然を装って近付く。そして色々事情を聞いてくるからくれぐれも………そう、くれぐれも!!そこの危ない奴を解き放たないように」
「「おう」」
「いざとなったら伊地知さん、麻酔薬を」
「私には無理です」
「野薔薇、僕猛獣じゃないんだけど?」
「じゃあ行ってくるから大人しくしていなさいよ」
タピオカ片手に突撃する釘崎。
流石釘崎。
自然に名前に声を掛けて男とも話している。
そして……
「あんた人として負けてるわよ」
「よし、やっぱり殺ってくる」
「ストップストップストップ!!」
「釘崎、名前さんなんだって?」
「心配することないわよ。ほら、帰るわよ」
車に乗り込む釘崎に対し、五条は面白くなさそうに口を尖らせている。
「こんなイケメンな旦那がいるのに内緒で元婚約者と出歩くなんて浮気だよ、浮気」
「器のちっさい男ね。
名前さんも可哀想だわ。信頼も信用もされていないなんて」
「そんなことないし。あの男が名前に何かしないか心配なの」
「あぁ、それとも自信が無いの?
普段はあれだけべたべたイチャついてるのに」
にっこり笑いながら煽る釘崎。
伊地知、伏黒、虎杖がオロオロしながら成り行きを見守っている。
「あぁ!そうそう。
これから役所に行って指輪見に行くそうよ」
途端に走って居なくなった五条。
その姿に釘崎だけはクスクス笑っている。
「い、いいんですか!?」
「名前さん最初から知っていたから問題無いわよ」
「えぇ!?俺らが尾行していたの知ってたの?」
「あれだけ呪い殺しそうなほど見つめていられたら流石に気付くって」
「だから電話で笑ってたのか」
納得した男三人。
普通の人ならまだしも、現役呪術師である彼女が殺気に気付かないわけがなかった。
「相手の男も名前さんに気があるわけでもないし。
あの馬鹿が居ることを知っててわざわざエスコートしていたのは性格が悪いと思うけど」
「うわ……」
「まじで五条先生1人で大丈夫か?」
「大丈夫でしょ。いつまで経っても余裕の無い男の顔を帰ってきたら皆で笑ってやりましょ」
釘崎に言われて、走り出した五条は楽しげに歩く二人を視界に捉えて手を伸ばした。
「わっ」
「何してんの」
「おや、五条くんじゃないか」
こんなところで奇遇だね、なんて笑う元婚約者。
腕のなかでもぞもぞ動く名前を抱き上げて男を睨み付ける。
「人の嫁我が物顔で連れ歩くなんて何考えてんの」
「たまたまさ。土地勘のある人に頼んだ方が用事は済ませやすいだろ?」
「駄目」
「あの時は幼いながらに堂々と僕から彼女を連れ去ったというのに、未だに彼女が心配かい?」
「当たり前でしょ。こーんな可愛くて美人で強い女いないんだから」
「ふふっ。その割に余裕が無さそうだ。
男の嫉妬は見苦しいよ?五条悟くん」
「喧嘩売ってるなら買うよ」
「おや怖い」
くすくすと笑う男に五条の機嫌はますます下がっていく。
釘崎にも余裕が無いと言われたり、名前を信用していないなどと言われたが、人妻だというのに無自覚に男達は彼女に惹かれている姿を何度も見てきた。旦那が五条だと知っても彼女に恋い焦がれ隙あらば近寄ろうとすり虫達を何度払ってきたことか。
それほどまでに人を惹き付け魅力のある彼女を放っておくなど出来るわけがない。
例え彼女が自分を愛しているとわかっていても、無理矢理彼女を手にしようとする馬鹿共はわんさかいる。
「なーに怖い顔しているの?」
こちらに手を伸ばす名前。
こちらの気など知らないでにこりと笑う彼女。
「僕と離婚してそいつとくっつくの?」
「彰文さんと?まさか!!
私の顔だけが好みで性格が良くない人なんて生理的に無理よ」
「うわぁ、本人を目の前によく言うね」
「今回は仕方なくお願いされたから道案内していたけど、どうせなら意中の相手と来たら良かったのに」
「下調べは大事だろう?格好つかないじゃないか」
「貴方の腹黒い性格を知りながらも結婚してもいいって思ってくれる相手なんだからちょっと格好悪くても気にしないと思うわよ?」
「キミこそ本当にいい性格だよね。あの時の大人しい姿は幻だったのかな?二重人格かい?」
「あらやだ。どうとも思っていない、むしろ子供の頃に私をお人形扱いしながら連れ歩いたトラウマの元が何言っても響いてこないわ」
「………どーゆー事?」
キミらこれから役所行って指輪見るんじゃ?と言えば二人でそうだと頷く。
「彼、これから意中の相手にプロポーズするそうなの。
けど、わざわざ地元じゃなく東京でデートしながら入籍準備も済ませようと思っているらしくて」
「は?」
「相手の子が非呪術師だそうよ」
「あの日、キミが1人で我が家に乗り込み名前が欲しいと言ってきた時驚いたよ。
五条悟は呪術師最強で血も涙もないような人間かどうかすら疑わしいと思っていたのに……
たかが愛とやらで、僕から婚約者を奪っていくなんて考えられなかったよ」
家の為に、家の地位のために
血を遺すことが
よりよい術式を遺すことが
自分達の意思などまるでなく
決められた相手と子を遺すことが義務だった。
「羨ましいとすら思ったよ。
漫画や小説のような君たちが自由で」
「言い訳じゃん。最初から諦めてたのはオマエだろ」
「そうだね。だから私も抗ってみようかと思ってね」
親からは反対されているんだ、と笑う男。
だが、どこかスッキリとした顔をしている。
「本当に心から彼女を愛しているからこそ、僕も家など関係無く彼女と幸せになるために動いてみようと思ってね。
だから今回はキミに内緒で名前に頼んだんだ」
「悟が知ったら絶対協力しないでしょ?」
「……ちゃんと説明したらするよ」
「嘘つき」
「うん。嘘。
元婚約者の野郎の事なんがどーでもいいし、むしろテメーで何とかしろよって言いたい」
「うわー。僕って君たちに嫌われすぎて笑えるね」
くすくすと上品に笑う男。
だが気分を悪くするわけでもなくこちらに微笑みかけてくる。
「ごめんね?キミの大事な名前を連れ回して。残りの場所はだいたい位置も確認出来たし、怖い旦那が出てきたからこの後の下調べは1人で行くよ」
「さっきから名前で呼ぶのやめてくんない?」
「じゃあ名前、今日は悪かったね。
助かったよ、ありがとう」
「困ったら連絡をしてもいいよ」
「駄目。するなら伊知地にして」
「あら、伊地知くんをコキ使っちゃ可哀想よ」
「名前より色々調べて対応力あるのは伊地知だよ」
「わかってないな、五条くん。
女性目線の意見が欲しいから名前を頼っているのに」
「名前、祓ってもいいかな?コイツ」
「駄目よ。隠蔽が大変だもの」
「物騒な夫婦」
じゃあ、といなくなった男。
腕のなかで手を振る名前。
「いつから気付いてたの」
「この近くで一年生の付き添い任務って聞いていたからね。
たまたま通りかかっただけだよ」
「………うわっ、はず。僕だけ必死で」
「悟が殺気向けてきた時はどうしようかと思っていたけど、まさか後をつけてくるなんて」
「………僕ってそんなに余裕ない?」
名前の肩に頭を乗せる。
一つ下だというだけでどんなに大人ぶっても敵わないこともある。
「可愛いと思ってるけど、そんなに私は信用ないかしら?」
「野郎の信用は無い。
名前の強さは知ってるけど、名前だって女だよ?簡単に抑え込まれる時だってある」
「そうね。
その時は悟が相手をどうにかしてくれるでしょ?」
「………その前に相手のモノが無事じゃない未来が見える」
クスクス笑う名前。
優しく頭を撫でられる手が心地よい。
いつまで経っても自分は彼女に関しては敵わないし、余裕がなくなる。
「僕の心が傷付いたから癒して」
「はいはい。それじゃ皆のお土産を買いながら少しだけデートしよう?」
「そんなので僕の機嫌が直ると思ってる?」
「今なら可愛い旦那へ愛を込めてキスしようかしら?」
「………ここだと人が多いから今夜部屋でいっぱい僕を愛してるって証明して?」
「仕方ないなぁ」
彼女の手を取り指を絡ませるように握る。
すると名前は笑って寄り添いながらどこに行こうか、と此方を見上げる。
何年経っても僕を見つめる愛おしいという顔は僕以外には向けられない顔。
可愛らしくて思わず身を屈めて唇を奪う。
「人が多いんじゃなかったの?」
「僕の愛が溢れちゃった」
「ふふっ、ほら行こう」
ケーキを買って高専に戻ると
「名前!!オマエ五条に浮気現場見られたあげく、修羅場ってきたって本当か!?」
「大和、その場にお座り」
「しかも相手は元婚約者って言うじゃん!!
五条についに愛想が尽きたのか!?」
「大和、マジビンタね」
「えっ!?なんで!?俺何もしてないだろ!!」
喧しい大和を名前が回し蹴りで沈めた。
「おかえりなさい」
「釘崎さん、これ皆で食べてね。今日は任務お疲れ様」
「疲れるほどでもないわよ」
「ちょっと野薔薇。僕のこと騙したでしょ」
「私は嘘なんて言ってないわよ?」
役所と指輪を買いに行くそうだ、とは言ったが
「名前さんの、とは一言も言ってないわ」
「………」
「あらあら、悟の早とちり?」
「ほんっと余裕無いわよね。器のちっさい男なんて嫌われるわよ」
「五条が余裕無くて器がちっさいのは学生の頃からだから仕方ないって」
「大和、まじで埋めていい?」
「俺に八つ当たるなよ!!俺先輩だかんな!!」
野薔薇と楽しそうに笑う名前。
「僕、ずっと名前には敵わないや」
「そうかな?
私だっていつも悟が取られたり悟に飽きられないかハラハラしているのに?」
「………そうなの?」
「余裕そうに見えているのは私なりの強がりだもの」
「名前好き。大好き。僕の奥さん愛してる」
「奇遇ね。私も嫉妬深い可愛い旦那一筋なの」
イチャイチャし始めた夫婦に釘崎は呆れ、さっさとケーキを持っていなくなる。
「ほーんと、馬鹿夫婦」
今日も高専の五条夫婦は仲良しだそうです。
あとがき
リクエスト「渋々元婚約者とのお出かけを五条に見られる」
先輩シリーズ久しぶりに書きましたね。
渋々感がまったく無かったかもしれませんが、五条さんはいつまでたっても先輩には余裕が持てそうにないwww
リクエストありがとうございました!
伊地知様子に次いで、伏黒が何事かと頭を傾げる。
チラチラと五条ととある方向を気にする伊地知に全員が同じように視線を向けた。
伊地知が慌てたように五条の視界を塞ごうとしたものの、一歩遅かった。
「…あ"?」
顔に手を当てながらダラダラ冷や汗を流す伊地知に対し、額に青筋を浮かべてバッチリと2人の姿を見つめる五条。そしていつもの穏やかな五条からとは思えない青筋と低い声に驚く三人がいた。
高専に戻るはずの予定だったが、急遽開催されたミッション。
「こちら、虎杖。対象は寄り添って歩いてますどーぞ」
「こちら釘崎。対象へのエスコートは完璧だわ、どーぞ」
「名前さん楽しそうっすね」
「わかった。全員一斉に男に攻撃準備用意」
「な、何言ってんですか五条さん!!!」
名前過激派の旦那は完全に目が逝っていた。
必死に止める伊地知のストレスがマッハで溜まっていく。
「けどさ、五条先生。何で名前さんの後追いかけてんの?」
「そうよ。普段はところ構わずイチャつくくせに」
「いつもはね。誰が相手でも僕の名前が僕以外の誰かを優先するなんて絶対ないし」
「その自信がイラっときますね」
「あの男ね、名前の元婚約者なんだよね」
「「「は?」」」
「僕と籍入れる前のだけどね」
面白くなさそうにじっと名前から視線を外さない五条。
視線の先の名前はそれなりの顔立ちの整った男に腰を支えられながら微笑み、その腰の手を叩き落として歩いている。
何も知らない人が見れば、絵になるカップルだろう。
しかし、五条と共にいる姿に見慣れた一年達にとっては違和感しかないし、そもそも旦那以外の男の人と歩いてるって浮気?とか色々考えが巡ってしまう。
「チッ。色々手回ししたのにまだ諦めて無かったのかな」
「五条さん、生徒の前ですよ」
「人の奥さんつれ歩いてデレデレしてる野郎なんざ生きる価値無いと思わない?」
わりと本気の声のトーンにふざけたいつもの担任の影はない。
「ヤバいわね、あの男」
「名前さんの浮気疑惑より五条先生があの男殺さないか止める方がいいかな?」
「お願いですから街中で暴れるのはやめてくださいね……!!!」
「そもそも名前さん目が笑ってなくね?」
「そうね。微笑んでいるけれどあれ手を握られる度叩き落としているし」
「浮気じゃないと思うよ先生」
「名前が嫌がっているからここから術式ぶっぱなして消せばいいかな?」
「何真顔で言ってんスかアンタ。
そんなに気になるなら名前さんに電話したらいいじゃないですか」
伏黒が言うが早いか名前へと電話をかける。
視線の先では電話を取る名前が。
『もしもし?恵、どうかしたの?』
「名前さん今どこですか?五条先生が名前さんいないって騒いでて」
『今?今は少し出掛けているよ』
「五条先生が迎えに行くって言ってます」
『知り合いと出掛けているから迎えはいらないって言っておいてくれる?
なるべく早めに帰るから』
じゃあ、お土産買ってくるからいい子で待っててねーと電話が切られた。
「「「…………」」」
「よし、ちょっと乱暴しようか」
「「「「待って待って待って」」」」
構え始めた五条に四人で張り付く。
これは五条の情緒がヤバいと判断し、本格的に浮気疑惑をどうにかしないとと思った。
じゃないと最強が暴れてニュースになりかねない。
いや、むしろ最強の力で隠蔽しそうだ。
「いい?私が名前さんに自然を装って近付く。そして色々事情を聞いてくるからくれぐれも………そう、くれぐれも!!そこの危ない奴を解き放たないように」
「「おう」」
「いざとなったら伊地知さん、麻酔薬を」
「私には無理です」
「野薔薇、僕猛獣じゃないんだけど?」
「じゃあ行ってくるから大人しくしていなさいよ」
タピオカ片手に突撃する釘崎。
流石釘崎。
自然に名前に声を掛けて男とも話している。
そして……
「あんた人として負けてるわよ」
「よし、やっぱり殺ってくる」
「ストップストップストップ!!」
「釘崎、名前さんなんだって?」
「心配することないわよ。ほら、帰るわよ」
車に乗り込む釘崎に対し、五条は面白くなさそうに口を尖らせている。
「こんなイケメンな旦那がいるのに内緒で元婚約者と出歩くなんて浮気だよ、浮気」
「器のちっさい男ね。
名前さんも可哀想だわ。信頼も信用もされていないなんて」
「そんなことないし。あの男が名前に何かしないか心配なの」
「あぁ、それとも自信が無いの?
普段はあれだけべたべたイチャついてるのに」
にっこり笑いながら煽る釘崎。
伊地知、伏黒、虎杖がオロオロしながら成り行きを見守っている。
「あぁ!そうそう。
これから役所に行って指輪見に行くそうよ」
途端に走って居なくなった五条。
その姿に釘崎だけはクスクス笑っている。
「い、いいんですか!?」
「名前さん最初から知っていたから問題無いわよ」
「えぇ!?俺らが尾行していたの知ってたの?」
「あれだけ呪い殺しそうなほど見つめていられたら流石に気付くって」
「だから電話で笑ってたのか」
納得した男三人。
普通の人ならまだしも、現役呪術師である彼女が殺気に気付かないわけがなかった。
「相手の男も名前さんに気があるわけでもないし。
あの馬鹿が居ることを知っててわざわざエスコートしていたのは性格が悪いと思うけど」
「うわ……」
「まじで五条先生1人で大丈夫か?」
「大丈夫でしょ。いつまで経っても余裕の無い男の顔を帰ってきたら皆で笑ってやりましょ」
釘崎に言われて、走り出した五条は楽しげに歩く二人を視界に捉えて手を伸ばした。
「わっ」
「何してんの」
「おや、五条くんじゃないか」
こんなところで奇遇だね、なんて笑う元婚約者。
腕のなかでもぞもぞ動く名前を抱き上げて男を睨み付ける。
「人の嫁我が物顔で連れ歩くなんて何考えてんの」
「たまたまさ。土地勘のある人に頼んだ方が用事は済ませやすいだろ?」
「駄目」
「あの時は幼いながらに堂々と僕から彼女を連れ去ったというのに、未だに彼女が心配かい?」
「当たり前でしょ。こーんな可愛くて美人で強い女いないんだから」
「ふふっ。その割に余裕が無さそうだ。
男の嫉妬は見苦しいよ?五条悟くん」
「喧嘩売ってるなら買うよ」
「おや怖い」
くすくすと笑う男に五条の機嫌はますます下がっていく。
釘崎にも余裕が無いと言われたり、名前を信用していないなどと言われたが、人妻だというのに無自覚に男達は彼女に惹かれている姿を何度も見てきた。旦那が五条だと知っても彼女に恋い焦がれ隙あらば近寄ろうとすり虫達を何度払ってきたことか。
それほどまでに人を惹き付け魅力のある彼女を放っておくなど出来るわけがない。
例え彼女が自分を愛しているとわかっていても、無理矢理彼女を手にしようとする馬鹿共はわんさかいる。
「なーに怖い顔しているの?」
こちらに手を伸ばす名前。
こちらの気など知らないでにこりと笑う彼女。
「僕と離婚してそいつとくっつくの?」
「彰文さんと?まさか!!
私の顔だけが好みで性格が良くない人なんて生理的に無理よ」
「うわぁ、本人を目の前によく言うね」
「今回は仕方なくお願いされたから道案内していたけど、どうせなら意中の相手と来たら良かったのに」
「下調べは大事だろう?格好つかないじゃないか」
「貴方の腹黒い性格を知りながらも結婚してもいいって思ってくれる相手なんだからちょっと格好悪くても気にしないと思うわよ?」
「キミこそ本当にいい性格だよね。あの時の大人しい姿は幻だったのかな?二重人格かい?」
「あらやだ。どうとも思っていない、むしろ子供の頃に私をお人形扱いしながら連れ歩いたトラウマの元が何言っても響いてこないわ」
「………どーゆー事?」
キミらこれから役所行って指輪見るんじゃ?と言えば二人でそうだと頷く。
「彼、これから意中の相手にプロポーズするそうなの。
けど、わざわざ地元じゃなく東京でデートしながら入籍準備も済ませようと思っているらしくて」
「は?」
「相手の子が非呪術師だそうよ」
「あの日、キミが1人で我が家に乗り込み名前が欲しいと言ってきた時驚いたよ。
五条悟は呪術師最強で血も涙もないような人間かどうかすら疑わしいと思っていたのに……
たかが愛とやらで、僕から婚約者を奪っていくなんて考えられなかったよ」
家の為に、家の地位のために
血を遺すことが
よりよい術式を遺すことが
自分達の意思などまるでなく
決められた相手と子を遺すことが義務だった。
「羨ましいとすら思ったよ。
漫画や小説のような君たちが自由で」
「言い訳じゃん。最初から諦めてたのはオマエだろ」
「そうだね。だから私も抗ってみようかと思ってね」
親からは反対されているんだ、と笑う男。
だが、どこかスッキリとした顔をしている。
「本当に心から彼女を愛しているからこそ、僕も家など関係無く彼女と幸せになるために動いてみようと思ってね。
だから今回はキミに内緒で名前に頼んだんだ」
「悟が知ったら絶対協力しないでしょ?」
「……ちゃんと説明したらするよ」
「嘘つき」
「うん。嘘。
元婚約者の野郎の事なんがどーでもいいし、むしろテメーで何とかしろよって言いたい」
「うわー。僕って君たちに嫌われすぎて笑えるね」
くすくすと上品に笑う男。
だが気分を悪くするわけでもなくこちらに微笑みかけてくる。
「ごめんね?キミの大事な名前を連れ回して。残りの場所はだいたい位置も確認出来たし、怖い旦那が出てきたからこの後の下調べは1人で行くよ」
「さっきから名前で呼ぶのやめてくんない?」
「じゃあ名前、今日は悪かったね。
助かったよ、ありがとう」
「困ったら連絡をしてもいいよ」
「駄目。するなら伊知地にして」
「あら、伊地知くんをコキ使っちゃ可哀想よ」
「名前より色々調べて対応力あるのは伊地知だよ」
「わかってないな、五条くん。
女性目線の意見が欲しいから名前を頼っているのに」
「名前、祓ってもいいかな?コイツ」
「駄目よ。隠蔽が大変だもの」
「物騒な夫婦」
じゃあ、といなくなった男。
腕のなかで手を振る名前。
「いつから気付いてたの」
「この近くで一年生の付き添い任務って聞いていたからね。
たまたま通りかかっただけだよ」
「………うわっ、はず。僕だけ必死で」
「悟が殺気向けてきた時はどうしようかと思っていたけど、まさか後をつけてくるなんて」
「………僕ってそんなに余裕ない?」
名前の肩に頭を乗せる。
一つ下だというだけでどんなに大人ぶっても敵わないこともある。
「可愛いと思ってるけど、そんなに私は信用ないかしら?」
「野郎の信用は無い。
名前の強さは知ってるけど、名前だって女だよ?簡単に抑え込まれる時だってある」
「そうね。
その時は悟が相手をどうにかしてくれるでしょ?」
「………その前に相手のモノが無事じゃない未来が見える」
クスクス笑う名前。
優しく頭を撫でられる手が心地よい。
いつまで経っても自分は彼女に関しては敵わないし、余裕がなくなる。
「僕の心が傷付いたから癒して」
「はいはい。それじゃ皆のお土産を買いながら少しだけデートしよう?」
「そんなので僕の機嫌が直ると思ってる?」
「今なら可愛い旦那へ愛を込めてキスしようかしら?」
「………ここだと人が多いから今夜部屋でいっぱい僕を愛してるって証明して?」
「仕方ないなぁ」
彼女の手を取り指を絡ませるように握る。
すると名前は笑って寄り添いながらどこに行こうか、と此方を見上げる。
何年経っても僕を見つめる愛おしいという顔は僕以外には向けられない顔。
可愛らしくて思わず身を屈めて唇を奪う。
「人が多いんじゃなかったの?」
「僕の愛が溢れちゃった」
「ふふっ、ほら行こう」
ケーキを買って高専に戻ると
「名前!!オマエ五条に浮気現場見られたあげく、修羅場ってきたって本当か!?」
「大和、その場にお座り」
「しかも相手は元婚約者って言うじゃん!!
五条についに愛想が尽きたのか!?」
「大和、マジビンタね」
「えっ!?なんで!?俺何もしてないだろ!!」
喧しい大和を名前が回し蹴りで沈めた。
「おかえりなさい」
「釘崎さん、これ皆で食べてね。今日は任務お疲れ様」
「疲れるほどでもないわよ」
「ちょっと野薔薇。僕のこと騙したでしょ」
「私は嘘なんて言ってないわよ?」
役所と指輪を買いに行くそうだ、とは言ったが
「名前さんの、とは一言も言ってないわ」
「………」
「あらあら、悟の早とちり?」
「ほんっと余裕無いわよね。器のちっさい男なんて嫌われるわよ」
「五条が余裕無くて器がちっさいのは学生の頃からだから仕方ないって」
「大和、まじで埋めていい?」
「俺に八つ当たるなよ!!俺先輩だかんな!!」
野薔薇と楽しそうに笑う名前。
「僕、ずっと名前には敵わないや」
「そうかな?
私だっていつも悟が取られたり悟に飽きられないかハラハラしているのに?」
「………そうなの?」
「余裕そうに見えているのは私なりの強がりだもの」
「名前好き。大好き。僕の奥さん愛してる」
「奇遇ね。私も嫉妬深い可愛い旦那一筋なの」
イチャイチャし始めた夫婦に釘崎は呆れ、さっさとケーキを持っていなくなる。
「ほーんと、馬鹿夫婦」
今日も高専の五条夫婦は仲良しだそうです。
あとがき
リクエスト「渋々元婚約者とのお出かけを五条に見られる」
先輩シリーズ久しぶりに書きましたね。
渋々感がまったく無かったかもしれませんが、五条さんはいつまでたっても先輩には余裕が持てそうにないwww
リクエストありがとうございました!