五万企画
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今年も新しい子が入って来た。
名簿を見てくすり、と笑ってしまう。
「なーに笑ってんの?」
「悟」
後ろから覆い被さって一緒に覗き込んでくる悟。
「懐かしくて可愛い妹の名前を見付けたからつい」
「あー、なるほどね」
喧嘩別れしてから会わなくなってしまった。
妹の方は何度か会っているのに頑なに会うことを拒絶され、顔を合わせてくれなかった。
妹の方は京都の高専に入ることになったと連絡が来ていたが……
まさか別々に入学するとは思っていなかった。
数少ない入学者。
副担扱いの私は任務が無ければ生徒の指導に当たる。
「初めまして。
実技を担当する五条 名前です」
よろしくね、と言う前に飛んできた棍を避ける。
すぐに2撃目と飛んできたが避ける。
大きな舌打ちが聞こえたが気にしない。
「まだお話の途中ですよー」
「うるせぇ」
「オイオイオイっ!!何してんの!?」
「おかか」
パンダと狗巻くんがオロオロと慌てる。
しかし振り回される棍をにこにこしながら避ける私を見て大丈夫だと判断したらしく一歩引いた二人。
「久しぶりだね、真希」
「知らねーな、オマエなんか」
再び繰り出される攻撃を避ける。
「美人になったね」
「チッ」
「背も伸びて抜かされちゃったなぁ」
「うるせぇ」
「お口が悪いのは相変わらずね」
「うるせぇよ!!」
どんどんと速くなる攻撃に笑ってしまう。
笑われたのが気に入らなかったのか大きな舌打ちと共に勢いと速さが増す。
距離を置いて微笑むがギロリと睨み付けられる。
「どんどん攻撃が雑になってるよ?
そんなんじゃ武具取られて死んじゃうよ、真希」
「うるせぇ!!
顔見知りですって雰囲気出して馴れ馴れしく話しかけんじゃねーよ」
「刺々しいなぁ」
「私はオマエなんかっ!!」
「真希」
ごめんね。
大好き。
愛しい。
大切なんだ。
名前に想いを込めて呼ぶ。
「会いたかったよ、真希」
「………っ」
唇を噛み締めて戸惑う真希を抱き締める。
身体を引き剥がそうと動くが離してやらない。
私の腕の中にいた小さな幼子は
会わないうちに大きく成長していた。
「置いてってごめんね」
「謝るな!!」
「真希」
「うるせぇ」
「真希」
「うるせぇって言ってんだろ」
「私が此処に居ると知っていたはずなのに
京都じゃなく東京に来たのは……自惚れてもいい?」
「黙れよ」
「………強くなったね、真希」
「………黙れって、言ってんだろ…馬鹿」
ぽすん、と私の肩に頭を乗せる真希。
そんな真希の頭をポンポンと撫でる。
「会いたかった」
「うるせぇよ……
私の知らないとこでコソコソジジイ達と喧嘩したり、意味わかんねぇお土産置いて行きやがって」
「真希が会ってくれなかったんでしょ?
真依は会ってくれたよ」
「ケジメだ」
「真希はお馬鹿さんだなぁ……
私、強くなれとは言ったけど
強くなるまで会わないなんて言ってなかったのに」
「置いてったくせに」
「どんなに頑張っても私が守れる範囲は決まってる……禪院では自由も無いし、守りたいものも守れなくなる。
私だけの強さじゃ、私程度の身分では禪院に太刀打ち出来ない事を受け入れたんだよ」
その代わり、幼い二人を手放さなければいけなかった。
「真希も真依も嫌いになったわけじゃない。
今も昔も変わらず大切な可愛い妹だよ」
「………オマエは一人で背負いすぎなんだよ!!
どうして私らを……っ、私なんかを!!」
「二人のお姉ちゃんだもん。
妹を守るためならなんてことないよ」
結婚した後もちょくちょく呼び出されていたので、その度に当主へ口が酸っぱくなるほど真希と真依に仇なす行為を咎めた。
小娘一人の言葉に耳を傾ける当主ではないので鼻で笑われていたが、私も譲れないので折れる気はなかった。
当主が二人に何もしないならせめて二人が苦労しないように、と真希と真依宛の口座にお金を振り込んでいた。
「たとえ禪院じゃなくなっても私は真希や真依のお姉ちゃんだからね」
「馬鹿野郎……ばーかっ!!」
「嬉しいよ。真希だけでもこっちに来てくれて」
「家から離れたかっただけだ」
ぎゅっ、と強めに抱き締めてからゆっくり真希から離れる。
久しぶりに見た真希は成長していて何だか見慣れない。
「大きくなったね」
「オマエはババアになったな」
「年は取りたくないねぇ」
よしよし、と真希の頭を撫でる。
鬱陶しそうに手を払われたがめげずに撫でると今度は払われなかった。
「えーっと……終わったカ?名前」
「ごめんねパンダ、狗巻くん」
「知り合いか?」
「うん。妹だよ」
「壮絶な姉妹喧嘩ダナ」
「しゃけ」
「真希が反抗期だったから」
「うるせぇよ」
軽く拳を入れられたが痛くないので照れ隠しだと受けとる。
「あとで面かせ」
「はいはい」
「笑ってんじゃねーよ」
「パンダや狗巻くんの前じゃ素直になれないもんね」
「余計なこと言ってんじゃねーよ!!」
照れ隠しに力が入ったところで避けることにする。
長年顔を合わせなかったが、嫌われていなかったことにホッとした。
「名前の妹ってことは……真希は悟の妹ってことになんのか?」
「は?何でだよ」
「だってそーダロ?」
「しゃけ」
「意味わかんねーこと言ってないでさっさと実技やるならやるぞ」
真希の言葉に私は頭を傾げる。
おや?と思っていたら
パンダも不思議そうに頭を傾げている。
「だって名前は悟の番だから
真希は悟の妹になるんじゃないのか?」
「………は?」
「棘オレ間違ってないよな?」
「しゃけ」
コクコク頷く狗巻を見て驚いた顔をする真希。
「もしかしなくても……
真希、私が悟と結婚したこと知らない?」
「は?」
「……真依には直接言ったけど…真依からも聞いてない、みたいだね」
「………待て。は?」
「さっきも私苗字五条って言った時反応無かったから知ってるんだとばかり」
「はぁぁああああ!?」
大きな声に苦笑してしまう。
真依……真希にはわざと言わなかったのね。
「結婚したことは聞いた。
けど!!オマエ……あの目隠し馬鹿と結婚するのに私のこと置いてったってことかよ!?」
「あ、気にするところそこ?」
「ふざけんな!!
なんであんな胡散臭い男なんかっ!!」
「わぁ、信用ないなぁ」
「あんな男今すぐ別れろ!!誰があんな奴にっ」
「ねぇパンダ。
あの人何しでかしたの?信用無さすぎない?」
「悟だからなぁ」
怒り狂う真希には申し訳ないが笑ってしまう。
「私真希に愛されてるなぁ」
「うるせぇ!!もうオマエ黙ってろ!!」
「ふふっ、残念だけどそろそろ真面目に授業しようか」
その後三人を地面に転がしてそれぞれの欠点を指摘していく。
まだまだ学生に負けていられないので手抜きはしない。
「で、どういうことだよ」
説明しろ、と睨み付けてくる真希ちゃん。
そんな彼女に飲み物を出して笑う。
「何を聞きたい?」
「相手が目隠し馬鹿なんて聞いてない」
「ごめんごめん。
真依から聞いてると思ってたから」
「真依が私に話すわけねーだろ」
「また喧嘩したの?」
「違ぇよ」
真依も真希も幼い頃は素直にお互い手をとっていたのに、いつの間にやら溝が出来ていた。
そこは2人の問題なので、私が口を出してもややこしくなるだけだろうと思って真依の愚痴しか聞いていない。
「私のことよりオマエだよ」
「オマエ、なんて寂しいなぁ。
お姉ちゃんって呼んでいいのに」
「ふざけんな。そんな呼び方しかことねーよ」
「そうだったかもね」
どこから話そうか、と思案する。
「どこから聞きたい?」
「最初から話せよ。
真依は知ってんのに私はなんにも知らねーからな」
「わかったよ」
少し長くなるけれど、と言えば大丈夫と返ってきた。
家が嫌いだったこと。
高専で悟と出会ったこと。
婚約者と結婚したくなかったこと。
家から出たかったこと。
悟に猛アタックされていたこと。
家を受け入れようとしたこと。
大切だった人を失ったこと。
全て捨てて悟だけを選ぶことを決めたこと。
学生のうちに入籍したこと。
真希は黙って聞いていてくれた。
「………オマエが」
「ん?」
「オマエが私らを裏切ったわけじゃないってわかってた」
あの日、裏切り者と叫んで目の前からいなくなった真希を追いかけなかった私。
守ると約束したのに手のひらを返すように突き放したのは私なのだから。
「裏切ったようなものだよ。
私は真希にも真依にも何もしてあげられなかった」
「ジジイや周りの奴らを牽制してたんだろ。
……真依に言われたんだよ」
イジメや差別が無くなったわけじゃなかったが、手酷い仕打ちは無くなっていた。
いつも意地悪する女は自分達を避けるようになった。
いつも悪口を吐く使用人は見なくなった。
その裏で一人の人間が手酷く打たれていたと知らず……。
毎月多すぎるほどの振り込みが積み立てられ、家から出るときに渡された通帳に目を見開いた。
その振り込み先の相手が………。
「何も知らなかったのは私だけ、ってな」
「知られたくてやっていたわけじゃないの」
ーーーただの私のエゴ
「昔私を可愛がってくれた人が禪院に手酷い扱いをされてたの。
その人が私の原点だった」
家の言いなりにならず、自由に生きろと。
「私もその人のように2人が不自由しないための力になりたかったけど……私の守り方は間違えてしまったね」
だから2人を傷付けた。
中途半端に優しくして
中途半端に守ろうとして
自分で抱えきれず手離した。
「ごめんね、真希」
頼れる大人でいたかった。
いい顔をしたかった。
私の自己満足で傷付けた。
「謝るな」
「私は貴女達を……」
「謝るのは私だろ」
「真希?」
「………悪かった。
何も知らなかったガキは私だった」
子を産む道具として親に売り込まれていたことも。
自力で自分の価値を上げたことも。
その価値を認められるための努力も。
イジメを止めさせたのも。
当主へと何度も口添えしていたことも。
守られていたのに、見離されただなんて……
「悪かった」
「……真希は真面目だよね。
裏切ったって恨んでくれても良かったのに」
「無理だろ」
「どうして?」
「………名前を本気で嫌いになったことなんかねーよ。
周りの奴らが私を馬鹿にしても
オマエだけは一度もしたことなかっただろ」
「真希は凄い子だもの。
馬鹿にするなんてただの愚か者だよ」
顔を逸らしながら小さくうるさい、と呟いた真希。
赤くなる顔を隠す照れ隠しに笑ってしまう。
「……なんであの目隠し馬鹿だったんだよ」
「んー…
真っ直ぐだったから、かな」
「………」
「悟となら幸せになれると思ったし
悟なら私の我が儘全て叶えてくれそうだったから」
「幸せなのか?」
「幸せだよ」
私の笑う顔に真希は溜め息をついた。
「そんな顔されたら何も言えないだろ」
「とっても大事にされて愛されてるよ」
「惚気かよ」
初めて真希が真っ直ぐ私の目を見て笑った。
「真希」
「なんだよ」
「強くなろうね」
「当たり前だろ」
「強くなって、当主の座奪ってやろうよ。
あの馬鹿共蹴散らすなら協力するから」
「ははっ!!
名前がいるなら怖いものなんてねーな」
「ついでに五条チラつかせる?」
「誰にも負ける気しねーな」
2人で顔を見合せて笑った。
「名前、いるー?
ってあれ?真希もいたんだ」
「おかえり、悟」
任務が終わって来たらしい悟。
真希を確認しながら私の座るソファーの横に座ってきた。
「狭いよ」
「膝のる?」
「結構です」
「イチャつくんじゃねーよ」
「真希嫉妬?」
「あ?」
ニヤニヤする悟。
何か良からぬことを考えているな、と思っていたら肩を引き寄せられる。
悟の胸元に頭を寄せる形となり離れようとしたが頭を押さえ付けられてしまう。
「僕の名前だから」
「………殴っていいか」
「たまに貸し出してあげるけど真希にあげないよ」
「年下に大人気ないこと言ってどうするの」
「ヤーダ」
頭を押さえ付ける手をペチペチ叩く。
しかし頭に頬を刷り寄せてくる悟に呆れてしまう。
「名前、今からでも他の性格に問題ない男探せ。コイツは駄目だ」
「ざーんねーんでした!!
僕と名前はラブラブです」
「振られろ」
「学生の頃何百回も振られたからもういいよ」
「は?」
「真希を理由に婚約者を受け入れようと本格的に振られた時は心折れそうになったなー」
「………っ」
「僕よりも真希のが大事だってあの時は本当に傷付いたよ」
「あったねぇ、そんなこと」
「諦めなかった僕の粘り勝ち」
「そうだね」
懐かしい話に笑ってしまう。
真希は顔を片手で覆い隠している。
指の隙間から赤くなる顔に悟が笑っている。
「真希は要注意人物だから、名前は僕のって言っておかないと」
「私真希大好きだからね」
「知ってる」
「………もうオマエら黙れ」
「あれあれ?顔が赤いよー真希」
「うるせぇよ馬鹿目隠し!!!」
帰る!!と立ち上がった真希。
しかし扉の目の前に立つと
うっすらと赤い顔のままこちらを振り向いた。
「また来る」
「ふふっ、いつでもおいで真希」
「今度組み手しろよ」
「勿論」
手を降って見送る。
閉じられた扉。
「良かったね」
「うん」
「殴られた?」
「挨拶早々に突き飛んできたよ」
思い出しても笑ってしまう再会。
悪いと思っているが、わざわざ東京を選んで来てくれた嬉しさに頬が緩んでしまう。
「真依に自慢しよ」
「京都だっけ?」
「うん」
「嬉しくて双子を構うのはいいけど
僕のこと構うのも忘れないでよね」
ぐりぐりと頬をすり寄せる悟に笑って頭に手を伸ばし、ポンポンと撫でる。
「悟が一番ですよ」
「知ってる」
頬に、額に、口にキスを落としていく悟。
私もお返しに頬にキスをすれば違うと唇を寄せてくる。
「口にはしてくれないの?」
「してほしい?」
「勿論」
軽く触れ合うキスを送ると柔らかく抱き締めてくれる悟に二人で笑い合った。
あとがき
リクエスト「真希と高専で再会」
先輩シリーズ久しぶりに書いたので
なんだか雰囲気違っているかもしれない……
いつかは書きたいな、と思ってメモ残しておいたものを引っ張りだしてきましたが
メモ当時の設定を生かしきれてない気がwww
書きたいことメモだけ残して放置してるものがあるので、思いつきで書き残したメモ見てもピンとこないという言い訳www
リクエストいただき本当にありがとうございました!!
名簿を見てくすり、と笑ってしまう。
「なーに笑ってんの?」
「悟」
後ろから覆い被さって一緒に覗き込んでくる悟。
「懐かしくて可愛い妹の名前を見付けたからつい」
「あー、なるほどね」
喧嘩別れしてから会わなくなってしまった。
妹の方は何度か会っているのに頑なに会うことを拒絶され、顔を合わせてくれなかった。
妹の方は京都の高専に入ることになったと連絡が来ていたが……
まさか別々に入学するとは思っていなかった。
数少ない入学者。
副担扱いの私は任務が無ければ生徒の指導に当たる。
「初めまして。
実技を担当する五条 名前です」
よろしくね、と言う前に飛んできた棍を避ける。
すぐに2撃目と飛んできたが避ける。
大きな舌打ちが聞こえたが気にしない。
「まだお話の途中ですよー」
「うるせぇ」
「オイオイオイっ!!何してんの!?」
「おかか」
パンダと狗巻くんがオロオロと慌てる。
しかし振り回される棍をにこにこしながら避ける私を見て大丈夫だと判断したらしく一歩引いた二人。
「久しぶりだね、真希」
「知らねーな、オマエなんか」
再び繰り出される攻撃を避ける。
「美人になったね」
「チッ」
「背も伸びて抜かされちゃったなぁ」
「うるせぇ」
「お口が悪いのは相変わらずね」
「うるせぇよ!!」
どんどんと速くなる攻撃に笑ってしまう。
笑われたのが気に入らなかったのか大きな舌打ちと共に勢いと速さが増す。
距離を置いて微笑むがギロリと睨み付けられる。
「どんどん攻撃が雑になってるよ?
そんなんじゃ武具取られて死んじゃうよ、真希」
「うるせぇ!!
顔見知りですって雰囲気出して馴れ馴れしく話しかけんじゃねーよ」
「刺々しいなぁ」
「私はオマエなんかっ!!」
「真希」
ごめんね。
大好き。
愛しい。
大切なんだ。
名前に想いを込めて呼ぶ。
「会いたかったよ、真希」
「………っ」
唇を噛み締めて戸惑う真希を抱き締める。
身体を引き剥がそうと動くが離してやらない。
私の腕の中にいた小さな幼子は
会わないうちに大きく成長していた。
「置いてってごめんね」
「謝るな!!」
「真希」
「うるせぇ」
「真希」
「うるせぇって言ってんだろ」
「私が此処に居ると知っていたはずなのに
京都じゃなく東京に来たのは……自惚れてもいい?」
「黙れよ」
「………強くなったね、真希」
「………黙れって、言ってんだろ…馬鹿」
ぽすん、と私の肩に頭を乗せる真希。
そんな真希の頭をポンポンと撫でる。
「会いたかった」
「うるせぇよ……
私の知らないとこでコソコソジジイ達と喧嘩したり、意味わかんねぇお土産置いて行きやがって」
「真希が会ってくれなかったんでしょ?
真依は会ってくれたよ」
「ケジメだ」
「真希はお馬鹿さんだなぁ……
私、強くなれとは言ったけど
強くなるまで会わないなんて言ってなかったのに」
「置いてったくせに」
「どんなに頑張っても私が守れる範囲は決まってる……禪院では自由も無いし、守りたいものも守れなくなる。
私だけの強さじゃ、私程度の身分では禪院に太刀打ち出来ない事を受け入れたんだよ」
その代わり、幼い二人を手放さなければいけなかった。
「真希も真依も嫌いになったわけじゃない。
今も昔も変わらず大切な可愛い妹だよ」
「………オマエは一人で背負いすぎなんだよ!!
どうして私らを……っ、私なんかを!!」
「二人のお姉ちゃんだもん。
妹を守るためならなんてことないよ」
結婚した後もちょくちょく呼び出されていたので、その度に当主へ口が酸っぱくなるほど真希と真依に仇なす行為を咎めた。
小娘一人の言葉に耳を傾ける当主ではないので鼻で笑われていたが、私も譲れないので折れる気はなかった。
当主が二人に何もしないならせめて二人が苦労しないように、と真希と真依宛の口座にお金を振り込んでいた。
「たとえ禪院じゃなくなっても私は真希や真依のお姉ちゃんだからね」
「馬鹿野郎……ばーかっ!!」
「嬉しいよ。真希だけでもこっちに来てくれて」
「家から離れたかっただけだ」
ぎゅっ、と強めに抱き締めてからゆっくり真希から離れる。
久しぶりに見た真希は成長していて何だか見慣れない。
「大きくなったね」
「オマエはババアになったな」
「年は取りたくないねぇ」
よしよし、と真希の頭を撫でる。
鬱陶しそうに手を払われたがめげずに撫でると今度は払われなかった。
「えーっと……終わったカ?名前」
「ごめんねパンダ、狗巻くん」
「知り合いか?」
「うん。妹だよ」
「壮絶な姉妹喧嘩ダナ」
「しゃけ」
「真希が反抗期だったから」
「うるせぇよ」
軽く拳を入れられたが痛くないので照れ隠しだと受けとる。
「あとで面かせ」
「はいはい」
「笑ってんじゃねーよ」
「パンダや狗巻くんの前じゃ素直になれないもんね」
「余計なこと言ってんじゃねーよ!!」
照れ隠しに力が入ったところで避けることにする。
長年顔を合わせなかったが、嫌われていなかったことにホッとした。
「名前の妹ってことは……真希は悟の妹ってことになんのか?」
「は?何でだよ」
「だってそーダロ?」
「しゃけ」
「意味わかんねーこと言ってないでさっさと実技やるならやるぞ」
真希の言葉に私は頭を傾げる。
おや?と思っていたら
パンダも不思議そうに頭を傾げている。
「だって名前は悟の番だから
真希は悟の妹になるんじゃないのか?」
「………は?」
「棘オレ間違ってないよな?」
「しゃけ」
コクコク頷く狗巻を見て驚いた顔をする真希。
「もしかしなくても……
真希、私が悟と結婚したこと知らない?」
「は?」
「……真依には直接言ったけど…真依からも聞いてない、みたいだね」
「………待て。は?」
「さっきも私苗字五条って言った時反応無かったから知ってるんだとばかり」
「はぁぁああああ!?」
大きな声に苦笑してしまう。
真依……真希にはわざと言わなかったのね。
「結婚したことは聞いた。
けど!!オマエ……あの目隠し馬鹿と結婚するのに私のこと置いてったってことかよ!?」
「あ、気にするところそこ?」
「ふざけんな!!
なんであんな胡散臭い男なんかっ!!」
「わぁ、信用ないなぁ」
「あんな男今すぐ別れろ!!誰があんな奴にっ」
「ねぇパンダ。
あの人何しでかしたの?信用無さすぎない?」
「悟だからなぁ」
怒り狂う真希には申し訳ないが笑ってしまう。
「私真希に愛されてるなぁ」
「うるせぇ!!もうオマエ黙ってろ!!」
「ふふっ、残念だけどそろそろ真面目に授業しようか」
その後三人を地面に転がしてそれぞれの欠点を指摘していく。
まだまだ学生に負けていられないので手抜きはしない。
「で、どういうことだよ」
説明しろ、と睨み付けてくる真希ちゃん。
そんな彼女に飲み物を出して笑う。
「何を聞きたい?」
「相手が目隠し馬鹿なんて聞いてない」
「ごめんごめん。
真依から聞いてると思ってたから」
「真依が私に話すわけねーだろ」
「また喧嘩したの?」
「違ぇよ」
真依も真希も幼い頃は素直にお互い手をとっていたのに、いつの間にやら溝が出来ていた。
そこは2人の問題なので、私が口を出してもややこしくなるだけだろうと思って真依の愚痴しか聞いていない。
「私のことよりオマエだよ」
「オマエ、なんて寂しいなぁ。
お姉ちゃんって呼んでいいのに」
「ふざけんな。そんな呼び方しかことねーよ」
「そうだったかもね」
どこから話そうか、と思案する。
「どこから聞きたい?」
「最初から話せよ。
真依は知ってんのに私はなんにも知らねーからな」
「わかったよ」
少し長くなるけれど、と言えば大丈夫と返ってきた。
家が嫌いだったこと。
高専で悟と出会ったこと。
婚約者と結婚したくなかったこと。
家から出たかったこと。
悟に猛アタックされていたこと。
家を受け入れようとしたこと。
大切だった人を失ったこと。
全て捨てて悟だけを選ぶことを決めたこと。
学生のうちに入籍したこと。
真希は黙って聞いていてくれた。
「………オマエが」
「ん?」
「オマエが私らを裏切ったわけじゃないってわかってた」
あの日、裏切り者と叫んで目の前からいなくなった真希を追いかけなかった私。
守ると約束したのに手のひらを返すように突き放したのは私なのだから。
「裏切ったようなものだよ。
私は真希にも真依にも何もしてあげられなかった」
「ジジイや周りの奴らを牽制してたんだろ。
……真依に言われたんだよ」
イジメや差別が無くなったわけじゃなかったが、手酷い仕打ちは無くなっていた。
いつも意地悪する女は自分達を避けるようになった。
いつも悪口を吐く使用人は見なくなった。
その裏で一人の人間が手酷く打たれていたと知らず……。
毎月多すぎるほどの振り込みが積み立てられ、家から出るときに渡された通帳に目を見開いた。
その振り込み先の相手が………。
「何も知らなかったのは私だけ、ってな」
「知られたくてやっていたわけじゃないの」
ーーーただの私のエゴ
「昔私を可愛がってくれた人が禪院に手酷い扱いをされてたの。
その人が私の原点だった」
家の言いなりにならず、自由に生きろと。
「私もその人のように2人が不自由しないための力になりたかったけど……私の守り方は間違えてしまったね」
だから2人を傷付けた。
中途半端に優しくして
中途半端に守ろうとして
自分で抱えきれず手離した。
「ごめんね、真希」
頼れる大人でいたかった。
いい顔をしたかった。
私の自己満足で傷付けた。
「謝るな」
「私は貴女達を……」
「謝るのは私だろ」
「真希?」
「………悪かった。
何も知らなかったガキは私だった」
子を産む道具として親に売り込まれていたことも。
自力で自分の価値を上げたことも。
その価値を認められるための努力も。
イジメを止めさせたのも。
当主へと何度も口添えしていたことも。
守られていたのに、見離されただなんて……
「悪かった」
「……真希は真面目だよね。
裏切ったって恨んでくれても良かったのに」
「無理だろ」
「どうして?」
「………名前を本気で嫌いになったことなんかねーよ。
周りの奴らが私を馬鹿にしても
オマエだけは一度もしたことなかっただろ」
「真希は凄い子だもの。
馬鹿にするなんてただの愚か者だよ」
顔を逸らしながら小さくうるさい、と呟いた真希。
赤くなる顔を隠す照れ隠しに笑ってしまう。
「……なんであの目隠し馬鹿だったんだよ」
「んー…
真っ直ぐだったから、かな」
「………」
「悟となら幸せになれると思ったし
悟なら私の我が儘全て叶えてくれそうだったから」
「幸せなのか?」
「幸せだよ」
私の笑う顔に真希は溜め息をついた。
「そんな顔されたら何も言えないだろ」
「とっても大事にされて愛されてるよ」
「惚気かよ」
初めて真希が真っ直ぐ私の目を見て笑った。
「真希」
「なんだよ」
「強くなろうね」
「当たり前だろ」
「強くなって、当主の座奪ってやろうよ。
あの馬鹿共蹴散らすなら協力するから」
「ははっ!!
名前がいるなら怖いものなんてねーな」
「ついでに五条チラつかせる?」
「誰にも負ける気しねーな」
2人で顔を見合せて笑った。
「名前、いるー?
ってあれ?真希もいたんだ」
「おかえり、悟」
任務が終わって来たらしい悟。
真希を確認しながら私の座るソファーの横に座ってきた。
「狭いよ」
「膝のる?」
「結構です」
「イチャつくんじゃねーよ」
「真希嫉妬?」
「あ?」
ニヤニヤする悟。
何か良からぬことを考えているな、と思っていたら肩を引き寄せられる。
悟の胸元に頭を寄せる形となり離れようとしたが頭を押さえ付けられてしまう。
「僕の名前だから」
「………殴っていいか」
「たまに貸し出してあげるけど真希にあげないよ」
「年下に大人気ないこと言ってどうするの」
「ヤーダ」
頭を押さえ付ける手をペチペチ叩く。
しかし頭に頬を刷り寄せてくる悟に呆れてしまう。
「名前、今からでも他の性格に問題ない男探せ。コイツは駄目だ」
「ざーんねーんでした!!
僕と名前はラブラブです」
「振られろ」
「学生の頃何百回も振られたからもういいよ」
「は?」
「真希を理由に婚約者を受け入れようと本格的に振られた時は心折れそうになったなー」
「………っ」
「僕よりも真希のが大事だってあの時は本当に傷付いたよ」
「あったねぇ、そんなこと」
「諦めなかった僕の粘り勝ち」
「そうだね」
懐かしい話に笑ってしまう。
真希は顔を片手で覆い隠している。
指の隙間から赤くなる顔に悟が笑っている。
「真希は要注意人物だから、名前は僕のって言っておかないと」
「私真希大好きだからね」
「知ってる」
「………もうオマエら黙れ」
「あれあれ?顔が赤いよー真希」
「うるせぇよ馬鹿目隠し!!!」
帰る!!と立ち上がった真希。
しかし扉の目の前に立つと
うっすらと赤い顔のままこちらを振り向いた。
「また来る」
「ふふっ、いつでもおいで真希」
「今度組み手しろよ」
「勿論」
手を降って見送る。
閉じられた扉。
「良かったね」
「うん」
「殴られた?」
「挨拶早々に突き飛んできたよ」
思い出しても笑ってしまう再会。
悪いと思っているが、わざわざ東京を選んで来てくれた嬉しさに頬が緩んでしまう。
「真依に自慢しよ」
「京都だっけ?」
「うん」
「嬉しくて双子を構うのはいいけど
僕のこと構うのも忘れないでよね」
ぐりぐりと頬をすり寄せる悟に笑って頭に手を伸ばし、ポンポンと撫でる。
「悟が一番ですよ」
「知ってる」
頬に、額に、口にキスを落としていく悟。
私もお返しに頬にキスをすれば違うと唇を寄せてくる。
「口にはしてくれないの?」
「してほしい?」
「勿論」
軽く触れ合うキスを送ると柔らかく抱き締めてくれる悟に二人で笑い合った。
あとがき
リクエスト「真希と高専で再会」
先輩シリーズ久しぶりに書いたので
なんだか雰囲気違っているかもしれない……
いつかは書きたいな、と思ってメモ残しておいたものを引っ張りだしてきましたが
メモ当時の設定を生かしきれてない気がwww
書きたいことメモだけ残して放置してるものがあるので、思いつきで書き残したメモ見てもピンとこないという言い訳www
リクエストいただき本当にありがとうございました!!