先輩シリーズ (五条)
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※捏造しております
それでもOKな方のみ
禪院家に非ずんば呪術師に非ず
呪術師に非ずんば人に非ず
天与呪縛を持って生まれた俺は
この家では人ではなく猿だ
どんなに努力をしても
どんなに実力があっても
術式どころか呪霊さえ見えない俺の存在は
否定され、人として扱われない。
だから俺は自尊心を捨てた。
自分にも他人にも尊ぶことのない
そういう生き方をしようと決めた。
なのに……
そいつは突然現れ
簡単に俺のなかに入ってきた。
「よぉ、チビ」
綺麗な着物姿に
漆黒の髪にはキラキラとした綺麗な簪。
それらに見劣りしないくらい
整った顔立ちの人形のようなガキ。
なかでも、光の加減で紫に輝く瞳は
アメジストのようなキラキラとした
丸い瞳だった。
「相変わらず暇そうだね、おにーさん」
「馬鹿言え」
「また博打帰り?負けるのに」
「うるせぇな」
口の減らないガキ。
コロコロと鈴のような声で笑う。
俺の後ろを小さな足で懸命にぴょこぴょこと着いてくる姿はカルガモのよう。
まだこいつが今よりも小さかった頃に
俺の庭に入ってきたガキ。
丸い瞳をキラキラとさせながら
見上げる人形のようなガキに
当時はこんな綺麗なガキもいるんだな……と思った。
「おにーさん、どなた?」
舌ったらずに小首をかしげるガキ。
迷い子かと思えば、逃げてきたと語る。
何に追われてるのかとこちらも首を傾げたが
「じゅつしきばかりのむのーなひとたち」
そんなことを言いながら
ブツブツと文句を続けるガキ。
理解するのに一瞬固まったが
理解した時には腹を抱えて笑った。
「おにーさんも、むのーのひとなの?」
「あ?誰が無能だよ」
「あたまのわるいひとたちとのかいわって
とてもつかれちゃうの」
「……お前いくつだよ」
「5さい」
大人びたガキだった。
可愛げのないそのガキは
じろじろと俺をみると
にやり悪い表情を見せる。
「おにーさん、ほんけのかた?」
「だったら何だよ」
「ならよかった」
私と遊んでくださいな
にやりと笑うその顔は
悪いことを考える悪ガキそのもの。
つまらなかった俺の毎日に飛び込んできた
面白そうなガキ。
気紛れで俺はそのガキの提案に乗った。
ガキは毎月必ず来ていて
そのたびに俺のところに駆け寄ってきた。
庭の奥にあるこの離れに
本家の奴らは近付いてこない。
ガキは毎回面倒だと文句を言い
今日はこんな奴がこんなことを話していたとか
どうでもいいことを話していた。
黙っていれば
綺麗に着飾っているこのガキは
年の離れた俺から見ても整っていると思うし
同じ年のガキからすれば
珍しい術式のガキだから
何とかして近寄りたい存在なのだろう。
たまたま、このガキが他の奴らに囲まれているところを見たことがある。
俺の前ではコロコロと表情を変えているのに
その時のガキは、何の感情も感じさせない
ただ、綺麗に笑顔を貼り付けているガキがいた。
人形かと見間違うほど、綺麗に笑い
周りの話しを聞いているのか、いないのか
得意気に話す周りはその異様さに気付いてはおらず、少しだけゾッとした。
今日も今日とて
着飾った姿に、頭についている簪を抜き取る。
「相変わらずいいもん着けてんな」
「当主様に媚を売るのに忙しいからね
本家の人間に可愛がってもらえるためなら金を惜しまないみたい」
「本家の人間ねぇ」
「本家の方が欲しがったので、差し上げたと言っておけば両親も喜ぶのよ
何の思い入れもない物を盗られたところで、私は何も思わないし」
「はっ、悪いチビだな」
「そんなチビから金品を盗んで博打するグズはどなたかしら?」
「どこのグズだろうなぁ」
顔を反らしながらすっとぼける。
呆れた顔をするガキに
ガキの面倒見てる代金だと貰っておく。
ガキが来るようになって
図々しくもちょこちょこ私物を持ってきては
部屋に置いていくようになり
着物を脱ぐまでになったときには
もう何も言えなくなった。
少しずつ増えていくガキの私物。
周りとは違う特別に
温かな気持ちになり何だか複雑になった。
いつかだったか、強くなりたいと言い出した。
自分の術式は人間や呪骸相手には役に立たず
そうなると、実力が重視されるのに
周りはそれを良しとしないのだと。
試しに術式を使わせてみたら
軽く痺れる程度で腹を抱えて笑った。
足止めどころか、マッサージにもならないレベルに、確かに珍しい術式だとバカにした。
ガキもなぜ周りがこんなに騒ぎたてるのかわからないと、遠い目をしていたくらいだ。
それから、気紛れで始めた手合わせ。
素質があったのか、成長速度が速く
飲み込みも悪くない。
俺の真似事を見よう見真似で始め
最近だと隠し持った武器を使い、隙を狙ってくるので、楽しくなってきている。
手加減はしているがら殺さない程度の加減なので、ガキはケガをする。
才能があったらしく、反転術式のことを教えれば、必死になって覚えたらしく
失敗していた頃は転んだだの色々理由をつけて両親を誤魔化していたらしいが、大変だったみたいだ。
才能に恵まれなかった。
どんなに実力があっても
ここでは才能が全てだ。
どんなに欲しても
俺には与えられなかったモノ。
「私からしたら
おにーさんのが恵まれてると思うけど……」
じっと見ていた俺に、ポツリと呟くガキ。
たまに無神経に地雷を踏み抜くガキに
怒りを通り越して呆れてしまう。
「……嫌味か」
「無い物ねだりだとわかっているけど
私はこんな術式よりも
おにーさんみたいな純粋な力が良かった」
ガキらしい本音に、まだまだこいつは
ガキだったのかと思う。
いつもは大人のように背伸びしているだけで
本当に甘えたい相手に伝えられず
諦めているガキ。
俯くガキに、雑に頭を叩いてやる。
髪がぐしゃぐしゃとなり、 文句を言おうと顔を上げるガキ。
思いっきり額に向かって弾いた指は
見事に額の真ん中に当たり
ガキはプルプルと震えながら再び俯く。
「恵まれたお前がそんなこと言うな」
禪院に産まれた以上
禪院に関わっている以上
恵まれた才能は必ず役に立つ。
「恵まれなかった俺は
ここでは否定される存在でしかねぇ
呪術界で生きていくには不便なんだよ」
どんなに足掻いても
何をしても
認められることのない存在
「一般人にもなりきれねぇ
呪術師にもなりきれねぇ
血筋が嫌でも絡んでくる
お前がどんなに羨ましがろうと
否定されて生きていく覚悟があんのか」
俺は早々に諦めた。
この家は、呪術界は俺という存在を
天与呪縛というものを認めない。
どんなに優れた術師より有能だろうと
術師ですらない俺は相手にされない。
ガキは眉を下げて俺を見上げる。
「……ごめんなさい。無神経だった」
「ガキはガキらしくしとけ」
しゃがみこんで、目線を合わせて
ぐりぐりと頭を撫でまわす。
甘えたいなら、甘えればいい。
少なくとも俺は
俺を認めてくれているガキを
自分の領域に入れる程甘やかしている。
多少の我が儘くらい、多めにみている。
着付けの手伝いや
髪を結ってやるくらい
特別に扱っている。
「またね、おにーさん」
「はいはい」
それから数年、当たり前のように側にいた。
俺が高校になってからは家に帰ることが減り
会う回数は減ったものの変わらないガキ。
成人する頃には適当な女と付き合い
子供が出来た。
そろそろ、このぬるま湯のような関係に
終わりを告げる時がきた。
「チビ」
久しぶりに会ったガキは
相変わらずにこにこと俺に寄ってくる。
初めて見た頃よりも成長した背。
だがらその成長も
これから先は見ることが出来ない。
「おにーさん、帰ってきてたんだ」
「俺、家出るわ」
「………え」
「結婚する」
次から伏黒って呼べよ、と笑いながら言えば
キョトンとした呆けた顔。
自分の荷物をぽいぽいと鞄に入れて
要らない物を置いていく。
「ガキができたんだ」
いつだったか、気紛れで買った物だった。
光の加減で黒い石が透き通り紫に見える雫。
ガキに贈るようなものではないと思い
手渡せなかった物。
人に贈ることのなかった俺が
最初で最後に贈る品。
「……おにーさん」
「何だ」
「私も……私も!!連れていってよ」
荷物を入れる手を止めて、ガキを見る。
くしゃくしゃに顔を歪ませ
今まで見たことがないくらい
大粒の涙をボロボロと溢している。
必死に襟を掴む小さな両手は震えていて
感情的なガキを初めて見た。
場違いにも、俺はこのガキが
綺麗だな……と思った。
呆れるくらい純粋で、綺麗なガキ。
血に濡れた俺には似合わない
陽の光が似合うガキ。
眩しい存在だった。
温かな存在だった。
時折壊してしまいたくもなったが
この小さな脆い存在が
壊れてしまうことが怖かった。
「おにーさん、お願いだよ……」
俺は充分、このガキから与えられた。
こいつに出会えたことが
唯一、恵まれたこと。
「お願い……っ」
その陽を守っていくのは俺じゃない。
禪院家に関わったからには
普通に恋愛することも
普通に過ごすことも叶わない
女だからと、見下され
クソみたいな男と婚約させられ
結婚し、子供を産ませる道具となるだろう。
それならば、と
未来を選べるように力を与えた。
「甘えんな」
襟を掴む手を突き放した。
絶望に沈む瞳を前に、迷いは捨てる。
「子連れで結婚なんてできるか馬鹿」
この家を出ると決めた時
全て捨てて
2度と手にすることはないと決めた。
手にした温もりはこれだけでいい。
「何で……っ」
「お前は強ぇよ」
「………っ!!」
「俺が面倒見てやったんだ
そこいらの奴には負けねぇよ」
だから……と溢す。
「お前は囚われずに生きろ」
俺にも
禪院にも囚われずに
自由に生きる方が
こいつには似合うと思った。
術式だけではなく
綺麗なこいつを欲しがる人間は
いくらでも出てくるだろう。
その時
選べるような力は与えた。
あとは、その力を上手く使ってくれればいい。
ボロボロと、大粒の涙を流すガキ。
汚い顔だと笑いながらそこら辺にあった布で
乱暴に顔を擦る。
汚れたからやる、と頭から被せ
小さな箱を隠すように
要らない物でその小さな両手を埋めていく。
「お前はめんどくせぇから置いていく」
「おにー、さっ」
「お前がでかくなって
美人に育ったら会ってやるよ」
それまでは、さよならだ。
連れていくのは簡単だろう。
だが、俺が進む道に
こいつを引き込むことは無い。
会わないことが、一番いい。
もしも会ってしまった時
俺はきっと、ガキの前に立ち塞がる者だ。
だから、俺は捨てていく。
ボロクソに暴言を吐かれ
イラッとしたが
ガキは大粒の涙を乱暴に拭う。
「私が……私が美人に育っても、おにーさんなんて相手にしてやらないんだからっ!!」
キッと睨み付ける紫の瞳は
もう絶望の色は見当たらない。
力強く輝く紫は、とても綺麗なものだった。
「悟……っ!!」
最期の時
意識も視界も失くなってきた頃に
飛び込んできたのは、あの頃よりも成長し
女となっていたガキ。
長い髪が風に揺れ
風で舞い上がる髪の隙間から
キラキラと輝く紫の雫。
「おに……さ…んっ!!」
驚きに見開かれた瞳は
あの頃と変わらない
輝くアメジストのような紫。
「………名前」
何か一言かけてやりたいのに
名前を呼ぶのが精一杯だった。
もう何もできない。
ガキが、必死にこちらに来ようとしていたが
五条のガキを見て、こちらを見ている。
歯を食いしばり、必死に耐える表情に
くつり、と笑みが浮かぶ。
何年経っても変わらない泣き顔に安心する。
今もまだ、面倒臭いガキのままなのか、と
あの頃を思い出す。
最期に見たのがお前で良かったと
静かに瞼を閉じた。
なぁ。
知ってたか?
初めて見た時からずっと
俺は名前、お前を
気に入っていたことーーーー。
あとがき
エセパパ黒でしたね。
すいません、パパ黒。
どう頑張っても、名前ちゃんの前では
グズに書ききれませんでした。
パパ黒は恋愛的な意味じゃなく
家族愛的な意味で名前ちゃんを好きでした。
家族に愛されたかった名前ちゃんと
認められたかったパパ黒は
お互いの寂しさを埋めていて
パパ黒は自分がいなくなったあとに
可愛い妹がどこぞの変なやつに
取られないように
バリバリに仕上げちゃってみたり(笑)
パパ黒は殺し専門の人なので
名前ちゃんの戦闘スタイルは
ごりごりの暗殺スタイルだと面白いなと
常に殺る気で急所のみ狙いますwww
公式出たら、手直しするかもしれませんが
読んでいただき、ありがとうございました!!