先輩シリーズ (五条)
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※捏造しております
それでもOKな方のみ
物心ついたときからこの家が嫌いだった。
当たり前のように他者を傷付け
当たり前のように自分が上だと思い込んでいる
「名前」
私の親も、私の嫌いな人間だ。
珍しい術式を持って産まれた私は両親にとって禪院家本家への贈呈品か何かなのだろう。
毎月本家に行っては当主へ挨拶するために綺麗な着物を着せられて、当主への媚びの言葉と共に私を本家の人間へと進めている。
禪院家に非ずんば呪術師に非ず
呪術師に非ずんば人に非ず
血筋と術式を重んじる禪院家では、本家であろうと術式をもたなければ人として扱われず、分家であっても術式を持っていれば本家の人間よりも偉い。
実力があっても
術式を持たぬ者は人ではない。
「よぉ、チビ」
禪院家へ両親が媚を売っている間、私も本家の子へ媚を売っておけと、子供達がいるところに置いていかれるが、私は彼らと話す気はない。
ペコペコとこちらの様子を気にかけながら取り入ろうとする者がいる。
上から目線で、小馬鹿にしながら可愛がってやるという者がいる。
そんな者達の前でにこにこと笑顔を貼り付けているのはもうとっくの昔に疲れてしまった。
馬鹿同士、腹の探りあいは好きにやってくれ。
中庭の奥にはほとんど誰も足を踏み入れてこないことに気付いてからは、ある程度の時間をここで潰すことにしていた。
そうすれば、必ずと言っていいほど、彼に出会えるから。
少し長めの黒髪に切れ長の黒い目
口元には何かの切り傷の跡があり
整った顔立ちの男
「相変わらず暇そうだね、おにーさん」
「馬鹿言え」
「また博打帰り?負けるのに」
「うるせぇな」
ぼりぼりと頭をかきながら
私の近くに寄って飾りとして着けていた簪を勝手に抜き取る。
それをまじまじと見たかと思えば、自身のポケットに入れた。
「相変わらずいいもん着けてんな」
「当主様に媚を売るのに忙しいからね
本家の人間に可愛がってもらえるためなら金を惜しまないみたい」
「本家の人間ねぇ」
「本家の方が欲しがったので、差し上げたと言っておけば両親も喜ぶのよ
何の思い入れもない物を盗られたところで、私は何も思わないし」
「はっ、悪いチビだな」
「そんなチビから金品を盗んで博打するグズはどなたかしら?」
「どこのグズだろうなぁ」
顔を反らしながらすっとぼけるこの男に呆れてしまう。
男はスタスタと中庭のさらに奥へ歩いて行くので私も一緒にその後を追いかける。
少し歩けばそこには離れがありその縁側に男はどさりと腰掛ける。
私も勝手にその縁側から部屋の中へと入り
綺麗に着飾っていた着物を脱ぎ捨てて引き出しから引っ張り出した半袖とスウェットへと着替える。
男は横目でそれを見て呆れた顔をしている。
「はい、用意できたからはじめましょ」
「色気もクソもねぇな」
「ガキに色気求めてどうするのよ、怖いわ」
「安心しろ、ガキにたたねぇ」
「たったら滅するわよ」
「そりゃ怖い怖い」
部屋に置いておいた
木刀と底の浅い靴を出して庭に出れば
男も重い腰を上げてくれる。
男に木刀を投げ渡せば簡単に取って、肩に乗せる。
「嫌みなくらい絵になるわね」
「はぁ?いーからさっさとやるぞ」
私がこの男に出会ってから、この男が禪院家本家の子供だと知り
この男が天与呪縛で全く呪力がないことも知った。
呪力0なのに五感で呪霊を認識している。
呪力を完全に捨て去ることで逆に呪いの耐性を得ている。
「私からすれば、おにーさんって超貴重な存在だと思うんだけど」
「何だよいきなり」
「敵にまわしたくない存在だよねってこと」
この男の身体能力は超人レベルだと思っている。
頑張ればいつかサイヤ人にでもなれるんじゃないか??と
「ピッ○ロ……悟飯くらいなら瞬殺できそう」
「お前、俺を何だと思ってんだよ」
「戦闘民族」
「あながち間違ってねぇな」
つーか、お嬢様がドラゴ○ボール知ってんのかよ?との質問に、詳しくはないが、ある程度の知識はあると返しておく。
むしろ、この男も知っていたのか……と思ってしまった。
「詳しくねぇがな」
ピッ○ロはイケるわと
無表情で言い放つこの男に笑いが込み上げる。
この男と知り合ってから
少しだけ本家に来るのが楽しくなった。
煩わしい媚もいらない。
綺麗な着物もいらない。
本家の人を怒らせないこと
本家の人に気に入られること
綺麗な服で惹き付け
常に愛想よくし
余計なことは言わず
本家の人のために生き
本家の人のために子を産み
血を術式を継がせなさい
両親はいつも私にそう言った
私という存在を見てはくれなかった
私の術式は珍しいのか
破魔の力だった
悪しきモノを浄化する力
力を込めたモノは呪霊を滅する力があるが
人間にはさほど効果がない
対呪霊には効果抜群でも
人間相手には麻痺効果くらいである。
対呪詛師に足止めくらいの効果しかないので
使い勝手の悪いただのポンコツである。
少し反転術式も扱えるが
得意とするのは矢や弾に呪力を込めて射つ
遠距離タイプである。
銃はまだ身体が反動に耐えきれないので
弓矢が私の相棒だ。
呪霊相手ならば二級レベルは素手でも
呪力を乗せれば近距離戦もどーにかなるが
人間相手だと実力がなければ
一般人以下なのでもう、どーしようもない。
私から言わせれば
ポンコツな能力である
人間相手に麻痺効果があることはわかっても
まだまだ不慣れな術式は
良くて麻痺で、ほぼ効果無しだ
肘をぶつけた時のじーん、程度だと思っていただきたい。
術式しか見てない両親は大喜びだが
使っている本人からすれば残念である。
そんなことを家で言えば怒られることも
この男は笑ってくれるし
くだらない話にも付き合ってくれる。
お行儀よくしていなくても
自然体の私を見てくれるこの男が
私は両親よりも好きだった。
他者を黙らせる能力がある。
戦う才能を持つこの男に
ただただ、惹かれた。
戦い方を教えてほしいと願った。
この家から出るための力が欲しかった。
他とは違うこの男に
幼い私はとても輝いて見えたんだ。
ガンっと木刀で叩かれた手首が痛い。
落とした木刀に目もくれず
痛む手首を気にせずに
隠し持っていた小刀に持ち替えて
懐に潜り込む。
にやりと笑う男は
飛び込んできた私に
容赦なく膝蹴りを繰り出す。
両手でガードしても、体格の違いから
簡単に飛んでしまう。
最後の悪足掻きに小刀を投げ飛ばせば
簡単に避けて、私を地面に叩きつける。
容赦ないこの男に私は負けっぱなしだ。
「痛い……」
「弱ぇな」
「指導に向いてないよね、おにーさん」
「お前が弱すぎるんだよ」
「幼女に容赦ないってグズだよ」
「仕事なら幼女も大人も関係ねーからな」
「グズめ」
「そんな依頼してくるクソ共が真のグズだろ」
「確かにクソのグズだね」
痛む身体を起こして
自身に反転術式を行う。
怪我がバレた時、両親がうるさいのだ。
だから必死に反転術式を覚えたと言っても過言ではない。
じっと私の反転術式を見つめる男。
呪力を与えられず、恵まれなかった男。
「私からしたら
おにーさんのが恵まれてると思うけど……」
「……嫌味か」
「無い物ねだりだとわかっているけど
私はこんな術式よりも
おにーさんみたいな純粋な力が良かった」
そうしたら、両親は自分を見てくれただろうか?
昔のように……
術式を理解してから、両親は変わってしまった。
家族で笑い合うことが無くなった。
家族で話すことが無くなった。
私を見てくれることが無くなった。
俯く私に、男はぽんぽんと頭を叩いてくる。
雑なやり方は、髪がぐしゃぐしゃとなってしまう。
文句を言おうと顔を上げれば
額に強い衝撃がきて、再び俯いてしまう。
「恵まれたお前がそんなこと言うな」
デコピンの威力が吹き飛ぶほど
男の言葉をに息がつまる。
「恵まれなかった俺はここでは否定される存在でしかねぇ
呪術界で生きていくには不便なんだよ」
「…………」
「一般人にもなりきれねぇ
呪術師にもなりきれねぇ
血筋が嫌でも絡んでくる
お前がどんなに羨ましがろうと
否定されて生きていく覚悟があんのか」
「……ごめんなさい。無神経だった」
「ガキはガキらしくしとけ」
しゃがみこんで、目線を合わせて
再びぐりぐりと撫でまわす
そろそろ両親のとこに戻らなきゃいけないため
あまり頭を乱されると戻すのが大変なのだ。
「おにーさん、帯やってよ」
「めんどくせぇ」
「ほら、お金やるから」
「……お前、俺が金で動くと思ってんのか」
金取らねえよ、と言いながら
帯を手に取り着付けてくれる。
ぐしゃぐしゃにされた髪も
器用に戻してくれ、この男に出来ないことはあるのか……??と疑問に思ってしまう。
「またね、おにーさん」
「はいはい」
来た道を戻れば、両親が待っていて
どこに居たのか聞かれたら
本家の方にお世話になっていたと言えば
にっこりと笑ってくれる。
そんな日々が数年続いたが
私が小学に上がって間もなく
男はあまり本家へと帰って来なくなった。
突然帰って来て会えたと思えば、すぐにいなくなってしまう。
「チビ」
「おにーさん、帰ってきてたんだ」
「俺、家出るわ」
「………え」
「結婚する」
自分の荷物をぽいぽいと鞄に入れて
ガラクタのようなものは要らないからと
こちらに手渡してくる。
よく分からない物を持ったまま
突然すぎてついていけず、ぽかんとしてしまう。
「ガキができたんだ」
「……おにーさん」
「何だ」
「私も……私も!!連れていってよ」
荷物を入れる手を止めて、こちらを見た男。
私はくしゃくしゃに顔を歪ませながら
男の襟を掴む。
今、この男がいなくなったら
私はきっと、笑えなくなる。
私はこの男がいたから自分を保っていられた。
私にとって、この男が拠り所だったのだ。
「おにーさん、お願いだよ……」
ここは、冷たい場所だ。
優しいものがない。
「お願い……っ」
置いていかないで欲しかった。
出来ないとわかっているのに
私はただ、寂しかったんだ。
「甘えんな」
いつもなら、頭を撫でてくれる手は
私の襟を掴む手を突き放した。
「子連れで結婚なんてできるか馬鹿」
「何で……っ」
「お前は強ぇよ」
「………っ!!」
「俺が面倒見てやったんだ
そこいらの奴には負けねぇよ」
だから
「お前は囚われずに生きろ」
ボロボロと、大粒の涙を流す私に
汚い顔だと笑いながらそこら辺にあった布で
乱暴に顔を擦られる。
男がいつも着ていた黒いシャツだった。
汚れたからやる、と頭から被せられ
再びガラクタのような荷物を手渡される。
「お前はめんどくせぇから置いていく」
「おにー、さっ」
「お前がでかくなって
美人に育ったら会ってやるよ」
それまでは、さよならだ。
「ロリコン」
「捻るぞ」
「グズ」
「おい」
「私が……私が美人に育っても、おにーさんなんて相手にしてやらないんだからっ!!」
ガキには興味ねぇよ、と
いつもの悪い笑顔でぐしゃぐしゃと撫でられる。
あとからガラクタをみれば
隠されるようにしてあった真新しい小さな箱。
中には小さな黒い雫が揺れるピアス。
男にピアスの穴は無かったし
新しいところを見ると
最初で最後の男からのプレゼント。
安全ピンを熱し、一気に耳たぶへと押し当てれば少しの痛みと出血。
それを気にせず、ピアスをはめ込む。
ゆらり、ゆらりと
光が当たってきらきらする雫は
とても綺麗だった。
「最低な人……」
私はきっと、あの男に初めて会った時から
幼いながらに恋をしていたのだろう。
どーしようもないくらいふざけた
だらしないグズな男だった。
認められたい人だった
ー天与呪縛の男は、ここでは人ではない
寂しそうな人だった
ー否定ばかりされ、求めていた
恵まれなかった人だった
ー最低限の資格すら、与えられなかった
全てを黙らせる力があり
のらりくらりとした人だった。
私に見せる笑顔が好きで
私を撫でる不器用な手が好きで
多少の我が儘を許してくれるのが好きで
強い貴方が大好きでした。
あとがき
パパ黒との関わりでした。
長かったー
別ければ良かったか?
パパ黒サイドでも書きたいが
きっと過去編の単行本でないと
パパ黒の公式年齢わからないので
あやふやにしておきます
公式でたら、直します!!
さーて、ボチボチ書いていきますので
よろしくお願いいたします!!
それでもOKな方のみ
物心ついたときからこの家が嫌いだった。
当たり前のように他者を傷付け
当たり前のように自分が上だと思い込んでいる
「名前」
私の親も、私の嫌いな人間だ。
珍しい術式を持って産まれた私は両親にとって禪院家本家への贈呈品か何かなのだろう。
毎月本家に行っては当主へ挨拶するために綺麗な着物を着せられて、当主への媚びの言葉と共に私を本家の人間へと進めている。
禪院家に非ずんば呪術師に非ず
呪術師に非ずんば人に非ず
血筋と術式を重んじる禪院家では、本家であろうと術式をもたなければ人として扱われず、分家であっても術式を持っていれば本家の人間よりも偉い。
実力があっても
術式を持たぬ者は人ではない。
「よぉ、チビ」
禪院家へ両親が媚を売っている間、私も本家の子へ媚を売っておけと、子供達がいるところに置いていかれるが、私は彼らと話す気はない。
ペコペコとこちらの様子を気にかけながら取り入ろうとする者がいる。
上から目線で、小馬鹿にしながら可愛がってやるという者がいる。
そんな者達の前でにこにこと笑顔を貼り付けているのはもうとっくの昔に疲れてしまった。
馬鹿同士、腹の探りあいは好きにやってくれ。
中庭の奥にはほとんど誰も足を踏み入れてこないことに気付いてからは、ある程度の時間をここで潰すことにしていた。
そうすれば、必ずと言っていいほど、彼に出会えるから。
少し長めの黒髪に切れ長の黒い目
口元には何かの切り傷の跡があり
整った顔立ちの男
「相変わらず暇そうだね、おにーさん」
「馬鹿言え」
「また博打帰り?負けるのに」
「うるせぇな」
ぼりぼりと頭をかきながら
私の近くに寄って飾りとして着けていた簪を勝手に抜き取る。
それをまじまじと見たかと思えば、自身のポケットに入れた。
「相変わらずいいもん着けてんな」
「当主様に媚を売るのに忙しいからね
本家の人間に可愛がってもらえるためなら金を惜しまないみたい」
「本家の人間ねぇ」
「本家の方が欲しがったので、差し上げたと言っておけば両親も喜ぶのよ
何の思い入れもない物を盗られたところで、私は何も思わないし」
「はっ、悪いチビだな」
「そんなチビから金品を盗んで博打するグズはどなたかしら?」
「どこのグズだろうなぁ」
顔を反らしながらすっとぼけるこの男に呆れてしまう。
男はスタスタと中庭のさらに奥へ歩いて行くので私も一緒にその後を追いかける。
少し歩けばそこには離れがありその縁側に男はどさりと腰掛ける。
私も勝手にその縁側から部屋の中へと入り
綺麗に着飾っていた着物を脱ぎ捨てて引き出しから引っ張り出した半袖とスウェットへと着替える。
男は横目でそれを見て呆れた顔をしている。
「はい、用意できたからはじめましょ」
「色気もクソもねぇな」
「ガキに色気求めてどうするのよ、怖いわ」
「安心しろ、ガキにたたねぇ」
「たったら滅するわよ」
「そりゃ怖い怖い」
部屋に置いておいた
木刀と底の浅い靴を出して庭に出れば
男も重い腰を上げてくれる。
男に木刀を投げ渡せば簡単に取って、肩に乗せる。
「嫌みなくらい絵になるわね」
「はぁ?いーからさっさとやるぞ」
私がこの男に出会ってから、この男が禪院家本家の子供だと知り
この男が天与呪縛で全く呪力がないことも知った。
呪力0なのに五感で呪霊を認識している。
呪力を完全に捨て去ることで逆に呪いの耐性を得ている。
「私からすれば、おにーさんって超貴重な存在だと思うんだけど」
「何だよいきなり」
「敵にまわしたくない存在だよねってこと」
この男の身体能力は超人レベルだと思っている。
頑張ればいつかサイヤ人にでもなれるんじゃないか??と
「ピッ○ロ……悟飯くらいなら瞬殺できそう」
「お前、俺を何だと思ってんだよ」
「戦闘民族」
「あながち間違ってねぇな」
つーか、お嬢様がドラゴ○ボール知ってんのかよ?との質問に、詳しくはないが、ある程度の知識はあると返しておく。
むしろ、この男も知っていたのか……と思ってしまった。
「詳しくねぇがな」
ピッ○ロはイケるわと
無表情で言い放つこの男に笑いが込み上げる。
この男と知り合ってから
少しだけ本家に来るのが楽しくなった。
煩わしい媚もいらない。
綺麗な着物もいらない。
本家の人を怒らせないこと
本家の人に気に入られること
綺麗な服で惹き付け
常に愛想よくし
余計なことは言わず
本家の人のために生き
本家の人のために子を産み
血を術式を継がせなさい
両親はいつも私にそう言った
私という存在を見てはくれなかった
私の術式は珍しいのか
破魔の力だった
悪しきモノを浄化する力
力を込めたモノは呪霊を滅する力があるが
人間にはさほど効果がない
対呪霊には効果抜群でも
人間相手には麻痺効果くらいである。
対呪詛師に足止めくらいの効果しかないので
使い勝手の悪いただのポンコツである。
少し反転術式も扱えるが
得意とするのは矢や弾に呪力を込めて射つ
遠距離タイプである。
銃はまだ身体が反動に耐えきれないので
弓矢が私の相棒だ。
呪霊相手ならば二級レベルは素手でも
呪力を乗せれば近距離戦もどーにかなるが
人間相手だと実力がなければ
一般人以下なのでもう、どーしようもない。
私から言わせれば
ポンコツな能力である
人間相手に麻痺効果があることはわかっても
まだまだ不慣れな術式は
良くて麻痺で、ほぼ効果無しだ
肘をぶつけた時のじーん、程度だと思っていただきたい。
術式しか見てない両親は大喜びだが
使っている本人からすれば残念である。
そんなことを家で言えば怒られることも
この男は笑ってくれるし
くだらない話にも付き合ってくれる。
お行儀よくしていなくても
自然体の私を見てくれるこの男が
私は両親よりも好きだった。
他者を黙らせる能力がある。
戦う才能を持つこの男に
ただただ、惹かれた。
戦い方を教えてほしいと願った。
この家から出るための力が欲しかった。
他とは違うこの男に
幼い私はとても輝いて見えたんだ。
ガンっと木刀で叩かれた手首が痛い。
落とした木刀に目もくれず
痛む手首を気にせずに
隠し持っていた小刀に持ち替えて
懐に潜り込む。
にやりと笑う男は
飛び込んできた私に
容赦なく膝蹴りを繰り出す。
両手でガードしても、体格の違いから
簡単に飛んでしまう。
最後の悪足掻きに小刀を投げ飛ばせば
簡単に避けて、私を地面に叩きつける。
容赦ないこの男に私は負けっぱなしだ。
「痛い……」
「弱ぇな」
「指導に向いてないよね、おにーさん」
「お前が弱すぎるんだよ」
「幼女に容赦ないってグズだよ」
「仕事なら幼女も大人も関係ねーからな」
「グズめ」
「そんな依頼してくるクソ共が真のグズだろ」
「確かにクソのグズだね」
痛む身体を起こして
自身に反転術式を行う。
怪我がバレた時、両親がうるさいのだ。
だから必死に反転術式を覚えたと言っても過言ではない。
じっと私の反転術式を見つめる男。
呪力を与えられず、恵まれなかった男。
「私からしたら
おにーさんのが恵まれてると思うけど……」
「……嫌味か」
「無い物ねだりだとわかっているけど
私はこんな術式よりも
おにーさんみたいな純粋な力が良かった」
そうしたら、両親は自分を見てくれただろうか?
昔のように……
術式を理解してから、両親は変わってしまった。
家族で笑い合うことが無くなった。
家族で話すことが無くなった。
私を見てくれることが無くなった。
俯く私に、男はぽんぽんと頭を叩いてくる。
雑なやり方は、髪がぐしゃぐしゃとなってしまう。
文句を言おうと顔を上げれば
額に強い衝撃がきて、再び俯いてしまう。
「恵まれたお前がそんなこと言うな」
デコピンの威力が吹き飛ぶほど
男の言葉をに息がつまる。
「恵まれなかった俺はここでは否定される存在でしかねぇ
呪術界で生きていくには不便なんだよ」
「…………」
「一般人にもなりきれねぇ
呪術師にもなりきれねぇ
血筋が嫌でも絡んでくる
お前がどんなに羨ましがろうと
否定されて生きていく覚悟があんのか」
「……ごめんなさい。無神経だった」
「ガキはガキらしくしとけ」
しゃがみこんで、目線を合わせて
再びぐりぐりと撫でまわす
そろそろ両親のとこに戻らなきゃいけないため
あまり頭を乱されると戻すのが大変なのだ。
「おにーさん、帯やってよ」
「めんどくせぇ」
「ほら、お金やるから」
「……お前、俺が金で動くと思ってんのか」
金取らねえよ、と言いながら
帯を手に取り着付けてくれる。
ぐしゃぐしゃにされた髪も
器用に戻してくれ、この男に出来ないことはあるのか……??と疑問に思ってしまう。
「またね、おにーさん」
「はいはい」
来た道を戻れば、両親が待っていて
どこに居たのか聞かれたら
本家の方にお世話になっていたと言えば
にっこりと笑ってくれる。
そんな日々が数年続いたが
私が小学に上がって間もなく
男はあまり本家へと帰って来なくなった。
突然帰って来て会えたと思えば、すぐにいなくなってしまう。
「チビ」
「おにーさん、帰ってきてたんだ」
「俺、家出るわ」
「………え」
「結婚する」
自分の荷物をぽいぽいと鞄に入れて
ガラクタのようなものは要らないからと
こちらに手渡してくる。
よく分からない物を持ったまま
突然すぎてついていけず、ぽかんとしてしまう。
「ガキができたんだ」
「……おにーさん」
「何だ」
「私も……私も!!連れていってよ」
荷物を入れる手を止めて、こちらを見た男。
私はくしゃくしゃに顔を歪ませながら
男の襟を掴む。
今、この男がいなくなったら
私はきっと、笑えなくなる。
私はこの男がいたから自分を保っていられた。
私にとって、この男が拠り所だったのだ。
「おにーさん、お願いだよ……」
ここは、冷たい場所だ。
優しいものがない。
「お願い……っ」
置いていかないで欲しかった。
出来ないとわかっているのに
私はただ、寂しかったんだ。
「甘えんな」
いつもなら、頭を撫でてくれる手は
私の襟を掴む手を突き放した。
「子連れで結婚なんてできるか馬鹿」
「何で……っ」
「お前は強ぇよ」
「………っ!!」
「俺が面倒見てやったんだ
そこいらの奴には負けねぇよ」
だから
「お前は囚われずに生きろ」
ボロボロと、大粒の涙を流す私に
汚い顔だと笑いながらそこら辺にあった布で
乱暴に顔を擦られる。
男がいつも着ていた黒いシャツだった。
汚れたからやる、と頭から被せられ
再びガラクタのような荷物を手渡される。
「お前はめんどくせぇから置いていく」
「おにー、さっ」
「お前がでかくなって
美人に育ったら会ってやるよ」
それまでは、さよならだ。
「ロリコン」
「捻るぞ」
「グズ」
「おい」
「私が……私が美人に育っても、おにーさんなんて相手にしてやらないんだからっ!!」
ガキには興味ねぇよ、と
いつもの悪い笑顔でぐしゃぐしゃと撫でられる。
あとからガラクタをみれば
隠されるようにしてあった真新しい小さな箱。
中には小さな黒い雫が揺れるピアス。
男にピアスの穴は無かったし
新しいところを見ると
最初で最後の男からのプレゼント。
安全ピンを熱し、一気に耳たぶへと押し当てれば少しの痛みと出血。
それを気にせず、ピアスをはめ込む。
ゆらり、ゆらりと
光が当たってきらきらする雫は
とても綺麗だった。
「最低な人……」
私はきっと、あの男に初めて会った時から
幼いながらに恋をしていたのだろう。
どーしようもないくらいふざけた
だらしないグズな男だった。
認められたい人だった
ー天与呪縛の男は、ここでは人ではない
寂しそうな人だった
ー否定ばかりされ、求めていた
恵まれなかった人だった
ー最低限の資格すら、与えられなかった
全てを黙らせる力があり
のらりくらりとした人だった。
私に見せる笑顔が好きで
私を撫でる不器用な手が好きで
多少の我が儘を許してくれるのが好きで
強い貴方が大好きでした。
あとがき
パパ黒との関わりでした。
長かったー
別ければ良かったか?
パパ黒サイドでも書きたいが
きっと過去編の単行本でないと
パパ黒の公式年齢わからないので
あやふやにしておきます
公式でたら、直します!!
さーて、ボチボチ書いていきますので
よろしくお願いいたします!!